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■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:06月16日〜06月21日

リプレイ公開日:2006年06月22日

●オープニング

「その話は本当か?」
「本当だ。母は死ぬ前に、自分を捨てた男の名前を言ったんだ」
「しかしなぁ」
 相談を受けた店主は、首を傾げた。ここにくれば相談に乗ってくれると誰かに言われたらしい。しかしここは相談所ではなく酒場だ。
「相手は高貴な貴族だ。俺たちみたいな虫けらは相手にしないに決まっている」
 相手の態度は、かたくなだった。母親の最後の言葉が耳から離れないのだろう。
「よう、ルイン。新しいワインが届いたって聞いて、来てみたいんだが」
 どうにか無事に到着したワインを目当てに、常連がやってきた。そしてかたわらにいる子供に目をやる。
「子供が昼間から酒場をうろつくのはよくないな」
「夜ならいいのかよ」
「もっと悪い」
「ルー、ちょっと相談に乗ってやってくれ。わしは店の方があるから」
 と、ルインがルーに子供を任せて逃げてしまった。忙しいのは事実だろう。
「で何を揉めていたんだ。解決するとは言い切れんが、一応聞いてやる」
 子供といってもすでに17歳だという。にしては小柄だ。子供のころの食生活が貧しかったのだろう。
「つまり、母親を捨てた顔も見た事のない父親を一発殴ってやりたいということか?」
「そうだ」
「で、父親の名前は?」
「ルーベン・セクテ」
「はぁ?」
「聞こえなかったのか? もう一回言う」
「聞こえたよ(しかし、心あたりないんだがな)」
「おじさん、会わせることできる?」
「おじさんって(まだ言われたくない)。それほど難しくはないけど、証拠の品とかあるか。しらを切られたらそれまでだ」
「母は嘘を付くような人じゃない」
「疑っているわけじゃない。相手の男がそう名乗っただけかもしれないだろ。人相とか、わかればいいのだけど」
 言われてその可能性に気づいたようだ。純粋すぎる。微笑ましいくらいに。
「そういえば、短剣を忘れていったことがあった」
 と、田舎から持ってきた荷物を探し始める。
「これだ。紋章が入っている」
 ルーが紋章をじっと見つめた。
「わかった、協力しよう。といっても一人じゃできることはたかが知れている。冒険者を何人か雇う」
「冒険者って異世界から来た救世主なんでしょう。さすがに首都ウィルはすごいな」
 どうやら純粋に救世主伝説と冒険者を結びつけているようだ。
「じゃ、部屋を用意してもらおう。ジュネ?」
 いつもなら真っ先にくるジュネが来ない。
「(どうやら完全に誤解されたな)ルイン、少しの間部屋を用意してやってくれ。冒険者に調査を依頼する」
「身に覚えはないのですね」
 ルインが小声で尋ねた。
「残念ながら。おい名前はなんて言うのだ?」
「物覚えが悪いの? ルー」
「父親じゃなく、お前さんの」
「ルシア、ン」
「ルシアン。ここにいる間の飲み食いは全部もってやるから、しっかり食って体力つけとけ」
「でも、見ず知らずの」
「子供が妙なところで遠慮するんじゃない。無慈悲な父親を殴りたいのだろう? だったら、体力つけておかないとな。腕なんかこんなに細い。こんな腕で殴ったら腕の方が折れてしまうぞ」
「はい」

「身の証というよりも、その子の本当の父親を探してやりたい」
「本当に、身に覚えはないのですね」
 冒険者ギルドでも、また言われた。
「いくらなんでも12歳の時に子作りはないだろう?」
「いえいえ盛んな方では、ありえない話ではないかと」
 短剣の紋章は先々代のセクテ家の物に似ているが、今のものとはかなり違う。しかし、多分昔の一門の誰かだろう。年齢からいえば、年上の従兄弟ということになるだろう。3人ほど従兄弟はいたが、今はセクテを名乗っている者はいない。早く言えば、追い出したわけだ。それを恨んでいる可能性はある。
「つまり候補者は3人というわけですか」
「3人とも首都ウィルにいる。一人目はウィエ家にかかわりを持っている。ルーデン・ログホースと名乗って、ウィエ家の屋敷に滞在している。ウィエ家の領地はお隣さんだから、有利な手駒として売り込んだのだろう。復讐心という点では第一候補になる。二人目はフオロ王家のお抱えの騎士をやっている。エーロン王子のところにいるルーカス・フェローと名乗っているはずだ。女ったらしという点では候補者の第一だろう。3人目は、こいつはちょっとやっかいだ。スラム街で勢力を延ばしつつある勢力に、用心棒代わりに付いている。性格は最悪だが、腕は確かだ。女をほれさせてから捨てるというのは、性格にあっている。確かルーフェス・サジェスと名乗っていたはずだ」
「とんでもない従兄弟ですね」
「だから追い出したんじゃないか」
 目の光は、冗談ではないことを物語っていた。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4844 ジーン・グレイ(57歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4454 エトピリカ・ゼッペロン(36歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565)/ トリア・サテッレウス(ea1716)/ セシル・クライト(eb0763)/ サーシャ・ムーンライト(eb1502)/ フォーレ・ネーヴ(eb2093)/ リューズ・ザジ(eb4197)/ バルザー・グレイ(eb4244)/ シャリーア・フォルテライズ(eb4248

●リプレイ本文

●紹介
「先日は我等が立場にご配慮頂き有難うございました」
 バルザー・グレイは、礼を言った上でかたわらにいたジーン・グレイ(ea4844)を紹介する。
「彼もまたトルク陛下に仕えたいと考えている、わが同志です」
 ルーはジーンを見据える。紹介される前にはなかった視線だ。ジーンも思わず背筋に冷たいものを感じたほどだった。
「天界人なら、立場を明らかにしても良いだろう。今回の依頼ではルーフェス・サジェスを調べる者たちを援護してほしい。ルシアンならこの店にいる間は誰も手出しはしない。健気にも店を手伝っている」
 ジーンの目にも、どうにか店を手伝っている線の細い少年の姿が見える。
「ところで、このワイン少し酸っぱいように思えるが」
 バルザーはワインに口をつけてから言った。
「ジュネの機嫌が悪くて、早く誤解を解きたいんだ。ルシアンを大事にしてくれるから、文句はいえない」
「自分の子でもないのに?」
 ジーンは先程の鋭い視線と同日人物とは思えない様子に聞き返した。
「俺も父親知らずに育ったからな。他人とは思えん」
 ルーにもいろいろあるらしい。

●悪評
 先行してきたジーン以外が竜のねぐらに集まってきた。まずは詳細を聞いておきたい。
「ルシアン、こっちにいるのが、ルシアンの父上を探すために力を貸してくれる冒険者たちだ。挨拶しなさい」
 ルーはルシアンの手が空いた時を見計らって、卓に呼び寄せた。
「何とも健気な話よ。任せておけい、おぬしの父御は必ず見つけ出してみせようぞ!」
 エトピリカ・ゼッペロン(eb4454)は力を込めて言った。
「ありがとう、おばさん」
「ん、んんっ!? おばさん、ではなくお姉さん、じゃろ?」
 笑顔を作る。エトピリカは33歳だが、エルフなので実は99歳。若い積もりだがルシアンから見ればおばさんに見えてしまうが、かなりショックだったようだ。
「ルシアン、そういう時は『綺麗なお姉さん』って言うんだ」
 市川敬輔(eb4271)がフォローになっているのか、わからないことを言う。ちょっと複雑な99歳エルフ。
「世界が違っても、そこに人が居る限り似た事柄ってのは起きるものなんだな。これが地球なら、血液検査やDNA判定で調べられるんだがなぁ」
 しかし、それを以てしても確実なYESというのはない。今回の候補者は依頼人を含めて全員元は同じ一族だ。完全には除外できる因子も少ないだろう。せめて母親が生きていれば。
「短剣を見せて、紋章を書き写したいから」
 それを持っていって当たるという。
 エトピリカとエリザ・ブランケンハイム(eb4428)が紋章を写し始める。
「ルーの奴が困ってるって聞いたから、この私が助けに来て上げたわよ! 涙流してありがたがりゃな‥‥‥噛んで無いわよ!」
「変わっていないな。ザモエのおっさんも苦労していそうだな」
「そんなことある訳ないじゃない」
「だといいが」
 エリザとルーはほっておいて。ヴェガ・キュアノス(ea7463)がルシアンに尋ねる。
「ルシアン、まっすぐな子じゃの。さぞ素晴らしい母上であったのじゃな。辛い事を思い出すやもしれぬが、ルーベン・セクテという母上を捨てた男の名前が出た時のことを教えてほしいのじゃが」
 最初ルシアンの言葉は重かった。しかし徐々に。
「恨んではいなかったと思う。名前は出さなかったけど、父上の話をする時はうれしそうだった。ずっと死んだと思っていた。村には父親のいない子供だっていたし。でも死ぬ直前になって」
 貴族の血が流れていると言った。父親を訪ねなさいと。
「生きているなら、もっと会いに来てくれたっていいじゃないか!」
 感情が高ぶっていく。
「親にも事情があったんでしょうけど、どんな事情にしろ捨てるのはね。小さい時から両親居なかった私から言わせて貰うと親は何考えてるんだか、ね。まったく」
 ディーネ・ノート(ea1542)が口を挟んだ。
「下手にわかっただけに、と言うことね」
 ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は、ため息を吐いた。
「しかし、その『ルーベン★セクテ』とやら。子を成しておきながら、用済みとばかりに捨てるとは。娶るなり囲うなりするならいざ知らず、男子の風上にもおけぬ輩じゃ!! 市井に赴き、民草のために働く事も厭わぬ真の士分と聞いておったが、嘆かわしいのぅ」
 エトピリカが手を休めずに呆れた口調で嘆く。
「まったくだ」
 ルーも同意。エリザが突っ込む。
「あんたまで同意してどうするのよ」
 まるで三流漫才。
「本当に、同一人物か」
 ジーンは、ルーの底深さを感じた。
「手分けして頼む。くれぐれも気をつけて」
 顔は笑っていたが、最後の一言はどうやらマジなようだ。

●ルーカス・フェロー
「エーロン王子お抱えの騎士」
 ルーカス・フェローに接触を図るのは、ニルナとヴェガの二人組だった。噂では最近のエーロン王子の機嫌がよくないとか。腹心となるはずのサザン卿の一件が後を引いているらしい。
 先の盗賊討伐の救護隊の活動で王家の協力があったようなので、その御礼を名目に教会からエーロン王子側へ繋ぎをお願いする。使者という立場でヴェガを王子の元へ送り込みニルナも同行する。
 ヴェガが教会の使者として御礼の言葉を述べ、王子の表情を窺う。
「あまり元気がないようじゃが」
「気が塞いでならん」
「殿下の元にルーカス・フェローという騎士がいると聞きました。もし良ければ」
「ルーカス・フェロー? 鷹のルーカスか」
 鷹を自在に操り、自らも鷹のように目が鋭いので、そう呼ばれている。
「役に立つ男だ。ルーカスを呼んでこい」
 王子は呼びにいかせた。
「で、奴に何の用だ?」
 冒険者からルーカスの名前が出た事で興味をもったのだろう。身を乗りだしてきた。
「殿下、お呼びでしょうか?」
 ルーカスは、片膝をつきエーロンに向かって頭を垂れる。絵に描いたような騎士の姿勢。
「ルーに少し似ていない?」
「ときおり見せる目の鋭さは同じようじゃ」
 二人は小声で話す。
「ルーカス、天界人のお二人が用があるそうだ」
 エーロンは面白そうに、ルーカスに話しかけた。
「天界人?」
 ヴェガは、ルシアンの身の上と同じような話をした。
「教会ではそのような孤児を育てる活動を行っておるのじゃ」
「はぁ。そのようなお話なら、殿下の方が」
「私自身、数人の子供達の教師をしています。このような孤児がいることに不安を感じてならないのです」
「いや、実はのう。この紋章に見覚えはないかのう」
 模写した紋章を見せると顔色が変わった。王子から見えないように立ち位置を変える。
「殿下申し訳ありませんが、こちらの方と」
「隠し事か。まあよかろう」
 エーロンは鷹揚に許可した。ルーカスは二人を連れ出した。
「天界人は脅しも行うのか!」
 ルーカスは、罵り声をあげた。ルーカスから見えない所で、王子が様子を窺っているのがニルナから見えた。なんだか楽しそうだ。
「おぬしのものか」
「違う。俺は過去を捨てた。ここでそれを見せるなど。ここに50Gある。もし足りなければ明日にでもどこぞの領主のところに行って、ゆすってくる」
「あるということじゃな」
「あるとも、俺を追い出しやがった家のだ。王子に知れたら今の立場も危ない」
「どうやら、違うようじゃのう」
「いいえ、はぐらかそうとしているだけかも」
 顔を見合わせる二人。
「では、この紋章付きの短剣を持ったことは」
 ニルナは確認を取る。
「そんなもの。家を追い出されてから、持ったこともない」
 ルーカスの50Gは教会に寄付することにして、その場を辞した。それ以上追及したら、二人を引き連れて幾人かの領主に強請に行きかねない。その表情をしっかりと敬輔のデジカメで撮影しておく。
「王子の威を借りる狐‥‥」
「そんなに悪くいわないで欲しい」
 エーロンが二人を待っていた。
「配下には、そういう輩もいる。奴の立場なら、弱小領主なら口出しできるし圧力もかけられる。しかし、そんなことをした事はなかった。背後関係のない男だけに忠義第一。どんな秘密か知りたいが、聞かないことにしよう。近いうちに狩りに行くことにする。暇なら参加してくれ。ルーカスのあわてる顔を見るのも楽しい」
 と大声で笑うエーロン王子。
「よっぽど、気が臥せっていたのじゃのう」

●ルーデン・ログホース
 エリザとエトピリカの二人が、ルーデンを目指してウィエ分国王の屋敷の前にいた。ルーの情報によるとルーデンは奇貨として匿われているらしい。コネがないと会うのは難しいだろう。シャリーア・フォルテライズに仲介を依頼して、ウィエ分国王チームのボボガ・ウィウィ男爵をあてにしていたが、成績が振るわないせいもあって大した発言力は無いらしい。
「噂に違わぬシャイニングなオデコじゃの‥‥あ、いや。何でも無いのじゃ♪」
 エリザのチャームポイントは、テカってそう言われているらしい。
「女の武器を使用するしかないかのう」
 エトピリカは館から出てくる人物の観察した。堅物ではだめ。できるなら落しやすそうなのがいい。2日間観察するうちに、一人の目標を定めた。
「ちょっといいかしら?」
 まずはエリザに巷で流行りのゴスロリ服にヘッドドレスを前の方に着用させて送り出す。チャームポイントは、しっかり隠して置く。目の毒だ。眩しさのあまり目が潰れてしまっては大変。
 さっそく餌に食らいついてきた男を路地裏に連れ込んで、ことに及ぼうとしたところをエトピリカがドスの効いた声ですごむ。まるで美人局。
 許す交換条件として、ルーデン・ログホースを呼んで来させた。尤も、素直に従うまで、多少の教育を施したが。
「こいつがルーデン?」
 呼び出された男は、ルーとは似ても似つかない。
「ご無礼お許しあれ、この者はいまだ年若いゆえ」
 ルシアンにおばさん扱いされたためにもう抵抗がないのか、そんなセリフが出てくる。
「こちらの紋章に、見覚えはありませなんだか?」
 ルーデンは、関心なさそうだった。
「偽物?」
「もしかしたら、すでに本物は」
 小声で会話する二人。後は適当ごまかして、その場を後にした。
「もし、本物のルーデンが父親だったら?」
「他の二人かも知れぬのじゃ」

●ルーフェス・サジェス
「ルー、ちょっと教えて」
 フォーリィ・クライト(eb0754)はルーからルーフェスの所属勢力を聞きこうと思った。
「今は弱小だが、武闘派だ。そしてルーフェスは最も過激な行動するらしい。十分に気をつけてくれ」
 ゴクッ。思わず寒けを感じた。
「な〜んちゃって。冒険者相手に無茶はしないだろう。追い詰めなければ無事に帰れる。ジーン、頼むぞ。フォーリーとディーネなら自分の身は守れるが」
「みすぼらしいかっこうをした男だな」
「あれで変装のつもりだ。天界人を誘拐して身代金を要求するような真似はしないとは思うが」
「無謀な天界人もいると?」
「最悪の場合、俺の名前を出しても良い。その判断はジーンに任せる」
 スラム街は、ひどいところだ。一番被害を受けているのは敬輔だろう。
「ここがルーフェスのヤサね」
 フォーリィが先に入った。たどり着くまでに、遠回りをした。ジーンは姿を隠して、待機している。敬輔は携帯のカメラを準備していた。ディーネが背後を固める。部屋のいたのは目的の人物だけだった。
「そいつらが今日の獲物か。なかなかいい」
 ルーフェスは敬輔を誤解したようだ。近づくとフォーリィを手慣れたしぐさで抱き寄せる。
「ちょっと」
 抵抗しようとしたが、なぜか力が入らない。
「その手を放しなさい。遊びにきたんじゃないの、聞きたいことがあってきたの」
 ディーネが紋章の図からを突きつけた。その隙に、フォーリィが離れる。
「見覚えある?」
「あったらどうする。どこかに置き忘れた短剣に」
 どこかに? その程度の認識。怒りが沸き起こってくる。
「ルシアンって名前に聞き覚えは?」
「知るかよ。男は始末するとして、お前たち二人には楽しませてもらう」
 フォーリィが麗しき薔薇を発動させる。今度は不用意に近づかない。
「聞かれて名乗るもおこがましいが、聞きなさい悪党共っ!」
「誰も聞いてねえよ」
 ルーフェスは切り返した。それにもめげずにフォーリィはセリフを続ける。
「人や精霊、生きとし生ける者の守護者にして勝利と勇気の使者、フレアローズとはあたしの事よ! か弱い人々を襲う悪党め、このフレアローズが」
「それじゃ、か弱くないフレアローズを襲ってやるよ」
 ルーフェスが一瞬で距離を詰める。速い!
「退治してあげるわっ! って名乗っている最中に近づくな」
 ルーフェスがフレアローズ(フォーリィ)をつかまえると、忽ち動けなくなる。
(「どういうこと?」)
 ディーネがアイスコフィンで氷付けにしようとしたが、たちまちフォーリィと同じになる。
「誰に雇われた?」
「言うもんですか」
「いつまで強がりが続くかな」
 ディーネは、かすかな甘い臭いに気づいた。女性にだけ効くなんらかの薬か? ルーカスは二人を縛り上げてしまう。
「来てくれみんな!」
 と敬輔は叫んで、そのまま外に飛び出す。入れ代わるようにジーンが飛び込んできた。
「チッ男か」

●最後は力技
「では、ルーカスとルーデンは違うか」
 竜のねぐらで、ルーが4人の報告を聞いていた。
「ルシアン、ちょっと出かけないか?」
「はい」
「あの二人けっこう仲良くない?」
 小声だが、エリザはここぞとばかりにジュネを刺激する。
「痛い!」
 ジュネは雑巾を取り出すと、エリザの額を思いっきり磨き出した。

 スラム街の一角でジーンとルーフェスの戦いは続いていた。再建中の建物が、元の瓦礫に戻っていく。そこにルーがルシアンを連れて現れた。
「ルーフェス、ちょっと顔を貸せ」
 有無を言わさず、引っ張っていく。ディーネが後をつけ、物陰から見張る。
「俺の名前を使ってあの子を作ったというのは復讐か?」
「隠し立てするつもりはない。半分はそうだ。残り半分は、情がわいた。お人好しのあんたなら、あの子を引き取ってくれると思った」
「お前のような父親がいたら迷惑だ。ルーフェス、今のお前は殺す価値もない。殺して欲しかったら、父親だと名乗れるぐらいの男になれ」

 ルシアンを連れて戻ると、落ち着いて話始めた。
「ルシアン。残念だが、君の父親はもう生きていないそうだ。名前もルーベン・セクテではなかった」
「そう」
「ルシアンさえ良かったら俺のところに来るか?」
 ルーの背後でジュネが大ハンマーを振りかぶる。
「騎士見習いの修行を始めるにはいい年だ。父親にはなれんが、後見人にはなれると思う。ジュネ何を持っている?」
「いいえなんでも‥‥痛い!」
 もしかして、惚れ直した? と小声で言ったエリザは、この一言で、再びジュネに額を磨き上げられた。