集まれ!第二回応援合戦打ち合わせだよ

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月02日〜04月05日

リプレイ公開日:2006年04月06日

●オープニング

 薄墨の如き黒い闇に、行灯の灯りが二つの影をゆらゆらと映し出していた。
 板の間で、居心地悪そうにあぐらをかくチップス・アイアンハンド男爵は、その頭に一人のピンクのシフールを乗せ、腕を組んでう〜んと唸っている。
 その前には、黒子姿の沙羅影卿が静かに正座をしていた。
「で、どうするで御座る?」
「応援合戦か‥‥」
「前回、折角二チームあるから、という意見が多かったで御座るが、次回のスケジュールにどう組み込むかで御座る」
 差し出された小さな茶碗を、チップスは手にとり無造作に飲み干すと、かなり変な顔をした。
「苦いなこれ」
「薬みたいなもので御座るよ」
「しかしだな、なんでお前がここに居るんだ?」
「知らな〜い」
 チップスの頭の上には、何故かププリン・コーダ男爵が桜色の餅菓子を頬張っている。ピンク色の羽をぱたぱたさせ。
「拙者がお呼びしたで御座るよ。前回優勝チームのディレクター殿が音頭をとって下されば、他の者達に呼び掛けるにも、都合が良いで御座る」
「このお菓子、美味し〜い☆」
 チップスが自分の頭の上にそっと手を伸ばすと、ププリンの素早いチョップ!
「あたたた‥‥で、具体的な話はどうするんだよ?」
「合同で応援合戦の打ち合わせをするで御座るよ。その上で、ディレクター全員の前で大会のどのタイミングでやるか等、プレゼンテーションをして貰うで御座る」
 ぽんと手を打つチップス。
「成る程成る程、お前さんの腹が読めたよ。そうやって大会参加チーム全部の意見を集めてマーカスの所へ持ち込む訳だな」
「左様で御座る」
 沙羅影はあくまで涼しげに、竹の柄杓で古びた鋳物の茶釜から湯をすくい、緑の粉末へ、その渋みのある黒い茶碗に注ぎ、茶筅で素早くかき混ぜて見せる。
「プレゼンテーションの出来不出来で、応援合戦が組み込まれるか決まるで御座るよ」
 そういって、小さな、本当に小さな小豆色の器へ、その淡い緑色に泡立った液体を、湯気を立ち昇らせながら移すと、そっと差し出した。
 するとププリンはくるくるとピンク色の残像を残し、ちょこんと降り立つと、あんこでくわんくわんになった顔をそれにうずめてコクコクと喉を鳴らした。
「ぷぅ〜☆ じゃあ、ディレクターの他にも観たいって人を誘っても良いよね?」
「かまわねぇ〜んじゃないの?」
「観客が居た方が、励みになるで御座ろう。宴を開いて、そのステージでプレゼンテーションをして貰うで御座るよ」

●今回の参加者

 ea3747 リスフィア・マーセナル(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb4113 塚原 明人(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4603 紅 雪香(36歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4729 篠宮 沙華恵(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●第2回に向けてプレゼンテーションするぞ!
 その日、応援団ディレクターの、つまりはチップス・アイアンハンド男爵と、天界人の黒子衆、沙羅影卿、この2人の呼び掛けに、6人の有志が集った。即ち、Yチームからは塚原明人(eb4113)、天野夏樹(eb4344)の2名、Zチームからはリスフィア・マーセナル(ea3747)、紅雪香(eb4603)、篠宮沙華恵(eb4729)、そしてジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が変装した仮面の紳士『ジョーカー』の4名。
 王都ウィルにある貴族街のとある館の一室。そこで最初の会合が開かれた。

 窓辺からは小春日和の陽光が射し込み、穏やかな風がレースの白いカーテンを揺らしている。
 会食用のシックな長テーブルに着席したこの8名は、目の前に広げられた幾つもの衣装や、その案を記した物を手に、熱の入った言葉を交錯させた。
 そこで、ポンポンと手を叩き、ニヤリとするチップス男爵。
「へいへ〜い! ゆっくり、一人ずつ喋ろうぜ〜っ!」
「うむ、それと話題を絞るで御座る」
 そう言って、沙羅影はバニースーツを手にした。
「先ずは、このバニーガールの衣装についてで御座る。では、リスフィア殿から」
「はい」
 スッとたおやかな物腰で立つリスフィアは、碧の瞳に微笑を浮かべ、その手にした鮮やかな布を掲げて見せた。
「バニースーツは近くで見る分には色っぽくていいと思います。ですけど遠目で見ると、飾りが少ないので動きが分からず、何をやっているのか分からないんじゃないかというのが心配です。ですから、遠くから見ても動きが分かるように、腕や足に飾りになる布をつけるというのを提案します」
 そう言って、テーブルから少し離れたリスフィアは、軽やかにその豊かな姿態を舞わせて見せる。すると、その布も鮮やかな軌道を描き、併せて見るものを魅了する。ただ一人を除いて。

「判ってませんね!」
 パンとテーブルを叩き、苛立たしげに明人が吼えた。
「Yチームに参加していました、衣装に拘りを持つ男、塚原明人です! 確かにリスフィアさんの踊りは素晴らしいです! ですが、このバニースーツに決定的に欠けているものがあります! これは最早、犯罪と呼ぶに相応しい! それはそうっ! ズバリ、チラリズムです! というわけで応援衣装のバニーコートについて嘆願に来ました。応援衣装を誰が考えたのかは知りませんが、考えた人に訴えたい事があります! ジャケット無しのバニーなど認めるものか〜っ!」
「ふむ。それは総合プロデューサーのミスター・オータムだが、奴はもう旅に出て、こっちにゃいねぇからなぁ〜。まぁいい。取り合えず、話を聞こうや」
 チップス男爵は、笑顔でリスフィアを席に着かせた。
 これに明人は頷き、さらに身振り手振りを加え、情熱的に言葉を重ねる。
「酒場の店員をするバニーさんならいざ知らず、お祭イベントのバニーさんがジャケットを着用しないで如何するんですか!? ジャケットは確かに露出を抑える衣類ですが着用する事で動作の際に仄かに除く鎖骨のチラリズムや裾から伸びる脚へのフェティズムを高める効果もあります! けして色気を殺ぐアイテムではありません! セクシー&キュート&ゴージャスの3拍子揃ったパーフェクトバニーさんを光臨させるためにも是非ジャケットの追加を!」
 一息でここまで話すと、明人は深く息を吸った。
 その様を頭巾の奥から、沙羅影は静かに眺める。
「成る程で御座る。見えているが見えていないものとする黒子に通じる精神性を感じたで御座るよ」
「じゃあ!」
 身を乗り出す明人を、沙羅影は手で制した。
「だが、いかんせん今から製作に入って、20着が第2回に間に合うとはとても思えぬで御座る。それに追加予算の都合が難しいで御座るな。第2回は各個人が用意するならば、その着用を許可するで御座るが、明人殿、この件はお主が中心になって、他の者を説得してみては如何でござろうか?」
「僕がですか!?」
「ああ、そうだ。おめぇがみんなを説得して、各自で用意すりゃいい」
 にやにやとチップス男爵は明人の事を見返して来る。
「リスフィア殿も、それに関しては皆に話して揃えてみては如何で御座ろうか。他にも衣装に関しては、ヒールは危ないからパンプスを履きたいと希望される方が多かったで御座るが」
「はい!」
 そこで、朗らかに雪香が立ち上がった。

「そうなのですわ。応援中はヒールじゃなくて、パンプス等、激しい演目でも大丈夫な靴に履き替えても良いでしょうか?」
 幼い面差しのたおやかな少女。一見、そう見える雪香。だが、その瞳は大人びた輝きを湛えている。
「確かにハイヒールは慣れて無い者には危ないで御座る。未熟の者は、パンプス等のローヒールを履くが宜しかろう」
「まぁ、ころころ転んで怪我しまくる様じゃ、仕方ねぇやな。だがな、あのヒールを履いたまま、自然に振舞える様になった時、その立ち姿やそこにそうしているだけで美しい、そうは思わねぇか?」
 唇をきゅっと結び、小さく頷く雪香。
「水辺に浮かぶ白鳥は、そこにそうしているだけで美しいで御座るが、その水面下では必死に水を掻いていると言うで御座るよ。故に拙者は、白鳥たれ、とあえて口にするで御座る。雪香殿も更に一層踊りに磨きをかけ、美しくあって欲しいので御座る」
 そう言って頭巾の奥で、にっこりと微笑む沙羅影。雪香もこれにこくりと頷いた。
「判りました。でも、バニーだけじゃなく、色々な動物のコスプレも面白そうだと思いますの。例えば‥‥犬や猫とか‥‥流石に第2回目にいきなりは難しいでしょうけど、目新しい方がお客さんの受けも良い筈ですわ♪」
「ふむ、まるごとメリーさんとかあるな。だが、これからの季節、そっち系は暑くて大変だろうな」
「ほほう。予算はチップス殿の豪腕にお任せしても宜しいので御座るな?」
「ぐぐっ‥‥」
 予算の話になると、途端に言葉が重くなる。男爵位程の所領からあがる税収では無理な話。天界人の沙羅影にはもとよりである。彼等のスポンサーになっている公爵家に、気軽に新しいコスチュームの準備を頼めるかと言うと、これもなかなか。
「確かに目新しい事により喜ぶ者も居るで御座ろうが、これまでのバニースーツ姿を楽しみにしている者も居る筈で御座る。コスチュームの変更は、暫く先の事とし、幾つかの変更によるお客様の反応を、先ず見るで御座る」
「はい、判りました‥‥」
 しゅんとする雪香に、慰める様に沙羅影は言葉を続けた。
「我々はまだ一回目を終えたに過ぎないで御座る。二回、三回と会を重ねる事により、実績を積み、上の方々に我々応援団の存在意義を充分に理解して貰うで御座る」

「お待ち下さい」
 そこで、すかさず手を挙げる者が居た。
「なんでぇ、ジョーカー」
 チップス男爵は、タキシード姿の男装の麗人へ何事かと尋ねると、ジョーカーはマスカレードから覗く赤い瞳で全員を見渡し、軽く咳払いをしてから話を始めた。
「男性のバニースタイルは見苦しい物があります。格好良い衣装で、女性の観客にもアピールしては如何でしょうか?」
「必要悪という事もあるで御座る。罰ゲームの執行人には、普通には無い迫力を、と言う声が上からあったので御座るよ。その為のバニーで御座る」
「罰ゲームの執行人ですか‥‥」
 言葉のトーンを落とすジョーカーに、チップス男爵はにやにやしながら言葉を挟んだ。
「それによぉ、そっちの趣味の連中も、観客として来ていたみたいじゃねぇか。まぁ、統一された衣装で、一斉に動くから見栄えがするんであって、衣装も何もかもバラバラだったら、結構見苦しいもんになるんじゃねぇ〜か?」
「そうでしょうか?」
 にやりとするチップス男爵。
「じゃあ、今度のプレゼンで、応援合戦を提案するよな。それの中で3、3に分かれてやってみて、衣装を統一した方と、そうでない方を見て貰い、全チームのディレクターから感想を聞いてみれば良い」
「成る程、論より証拠、という訳ですね。判りました」

 沙羅影は、用意された幾つかの衣装案を手に取り、尋ねた。
「これは誰が作って来たで御座るか?」
「はい、私です」
 天界人の沙華恵である。
「それは、地球のチアガールの衣装です。こちらはノースリーブ、こちらはプリーツミニスカートという物です。リスフィアさんに合わせて作って来ました」
「これはまた可愛らしいもので御座るな」
 その一言に華やいだ微笑を浮かべ、沙華恵はその衣装を受け取り、自らの体に当てて見せた。
「ありがとう御座います。ひらひらするスカートは可愛いですし、バニーさんのように見せつけるのではなく、見え隠れする、というのも良いと思いますよ。『隠してこそ華』という言葉もあります。次回にでもどうでしょう?」
 このセリフに、衣装に拘る男、明人がピクリと反応する。
「確かにそれは否定しません。ですが、パーフェクトバニーと比較すると、どうしてもゴージャスさ、セクシーさで見劣りがします!」
「あら、そうでしょうか?」
 沙華恵がくいとその衣装を自分の胸に押し当てると、ピンと張ったノースリーブに否が応でもその量感のある豊かなバストを強調する事になる。
 浮かび上がる柔美なラインと衣装のしわに、明人はむむむ‥‥とその表情を険しくする。
 その反応に、どう?と訊ねる様に目を細める沙華恵。
「う〜む‥‥これもなかなか‥‥」
 チップス男爵も傍に寄り、食い入る様にこれを見つめた。
 そこで、苦笑する沙羅影は、ポンと手を叩き話をまとめに入る。
「ではで御座る。その衣装をプレゼンで提案するで御座る。沙華恵殿、あと2着用意出来るで御座るか?」
「はい、何とかします」
「じゃあ、決まりだな。プレゼンは、衣装を違えた組と、バニーの組、そしてこの衣装の組と3回見て貰おうぜ。衣装を違えた組は、バニー側が披露している間にこれに着替えてもう一度踊る。言い出しっぺの沙華恵がバニーで、タキシード姿のジョーカー、そしてリスフィアがこれを着るんだな。残りの3人はバニー側だ。ジャケットを人数分用意出来るならプレゼンで着用する事。衣装に関してはこれくらいかな?」
 その場で両腕を組み、大きく頷くチップス男爵。
「振り付け等も、各自で考えるで御座るよ」
「はい!」

 返事がぴたりと合った所で、雪香が立ち上がった。
「応援合戦は、前、後半の合間に休憩後、後半戦が始まる前に行えれば、レース場で行えますよね?」
「ああ、そのタイミング以外に考えられねぇな」
 頷くチップス男爵と沙羅影。
 ここで夏樹が手を挙げ、発言を求めた。
「応援合戦だけど、紅白戦は出来ないかな?」
「紅白戦?」
「それはどういう事だ、夏樹?」
「出場8チームを赤組白組に分け、各組の合計点を競い合う。Y、Zチームがそれぞれを応援。赤組白組が交互に走る事で、抜きつ抜かれつ的な競い合いが観客に分かり易く、盛り上がると思います。国王陛下と王妃様に紅白組の団長を務めて頂き、その勝者が閉会の辞を持って大会を締め括る、と言うのも面白いと思います」
 これには二人とも苦笑い。
「いやな、夏樹よ。各チームともそれぞれの国を代表しているからな、無理なんじゃねぇか? 選手は友人同士でも、上はそうじゃねぇからな」
「各チームのディレクターはどう答えるか。必ずしも仲の良い国同士ではないで御座るからな。それに、我々の仕事は試合を盛り上げる事で御座る。それぞれが交代で応援するとなると、半分の力で競技者の気持ちを盛り上げ、更には会場を盛り上げようとする事になるで御座る。果たしてそれは良い事なので御座ろうか? 拙者は、応援合戦という形のイベントを差し挟む事は、良い事と想うで御座るが、全部の応援を半分にしてしまうのは、考えもので御座るよ」
「応援を半分に‥‥」
 夏樹はそう呟くと、ほぞを噛む。
 それから話を詰めてゆくと、以下の様な項目が決まった。

・前半と後半の合間に、応援チームのショーを実施。
・それぞれのショーを採点者に評価して貰う。
・採点は一人10点の80点満点。
・採点者は各国のディレクター
・衣装等は担当者任せ

「エレメンタルキャノンの話はしねぇ方がいいなぁ〜」
「どうしてですか?」
 雪香が聞き返すと、チップス男爵は苦笑いを浮かべ、首を左右に振った。
「どうしてって、そりゃあ、碌でもねぇ連中が陛下のお命を狙う格好の道具になるからよ。あれにゃ天界で言う空砲ってものが無ぇ。万が一にも筒先が、陛下や来賓に向けられて見ろ。提案者の首一つで済めば御の字だぜ。いや、こういう話を提案するだけでも危ねぇ」
「雪香殿。今の話は聞かなかった事にするで御座るよ。他の方々も、そう心得て戴きたい。他言無用で御座る。どこからかこの話が陛下のお耳に届いたら最後、雪香殿は恐らく次の日の目を見る事は出来ぬで御座る。エーガン・フォロ王陛下とはその様に厳しい方で御座るよ」
「そこまで‥‥」
 息を呑む雪香に、チップス男爵は歩み寄り、その肩に背を伸ばして手をおいた。
「まぁ、下手な事は口に出来ないのが、この国の実情だ。天界人の雪香にはピンと来ねぇだろうが、上に立つお方ってのは、どこから命を狙われるか判らねぇ。だから、エーガン王陛下は表彰式さえご自分でなさらないだろう? 我々に代行させているのは、どこから狙われるか判らねぇからだぜ。だから、貴賓席にはそれなりの魔法や飛び道具に対する防御ががっちりなされているらしいぞ。流石にエレメンタルキャノンなんか持ち出されたら、建物ごとどうにかされちまうだろうがな」
「ブラック××団なる義賊も横行している様子。運営実行委員会のマーカス殿も気苦労が絶えないで御座ろう。前回は事無きを得たが、今回は如何なる手で攻めてくるか判らぬで御座る」
 沙羅影はうんうんと頷く。
「だから、おかしな様子の観客が居たら、近くの警備中の奴にすぐ知らせろよ。何かあってからじゃ、遅いからな」
「はい!」

 少し話の雲行きがおかしくなってきた。
「あの〜、すいません。宜しいでしょうか?」
 沙華恵は恐る恐るに手を挙げた。
「構わないで御座るよ」
「競技のルール的な話なんですが」
「後で実行委員長に伝えておくで御座るから、言ってみるが良いで御座る」
「一つに得点の事なんです。ルールをもっとはっきりさせていただけたら、と思いました。たとえば、ターゲットを攻撃するのに、範囲を一度に、絶対命中で攻撃できるウィザードの方は圧倒的に有利ですよね。そういう方も、戦士の方と同じ扱いでいいのか、そもそも参加していいのか、などです」
 二人は顔を見合わせ、チップス男爵が首をかしげると、沙羅影がそれに答えた。
「ターゲットの人形に一撃を加える事が出来たら、撃破、というのが基本ルールで御座るな。ただ、範囲魔法というのは扱いが難しいで御座る。下手をすればコースを塞ぎ、自機を巻き込みかねないで御座る。誤って観客を巻き込んだりすれば、これ以上の不名誉は無いで御座ろう。戦線突破という競技は、包囲された戦場を突破脱出する競技で御座る故、その場に居合わせた者達で最善の策を尽くすのが誠で御座る。故に、騎士以外の者の搭乗も許し、時に一致協力するので御座る。同乗者にウィザード4人を揃えて事に当たるのは、そのチームの自由で御座るが、それを見た者が騎士の行いとして認めるかという事で御座る。前回の競技では、歴とした騎士であろう者が剣や槍を持たずに杖を持ち、観客から大ブーイングを受けたで御座ろう。あれは他の競技者への侮辱でもある。そういう事で御座る。競技者は常に騎士としての品位を求められるので御座る」
「まぁ、騎士の鍛錬を目的としている競技に、騎士の協力者として天界人が同行する訳だ。天界人の扱いは騎士に準ずるからな。ジ・アースからの勇者も、地球からの勇者も、戦場に立つに問題ない」
 うんうんと頷くチップス男爵。

 沙華恵は一息ついてから話を続けた。
「それでは次ですが、競技参加で得られる物と取られるもののバランスを、考えていただけたらと思いました。大事なアイテムと安くは無い賭け金を出して競技して、自分に適しない武器を貰ってもしょうがないですわよねかといって、ジアースから来られた英雄の方々がお持ちの武具に匹敵するようなものは、王様でもそうそうお持ちではないという事ですから。えらい方が、お金をかけずに出せるもの‥‥といえば、名誉ではないかと思うのですけど、どうでしょう?」
「それこそ、マーカス殿が張り切っていたで御座るよ。マジックアイテムの力に頼って、競技に勝とうなんてケチな考えの奴からは遠慮無く戴く、と。通常のメインウェポンが供託品に選ばれた時は、競技終了後に回収していたで御座る」
「う〜ん、そうだなぁ〜。賞品に関しては、競技者から予めリストを公表しておいて、チーム内で希望を調整する様にすれば良いんじゃねぇの? それに名誉なら優勝したその事が名誉だぜ。形が欲しいというならば、感状の一つでも戴ける様に各ディレクターがそれぞれのスポンサーへ願いしてみるって事にすれば、別に問題なさそうだがな」
 チップス男爵が満足そうに頷くと、明人が手を挙げた。
「アイテムの没収についてですけど、巷で福袋を売りさばいている行商人のおっさん、たしかエチゴヤさんでしたっけ? 彼に依頼してレア度と実用性の判定をして頂くというのは如何でしょう? 福袋の中身を基準にして、アイテムのレア度を測っている方が結構いらっしゃるようですし」
 それを聞くと、チップス男爵は突如大笑い。
「ぶははははははははあ〜っ!!!」
「明人殿。そんな事をすると、マーカス殿に裏から手を回されて、簀巻きにされて川底に叩き込まれるで御座るよ。よくもうちの商売の邪魔をしやがったなって感じで御座る」
「ええっ!?」
「そ、そりゃそうだ。そりゃぁマーカス商会の特権だぜ。そいつを他所に任せようなんて、言い出したら最後、お前さん、消されるぜ。そういった旨味があるから、頑張って大会運営の資金繰りから何からあそこでやっているんだぜ。まぁ、その辺は下手に口を挟まないに限るな」
「はあ‥‥」
「何だ〜? 不服そうだな。何なら、直接会って話してきな。俺はどうなっても知らないけどな」
 そう言って嘯くチップス男爵に、明人も口をつぐんでしまった。

「あの〜、私の話がまだ残っているのですが」
「おう、沙華恵か。何だ?」
 一種異様な空気の中、沙華恵は最後の提案を行う。
「速度賞と撃墜賞を設けてそれらは没収無しで賞金若干、総合優勝は没収なしで名誉と賞金、商品。そんな感じではどうでしょう?」
「う〜ん‥‥」
「提案はしてみるで御座るよ。ただし、片方に集中して個々では撃墜数1位、レコード1位、という偏った編成ばかりのチームになってしまっては、大会の趣旨に反するのではないで御座ろうか。まぁ、その辺は、マーカス殿に通すのが筋で御座るな。あの者は、如何に観客を喜ばせるか、その結果に金子が着いて来る事を判っている者で御座る。賞金を出すとなると、入場料の利益の中でやりくりせねばならぬで御座ろう。あの者を通さずして、この話は出来ぬで御座るな。話はしてみるで御座る。その結果、あの者がどう働きかけるかは、あの者次第で御座る。そう言う事で宜しいで御座ろうか、沙華恵殿?」
「ええ。お話をしてみて戴けるのでしたら嬉しいです。宜しくお願い致しますね、沙羅影さん」
「判ったで御座る」
「おいお〜い、俺には一言も無しかよ」
 おどけた口調のチップス男爵に、皆でどっと笑い、沙華恵は改めてお願いするのである。
「宜しくお伝え下さい、チップス男爵様」
「うむ、宜しい」
 こほんと一つ咳払い。

「さて、それじゃあ、この辺で一息入れて、飯にするか。おい、今日は何を喰わせてくれるんだ?」
「ふむ、今日は蕎麦掻と、フキノトウ等野草の胡麻和えに、井戸水にさらしたウドの刺身で御座る。あと、今朝方仕掛けに入っていたウナギが数匹あるで御座るから、今からこれを開いて塩焼きにするで御座るよ。そして、夜は泥抜きをしている川蟹があるから、これで二品程用意するで御座る」
「う〜む、流石は黒子衆」
「いやいや、伝説の炎の料理人には遠く及ばぬで御座る。手伝って下さる方は、お願いしたいで御座る」
 すると一斉に立ち上がる女性陣。
 リスフィアと夏樹、雪香、沙華恵の四名は、互いに顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
「よお、いっちょ、全員でやるか?」
 ニカッと笑いかけるチップスに、ジョーカーもそのマスカレードを直し、徐に上着を脱いだ。
「仕方ありませんね」
「判りました、やりましょう! 当然、皆さんエプロンを着けるんですよね! 何という古典的な。是非、ご一緒致します!」
 ぴょんと跳び上がる明人。
 何やら、再び活気を取り戻しつつある一同は、この部屋から一時退散するのであった。


●プレゼンテーション当日だってばぁ!
 会場となった広間には、既に大勢の関係者が詰め掛けていた。
 それを幕の内側から夏樹がそっと覗き見し、うえっと息を漏らした。
「うう、緊張する‥‥」
 引っ込むと傍らのバックパックから銅鏡を取り出し、身だしなみをチェックする。
 少し跳ねた前髪を何度も撫でるが、これがいつもの様にくせっ毛でなかなか直らない。
「ほら、しっかりして。夏樹さん」
「ありがとう。でも、リスフィアは緊張しないの?」
 チアガール姿のリスフィアが背後から覗き込み、そっと湿ったタオルでそれを押える。
「さあ、どうかしら」
 くすくすと微笑むそれは、やはり貫禄の笑み。
「いいなぁ〜」
 しょぼんとする夏樹。

 夏樹のブレンドしたハーブティーが、香りと共にほのかな湯気を立てていた。
 その横へ、一枚の和紙が差し出される。
「どうぞ、お読み下さい。今回のプレゼンテーションについてまとめた物です」
 各テーブルに着いたディレクターとそのお供達に、ジョーカーが沙羅影手造りの和紙に、まとまった意見や応援の変更点等を書き記したものを配って回る。
「どうぞ、マーカス様」
「おう、ありがとよ! ほぉ〜、こりゃ、色々あるなぁ〜。よっと!」
 脂ぎった中年男。ニヤリと笑むマーカス。ジョーカーはその手を軽やかに避ける。
「ちっ、お堅いねぇ〜。わしらにゃ、ちょっと上品過ぎるかなぁ〜、が〜っはっはっはっは!」
 高笑いするマーカス。貴族の中で平民は彼の連れ立つ一行のみ。
 各ディレクターの席を回り終え、ジョーカーが別室に戻ると、既に準備は整っていた。

 いよいよだ。
 幕前に歩み出た夏樹は緊張に少し固く、ぎこちない歩み。
 人々のざわめきがピタリと止み、全員が天界人のブレザー姿に注目する。
「夏樹、がんばれ〜‥‥」
「夏樹、気合だよ〜‥‥」
 舞台そでの明人や雪香が、小声で声援を送る。これにこくんと頷く夏樹。
(「元気、貰った‥‥うん、私頑張るっ! 」)
「本日は忙しい中お集り頂き有難う御座います。これより、第二回チャリオットレース応援合戦に関するプレゼンテーションを始めたいと思います」
 これを合図に、幕が上がる。
 そして、幕の向こうには、両手にボンボンとチアガール姿のリスフィア、ジャケット装備の明人の言うところのパーフェクトバニー沙華恵、そしてタキシード姿のジョーカーがシルクハットにマントという、三者三様。

 夏樹は朗らかな声で、この会場の全員へ届けとばかりに声を大にした。
「先ずは、前回と同様のバニーガールで御座います」
 すると、沙華恵はしっかりと前を見据え、大きく一歩、また一歩と前に出る。
「第2回へ向けての変更点は、第1にこの追加されたジャケットです」
 すらりとした細身の沙華恵。その豊かな胸と腰つきを余す事無く真紅のバニースーツに納め、その上から黒革のジャケットを羽織る。なめされた革が艶やかな輝きを放つ。
 沙華恵は自信に満ちた笑顔で、くるりくるりと回って見せる。
 どよどよっと人々の囁きが沸き起こる。
 動きに合わせて、手足に巻き付けた鮮やかな布が、緩やかなループを幾つも描いた。
「第2に、この手足にこの様な布を巻き付けてみました。これにより、遠目にもはっきりと応援する姿が映える事でしょう」
 その後ろで、リスフィアとジョーカーは少しおとなしめのポージング。
 プレゼンテーションはまだ始まったばかり。
 ディレクターやマーカス達の厳しい目線へと、笑顔と舞踏を武器に、6人は次々と立ち向かって行くのであった。