風雲ルーケイ〜敵地偵察
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:05月15日〜05月20日
リプレイ公開日:2006年05月22日
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●オープニング
かつては実り豊かな土地でありながら、今は盗賊蔓延る荒廃の地と化した王領ルーケイ。その東部を荒らし回る盗賊団『毒蜘蛛団』は、天界人を人質として身代金1千ゴールドを略取するという暴挙に出た。ここにルーケイ伯は盗賊の討伐を決意。早くも冒険者ギルドには、討伐戦に先立つ偵察行の依頼が張り出された。
「ルーケイの入口、2本の街道が交わる辺りからさほど遠くない所に村がある。毒蜘蛛団が根城としているのはその村だ」
冒険者ギルドの事務員はルーケイの地図を広げ、集ってきた冒険者達に説明する。
「毒蜘蛛団の人質になり、身代金と引き替えに解放された天界人からの話によるとだ。村に連れ込まれた時、村の周りをぐるりと柵が取り囲んでいるのが見えたそうだ。天界人は今にも倒れそうなボロ屋に連れて行かれ、手酷い仕打ちを受けたのだが、その時に女や子どもの悲鳴を聞いたという。ということは、他にも盗賊に捕らえられた者達がいるのかもしれない。
諸君の仕事はこの村に近づいて、村の様子を探ってくることだ。村の大きさに家の数、盗賊の数に捕らえられた人間の数、攻めやすそうな場所に攻めにくそうな場所など、来るべき盗賊討伐戦に役立ちそうな情報を、できるだけ詳しくな」
人質となった天界人の他にも、村をその目で見た冒険者は何人かいる。ただし彼らは、かなり遠い場所から村を臨めるに止まった。村には物見の櫓が立ち、周りには平坦な土地が広がっている。身を隠す物といったら丈の高い草とか、そこかしこに茂る茂みしか無い。見張りに気付かれずに接近するのは困難だったので、その時はそのまま引き返したのだ。
村の盗賊達は、馬に乗って頻繁に村へ出たり入ったりを繰り返しているようだ。これまでにも馬に乗ったその姿が、あちこちで目撃されている。偵察の途中で彼らに遭遇し、見つかりでもしたら非常に厄介なことになるだろう。
「ところで話は変わるが、大事なことを伝えておかなきゃならない」
一通り現地の様子を説明した事務員が切り出したのは、依頼の報酬についてだった。
「この手の依頼だと、依頼を引き受ける冒険者への報酬は、1人あたり4ゴールドが相場だろう。ただしこの依頼は、自らも冒険者ギルドに冒険者として籍を置くルーケイ伯からの依頼だ。だからこの依頼の報酬は、伯および与力の持ち金から出されることになる。が、察しの通り、伯は荒廃しきった領地の再建に着手したばかりで、領地からの収入は皆無だ。
そこで、だ。同じ冒険者の誼でこの依頼を無報酬で引き受けても良い者、負担を少なくするため現金以外の形での報酬を望む者は、伯もしくはその代理人と直接交渉して、その旨を伝えて欲しい。
最後に。まさか諸君の中に、盗賊に捕まるようなヘマをやらかす者はいないと思うが。念のために伝えておこう」
ギルドの事務員は、ルーケイ伯の御触書を取り出した。
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第1条:拉致された場合、救出の努力はするが身代金は敵側に渡さない。
第2条:勝手な判断による暴走は、結果がどうあれ認めない。
第3条:前条を違反し被害が発生した場合には個人責任で賠償する。
賠償能わざる場合は借金。連帯責任は無い。
第4条:拉致された場合、他の面々は救出拒否権がある
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「先の身代金1千ゴールド略取のような事件が二度と繰り返されることの無きよう、このような取り決めが出来た。念を押しておくが、これは危険な依頼だ。参加するからにはその覚悟で臨んでくれ」
●リプレイ本文
●偵察行
ここは荒廃の地ルーケイ。東西に延びる街道を行く一団の姿が、冒険者達の目に止まった。
「何者であろうな?」
目を凝らせども、あまりにも遠すぎる。恐らくは理由あってルーケイに流れ込んできた者達であろう。
「盗賊だ! 隠れろ!」
馬に乗り街道を駆け抜け行く盗賊達の姿に、アリオス・エルスリード(ea0439)がいち早く気付いた。皆は素早く身を伏せ、草の陰から成り行きを見守った。
盗賊達は流れ者の一団を取り囲んでいた。
アリオスはテレスコープのスクロールを広げて念じ、盗賊達に視線を戻す。その姿が一段と大きくなった。
盗賊達は蛮行を繰り広げていた。振り下ろされる剣、飛び散る血潮。仲間が殺されるや、襲撃された者達は抵抗する気力を失う。手足を縛られ、盗賊の馬に乗せられて連れ去られて行く。
「よくも‥‥!」
奥歯を噛みしめ、呟きを漏らす。と、割波戸黒兵衛(ea4778)がアリオスの肩に手を置いた。
「全て見届けたな。では、行くか」
冒険者達は草の陰から身を起こし、再び歩き始める。盗賊の去っていった西へ向かって。
冒険者から成る偵察隊がルーケイ内に足を踏み入れて、はや1日が過ぎ去ろうとしていた。盗賊の目を警戒し、あえて街道筋より離れた場所を進んだが、皆の履くセブンリーグブーツは移動にかかる時間を大幅に短縮。盗賊団『毒蜘蛛団』の支配する村まではもう少しだ。
街道の北側にある小高い丘。そのなだらかな斜面の向こう側に、物見の櫓が見えた。先の偵察でたどり着けたのは、今いるこの場所まで。今回はさらにその先へ進む。
「‥‥さて‥‥見せて‥‥貰おうかな‥‥」
夜光蝶黒妖(ea0163)が一番に駆け出した。仕えるショア伯の為、ルーケイの実態をその目で見届けん。忍者故、この手の隠密行動には手慣れている。身を低く屈め、動物のような身のこなしで駆け出し、離れた茂みに身を隠す。周囲に敵がいないのを確かめ、アシュレー・ウォルサム(ea0244)を手招きする。
「さって、俺たちの調査次第で討伐依頼がどうなるかが掛かってるからね‥‥油断せずに行くよ」
アシュレーも小走りに茂みの間を駆け抜け、さらに残る仲間達が続く。茂みから茂み、藪から藪へと少しずつ慎重に進み、村との距離をゆっくり縮めて行く。
緊張のうちに時は過ぎゆき、やがて日は暮れ夕闇が訪れる。その時には既に、冒険者達は村のかなり間近まで達していた。物見の櫓に立つ見張りの姿も、今でははっきりと確認できる。
●盗賊の村
月精霊の光がひときわ明るい夜だった。遠くから偵察するにはいいが、潜入はやり難いことこの上ない。
月明かりにくっきり浮かび上がる村。周りを高い塀がぐるりと囲む。塀の外側に広がるのは麦畑のようだ。が、手入れは見るからにぞんざいで、実りは少なそうだ。
村の周りには藪や茂みも多く残されている。皆が身を隠したのも、そんな茂みの一つの陰。
「これだけ隠れ場所があれば、結構な数の伏兵を潜ませられそうだな。だが、偵察には好都合だ」
仲間と共に身を隠す茂みを、シン・ウィンドフェザー(ea1819)はアリオスと一緒になって、本格的なキャンプへと造り替え始めた。予め用意した、地面と似た色の布は使わず仕舞い。むしろ藪に隠れた方が見付かりにくい。
先ず、茂みの内側の枝を巧みに押しのけて細工する。音を立てないよう慎重に。程なく、人間の体が丸ごと入れる空洞が出来ると、シンはその内側に潜り込む。その上にアリオスが枝を寄せて巧みにカモフラージュ。村を見張るのに格好の隠れ場所が出来上がった。「‥‥さーて、連中にゃ1千ゴールドものデカい貸しがあるんだ。耳を揃えて返してもらう為にもこの偵察、手は抜けねぇぜ」
夜の間は静かそのもの。しかし朝の訪れと共に、寝静まっていた村は目覚めた。
村の門が開き、馬に乗った男どもが姿を現した。その数17人。誰もが剣や弓矢で武装している。門を出た男の一団は、平原を街道へ向かって走り抜けて行く。ただし真っ直ぐな最短距離を取らず、何かを迂回するようにカーブしながら進む。
「曲がって避けた場所には、罠が仕掛けてあるのだろうな」
黒兵衛はそう見て取り、その場所をしっかりと記憶。隣ではシンがデジカメを使い、迂回する盗賊達の様子を撮影。後で村周辺の地図を作る時に役立つだろう。
村の周囲の畑では農作業が始まっている。みすぼらしい姿をした男や女や子ども達が、村に残った盗賊どもにせき立てられ、畑に水を撒いたり雑草を引き抜いたり。しかしろくな食事を与えられないでいるらしく、皆ふらついている。
シンと共に茂みの中に潜むアリオスも、テレスコープとエックスレイビジョンのスクロールを使い、村の様子を伺う。隠れ場所からの距離はかなりあるが、村を囲むのは丸太を組み上げて作った柵で隙間が多い。中の盗賊の動きを伺い知るのにさほど苦労はしなかった。エックスレイビジョンを使って柵の向こうを見ると、さらにはっきりと様子が分かる。盗賊達に警戒の色はない。ある者は囚われの者達を足蹴にしてこき使い、ある者は仲間同士で賭博に興じている。
トリア・サテッレウス(ea1716)と黒妖は、村を窺う仲間達の隠れ場所から離れ、村の周辺に探りを入れていた。姿勢をなるたけ低くし、身を隠すように茂みから茂みへと進みつつ、仕掛けられた罠を探る。
「この辺りには‥‥まるで足跡がない‥‥」
黒妖に言われて、トリアはあちこちの地面を手でまさぐって確かめる。と、その手に違和感が伝わってきた。地面がぶかぶかしている。
「落とし穴ですね」
さらに調べてみると、周囲は落とし穴だらけ。ちょうどその場所は、村と街道の中間に位置している。
「街道から軍を進めて村に攻撃をかければ、この落とし穴にはまるというわけですね」
調査を進めるうちに昼となる。茂みに身を隠し、保存食で腹を満たしていると、荒々しい蹄の音が近づいてきた。
朝に村を出た盗賊達が戻ってきたのだ。落とし穴の仕掛けられた場所をぐるりと迂回し、盗賊達は村の中へ。それから暫く経つと、盗賊達は再び馬を駆って村を出て行く。
盗賊達が再度の見回りから戻ってきたのは、辺りが薄暗くなり始めた夕暮れ時だった。
●潜入失敗
夜が訪れた。盗賊達が寝静まった頃合いを見計らい、村への潜入が試みられる。
「緊急時にはフクロウの鳴き真似で合図だ」
潜入する者達に、黒兵衛はそう示し合わせる。
村へ潜入する者達は4人。黒妖とアシュレーは村の東側から。アリオスと黒兵衛は村の西側からだ。4人は点在する茂みから茂みへと渡り歩き、足下に仕掛けられているかもしれない罠には十分に注意を払いつつ、じりじりと村へ接近する。
(「それにしても月が明るすぎる。魔法で雲を呼び寄せたいくらいだ」)
頭上の月をちらりと見上げ、黒兵衛は心中で愚痴る。生憎と、天候を変えられる魔法を扱える者は、今ここにはいない。しかし見張りに立つ盗賊は、櫓と門にそれぞれたったの1人だけ。この警戒の薄さは救いだった。
アリオスと黒兵衛は、見張りに発見されることなく村の西側に辿り着いた。
村をぐるりと取り囲む柵は、大人の身の丈以上もある。馬による進撃を阻むには十分な高さだ。しかし黒兵衛が間近で確かめてみると、作りはかなりぞんざいだ。丸太と丸太を結ぶ縄の結び目がゆるかったり、朽ちかけた箇所が放置されていたりする。
アリオスと黒兵衛は柵の丸太に足をかけて登り、易々とその内側に入り込んだ。
同じ頃、黒妖とアシュレーも無事に村の東側へと辿り着いた。
(「始めるよ。うまくいくといいけど‥‥」)
相棒の黒妖に目線で合図を送り、アシュレーはアースダイブのスクロールを広げて念じた。水に潜るかのごとく地面に潜るための魔法である。アシュレーは身を屈め、その体が地面の中にずぶりと沈んで見えなくなった。
黒妖が地面に耳を付けて音を探ると、地面の中を何かが動くような音が聞こえた。やがて柵の向こう側の地面に、アシュレーの手がにゅうっと突きだした。水を引っかき回すような動きでじたばた動いている。まるで地面の中で溺れてでもいるように。
(「これは‥‥まずい‥‥!」)
見守る黒妖はハラハラもの。アシュレーは泳ぎが出来なかったのだ。故に一つ間違えばこうなる。
じたばたと振り回すその手が運悪く、柵に立てかけてあった丸太にぶつかって。ドサッ。丸太は倒れ、その音を門の見張りに立つ盗賊が聞きつけた。
「何だ、今の音は?」
黒妖は素早く柵の陰に身を隠し、フクロウの鳴き真似をする。盗賊へのカモフラージュ、そして仲間への緊急の合図。
「ホー、ホー」
アシュレーの手も素早く地面に引っ込む。
やって来た盗賊が見た物は、地面に転がる丸太ただそれだけ。
「何だ、フクロウの仕業か?」
と、またもアシュレーの手が地面からにゅっと伸び、じたばた動きながら盗賊の足をひっ掴んだ。
「あ? 何だ?」
地面に目を向けるや、盗賊の目に飛び込んできたのは、地面にぽっかり浮かんだアシュレーの顔。
泳ぎの出来ないアシュレー、手を振り回すうちにようやく地面の上にある物を掴んで体を引き揚げようとしたはいいが、まさかそれが盗賊の足だったとは。土中では息ができないものだから、やっとのことで地面の上に顔を出せた時には、苦しそうに顔を歪めてぜいぜいと粗い息。
驚いたのは盗賊である。
「うわああああああっ!! で、出たぁーっ!!」
腰を抜かして倒れ、足を掴んだアシュレーの手を蹴り飛ばし、慌てふためいて逃げ出した。
「見付かった! ‥‥逃げろ!」
黒妖がアシュレーに呼びかけ、アシュレーの顔と手が地面にずぶりと沈む。やがてアシュレーの手が柵のこちら側ににゅっと突き出し、黒妖はその手を掴んで引き寄せる。さらにもう1本、助けの手が伸びた。合図を聞いて駆けつけた黒兵衛の手だ。二人してアシュレーを地面から引き揚げた時には、わらわらと集まってくる盗賊の気配。アシュレーともども急いでその場を離れ、近くの藪に隠れて盗賊達の様子を伺った。
「一体、何ごとだぁ!?」
「悪霊だぁ! 悪霊が地面の中から現れて、俺の足を掴んだんだぁ!!」
アシュレーに足を掴まれた盗賊が、盗賊団の頭に訴えている。
「悪霊だとぉ!? ふざけやがって!」
頭は怒鳴り、何度も剣の切っ先を地面に突き刺した。
●村の北側
カルル・ディスガスティン(eb0605)とグレリア・フォーラッド(eb1144)は慎重に村の裏手の北側へと回り込み、周辺の調査を行っていた。
村からかなり離れた場所に、ぽつんと井戸がある。井戸の周りに広がるのは、手入れの粗雑な麦畑だ。
朝が訪れると村の盗賊がやって来た。捕らえて奴隷にしている者達を連れて。盗賊の監視の下、囚われの者達は仕事を始める。井戸から水を汲んだり、生い茂る藪を刈り取ったり。刈り取った藪の草は焚き付けにするのであろう。
カルルとグレリアは井戸からさほど遠くない藪の中にずっと潜み、彼らの様子を観察し続けた。夕暮れ時になると盗賊は囚われの者達を引き立て、朝来たのと同じ道筋を辿って村へ戻って行った。その道筋をカルルとグレリアはしっかりと記憶に留めた。
井戸の場所からさらに北へ向かえば、そこは丘陵地帯の始まりだ。草木に覆われた丘が連なり、敵襲から逃れて隠れるにはうってつけの場所に思えた。
●丘からの偵察
小高い丘の上からは盗賊が支配する村の全貌が見渡せた。村までの距離は2キロ程。村から出たり入ったりする盗賊と思しき者達の姿も、芥子粒ほどにも小さく見える。とうてい矢の届く距離ではないし、生い茂る草木の陰に身を隠した2人の姿が、村の盗賊の目に止まることなど、およそ考えられはしない。
それでも吾妻虎徹(eb4086)は、ぎゅっと首から提げている木彫りの十字架を握って呟く。
「真治、生きて帰ってくる‥‥だから、見守っていてくれ」
それが偵察を始める前の日課だった。
虎徹がヘクトル・フィルス(eb2259)と共にこの丘へ辿り着いたのは2日前。ヘクトルが丘陵地帯を越えて行くと言うので、虎徹も同行したのだ。
この丘は東ルーケイの中央部に広がる丘陵地帯の、南の外れにある丘だ。ここまで達するのに、草木に深く覆われたいくつかの丘を越えてきた。セブンリーグブーツの助けがあったから1日のうちに辿り着けたが、普通は徒歩で3日はかかろう。
ここまで来る間にざっと調べておいたが、丘陵地帯に盗賊が頻繁に出入りしている形跡は見付からなかった。偵察を続けて2日になるが、村の盗賊達がこの丘の場所まで足を延ばす様子も見られない。
今、虎徹は双眼鏡で村を観察している。その視界には馬に乗って村から出て行く盗賊達の姿があった。肉眼では芥子粒ほどの大きさだったその姿は、拡大されて豆粒くらいに見えている。
虎徹の背後は丘と丘とに挟まれた窪地となっており、そこにはテントが張ってある。そのテントの中からヘクトルがのっそりと現れた。
「そろそろ交代だな」
何時間も偵察を続けてきた虎徹は双眼鏡をヘクトルに渡し、見た物を報告した。
「盗賊共は朝と昼の2回、十数名が馬に乗って街道筋を巡回しています。見張りの交代もちゃんとあるようです。わりと統率の取れた組織であることが伺えます。村に残った盗賊ですが、その行動範囲は概ね村より1キロ以内に留まっています。もう少し近づけば詳しくわかったかも知れませんが、この場所からはこれくらいですね」
「そうか。昨日の動きと同じだな」
「では、後を宜しく頼みます」
ヘクトルと交代し、虎徹はテントの中に潜り込んだ。
外からは小鳥の囀りが聞こえ、草の香りもテントの中に運ばれてくる。テントの狭い天井を見ながら寝転がっていると、自衛隊の野外演習でテントに泊まり続けた昔のことを思い出す。
「こうしていると、まるであの頃と同じだ。‥‥懐かしいな」
その夜、村は篝火の光に明々と照らされていた。昨晩は灯り一つ見えなかったというのに。
「何かあったのか?」
不審に思い、双眼鏡ごしに目を凝らすヘクトルが見た物は、酒を飲んで浮かれ騒ぐ盗賊達の姿だった。
村の間近、藪の中から見張りを続ける冒険者達の耳に、派手に騒ぐ盗賊の声が聞こえてくる。
「飲めぇ! 歌え! 今夜は景気付けだぁ! 辛気くせぇ悪霊なんぞおっ払っちまえ!」
昨晩のアシュレーを悪霊と勘違いして、今夜は夜通し大騒ぎ。もはや村への潜入は無理だ。。
「あの失敗さえ無ければ‥‥」
仲間の前でうなだれるアシュレーに、黒兵衛が言う。
「過ぎたことだ。くよくよするな。ともあれ、引き返すなら奴らが浮かれ騒いでいる今が宜しかろう」
冒険者達はその夜のうちに、盗賊の村から離れた。
村への潜入こそ失敗したものの、偵察では大きな収穫が得られた。偵察行に加わった冒険者の多くは、ルーケイ伯の立場を慮って報酬を辞退した。