ワンド子爵の憂鬱〜蛮族が来る:準備編
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月29日〜06月01日
リプレイ公開日:2006年06月05日
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●オープニング
王都より馬で1週間から10日はかかろうという場所に、リボレー・ワンド子爵の領地はある。領地は大河と接するが故に、各地との交易は盛ん。今日も領地の名産品である陶器やら、領地の西の森で伐採された木材やら、さまざまな交易品を積んだ川船が、ワンド家の旗を掲げて大河を行く。向かう先は南の対岸のトルク分国領、東の王都ウィル、西のセレ分国領にウィエ分国領。また西の山岳地帯は鉄の産地故に、粗鉄や鉄製品を積んで戻って来る船もある。
その船の一つが、ワンド子爵領の西の外れの川縁に差し掛かった。と、川縁に立てられた丸太の柱が船頭の目に止まる。丸太には大きな熊の毛皮がくくりつけられていた。
「ついに来たか! お殿様に報告せねば!」
毛皮のくくりつけられた丸太は、森に住む蛮族オーガによる合図の目印。もうすぐ彼らがやって来る。
ワンド子爵領の西に広がる広大な森は、数多くの大型獣やモンスターが住むことから『魔獣の森』と呼ばれていた。この森に住むオーガもまた、ワンド子爵家にとっての交易相手である。交易の行われる場所はワンド子爵領の西の外れ。木を伐り出した後に出来た広場だ。オーガ達は森で狩りをして獣を仕留め、その毛皮を持ってやって来る。
オーガ達のもたらす毛皮は、ワンド子爵家にとっては貴重な収入源。ことにテンや狐の毛皮は領内でコートなどに加工すればウィルの貴族達に高値で売れる。他にも淡水真珠や砂金の大粒、矢羽に適した鳥の羽、水鳥の羽毛そう言った物を携えてくるのだ。
勿論、オーガ達から金で買い取る訳ではない。魔獣の森ではまるで使い道がない金貨や銅貨を与えても仕方がないし、オーガ達も喜ばない。引き替えにオーガ達へ与えるのは、オーガ達が自らの手で作り出せず、故に彼らにとっての貴重品となる品々。即ち酒、長期保存可能な甘いお菓子、斧などの鉄製品だ。その調達にかかる費用など、毛皮の価値と比べたら取るに足りないものだ。
このオーガとの交易を任されているのは、ハーゲル・ロンという名の男である。
「稼ぎ時がやって参りましたな」
ほくほく顔で主人に告げる。が、ワンド子爵の顔は冴えない。
「殿、顔色がすぐれませぬが‥‥。やはりルーケイのことで?」
「まあ、色々ありすぎてな」
返事は曖昧だが、主人の言わんとする事は察しがつく。
ルーケイの地はワンド子爵領の東に位置する王領。今は荒廃の極みにある土地だ。そのルーケイを根城にした盗賊団がワンド子爵領にも侵入してくるので、大変に難儀している。
しかもここに来て、フオロ分国内では不穏な事件が相次いだ。400人もの山賊が処刑寸前に逃亡して行方知れずとなったり、天界人を人質に取った盗賊団が1千ゴールドもの身代金を略取したり。不穏な事件は民心の不安をかき立て、流言飛語を蔓延らせる。逃げ出した山賊や、まんまとせしめられた大金がどこぞの盗賊団に流れ、やれ次はどこぞの町が狙われるだの、どこぞの村が襲われるだの。ワンド領は交易の要所だけに、東西南北の至る所からそんな話が流れ込むから、領民たちはぴりぴりし通しだ。
本来ならオーガとの交易には、十分な数の兵を率いて向かうのだが、今の状況下でそれもままならず。下手に領内の守りを手薄にして、そこを盗賊団にでも襲われでもしたら領主の立場がなくなる。
「殿、ここは冒険者ギルドに依頼を出してはいかがですかな?」
ふと思い立ち、ハーゲルは口に出してみた。
「彼らの働きぶりは色々と耳にしております。まあ、一部には困った手合いもいるようですが。報酬さえ払えばそこそこに仕事をこなす彼らは重宝な存在であります。試しに彼らを雇って仕事を任せてみては?」
「うむ‥‥いや、待て」
ワンド子爵は暫し考え込む。頭の中に描いたワンド領の地図、南には大河が流れ、西には広大な森林が広がる。
大河に沿って西へ西へと発展してきたのがワンド領。交易による富が集まるのは領主館の置かれた東部の町だが、この数年間というもの、東部はルーケイの盗賊に悩まされ通しだ。
なれば西にも新たなる拠点を設け、富の分散を図るが賢明かとも考えていた今日この頃。手始めに開拓村の1つや2つ、作ってみるのも悪くはないとも思う。順調に富が集まれば、村から町へと発展もしよう。最近は何かと出費が多いとはいえ、西部開拓の経費を賄うだけの財力はある。盗賊に悩まされ続けた領内東部の領民の中には、西部への移住を望む者も少なくはなかろう。
そういった事情を踏まえれば、毛皮を携えてくるオーガ達への饗応は、西部開拓への一歩を踏み出すための格好の機会だ。
ここに、ワンド子爵の決意は定まった。
「宜しい。冒険者ギルドに依頼を出し、冒険者を雇うとしよう。今回のオーガへの饗応のみならず、後々のことも考えてな」
所変わって冒険者ギルド。
「‥‥とまあ、説明が長くなっちまったが」
依頼人の事情について長々と話し終えたギルドの事務員は、聞き入る冒険者達の気分転換を促すように、にっこりと営業スマイルを見せて付け足す。
「今回の依頼自体は簡単な内容だ」
今回のワンド子爵からの依頼は、現地の下見である。
「あと半月もすれば、貢ぎ物の毛皮を持ったオーガ達が大勢でやって来る。そのオーガ達を酒や食い物でもてなすのが、ワンド子爵家の恒例行事だったわけだ。だが今年は、単にオーガをもてなすだけではない。金目の毛皮が沢山集まるのだから、近隣からも大勢の人々を集めて、盛大なお祭りを繰り広げたいとワンド子爵はお考えだ。
歌に踊りに興行試合、魔獣を使った見せ物など、祭の催し物については色々とアイデアが出てくるだろう。それが実際にどこまで出来るか、現地の様子を見て確かめて欲しい。
勿論、オーガは怒らせたら怖い蛮族だし、魔獣の森には危険な魔獣も多い。祭の最中、オーガや魔獣に襲われて死人や怪我人が出たら大変だ。そのための安全策についても、しっかりと見通しを立ててくれ」
王都からワンド子爵領までは結構な距離があるが、今回の依頼ではフオロ王家のフロートシップを使って、王都と現地とを行き来する。移動には片道半日もあれば十分だ。
王家によるこの特別な計らいも、ワンド子爵から王家に納められる多額の上納金があればこそ。オーガの饗応が支障無く執り行われ、高価な毛皮が沢山集まれば、子爵からの上納金も増える。王家としても、このイベントの後押しをせずにいる理由などないのだ。
なお、ルーケイの情勢が逼迫していることにより、今回の依頼期間は短いものとなる。
●リプレイ本文
●人の兄弟
「僕達の世界では、オーガは神に見放され忌み嫌われる存在でした。ですが、此方では共に生きることが出来るのだとしたら、それはとても素敵な事です。彼らはかって別れた兄弟なのですから。彼らは神に許されたのでしょうか‥‥」
ジ・アースから来た神聖騎士のクウェル・グッドウェザー(ea0447)が思うところを話して聞かせると、相手は神妙な顔で言葉を返してきた。
「貴殿の世界の護り主、貴殿が『神』とお呼びになる大精霊セーラ様については良く存じませぬ。なれど、我等アトランティスの民もまた、この世界の護り主である偉大なる竜達を崇め奉り、その定めし世界の法を尊ぶもの。しかしてこの世界にあっては、オーガもまた偉大なる竜達によって、その生存を許されしもの。力ばかりが自慢の暴れん坊で、人の兄弟と呼ぶにはいささか出来が悪くはありますが‥‥」
話の相手はワンド子爵領に向かうフロートシップの指揮官。アーゴン・アドラという名の騎士だ。羽振りの良い貴族家の出で、一族には王領代官を務める者もいるという。
「用意した手土産、喜んでもらえるといいのですが」
クウェルの携える篭の中味は作り置きしておいた甘いお菓子。オーガ達へのプレゼントだ。水飴や蜂蜜などの甘味料は高くついたが、経費で落とせるだろう。
そうこうするうちに出発の時間が迫ってきた。
「みんな〜! おやつは30Cまでだゾ!」
などと言いながら、ウキウキと船に乗り込むヤツがいる。サー・ブルクエルツ(ea7106)。自称、明るくスケベで健康な27歳の男の子。
「オーガは私と似ているから、きっと気が合うと思うんだよね!」
なにせオーガも自分も、知力低めの体力バカだと思っているし。
「言葉が通じなくともダイナミックなボディランゲージで意思を伝えるゾ。互いの腰巻を交換するほど仲良くなりたいものだ」
爽やかな笑顔。白い歯がキラリと輝く。
●オーガと付き合うには
王都を発ったフロートシップは、半日のうちにワンド子爵領の町へ到着。早いものだ。
「おお、皆の者よ。よく来たよく来た」
出迎えの者の中に、やたら元気な好々爺がいる。額が大きくはげ上がった特徴的な顔立ちである。
「貴殿がハーゲル・ロン‥‥卿?」
言葉をかけたレオニール・グリューネバーグ(ea7211)に相手は大笑い。
「卿はよさんか。由緒正しきお殿様ならいざ知らず、猟師のせがれにはこそばゆいぞ」
話すところによればハーゲルは、一介の猟師からワンド子爵の家臣に取り立てられ、森の仕事を取り仕切っているとか。
「先ずはオーガ族の文化風習で、注意するべきところを伺いたい。例えば見世物を行う場合でも、剣や槍などの武器を持ったりすることが、オーガ族に対しての敵対行為と見なされる恐れはないのか?」
訊ねたレオニールに、ハーゲルはぎろりと目を剥いて答えた。
「オーガと仲良く付き合うなら、決して武器を向けぬがええぞ。特に鉄の武器や刃のついた武器は要注意じゃ。奴らは血の気の多い連中じゃからな。まあ、儂(わし)の知るのは魔獣の森に住むオーガに限っての話じゃが‥‥」
オーガとの付き合いの長いハーゲルは、色々と語って聞かせた。
例えば、オーガ同士で揉め事があった場合。これには力比べで決着をつけ、勝った方の言い分が通る。但し、余りにも理不尽な場合には族長が乗り出し裁くこともある。族長の裁定は絶対だ。
オーガには詫び入れの作法というものもある。非を認めた側が平身低頭して額を地面にこすりつけ、詫びを受け入れる側はふんぞり返ってその頭を軽く踏みつけるのだ。
オーガは獲物の分配にもうるさい。狩りで獲物を仕留めたら、その肉の一番いい所を族長に持っていくのが決まりだ。美味しい所を独り占めしようものなら、後で酷い目に遭う。
冒険者達からは次々と質問が飛ぶ。
「僕とこの世界の人達は不思議と話が通じるけれど、それはオーガも同じなのか?」
訊ねたのはカイル・クラフト(eb4374)。
「勿論じゃ」
ハーゲルは頷いた。
「文字は持って居らぬが、犬や猫と話すよりもずっと話は通じおるぞ」
続いてティアイエル・エルトファーム(ea0324)が質問。
「えっと‥‥オーガさん達は森の中に住んでいるんだよね? ということは集落とか近くにあるのかな?」
「オーガの集落は魔獣の森の奥深くにあるという。流石に儂も、まだ足を踏み入れたことはないが」
「友好の挨拶にオカリナを吹いても大丈夫かな? 笛の音を聞かせても大丈夫かな?」
「まあ、大丈夫じゃろう。よっぽど下手くそなら怒り出すかも知れんが」
「あと、魔獣の森にはどんな魔獣が住んでいるの?」
「いろいろおるぞ。フォレストドラゴンにグリフォン、大イノシシに大シカに大グマに狼、月夜の晩にはムーンドラゴンもよく飛んでおるぞ」
「ところで、ご領地に西の方に開拓村を作るという話もありますが。村作りにオーガを雇うのはどうでしょう?」
クウェルの意見に、ハーゲルは眉を顰めて答えた。
「いや、それだけはやめた方がええぞ。オーガの作った村はオーガのもの、などと言いだしかねんからな」
●魔獣の森
町で小休止した後、フロートシップはさらに西へと向かう。やがて船は魔獣の森の手前に達し、甲板からは森の外れにある広場が一望できた。オーガとの交易が行われる場所はそこだ。
「ふふふ、毛皮に真珠っ♪ 素敵ねえ‥‥手に入れられたら最高だけど見るだけでも十分楽しいわよね!」
想像を巡らし、華岡紅子(eb4412)はうっとり。それでも頭の中の地図には、しっかりと現在地を描き留める。フロートシップならあっという間だが、馬に乗って町からここまで来るとしたら3〜4日はかかろう。
船は広場に着陸。調査の拠点となるその場所にはサーの立てた旗が翻る。
「基地は男の子の浪漫だからね!」
またも、白い歯キラリ☆
広場にキャンプを張ると、冒険者達は早速に魔獣の森へ足を踏み入れた。
「ははは! いやあ、鬼さんを持て成すだなんて考えるとワクワクするなあ!」
などと仰々しく喋るカイルを、横からセシリア・カータ(ea1643)が小突いて注意を促した。
「気をつけて下さい。危険な魔獣が近くにいるかもしれません」
紅子がハーゲルに訊ねる。
「近くに魔獣の巣や縄張りや通り道は無いかしら?」
「地面に残る足跡、落ちている羽毛、尿や糞の臭い、そういった物に注意することじゃ」
そんなハーゲルの答が返ってきた。
「もっとも、魔獣が住むのはさらに森の奥深くじゃが‥‥」
その時、ポロロロロンとリュートの音色が響いた。
「何じゃ?」
リュートを鳴らした当人、リオン・ラーディナス(ea1458)にハーゲルは視線を向ける。
「あ、その‥‥リュートの音で人の存在に気付けば、逃げる魔獣もいるかなと思って。でも、逆に近づいてくるかもしれないけれど‥‥」
ポロロロロン、ポロロロロン。なおもリュートを鳴らし続けると、遠くで動く物の気配。
「どうやら近づいてきたようですよ」
クウェルが手にする双眼鏡をそちらに向けると、視界に生き物の姿が映った。大熊である。リュートの音に好奇心を刺激されたか、のっそりと近づいてくる。
「ヤバいぞ、どうする? 死んだふりでもするか? それとも木に登るか?」
こんな時にも緊張感に乏しいカイル。ハーゲルがクゥエルに求める。
「オーガへの土産を少しばかり分けてくれんか?」
クウェルは応じ、甘い菓子を地面に置き、皆はその場からゆっくりと退く。近づいてきた大熊は菓子の匂いに惹かれ、鼻を近づけくんくん匂いを嗅いでいる。大熊が気を取られている隙に、一同は森の外の安全な場所にたどり着いた。
「死んだふりも木登りもせずに済みましたね」
セシリアが口にするとハーゲルが笑った。
「ははは。この程度のことにびくついていては、魔獣の森ではやっていけんぞ」
●オーガの使い
その夜。一行は広場のキャンプで夜営。夜気はひんやりしている。
魔獣避けに火を焚き続けながら、冒険者達は交代で夜番を続ける。魔獣の森に目をやると、炎の明かりを反射してちろちろと光るものが見える。魔獣の目だ。しかし炎を警戒してか、魔獣がキャンプに近づくことは無かった。
やがて夜が明ける。朝靄が立ちこめる中、キャンプに近づいて来る大きな影があった。
オーガである。族長の使いとしてやって来たのだ。
「来おったな。人間どもめ」
筋骨隆々のがっしりした体。手にした棍棒でどんどんと地面を小突き、冒険者達をじろりと睨め付け、ぞんざいな口調で言う。
「先ずはお近づきの印に」
クウェルが土産の菓子を差し出すと、オーガは大きな手の平で無造作につかみ取り、一度に幾つも口に放り込んでむしゃむしゃやり始めた。
「うむ、旨い。旨いぞ」
豪快な食いっぷりである。
「して、オーガの皆の衆はいつここにやって来るのだな?」
オーガの巨体に物怖じもせず、ハーゲルが問いかける。
「おう。次の満月の夜までにはここに来るぞ」
「毛皮の集まり具合はどうじゃな?」
「今年は獲物が沢山獲れた。いつもの年の倍はあるぞ。だから土産も、いつもの倍寄越せ」
「心得た。楽しみにしておれ」
ハーゲルとの会話を終えると、オーガの使いは冒険者一人一人の顔を見つめて言う。
「今年はまた、ちっこくて細いのがずいぶんと集まったな」
ハーゲルもそれに答えて。
「皆、新顔じゃな。今度の宴の為に、わざわざ遠くより呼び寄せたのじゃ。色々な芸を見せてくれるぞ。楽しみにしておれよ」
●祭の準備
魔獣の森の外れ。木を切り倒して運び去った後に出来たのが交易の広場。
「これだけ広けりゃ、野球が出来るな」
サーが口にすると、オーガの使いがオウム返しに訊いてきた。
「のたま、だとぉ?」
「私の故郷であるジ・アースとはまた別の天界、地球という世界のスポーツだ。必要なのはバットにボールにユニフォーム、それにヘルメット」
バットにはオーガの金棒、ボールは地球人の持ち込んだサッカーボール、ユニフォームはとりあえずオーガの腰巻きでいい。などと考え、各種のアイテムを手配中。
「相変わらず、また変なコトを思いついたみてぇだが‥‥」
と、キュイス・デズィール(eb0420)のツッコミが入った。
「オーガ並みの脳ミソのお前がちゃんと解ってないルールを、ヤツらが理解出来んのか? ま、解り易いルールが出たなら良し、出なきゃジャパンの『相撲』でもやりゃいいんじゃねぇの?」
「だから‥‥細々としたツッコミは無しだ。ルールは簡略化。友情を深める為ことが目的なんだ、冒険者とオーガの混同チームで編成するのはどうだい?」
「混成チームか。粗っぽい試合になりそうだな? そうそう、腕がもげてもなんとかなるから。皆、安心しとけよ」
奇特な見かけはさておき、いちおうは正真正銘のクレリックであるキュイス。クローニングの魔法だって使える。
「スポーツするなら、それの勝敗を賭け事として扱うのはどうかな?」
二人の話を聞いて、カイルが意見する。
「ほら、その方が観客もより深く試合を楽しめるし、盛り上がると思うしね。ついでに胴元には収入もあり、正に一石二鳥という訳だ」
「うむ。考えとしては悪くはなかろう。だがその前に、こいつらを何とかしないとな」
答えたハーゲルは、足下の切り株を足でコンコンと小突いた。広場は放置された切り株だらけ。もともと森だったのだから仕方ないが、はっきり言って試合の邪魔だ。整地は結構な骨折り仕事になりそうである。
レオニールは富島香織(eb4410)、紅子、クウェルの手も借り、船から持ってきたロープを使って広場の区分けを試みた。
「大通りで十字形に分けて‥‥交易・出店・興行試合・見世物などを別々の地区に纏めて‥‥」
「見世物小屋の区画は、だいたいこのくらいの広さかな?」
飼っていたペットの大きさを思い出し、クウェルはその広さを見積もって、香織と共に地面に印をつける。
「大通りに面する場所では出店などを禁じよう。万が一の場合の避難路を塞がないために」
「これだけ敷地が広ければ、テントの配置もかなり自由に出来ますね」
紅子の頭の中では、かなり具体的な構想が出来上がっていた。
「危険な所には会場を置かず、念の為柵を設けるスペースも用意した方が良いわね。オーガと人間の待機場所を別々にする事で、ある程度トラブルも防げると思うわ。後は貴族や商人、一般人毎に専用の待合室を作るのはどう? 大型のテントだけど中はそれなりに調度品を整えてサロンみたいにするの。冒険者企画で軽食を出しても良いわね。貢物のお披露目や交易交渉用のテントもあると良いわね。地球の美術品の展示会みたいなイメージね」
作業を続けていると、早速、キュイスの希望が入る。
「俺は香油使ったマッサージの店を出したいから、客の体を洗い清めるための水場を確保しておきたい」
水場といえば、すぐ目の前を大河が流れているが、水質はあまりよろしくない。
「井戸を掘るか、魔獣の森で泉を探すか、東の町から運んで来るか‥‥まあ、当日までに対策を立てよう。んで、肝心のマッサージだが。オーガ以外にも人が集まってくるみてぇだし、結構ウケると思うんだがどうよ? ま、俺はオーガだろうが何だろうが、野郎しかマッサージしねぇから。他にも女の施術師がいた方がイイ気はするがな」
●中継地点
西での調査を終えた一行は、東の町に戻る途中で、ちょうどその中間にある地点に立ち寄った。延々と草地が広がる見晴らしの良い場所だ。北から川が流れ、大河に注いでいる。
「ここに東から西へ移動するための中継地点を設けてはどうだろう?」
そう提言するのはリオン。
「最初のうちはテント村程度にしか出来ないと思うけど、それでも、長距離移動の途中に、人が在沖している場所があると、それだけでも安心感や安全性に貢献できると思うなぁ。ここを基点にして、開拓村を広げていってもいいと思うし」
東の町からここまでは馬で1日か2日。ここから西の魔獣の森の入口までは、やはり馬で1日か2日。
「オーガとの交易拠点として開拓村を作るなら、オーガとの交易に必要なものを生産する場所としてはどうでしょう?」
これは香織の意見。
「サトウキビやビートを栽培して砂糖を作り、甘いお菓子を作ったり。ブドウなどの酒の原材料となる農作物を作ってシャトーを建設したり。ゆくゆくはオーガ相手のみならず、人間相手にも輸出できるような産業に育てられたらいいですね」
但し、ビートは発見されていないし、サトウキビは生長しない気候であることが難点だが。
「オーガ相手の交易なら、鉄器も大切だな」
と、レオニール。
「開拓村で交易量を賄えるだけの鍛冶製鉄が行えるのが良いだろう」
大河の畔の場所だから、鉄器の原料となる粗鉄を西から船で取り寄せることもできる。
ともあれ、計画は始まったばかり。実現にこぎ着けるまでには、まだまだ先は長い。