竜の力を継ぎし者〜山の民のもてなし
|
■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月01日〜08月06日
リプレイ公開日:2006年08月09日
|
●オープニング
人と竜との和平を進める中心人物の1人、ハーベス・ロイ子爵を依頼人とする依頼が、冒険者ギルドに張り出された。
──────────────────────────────────
チの国の学師、サフィオリス・サフィオン卿の助言に基づき、
シーハリオンに向かう『竜との和平団』の随行要員を募集する。
我等、竜との和平団の本隊は、竜の眷属たるナーガ族との接触を図るため、
山の民との交渉を行う。
随行要員の仕事は、シーハリオンの麓に住む山の民のもてなしである。
交渉の成功を期すべく、山の民を手厚くもてなしていただきたい。
歌、踊り、料理その他、それぞれの特技を生かし、
交流の宴を盛大に盛り上げていただきたい。
但し、山の民には酒を嗜む風習無き故、酒だけは御法度である。
なお、山の民が竜の使いと崇めるナーガ族も、宴に現れる可能性あり。
ナーガ族へのもてなしも、忘れることなきよう願う。
──────────────────────────────────
ウィル辺境での言い伝えによれば、山の民はいにしえの王族の末裔。遙か昔の戦乱の時代にその国を捨てて、どこの国の領土にも属さない聖山シーハリオンの麓に移り住んだと言われている。
その生活は極めて質素。山の獣の毛皮や薬草を塩などと交換するため、辺境の町に下りて来ることもある。物々交換には山で採れた砂金を用いることもあるが、人の手で作られた金貨や銅貨は決して受け取らない。貨幣を不浄なる物と信ずるが故である。また、山の民には酒を楽しむ文化が存在しないようだ。
ナーガ族はやはりシーハリオンの麓で暮らす、竜の末裔とも言われる誇り高き異種族。その男性は人間に似た身体に竜の頭を持ち、女性は人間の上半身に全長5mにもなる蛇の下半身を持つ姿をしている。男女いずれも全身を堅い緑色の鱗に包み、広げれば3m程になる翼を背中に生やす。また口から炎を吐き、自分と同じサイズの人間型生物に変身することもできる。
ナーガの一部には竜語魔法の使い手がいて、彼らは魔法の力で身体を強化したりドラゴンに変身したりする。
ナーガの性格はいたって温厚だが、自衛のための戦いに臆する事はなく、怒りが頂点に達したときのナーガは極めて凶暴だと言われている。
『竜との和平団』とその随行者を乗せたフロートシップは、先ず王都より大河に沿って西に向かい、さらにセレ分国の領土上を通過。そして、いずれの国にも属さない中立地帯であるシーハリオンの麓へと達する。フロートシップの速さからして、王都を発った次の日には到着していることだろう。
そして一行は、その土地に存在する山の民の村を訪れるのだ。ナーガ族との交流を持つ山の民に、ナーガとの仲介を求める為に。
●リプレイ本文
●船の中で予行演習
「そうですね。山の民やナーガとは友好的にしないといけないのですが‥‥」
呟いたきり、セレス・ブリッジ(ea4471)は考え込んでしまった。依頼の内容は理解したが、友好的にするには具体的に何をしたらいいのか?
「もてなすということは、相手に不快な思いをさせないことが肝心‥‥ですよね?」
「それは、私も同感よ」
と、冥王オリエ(eb4085)が言う。
「でもね。たとえ言葉が通じたとしても、異文化間の交流は最大限の配慮が必要よ。禁忌とされている言葉を一つ放っただけで、命の危険に晒される場所などいくらでもあるのだから。地球でさえそうなのだから、異種族の存在するアトランティスでは尚更よ」
彼女の話を聞いて、一同は気を引き締める。
「山の民について言えば、タブーは酒に貨幣。他にも問題がありそうな物品や言動がありそうなら、予め先達に確認して取り除いたほうがいいわね」
冒険者の中で山の民と会ったことのある者といえば、ヴェガ・キュアノス(ea7463)がいる。以前の依頼で見た彼らの様子を、ヴェガは仲間達に話して聞かせた。
「もっとも、わしはまだ山の民を訪れたことはないからの」
やはり一番の先達といえば、チの国の学師サフィオリス・サフィオン卿であろう。長いこと山の民の村で暮らした経験のある彼は今、冒険者達と同じフロートシップに乗っている。
オリエ達はサフィオリスに会いに行き、その指導を求めると、彼は快く承諾し、提案した。
「船が目的地に到着するまで時間があります。今のうちにたっぷりと予行演習を積んでおきましょう」
そして予行演習は始まった。対面のセレモニーでの口上から、もてなしの宴会の出し物に至るまで。
「踊りに関しては、今まで培ってきたものを見せる以外にないわね。あまり扇情的だったり激しすぎたりするのはやめて、優雅でかつ明るく楽しい踊りをやってみましょう」
と言って、割と露出度の高い衣装を着たシェリス・ファルナーヤ(ea0655)が、ジ・アースの故国イスパニアで親しんできたジプシーダンスのステップを踏み始める。途端にサフィオリスから物言いがついた。
「今の貴方の恰好も十分すぎるほど扇情的ですよ。それに向こうは山の上だから、その恰好では寒いです」
それではと、シェリスは船室の衣装棚から薄手のドレスを引っ張り出して重ね着し、手にはひらひらの布を持つ。
「これで、どうかしら?」
サフィオリスはにっこり笑う。
「いいでしょう。それなら大丈夫」
「はい。では、ミュージック、スタート!」
オリエの掛け声で、演奏が始まった。
ポロン♪ ポロン♪ ポロン♪ ポロン♪
リュートベイルの音に合わせて舞い踊るシェリス。一通り踊ると、リュートの弾き手のイコン・シュターライゼン(ea7891)に注文をつけた。
「メロディーがスローだし、ちょっと単調だわ。もっとテンポを早くして、曲にもメリハリつけて」
「こうですか?」
注文に応じてリュートを爪弾き始めたイコンたが‥‥。
ビィ〜〜〜〜〜ン♪
突然、リュートの弦が突拍子もなく奇妙な音を立てた。
「‥‥あら?」
「すみません。指がひっかかりました」
はっきり言って、弾き馴れていない。
「では、代わりに私が」
言って、横笛を吹き始めたセレス。
ピロロ♪ ピロロ♪ ピロロロロ♪
最初のうちは良かったが、シェリスの舞いのテンポが早まるうちに、メロディーが踊りに追い付かなくなり、ついに調子外れな音を上げた。
ピィ〜ヨヨヨ♪
一瞬、皆は唖然とし、そして吹き出す。
なにせ、イコンもセレスも本職のバードという訳ではない。
「すみません。到着するまで、猛練習します」
と、セレスともども皆に約束するイコンであった。
●天界料理
来栖健吾(eb5539)は船の調理場で奮闘中。割烹着と三角頭巾が手に入れば、おさんどんの格好で料理に励もうと思ったが、いきなりそれは無理。
「接待かぁ〜。オレの料理したものを気に入って貰えると良いなぁ」
作ろうとしているのは天界料理。ハンバーガーにサンドウィッチにサラダにジュース。しかし挽肉を用意するのに、早くも悪戦苦闘することになった。なにしろ、この世界の肉挽器の使い勝手の悪さときたら。馬鹿でかい鉄製で、やたらと力がいるし、後のお手入れも大変。ジ・アース人のヴェガが手伝ってくれたのは、大いに助かった。
「これがマヨネーズだよ」
サンプルとして、天界アイテムの使い捨てパック入りマヨネーズを味見してもらう。
「マヨネーズとな?」
「卵と酢と油で作るんだ」
とは言っても、酢の味も油の香りも慣れ親しんだ地球のものとは違う。色々と混ぜ合わせる比率を工夫して、何とかマヨネーズと呼べるものには出来上がったが。
数々の苦闘を乗り越え、やっとこさ作った天界料理を、船の中で皆に振る舞う。
「さぁ、食べてみてよ! 美味しいゾ☆」
皆は料理に手を伸ばし、顔を綻ばせる。
「うん、おいしい!」
「これが天界の料理ですか」
しかし、試食した健吾は、
「ん〜?」
小首を傾げて唸ってしまった。とにかく味がやったら濃い。
今は食物の傷みやすい夏場。だから市場で売っている肉は、もっぱら塩をどっさり擦り込んだ塩漬け肉。レタスの味も地球で食べ馴れたそれと比べたら香りがきつい。
「どうしたのじゃ? 味は上々に思うぞえ」
料理を手伝ってくれたヴェガは健吾の腕前を褒め、自宅から持参した手料理を勧める。鶏肉の香草チーズ焼き。チーズとハーブと魚の身を混ぜ合わせ、そのディップをサンドしたパン。そして、チーズとベリーのタルト。当然ながら、これもみんなこってり味。ハーブの香りも強烈。だって夏場だもん。
健吾はぼそりと呟いた。
「地球の味が恋しいよ〜」
あっさり味のハンバーグは当分の間、おあずけだ。
●友好の宴
やがてフロートシップは目的地に到着。迎えに現れた山の民と友に、竜との和平団の一行は山の民の村へ向かい、船の着陸した広場では宴の準備が始まる。
「待て! 待て! 待てぇーっ!」
早々にニワトリが篭から逃げ出し、それを健吾が追いかけている。新鮮な肉が必要なら、生きたまま運ぶのが一番いいわけで。
突然、見慣れない人影がフロートシップの間近に現れた。‥‥いや、ヴェガだけは彼らを知っていた。いつぞやシーハリオンの間近で見た、山の民の祈祷師風の男に、その連れの黒髪の女性。
「おぬし達は、いつぞやの‥‥」
「しばらくぶりだな」
声をかけたヴェガを、男は覚えていた。彼らは人間に化けたナーガ。人界の監視者を自認する者達だった。
やがて和平団の一行が村から戻り、監視者達との話し合いが始まった。話し合いは順調に進んだようで、間もなく監視者達は広場から姿を消した。
宴の準備も滞りなく進む。
持ち込んだお肉の香ばしい匂いが漂い始めると、山の民の若者達や子ども達が、料理の様子を見にやって来る。おいしい匂いだけでなく、珍しいお客人への好奇心も手伝って。
「アギャ!? アギャーッ!!」
なんと、山の民の村で世話になってるドラゴンパピィまでやって来た。
「はいはいはい、料理の邪魔にならないように、離れていてね」
それまで荷物運び薪割りをしていたリィム・タイランツ(eb4856)が、パピィの手を引っ張って連れて行こうとするが、パピィは新しい玩具を見つけたとばかりにリィムにじゃれつき、回りの子ども達もはやし立てられ。
この辺りの土地ではパラの種族を見かけないせいか、子ども達はパラのリィムに親近感を抱いているようだ。
見かねてルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が助けに入ったが、彼女もいつの間にかパピィの玩具に。子ども達には受けるが、仲間の手伝いは行くに行けない。
「困ったわね‥‥」
呟いて野外に設えられた調理場を見れば、山の民の若者や娘達がこまめに手を貸している。これなら心配はないだろう。
「では、我ら竜との和平団と山の民との友好のために、乾杯!」
和平団代表グラン・バグの挨拶で宴は始まった。打ち鳴らされる杯の中味は水。
やがて会場となった広場に、優雅なメロディーが流れ始めた。リュートの名器「バリウス」を奏でるのはケンイチ・ヤマモト。下手な演奏で袋叩きになっては大変と案じていたイコンとセレスも、ほっと胸をなで下ろして伴奏に加わった。
メロディーは次第にテンポを早め、ここで舞姫シェリスが登場。そのパートナーは飼い猫のミー。風のように軽やかに舞い踊るシュリスに、彼女の身につけたドレスのひらひらにじゃれつくミーの姿は、あたかも一緒に踊っているよう。
「アギャ! アギャ!」
好奇心に駆られたか、ドラゴンパピィまでシュリスに近寄ってじゃれつこうとする。それをリィムとルエラが押し止めようとするが、その姿もまた一緒に踊っているようで、見守る皆は大笑い。
「よーし! あたしも!」
何を思ったか、一人の娘が飛び出して踊り始めた。冒険者達に同行していたナーガのフレイである。人間に変身していたその姿がぶあっと膨らみ、下半身大蛇の姿に戻ってパピィと踊り始める。さらに背中の翼を使って空へ舞い上がる。その姿は大きなどよめきを呼び、健吾はその姿についつい見とれてしまった。
「すっげぇ‥‥めちゃ格好良い」
●歌声は響く
ダンスが一段落すると、宴の車座の中央にオリエが進み出る。
「ではここで、私の故郷の歌を披露させて頂きます。まだまだ未熟な歌い手ですが、心を込めて」
一礼し、オリエは歌い始める。春夏秋冬の山を歌った童謡に民謡。一曲歌うごとに皆はしんと静まりかえるが、歌い終わった後の歓声は、彼らの満足と次の歌への期待を物語っている。
盛り上がってきたところで、オリエは自分の十八番の演歌を披露。コブシを効かせての熱唱は皆の心を打ち、一層大きな歓声が返ってきた。
「では、わしも歌おうぞ」
族長が立ち上がり、歌い始めた。
「オー♪ オーオーオー♪ オーオー♪」
続いて山の民の者達が一人また一人と立ち上がり、共に歌い始める。。
歌詞もなく、伴奏もないコーラス。しかしその歌声は空を飛ぶ竜の姿のように力強い。
その見事な歌いっぷりにオリエは感激。
「お見事でございました」
コーラスが終わると、思わず右手を差し出していた。握手の習慣を知らないようで、族長は最初とまどったが、オリエが身振り手振りで示すとようやく理解。堅くオリエの右手を自分の左手で握りしめる。そして皆の歓声が二人を包む。
今が贈り物を差し上げる頃合いだと思い、ルエラは『大樹の盾』を携えて族長の前に進み出た。
「この盾を、山の民との友好の証としてお贈りしたいのですが、受け取っていただけますか?」
随所に生き生きとした葉と枝のついた魔法の盾を、族長はがっしりした手で受け取った。
「友好の証、しかと受け取ったぞ」
その盾を頭上にかざして皆に示す。山の民は大歓声でこれに応えた。
●竜の物語
一人の男が悪魔と手を結び、竜の宝を奪い世界を滅ぼそうとした。
宝を奪われた竜は怒り、人の街に攻め入った。
人は様々な苦労の末に竜の怒りを静め、
人達は竜の協力の下に男と悪魔を討った。
「その決戦の時、竜と共に戦う栄誉を与えられた一人が僕です」
ジ・アースでの冒険談を語り終えると、イコンは深々と一礼。
「本当なの? 本当に竜と一緒に戦ったの?」
山の民の子どもが熱心に尋ねてきた。
「みんな本当の話です。他にも色々な冒険をしましたよ」
お手製のタルトを子ども達に配っていたヴェガが、子ども達に促した。
「今度はおぬしらが良く歌う歌や、良く知っているお話を教えてはくれまいか?」
その求めに応じて子ども達が教えてくれたのは、竜に懲らしめられた悪い男の歌や、精霊同士の諍いを丸く治めた賢い王子の歌。皆、この土地の伝承を歌ったものだ。
別の子どもは、こんな物語を聞かせてくれた。
ある所に、竜に憧れる男がいた。
男は聖山にいる竜を尋ねた。
どうしたら自分は竜になることができるかと。
竜は答えた。修行の旅に出て100の試練を乗り越えよと。
男は竜の言う通り、試練の旅に出た。
しかし100番目の試練で、ついに男は命を落とした。
男は死んだがその魂は天に昇り、そして竜へと生まれ変わった。
「その話は本当ですか?」
イコンが尋ねると、子どもは真剣な顔で答える。
「本当の話だよ。大きな試練を乗り越えた魂は、竜に生まれ変わることができるんだ」
●竜の力
いつしかエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は、水の杯を酌み交わしながら族長と語り合っていた。
「金銭は争いを起こし、人の本質を歪ませ、時には人の罪さえ赦してしまうものです。しかし俗世に生きる自分達は、金銭を仲立ちとした交流で生きているのも認めなければいけない事実。
人は竜ほど崇高で力強き存在ではありません。それでも自分が不浄で弱き存在であると自覚した上で、清く正しくあるよう努力する事を忘れてはならないと。
これが不浄な世界に生きる、わたくしの考えでございます」
「そもそも竜は金銭など必要とはせぬ」
と、族長が答える。
「金銭の力は竜の力とは非なるもの。その力を求め過ぎれば、人は必ず身を滅ぼす。竜の力とは即ち、自然たることの力。自然の流れに従うことにより身につく力なり。竜の力に従うことが、我ら山の民の選んだ道なのだ」
いつしか、エデンは自らの悩みを打ち明けていた。
「わたくしが最も危惧しているのは──人々が竜や精霊、目には見えぬものの恩恵を忘れて、驕り高ぶり世界の均衝が崩れる事です。自国に力を集中させるご意向の陛下の直臣でありながら、調和とバランスを唱えるのは間違っているのでしょうか。ひとつの力が強すぎると、均衡の守り手ヒュージドラゴンの裁きを受ける事にもなりましょう」
「そなたは間違ってはおらぬ。そなたの王が良き道を悟り、王たる者の道を歩まれんことを」
族長の答を聞きながらエデンは思った。山の民が富も権力も有しない竜を崇拝する理由こそ、今の陛下に欠けているものかもしれないと。
イコンがやって来て、族長に尋ねた。
「もしも、僕の家族の一員である亀のデグロが、成長してスモールシェルドラゴンになった時、竜達の元へ返してやるべきでしょうか?」
族長は豪快に笑った。
「亀が竜に? 百年千年のうちには、そういう事もあり得ような」
ペットが続々とモンスター化している冒険者街の異常事態のことを、族長は知らない。
「だが、飼い主と別れるか否かは亀が決めることだ。巣立ちの時が来たら、いずれ亀の方から巣立って行くことだろう」
と、族長は子ども達と遊ぶドラゴンパピィを示して答えた。
●ネバーランド
依頼を終え、王都に戻ったエデンの元に知らせが届いた。下町の子ども達によって組織されたギルド『ネバーランド』は、代表者が不在となったが、何とか形だけは存続しているという。しかし次の代表者選びが難航しているようだ。