シムの海で海上訓練<初級編>

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:12人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月04日〜06月09日

リプレイ公開日:2006年06月10日

●オープニング

●次代を担う騎士達よ‥‥
 第3回GCRを観戦したデカール・ショア・メンヤード伯爵と海戦騎士団『ラ・バレーヌ』の騎士団長ギル・カラス子爵、そしてショア伯の艦隊指令代行及び2本マストの高速船『ディアーナ』号の船長であるアルフレッド・ヒンギス男爵は、競技会が終わったその足で、冒険者ギルドを訪ねていた。

 係員に手渡された羊皮紙を手に、3人は記した内容に頷いた。
「今回のレースを観て、私は次代を担う騎士達が着実に育ちつつある事を核心したよ」
 ショア伯は、自らの名を最後に書き加えると、蝋燭の炎で赤く染められた蜜蝋を垂らし、固まる前に指輪の刻印を押す。金の指輪には、メンヤード家の三角帆の紋章。
「どいつもこいつもゴーレムに被れやがって‥‥だが、魔法で動くアレを騎士が操作する事は、これからの時代なのかも知れん‥‥俺がオールドタイプだと言う事か‥‥」
 片目でギロリ。もじゃもじゃした黒い前髪を振り払い、ギル子爵は不機嫌そうにショア伯からそれを受け取ると、同様にサインと刻印を刻む。
「若き騎士を鍛える事こそ、老練の者の仕事で御座います」
 ギル子爵から羊皮紙を恭しく受け取り、初老のアルフレッド男爵は静かに微笑んだ。
「この度の事は、若き騎士達にとって良き経験を積む事となりましょう」

●海上訓練参加者募集

この度、海戦騎士団『ラ・バレーヌ』と
ショア伯の艦船との合同訓練を執り行う

これに、ウィルの若き騎士の経験向上を目的とし
有志の参加者を募集するものである


訓練内容

・複数の艦船による艦隊機動訓練(見学)
・火の精霊砲による砲撃訓練
・ゴーレムグライダーを用いた運用訓練


参加資格

・騎士位以上の者
・異界よりの天界人


 ショア領主 デカール・ショア・メンヤード伯爵
『ラ・バレーヌ』団長 ギル・ネイアン・カラス子爵
 ディアーナ号艦長 アルフレッド・ヒンギス男爵


●ショアの港
 海鳥の群が風に揺れるマストに戯れ、キイキイと大合唱を響かせる。
「どいたどいた〜ぃっ!!」
「一個10カッパ! 天界のたこ焼きが一個10カッパだよ! 十個買うと二個おまけ〜っ!」
「はい、お客さん三名様、ご案内〜!!」
 港は商人や旅人、船着き人足達の活気に満ち、その中をゴーレムチャリオットで進む一行は、前を横切る牛車や人ごみに遮られ、なかなか進めないでいた。

「すいません。どうも‥‥」
「前向く!」
 スパンと気持ちの良い音と共に、メーアメーア男爵の閉じた羽付きの扇が、操手を務めるイッチー・ゲール男爵のつんつんオレンジ頭をスマッシュヒット☆
「す、すいませんすいません!」
「ふん!」
 どっかと後部席に座り直すへそ出しルックのメーアメーアは、すらりとした小麦色の足をサッと組み、その扇をバッと広げて見せた。肩にかけた艶やかな文様の蟹が、ふわふわと生きている様に舞う。
「きゃはははは! なぁ〜に、イッチーのあの頭! ぺっこりへこんでるぅ〜っ!!」
 操手に背を向けて座る形のメーアメーアと真向かい、一緒になってドッと笑い飛び跳ねる子供たちに、慌ててレイ・ケン男爵が止めに入る。
「これ、男爵様に失礼ですよ」
「は〜い‥‥」
「ごめんなさい‥‥」
「ごえんなたい!」
「はい、よく言えましたね。すいません、イッチー卿」
 三人の我が子の頭を、慈愛の眼差しで順繰りに撫でて回るレイは、次にイッチーへと謝辞を述べた。
「良いんですよ、レイ様」
 今度は振り向かずに首を完全固定のイッチー。
「みんなに笑われちゃって、可愛そ〜う♪」
 ぴょ〜んと、その頭に飛び乗ったププリン・コーダ子爵は、メーアメーアとお揃いの格好で、まるでジャパンの歌舞伎者の様。腰に下げた飾り物みたいなレイピアをぴゅんと引き抜くと、髪を起こしに掛かる。
「よっこいしょ♪ よっこいしょ♪ ちょっと硬すぎだよ、イッチー☆」
「うわぁ〜、ププリン様。そんな事、自分でやりますから」
「だ〜め♪ ショア城の人達にも笑われちゃうぞ〜♪」
 そんな様に苦笑を浮かべつつ、少し柔らかな表情になったメーアメーアが、声のトーンを落とした。
「すまないね、ここまで見送りに来てくれて‥‥」
「いいって事よ〜♪」
「「「いいって事よ〜♪」」」
 すぐにププリンの真似するレイの子供たち。
 そんな些細な悪影響に、レイは少し眉を寄せながらも、少し真面目な表情でメーアメーアに向き直った。そして、大人びた静かな口調で語りかけた。
「本当に良いんですか?」
「ま、あたしの一存じゃ何も決められないわ。決めるのはうちの大将だから」
 そう言って、メーアメーアは派手目な顔を、少し寂しそうに微笑ませた。

 ゴーレムチャリオットが、城の外門をくぐり、ゆっくりと中門の前へと少し細くなる虎口を右に曲がる。背後で、入城を告げるホルンが高らかに鳴り響いた。
 そして、城内のドッグへ差し掛かった時、メーアメーアは徐に立ち上がった。
「おおっ、何あれ!?」
「わあっ‥‥」
「大砲だぁ〜♪」
 船のメインマストの先から滑車に吊られ、巨大な筒状の物体が中に浮いていた。表面には透かし彫りの様に、細やかな文様が浮かび上がり、奇妙な突起が幾つも見受けられた。
 そして、中と外から大勢の男達の掛け声が。一つかかる度に、その大砲はゆっくりと持ち上げられて行く。
「停めな、イッチー! ねぇ、そこのお兄さん」
「ねぇねぇ!」
 この作業を観ているだけの兵士に呼び掛ける二人の男爵と子爵。
「一体、何が始まるのさ?」
「のさ♪」
 二人は好奇心丸出しの笑顔で、魅力たっぷりに問い掛けた。

●今回の参加者

 ea0163 夜光蝶 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4078 辰木 日向(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4726 セーラ・ティアンズ(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4863 メレディス・イスファハーン(24歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ケンイチ・ヤマモト(ea0760)/ サラ・ミスト(ea2504)/ ソウガ・ザナックス(ea3585)/ サー・ブルクエルツ(ea7106)/ 樹 華沙羅(eb4378

●リプレイ本文

●旅程
 夜明け前、見送りは少なかった。
 一言二言言葉を交わし、最後にセシリア・カータ(ea1643)が乗り込むと、ショア伯の別邸を後に城門へ向かった。3台のフロートチャリオットに分乗した一行は、早朝にウィルの城門が開くと、先日焼け野原となったばかりのスラム街跡を背に、ひたすら街道を東へと走った。
 ショア伯の預るチャリオットは鉄の棒をフレームに、クロスに縫い目の入った麻布を張り、荷馬車の様な幌を張っていた。麻布にはつんと鼻を突く樹脂が塗られ、それが虫除けになり雨水をも弾くとの事。隙間風はあるものの、直に風を受け続けるよりは疲れにならぬらしい。

「へぇ〜やっぱり自動車とは違うなあ〜、面白〜い!」
 次々と後ろに消えて行く風景を眺めながら、メレディス・イスファハーン(eb4863)少年はにこにこと目を輝かせた。下を見ると確かに浮いている。ふわふわした浮遊感も軽やか、車体の後部に渦巻く風が頬を撫で心地良い。
「自動車って言う事は、貴方も地球からの天界人でしょう」
「まぁね」
 素っ気無い返事。メレディスは風景を眺め続けた。
 声をかけた辰木日向(eb4078)は少し困った顔で、立ち上がりかけた席へ戻った。

 先頭を行くチャリオットでも似た様な光景が。
「すっげぇ〜なぁ〜! 本当に浮いてるよ!」
 初めて見るフロートチャリオットに、興奮を隠し切れないレオン・バーナード(ea8029)は、縦横無尽にそこかしこを見て回った。
「ふむ、差し詰め小さな軍用の輸送トラックと言った感じだな。この座席と幌を外せば、そのまま前線での転用も可能と言う訳か‥‥」
 組み付けの一つ一つを確認しつつ、時雨蒼威(eb4097)はそれらが容易に取り外し可能な事を確認した。道理で自分のアイディアの採用が早かった訳だ。
 そんな様をレオンは不思議そうに眺めた。
「やっぱりこういうのにも、馬みたいに普通のや、運転手の疲労が少ない移送用とか、スピード重視の伝令用、武器とか矢避けを付けた戦闘用みたいなのがあるのかな!?」
「ああ。それはある。これは移送用だが、後ろに乗る者の事を考慮に入れている。騎士学校では装甲を張ったものもある。それぞれの用途に応じて、様々な工夫がなされるのは当然の事だな」
「へぇ〜‥‥」
 感心するレオンに、蒼威は愉快そうに眼鏡を直した。どうやら、移動時簡を退屈せずに済みそうだ。

 走り出してから数刻後、のどかな農村風景の中で3台のチャリオットは街道脇に停車した。
 そして後部席で休んでいた鎧騎士と、これまで操手を勤めていた鎧騎士が交代する。
 長距離を走る時、二人一組で定期的に交代するのは、以前ショア伯の依頼でショアへと足を運んだ者なら見た光景。
「あの〜!」
 乗り込んでくる鎧騎士に、早速声をかける龍堂光太(eb4257)。
「僕にもチャリオットの操縦をやらせて貰えませんか? 少しでも慣れておきたいんだ!」
「チャリオットはもうどれくらいかね?」
 問い返す年配の鎧騎士は、疲労に目元を黒ずませ、青い目で静かに問い返した。
「この前のチャリオットレースに第1操手で出ました。ですが記録は平凡なモノだったんだ。次にレースへ参加する時まで、僕は少しでも経験を積んでおきたいんだ!」
「ふむ‥‥車体感覚はどうかね? つまりは、君のチャリオットとの一体感だ。それは何もこのフロートチャリオットだけでは無い話だがね」
「車体感覚‥‥」
 フロートチャリオットはゆっくりと、地上を僅かに浮き、静かに滑り出す。
 光太は相手の言った言葉を口の中で転がす様に呟いた。
「直線をただ速く走らせたいだけならば、己が肉体と精神を鍛え、ひたすらにゴーレム機器に慣れれば良いが、曲線や悪路を進むならば馬車もこのチャリオットも同じなのだよ。車体がいまどういう状態なのか、路面がどういう状態なのか、障害物は無いか、その一瞬一瞬を理解出来ていなければ、適切で素早い機体操作は出来んよ。見るのとは違う、感覚的に感じるのだよ。機体とその周囲を」
「それは判るんだ。でも、僕は全てにおいてまだまだなんだ。達人と呼ばれる域までには。だからお願いだ! 出来る事は全部やっておきたいんだ!」

 前を行く1台を追い、空が次第に茜色に染まり行く様を光太は眺めた。
 すっぽり幌が覆い、風はそれほどきつく無いが、そろそろ速度を落とさねばならないだろう。闇が迫って来る。
 遠く、そこからショア伯の勢力圏である事を示す塔が見えて来た。
 この近隣はセルゲイ・グスターファ子爵が任されている、アッドの街。そしてアッドの塔。
 そこでランタンに火を入れ、待機していた者と操手が全員入れ替わった。

●早朝のショア
 空気に潮の香が混じりだす。
 夜通し走った一行は、夜明けよりも早くショアへ着いた。
 機体が停止すると、毛布の下から仮眠中の者が動き出し、そっと表を見る。
 機体は既に城壁の内にあり、目の前の建造ドックが建造中の数隻の艦影を、星空の下、くっきりと闇色に抉り出す。昼間なら船大工の喧騒に満ちた空間が、今は激しい潮風とそれにはためく幌や旗、家屋のきしめき、そして砕ける波音に満たされていた。

 街は夜明けを待って動き出す。誰もが空が虹色に染まるのを待ち、仕事へと出る。港に停泊中の船舶は、夜番の者と昼番の者が入れ替わり、巨大な生物が目覚めるかの様に動き出す。
 が、それよりも少し早い時間、一つの影がショア城の本丸にあった。
 軽やかに城壁をよじのぼり、巡回する騎士や兵士の目をすり抜け、夜光蝶黒妖(ea0163)は海に面したベランダへと。そこでお目当ての人物を見かけると、そっと声をかけた。
「我が主‥‥」
「黒妖か‥‥そろそろ来るかと思っていたぞ」
 そこに居ると、空が、海が、漆黒の世界が、じょじょに淡い光が溶け出し、ゆっくりと虹色に染め上げてゆく。
「お前の名が、応募者のリストにあったからな」
「成る程‥‥」
 仮面の下から、世界が変わり行く様を眺めた。
「後で少しお話が‥‥あるのですが‥‥宜しいでしょうか‥‥?」
「今では無く?」
 頷く黒妖に、相手も振り向き小さく頷き返した。
「構わないが。訓練の最終日に、ささやかな宴を開く手筈になっている。お前も出てくれるな?」
「は‥‥では‥‥その前後に‥‥」
「ああ‥‥」
 相手の面差しは影にり黒妖には、はっきりと見取れなかったが、その気配は伝わって来る。
 城全体がゆっくりと動き出す気配も感じられた。
 すらりと背後に一転。その身を空に。音も無く大地へ舞い降りると、ぴゅんと腕を振るい、手摺の手鍵を素早く外し回収する。小さく手を振ってベランダから去る人影を一瞥し、黒妖は城下へ向かう傾斜を軽やかに駆けた。

●港へ行こう!
 ショア港は、朝から異様な興奮に満ちていた。
 この日、艦隊が湾内でエレメンタルキャノンやゴーレムグライダーの訓練をする話は、港で知らない者は居ないという程の話題であり、ちょっとしたお祭騒ぎになっている。そんな中、出港前の僅かな時間を利用して港へと繰り出した一団があった。
「たっこやっき、たっこやっき♪」
「たっこやっき、たっこやっき♪」
「たっこあっき、たっこあっき♪」
 まるでミュージカルの1シーンの様。潮風に吹き流されない様、しっかりとイッチー男爵の頭にひっついたピンクのシフール、ププリン子爵を先頭に、子供達が節を合わせて歌って走る。苦笑しながら、その少し後ろをメレディス少年も走った。
「そ〜れ、突撃だぁ〜!!」
「わぁ〜っ!!」
 ププリン子爵の音頭に、遠くに見える屋台そのまま落ちてきたらしいとの、紅白に大きなたこの絵と『たこ焼き』の文字が躍る出店に向け、全力ダッシュ!

「大丈夫かしら?」
 少し離れて、心配そうに眺めていたレイ男爵が、小走りで追いかけようとすると、さもおかしそうにその袖をメーアメーア男爵がくいっと引き寄せる。
「そう心配しなさんな。まったく過保護だねぇ〜」
「でも‥‥」
「ほら、伯爵さん所の従者が、何人も付いているよ」
 よくよく見れば、何時の間にか小奇麗な子供が6名程、人ごみの中、まるで独楽鼠の様に走り抜ける。
「あの‥‥皆様は何故にここに?」
 随伴する騎士達の中より、リューズ・ザジ(eb4197)が、本当はププリン子爵へ尋ねようと思っていた事を口にした。
 他のシャリーア・フォルテライズ(eb4248)、フラガ・ラック(eb4532)、セーラ・ティアンズ(eb4726)らもドキリとさせた。
「う〜ん‥‥」
 メーアメーアは眼を寄せて考え込み、レイはそれを穏やかな眼差しで見守った。そして妙な時間が流れた。
「そうそう! 私、サー様から伝言を預って来たんです!」
 少し慌てた口調で、ゴスロリ服に身を包んだシャリーアは彼のそのままの言動で【斜め四十五度の角度で拳を握り親指の先を口に咥え上目遣いの潤んだ瞳で甘えるようにゴメンネ☆】と伝えた。

「たこ焼き下さい!」
「たこ焼き下さい!」
「たこたこくだあぃ!」
 一斉に差し出されるちっちゃい手。それには金貨が1枚ずつ握られていた。
「おおっ!? じょっちゃん! ぼっちゃん! はぶりがいいねぇ〜! ちょっと待ってなぁ〜! ソースに青海苔、鰹節にマヨネーズで良いね!? ほいほいほいっと!」
 丸いへこみが綺麗に並ぶ鉄板の上には、こんがり焼けた丸い物体がジュージュー唸って並んでいた。それを、背中に赤ん坊を二人背負った、ちょっと目元きつめの女がその目元を緩ませ、ひょいひょいひょいと一本の金属の串で器用に木を薄く削ぎ舟形にした物に載せてゆく。
「は〜い! おまけも乗っけて一舟、ひゃくまんえ〜ん!」
 陽気な掛け声と共に差し出された、茶色いソースの上に青い何やら粉の様なものと、茶色く薄い皮の様な物が振り掛けられ、その上から糸状に白いソースが縦横無尽に掛けられている。異様に香ばしく食欲をそそるウマソ〜!な薫りが鼻腔より肺をも侵し、小さな子供達の後ろに立っていたメレディスもくらくらっとした。
「ひゃくまんえ〜ん、て何ぃ〜?」
「あ〜っはっはっは、どうぞって事さ☆」
「へぇ〜‥‥おっもしろ〜い☆」
 不思議そうにイッチーの頭の上で、ちっちゃな指を咥えるププリンに、店主の鬼島紀子は笑ってごまかした。が、すぐさま子供達は真似をする。
「ひゃくまんえ〜ん☆」
「ひゃくまんえ〜ん☆」
「ひゃくみゃ〜え〜ん☆」
「へぇ〜、天界の言葉ですか〜」
「日本語かな? 響きが面白いですね」
 イッチーとメレディスは大真面目で頷き、フッと不敵な笑みを浮かべたププリンは、腰のレイピアをすらっと抜き放った。
「そ〜れ、突撃だぁ〜!!」
「わぁ〜っ!!」

「ぶわぁ〜っはっはっはっはっはっはぁ〜!!」
「そ、そんなに可笑しいですか!?」
 人目を気にする事無く、腹を抱えて大笑いするメーアメーアに、耳から湯気が出そうに真っ赤になって喰ってかかるシャリーア。港中の人間が、一部のひゃくまんえん組を除いて一斉に眼を向けた。
 メーアメーアは着ている衣裳からして、白地に蟹や海老の赤い刺繍いっぱいの派手なもの。それに加えて容姿も派手に目立つ方だ。否が応でも人目を引く。それに加えて、そこに集う者達も負けず劣らずの美丈夫ばかり。
「そんなに笑うなんて、サーさんがかわいそうです!」
 セーラもきゅっと唇をすぼめて、涙まで流して笑うメーアメーアを見つめ、目で非難した。
「ああ、ごめんなさい。あいつが、ゴメンネ☆なんて、あ〜っはっはっはっはっは! 想像しただけで、プ〜ッ!!」
 扇で口元を隠し、肩を震わせるメーアメーア。
 コホンと咳払いをし、フラガはそんなメーアメーアへと、大真面目に自分の心情を語りかけた。
「前回のソードフィッシュは残念でした。ですが、あの敢闘精神には敬服いたしました。私はいままでずっとブルーゲイルに所属してきましたが‥‥」
 そこでメーアメーアが、フラガの口を扇で塞いだ。
「ちょっと待って。その先はストップ」
 今度は打って変わって真摯な声色。
「言っちゃっていいかしら?」
「私は構いません。いずれ判る事ですし」
 メーアメーアの問い掛けに、レイは静かに答えた。
「ひ、一体、何が?」
 扇の羽に鼻をくすぐられ、くしゃみをしそうになるフラガ。それを必死にこらえながら尋ねた。
「実はね‥‥レースの事なんだけど、今の8チームから6チームに減らそうって話にね、なってるの」
「「「えええっ!!?」」」
「ほ、本当なんですか?」
 リューズの問いに、レイは少し残念そうな表情で頷いた。
「じゃあ‥‥」
「そう。理由は色々あるけれど、流石にうちの‥‥まぁそれは言わないでおこうか。それで前回不成立だった【ライトニングナイツ】と最下位だった【ソードフィッシュ】がね。上の方々にとって、それはとても不名誉な事だから。こればっかりはうちの大将がお決めになる事だからね」
 そう言って微笑むメーアメーアの表情は、心なしか寂しげでもあり。
「だから、ね‥‥よっし、じゃあ〜たこ焼きとやらを拝みに行きますかぁ〜っ!?」
 フラガに軽くウィンクするや、メーアメーアは子供達の所へ駆け出した。

「ではこの手紙を」
 同じ頃、蒼威は手紙を騎士学校と自分の領地へと送っていた。

●出港!
 ちょっと甘辛い香りが漂う中、城の内側の港で一つのセレモニーが行われていた。
 居並ぶ船員達と海の騎士達。そして、近隣の貴族やププリン達、艦を預る艦長ら主だった者達が居並ぶ中、盛大にホルンが吹き鳴らされ、兵士や騎士達が一斉に己の武具を抜き放って掲げた。
「ウィルに!!」
「ウィルに!!」
「ウィルに!!」
 海の騎士は、余り重い甲冑を身に着ける事は無い。海に落ちた時に沈んでしまうからだ。陸戦ならば槍や剣で己の甲冑を叩き、それぞれの意気地を示すものだが、ここでは武具を振るい掲げる事で、互いの意が一つである事を示した。が、その様は壮観である。

 ショア伯が両手を挙げると一瞬ざわめきが静まり、伯は朗々たる声で一同へ呼び掛けた。
「勇猛なるウィルの騎士の諸君! 勇猛なるウィルの兵士達よ! そして勇猛なる海の男達よ!」
 どっと沸き起こる歓声。それは船上の船員からも上がった。
「我等は何だ!? 我等はこの海に生きる者だ! 同じ船に乗り、共に航海の苦難を乗り切る者だ! 海の男達よ! この度の訓練航は、新たな装備の試用と共同訓練が目的であるが、それはこれまで交わる事の無かった者同士が交流を深め、互いに高め合う機会でもある! そして、我等の中へ新たな風を呼び込む為に、はるばる王都ウィルより12名の有志に来て戴いた!」
 そこで一人一人の肩書きと名が読み上げられて行く。
 黒妖、セシリアと胸を張ってこれに応え、レオンは少し気恥ずかしそうに頭を下げた。
 日向は余りに大勢の前で紹介されたのでびっくり、大きく目を見開いて
「宜しくお願いします」
 と少し上ずった声で返す。
 トルク家の男爵として紹介された蒼威とリューズは、その名に劣らぬ様に堂々と振舞い、バルザー・グレイ(eb4244)は如何にも老練な鎧騎士とばかりに、落ち着き払った物腰で一礼した。
 そして、何かと話題の地ルーケイの与力男爵であるシャリアスに至ると、ざわわと空気が揺れた。
「ルーケイの与力が一人、シャリーア・フォルテライズです! この度はよしなに!」
 一個騎士団を超える大兵力を動員したルーケイ伯の話は、こちらにも伝わっていたのだ。その中で唯一バガン所有を許された者。それは正騎士にも準じる。
 次に紹介された光太は、これからの事への期待と興奮から、思いっきり一礼し、内心ではさて、どうなることやら‥‥とわくわくだ。
 そしてフラガとなると、ここぞとばかりに胸を張り、赤備準団員として恥じぬ堂々とした口上を述べる。
「今回の合同訓練に参加のお許しをいただき、誠に有難うございます! 陸と空のゴーレムに関しては多少の心得はありますが、海は未だまるで未知の領域! 今回、海での戦いを学ばせていただき、いずれは陸海空の三界において恥ることのない鎧騎士となるべく精進いたしたいと思います!」
 これには居並ぶ貴族達も大いに頷き、流石は名高き赤備のと褒めそやし、居並ぶ騎士からも次々と歓迎の言葉が飛んだ。
(「すっご〜い‥‥」)
 ちょっと驚きの目でフラガを見てしまうセーラ。
(「よ〜し!」)
 自分の名が呼ばれるや、セーラはその小さな背をピンと伸ばした。
「此方は何処の分国にも関わらない一介の冒険者! 長い間船に携わってきた歴戦の艦長直々にご教授してもらえるなど先ず御座いません! いつかは自分も船を持ち、広い世界を見てみたいと思います! どうか宜しくお願いします!」
「うむ!」
 ポンと膝を叩く海戦騎士団『ラ・バレーヌ』の騎士団長ギル子爵。
「女の身でありながら、良い心がけだ!」
「あ、ありがとうございます!」
(「うっわ〜、何か通じたかも!」)
 ちょっと小躍りした気分。そんな気持ちが顔に出る様を、メレディスはふぅ〜んと横目で眺めた。
(「やっぱり、キチンと挨拶しておかないとね」)
 少し離れているものの、真っ直ぐにアルフレッド男爵を見据え、メレディスは丁寧な口調で言葉を放った。
「3日間、どうぞ宜しくお願いします!」
 その想いは通じたのか、アルフレッド男爵はにこやかに頷いてみせた。

 そこで、ギル子爵はちらとショア伯を見やり、伯もこれにニヤリと笑み頷いた。
 やおらギル子爵は腰のレイピアを抜き放ち、空を突いて吼えた。
「ショアに!!」
「「「ショアに!!!」」」
 一斉に、騎士団の者達がこれに続いて吼える。その声は、城壁を震わせワンワンと響く。
 そしてショア伯もゆっくりと腰の儀礼用の剣を引き抜き、空を突いた。
「ラ・バレーヌに!!」
「「「ラ・バレーヌに!!!」」」
 一斉に、城の兵士も含め、この港を包み込む様に吼えた。
「ショアに!!!」
「ラ・バレーヌに!!!」
「ショアに!!!」
「ラ・バレーヌに!!!」
 互いを讃え呼び合う響き。それは幾度か繰り返され、ギル子爵とショア伯が互いの肩を叩き、握手を交わす事で大きな拍手が湧き上がり、幕を下ろした。

●ショア湾内での訓練
 風が凪ぐ頃には、ギル子爵の率いる艦隊は、その旗艦である2本マストの『スターフィッシュ』号を先頭に、同規模艦の『ガーナード』号が続き、その右後方を一回り小さな1本マストの『シーアチン』号『カトルフィッシュ』号がゆっくりとオールを漕いで進む。これにさらに追従する様に『ディアーナ』号が波を切って進んでいた。
 その上空を、二機のゴーレムグライダーが大きく旋回する。ホバリングも可能なグライダーは無論低速運動も出来る。しかしそれでは訓練にならない。

「流石に新品だな。まっさらだ」
 ひょうひょうと風音を発て、フラガは眼下に広がるショア湾の一面真っ青な水面を眺めた。白い筋がゆっくりと陸へ向かって打ち寄せて行くのが判る。
 そして、艦隊は湾の真ん中辺りで一旦停止した。
 すると、その横にリューズ機が寄って来た。
「そろそろ戻ろう!」
 風音にかき消されない様、声を上げ身振りで合図するリューズに、フラガも了承のサインを送り、2機は一旦、ディアーナ号の前部甲板へと降りた。

 海上では射撃目標となるボートを、少し離れた位置へと水夫達が運んでいた。
 フラガとリューズが降り立つと手隙の水夫が物珍しそうに集まり、ショア伯に艦長のアルフレッドや他の参加者も集まって来た。
「どうだね、乗り心地の方は?」
「問題ありません」
「良好です」
 二人がそう答えると、ショア伯は満足げに頷いた。
「ではアルフレッド」
「判りました」
 艦長のアルフレッド男爵は一歩前に出、一同を見渡した。
「これよりゴーレムグライダーの訓練と、エレメンタルキャノンによる砲撃訓練を行う。それにあたり、幾つか話しておきたい事がある」
 この間に、他の艦はボートを降ろしていた。
「エレメンタルキャノンに関しては、特に話す事は無い。起動すると収集管が勝手に精霊力を収集し、あとは目標に向かってトリガーを引くだけの魔法の品だ。難しいのは当てる事だがな」
 船員の中からどっと笑いが起きる。
「だが、ゴーレムグライダーの運用に関しては、幾つかランの国で見、教わった事を話しておきたい。当艦は以前、ランのラース港で貴重な数ヶ月を過ごす事となった。その際、ランの黒海豚海戦騎士団では、既にゴーレムグライダーの配備が進んでいた。そこで、我々も皮肉な事だがランの手法を幾つか取り込んで行きたいと考えている」
「ランの手法?」
 フラガやリューズ、バルザーに蒼威と言った、ドイトレ卿の下で訓練を積んで来た者達が怪訝そうな顔をする。
「1つは連絡手段だ。我々船乗りは様々な信号で、離れた相手にこちら側の意思を伝えるが、これにはフラッグを使った信号や、光を使った信号、旗を使った信号、そして簡単な手話がある。ランのグライダー乗りの間では、この我々が使う手話を発展させたモノが使われている。片手で行う手話だ。これを我々も取り入れて行こうと考えている」
 そう言いながら、途中からアルフレッド男爵は、その片手での手話を平行して使い始めた。
「これは、嵐や雷など声の届かぬ中で作業をしなければならない我々船乗り独自のものだが、飛行中も似た様な環境にある。風信機等も使い難い場合、これが役に立つという訳だ。簡単だから、興味のある者はこの3日の内に覚えて貰いたい。国や地域どころか船によって全然違う場合もあるがね」
 またも船員達からドッと笑いが起きた。
「もう一つは戦闘方法だ。海上の戦闘は、主に船の装具が破壊され航行不能になった所で終わる。沈めるまではなかなか出来ない。ラムで船体に穴を空けるか、後は船に火を放つかだ。ごらんの通り、この船でもそれ故に甲板には砂が撒いてある。これは類焼を防ぐ為の工夫の一つだが、それ故に帆やマストを焼かる事は致命的であり、ランの海戦騎士団はそれをやるのだ」
「それは、どうやって?」
 蒼威は冷静さを装い訊ねた。
「ランの特産品が花や陶器なのは知っている者も多いと思うが、ランの海戦騎士団は素焼きの壷に鯨油を詰めた火炎弾を使うのだよ」
「火炎弾!?」
「そう、彼等はそれを『貴婦人の肘』と呼んでいる。壷を油を染み込ませたロープで巻き、それを燃やして熱するのだよ。中身が熱くドロドロに溶けた頃合を見計って、それをカタパルトの弾として打つ。以前はそういう使い方をしていたのだが、ゴーレムグライダー専用の物を作り『貴婦人の踵』と呼んでいる。グライダーに専用の金具を取り付け、チェーンで引っ張り、ほぼ目標の真上から相手の船のマストをめがけ、急降下して切り離す。狙い済まして相手の航行能力を奪うと同時に、火災を鎮火させる為に人手を奪い戦闘能力を低下させる。海賊相手には効果的な戦法だ」
「そんな事を‥‥」
「無論、我々は上級者の真似を慌ててする必要も無いが、皮肉な事にゴーレム後進国であるこの地域も、これでようやく仲間入りと言った感だな」
 その頃になり、ようやくギル子爵が乗艦して来た。
「では、始めるとしよう」

 東方小貴族会議での約定を果たすべく、各艦の希望者も交えた砲撃訓練。
 長さ4、5m程の大きな筒状の物が2門。左側舷に向け、その先端を数人がかりで海上へせり出した。
「では‥‥私が‥‥」
 教わるがままに黒妖が操作すると、収集管から次第に音が高まった。
 もう一方では、レオンが興奮気味に叫ぶ。
「おおっ、この中の光がどんどん大きくなって行く!」
 エレメンタルキャノンの操作盤が、徐々に赤く輝き出しその光を増した。
「まだだ! まだ充分じゃない!」
 アルフレッドの言葉に、ぐびりと唾を飲むレオン。
 その周囲には人だかりが出来、上空をグライダーが飛んだ。
「今だ!」
 ガチリとレバーを引き、ドンと発射ボタンを押すと、ヒュバッと短い発射音と衝撃に砲身が揺れた。
「うおっ!?」
「おお‥‥」
 撃ち出された2つの赤い火球は、無軌道な弾道を描き、片方は海中に没して水煙を上げて弾け、片方は上空へと舞い上がりボ〜ンと弾けた。目標のボートとはえらく離れている。
「凄い‥‥」
「うわぁ〜、全然真っ直ぐ飛ばないや!」

 グライダーで上からこの様子を眺めていたバルザーとシャリーアは、互いに顔を見合わせた。
「ようやく! 始まった! みたいだな!」
「ええ! 我々も! 湾を! 一回り! しましょう!」
 一言一言を確認する様な、何ともぎこちない会話に苦笑しつつ、半分思いつきの片手手話を交えた。
 次第に海から陸へと風が増している様だ。
 沿岸部では、時間毎に吹く風の向きも変わって来る。
 2機は停止した状態からゆっくりと加速し、徐々に艦から離れてゆく。
 それをディアーナ号の甲板からフラガが見上げていると、リューズが近付いて来た。
「シャリーアは慣れたものだが、バルザーはまだ少し機体操作が重いな」
「ええ、そうですね。まだ荒い。あの分だとこの潮風はきついかも知れません」
 海から吹く風は、内陸のそれとは違いねっとりと重い。その事を肌で感じながら、フラガは乱れる髪を押さえた。すると背後からショア伯が。
「流石は正規の訓練を積んだ方々は違う」
「いえ、その様な‥‥」
「恐縮です」
 畏まる二人に、首を左右に振るショア伯。
「実際に乗ってみると、機体を浮かせるだけで精一杯だった」
 ポンと自分の胸に手を置き、2機が飛び去る様を見送るショア伯。
「それは初めて載られたからです。訓練次第では、伯爵様もあの様に‥‥」
「そうであれば良いのだがな‥‥」
 フラガは軽く頷くショア伯を見つめた。すると、その傍らへと蒼威が歩み寄るのが判った。
「ましてや、精霊への知識と偉大な父を持つディアーナ嬢なら冒険者やレースでも活躍する事でしょう。我が主や他の分国王から栄誉を授かるかも知れませんな」
 クッと眼鏡を中指で押さえ、蒼威はさり気なく話し掛けた。
「ああ、蒼威卿は確かレッドインパルス号で」
「その時分、お見かけ致しました」
 薄っすらと口元に笑いを浮かべ、その実目は冷徹な輝きを隠していた。
「娘はあれから暫く、トルク城で厄介になっているが、先日手紙が届いたよ。毎日が大変らしい」
 含み笑いをするショア伯。蒼威は少し意外に感じた。
「何しろ、偉大なる先輩にご挨拶した上で、昔の武勇伝をと‥‥ああ、ジーザム陛下も若かりし頃、ランへ留学されていたのだよ。果たして可愛い後輩でおさまっている事やら」
「ほう‥‥」
(「その様な突破口が‥‥」)
 蒼威の内心ではでびちまな蒼威がパタパタと羽音を発てていた。
 ショア伯はやれやれと苦笑しつつ、首を左右に振った。
「ついでに面白い男の二三人も見つけて来れば、ショアの次代も安心なのだが。どうも放任主義が祟ったらしい」
「そう仰るが、内心楽しみなのでは?」
「いや、まだ心の準備がな。はっはっはっはっは!」
 半分親バカなショア伯であった。

「きゃははははっ!! そ〜れ撃て撃てぇ〜っ!!」
 ぴゅんとちっさなレイピアを振りかざすププリンに、よぉ〜しとばかりに光太も照準に指示を出す。すると一斉に兵士達が砲身を動かしに掛かった。
「こちらも負けてられんぞっ!! 命中させた者にはこの金のペンダントをやろう!!」
 向こうの砲ではギル子爵が自分達の部下を鼓舞して叫ぶ。何時の間にかそういう構図。
 ボボンと同時に撃ってもこれが当たらない。
「よ〜し、次は私だ」
(「飛距離は百mそこそこ‥‥しかし、当てるとなるともっと近付かねば」)
 光太と入れ違いに、戻ったばかりのバルザーは砲の傍らに立った。

●シムの海へ
 翌日、旗艦スターフィッシュ号を先頭に隊列を組み、外洋のシムの海へ出た5隻は、帆に力強く風を受け、波を蹴って進んだ。
 セーラと日向は、スターフィッシュの後部上甲板に立ち、波飛沫を浴びながら蛇輪を握るギル子爵の指示を聞き入った。
「いよいよですね!」
「ええ!」
 手摺に掴まり、二人して揺れる甲板で必死に目を見開いた。
「海賊船をガーナードに仮定!! それ以外は我に続け!!」
 バタバタと動き出す。船員が信号旗と手旗信号で各艦へ通達するや、一斉に数十名の船員が動き出し、ガラガラと滑車が悲鳴を上げ、ゆっくりと二枚の四角い帆が動き出す。そして艦隊はガーナードを残して右に切る。充分に距離をとった所で訓練がスタートした。
「船足の速いシーアチンとカトルフィッシュで側面から追い込み、当艦とディアーナ号で近接し、これを仕留める!!」

 ディアーナ号の方でもアルフレッド男爵が船員の読み上げるスターフィッシュからの信号を聞き入ると、次々に指示を出した。
「これは見事なものですね」
 一斉にきびきびと動き出す様に、セシリアは関心して眺めた。まるで船が一つの生き物。
 ガーナード号も老練に風を捉えて逃げ回るが、二隻の小型艦による追跡に、一時間後には降伏の白旗を振った。各艦が個々の役割を理解し、忠実に動いた結果だった。

●我が主よ‥‥
「それこそ、この度の目的の一つ。改めてお前を歓迎しよう」
 そう言って黒妖の手を取り、二人は宴の席へと戻って行った。