風雲のルーケイ〜盗賊討伐迫る

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月15日〜05月22日

リプレイ公開日:2006年05月22日

●オープニング

 ルーケイ伯の住処は冒険者街の一画にある。一介の冒険者に過ぎない頃より慣れ親しんでいる住処だが、今の身分からすればあまりにもちっぽけな家だ。
 そこも最近はルーケイ平定戦の作戦本部と化した観がある。このところ幾人もの冒険者仲間が足繁く訪れ、熱い議論が交わされる。
 目下、伯は盗賊討伐戦の準備で大わらわだ。天界人を人質とし、身代金として1千ゴールドもの大金を略取した盗賊団『毒蜘蛛団』は、大金を得たことによって必ずや勢力拡張に乗り出すだろう。手遅れにならないうちに叩き潰さねばならない。
「早急に決定すべきは次の6項目だ」
 伯は部屋に掲げられた大きな筆記板を示す。そこには次の項目が記されていた。
───────────────
1.盗賊討伐戦の作戦方針
2.討伐部隊の規模と編成
3.ルーケイ内諸勢力への対処
4.近隣領への対処
5.討伐戦の時期
6.報酬の支払い方法
───────────────
 まず、『盗賊討伐戦の作戦方針』だが、大別すれば2通りのやり方が考えられる。
 1つ目は盗賊を徹底的に殲滅するやり方だ。当然、盗賊は死に物狂いで反撃するから、十分な戦力をもって臨まない限り、こちらも多大の犠牲を強いられるだろう。あくまでも正攻法で行う場合、勝利を確たるものにするには敵の3倍の兵力投入が必要だ。ただし各種のゴーレムや魔法、あるいはロック鳥やグリフォンなどの魔獣を効果的に投入するならば、より少ない兵力でも勝機はつかめるだろう。
 2つ目はあくまでも村という拠点の制圧に重点を置き、盗賊の敗走を許すやり方だ。逃げ道を用意しておけば盗賊の抵抗は少なく、こちらも少ない兵力で済むから戦費を節約できる。但し、その後にも掃討戦は続くし、長引けばこちらの被害も甚大となる。
 次に、『討伐部隊の規模と編成』。従来の合戦では、冒険者10人で1つの部隊を編成した。今回の討伐戦では最低でも数部隊が必要となろう。ゴーレムを中心に編成された部隊、ウィザードによる魔法攻撃に特化した部隊、軍馬による機動性を生かした部隊、魔獣とその使い手による部隊なども編成は可能だ。『領内諸勢力への対処』については、今回は差し当たって東ルーケイの北寄りにある、ルムスという謎の男が支配する村への対処が主となるだろう。牽制をかける、そのまま放置する、味方として戦力に引き込む等の選択が考えられる。
 ルーケイを流れる大河の沿岸を縄張りとする河賊、『水蛇団』の動きも気になるところだ。冒険者の中で接触した者はまだいないが、今後のこともある。余力があれば彼らにも探りを入れたほうが良い。

 そして『近隣領への対処』。地図を見れば分かるように、ルーケイの地は王領アーメル、シスイ領、ワンド領と接している。またルーケイの街道は、そのまま王都へと通じている。 今回の討伐戦において、これら近隣領の領主に糧食や軍馬の提供などの支援を求めることも、選択肢の一つとして考えられる。兵力を提供しようという領主も、中にはいるかもしれない。また国王陛下並びにマリーネ姫殿下からも、場合によっては支援が受けられる可能性はある。
 ただし、支援を受けるに際しては代償が付き物。多額の金品を要求されるくらいならまだいいが、政治的に厄介な条件を呑まされて、後で不利な立場に陥ることもある。

 『討伐戦の時期』については、早いに越したことはない。ただし大規模な討伐戦ともなれば、それ相応の準備期間が必要だ。その期間は、何をどこまで準備するかによって決まる。

 最後に『報酬の支払い方法』だが、冒険者を兵士として雇うにあたっての相場は、1人あたり5ゴールド前後だ。ここから冒険者ギルドの手数料を差し引いた残りが、報酬として冒険者に支払われる。冒険者を10人雇うなら50ゴールド、100人雇うなら500ゴールドを依頼人が用意せねばならない。
 ただし、盗賊からの戦利品をもって報酬となすこともできる。この場合、依頼人として用意すべき報酬分の金は必要なくなるが、依頼人が手にする戦利品の取り分は少なくなる。盗賊から十分な戦利品を獲得できなかった場合、冒険者達からは不満も出るだろう。

 さて、その日の作戦会議を終えたルーケイ伯は、冒険者ギルドに出向いて依頼を出した。一見識ある冒険者を作戦会議に招き、最終決定を下すための依頼だ。
 既に毒蜘蛛団の根城となった村には、冒険者から成る偵察隊が向かっている。必要とあらばルムスの村や近隣領主の元へもこれから使者を出し、折衝を行う。それらの結果も踏まえて最終決定は行われる。そしていよいよ、盗賊討伐の号令が発せられることになるのだ。

「‥‥で、この依頼に関してだが、大事なことを伝えておかなきゃならない」
 伯からの依頼について、集まった冒険者に一通り説明を終えると、事務員は依頼の報酬のことを持ち出した。
「この手の依頼だと、依頼を引き受ける冒険者への報酬は、1人あたり4ゴールドが相場だろう。ただしこの依頼は、自らも冒険者ギルドに冒険者として籍を置くルーケイ伯からの依頼だ。だからこの依頼の報酬は、伯および与力の持ち金から出されることになる。が、察しの通り、伯は荒廃しきった領地の再建に着手したばかりで、領地からの収入は皆無である。
 そこで、だ。同じ冒険者の誼でこの依頼を無報酬で引き受けても良い者、負担を少なくするため現金以外の形での報酬を望む者は、伯もしくはその代理人と直接交渉して、その旨を伝えて欲しい。
 最後に。まさか諸君の中に、盗賊に捕まるようなヘマをやらかす者はいないと思うが。念のために伝えておこう」
 ギルドの事務員は、伯からの御触書を示した。
──────────────────────────────────
 第1条:拉致された場合、救出の努力はするが身代金は敵側に渡さない。
 第2条:勝手な判断による暴走は、結果がどうあれ認めない。
 第3条:前条を違反し被害が発生した場合には個人責任で賠償する。
     賠償能わざる場合は借金。連帯責任は無い。
 第4条:拉致された場合、他の面々は救出拒否権がある
──────────────────────────────────
「先の身代金1千ゴールド略取のような事件が二度と繰り返されることの無きよう、このような取り決めが出来た。念を押しておくが、これは危険な依頼だ。参加するからにはその覚悟で臨んでくれ」

●今回の参加者

 ea1389 ユパウル・ランスロット(23歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4096 山下 博士(19歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4183 ダン・バイン(33歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●サポート参加者

オルステッド・ブライオン(ea2449)/ サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)/ 黒門 善太郎(eb4751

●リプレイ本文

●作戦会議
「実際に討伐戦を行う前に、次の準備行動を行うべきだろう」
 これで何度目かの作戦会議において、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が提案したのは次の通り。

1.討伐時、部隊やゴーレムが進行するルートの安全性を確保するため、ルート上に盗賊達が設置した罠群の解除。
2.敵地偵察依頼で得た情報から、討伐部隊が出撃前に集結するのに適した場所での陣地構築。
3.こちらの動きを察知されにくくするため、盗賊が村周辺に張り巡らされた偵察や連絡隊を事前に殲滅。

 しかし、第1項についてはユパウル・ランスロット(ea1389)が懸念を表明した。
「準備行動で落とし穴を埋めるのも良いが、それにより我々の動きを盗賊側に気づかれはしまいか?」
「ともあれ、詳細を詰めるのは偵察隊の報告を聞いてからでも遅くはない」
 会議の進行役であるアレクシアス・フェザント(ea1565)はそのように応じた。
 部屋に掲げられた筆記板には、ファング・ダイモス(ea7482)らが取りまとめた部隊編成のあらましが書き連ねられている。

《部隊編成》
1:本隊A(指揮・白兵・魔法)
2:本隊B(弓兵メイン・白兵・魔法)
3:本隊C(白兵メイン・魔法)
4:魔獣部隊(種類により、航空部隊・地上部隊で分担)
5:ゴーレム部隊(グライダー・ゴーレム・チャリオットで分担)
6:魔法部隊(遠・中距離攻撃)
7:内部工作部隊(人質救出・潜入撹乱)
8:遊撃部隊(隠密性重視・伏兵/追撃)

 盗賊討伐戦がこの編成を基本に行われることは、ほぼ確定だ。

「ところで、ルーケイ領内に転がる死体についても、始末を考えておかんとな」
 ベアルファレス・ジスハート(eb4242)が意見する。
「ああいうのものが放置されていては治安を悪くする。衛生的にも良いものではない」
 続く発言者は草薙麟太郎(eb4313)。
「王家調査室のこともあるので、僕からもお願いがあります。毒蜘蛛団の背後関係を調査するために、討伐の際、可能なら盗賊の幹部クラスを生け捕りにして欲しいのです。ただ、作戦の成功が優先事項なので、無理に生け捕りにする必要はありません」
 続いて信者福袋(eb4064)。
「以前に意見が出されていた『対テロ特殊部隊』の設立は時期尚早のようですが、テロリストが盗賊に接触している可能性は完全に否定できません。討伐戦に参加する方々には、そのことへの注意も喚起するべきでしょう」
 異を唱える者はなく、それなりに考慮がなされることになった。

●ルムスへの使者
 ルーケイ伯の拠点であるシスイ領より、ルムスの村へ向かう3人の冒険者がいる。ルーケイ伯が送り出した、たった3人の交渉団である。団長はルーケイ伯与力の男爵、バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)。これにユパウルとセオドラフ・ラングルス(eb4139)の2人が随行する。
 皆、セブンリーグブーツや韋駄天の草履を履いているから、進む速さは風のように早い。不穏なルーケイ領内、通りすがりの者に襲いかかろうと待ち構えていたならず者達も、疾風のごとく通り過ぎ行く3人の姿を見るや、信じられない物を見たとばかりに呆然と立ち尽くす。
 ルムスの村の手前まで歩いて小休止。
「たったこれだけの時間で、この距離を踏破するとは大したものだ」
 ラベール卿の所有する地図を自ら書き写したルーケイの地図を広げ、現在位置を確かめながら、道案内役のユパウルが言った。ここまで来るのに1日足らず。
「そもそもルーケイのごとき要地がいつまでも無法地帯である事は好ましくありませぬ。交通や流通の障害となっておりますから」
 遠回りの街道を使って西へ向かった時の苦労を思い出し、セオドラフが口にする。
 交渉に先立ち身だしなみを整えると、バルバロッサはルーケイ伯の紋章旗を掲げた。
「では、行くか」

 ルムスの村ではちょっとした騒ぎが起きていた。見慣れぬ者が3人、紋章旗を掲げて村に近づいてくるではないか。
「あの紋章はどうやら、話に聞くルーケイ伯のものですな」
 王都で情報を仕入れてきたルムスの部下が、その主人に耳打ちする。
「冒険者上がりの代官が寄越した使者か。まずはお手並み拝見といくか」
 騾馬に跨ったルムスは、余所者の姿を目にして落ち着かなげな村人に呼ばわる。
「あれは、俺に会うためにやって来た使者だ! くれぐれも失礼のないようにな!」
 そしてにやりと笑い、独り言つ。
「盗賊蔓延るルーケイにたった3人で乗り込んでくるとは、いい度胸した連中だぜ」

 3人の使者の前で村の門が開く。中へ入ると騾馬に乗ったルムスが出迎えた。
「我が村へようこそだ! 見たところ、新しいルーケイ代官からの使者のようだな?」
 この呼びかけにバルバロッサが答えた。
「俺はルーケイ伯が与力の男爵、バルバロッサ・シュタインベルグだ。この度はこの村の領主殿との交渉に赴いた」
「俺がこの村の領主、ルムス・モールだ。貴公らを歓迎する。話は領主館でじっくりと聞こう」
 村の中程にあるその家を領主館とルムスは呼ぶが、立ち並ぶ村人の家より僅かに大きいばかりで、あまり変わり映えがしない。そこへ3人を案内して、ルムスは言う。
「見ての通りちっぽけな村だ。突然の訪問故、十分なもてなしもできぬが、今宵はゆっくりとお泊まりになってはいかがかな? 肉と酒を存分に振る舞おう。村の娘にとびきりの美女はいないが、お望みとあらば夜伽の相手もさせよう」
「肉と酒か‥‥」
 肉といえば‥‥バルバロッサは通りすがりにちらりと見た、家の軒先にぶら下げられた大ネズミの死骸を思い出す。酒は大方、古いワインであろう。
「いや。心遣いは有り難いが、ここは辞退致す。まずは我が主より授けられし使命を果たすが先」
 やんわり断るバルバロッサ。元からそのつもりだった。
「では、話を聞こうか」
 ルムスが真顔になった。
「我が主は貴殿と正式な封建契約を結ぶことをお望みだ。契約が成れば、ルムス殿は王家も認める正統な領主となろう」
 バルバロッサも単刀直入に答える。
「それは万古より連綿と受け継がれたる領主と騎士、騎士と農夫の契約。振り上げた拳たる我らの手をとるならば、火の粉を払いのける手へと変じよう」
「契約か‥‥」
 ルムスは呟き、じっとバルバロッサの目を見る。
「それは素晴らしい話だ。ぜひとも前向きに受け止めたい。だが、今暫く考えさせて欲しい。新しい代官殿について、俺にはまだまだ知らねばならぬ事がある」
「王領ルーケイ代官、アレクシアス・フェザント卿については私が話しましょう」
 セオドラフはバルバロッサより話を引き継ぎ、ルーケイ伯の人となりを掻い摘んでルムスに語り聞かせた。ルーケイ伯がジ・アースよりやって来た天界人であり、国王陛下の招集した賢人会議での献策によりルーケイの代官に任じられた経緯。並びに、先のサン・ベルデ鎮圧戦では早くも目覚ましき武功を成し遂げたことなどを語ると、話を次の言葉で締めくくった。
「アレクシアス卿はいずれ、全ルーケイを統治されるお方。いち早くその陣に加わりて助勢を為すならば、ルムス殿への覚えも良きことでしょう」
 続いて言い添えるユパウル。
「ルムス殿の治める村は、このルーケイの地に秩序をもたらさんとするルムス殿の尽力の証。ルーケイ伯においても、形は違えどもこの地を正そうとされている。封建契約については、熟考なされた末に良き結論を出されることを望む」
「分かった。俺は来月のうちにでもルーケイ伯アレクシアス卿への伺候に参ろう。返事はその時に。俺の口から直接お答えする。時に、この東ルーケイの街道筋に巣くう盗賊どもが、ずいぶんと騒ぎ立てている様子だが?」
 ルムスより話を向けられ、バルバロッサは盗賊討伐戦のことを仄めかした。
「古来、悪が栄え続けた例しはない。もしも盗賊の中にこの村の者と血を分けし者がいるならば、その命を救うは諦めるが賢明であろう」
 その言葉の裏に隠された意味を、ルムスは賢明にも察知した。
「そうか。それがアレクシアス卿のご意志だな? あの忌々しい毒蜘蛛団を叩きつぶすのならば、俺も協力を惜しまない。兵を率いて馳せ参じよう」
 ルムスのその言葉は、ルーケイ伯に対する支援の約束に他ならない。

●シスイ訪問
 ここはシスイ領を統治するラベール・シスイ男爵の領主館。ルーケイ伯を直々に迎えての豪勢な昼餐会が催されている。勿論、シスイ家の家計は火の車。しかし訪ねてくるのがルーケイ伯ともなれば、昼餐抜きで迎えることなど出来るはずもない。冒険者上がりとはいえ、伯爵の爵位を持つ歴とした王領代官だ。
 家計の苦しさも顧みぬ豪勢極まりないもてなしぶりに、訪れたアレクシアスも内心では辟易していた。が、ラベール卿の面子を潰す訳にはいかぬので、失礼にならぬよう昼餐会には最後まで付き合った。
 昼餐会も終わり、ラベール卿と会談が始まったのは、日もだいぶ傾いた頃。
「アレクシアス卿のご意向、しかと承りました」
 盗賊討伐への協力を求めるアレクシアスに対して、ラベール卿は慇懃な態度で応じるが、その返答は詰まるところ、『ルーケイには我関せず』。
「‥‥ですが、我がシスイ領の守りは水も漏らさぬ程に固く、ルーケイより盗賊が侵入する恐れは万に一つも御座いませぬ。よって、シスイに対してのお心遣いは不要。寧ろ、ルーケイと接する領地の境が長く、それ故に盗賊にも悩まされ易き王領アーメルの代官殿とじっくりとご協議なさり、その協力をお求めになられるべきではないかと‥‥」
 取り付く島もないと感じたアレクシアスは昼餐会の礼を述べ、早々にラベール卿の前より辞した。が、同行者のベアルファレスはその場に居残り、ラベール卿にやんわりと迫る。
「アレクシアス卿には協力的であった方が、後々の貴公の為になると思うがな。それにルーケイ平定が成れば貴公も楽が出来よう?」
「貴殿は何が言いたいのだ?」
「そう邪険に扱うな、という事だ」
「誰が邪険に扱うものか。東ルーケイの平定成るまでは、我がシスイ領を盗賊討伐の拠点とすることは認めておるではないか」
「それについては感謝する」
 ラベール卿の耳元にそう囁くと、アレクシアスに続いて部屋を出る。
「‥‥あの成り上がり者どもめ!」
 背後でラベール卿が小声で罵る声が聞こえたので、アレクシアスも小声で罵り返した。
「見栄だけはご立派な小心者め!」

●アーメルの代官
 ラベール卿との会見の翌日。ルーケイ伯の一行は朝早くシスイ領を発った。次に向かうは王領アーメルを統治する代官、ギーズ・ヴァムの領主館である。ルーケイの守りとして王家より委ねられたフロートチャリオットに乗っての道行き。ルエラと麟太郎が交代で操縦し、その日のうちに領主館へ到着した。
「途中で襲撃があるかと思ったけど、何もなかったね」
 門を抜け、領主館にチャリオットを進めながらルエラが言う。もっとも賊のほうでもチャリオットを見れば、襲うよりも逃げ出すのが普通だろう。
「で‥‥あれが領主館?」
「‥‥すごい!」
 見えてきた領主館の立派な佇まいに、ルエラと麟太郎も目を見張る。広大な敷地の奥にでんと居座る3階立ての大きな館は、さながら小さな城だ。しかも門から建物までの距離は気が遠くなる程に長く、領主館の建つ敷地は騎馬隊同士で合戦の演習が行えるほどにだだっ広い。
 門から館の玄関まで、気が遠くなりそうな距離。やって来たアレクシアス達の姿に気付き、領主館から召使いやら侍女やらがぞろぞろと現れ、門から玄関へと続く道沿いに列を作って出迎えた。
 ルーケイ伯の一行がようやく館の前まで辿り着くと、玄関の門が勢いよく開く。現れたのは皮鎧を着込んで腰に剣を帯びた、傭兵そのままの姿をした髭もじゃの男。
「また、随分と早いご到来だな。こうも早く来られては歓迎の準備も整わぬ」
 男はいきなり言ってのけた。
「貴殿が王領アーメルの代官、ギーズ・ヴァム卿か?」
 訊ねたアレクシアスに男は頷いた。
「いかにも。俺がギーズだ。で、お前が手紙を寄越した冒険者上がりの代官だな?」
 横柄な態度にぞんざいな口調。傭兵上がりと聞いてはいたが、まるで領主の品格がない。領主館に押し入ってきた強盗と言ったほうが余程似つかわしいくらいだ。
 そんな思いが言葉に出さずとも、ルエラと麟太郎の顔に表れたか。ギーズは2人の顔をじろりと睨み付けた。
「俺のやり方が気に喰わねぇか? だが、ここは俺の治める土地だ。俺の流儀でやらせてもらうぜ。さて、宴にはまだ時間がある。それまで俺の領地を見せてやろう」
 かくして伯一行は、ギーズのお国自慢に付き合わされることになった。

「わはははは! どうした小僧、馬に乗るのは初めてか!?」
 横合いから響いて来るのは、小馬鹿にしたようなギーズの笑い声。立派な軍馬を貸し出されたはいいが、麟太郎にはまるで扱い方が分からない。動かない馬の上で途方に暮れていると、見かねてルエラが助けに入った。馬の扱いなら多少とも心得ている。ルエラは麟太郎と共に馬に跨り、手綱を代わる。
「しっかり掴まって」
 背中の麟太郎に声をかけ、馬の首を門に向けてその腹を軽く蹴ると、馬は走り出した。見守るギーズの家臣達が歓声を上げ、はやし立てる。
「勇ましい貴婦人殿! 坊ちゃんをしっかりエスコートしてやりな!」
 皆、ギーズとは似たり寄ったり。見るからにガラの悪い連中だ。
「では代官殿。手綱捌きを拝ませてもらうぜ」
 ギーズは同じく軍馬を貸し与えたアレクシアスに声をかけ、値踏みするような目を向ける。
「見事な軍馬だな。さぞや、素晴らしい走りを見せてくれるだろう」
 アレクシアスは答え、門に向かって馬を駆る。その見事な走りぶりにギーズは暫し見入り、そして呟く。
「見事な走りだな。だが、この俺には及ばねぇ」
 ギーズもアレクシアスの後から馬を駆り、やがて二人の馬は共に並んだ。

 街道沿いに一走りした後、アレクシアスは馬を歩かせながらギーズと語り合う。
「見ての通り、この王領アーメルはだだっ広い割には物成りが少ねぇ。畑の数は数えるほどだ。その代わり草場だけはやたらと多いからな。馬を育てるには適しているぜ。馬の数から言やぁ、このアーメルは王国で一番だ」
 ギーズの言う通り。街道沿いには牧場が延々と広がり、数多くの馬が草を噛んでいた。
 暫く馬を進めると、向こうから豚の一団がぶいぶい鳴きながらやって来た。皆、丸々と肥え太った豚だ。豚の群を率いるのはみすぼらしい格好をした豚飼いの少年だが、ギーズとアレクシアスの姿に気付くと慌てて一礼。そのまま、怖じ気づいたように動かなくなる。
「何をぼさっとしてやがる! さっさと行かねぇか!」
 ギーズに怒鳴られ、少年は慌てて駆け出した。
「馬も立派だが、豚も立派だな」
 アレクシアスが言葉を向けると、ギーズは豪快に笑った。
「豚の数だって、馬には負けねぇぜ! ‥‥さて、そろそろ戻るか。屋敷まで一勝負といくぜ」
「心得た。受けて立とう」
 2人は軍馬の向きを変え、走り出した。馬を操るギーズの腕前は並々ならぬ物。アレクシアスも奮闘したがギーズに先を越され、暫し遅れて屋敷に辿り着いた。

●ギーズの酒宴
 その夜は歓迎の晩餐。
「こ、これは‥‥!」
 屋敷の大広間に通された麟太郎は言葉を失った。テーブルの上に豚が3匹。アレクシアスの席の前には大きな豚の丸焼きがでんと鎮座し、自分とルエラの席の前には子豚の丸焼きが各1個ずつ居座っているではないか。
「これを‥‥全部食べろって?」
 たじろぐ麟太郎の耳元でルエラが囁く。
「これは、受けて立つしかないわね」
 ルーケイ伯とその随行者が席に着くと、用意された大きな杯にエール酒がなみなみと注がれる。
「お近づきの印だ。まずは、飲め」
 乾杯と共に酒宴は始まったが、とにかく肉をやたらと食わされ、それにも増してやたらと酒を飲まされる。杯を空ければさらに酒を注がれ、再び杯を空ければまたしても目一杯に酒を注がれ、あっという間に麟太郎は酔い潰れた。
「あちらに寝室を用意して御座います。どうぞ、ごゆるりとお休み下さい」
 侍女の一人が麟太郎に付き添い、大広間から連れ出す。
「あっけなく酒に呑まれて轟沈か」
 その姿を横目で見やりながら、ルエラはなおも健啖ぶりを示していたが、暫くして戻ってきた侍女の姿に目が留まった。
 心なしか、立ち振る舞いがただの侍女とは思えぬ程に優雅。質素な服に身を包んでいるが、顔立ちにも言葉使いにもどことなく高貴に感ぜられる。
「もしや、あなたはどこぞの名のあるお方では?」
 酒の勢いも手伝って、そんな事を訊ねてみる。侍女は顔を俯き加減にして答えた。
「私はギーズ様にお仕えする、ただの侍女に過ぎません」
 一方、ギーズとアレクシアスとの間では、酒の飲み比べが始まっていた。ギーズが言い出して始めた事だが、形勢はアレクシアスが有利。最初は飲み比べしながら自慢話に明け暮れていたギーズも、酒に呑まれるうちに呂律の回らない口調で繰り言を垂れ流し始め、やがて完全に酔い潰れてしまった。

 酒宴も終わって案内された寝室。賓客用の豪勢なベッドに体を横たえ、アレクシアスは王都で聞いた話を思い出す。前もって色々と調べておいたのだが、ギーズについてはろくな話を聞かない。
「確かに噂通りの男だが‥‥」
 天井を見上げ、酔い潰れたギーズの顔を思い出しながらアレクシアスは呟く。
「領地を任せるよりも、戦場を任せるのが相応しかろうな」

 その翌日。アレクシアスはギーズが起き出した頃を見計らい、その部屋に出向いた。近々行われる盗賊討伐戦のことを伝え、アーメル領内に盗賊が逃げ落ちた場合へと協力を求めるのが、そもそもの来訪の目的である。
「成る程。貴殿の話は分かった」
 二日酔いで痛む頭を押さえながら、ギーズは答えた。
「お前を漢と見込んで協力してやる。だが、盗賊がアーメルに逃げ込む心配をするよりも寧ろ、ルーケイの地で盗賊を徹底的に叩くが良策ではないか? 俺も援軍を派遣してやろうではないか。歴戦の兵士達に軍馬をつけて送ってやろう。何、これは俺からの好意だ。対価はいらぬ」
 ギーズはそう言うが、その目には油断ならぬ光。協力の申し出の裏には、それなりの打算が働いているに違いない。

●大河の闇市
 王都ウィルの南を流れる大河を、川船で暫し遡る。やがて、停泊中の船が見えてきた。マストには縄で縛られた黒い兎がぶら下がっている。それが目印だ。
「見つけました。あの船です」
 案内役のダン・バイン(eb4183)が仲間達に告げた。船頭に頼んで川船を寄せて貰うと、向こうの船から帽子を目深に被った男が顔を出した。
「例のお客さんかね? こちらの船に乗りなされ」
 皆が船に乗り移ると、帽子の男はさらに船を上流に進める。すると、下流へ向かう大きな船に出合った。船の上には傭兵っぽく武装した男がいる。
「紹介のあった客だな? 先ずは割り符を見せてもらおうか」
 男の求めに応じ、ダンは割り符を差し出した。それがもう片方の割り符にぴったり合うことを確かめると、男は来訪者達に告げた。
「宜しい。こちらの船に乗り移れ」
 最初にダンが乗り込み、その後にオラース・カノーヴァ(ea3486)、キラ・ジェネシコフ(ea4100)、福袋が続く。オラースは裏の事情を抱える金持ちの客、キラはその護衛につく傭兵を装っていた。
「闇市に潜入、ですか。なんだかゲームの世界みたいですねぇ」
 訳の分からない事をぶつぶつ呟いていた福袋だったが、キラに脇腹を小突かれて注意された。
「余計な事を喋らないように。貴方は従者の振りをしていなさい」
 ここまで来るのにも結構な手間。先日、市場で出合った行商人から闇市のことを聞かされたダンは、再び会って手筈を整えた。然るべき金を払い、食事と酒を振る舞って、話に聞く闇市を覗いてみたいと願った。その甲斐あって、行商人はダンに闇市への行き方を教え割符も与えた。
 行商人はいわば、闇市に新客を誘い込む案内人だったのだ。
 再び乗り換えた船には、恰幅のいい闇商人がほくほく顔で待っていた。
「お待ちしておりました。お求めの物は何でございましょう?」
「子どもだ。後で面倒事にならないよう、親に売り飛ばされてきたようなヤツがいい」
「承知致しました。暫くお待ちを」
 そのまま船の進むに任せていると、やがて何隻もの大船が並んで停泊する場所に到着した。
「あれが、闇市でございます」
「おおっ‥‥!」
 オラースは目を見張った。武器や防具をこれ見よがしにずらりと並べた船、艶めかしく化粧した女を乗せた船、酒飲みどもが浮かれ騒ぐ船、賭博に興じる男共を乗せた船。見るからにワケアリな船ばかりが集まっている。
「これが、闇市か!」
 闇市が船の上で開かれるのは、取り締まりの目を逃れるために違いない。船なら川の上を自由に移動できるから、取り締まろうにも場所を定めにくい。
「お求めの品は、あちらでございます」
 案内された船の中には、5人の子どもが積まれていた。
「ほぉ、これが例の売り物か」
 などと言いながら、オラースは売り物を検分するように子どもの体を調べる。子どもが怯えてびくつくのが分かった。皆傷だらけだ。
「こいつはひでぇな。傷物かよ?」
「いやお殿様、この子達は世にも哀れな子ども達なのでございますよ。悪名高い毒蜘蛛団に親を殺されてかっ浚われ、連中の下で散々こき使われた挙げ句に売り飛ばされてきたという次第でして」
「その話、本当か?」
 オラースが子どもに尋ねると、子どもは虚ろな目を向けて頷いた。
 商談が行われる最中、ダンは隠し持ったデジタルカメラを使い、船の中の様子などをこっそり撮影しようとした。途端、横合いから伸びた手がその腕を掴み、ダンを押し倒した。
「何のつもりだ? 隠し持っているのは武器か?」
 ダンを押さえ込んだ女が言う。船の用心棒だ。闇世界の人間は、こういう隠し事には目ざとい。
「何事だっ!?」
 オラースが怒鳴り、キラが腰に帯びた剣に手をかける。
「これは武器じゃありません!」
 ダンが訴え、用心棒の女はその手からデジタルカメラをひったくり、しげしげと検分。
「天界のアイテムか? 大事そうな品だな。迷惑料を払えば返してやるよ」
 女が使い方を知らないことが幸いした。やむなくダンは迷惑料を支払ったが、これで所持金はほとんど無くなった。
「従者がお騒がせした」
 オラースは非礼を詫び、商談の続きを進める。そして商談はまとまった。
「俺はこの子らが気に入った。5人合わせて100Gで買い取ろう」
 相当に美味しい取引だったのだろう。闇商人はいたく感激し、何度も礼を述べた。
「ところで一つ訊いてもいいかしら?」
 訊ねたのはキラ。
「水蛇団という盗賊団が、この辺りで結構な荒稼ぎをしてるって話を聞いたけど、その顔役と話をつける伝はあるかしら?」
 闇商人はにんまり笑い、キラの耳に吹き込んだ。
「来月になれば、さらに規模の大きな闇市が開かれます。水蛇団の皆様も、大勢が顔を出すことでございましょう。この件で何か御用向きがあれば、既にお馴染みの行商人にお伝え下さい」

●新戦法
 ここゴーレムグライダーの訓練場では、鎧騎士ドイトレの監督の下、さまざまな実験が行われている。
 麟太郎が発案したのは、小麦粉を空からばらまき敵への目眩ましとする戦法。アイデアとして悪くはなかった。貴重な小麦粉の代わりに、強力な目潰しとなる生石灰の粉で試したところ、強力な煙幕にも匹敵する効果が確かめられた。
 しかし、空から陶器の破片や石を大量に落下させる戦法は、望む程の効果は得られなかった。最初、陶器の破片や石を麻袋に詰め、グライダーで空から落とした。
 どん!
 高空から落下した麻袋は鈍い音を立てて地面に激突。袋が破れ、詰め込んだ破片や石がばらける。だが、広範囲に飛び散って敵を殺傷する程の勢いはない。
「そうか‥‥。袋に詰め込んだ破片や石の隙間がクッションの役目を果たして、落下の衝撃を吸収してしまうんだ」
 それではと、今度は袋に代わって箱の中に陶器の破片や石を詰め込み、上空からばらまいた。今度は広範囲な散らばりを見せたが如何せん、威力が弱い。
「同じことを、わしも以前に試したことがある」
 結果を見届け、ドイトレが言う。
「この方法ではせいぜい、敵の足止めにしかならぬな。どれ、わしが手本を見せてやろう」
 ドイトレは自分のグライダーを持ってこさせた。レバー式の投下装置が備えつけられ、バリスタ用に作られた鉛の砲丸がセットされている。
 機体にまたがり、ドイトレはグライダーを発進させた。一気に急上昇してから急降下。標的として立てられた藁人形に向かって砲丸を投下。砲丸は緩やかな放物線を描いて落下し、藁人形の胴体に命中。その支柱をぼきりとへし折った。
 その見事な腕前を見て、麟太郎達も同じように試してみる。が、うまく命中させられた者はいない。
「どうだ。空から標的を狙って命中させるのは、思いの外に難しいであろう? まして動く目標に対しては、尚更だ」
 そのドイトレの言葉に挑むかのように応じた者が一人。
「ぼくに考えがあります。試させてください」
 ルーケイ領ゴーレム機器管理者、山下博士(eb4096)である。
「よかろう。試すがよい」
 子爵の小さな体を乗せ、グライダーが飛び立つ。程なくドイトレはあまりにも強力な新戦法に唸ることになる。照準が点から線となり格段に当てやすくなった上、グライダーより時速200kmを超える速度が与えられた砲丸は、凄まじい威力を発揮したのだ。
「この戦法、生身の騎士相手には使えぬな。あまりにも強力すぎる」

●ゴーレム配備
 今回受け取ることが出来たゴーレムグライダーは2機のみ。但し、ドイトレは請け負う。
「ルーケイ伯の所属となるのは2機だが、来る合戦には王家と騎士学院に所属するグライダーも、使用が認められるように取り計らおう。合わせて5機のグライダーが使用可能となるであろうな。また蒼威卿の新式チャリオットも、彼が参戦されるならば2台は使用できよう」
 部隊を増やすに足る戦力であった。博士と同じく越野春陽(eb4578)もグライダーの引き取りに来ていたが、良い機会だったので提案した。
「私も招賢令の際に指摘し、また先の地方領主会議でも問題に上がっていましたが、現在ゴーレム機器については、整備すらもトルク分国で実施しなければならないのが実情。この点について、是非王家からも要望を出していただき、暫定的にはゴーレムニストの王都への常駐、将来的には基本技術の公開へと持っていけないものかと考えています。
 実際に、先のサン・ベルデでは実戦に投入され、また聖山巡礼行では竜と格闘も行っていることから、フオロ分国内で本格的に整備できる態勢が必要なのでは?
 戦場で用いた剣をそのままに放置しておく武人はおらず、常に良好な状態でその刃を保つことは武人の嗜み。それはゴーレムにも当てはまることではないでしょうか?」
「同感じゃ。だが、こればかりはわしの一存だけでどうこうする事も出来ぬ。今は時を待て。やがてトルク分国と交渉する機会も訪れよう。ともあれ指揮者が訓練不足では困るな」
 その後二人がしごきまくられたのは言うまでもない。

 アーメルでの交渉より戻ったルエラはカーロン王子に謁見し、さらなるバガンの配備を願い出た。しかしバガンの絶対数が足りないことにより、これは認められなかった。

 闇市より戻ったダンは騎士学院に出向き、ルーケイ復興のための基金の設立を具申。騎士学院からは、『ルーケイ伯の了承を得た上で、基金の管理者に相応しい者を紹介しても良い』との返答を得た。

 福袋は討伐戦の経費を算出するとかで、あちこち駆け回っている。傭兵ギルドで傭兵を雇う経費の相場を尋ねたり、商人ギルドで穀物の相場を調べたり。しかし何をするにもコネと情報が不足している。結果が出るのはまだ先だ。

 セオドラフは貴族のサロンにて、ついにルムスの素性を突き止めた。
「そんなとんでもない男だったとは‥‥」
 これについては後日、仲間達に報告することになる。

●討伐戦近し
 ファングが苦心して立案した討伐戦の計画を、ベアルファレスは羊皮紙に書き出した記録としてまとめ上げ、シャルロット・プラン(eb4219)と共にマリーネ姫の元へ出向いた。
「このように討伐準備に関しては、概ね問題なく進んでおります」
 シャルロットの口から進行状況が詳しく語られる。テロリストの件についても、姫の耳には入れておいた。
「またルーケイ伯自身は討伐戦の影響を考慮し、諸分国には慎重な態度をとっています。トルク王の力に対し、一部に不要な警戒があるのも事実です。気運を高めるためにも一度、シーザム閣下と同席する機会を設けられ、友愛を確認されてはいががかと?」
「トルク分国へは、王家より使者を立てましょう」
 姫は約束した。シャルロットは続ける。
「また、姫にはお役目上、出陣前に出兵する兵達にお言葉を授けて頂くことになると思いますが‥‥」
 ベアルファレスも言い添える。
「マリーネ様の激励とあれば兵の士気も高まるでしょう。ぜひとも」
「その役目、是非とも私が果たしましょう」
 誇らしく微笑む姫。その姿はあたかも咲き誇る大輪の花の如し。