レース名物を考えろ!

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月26日〜05月01日

リプレイ公開日:2006年05月02日

●オープニング

 石造りの階段に1つ黒い影が伸びた。さわさわと春先の穏やかな風が吹き抜ける中、階段を登り切ると、眼下に広大な競技場のトラックが広がっていた。
 そこは第2カーブの観客席。ウィル国内では悪徳商人として名高いマーカス・テクシは、厳しい表情でその閑散とした全景を眺めた。
 そこでは人足達が、競技会用の木人形の製作や、コースの修繕や変更、観客席の拡張工事等を行っている。
「いけねぇな‥‥」
 マーカスは小さく呟いた。

「いけねぇな‥‥」
「どうしたんです、旦那?」
 店先で思案にふけるマーカスに、若衆の一人が帳簿片手に尋ねた。すると傍で仕事をしていた、まるで暴力をふるう為だけに産まれて来た、そんな雰囲気を持つ男達が、みるまに五六人ほど集まって来る。
「おめぇらじゃ、話になんねぇよ!」
 苦笑いにも似た悪態を吐き、腕を組むマーカス。
「そりゃ、あんまりですぜ」
「旦那ぁ〜、そいつぁ〜ひでぇや」
 すると、マーカスはぎょろりと目玉を剥き、そいつらの顔をしげしげと眺めると、途端にふき出した。
「げはははははっ! こいつぁな、繊細な感性って奴が必要なんでぇ! おめぇらにそんなのが欠片でもあんのかっ!?」
「センサイなカンセイですかぃ‥‥?」
「先妻‥‥」
「戦災‥‥」
 こいつは困ったぞ、と顔を付き合わせる男達。
 マーカスはボリボリと頭を掻き、への字に曲げた口を開いた。
「しゃぁ〜ねぇなぁ〜‥‥俺はよぉ〜、レースに来たカネヅル達に、出来るだけ財布の紐を緩めてってぇ〜欲しい訳よ」
「へえ‥‥」
 相槌を打つ男達。マーカスは首を左右に振る。それから身振り手振りを交えて話し出した。
「判っちゃねぇ〜な。折角来たんだから、これは買って行こうだとかよ、観ながら一緒に食べようだとかな、そうゆ〜大会名物〜! みてぇなモンが欲しいのよ」
「この間は、いい案が出なかった訳ですかい?」
 うんざりと言った表情で、マーカスは舌打した。
「その辺の出店にあるモンばかりだったなぁ‥‥」
「本格的に、食いモン屋でもやりますか?」
「どっかの店、乗っ取って、そこを拠点に、ってのはどうですかい?」
 冗談めかしに一人が言った言葉に、マーカス商会らしき毒のある言葉が飛び交い出す。
「悪くねぇな‥‥おい、お前等、そこそこ人気のある食い物屋で、めぼしい処を洗え!」
「「「応っ!!」」」
 若衆の中でも、中心人物らしい男が顎をしゃくると、数名が腰を浮かす。そこへマーカスの一喝。
「馬鹿野郎!! やっぱりおめぇらは判っちゃいねぇっ!!」
「へぇ!! すいやせん、旦那!!」
 じろりと一同をねめつけ、それからマーカスはニヤリと笑った。
「基本的にゃぁ間違っちゃいねぇ。い〜い考えだ。だがな、他所で食えるモン出しても意味がねぇんだ。あそこに行った時にしか口に出来ない、買って帰ってだな『ああ、あそこに行ったんですね』てな具合に話が弾む、そんな競技場の目玉になる一品が欲しいのよ‥‥俺ぁ何か間違った事を言ってるか?」
「旦那!! 少しも間違っちゃいませんぜ!!」
「旦那のおっしゃる通りですぜ!!」

 それから一人になり、マーカスは思案する。
 頭の中で、様々な計算がなされている。
「やはり、ここは冒険者の知恵って奴をあてにしてみるか? かは〜っ!? 高い買い物になるか、拾い物になるか、こいつはたまんねぇやな! ひ〜っひっひっひっひっ!!」

 翌日、こんな告知が張り出された。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ゴーレムチャリオットレースにおける競技場の目玉となる賞品を広く募集致します。
 条件は、出店で販売出来る食べ物である事。
 応募された中から最優秀な一品を、競技場の名物として売り出したいと思います。
 つきましては、品評会を開きます。
 受付は当日、会場にて。会場はウィル郊外にあるGCR専用競技場。時間は‥‥
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 主催は当然、マーカス・テクシ。優秀な作品には、金一封があると記されている。

●今回の参加者

 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4078 辰木 日向(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4316 木下 秀之(38歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4598 御多々良 岩鉄斎(63歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb4703 アリア・レイアロー(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4715 小津野 真帆(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4726 セーラ・ティアンズ(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4729 篠宮 沙華恵(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

操 群雷(ea7553)/ アルフレッド・アルビオン(ea8583

●リプレイ本文

●街の鍛冶場にて
 ウィルの職人街。その煤に薄汚れた一画、ぷっくり太った身なりの良い男と褐色の巨人が、とある工房の前で話し込んでいた。
「ぬわーっはっはぁ! ここを我が輩に使えと?」
 御多々良岩鉄斎(eb4598)は腕を組み高笑い、目の前の商人マーカス・テクシと、その前でがっくりと肩を落とすみすぼらしい職人達を交互に見た。
「あ〜あ。おめぇさん、鞴も炉も、砂鉄もな〜んにも持っちゃいねぇんだろ? 貸してやるよ」
 マーカスはニヤリと口元を歪ませ、次に職人達へ向き直り、ひひひとほくそえむ。
「じゃあ、おめぇさん達は、今日にも立ち退いてもらうぜ」

●品評会
 その日は晴天となり、品評会は予定通りに開かれた。
 物見遊山の者が集まる中、多くの者が秘策のレピシを持ち寄った。
 月一にゴーレムチャリオットのレースが開かれる競技場のトラック、そのスタート地点であり、ゴールでもあるその辺りに、焼きレンガを組んだかまどが五つ。それらが馬蹄形に配置され、その中央には小さなテーブルが幾つも用意されていた。
 頃合を見て、マーカスがポンと手を叩く。
「では、始めて貰おうか」

 次々と試作品が完成する中、マーカスは数名を引き連れゆっくりと回る。
 片手に羊皮紙。一口食べてはそれに評価を書き込んでゆく。
「これは何だい? 嬢ちゃん」
 次にマーカス達が立ち止まったのは、チャリオットに似た形に焼き上げ、上から白いソースをかけた物。その向こうには少し緊張した面持ちの少女、辰木日向(eb4078)が畏まっていた。
「えっと、それはゴーレムチャリオットの形に焼いたお好み焼きです」
「お好み焼き?」
「えっと、天界の食べ物です。地球では、良くお祭の時に出店で出る物です」
「ほっほ〜! 出たぞ! 天界は地球の食べ物だと!」
 マーカスは『天界』『地球』という単語に反応する。
 それに手を伸ばそうとして、その下に敷かれた薄焼きのパンに気付く。日向は、ハッと息を呑んで身を乗り出した。
「それはお皿です! お皿状に焼いて揚げたパンを使ってみました。これならば、ゴミは出ませんし、細い縄で真ん中に結び目がくるようパンごと十字に軽く縛れば、持ち運びやすいんじゃないかなって想います」
 最後にしっかり自分の考えを主張すると、みんなの食べるのをジッと見守った。
「それでは‥‥」
「ふむ‥‥」
「ほお、これは‥‥」
「美味ぇっ!」
 概ね良い評価だ。ホワイトソース味のお好み焼きに、皆が舌鼓を打つ。そんな中、マーカスが意地悪そうに目を細め、日向へ質問をしてきた。
「だが、こいつには色々食材が使われている様だな? いくらぐらいを考えてるんだ?」
「え? それは‥‥」
 口ごもる日向に、マーカスは首を左右に振った。
「いいっていいって。難しい話を聞いて悪かったな、嬢ちゃん」
 そう言いながらマーカスは手早くメモを取り、材料などを細かくチェックし始めた。

 次に向かった先では、篠宮沙華恵(eb4729)が一生懸命にとある物を混ぜていた。
「おっかしいなぁ〜? 操さんに手伝って貰った時は固まったのに」
 木のボールの中でぐずぐずになってしまったグルテンと『生』の果汁の混合物。
「旦那、ここは後にしますか?」
「なんか面白そうなんだがな、また出来上がった頃に寄らせてもらうぜ、嬢ちゃん」
「は、はい。すいません‥‥」
 沙華恵は目元が震え、潤んでくるのを必至に抑えながら、べとべとになった手で必至に動かした。
「何がいけなかったのかしら‥‥? 何があの時と違うの‥‥?」
 そう幾度も呟き、指の間からにゅるりと抜け出るグルテンを恨めしそうに眺めた。

 串に腸詰を刺し、小麦粉を練った物を絡め、卵と蜂蜜を混ぜた物を塗って揚げた物。
 川を下った河口の港からわざわざ白身魚を取り寄せて、それをすり身にして串に巻きつけ炙った物。
 そして、ゴーレムチャリオットの形に焼いた焼き菓子に、ジャムを載せた物。以上3品だ。
 マーカス達は、その前に立つと、一つ一つを難しそうな顔で検分した。
「お一ついかがですか!?」
 元気な声と笑顔でセーラ・ティアンズ(eb4726)は呼び掛ける。あまり気乗りのしない様子で、マーカス達はそれぞれに手を伸ばす。
「どうですか? 美味しいでしょう?」
「う〜ん‥‥」
 マーカスは一口かじると皿の上に戻し、また別の一品を手にした。それも、一口かじるとまた皿に戻してしまった。それからマーカスは静かな口調で結果を告げた。
「お嬢ちゃん、これはどこにでもある物だね」
「え? でも、どれも出店で売るには適していると想うわ!」
 マーカスは、ゆっくりと首を左右に振った。
「判ってねぇな。どれも名物足りえねぇ。そこらで見かけた様なそんな代物だ。それにこの練り物は、鮮度が悪くて生臭ぇ。港から運ばせた魚で作ったんだろう? 運ぶのに何日掛かっている?」
「う‥‥」
 反論出来ずに、セーラは唇をくっと噛んで耐えた。
「レースに関連した物と言えば、このタルトみたいな焼き菓子だが、ビスケットならもうある。他にも似た様な物を作っている奴が居たなぁ」
「旦那、次はそっちへ行って比べてみましょう」

 今の話を傍らで聞いていた褐色の肌の戦士、フィラ・ボロゴース(ea9535)は、真っ直ぐに自分のテーブルへ向かって来るマーカス達一行を、まるでオーグラの群を待ち構える心境にだぶらせ苦笑した。
「来たねぇ〜! さあ、あたいのはセーラにゃ悪いけど、一味違うよ!」
「ほお! えらい鼻息じゃねぇか? どれ?」
 マーカスは目を細め、フィラの作ったパンケーキを見渡した。
 フィラは、それを迎え撃つ様に、幾つか用意したソースやフルーツを差し出した。
「どれがお好み?」
「ほう、選べるのかい。こいつは良いや」
 その反応にニヤリとするフィラ。
 マーカス達は各自に好みの具とソースを注文し、それをフィラは目の前でチャリオット型に焼いたパンケーキに乗せ、もう一枚とで挟む。そして用意した木の皿に載せて差し出した。
「この皿はおめぇさんが用意した物かい?」
「ああ。これも専用のゴミ箱を作ればゴミも出にくいし、回収箱を作れば回収して洗って使いまわせてコストも削減できそうじゃないか?」
「ふん‥‥だがそいつは前回からもうやっているぜ。どれ‥‥」
 パクリパクパクと男達は食べ始める。するとマーカスが、食べる口を止めてぼそりとこぼす。
「こいつはしまったな‥‥」
「何だよ?」
 フェイが睨むと、マーカスはニヤリと返した。
「審査をする中に、女子供を入れておくんだったぜ」
「けっ、そいつはおめぇが間抜けなゴブリン頭って事だな」
「か〜っかっかっか、そいつは違ぇねぇやな! しかし、旬のフルーツをそのまま使うってのは、どこの国でも有りだよな。結構、うめぇや」
「あったりめぇよぉ〜! 旬の物が一番よぉっ!」
「その方が仕入れも安いからな。い〜んじゃねぇの」
 マーカスは満足気に、羊皮紙へ何事かを書き込んだ。

 そのテーブルには、藁を編んだ小型のバスケットが幾つか用意されていた。
「これは何でぇ?」
「はい、お一つずつお手に取ってみて下さい」
 育ちの良さそうな口調で、天界人のアリア・レイアロー(eb4703)は、肩に一匹の小さな蛇を乗せながら微笑み、その一つをマーカスへ手渡した。
「そいつは、毒はねぇよな?」
「はい。この子はマイペースで大人しいんですよ」
「へぇ〜‥‥」
 おっかなびっくりバスケットを受け取ったマーカスは、目を寄らせて蛇の目を覗き込む。
「ふう。蛇を飼う感覚ってのは判らんな〜」
「まぁ。こんなに可愛いのに」
 ぶつぶつ言いながら、マーカスはバスケットの中のハンカチの結び目を解くと、中にはサンドイッチが入っていた。
「最近じゃもう普通だな」
「はい。でも、私が提案したかったのはサンドイッチではなくバスケットの方です。布やリボンの方に、国毎の象徴になるようなエンブレムなりをいれるのです。応援に来ている人達も喜ぶでしょうし、お土産にもなります」
「ふ〜ん‥‥お嬢ちゃんらしい提案だな。だが、土産物とセットで売るって考えは悪く無ぇな」
「ありがとうございます。本当は、あと天界の食べ物のポップコーンを用意しようと想ったのですが‥‥」
「天界の食べ物か?」
「材料が手に入らなかったんです。とうもろこしやコーンってご存知ありませんか?」
 するとマーカスは腕を組んで唸った。アリアは身振り手振りでどんな物であるか伝えたが、マーカスは左右に首を振る。
「聞いた事ねぇな。天界にあってもこっちにゃ無ぇ物があるのは当然だ」
「そうですか‥‥そうですわね。ありがとうございます、マーカスさん」
 すると少し照れた様にマーカスが苦笑い。
「ま、良いって事よ。お嬢ちゃん、探すのに随分、金使っちまったんじゃねえのか?」
 マーカスは羊皮紙に何事か書き付けると、次のテーブルへと移って行った。

「なんじゃ、こりゃ?」
 それを見たマーカスの第一声に、鎧騎士のグレナム・ファルゲン(eb4322)は胸を張って答えた。
「それは、煮卵と揚げパンである」
 薄茶色く煮込んだ卵と、こんがりと油で揚げ直したパンとが並べてある。
 揚げパンには、高価な黒砂糖が振りかけてある。
「旦那、取り合えず食ってみましょうぜ」
「ああ‥‥」
「味には自信があるのでぇ〜ある」
 パクパク食らう男達。
「まぁ、普通だよな‥‥」
「表の馬車で、勝手に売ってるなぁ〜」
「ありゃ〜やめとけ。何塗ってるかわっかんねぇぞ」
「赤いのや緑のもあるよな」
「揚げパンはまだ熱いぜ」
「油は何使ってんだ?」
 パンパンと手を払うマーカス。
「じゃ、行くか」
「へい!」
「ちょっと待つのである!」
 立ち去ろうとするマーカスを呼び止めるグレナム。
「これを見るのである!」
「ん〜?」
 振り返るマーカスは、グレナムの手にある麻の小袋を見た。それには赤くRと記されている。
「この様な、各チームの頭文字の刻印した袋に入れて売るのである。このチームが優勝した際は、優勝チームの選手のサインを貰えると言う触れ込み。話題性は充分なのである!」
「それを参加する総ての騎士殿にお願いして回るか? お一人が何百人にサインをすれば良ろしいのかな?」
 マーカスは顔をしかめ、首を左右に振った。

「ほお〜、飴か」
「はい、りんご飴です。作ってみたくて‥‥」
 背伸びする様に小津野真帆(eb4715)は駆け寄り、マーカスはコルクの板に刺さった真っ赤な林檎の飴を一本手にした。
「これをいっぺんに全部喰うのは、もう流石に辛ぇな」
「へぇ、旦那‥‥」
「俺、さっき喰った卵が胸に」
「うぇっぷ‥‥油が‥‥」
「しょうがねぇなぁ〜。どれ、代表としてはもう一踏ん張りだな」
 最初は数回舐め、それからがぶりと。かなり苦労してもぎゅもぎゅ。
 真帆はちょっとびっくりして、目を丸くした。歯にいっぱいくっついて大変そうだ。思わずぷっと吹き出した。
「よ〜く、りんごなんか手に入れて来たなぁ? まぁ‥‥地下に貯蔵しているのがあれば‥‥時期が違っても手に入るが‥‥味も落ちるし高ぇだろう?」
「あ‥‥でも、食べたかったから‥‥」
 奥歯につまって、顔を歪ませて口の中に指を突っ込むマーカスに、真帆は少し頬を赤らめ微笑むのであった。

「何だこりゃ? ただのパンじゃねぇか!?」
「はい、そう来ると思ったぜ」
 鼻歌混じりに木下秀之(eb4316)は、マーカス達の前でその丸いパンを四等分に切り分けた。
「こりゃぁ〜餡子だな」
「良くご存知で」
 少し驚き秀之は聞き返す。
「ああ、沙羅影さんがたまに作ってくれるからな」
「へぇ〜、沙羅影って言えば、応援団の責任者の一人か」
「まぁ、訪ねると手製の和紙に包んで、やれお萩だ桜餅だ葛餅だとか言って甘い菓子をくれたりするが‥‥どれ、味はどうかな?」
 ぽんと一口放り込むマーカス。もぐもぐと、その間じっと秀之を見据えている。
「で、どうだ?」
「ふん。悪く無ぇな。後ちょっとだがな」
「その沙羅影って奴には叶わないって事か?」
 羊皮紙に忙しなく書き込むマーカス。じろっと秀之を睨む。
「これは、窯でどれだけ作れる?」
「大きさによるんじゃねぇか?」
「ふん‥‥」

 リベンジに燃える信者福袋(eb4064)は、沙華恵がフライパンからカリカリに焼けたハンブルグ風ステーキを取り出し、買ってきたパンに葉物と一緒に切れ込みを入れて挟むのを、その横で眺めた。
 そしてそれを受け取ると、待ち構えるマーカスの元へと戻る。
「さ、ど〜ぞど〜ぞ」
「成る程ねぇ〜、これが天界流の食べ方って奴だな」
 マーカスはそれをバクリと食らいつき、慌てて口を離した。
「熱いですか? 焼きたてですからお気を付け下さい」
 福袋は眼鏡の奥で静かに相手を眺め、口元だけ微笑む。
「ふん、悪くねぁな」
 そう言ってマーカスは羊皮紙に何事かを書き込む。
「地球のお店にあやかって『マーカスバーガー』とでも名付けますかね」
「不味そうな名前だな」
 マーカスは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

●結果発表

最優秀作(副賞:金一封5Gと第3回GCRでの採用)
 辰木日向 お好み焼き

入賞(副賞:金一封1Gと第3回GCRでの試験採用)
 フィラ・ボロゴース パンケーキサンド
 信者福袋 マーカスバーガー
 木下秀之 あんぱん
 小津野真帆 りんご飴
 アリア・レイアロー バスケット入りサンドイッチ

●再び街の鍛冶場にて
「あと2、3日待って下さいよ、マーカスさん!」
「旦那に触んじゃねぇっ!」
 必至に取りすがる職人を、商会の若衆が割って入り、作業場の床へ叩き付けた。
「あうううう‥‥私ら今夜からどうすりゃ‥‥」
「うるせいっ! そんな事ぁ、俺達の知った事じゃねぇやっ!!」
 地べたに横たわり震える男を、足蹴にしようと踏み込む若衆を、岩鉄斎が横からずいと押し留める。
「な、なんでぇ‥‥」
「ぬわーっはっはぁ! 我が輩の仕事は一人ではなかなか大変だ。こいつらにも手伝って貰えるとありがてぇんだが。どうだ? どうだ、おめぇら!?」
「まぁ、ここを貸している間、あんたが誰を雇おうとこっちの知った事じゃねぇが、仕事はキチンとやって貰いますぜ。しかしそれじゃあ、ほとんど手元に残らねぇだろ」
 マーカスの言葉に、岩鉄斎はポンと自分の胸を叩いた。
「まぁ照る日もあれば曇る日もある」
「じゃ、一つお願いしますよ」
 そう言って、マーカスは手下を引き連れ立ち去るのであった。