シムの海に妖しげな難破船を見た!
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:6人
冒険期間:06月21日〜06月28日
リプレイ公開日:2006年06月28日
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●オープニング
夕闇が迫っていた。
合同訓練に一区切りを付け、城内の港に接舷した5隻の艦艇は帆を休めていた。艦上ではワインの酒樽が次々と開けられ、船員達へと振舞われた。
ところどころ骨組みが剥き出した建造中の2本マストの船体、『ラバキン1』と『ラバキン2』の間に、帆を天幕の様に張り、楽の音が響き、ささやかな宴が開かれる。
幾つものかがり火が焚かれ、風が凪ぐ頃には程良く温かくもあった。
その傍らでは大ぶりの魚貝類が次々と金網の上に並べられ、炭火にジュウジュウと炙られてゆく。
トルク家の新米男爵を、海の男達が手荒く歓迎する様が続く中、その傍らでは様々な話が同時進行していた。
ショア伯の元へ集まった数名の若き騎士の中より、若きエルフの女と壮年の屈強な男、この二人が意を決した表情で歩み寄ると、ショア伯も心得たものか二人に向き直った。
「ハーベスト子爵殿の書簡は読ませて貰った。二人をよしなにとの事。それと例の一族の件だが、子爵殿も充分に理解された上での書簡であった。この海辺の地でどうこうこちらから口を挟む事は出来ぬ。寂しい話だが、それはその地の当事者同士の問題となる。もしくはエーガン王陛下のお決めになる事。だが、陛下は苛烈なお方。我等はその時が来ぬ限りは、何も出来ぬ。彼の地は我等にとってそれ程に遠い」
「そう‥‥ですか‥‥ですが、この様にお話が出来る事は、大変意義のある事と思います」
くっと唇を結び俯く女騎士は、次に気を持ち直し姿勢を正すや、いつになく丁寧な口調で胸を張った。
その傍らにある老練な騎士も、小さくそれでいて力強く頷き、無骨ながらも一礼した。
「私の方からも、御礼申し上げます」
「うむ。私からは心づけ程度など、挨拶代わりに海の幸などを書簡と共に送らせよう。二人からもハーベスト子爵殿とフレイ殿に、宜しく伝えておいて貰いたい」
「ははっ」
「はっ」
改めて一礼する二人は、先ずは一条の糸が伸びた事を確信した。それは、細く如何にも容易に断ち切られてしまう、危うげな糸ではあるが。
そんな様を、ショア伯の一歩後ろに立つ、鬼の面をつけた黒装束の女が静かに見守っていた。
一方、数名の若い男の騎士達が集まる集団があった。
そこには、鮮やかな大輪の薔薇の如く、真紅のドレスを身に纏ったメーアメーア男爵の談笑する姿があった。
「ちょっとごめんなさい‥‥」
そう言って男達を残し、その場を離れたメーアメーアは、目に付いた掛け橋を渡り、建造中のラバキン2の中へと、そしてその甲板部分へと歩を進めた。
少しだけ風が出て来た。
メーアメーアは、風を全身で感じようと、髪飾りを引き抜き、長い髪を風に晒した。
「ふぅ〜、やっぱあたしにはこっちの方が性にあってるね」
くすくすと自嘲し、星明りの下、ほろ酔い気分で船体の太い梁の上を歩く。両手を左右に大きく広げ。
「あ、いたいた!」
そんな声に下を見ると、そこには数名の冒険者達が。
「ちょっと待ってて!」
メーアメーアはドレス姿のまま、足元の梁に手をかけると、ぐるんとその下をくぐってぽ〜んと宙を飛んだ。隙間から覗くかがり火の灯りに、それは幻想的な光景だった。
スタンと降り立つメーアメーア。その上体が少し泳ぐのを、童顔のレンジャーと先ほどのエルフの女騎士が手を差し伸べて支えた。背後には暗黒の船倉がぽっかりと口を開けている。
「サンキュー♪」
倒れ込む様にして二人に身体を預ける。そして立ち上がり、にっこりと笑った。
「みんな、ありがとね!」
「いえ‥‥」
二人の背後で、チーム参加を申し込んだ鎧騎士が言葉に詰まる。その横には逃れて来た、トルク家の新米男爵の姿も。
メーアメーアは笑い飛ばす。
「そんな暗い顔をしないしな〜い☆ まだそうと決まった訳じゃないしさ! みんなのくれた手紙とか陛下に読んで貰って、考え直してくれる様に言ってみるから」
「それでは?」
「要はうちの陛下のメンツの問題なのよ。他の分国王に対して、かっこがつかない。ほら、ゴーレムグライダーなんてモノが飛び回ってるじゃない? ちょっとした話が、これまでにないスピードで、ウィル中をあっと言う間に駆け巡っちゃって、ほっときゃいいのに手紙で喧嘩みたいな事しちゃう。送り込んだあたしが結果を出せないから言い返せないのよね」
「成る程‥‥」
フッと微笑むメーアメーア。
「勝算とかある訳じゃ無いわ。でも、皆から貰ったストレートな気持ちを陛下に伝えて来るよ」
ヒュッと右の拳を突き出す。こつんと軽く童顔のレンジャーの顎に触れ、パチリとウィンク。
「さ、戻ろう☆」
メーアメーアに尻を叩かれる様、5人はゆっくりと船外へ出て行った。
「レザの海と嵐の壁だぁ〜!?」
ギル子爵の素っ頓狂な声に、壮年の屈強な男は小さく頷いた。
「そりゃぁ〜、南回りは昔から暗礁だらけで風が強く、船乗りの間じゃ決して抜けられないって言われているぜ。だからイムンで積荷を降ろし、向こうへは陸路で運ぶんだがな」
「左様で」
「逆にシムの海は沖へ出過ぎると、風も弱く霧が深い。あっと言う間に方向を見失っちまう。だから、俺達は沿岸を点々と進むわけだ。まぁその範囲であれば、水と食料といい風があれば、行ける所まで行けるぜ」
成る程、風任せと言う事かと納得した。
●シムの海に妖しげな難破船を見た!
それから、ギル子爵率いる4隻の艦隊は、メーアメーア男爵をイムン領へ運ぶ為、ショアの港を発った。
港には騎士団の艦船が大小併せて十数隻。船員の休養と補給の為に残っている。残る数倍の艦艇は、各沿岸部の防備巡回や帰省の為にと、各地に散っているのだ。
都合4隻の艦隊は、その巡察も兼ね、右手に陸を見ながら一路イムンへと南下を開始した。
その二日後。
順風満帆。逞しく風を捉えた2枚の四角帆が大きく膨らみ、旅の無事を約束してるかに思えた。
旗艦スターフィッシュ号の後部高甲板で、舵を取るギルは、その右手に広がる陸を指差した。
「ここいらがあの新米男爵の所領だな」
「あははは‥‥帰りに寄ってみたら?」
たっぷりとした真っ白なシャツが風を受けて大きく膨らんでいた。男装の麗人と化したメーアメーアは、その傍らで遠眼鏡を覗き、陸を見、そしてゆっくりと巡って左舷の沖へと。
「あら。ねぇ、あの船は何?」
「あ〜ん?」
面倒くさそうに見やるギルは、一瞥するや眉間に皺を寄せ、舵輪を任せ遠眼鏡を手に沖を見た。
「何だあれは‥‥?」
沖に向えば向うほどに霧がむせぶシムの海。その沖合い、霧の中に浮かぶボロボロの船体が。
「どうやら沖に出て帰れなかった船の様だな。ケッ、漂流してやがる」
遠眼鏡をメーアメーアに渡し、ギルは考え込む。
「子爵殿は調査に向わんのか?」
「言うな。取り合えず、あの辺は風が弱ぇ。そうだな、冒険者でも雇って調査に行くか。後でな」
「今、行かないのか!?」
呆れた口調のメーアメーアに、ギルはてめぇが居るからだろ、と言ってやりたかったが、一応分国王の名代だ。
リスクを避け、イムンに着いてからグライダーを冒険者ギルドに飛ばして貰う。
「ケッ、ショアで冒険者を拾って調査すりゃ、後で新米殿の領地を観に行けそうだぜ」
●リプレイ本文
●ショアへ
虹の残る朝開き。門が開くと同時に一行を乗せた3台のフロートチャリオットは一路ショアへ。その軽快な走りに身を乗り出し、レオン・バーナード(ea8029)は全身で風を受けた。
「うはぁ〜、やっぱりすげーなぁ!」
「おいおい、落ちますよ!」
笑いながら注意するファング・ダイモス(ea7482)に、ニカッと笑うレオン。
「大丈夫! おいら漁師だぜ! これくらいの揺れ、目を瞑ってても平気さ! でも、こんなのが2台3台って襲って来たら恐いだろうね!」
「はっはっは! そうなったら、先ず頭を潰します! この程度、このルーンソードで!」
すらりと抜き放った刀身は、薄暗いチャリオットの後部座席で、そのルーンが淡く浮き上がって見えた。
別の一台では、携帯電話やら手回し発電ライトを持ってカチャカチャと三人が頭をくっつけていた。
「‥‥消えた‥‥変な‥‥音がして‥‥」
「バッテリー切れだ」
ごそごそバックパックから取り出そうとすると、横からランディ・マクファーレン(ea1702)が。
「蒼威。本当にこんな小さな棒を回せば、光が点くのか?」
「スイッチ入れろ」
「スイッチ?」
「その黒い物を、押すかスライドさせるんだ」
「おっ!」
ピカリ丸い透明の物体が光を放つ。だがそれは直にオレンジ色の弱いものに。
「この腕輪の使い方を教えて」
「ああ」
貸してみろと言って、それを手にする時雨蒼威(eb4097)、トルク家の新米男爵殿だ。
「いいか、このリューズを引いて回す。そうやって時間を合わせる」
「リューズを引っ張り回すのね?」
スニア・ロランド(ea5929)は何度も口にして、小さな金属の突起を引っ張る。
「力入れなくていいぞ」
カチリ、空回りしてた突起が動く。すると時計の針がぐるぐる動き出した。
「動いたわ! で、どうするの?」
「時計盤の見方も判らないか‥‥」
無理もない。ここには存在しない物なのだからと内心苦笑する蒼威。ランディは黙って、ぐるぐるハンドルを回し続ける。ソーラバッテリーで携帯にチャージしながら、チャリオットはショア港へ向け、突き進むのであった。
●ショアにて
翌朝には港へ滑り込み、ごった返す朝の喧騒をゆっくりと進み、船着場へと到着する。
海戦騎士団が停泊する場所は城寄りで、一般の商船とは一線を画す。慌しく荷を積み込む四隻の軍船を前に停止し、そこでチャリオットの旅は一旦終わった。
「やあ、彼女がスターフィッシュ号ですか。噂に違わぬ美人さんだ♪」
ぽろろ〜ん♪
リュートベイルを掻き鳴らしにこやかに降り立つトリア・サテッレウス(ea1716)。
「‥‥ちょっと行って来る‥‥」
「了解〜♪」
夜光蝶黒妖(ea0163)はそのままショアの城へ向う。今や彼女は正々堂々門をくぐる身分。外門を抜け、足早に内門へと向うと、建造中のラバキン1の上から呼び止められた。
「この声!?」
立ち止まって見上げると、目的の人物は人足の間に混じり、何やら指示を出していた様子。手前の滑車に手をかけると、そこからロープの端に脚をひっかけポ〜ンと跳び下りる。すると滑車がカラカラ回り、入れ替わりに材木が上へ。
「早いな、黒妖!」
快活な声に勇んで駆け寄る黒妖。上から船大工が合図をすると、伯爵は縄から足を外した。
「我が主‥‥おはよう御座います」
「うむ。どうだ、双胴艦のラバキンだ。完成すれば、ゴーレム専用の空母となる」
「双‥‥胴艦‥‥空‥‥母‥‥!?」
伯はサッと手を挙げ、二隻の建造中の船体を示す。
「二隻を横に繋げ、広い甲板を造るのだよ。海戦騎士団においても、今後グライダーをより多く運用していく事を考え、ディアーナ号の同型艦を建造途中から改装させている。完成すればバガンやグラシュテすら艦の上に置けるだろう」
「空母‥‥」
仮面の下、複雑な表情を浮かばせる黒妖。
「お前はこれからギルの船だな」
「はい‥‥」
「そう言えば、少年とグリフォンの様子は?」
「クローニングの魔法で‥‥ゆっくり治ってますが‥‥今度‥‥トミーのまぶたをアリル殿が‥‥開ける事に‥‥」
「そうか‥‥」
「後の事はそれから‥‥決めようかと‥‥」
黒妖の言葉に頷く伯爵。
「良い案が決まらねば、お前が引き受けてはみてはどうだ?」
「!? 俺が‥‥?」
「ははは。決まらねばの話だ。回復次第、モランに言ってトミーの身柄を預れば良い。あの少年は、まだモランの領民なのだからな、一言断らねばなるまい。どうだ? お前の従者1号だ」
「か、考えても‥‥居ませんでした‥‥」
突然の話に、戸惑いながらも黒妖は用意したどぶろくを差し出した。
「それでは、俺は‥‥これは天界の‥‥お口に合うかどうか‥‥分かりませんが‥‥良ければご賞味ください‥‥」
「天界の? それは楽しみだ。ありがとう、黒妖」
伯爵はにこやかに陶器の酒瓶を受け取った。
●海ゆかば
沖は霧のむせぶシムの海。右手にセトタ大陸を望み、四隻の艦隊は真一文字に南へ突き進んだ。
この艦隊の旗艦、スターフィッシュ。これに二本マストの同規模艦ガーナード、その後方に一回り小型のシーアチン、カトルフィッシュと続く。
「さてと」
馬の世話をしてからニョルズの釣竿を持って後高甲板へと向ったランディは、その光景を眺めながら糸を垂らすポイントを考えた。設置された巨大なカタパルトが軍船である事を如実に物語る。
手頃な脚を椅子に見立て座り込む。
「さて、晩飯の足しになるかな?」
見れば下の方でも非番の船員達が釣り糸を垂らしている。
「よ〜う! 釣れてるか〜!?」
「全然でさぁ〜!」
ガラの悪い返事だ。
波を切る度、船は大きく縦に傾いだ。操舵を副長に任せ、その背後で腕を組むギル子爵。
ぽろ〜ん♪
「おう、噂に名高い天界人の天才楽師トリア殿。それにレオン殿。おやおやセーラ殿も」
皮肉めいた笑みを浮かべ、独眼の子爵は三人を出迎えた。
「ど〜も! 色々お話を伺いたく参りましたわ!」
張り切って敬礼するセーラ・ティアンズ(eb4726)。トリアは芝居がかった仕草。
「素晴らしい眺めですね‥‥これが精霊の祝福を受けた海、ですか‥‥」
「がっはっは‥‥だが、うちの騎士団は勝手に動けないってんで、港にへばりついてたんだってな? 俺は国境沿いに居たから、知ったこっちゃないが」
「いやいや‥‥ご存知でしたか‥‥」
トリアは苦笑しながら爪弾いた。
「あんた、乗ってたんだって?」
「はい♪」
「あの〜」
そこでレオンは、頭を掻きながら尋ねてみた。
「この世界で、船の所属や所有を表す一般的な方法って何でしょう?」
「そりゃぁ〜旗だな。ほれ、この船もウィルの国旗と、騎士団旗に団長旗、旗艦旗、俺の家紋‥‥」
そう言われて見上げると、七、八枚の旗がバタバタと激しくはためいていた。
「それに信号旗だ。我に、続け、とな」
「はぁ〜、なる程〜」
感心して眺めるレオン。
「後は船名だな。それでどっかに寄港した時の記録がありゃ、それである程度は判るさ。まぁ、日誌でも見つかれば、大概判るだろうがな」
「へぇ〜‥‥」
「な〜る♪」
「あ、ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げるレオン。そこへトリアがにっこりと一本の酒瓶を取り出した。
「どうぞ皆様で。海の男に相応しい、パンチの効いた飲み心地ですよ♪」
「わぁ〜☆」
「おいっ! 誰かカップを4つ持って来い!」
「あ、私が!」
ぴょんと下の甲板に飛び降りるセーラ。
ぽろろ〜ん♪ トリアはにっこり。
「宜しければ曲など進呈差し上げましょう。リクエストは御座いますか?」
●シグの沖
「リューズ様!」
キースが沖を指差すと、同行する者達が馬上でどよめいた。
「ようやく来たわね‥‥」
リューズは頭をくるり回し、かなり沖にある四隻の軍船を眺めた。
「が、用を済ませるまで上陸は無い! セシリア!」
「何?」
穏やかに応える馬上の騎士。マントを翻し傍らに馬を寄せた。
「悪いがニケに知らせて来てくれ。私はもう少しププリン様と見て回る」
「いいですわ。蒼威殿の所領は穏やかな漁村故。そろそろ馬を走らせたかった所。館まで一走りと行きましょう! グイン!」
軽く嘶き、鞭を入れるやセシリアの身体は、風の様に砂浜を駈ける。
「あれ〜? セシリアは?」
パタパタと不思議な衣裳を纏うププリンが舞い戻る。
「何でも御座いません。私が用を頼んだのです」
「ふぅ〜ん‥‥じゃあ、次はあそこの岩場へ行こっ♪」
「岩場は危のう御座いますよ」
「みんな競走だよ!」
そう言って、ぴゅーんと飛び出してしまう。
「ププリン様‥‥」
苦笑するリューズの横を。
「よ〜しっ☆」
「う〜、しふしふ〜♪」
笑いながら、さなえと瑞穂がそれっと鞭を入れ馬を走らせる。
「あらあら☆」
それを横目にエルトウィンはゆっくりと筆記用具をしまい込んだ。
●船倉
漂流船に接舷したスターフィッシュから、僚艦の見守る中わらわら船員が乗り込む。冒険者で最初に乗り込んだのはアッシュ・クライン(ea3102)、スニア、黒妖。
「これは」
一歩その甲板に脚を踏み入れ言葉に詰まるアッシュ。
そこには、バラバラの白骨がごろごろ。
上空からはシュバインとヴァンダルギオンが異常無い事を告げた。
「海賊の仕業?」
スニアの問い掛けに、黒妖は黙ってぬちゃりと異臭放つ粘液まみれの骨を見せる。それには刃が突き立った痕。
帆は焼け落ち、火矢の焼け残りもありあちこちが黒く焼け焦げている。装具の綱が鋭利な刃物で切断されてもいる。
「どうやら、戦って死んだらしいですね」
「それにしても‥‥変‥‥」
「そうだな。どの遺体も服を着ていない。この粘液‥‥何か居るかもな」
アッシュは、取り合えず船員達に中へは入らぬ様に指示を出し、交代となる。
慌てて厨房から戻ったエプロン姿の蒼威は、報告を聞き眉をひそめた。
「肉粥が無駄になるかもな」
「その時は、皆で食えば良い!」
ふわりと毛利鷹嗣(eb4844)の身体が、音も無く船の縁へ。続くファングはダダンと派手に船の甲板へ降り立った。
「ちっ、船名もフィギュアヘッドも焼けている‥‥」
携帯のカメラでそれを撮影し、蒼威はランディと共に乗り移る。
「‥‥オーラエリベイション‥‥」
ランディは、全身のオーラを活性化させ、周囲に気を配る。
「これはソードボンバーを‥‥なかなかの腕‥‥」
破壊された装具を一目見て、ファングは大体人間サイズの騎士が放ったであろう事を推測する。
いよいよ4人は船内へ。最初に船長室があるであろう箇所を目指した。
鷹嗣のヘッドランプとランディのハンドライトが照らす中、既に何者かに荒らされた船室へと‥‥
「これは‥‥?」
「B.B?」
壁に大きく、切っ先の鋭い物で円を描き、その中に抉られた文字。早速マップに書き加える鷹嗣。
金品航海日誌の類は一切無い。
「手掛かり無しか‥‥」
パシャっと記録する蒼威。
「しっ!」
その時、ランディはなにやら異様な気配を。黙って廊下を指差した。何やら、小さな泡の弾ける様な音。光の中にゆらゆらと触手の様な、青白い物が‥‥
「出たな!」
言うやファングの剣が閃き、床にぼたぼた太い触手が。
「鈍いっ!」
たちどころ人の背程もあるイソギンチャクの様な化け物を両断。体液を撒き散らし、むせる程の異臭。
「何だこれは!?」
蒼威は迷わずシャッターを切る。
「まだ来ます!」
ランディがレイピアを抜き戦列に加わった。
「なる程、こいつらが!」
幾度もフラッシュ瞬く中、脅威の解体ショー。数十匹を退治した所でアラームが鳴り、一旦船外へ引いた。
三度目は、トリア、レオン、セーラの三名。
「無理はしないわよ!」
セーラが腕時計の時間を確認する。
「こういうのってドキドキしますよねえ♪ そう思いません?」
「もうわっくわく☆」
瞳を輝かせるセーラ。レオンは色々考える。
「お偉いさんの部屋は、怪物の死骸でいっぱいか‥‥次は船倉に行ってみましょう!」
「そうね。運んでいた品で、何か判るかも☆」
「では次は船倉ですね。何か歌の題材になれば良いのですが♪」
そう言って挑む三人。異臭によどんだ空気に鼻をつまみながら、意外にあっさり船倉まで辿り着いてしまった。
「派手に暴れてくれたのが良かったですか♪」
思わずリュートベイルを掻き鳴らしそうになる手を止め、トリアは目の前に広がる異様な光景に目を細めた。
「いやぁ〜、凄いなぁ〜♪」
「すっごく、おっきい☆」
感嘆の言葉と共にセーラは目の前の巨大な白骨を眺めた。
「いったい‥‥?」
「見世物にすれば! はっ!?」
思わず脳裏で銭勘定しかけ、ハッと我に返るセーラ。
「地球の恐竜『トリケラトプス』の骨に似ています」
再度、調べに行った蒼威が戻って来ると、携帯で撮影した映像を皆で見た。
そしてB.Bの文字を見たギルが、頬を引きつらせ、唸る様に言葉を漏らした。
「むむむ‥‥海賊男爵バルーン卿‥‥」
●ギルは船を曳航して一足先に
「のどかだねぇ〜」
白い砂浜でのんびり杯を交わす巨人のリオリートと紅貴。
「ん?」
「何だよ?」
「いや、あれ‥‥」
リオリートの差す先に、一隻のボートが。
その舳先には、蒼威が立っていた。
「これが俺の領地‥‥」
眼鏡の奥で、新たな野望の炎が燃える。
「ようこそシグへ」
「お前がニケ・ヴィツールか」
眼鏡の奥で、きら〜ん☆ 及第点よりかなり上をカウントするが、臆面も出さずに手の物を差し出した。
「俺からの信の証と考えて欲しい」
「はは。そのお心に背かぬ様、努力致します」
うむと頷いた瞬間、ぽ〜んとピンクの光が飛び出して来た。
「お帰り、蒼威〜っ☆」
「プ、ププリン様!?」
「お帰りなさいませ!!」
旧1号な格好に驚いた蒼威に、集まった領民たちが一斉に声をあげた。
それからぞろぞろ館へと向い、玄関先に毛皮の敷物を敷き大鎧と太刀を飾り、庭先には野望の種、いや蔓を植えた。
その夜、蒼威はこの館で宴を開き、そこで一枚の羊皮紙を取り出した。
「今宵はお集まり戴き感謝の念に絶えない。ありがとう。ここで俺は時雨家の家紋を新たに決めた。皆、とくとご覧あれ」
そう言って広げて見せたのは、上は赤地に左に金で歯車を、右に銀で三日月を、下は青地に錨を模した文様。
そこで拍手の中、さなえに30Gの目録が渡され、セーラとレネウスには副賞が授与。実際の受け渡しは後の機会となる。アリルからもププリン子爵への贈り物があったが、流石にジーザム王への献上品は、この地では遠い為に預る事は遠慮された。