魔獣の森〜ろくでなし救出作戦A
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月09日〜05月12日
リプレイ公開日:2007年05月20日
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●オープニング
●追われる男
男は追われていた。
命がけで走り続けたせいで体はもう限界。
息は極限までに苦しく、心臓は今にも破裂しそう。
それでも男は足を止められない。
男を追い続けてきた影は男のすぐ後ろまで迫っている。
前方に人家が見える。森を抜け、広い野原をひた走りに走り、やっとここまでたどり着いたのだ。
もうすぐだ、あそこまでたどり着いて助けを求めるんだ。
そうすれば命は助かる。
そんな希望の思いに男がしがみついた時。
無情にも背後の黒い影は翼を大きく広げ、男の頭上に舞い上がるや、鋭い爪を男に向け襲いかかって来た。
「うぎゃあああああああああああああーっ!!」
●魔獣の森の大騒ぎ
ここは王都ウィルのずっと西に位置するワンド子爵領に、つい最近出来たばかりの開拓村。このさらに西には凶暴なモンスターや蛮族オーガが住み着く魔獣の森があったりするのだが。
春も真っ盛りのその日。開拓村の警備にあたる警備兵達は、西の方から聞こえてきた世にも恐ろしい叫びを耳にした。何事かと思って見れば、みすぼらしい身なりの男が 魔獣グリフォンに襲われているではないか。
「男を助けろ!」
そこは鍛え抜かれた警備兵達。勇敢にも手に手に剣や槍を持ち、グリフォンに打ちかかった。
「寄るな! 魔獣の森へ帰れ!」
まともに戦ったらグリフォンは手強い。しかし獣の頭でも、多人数の人間を相手にすれば自身も危ういことを理解したのだろう。グリフォンはあっさりと退き、空高く舞い上がると魔獣の森へと飛び去った。
「おい! しっかりしろ!」
息も絶え絶えの男を介抱せんと手を差し伸べた警備兵は、男の手に握られている薄汚い羊皮紙に気がついた。
「何だこれは?」
「た‥‥たか‥‥ら‥‥」
それは怪しげな地図であった。
●ろくでなしを救出せよ
所変わって、ここはワンド子爵が領主館を構える町。その日のリボレー・ワンド子爵は不機嫌だった。当主の座を自分に譲って隠居の身となった父親のバーゼル・ワンド老が、またも魔獣の森に行きたいなどと言い出したからだ。
「春もたけなわ。過ごしやすい季節となったものだのぅ。これなら魔獣の森で野宿したとて風邪は引くまい」
「魔獣の森で野宿ですと!?」
ついつい大声を出し、じろりと父親をにらみつける。
「春になれば冬篭りしていた魔獣どもも、ぞろぞろと出て来るではありませぬか! 寒い冬よりも危険は増すというものですぞ!」
「何、これまでのように冒険者達を連れていけばよい。冒険者達が頑張ってくれたお陰で、前回も前々回もとりたてて危険な目にも遭わず、無事に帰って来れたではないか」
「お父上! こんな度外れた道楽にうつつを抜かしていたら、今に大怪我なさいますぞ!」
そもそもバーゼルが魔獣の森に入れ込み始めたのは去年の秋。以来、魔獣の森の西に遺跡があると聞けば冒険者を雇って遣わし、魔獣の森の竜と話がしたいと言ってはやはり冒険者を雇って竜に会いに行く。気分はもう冒険者、年甲斐もなくスリルあふれる冒険者ライフを楽しんでいたりするのだが、これが息子のリボレーにとっては大いなる頭痛の種。
「少しはお歳というものを‥‥」
例のごとくリボレーがグチグチと小言へ言い聞かせていると、やって来たのが警備隊の体調。
「お館様! 大変なことになりました!」
「何事だ!? 西ルーケイの盗賊でも攻めてきたか!?」
「いいえ。実は、王都で詐欺師にたぶらかされ、騙されて買わされた贋物の宝の地図を手に、
魔獣の森に踏み込んだ者どもがいます。その数、20名余り」
「何と!」
これはグリフォンに襲われ、警備兵達に助けられた男が語った事実であった。魔獣の森に踏み込んだ者達は要するに、一攫千金の欲望に目がくらんだろくでなしどもである。国王がエーロンからジーザムへと変わり、ガタガタになっていた王国も良き方向に変わりつつある今のご時世。まじめにこつこつ働けばいいものを。魔獣の森に宝が眠っているという詐欺師の甘い言葉に騙されて、なけなしの金を叩いて胡散臭い地図を買い込み、身の程をわきまえずに魔獣の森に踏み込んだりしたら結果は知れている。
力尽きて倒れ、魔獣の森の肥やしとなるか。それとも魔獣の胃袋に収まるか。そのどちらかだ。
しかしこの地の領主たるリボレーは、彼らを放っておくわけにはいかない。ろくでなしとはいえ、
騙されて魔獣の森に踏み込んだ人間を見捨ててむざむざと死なせたら、領主の沽券に関わるではないか。
「至急、王都の冒険者ギルドで冒険者を集め、救援隊を組織せねば! 陣頭指揮はわしが取る!」
「待て、息子よ」
と、バーゼルはリボレーに言い聞かせる。
「今、おまえがこの町を離れる訳にはいかぬであろう? 隣領、西ルーケイの盗賊『毒蛇団』は今も虎視眈々とこの豊かな町を狙っておる。おまえが町を留守にしている間に、毒蛇団に攻められたりでもしたら、それこそ領地にとっての一大事。領主たる者、こういう時こそどっしりと構えておらねばならぬ。救出作戦の陣頭指揮はこのバーゼルが取るとしよう。何、心配はいらん。既に見知った魔獣の森じゃ」
「父上、かたじけない」
リボレーは深々と、バーゼルに頭を下げた。
●恐怖の絶叫おやじ
「く、熊だぁぁぁ!!」
「助けてくれぇ!!」
魔獣の森の中、逃げる男達を大熊が追いかける。
大熊は縄張りを荒らされて怒り狂っている。
「隠れてやり過ごすんだ!」
男の一人が機転を利かせ、生い茂る藪の中に飛び込んだ。他の男達もそれに倣い、彼らの姿を見失った大熊はのそりのそりと何処かへ姿を消した。
「ふぅ、助かったぜ」
男達は次々と藪の中から姿を現す。だが、安心するのはまだ早かった。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
森の中に轟く大絶叫。ばっくり開いた大口から耳をつんざくような叫びを張り上げ、恐怖に顔を引きつられたおやじが、こちらに走ってくるではないか。
「うわぁ! 来るな、来るな、来るなぁ!!」
「助けてくれぇぇぇ!! 助けてくれぇぇぇ!! 助けてくれぇぇぇ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
顔色変えた男達の懇願になど耳貸さず、絶叫おやじは『助けてくれ』のリフレインをしつこくしつこく張り上げて、男の一人にしがみつく。その大絶叫を聞きつけて、大熊が戻ってきた。そればかりではない。
「人間どもめ!! よくも俺達の狩場を荒らしてくれたな!! 許さねぇ!!」
蛮族オーガの集団までもが現れた。魔獣の森のこの辺りはオーガの狩場でもあったのだ。集団を率いるオーガの若頭が怒鳴りつける。
「騒々しい人間どもを一人残らずとっ捕まえろ!!」
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!! 助けてくれぇぇぇ!! 助けてくれぇぇぇ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
絶叫おやじのあの耳をつんざく大絶叫は、未だに途絶えることが無い。
逃げる男の誰かが運悪くハチの巣に近づき過ぎたのだろう。いつしかぶんぶんという五月蝿いハチの羽音まで聞こえ始め、スズメほどにも大きなハチが森の中を飛び回り始めた。
●リプレイ本文
●呆れた奴ら
ここはワンド子爵領の町。冒険者達は出発の準備で忙しいけれど、仕事の合間に文句の一つも言ってやりたくなる。
「魔獣の森って、前にオーガさん達を接待したあの森だよね? あんな危険な所に忍び込もうだなんて何考えてんだろ」
と、天野夏樹(eb4344)が呆れて言う。
「ふう、やれやれ。ただでさえ今いろいろやることがあるというのに面倒なことを引き起こしてくれる人たちだよ」
と、アシュレー・ウォルサム(ea0244)も肩をすくめつつ呆れて言う。
「‥‥ったく、欲の皮を突っ張ったトーシロほど始末に負えないモノは無いわ。‥‥ま、だからって放ったらかす訳にもいかんがな」
と、シン・ウィンドフェザー(ea1819)も呆れて言う。
「しかし何故でしょう? 救出すべき彼らこそ、最大の障害のように思えてならないんですが」
と、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)も。いやごもっとも。
「で、今回のろくでなし‥‥いえ、遭難者達の救出活動では、オーガ族へ猟場を荒らした事への謝罪を行う必要があると思われますが、謝罪の証としてオーガ族に差し出す品は、どの程度がよろしいでしょうか? あまり多種多量では、オーガ族が味を占めて、今後のオーガ族との交易に支障をきたす可能性もございますので」
その事をリュドミラに尋ねられ、バーゼル老は冒険者達に問うた。
「各自が持ち寄ったオーガへの土産物は如何ほどだ?」
すると、出てくるわ出てくるわ。ワインにベルモットにウォッカに吉備団子。
「やれやれ、天界の珍味まで持ってきたか。ろくでなしの身の代にはもったいない。発泡酒だけにしておけ。なお、救出作戦で必要になる物品については、酒や解毒剤も含めて儂(わし)が負担しよう」
「宜しいのですか?」
と、尋ねる冒険者にバーゼルはにやりと笑って言う。
「なあに、心配はいらん。かかった費用は救出したろくでなしどもを、せがれの領地で働かせて回収するでな」
●森の中でばったり
捜索が始まった。冒険者達は今、大木が鬱蒼と生い茂る魔獣の森の中。
「‥‥何と言うかまぁ。一攫千金を狙いたいのであればこんな危険な森ではなく、足軽として戦場へ志願すれば良いものを。命と金をを天秤にかけるのであれば、生きて帰ればそれだけで働きに見合った見返りはあるだろうに。‥‥働きたがらない人間の考えはよく分からん」
ジャパン人・物見兵輔(ea2766)のそんな呟きを聞き止め、バーゼル老が言う。
「人間というものは日々、心身を鍛え上げておかねば易きに流されるものじゃ。真っ当な人の道を歩まんと欲するなら、何よりも日々の鍛錬が‥‥」
「おっと、ご老人。足下を良く見てしっかり歩んでくれ。ここら辺は足場が悪すぎる」
と、声をかけたのはシン。怪我でもされては困るから、ずっと見張っていた。
(「爺さん、ついにこんな所まで出ばってきちまったかよ」)
と、内心で思っていたり。確かにこの辺りは大木の根っこのせいで地面がボコボコだ。
ぶううううん‥‥。
聞こえて来た派手な羽音を聞きつけ、アシュレーが手振りで皆に静止を命じた。羽音の方を見れば、木々の間を縫うようにして飛んでいる大スズメバチが見える。暫くすると、またもう1匹。
「あそこはハチの通り道だね」
ハチがいなくなるのを見計らい、さっと通り抜ける。
華岡紅子(eb4412)は歩きながら、幾度かインフラビジョンの魔法を使い、体温の熱を発している物を探すように努めた。魔法の視力を得ると木の枝に止まる鳥や、小動物の潜む茂みが赤っぽく見える。そして、ついにそいつを見つけた。
「あら、あんな所に」
ろくでなし1名発見。すっかりボロボロの服を着た若い男が、大木の陰にぐったりと身を横たえている。
「はあい♪ 生きてて良かったわね。助けに来たわよ♪」
「あ〜?」
ろくでなし男、おぼつかなげに視線をさまよわせていたが、やがてその視線が紅子の顔にバッチリと決まる。
「美人だ‥‥こんな美人が助けに来てくれるなんて‥‥俺の運もまだまだ捨てたもんじゃねぇ!」
それまでの元気の無さも何処へやら、男は勢いよく立ち上がって紅子の手を握り、その目をじっと見つめて言う。
「腹が減った。何か食べ物をくれ。それから10Gばかり金を貸してくれ」
ぼがっ! 背後から男をぶちのめしたのはシュバルツ・バルト(eb4155)。
「調子に乗るな!」
「あんたみたいな美人に殴られて、俺は嬉しい‥‥」
男は性懲りも無し。
「あまり遭難者に乱暴してはいけませんわ」
と、ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)が男の体力回復にと、お湯に溶かした蜂蜜を魔法瓶から杯に注いで与えてやる。
「いやあ、あんなみたいな美人とお近づきになれて俺は嬉しい。ついでに金を20Gばかり‥‥」
ぼあっ! またもシュバルツが男をぶちのめし、ついでに口には猿轡。
「これ以上、金の無心をされるのも鬱陶しい」
「フガフガァフガフガフガフガ(あんたみたいな美人に猿轡かまされて俺は嬉しい)」
男はまだ何か言っているが、この際無視だ。
「おい、これを見ろ」
シンが木の幹に付けられた傷跡を発見。仲間達に告げ知らせる。
「熊の爪痕だ。ここら辺りは熊の縄張りだ、熊に遭遇する危険が大だな」
「冬眠明けの熊は腹を空かして荒れ易かろう。刺激したくないものだがね」
と、兵輔が言う。
「こういう時は、威嚇の為に金属音を立てれば近寄って来ないはずだ」
早速、シンは両手に2本の剣を持って打ち鳴らし始めた。その脇からアシュレーが言う。
「かえって逆効果だと思うけどな。魔獣の森の熊は人を恐れないから」
果たしてその言う通り、聞き慣れない音を聞きつけた大熊がのっしのっしと現れた。
「しくじったか」
「がうううう‥‥」
大熊がシンにガンつけて唸る。シンは目線を外さず、剣の柄や弓に手をかけた仲間達に、攻撃は待てと身振りで示す。そのままシンは片手で剣を振り回して威嚇しつつ、携帯した保存食を熊に投げつけた。
「さあ、今のうちに‥‥」
熊が保存食に気を取られ、むしゃむしゃ食べているうちに、冒険者達は安全圏まで退く。
「うあああああああああああーっ!!」
おや? 遠くから聞こえてくるこの絶叫は‥‥。
「遭難者だ。行ってみよう」
アシュレーが先頭に立ち、冒険者達は森の奧へと進む。ところが歩くうちに、怒りで顔を真っ赤にしたオーガ達とばったり遭遇してしまった。
●オーガとの再会
「こんな所にもうろついていやがったか! 人間どもめ!」
先頭のオーガが斧を振り上げ怒鳴る。すると、悲鳴の代わりに返ってきたのは、天野夏樹の明るい声。
「お久しぶりですっ。私、覚えてますか?」
「誰だ、てめぇは?」
夏樹、持って来たバニーコートの飾り耳だけ取り出して、頭に付ける。
「ほら、私です」
「おおっ!? おまえはあの時の兎娘か!」
オーガ達を率いていたのは、かつてワンド子爵が催した酒宴に数々の交易品を携えて、族長と共にやって来たオーガの小頭(こがしら)。そして夏樹はその酒宴で、バニーコート姿でオーガ達に酒を振る舞ったのだ。
「とりあえず、お近づきの印に」
と、手渡したのは発泡酒1本。
「おう、酒か。まさかこんな所で出合うとはな。いや、今はそんなことより‥‥」
オーガの小頭は、冒険者の中で一番強そうで物々しい出で立ちのシンに目を向けて怒鳴った。
「こやつらのしでかした不始末、どう落とし前つけてくれる!?」
見れば、オーガに捕まったろくでなしが3人。両手を縛られ、腰には縄。シンは武器を置き、両手を上げて戦意の無いことを示して小頭の言葉に答えた。
「非礼はお詫びする。お詫びの品々も持参した」
「おう! 詫び入れに来たというか!」
「だから、その連中をこちらに引き渡して欲しい」
夏樹もぺこりと頭を下げた。
「お騒がせしてごめんなさい。お詫びに狩りの手伝いでも」
小頭、手の中の酒と捕らえた3人のろくでなし共を見比べると、大声で言い放った。
「こいつら1人につき、酒樽1個! ついでに俺達の狩りを手伝え! それで勘弁してやる!」
「そうか、それで引き渡してくれるか」
と、バーゼル老。
「申し遅れた。儂は魔獣の森の隣に領地を持つ領主リボレーの父親でな」
「おう、領主の親爺殿か」
「ここは手打ちの宴と行きたいところじゃが、準備に時間がかかるので今暫く待って頂きたい」
「宴か。楽しみにしてるぞ親爺殿」
すると、またも森の奧から絶叫が。
「うあああああああああああーっ!!」
やたらと声のでかいおやじが、絶叫上げてこちらに駆けて来るではないか。
●獲物は大熊
「助けてくれぇ!! 助けてくれぇ!!」
冒険者の姿を見るなり駆け寄って来た絶叫おやじだったが、一緒にやって来たオーガ達の姿を見るなり90度方向に向きを転じて逃げ出した。
「助けてくれぇ!! 助けてくれぇ!!」
絶叫は相変わらず。しかもその進行方向には、
「大変! ハチの巣だわ!」
このまま直進すれば大スズメバチの巣と正面衝突だ。
「仕方がないわね! 行くわよ!」
華岡紅子がファイヤーボムの魔法を放つ。手から放たれた火の玉は木々の合間を直進し、ハチの巣に命中。大爆発を起こした。
吹っ飛ぶ蜂の巣、周囲の木の枝も巻き添えをくらい、絶叫おやじもひっくり返る。凶暴な大スズメバチも爆発の炎に羽根を焼かれて、地面をバタバタ。
「うへぇ、人間の女は恐ろしいことしやがるな」
オーガの一人が呆れて言った。
と、絶叫おやじが逃げて来た方角から何かが来る。またしても大熊だ。絶叫おやじを追いかけて来たのだ。
「人間ども! 狩りのお手並みを拝見させてもらうぞ!」
小頭のその声に、夏樹が真っ先に反応した。
「ブンタ君! 頼むわよ!」
「?」
ペットの柴犬、ブンタはきょとんとした表情。
「ブンタ! 行け!」
本来の飼い主である兵輔の命令で、ブンタは大熊に向かって駆け出した。
「助けてくれぇ!! 助けてくれぇ!!」
あの絶叫おやじが舞い戻って来た。
「ええい! 黙れ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
口を大げさにぱくぱくさせながらも、何故か沈黙する絶叫おやじ。実はアシュレーがサイレンスのスクロールで口封じ。それでもしつこく、おやじは兵輔にしがみつこうとする。
「ええい! かくなる上は!」
手に握る魔剣エペタムの柄の先で、おやじのこめかみに一撃くらわせた。おやじは気絶してぶっ倒れ、今度こそ本当に静かになる。その時、大熊は兵輔の目の前まで迫っていた。柴犬ブンタの牽制で、大熊の注意はブンタに向いている。
シュバルツが薙刀「牙狼」を抜き放ち、大熊の間合いに踏み込む。
「やあっ! やあっ!」
激しく刀を振り回し、その気迫に大熊の気勢が削がれた隙を突き、大上段から斬り込んだ。
刀身が大熊の体を深々と切り裂き、吹き出した血がシュバルツの鎧を赤く染める。
だが大熊は倒れない。傷つけられたことに逆上し、恐ろしい咆哮を上げる。
「シュバルツ! 援護を!」
リュドミラが星天弓で矢を放ち、矢はシュバルツに襲いかからんとした大熊の背中に命中し、一瞬だがその動きを鈍らせる。次の瞬間、シュバルツの刀は大熊の胸に深々と埋まり、両者はそのまま地に倒れた。
「シュバルツ! 無事か!?」
駆け寄った仲間に、シュバルツは大熊の体の下から微笑んだ。
「戦っている方が性に合う」
てらいもなくそう答える彼女の刀は、大熊の心臓を貫いていた。
「援護、ありがとう」
リュドミラにも笑顔で一言。
「人間にしては、やりおるな」
オーガの小頭は感服して言葉を漏らし、子分のオーガ達は大喜びだ。
「でっけぇ獲物を仕留めてくれたぜ!」
「さあ、今夜は熊鍋だ!」
その後も捜索は続き、冒険者達は森のあちこちで遭難者のろくでなし達を発見。どいつもこいつも食い物が無いわ、獣に追いかけられるわ、滑って転ぶわ、ハチに刺されるわで、見るも無惨な有り様である。
「怪我一つで命を拾うか、怪我無しで捨てるかどちらかにして貰おうか」
と、物見兵輔は凄み、
「金銀財宝ざっくざく、なーんて騙されちゃってバカねぇ。で、ここで死ぬ? それとも一緒に帰る?」
と、華岡紅子は言いながらヒートハンドで木の幹に焼きを入れて脅したりしたが、凄んだり脅したりするまでも無かった。
「一緒に連れてってくれぇ! こんな森はもうこりごりだぁ!」
と、ろくでなし達はあっさりと泣きつき、こうして全員が冒険者によって森から連れ出された。
●手打ちの宴
森の外れの原っぱで、手打ちの宴が始まる。
「これで今回のことは勘弁してやろう」
と、オーガの小頭も子分達も、バーゼルが急ぎ町から取り寄せた酒樽の数々と、仕留めた獲物でこしらえた熊鍋を前に大満足。
「‥‥おっと、あれを忘れちゃいけねぇな」
小頭はろくでなし達をじろりと睨みつけ、大声で怒鳴った。
「てめえらぁ! 詫びを入れろぉ!」
その怒鳴り声にろくでなし達はすくみ上がり、中にはその場から逃げ出そうとする者までいたが、その足下に飛んで来た矢にびくっとして動きを止める。
「勝手に逃げちゃいけないよ」
と、矢を放ったアシュレーは涼しい顔。
「ご存知ないとは思いますが、ここはオーガ族の狩場です。つまりこの地で取れるものは全て彼らのもの。そしてこの地の幸を得る権利は、彼らと交易するワンド子爵にあります。その権利を台無しにしかねなかったんですよ、貴方がたは。反省しましたか?」
ゾーラクが言い聞かせると、ろくでなし達ははい、はいとひたすら平謝り。
「それではオーガの小頭さんに、オーガ式の詫び入れを」
と、夏樹がにっこり笑ってろくでなしに迫る。往生際の悪いヤツがまたしても暴れて逃げ出そうとしたので、夏樹はそいつの鳩尾に膝蹴りを叩き込んで悶絶させ、小頭の前に引きずって行くと、身を折ったポーズで座り込ませた。
「オーガさんほど丈夫じゃ無いですから、何時もの半分位の力で」
「おう! しっかりと詫びを入れてもらうぜ!」
小頭は悶絶したろくでなしの頭を足で踏んづけ、地面にごりごり。頭を踏んづけてもらうのが、オーガ流儀の詫び入れの作法なのだ。こんな感じでろくでなし達の詫び入りが済むと、待ってましたとばかりに酒宴が始まった。
「さあ者ども! 飲め、食え、騒げ!」
しかし残念ながら、バーゼル老は小頭と和解の杯を1杯酌み交わしただけで、早々と酒宴から引き上げねばならなかった。ろくでなし達への説教が控えていたからである。
「ま〜ったくお前達は! 今後は一から人生やり直す覚悟で働かんかい!」
説教地獄の始まり始まり。その様子を見て華岡紅子はほくそ笑んだ。
「宝の地図は偽物だったけど、教訓っていう宝物は手に入ったんじゃないかしら。
なお、ろくでなし達をたぶらかした詐欺師の人相風体については、ゾーラクがろくでなし達からの聞き込みを行い、人相書きが作成された。さらなる被害の防止に役立つことだろう。