ワイン輸送

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 22 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月05日〜06月15日

リプレイ公開日:2006年06月11日

●オープニング

「暑くなる前に運んでしまわないと」
 竜のねぐらの店主ルイン・ルイセは店の地下室にある。貯蔵庫を見て回ってつぶやいた。本来なら秋になってから運び込むのだが、あいにくある事件のせいで、今年の秋まで店の地下にある貯蔵庫だけではもちそうにない。そのため、郊外の貯蔵施設で熟成させてあるワインを運んでこなければならない。郊外の貯蔵施設は、ワインの熟成に最適な温度が保たれている。
「いつもなら」
 知り合いの領主が王都にくるついでに護衛付きで輸送をしてくれるが、今回はイレギラーな輸送のため、護衛してくれる領主はいない。そのため、冒険者を依頼することにした。
「ワインは上等な物から、普通に飲むものまで、荷車で5台分。普通の速度では割れないように梱包されているが、無理に急げば割れてしまう。割れた場合には大変な損害になる」
「価値のあるものなのですね」
「そのとおり。そのため、しけた盗賊に狙われるかも」
「しけた盗賊ならいいのですが、もっと大物ということもありえますか?」
「そうさな。以前はそんなこともあったな。あの時は護衛に雇った者に死人もでたな。しかし、優秀な冒険者が輸送に携わってくれるなら安心だろう。案内人はつけるから道に迷うこともないだろう」
「そのルートではゆるやかの丘や森がいくつかありますね」
「襲撃にはもってこいの場所もな。冒険者にはなんてことはないだろう」

●今回の参加者

 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5997 ドルフィネス・デリアス(32歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7211 レオニール・グリューネバーグ(30歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea9244 ピノ・ノワール(31歳・♂・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0432 マヤ・オ・リン(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb2805 アリシア・キルケー(29歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●怠け者の遊び人レイン・ルイセ
「おじさん、本当に俺じゃなきゃだめなの?」
「レイン! わしやジュネは店がある。お前しかおらんだろう?」
 どうやら、案内役のレインが自分の仕事を嫌がっているようだ。フォーレ・ネーヴ(eb2093)は聞くつもりはなかったが、聞こえてしまった。
「考えてみたら、お前は場所こそ知っているものの、仕事しているところなど見たことなかったな」
 ルインも思いなおしたようだ。
「いい機会だ。遊び人などやっておらずに額に汗して働いてこい。無駄な見せ筋肉ばっかりつきおって」
 その怒鳴り声がやんだ時に、今回の依頼を受けた冒険者が店に入ってきた。というよりもやっと入れそうな雰囲気になったのだ。
「おお、やってきたか」
「はい、お弁当」
 ジュネ・ルイセが11人分の弁当を用意していた。依頼では10日分を自弁するはずだが、ワイン以外にもとんでもない荷物を背負わせるので、その分の埋め合わせということらしい。
「バッカスに旅の無事を祈りましょう」
 アトス・ラフェール(ea2179)は全員の無事な帰還をローマ神話の酒の神を持ち出して祈った。
「神聖騎士がそのようなことをされると、クレリックの立場としてはなんといったらいいのでしょうか?」
 本気ではない。しょせんは指輪の主護神? ジーザス教的には背信になるのだろうか? 神聖騎士だからね。とがめる立場であるアリシア・キルケー(eb2805)としては困ったもの。異教の神を持ち出されては。
「アトランティスに、ジーザス教をもっと広める必要があるのだろう」
 ソード・エアシールド(eb3838)も、同じ神聖騎士の立場としては言わなければならない。
「軽率だった」
 アトスも素直にその場を納めた。
「ところでご主人。以前あった大物のことが詳しく知りたいんだが…どの程度の規模の襲撃だったか、とか。情報は多い方がいい」
 事前に得られるならその方が良い。カオスニアンとかが関わってくるとやっかいなことになる。
「その時の大物は、あの後相応の報いを受けたからそいつらは心配ないが。可能性があるとすれば」
「あるとすれば、森の中で潜んでいる賊どもだ」
「賊?」
 思わず依頼を受けた冒険者が、聞き返した。
「エーガン王が幾度かとらえるように命じたが、とにかく動きが素早い。討伐を行おうとすれば出端をくじき、姿を消す。結局討伐を命じられて者が適当に報告しておしまい。そんなのがいっぱいあった。最近でもあったらしい。正体が知れないだけに、十分に注意してくれ。ワイン狙いでくるから、大々的な戦闘はないだろが、人質をとるとか、姑息な手を使ってくる。というわけで一番危ないのがうちのごくつぶしなので、よろしく頼む」
 ごくつぶしというのは、レイン・ルイセのことだ。そういっているそばからレインはレオンの護衛役のアリシアと仲良く話している。アイシアの方もまんざらではないようなので、親密度が高まりつつある。
「賊よりも、ごくつぶしの方が心配なのは気のせいか?」
 レヴィア・アストライア(eb4372)は、別の意味でワイン輸送の困難さを感じた。
「私はこちらの世界について、あまり知らないのでな。酒場を経営しているのなら色々と話を知っているだろう。今後の為にも勉強は必要だ」
 ドルフィネス・デリアス(ea5997)はルインに話しかけた。
「ああ、いいとも。レインもよからぬことはいろいろ知っているだろうから、十分に注意してくれ」
「ああ、わかった」
 馬車は5台すでに用意されている。
「けっこう良い馬じゃないか」
 レオニール・グリューネバーグ(ea7211)は、馬車につけられた馬を観察する。馬の気性しだいでは難易度が変わってくる。
「気張ってみた。大事に扱ってくれ借り物だから」
「だろうな」
 酒場の主人が馬を飼う必要はない。使う時だけ借りてくれば良い。その程度のつきあいはあるのだろう。
 アトスも愛馬ロシナンテを荷物搬送用に連れて行く。

●行きはよいよい
 レイン・ルイセが、通行証を見せて王都の城門を出る。通行証といっても、実際にこれからワインを運ぶという事を証明する書類となる。
「城門をくぐるたびに通行税がかかる」
 冒険者たちには、アトランティスに来てから多分初めての経験。通行税はフオロ王家の大事な収入源となっている。
「冒険者たちは依頼で動く時には通行税はいらないし、武器も持ったまま通行できるだろう。それはトルク分国王が冒険者ギルドを作って、加盟する領主の領地を移動する時に邪魔されないようにしたからさ」
 加盟していない領主の領地を通行する時には通行税を課されるが、首都付近はみな加盟している。
「今回課税されるのは、俺とワインだけさ」
 今馬車に積んであるのは、空になったワインの大樽。酒の飲めないレオニールにとっては、匂いもあり、気分もよくない。酒好きにはたまらないのだろうが。
「あと半月もすると暑くなる。そうなったらワインは輸送できない」
 レインはアリシアがよほど気に入ったのか饒舌になっていた。ひとときも近くを離れない。
「今のところ異常なし」
 ピノ・ノワール(ea9244)は、もどってきたメルローの様子からそう判断した。敵対的な者がいるなら興奮しているはずだ。しかし、餌となる物の見つけられなかったらしい。
「ということは、付近の小動物も隠れている可能性が高いでしょう」
 野生の動物なら、森に何者かが入り込めば姿を消すことは大いにあり得る。マヤ・オ・リン(eb0432)はレンジャーとしての経験からそう言った。ジ・アースでもアトランティスでも同じだろう。
「行きのうちに周囲を確認しておきましょう」
 フルーレ・フルフラット(eb1182)は賊が狙うとすれば、ワインを積んだ帰り道だ。ならば帰りに襲撃されそうな場所と、賊が隠れていそうな場所を確認していく。
「?」
 ドルフィネスは首を傾げた。
「どうした?」
 アトスはドルフィネスに問いかけた。
「いや、誰かに見られているような気がした。気のせいじゃない」
 マヤも油断なくライトロングボウを取り出して、矢をつがえる。しかし、こちらの様子に気づいたのが、まったく森からの反応は消えてしまった。
「帰りには十分に注意しないしないといけないでしょう」
 ピノはいつでもブラックホーリーを唱えられるように準備していたが、相手の姿が見えないのでは攻撃しようもなかった。
「森の中は要注意ですね」
 フルーレもトライデントを構えていたが、森の中では道ギリギリまで木が迫っている。射程の長い武器は状況では不利になり得る。
「って深刻な話しをしているのに」
 レヴィアは道案内のレインが、アリシアといちゃついているように見えてならない。
「急ごう」
 今回の役目は討伐ではなく、輸送の護衛。冒険者は10人しかいない敵の数がわからないのでは、敵の領域である森に下手に入り込むのは無謀。しかも馬車に護衛を残したままでは各個撃破されるだけだろう。
「陽動に引っかからないようにするのが先決」
 馬車のゆったりした歩みとともに、3日間で目的地に到着した。今夜はこちらで安心して寝られる。帰りの6泊の野宿は警戒で眠れないだろう。
「寝床はあるが、食料はなしか」
 そういう内容だったからだが、案内人のレインも持ってきた保存食を食っているから文句は言えない。それほど上物ではないワインが1杯ずつ用されていた。レオニールの分はアトスが楽しんだ。レオニールは匂いだけでよってしまって先に休むことになる。

●ワイン積み込み
「まだ眠い」
 レヴィアは大きくあくびをした。まだ暗いうちに起こされてワイン樽の積み込むを行う。ソードは自分の毛布を提供しようといったが、すでに用意されていた。
「樽はけっこう頑丈そうだ」
 アトスは樽をなでていた。
「壊れてもらっては困る」
 まだ少し青い顔しているレオニール。
「あんなにうまいのに。上物ではなくてもあの味なら、今回運ぶ上物はどんなものだが楽しみだ」
 ワイン好きはアトスは楽しみでならない。それに比べるとレオニールはもし少しでもワインが、漏れだしたらそれだけで戦闘不能になりそうだった。
「アリシアさん、セーラ神の力でどうにかならないですか?」
 フルーレは見るに見かねて、尋ねたが。こればかりは飲み過ぎならともかく、生来の下戸では助けようがない。
「積み込みも終わったし、早速出発しよう」

●襲撃
 来る時にできるだけ安全に野営できそうな場所は確認してある。人間の感覚ではわからないほどでも、ワインの香りがモンスターを引き寄せることもあり得る。用心するにこしたことはない。
 昼間のうちにできるだけ、予定した野営地まで移動し、周囲をい警戒後野営にはいる。ピノは明るいうちにメルローを飛ばして警戒範囲を広げる。3日目まで問題なくすぎた。行程のほぼ半ばにさしかかり、緊張感がわずかに薄れる。馬車の具合さえよければ明日1日の移動で見晴らしのいい土地に入れる。
 そう思うと、多少の緊迫感が戻ってくるが、やはり3交代での夜の見張りと昼の移動時の警戒は精神的な疲労をもたらす。
「けっこう草の丈が高くなりつつあるから」
 マヤは野営地周辺の状況を確認する。草の丈が高くなれば目視しにくくなる。風が吹いただけでも、草同士のこすれる音で、足音を消し去ってしまう。
 最初の見張りはマヤ、ドルフィネス、フルーレの3人。フルーレはアレクサンドルに何かおかしな匂いを感じ取らないか警戒しろと命じている。しかしアレクサンドルもここ数日、近くのワイン樽からの匂いが常時ただよってくるせいか半ば鼻がマヒしつつあった。ただし、酔わないくらいの耐性はある。
「第2班はレオニールさん、アリシアさん、レヴィアさん、フォーレさんの4人だよね」
 レオニールだけは、具合悪そうだが。他は問題ない。レオニールがまともに戦闘に加われないと決定打を欠く危険はある。
「気配はいまのところ感じないけど」
 ドルフィネスは周囲を見回ってきた。油を持ってきた数が多かったので、けっこう余裕をもって使える。
 毎晩のことゆえ、夜の警戒体制もなれてきた。互いの特徴がわかれば急場でも対応できる。
「そろそろ交代か」
 事件が起こったのは第3班が交代してからだった。第1班はもちろん、第2班も寝入った後。ピノが警戒のために使ったデティクトライフフォースに生命反応を感知した。
「ソード、アトスどうみますか?」
 反応は4つ。全員を起こすには難しい選択だ。急に襲ってくる状況でもない。だから今のうちに迎撃態勢を整えるという考えもあるし。Kれが敵の戦略的な行動で、こちらを疲労させて明日の昼間が本命かも知れない。
「多分、明日だろう」
 アトスが考えた末に言った。四人では馬車すべてを運べない。しかも夜では。それに。
「馬も安心しているようだ」
 襲撃するつもりなら、馬も警戒するだろう。その警戒が馬からは感じられない。下手にしかければ、こちらをがら空きにされてしまう。
「よし、ならば」
 ピノは生命反応のあった場所に、ブラックホーリーをたたき込んだ。善意な者ならダメージを被らないはず。悪意があれば確実に。しかし直視していない相手だけに命中したかはわからない。
「もし行き倒れだったら?」
「そういう可能性もありましたね」
 ピノはアトスに言われて気がついた。
「おいおい、クレリックがそこまで過激でいいのか?」
 たぶん、いいのだろう。
 翌朝調べてみると、死骸はなかった。ワインに誘われた野生動物だったかも知れない。
 アリシアが早起きして朝食の準備をしていた。レイン以外はそれで食欲が減るのだ。レインは味があっているのか、涙を流しながら喜んで食べている。
「喜んでいるのか?」
 ソードはなんとかく痛々しさを感じた。
「あれは食べているというより、飲み込んでいるというのだろう。あれでは味は多分わかっていない」
 レヴィアも同情のまなざし。それだけレインとアリシアの関係は親密ということだろうか。愛は最高の調味料というらしいから。
 食事を終えると、馬車を出立させる。とにかく、道が整備できていないから早く進めない。
「こんな道では、大量の物資を運ぶのは難しいな」
 ドルフィネスは、以前参加した合戦の時の状況を思い出した。大勢の人数をその場所に張り付けるだけでも大変だ。
「だから事前交渉で日時と人数まで決めて戦いを行うのです」
 レヴィアはこちらの世界の状況を教えた。予定より馬車が遅れだした。今まで以上に道が悪くなっていた。石が多いとか。木の小枝が散乱しているとか。そのたびに馬車の揺れを少なくするために速度を落とさなければならない。それは襲撃が近いことを思わせた。
「きた時に調べたのだと」
 このままの速度で進んだ場合には、襲撃可能性の高い場所付近で薄暗くなる。
「できるだけ急ごう」
 薄暗いところでは、一番視力が低下する。そこが敵の狙い目だろう。隠れていそうな場所はすべて調べてある。地理的条件は圧倒的に不利ではない。多少不利というところだろう。と9人は緊張を高めつつあるが、レインとアリシアだけは緊迫感がまったくないままだ。レインは危険に対して呑気な上アリシアに籠絡されているような状態。
「来るぞ」
 最初に殺気を感じたのは、ドルフィネス。ピノとアトスがブラックホーリーとホーリーを構えて先制攻撃をしかける。馬車を扱う者たちは馬が暴走しないように、しっかりと手綱を握りしめる。フォーレはレインを守る位置に入る。マヤは、ライトロングボウで現れる目標に向かって矢を射続ける。
 背後から馬車に接近してきた賊は、レインが発見してアイシアのスタッフが殴られて、退散していった。
 魔法と飛び道具による攻撃で、賊の撃退には成功した。馬もあばれなかったため、ワインも無事だった。
「うちのごくつぶしはどうだった?」
 店に着くなり、アリシアはルインからレインの行状を聞かれた。
「美形でとっても役に立って下さいました」
「ならいいが‥‥」
 と悩みを増やしたようだ。

●おまけ
「ドルフィネス、こっちの世界のことだが」
 ルインは、ウィルはけっこうフオロ王家が信頼を失っていることを伝えた。
「すぐにつぶれるようなことはない。フオロ家をトルク家が助けている」
 王を選ぶ選王会議で選ばれたのが今のエーガン王だけに、対等の分国王も自分たちが選んだ責任上助けている。しかしそれもいずれ限度が来る。
「国王陛下が目指しているのは、フオロ王家による専制的な国家体制。今は自分の国内だけだが、いずれば分国王の権利をも制限していくことだろう。自分たちの権利を奪う者を助けるか? そういうことだ」
 ルインの情報網は、かなりあちこちに伸びているようだ。
「これからもうちを経由した依頼を出すだろうから、その時は受けてくれ」