そこに11人居るっ!?
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月08日〜07月11日
リプレイ公開日:2006年07月15日
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●オープニング
●消えた!
夕闇が押し迫る頃、エルフの少年が一人、泣きながら自宅へと戻ったきた。
初めにその子を発見した若いエルフのメイドは、兄弟喧嘩か何かをしたのだろうと、屈みながら優しく語りかけ、そっと抱きしめた。
柔らかな金の髪が頬をくすぐり、ほこり混じりのお日様の匂い。付いていたくもの巣をそっとつまむ。
茜色に染まる裏庭。
和らいだ風に木々がざわめき、よく刈り込まれた芝生もさわさわと囁いていた。
「ヒースお坊ちゃま、どうかなさったのですか? 他の方々はどうなさいました?」
「‥‥な‥‥だ‥‥」
メイドは泣きじゃくる少年に、そっと囁く様に歌った。
エルフの森に プーカは跳ねるよ
悪戯シフール 角笛隠した
カンカン怒って プーカは跳ねるよ
どこに隠した 見つからないよ
メソメソ泣いて プーカは跳ねるよ
大事な角笛 見つからないよ
悪戯シフール 一緒に泣いたよ
隠した場所を 忘れちゃったの
悪戯シフール ゴメンと泣いたよ
「どうかしたのかね?」
歌の途中、一人の紳士然としたエルフの男性が声をかけて来た。
「旦那様‥‥」
メイドはそのままの姿勢で、紳士に礼の姿勢をとる。
そよそよと穏やかな風が吹く。
少年は泣くのをやめていた。
「父様‥‥」
「ヒース、泣いているのか?」
少年はぐしっと泣き腫らしたまぶたを拭った。そして、胸を張る様に立ち上がった。
「そうだ。ハトゥーム家の男は簡単に泣いてはいけない」
「はい‥‥」
静かに歩み寄ったベルゲリオン・ア・ハトゥーム子爵は、三男坊のヒース少年の頭に手を置き、乱れた髪をそっと撫でる。そして、穏やかな青い瞳で語りかけた。
「何があった? きちんと話せるな‥‥」
するとヒースは意を決し話し出した。
「みんないなくなっちゃったんだ‥‥かくれんぼうをしていたら、僕がオニになって‥‥」
「どこでだい?」
「四件先のお屋敷‥‥」
「あそこは危ないから、遊びに行っては駄目だと言ったろう?」
「‥‥ごめんなさい‥‥」
しゅんと頭を垂れる少年の頭を撫でながら、子爵は傍らに控えているメイドに指示を出した。
「メロディ。誰かをやってあの空家へ、子供らを迎えに行ってあげてくれ」
「はい、判りましたわ」
メロディと呼ばれたエルフのメイドは恭しく一礼した。
二人の騎士がそれぞれの従者とメロディを伴い向った。
「へっへっへ‥‥これはこれは、お偉い騎士の旦那方‥‥」
空家と思われていた屋敷の一画、5人のヤクザ者らしき男達と遭遇した。
「お前達に聞きたい事がある」
騎士の一人が柄に手を置いて訊ねた。
「さあて、どうしたもんですかね?」
「何が言いたい?」
「おっと、俺達は何もしちゃいないんですぜ、騎士の旦那。ただルーケイのみてぇに、悪事を働くであろうってぇ皆殺しにされちゃあ〜な。俺達はまだ生きていてえんだ。その手を剣から離しちゃもらえませんかねぇ」
「俺達は、ただ雨風をしのぎに壁の穴から入り込んだだけだ」
両の掌を見せ、じりじりと後ずさる。
床に散らばった素焼きの酒瓶や、喰い散らかした犬や猫の骨。それらを一瞥し、騎士は剣の柄から手をそっと外す。
「問題無ければ手荒な事はせぬ」
「あの! この辺りで遊んでいた子供を知りませんか!?」
メロディが、従者の間から顔を出した。
ひゅぅ〜と軽い口笛。
「訳ありの様で。エルフの旦那方‥‥」
「余計な事はいい」
男達は下卑た笑いを浮かべ顔を見合わせた。すると一人が少し難しそうな顔で手を挙げた。
「エルフのガキなら知ってるぜ。この館の中で、俺と鉢合わせしちまったんだ。びびって逃げて行くのを、ちょっと追っかけてやったら‥‥」
えへへへ‥‥と口の端に薄笑いを浮かべ、そこで口を噤んだ。
「また、ホラ話かよ‥‥」
「どういう事ですか?」
仲間の四人は軽口をたたきながら馬鹿にする。
「嘘じゃネェ! エルフのガキが10匹はそこら居たんだ!!」
「それで?」
「おいおい、こいつの与太話は‥‥」
騎士は、横から口を挟む者達をキッと見据えて黙らせた。
「そのエルフの子供を11人程探しに来たのだ。男!」
「へぇ」
手もみしながら前へ出る男に騎士がじっとねめつけると、男からは次第に薄ら笑いが消え、最後には黙り込んだ。
「話の続きを‥‥」
騎士に即され、男は語り出した。
「地下の穴へ落ちて行った‥‥」
悲鳴にも似た言葉が、メロディの口から漏れる。
「その穴を案内して貰おう。他の者は消えよ。一度だけ見逃す」
「こりゃ、旦那方。ど〜も‥‥」
「へへへ‥‥」
頭をぺこぺこ下げ、男達は去った。
屋敷の崩れかけた一画。子供ならすっぽり入りそうな穴が、地下の暗がりへと続いていた。
「ここにご子息達が‥‥」
「このスカーフ!?」
「間違いありません! ここにきっと!」
白い木綿のスカーフには、小さく家紋が刺繍されている。
地下には酒樽が、かなりの数残されている様子。小さな跡が、その樽の上に幾つも残っている。
中へ声をかけても返事は返らず、この館の地下室への鍵をこじ開け、カンテラ片手に地下へもぐった‥‥
●白い!
緩やかなスロープを下り、大きな保存用の酒樽が並ぶ、天井の高い縦長の広間に出る。
途中にあった、幾つもの小部屋は空。
名前を呼びながら、奥へと進むが一切返事が無い。
「卿!」
床を指す従者。無数の小さな足跡。そして奇妙な足跡が更に無数。
「これは一体‥‥?」
メロディは子供等の名を叫びながら、更に奥へ。その時、ふと違和感を感じその場で立ち止まった。
その様子に気付き、カンテラを持つ従者がメロディに歩み寄る。
「どうした?」
「あの‥‥あれ‥‥」
そこから左右に細い廊下が伸び、その向こうから何やら乾いたカラカラと乾いた音が。
耳をそばだてるメロディ。目を凝らしその一方の暗闇を覗き込む。残る片方を先程の従者が。
「何をしているのです?」
「しっ! 静かに‥‥」
「あ、あれは‥‥」
その頃には、全員に音が聞き取れる。
騎士はゆるりと抜刀。
次第に大きくなるこの音。刀身を縦に前へ出る。
暗がりの中で何かが蠢くのが判った。目を凝らす。
「あれは!?」
彼等の目に映ったのは、薄暗い闇の中、白く浮き上がる髑髏の群!
それはゆっくりとこちらへ。
騎士は右左正面と見据えた。
「カオスか‥‥下がれ! 下がるんだ!」
突き放す様に、従者やメロディを押し返す。
「こいつはソードでは骨が折れそうだ」
「いいや、骨を折るならハンマーだぜ」
軽口を叩きながら、二人の騎士は肩を並べ後ずさる。
それは反身の錆びた刀を持つ、骸骨兵士の蠢く群。
ぎこちない動き。すっかり身の削げ落ちた白い骸骨は刀身をゆらゆら揺らしながら、小走り程度の速度で歩み寄る。
チリンと弾き、返す刀で切り付ける。ギャリンと火花を散らし、骨に刀身が滑った。
「こいつは骨だ!」
「見れば判る!」
「オーグラどもへ、スープの出汁に売ってやろう!」
「駄目だ、安く買い叩かれる! ついでに肉はその場で調達だ!」
「はははっ、違いない!」
数合打ち合わせてから、先頭を蹴り倒し、仲間に脚がもつれるその一瞬に、一気に後ろに下がった。
●リプレイ本文
●そこに11人居る!?
ウィルの貴族街、ベルゲリオン子爵の住まう館から四軒先の四辻にある四件の館が固まった一画。そこへ赴いた冒険者は、空家となった広大な館群の中へ、そこに陣取る子爵の元へと集った。
住まう者を失った邸宅という物は、それがほんの数年で荒れ、今や酷い有様である。
屋根に巨大なロック鳥が舞い降りると、メキメキ悲鳴を上げ、苔や雑草の生えた屋根材がバラバラと舞い落ちた。
割れたタイルを踏み砕き、戸口をくぐると、ソファに横たわり半分鎧を脱がされた状態で手当てを受ける子爵と出会った。血の滲む白い包帯も痛ましく、顔をしかめていた。
「君達は?」
「ギルドから参りましたわ」
「おっと‥‥」
こちらを見やる子爵に、セーラ・ティアンズ(eb4726)はファング・ダイモス(ea7482)の巨漢の腰辺りからひょいと顔を出してみせた。
「ああ、この間の」
「またご依頼を受けさせて戴きますわ、子爵様。宜しくお願いしますね」
ペコリとお辞儀するセーラ。
「ま、子供達の為におねぇさん達、頑張っちゃうか、ってとこさね」
そんなセーラの肩をポンと叩き、左目に眼帯をした女、ブラッグァルド・ドッグ・ブラッド(eb4267)が微笑みながら踏み入り、両手を腰に当てその場を見渡した。
「どうやら、一戦闘終えたところみたいね?」
「うむ。何体かは倒したものの、こちらもこの通りだ」
子爵の向こう、手当てを受けている騎士やその従者達。
「ああ、そのままそのまま」
無理に起き上がろうとする子爵を制し、アレス・メルリード(ea0454)は傍らに腰を落とす。
「まず、その11名の子供の名前や外見、年齢、性別、容姿、服装など探すヒントになりそうな事を教えて戴きたい」
「年齢は25歳のアマンダを頭に五女のナンディが14歳になったところだ。次に長男のアルター、次女のアストランティア、次男のグリニス、四男のレジナード、五男のリチャード、三女のシオ、四女のハーベス、六男のヴァン、七男のランディ、そして最後に五女のナンディ。大体1歳違いだな」
「みな、子爵様に面差しが似てらっしゃいます」
手当てをしていた侍女の相槌に頷き、子爵は自分の顔を指差して、ぐるりと輪を描いた。
「こんな雰囲気だ。面差しにハトゥーム家の血が良く出ている」
「成る程‥‥」
「この顔が‥‥」
全員でじっと子爵の顔付きを見つめた。
●エルフの少年ヒース
次には、ある物を持って来て貰ったヒース少年を囲んだ。
「なぁに、子供と言う物は『ダメ』と言われれば行きたがる物じゃの。なに、男子ならば、むしろ元気が良くて結構じゃ♪ ほれ、『非常食』、ご挨拶じゃ」
くすくすと微笑みながら、エルフの鎧騎士、エトピリカ・ゼッペロン(eb4454)は両手に愛犬の茶色いダッケルを抱えてご挨拶。音無響(eb4482)も愛犬のボーダーコリー、黒毛のハルを、そのお腹をさすりながらご挨拶。二匹とも、ハアハアと舌をべろ〜んと出して、尻尾を元気にふりふり。す〜っかり、リラックスモード♪
「さて、ヒース君。お友だちは絶対助けるからね。ほら、この子も手伝ってくれるし」
三男坊のヒースは、ちょっと変な顔をして響に向き直った。
「お友だちじゃないよ。兄弟だよ、お姉ちゃん」
「え? あははは‥‥ごめんごめん。でもね。その‥‥俺、お姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんだから」
「え?」
ぽんぽん。
「あ、ある‥‥」
「@&$%#!!?」
真っ赤になって跳び上がる響。そんな様をエトピリカはあっけらかんと笑った。
「あ〜っはっはっはっは! ハトゥーム家は安泰じゃね☆」
「あ〜っはっはっはっは! ‥‥ん?」
一緒になって笑っていた天野夏樹(eb4344)は、メモしたハトゥーム家の兄弟達の年齢を眺めながら、目の前に居る見た目人間の7、8歳くらいのエルフの少年に目をまん丸にした。
「ヒース君って‥‥20歳前後って事はあたしより年上じゃないっ!?」
それから響が気を持ち直すのを待ってから、二人は持って来てもらった、兄弟達の持ち物の臭いを二匹に嗅がせた。
●地下突入!
閂を外し、両開きの扉を開くと、閉ざされた地下室特有のかび臭い匂いに、血の匂い。床一面に砕けた骨が散乱し、ところどころに血が滴っていた。
その一つを跪いて手にし、龍麗蘭(ea4441)は赤い髪を振るう様にして立ち上がった。
くんかくんか。うへぇ。
「この骨、スープの出汁にしても美味しくはならなそうね」
苦笑しながら骸骨兵士の残骸を放り捨て振り返る麗蘭に、南無‥‥と唱えた一文字羅猛(ea0643)が手を合わせながら頷いた。
「参ろう」
足元に置いたラージハンマーを持ち上げ、肩に担ぎ、肩から吊るしたヘビーシールドを持ち直す。
「メロディが、突き当たりには誰も居なかったと言うておったな」
「じゃあ、俺達は右にあるという細い通路を調べるか?」
魔力のある月桂樹の木剣を手に、アレスは同じチームのブラッガァルド、夏樹、響、セーラらに同意を求めた。
「いいんじゃない」
ブラッグァルドがシニカルな笑みを浮かべ、残る三人も微笑みで答えた。
「ならば、俺達は左の通路だな」
ずいとこれまた巨大な鉄のハンマーを手に、巨人のファングが少し頭を屈ませる様に、地下へと踏み込む。バキリ、足の下で骨の砕ける感触。その乾いた音が、異様に地下室に響いて聞こえた。
パチリ、セーラのヘッドランプが闇を照らす。
「さて、こっちも充分に充電した筈だが‥‥」
ランディ・マクファーレン(ea1702)が手回し発電ライトを取り出すと、エレメンタルフェアリーのエルデがにこにことそれにまとわり付く。
「こらこら」
「エルデ持つ☆」
「駄目だ駄目だ」
パチリとスイッチを入れると、これで光源は二つ。更に三つ四つと増えて行く。
しゅんとなるエルデは、ぷ〜んとバックパックの中に引きこもってしまった。
「かっかっか、怒りんぼ〜♪」
「良いんだ。行くぞ」
この寸劇にカラカラとエトピリカが肩を叩く。
が、素っ気無い態度で抜刀し、ランディはずんずんと先に進んだ。
●右へ参ります
「行くよハル! 子供達の匂い感じたら教えるんだよ」
くるくる匂いを嗅いでいたハルはやおらトコトコと走り出す。
「ハル、ゴー!」
これを追って5人は走る。セーラのヘッドライトが照らし出す薄暗い空間。
その向こう、何やら白く蠢く物が。
「ストップ! ハル戻って!」
響はメイスとライトシールドを構え直す。するとハルが駈け戻って来て、足元にまとわりついた。
「ハル、シット! 俺、初めてのダンジョンだから、緊張するなぁ! セーラさんや夏樹さんは平気!?」
「緊張緊張♪」
一歩下がったセーラは短刀を構え、夏樹も目を輝かせてメイスを持ち直す。
「平気じゃないけど!」
「行くよ、夏樹!」
闘気をまとうアレスの声に、ペロリ舌なめずり。
「ひっさぁ〜つ!! しんじょ〜だほ〜!!」
奇声と共にぶんぶんメイスを振り回すや、夏樹はアレスの後に続く。
「俺は右!」
「うわっ、キモ! でも、私は左〜っ!」
二人が並ぶと、この廊下はもういっぱいいっぱいだ。
「おっと、やる気まんまんだね!」
キューピットボウを構えながらも、カラカラ笑い背後を警戒するブラッグァルド。
たちまち骸骨戦士と打ち合うアレスと夏樹。
「ほおむらん!!」
カコ〜ンと、景気の良い音が、この闇一色の世界に響き渡った。
●左へ参ります
無数の小さな足跡が闇の中へと消えていた。
「ゆけぃ、非常食!! この暗闇こそぬしが働きの見せ所ぞ!!」
この声に送り出された愛犬「非常食」は、数分後、尻尾を巻いてエトピリカの足元にうずくまった。
「ふはっ!!」
先頭を行く巨漢が一人、その体躯で光を遮りながらも狭い廊下。ファングは動きを最小に、的確な打撃で骸骨戦士を打ち砕いて進む。
「ほぅあっ!!」
「いやぁ〜、すごいよね〜」
少し離れて後ろに続く麗蘭は、アイアンナックルをカチ鳴らしながら、その様を眺めた。ファングの動きは、巨人のそれとは思えぬ程に鋭く、洗練されたもの。驚く程に無駄の無い動きで、的確に破壊する様は、剣を並べ戦う者にとって頼もしくもあり、嫉妬を覚える程でもある。
「へあっ!!」
やがて、骨の砕片を撒き散らし、一方的な破壊が止む。
「何と凄まじきものよ‥‥南無‥‥」
骨の山を後に、かつては人であったであろうモノ達へ、しばし手を合わせ羅猛は祈った。
「羅猛‥‥」
「判っている‥‥」
エトピリカに促され、羅猛はその場を離れた。
ランディの持つライトが、下へと続く階段を照らし出す。
ばうばう!
非常食がその前でくるくると回った。
「むぅ‥‥子供の足跡が、駆け足で階段に向っている」
「そんな事が判るのか?」
ファングの言葉に、ランディは少し驚いた。
「足跡は小さく子供の物である事は明白だ。そして歩幅と、つま先だち踵に重心がかかっていない。つまりは走っている事がわかる。そして人数も‥‥恐らく5、6人だと言っている」
「半分か‥‥」
「誰かが灯りを持っている様だな。でなければ、手探りで進んでいたろう。そうでなければ、あの骸骨兵士にやられていた筈だ。子爵殿の子供は、皆目端が利いてすばしっこい。下に行こう‥‥」
「‥‥産みも産んだり11人か」
「違う違〜う。ヒース君を入れれば12人だし、本国に帰ればまだまだって噂♪」
苦笑するランディの頬を凍りつかせる様に、エトピリカはクスクスと笑った。
「奴は本当にエルフか?」
「愛情が深いんじゃ?」
「そっか! 愛情だね! 子爵様、やる〜っ!」
「しっ‥‥」
ファングが鉄の手袋をした左手で、静かにする様に口元で人差し指を立てる。
慌てた麗蘭は、目を真ん丸くして、両手で口元を押えた。
「南無‥‥」
●下へ参りました
巨人の身体がすっぽり収まる程の、細長い階段を降りると、少し広い廊下へと出た。
「アマンダー!!」
「アルター!!」
「アトランティアー!!」
時折大声で子供達の名前を呼びながら進むと、少し開けた部屋へと出る。ちょっとしたホールだ。
この階では、モンスターの類はまだ見ていない。
「グリニース!!」
「レジナード!!」
「リチャード!!」
ライトの灯りが、暗闇を切る様に伸びる。
「しっ!」
「何だ?」
セーラが皆を制止すると、かなり向こう、一条の光が。
ほうと息を吐く。
「なぁ〜んだ、ランディ達だわ」
向こうも巨躯が手を振って来た。
ハルがぴゅ〜っと走ると、向こうからも茶色い非常食が駆け出し、突然に吠え出した。
「何?」
「見つけたんだ!」
響の叫びと共に駆け出す5人。向こう側も駈けて来る。
が、そこで二匹の犬は、尻尾を丸めて駈け戻る。
「待てっ!」
エトピリカの制止する声にも関わらず、ファングとランディは武器を掲げて吼えた。
柱の影から、数体の骸骨兵士が、まるで幽鬼の群の如く音も無く滑り出る。
「ちっ! 集まって来たみたい!」
舌打ちし、麗蘭が軽いサイドステップで身構えると、横合いの暗がりから代わり映えの無い骸骨兵士が切りかかる。
「灯りを中心に!」
「心得た!」
ハンマーで武器ごと相手の腕を吹き飛ばし、勢いのまま頭から叩き潰す羅猛。
パーリングで相手の斬撃を反らし、麗蘭もランディを追う。
エトピリカはショートボウでいつでも受けや払いが出来る様ファングのすぐ後ろ。
「水の匂いだ!」
「成る程そういう事か!」
ファングの声にランディも肌で湿気を感じ、その場へ駆け込むとイカサマそこには石造りの水場がある。そこへ、セーラやアレスが駆け込んだ。
「近いわね!」
「どこだ!? 迎えに来たぞ!」
「そこ!」
セーラのヘッドライトが照らした一角、鉄の錆びの浮いた鉄鋲のある扉が、僅かに開き、そこから幾つもの目がこちらの様子を窺っている。
「皆、助けに来たよ!」
ファングの呼びかけに、一瞬その扉は開きかけるがそれを遮る様、暗がりからぬっと数体の骸骨兵士が進み出る。
「邪魔だ!」
「どけ!」
「ほおむらん!!」
横から夏樹が飛び込み、見事にクリーンヒット☆ 頭蓋骨はカタカタ言いながら壁に叩き付けられ粉々だ。
「ハトゥームさん家の子!?」
「そ、そうです!」
閉ざされた扉の向こうから、少年少女の歓声が響いた。
転がる様に扉に背を預ける夏樹。
「私達、お父さんに頼まれて探しに来たんだよ! 早く帰ろう!」
「本当に!?」
問い返す声を掻き消す様、ファングの大声が響く。
「そこに11人居るのか!?」
「居るみたい!」
辛うじて聞き取り、夏樹が変わって答えた。
次々と飛び込む様に集まり、扉を中心に半円形の防御陣型をとる。
「よ〜し! 帰ったらお姉ちゃんが美味しい物作ってあげるから、今は出ておいで!」
麗蘭の声に、ようやく恐る恐るに扉が開き、小さなエルフの子供達がぞろぞろと姿を現した。
「みんな、手を繋いで! お姉さん達についといで!」
「「「はい!」」」
ブラッグァルドは手近の子の手をぎゅっと握り、両脇をエトピリカとセーラが守る。
この全周をぐるっと守りゆっくりと動き出す。後は地上を目指すだけだ。
「非常食!」
「ハル!」
ほぼ同時、二匹の犬は全く逆方向に向って走り出した。
●地上へ
長いスロープを駆け抜けると、扉の向こうにはハトゥーム家の面々が満面の笑みで待ち受けていた。
「お父様〜っ!!」
「お前達!」
見る間に押し倒され子供達の下敷きになる子爵。
この様を、暗闇から帰還した冒険者達は微笑ましく眺めた。
「全員、いらっしゃいますか!?」
メロディは涙で曇る目で人数を数える。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二! 全員いらっしゃいますね!?」
ブラッグァルドは、この時の為に用意しておいた高級葉巻の端を噛み千切り、ライターで火を付け、達成感と共にその両の肺一杯に紫煙を吸い込んだ。
「あーっ! 労働の後は格別に美味いな♪」
満足の笑み。全身で伸びをした。
その傍ら。
「よ〜しよしよしよし♪ 良くやったぞ非常食♪」
「ハル♪ ん〜、えらいぞハル〜♪」
ペロペロと舐め返し、二匹はパタパタ尻尾を振り、喜びの余り飼い主の胸元におしっこを漏らす。
「だけど、あのモンスター、スカルウォーリアーみたいだったけど‥‥」
セーラは表情を曇らせ、傍らの巨人達を見上げた。
そこへ、ヒースが飛び込んで来た。
「みんな、無事だったんだね!?」
「ん!?」
皆、妙な顔をして子供達を見た。