●リプレイ本文
●ボボガ宅
巨人用の大きな館、ボボガ・ウィウィ男爵が王都ウィルに逗留するに当たりウィエ分国王より貸し与えられた館がこれだ。その大広間に通された一行を、意外な人物が待ち受けていた。
人間にとってはやたら大きな間口と、高い天井に驚きながらも巨人族のメイドに通されると、異様に大きなテーブルと椅子に、半分顔が埋もれる様に腰掛けたエルフが三人。
「あれ?」
「わぁ、みぃ〜んな早いんだね!」
にっこり微笑む赤い目のエルフ。ゴーレムライダーにマント、サンソードと軽装のディーナ・ヘイワード(eb4209)が、いつものハイテンションで大きく手を振ってくる。
「あれ〜? クウィルは?」
「それは‥‥」
言葉を濁すエンヴィ・バライエント(eb4041)は、ちらりと傍らの真っ青な吟遊詩人ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)を見やる。
「お、俺じゃないって〜!」
慌てて顔の前で手を左右に振りあらゆる関与を否定するヴルーロウにくすりと笑うエンヴィとディーナ。
「うふっ、情報が錯綜してますものね」
「ホントに冗談ではないのだ。俺は青をこよなく愛する者。決して虹色等使わぬ!」
青のマントをぶわっとはためかせ、あざやかにローレライの竪琴をぽろろ〜んと奏でてみせるヴルーロウ。斜め45度でビシッと決める。
「だろ?」
「いや失礼。おや、貴方は?」
そこで二人はディーナの向こうに座しているエルフに気付き少し驚いた。
立ち上がった人物はその背中からでも雰囲気で判った。アレックス・ウッズ男爵その人だと。アクツーク・スピンドル男爵と二人で何やら言葉を交わすと互いに握手をし、こちらを振り向いた。
「二人とも、ご苦労」
「アレックス男爵、どうしてここに?」
その老エルフは、少し青ざめた面差しで穏やかに二人をみつめた。
「例の『ブルーゲイル』の件ではご迷惑をお掛けしてしまったからね。一言、申し訳無いとお伝えしたかったのだよ。お陰でアクツーク卿にも判って戴けた」
振り向くとアクツーク男爵も頷いた。
「どうもあちらの事件は魔法的な物らしいですね。何しろ、木や石に彫られた文字まで変わってしまっているそうではありませんか。誰の仕業にせよ、そちらの事件も早く解決される事を祈っていますよ」
「ありがとうございます、アクツーク男爵」
恭しく一礼。それからアレックスはそこに集った者達へ向き直った。
「チーム【ブルーゲイル】に参加してくれている方も、そうでない方も今回の件では、ご迷惑をお掛けしている。どうか、こちらのご依頼も無事に果たして貰いたい。では、私はこれで‥‥ヴルーロウ、エンヴィ、そしてディーナ。どうか宜しく頼むよ」
「このヴルーロウにお任せあれ」
「冒険者になって蛙を追いかけ回す事になろうとは、思いもしませんでしたが」
その傍らで黒峰燐(eb4278)もお辞儀する。
「なんとかなるよ、さてとがんばろうっと☆」
そうしてアレックスは皆と入れ替わりに退出していった。
●話を聞いてみると
アクツーク男爵はひょうひょうとした感じの典型的な青年エルフだった。
「そういう訳で、皆さん宜しくお願いします」
エンヴィの質問に、この館に避難して来ているアクツーク男爵の家人、6名が集められていた。
「それでは一見、何も無い様に見えた天井からぽたぽた蛙が落ちて来た訳だね!?」
「はい‥‥次から次へと‥‥」
しゅんと耳を垂れるエルフのメイド達。そんな様をシルバー・ストーム(ea3651)は壁に背を持たれ掛け、黙って耳を傾けていた。
う〜んと唸りながら眉間に皺を寄せ、パラのガレット・ヴィルルノワ(ea5804)は一人一人の様相をを見て回り、徐に口を開いた。
「蛙が降るのは屋内だけ?」
「多分‥‥」
「一定時間たったら消えるとかも無し?」
「なにぶん、驚いたものでそこまでは‥‥」
ふぅ〜とため息。
「その屋敷に子供は居ないんだよね?」
「はい。おりません」
「蛙ってさ、水の中で産卵してふ化してオタマジャクシになるんだよね。寒さに弱いし、お屋敷内部で卵から育ったか、魔法か何かで人為的に転送されたかだと思うけど‥‥」
すると、皆を見上げて話すガレットの鼻先に、パタパタと碧のシフール、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が舞い降りた。
「天井から沸いてくると言う事は、どこからどうやって天井に入り込んでおるのか調べてみる必要があると思うのじゃ。そこで、わしはエックスレイビジョンで天井裏をくまなく透視して回ろうと思うのじゃ」
「それは好都合だね。ユラヴィカさんならどんな高い所も、狭い所もすいすいだから。でも大きな蛙がいたら気を付けなよ」
「うむ」
優雅に頷き、ユラヴィカはふわふわとガレットの頭に飛び越え、燐の方へと飛んでくる。
「へぇ〜、透視出来るんだ。凄いね」
「そうか?」
「僕は現地についたら手近な蛙にテレパシーで、何処からここに来たの?って聞いてみるよ」
「蛙の気持ちが判るのか? そっちの方が凄いのじゃ」
「そ、そうかな?」
ちょっと照れて鼻先を掻く燐に、すぐ横に立つエンヴィは優しく微笑みかける。そんな様にふふ〜んと目を細め、フォルテ・マエストロ(eb0428)は、この異様に大きな椅子からゆっくりと降りた。
「では、私は他のメンバーの皆さんと共に蛙の運搬と捕獲を行いましょう。ライトニングサンダーボルトを使って蛙を痺れさせますから、ちょっとうるさいかも知れませんよ」
フォルテはそう言って、ゴム長靴にビニール傘、等を取り出して見せた。すると、ヴルーロウもレインコートを取り出す。
「フ‥‥ぬかりはないさ」
「あらまぁ。お互い準備万端みたいですね」
ガレットもビニール傘を片手に口笛を吹く。
そこで着物姿に襷がけの倉城響(ea1466)がパンパンと手を叩き、さっと荷物を手に取った。
「さ〜てと‥‥大体の作戦も決まった事ですし、参りましょうか。でも、一度に大量に捕まえる方法があれば良いのですけれど私は思いつかないので、とにかく頑張りますわ」
ぽけぽけ浪人と異名をとる響は、何とも微笑ましい素振り。そこへふわふわとユラヴィカが舞寄ってにっこり。
「猟師セットがあるのじゃが。その中の投網を使ってみてはどうじゃな?」
「わ〜、本当ですか? ありがとう御座います。じゃあ、それで一番いっぱい居る所を、どばっと捕まえちゃいますね☆ きっと、その天井に何かあるんだわ♪」
華やかにガッツポーズをとる響。
「よ〜しっ! じゃあ、今夜は捕まえた蛙で、蛙尽くしだわ!!」
「「「えええっ!?」」」
ぐっと拳を突き上げたガレットは、大多数の反応にきょとんとする。
「え〜! ジ・アースのノルマンじゃ高級食材だったし、華国では田んぼの鶏って珍重されたって聞くし!」
「食用蛙じゃないと危険だよ。牛蛙がいれば良いんだけれど、あまり食べない事をお勧めしとく」
ちょっぴり困り顔の燐が一言。
「大丈夫! ま〜かせて!」
朗らかにぽんと胸を打つガレットはとっても自信満々だ。
●いざ突入!
3階建ての洋館。生き物がいっぱいいるぞ教えられ、そっと門を開けた。
ゲロゲロゲロゲロ‥‥
ある意味、完全武装の一行が館の敷地へ一歩踏み入ると、そこかしこから蛙の鳴き声が響き出す。葉っぱの影をひょいと覗けば、ぴょんと一匹飛び出して来た。
ぱたぱたとユラヴィカが舞い戻る。
「青蛙じゃ!」
「じゃあ早速‥‥」
そう言って燐がテレパシーを唱えると、そのケロケロ鳴きながら飛び跳ねる蛙達が、誰かが来たぞ〜と、仲間へ向けて警鐘を鳴らしているのが判った。
「という感じだよ」
「俺に任せろ」
ぼそり言葉を口にしたシルバーが、皆の前で数あるのスクロールの中から1本取り出した。
「ブレスセンサー‥‥分布を調べる」
「喋った‥‥」
目を見開く響。
「あんた少しは普通に話しなさいよ!」
ガレットの呆れた口調を気にするでも無く、シルバーは魔法のスクロールを使った。たちまち、多数の生き物の微細な気配が、そして‥‥
「小さな息吹が多数あるが、人間よりやや小さな生き物の呼吸を屋根裏に感じる」
「それだねっ!」
扉の鍵を手にエンヴィが小躍りして見せる。
「じゃあ、蛙を片付ける人と、探索する人に分かれて行きましょう」
キュッキュとゴム長靴を鳴らしながら、ビニール傘と麻袋を手にフォルテが進み出た。
「1階を見るだけだと、話に聞いていた程じゃないね‥‥」
ふんと鼻息も荒く、ガレットは玄関先を見渡した。数匹の蛙がそこかしこに。
「よぉ〜しっ、このフロアはあたしが!」
キラ〜ンと目を輝かせ、ビニール傘をさしガレットは最初の一匹目に飛びついた。
「じゃぁ、私は3階を」
投網を手に響が階段をゆっくり登る。
「きっと水場に集まっているよ」
「お、おう」
ぐいっとエンヴィの手を引き、燐がとっとと奥へ歩き出す。
「あら、お邪魔かな。ふふふ‥‥」
ディーナはそんな二人を見送り、どうしようかと思案にくれた。
「ま、手近な所を攻めますか」
にっこりと目に付いたドアを開けてみた。
「よぉ〜し、先ずは一匹目だ!」
2階の廊下で早速捕まえたヴルーロウは、四つんばいになってそれを麻袋に放り込んだ。
「よ〜し、どんどんいくぞ! ちょこざいな!」
3階へと駆け上った探索組のユラヴィカとシルバー。
「あの辺だ‥‥」
そこで怪しい天井裏をシルバーが指差すと、早速ユラヴィカがエックスレイビジョンで透視する。
するとみるみるユラヴィカの表情が険しくなる。
「う〜ん‥‥変な生き物がいるのじゃ‥‥」
「人では無い?」
静かに聞き返すシルバーに、ユラヴィカは首を左右に振る。
「手は二本、足は二本‥‥」
「うむ‥‥」
「甲羅があって、嘴があって‥‥」
「う、ううん?」
シルバーは頭の中では、何やら訳の判らない生き物が。
「指の間に水掻きがあって、サンソードを持ってるのじゃ‥‥」
そこでシルバーの表情が険しくなる。相手は武装しているのだ。
(「いや、まてよ。オーグラだって意思の疎通が出来る。サンソードを使うならば、それなりに知恵があるだろう」)
徐に、シルバーは数多ある内の一本を引き抜いた。
「スクロールは使えるか?」
またも首を横に振るユラヴィカ。
(「駄目か‥‥」)
シルバーはそれを戻し、屋根裏部屋への階段に向かい歩き出しかけ、ふと足を止める。
徐に2本のスクロールを取り出した。
最初に使ったのは『ブレスセンサー』。それで一回り小さな相手の存在を確認したら、その気配に向けて『テレパシー』。
(「さて、何を話そうか?」)
(「だ、誰だ!? 貴様の仕業か!?」)
随分と鋭い思念が返って来る。
(「何故そこに居る?」)
(「ふざけるな! ▲▼か! ●●者か! 如何なる幻術を使ったのだ!?」)
シルバーは眉間に皺を寄せ、深く息を吸った。
(「ここはアクツーク男爵様の館だ。突然の蛙が大量に天井から降って来て、家の者は全員逃げ出して、私達が調査に来ているのですよ」)
(「蛙は俺の友達だ! 一緒に水浴びしていたら、突然ここに来てしまった。誰かに幻術でもかけられたかと‥‥本当にお前の仕業ではないのか?」)
(「そう思うのであれば、ずっとそうしていればいい。蛙を今掻き集めているところで、集め終わったらみんなで食べてしまうのですが、それでもいいのですか?」)
(「む、むむむ‥‥」)
暫くすると、ゆっくりとその黒一色の小柄な人影が、静かに屋根裏からの階段を降りて来た。
背には黒鞘のサンソード。それに手をかけたまま、黒装束の頭巾からは黄色い瞳がじっとこちらを覗いている。
「これはどういう事で御座るか?」
「さて?」
シルバーは傍らで羽ばたくユラヴィカを眺め、後は頼むとばかりに廊下によりかかった。
「やれやれ‥‥どうやらおぬしは落ちて来た様じゃな」
ユラヴィカの言葉に半信半疑と言った具合か。
「面妖な‥‥ここは如何なる場所で御座るか?‥‥落ちて来たとは?」
緊迫した空気が流れた。
「あら、珍しい。カッパの忍者さんね」
この緊迫した空気の中、ぽけぽけ浪人の響がすたすたと現れる。手には少し重そうに壷を抱え。
「お主、ジャパンの人間か?」
斜に構え、油断無く三人を見据える河童の忍者。
すると、響の持つ壷の中から、蛙が一匹ぴょ〜んと飛び出し、それは見事な弧を空中に描いて見せた。それは違わず、目の前の河童の胸にぺったりと着地した。
「あら、まぁっ」
ころころと笑う響。
「おお、お主は源三ではないか」
その河童は、鞘にかけていた手をそっと離し、胸元のイボ蛙をそっと両手に押し抱いた。すると次々に。
「武一、油目、疣頭、角鬼、お前達!」
河童にむらがる無数の蛙。
「蛙と友達ってのは、嘘じゃ無さそうだな」
シルバーはやれやれと、ユラヴィカもほうとため息。
「おぬしは蛙達と、このアトランティスに来てしまったのじゃよ」
「あとらんてぃす?」
河童は小首を傾げ聞き返す。そこで、ジ・アースからアトランティスへ、自らの意思で月動をくぐる者の他に、偶然落ちて来てしまう者がいるという話を、ユラヴィカが説明して聞かせた。その間も、蛙達がわらわらとこの河童の忍者に寄り集まり、その数は次第に増えて行った。
すると、下の階から高らかな笑い声が響き渡った。
「ふ、ふふふふふ、カエルごときがこの俺様に‥‥いい度胸だ! 全て狩ってやるわ〜!! あ〜はははははは!」
「ヴルーロウだ‥‥」
シルバーがこぼす。
「そうと分かれば、拙者は元の世界へ戻らねばなりませぬ。果たさねばならぬ使命があるので御座る」
やおら立ち上がり頭を下げた。
「待つのじゃ! 帰ろうと想っても帰れぬ! ジ・アースには帰れぬのじゃぞ!」
立ち塞がるユラヴィカ。
「帰る方法を探しまする!」
ぴゅ〜いと口笛を吹くと、周囲の蛙達が一斉に鳴き出した。河童はユラヴィカ、シルバー、響の三人を交互に見据えた。
「このご恩はいずれまた」
「あなた、お名前は?」
響が問い掛けると、河童はくるりと振り向くと印を結び、どろんと煙が巻き起こす。その中から三体の黒い影が。
「「「拙者の名は『四破の雷(ヨッパのライ)』! 館の主殿にはご迷惑をおかけして申し訳無かったとお伝え下され!」」」
雷が走るとそれを追って一斉に蛙達も飛び跳ねて追っかける。
「無駄じゃろうに‥‥」
苦々しくユラヴィカがこぼし、シルバーはつまらなそうに頬を引きつらせた。そして響は。
「雷く〜ん、頑張ってね〜♪」
手を振ってにこにこと見送った。