みんなでシグに行こ〜よ!
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:11人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月01日〜08月07日
リプレイ公開日:2006年08月08日
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●オープニング
●少年と黒いグリフォンより
世界は白く、淡く輝いていた。
「いいか〜まだ目を開けるんじゃないぞ〜‥‥」
天界人の不良医師が、皆の見守る中、ゆっくりと少年の包帯を解く。
ほっそりとしたその少年は、初めて見た時の有様に比べれば驚く程に血色も良くなり、頬にも赤みがさし、その唇もつやつやとしていた。
木綿の包帯を取り除き、更にその下にある薬液色のガーゼをそっと取り除く。すると、その下からは目を瞑ったままの少年の素顔が、数日振りに大気に触れた。
「そっとだ。そっと開けるんだ、トミー」
「落ち着いて! 落ち着くんだ!」
「あんたが落ち着け」
ポカンと頭をどやされ、一人が部屋の片隅に運ばれる。
くすくすっと目を瞑ったまま笑うトミーに、誰しもが不安と期待をないまぜにして祈った。
見えてくれよ、と‥‥
スッと開くまぶた。かさぶたの様に、目やにやら何やらがぽろぽろ落ちる。
それをそっとつまみ、払い、不良医師はいつにない真剣な眼差しで、指を一本立てた。本当は嫌な奴を連想するから嫌だったが、それはセオリーというものだ。
「トミー。これ、見えるか?」
うるうるとした栗色の瞳が、その指の動きを追う様にゆっくりと動いた。
「うん‥‥」
こくりと頷くトミー。
「何本に見える?」
「一本‥‥」
「だぶったり、かすんだりしてないか?」
「ううん、はっきり見えるよ」
途端に周囲に居る者達全員がワッと飛び跳ねた。
「よかった、よかったな」
ちょっと目立ち始めた、普段は陽気な妊婦が目に涙を浮かべ、キュッと抱きしめ、トミーの身体を揺さぶった。
「わー、なんか凄いや‥‥」
「みゅ〜、心配したんだよ♪」
廊下に出て、そっと己の涙を拭う者、部屋の片隅で無言で幾度も頷く者、黒いグリフォンの頭をなでなでし幾度もこの喜びを言葉にして語りかける者、そこには晴やかな歓喜の響しか存在しえなかった。
そして花束を、その美しい花々をトミーへと贈った。
トミーは戸惑いながらもそれをジッと見、それから深く香りを吸い込んだ。
「うぁ〜、い〜匂い! ありがとう! こんなに綺麗な花、見た事無いや!」
その無邪気な笑顔に、皆で朗らかに微笑み返し。この興奮にも似た気持ちのまま一日が過ぎて行った。
●第4回GCRより
その日はお祭騒ぎ。
見た事も無い程に大勢の人やエルフ、様々な種族が入り混じり、ごったかえす喧騒にすっかりあてられ、ふらふらになったトミーは、観客席で黒いグリフォン、シルフィに背をもたれかけていた。それを心配そうに覗き込む黒い軽装の女騎士。テンガロンハットで、パタパタと扇いだ。
するとシルフィも、羽をパタパタ。トミーに優しい風を送った。
「‥‥大丈夫?」
「うん。見た事も無い物ばっかりで、とっても楽しいよ」
にっこり笑うけど、ちょっと無理をさせているみたいな気がする。
おでことおでこを合わせて熱をみるが、熱は出てないみたいだ。そっと横に寝かせた。
「どうしてお姉ちゃんは、僕に優しくしてくれるんだい?」
きょとんとするトミー。
「それは‥‥」
口ごもり、何故だか直視出来なくなって、テンガロンハットを日除けにと顔にかぶせ、足早に駆け抜けた。
競技は一波乱も二波乱もあり、結局【ゴートメンバーズ】が初優勝し、【ソードフィッシュ】が華々しくも早々と最下位となる。その罰ゲームたるや、正にお祭騒ぎ。
そこはサロン。競技が総て終わった後、皆で一息ついていた。表では、まだ魚の歌が大合唱。どこが優勝したのか判らない騒ぎ。
トミーをシルフィと共に仲間へと預け、向かいに座る居心地の悪そうなモラン男爵に、ショア伯の見ている前で話を切り出した。
「モラン男爵‥‥例の天界の病‥‥トミー、グリフォン共に‥‥完治したようですが‥‥なにぶん解らぬ事が多い故‥‥俺の方で預からせて貰いたいのです。なお、トミーにつきましては‥‥天涯孤独ゆえ‥‥後々は自身の養子にとも考えております。どうかお許しを‥‥」
「こう彼女も言っている。どうかな、モラン?」
傍らで一言口ぞえるショア伯。すると、まるで毒団子でも飲み込むかの様に、モランは顔を醜く歪ませた。
「い〜だろう。伯爵様がああおっしゃっているんだ。わたくしから何を言おう。だがな‥‥」
モラン男爵はそこまで言いかけて、コホンと咳払い。
「どうするのだ? そこまでしてあの子供を救う価値があるのか? 後悔する事になったとしても、私はもう知らない。関係無いぞ」
「その言葉で‥‥充分です‥‥これで宜しいですね?」
この言葉にショア伯は頷き、これを承認した。かくして、トミーの身柄は予定通りにトルク家新米男爵のシグ領へ一時預かりとなった。
それから窓辺に合図を送ると、トミーがサロンへ。
何も知らぬ少年を目の前にし、ぎゅっと唇を噛み締め、意を決して話した。
「まだよく知り合ってないけれど‥‥俺は君を俺の子供として‥‥迎えたい。いきなり俺の事を‥‥母として思えないだろうけど。でも俺に‥‥君を俺の子と‥‥思わせてほしい。よければ‥‥考えておいてくれるかな?」
「僕‥‥」
そこでトミーが少し悲しそうに呟いた。
「まだ良く判らないや‥‥」
その言葉に、胸の奥、ぐるぐるとわだかまる何かを感じずには居られなかった。それは覚悟していた筈の事なのだが‥‥。
●みんなでシグへ行こ〜よ!
さて、表では何やら様々な事が起きている中、それとは全く無縁の存在が。
「じゃ、難しい話はイッチーにお任せ〜♪ 一緒にシグに行く人、こ〜の指と〜まれ☆」
「い、いいんですか? 本人が居ないところでそんな事を決めて」
慌ててイッチー男爵がププリン子爵を制止する。
そこはレッドスフィンクスの控え室。
「大体、優勝出来なかったんですから‥‥あいたっ!」
鮮やかなチョップ。すかさず、頭に取り付くププリン。
「そんな事いっちゃうと〜、ここの1カッパー・ハゲに落書きしちゃうぞ☆」
「や、やめて下さいよぅ〜ププリン様ぁ〜!」
ぐりぐりするとひいひい言う。
そんな二人の有様を、微笑ましく眺めていたチームのメンバーは、傍らで既に話を進め始めていた。
「どうせ、新米くんは忙しいだろうから、手紙ででも報せておけば問題無いよ」
「元々は彼の提案でしたからね」
「にゃんこぱらだいす計画か‥‥来れなかったら来れなかったで、経過を報せてあげれば、彼も本望というモノですわ」
にっこり。
「では、タイトルは慰安旅行を改め、次回GCRへ向けての秘密特訓&作戦会議という事で☆」
「ゴーゴーレッドスフィンクス☆」
「ゴーゴーレッドスフィンクス☆」
「ゴーゴーレッドスフィンクス☆」
しかし、そのにゃんこぱらだいすな地へ、たった今、黒い影が差し迫る事が決した事を、レッドスフィンクスのメンバーはまだ知らない。
そう、それは黒いグリフォン、漆黒の肉食獣、シルフィである。
シグの海に黒い旋風が巻き起こる! ‥‥かも知れない‥‥。
●リプレイ本文
●出発前
朝もや立ち込める虹色の夜明け。貴族街の一画、ショア伯の別宅の玄関先に数台の幌付きフロートチャリオットが停車していた。
湿気を帯びた大気に、パタパタと軽やかな足音。機体の間をパステルピンクのふりふりが駆け抜ける。
ばっくんばっくんとバックパックの中身が身を寄せ合い、やんややんやの合唱だ。
大気の精霊達が、水の精霊の手を取り、緩やかに笑い、踊り、陽気に手を振って来る。一晩中星空の下、月の精霊と踊り明かしたのだろう。すっかりお帰りモード。
小さく手を振り、水の中を泳ぐように進む。その足元を一匹の猫がトトトと追う。
すると、ピクっと黒い影が頭をもたげた。
「みゅ〜♪」
幌の影から、ぴょんと顔を出すチカ・ニシムラ(ea1128)は、その鋭い瞳に射抜かれるが、ニパッと満面の笑み。
「トミーく〜ん♪ しるふぃ〜♪ 久し振りにゃ〜♪ 元気だった〜♪」
ほっぷすてっぷと駆け寄り、一気に抱きつこうとじゃ〜んぷ☆
ふんわり。
思いっきり差し伸べた両腕が、スカッと空ぶり。
「みゅ?」
目をぱちくりさせると、すぐ横にチカの襟首をひょいとつまむサラ・ミスト(ea2504)の顔。その涼風の如き清涼なる風貌が、じっとチカの瞳を、その奥底までも覗きこむ様に見据えた。
「にゃ‥‥?」
「‥‥さて、どうしたものか。やってはいけない事を教える相手がもう‥‥一匹?」
「チカは良い子だにょ♪」
「いきなり抱きついたら、シルフィが驚くだろ?」
メっと叱るサラ。
ちょっとじゃれついただけでも人間の皮膚などボロ雑巾の様に引き裂いてしまうグリフォンの爪。そして、その鋭い嘴は獲物の肉を引き裂く為のモノ。
ふわっさと羽ばたき、その漆黒のグリフォン、シルフィは首を巡らせ、カツカツと幾度か嘴を合わせながらも、チカの目の前へ。その首にはお洒落にも白いスカーフが巻きつけられていた。
「チカお姉ちゃん☆」
シルフィの首を撫でながら、トミー少年が笑いかけて来る。
「ほ〜ら、チカお姉ちゃんだよ。挨拶しようね」
「わ〜い、しるふぃ〜だにゃ♪」
チカが手を差し伸べると、シルフィは目を瞑って頬を摺り寄せた。
「随分慣れたものだな‥‥」
目を細めるサラ。当初ここに運び込まれた時は、警戒心も強く、トミー以外の者に触れられるのを拒んでいたものだったが、ここにはジム達トミーと同い年くらいの孤児が10人程下働きに入っている。それらが、入れ替わり立ち代わり、冒険者達と共に見舞う内に、その警戒も解けて来たのだろう。
最後の見送りにと、早朝仕事から特別に外して貰った五人程が、トミーの見送りに来ていた。
「場所が変わっても挫けんな!」
「ああ‥‥みんなも元気で」
「へへへ‥‥もう会えないって訳じゃねえんだからよっ!」
ごちんとオデコをぶつけ合うトミーとジム。
少年達もそれぞれの過酷な運命の中、ショア港でストリートギャングをしてた時、とある事件でリールやオラースら冒険者に関わり、そこからギャングを辞め、盗みやかっぱらいの日々から卒業したのだ。今では多少の読み書きも覚えつつある。
「みんな、そろそろよ」
白い馬体がさくさくと芝を踏み、その向こう、アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)が、リール・アルシャス(eb4402)と共に荷物を手に姿を見せた。
「荷物はこれで最後だ」
「行きましょう」
「‥‥うん‥‥」
アレクセイに促され、トミーは少年達の輪から離れ‥‥
「さあ、シルフィをチャリオットに載せて」
サラはトミーに背を押され、幌付きのチャリオットにシルフィを伴い歩み寄る。
「シルフィ、おいで‥‥一緒に乗ろう‥‥」
警戒するシルフィに、トミーが先に乗り込んで促す。アリョーシカもカポカポと前に進み出、鼻先をシルフィの横腹に摺り寄せ促す。きっと何事か、オーラテレパスで語りかけているのだろう。
見かねてチカもシルフィの黒い身体に手を差し出し、その羽の下で脈打つ熱い身体を撫でた。
「にゅ、大丈夫なの‥‥」
ジム達もパタパタと駆け寄って、一緒になって手を差し伸べる。
リールは荷を下ろすと、シルフィが暴れ出さないかと心配気に見守った。
「ジム‥‥気を付けろよ‥‥黄、これが最後だ」
「うむ」
別のフロートチャリオットの後部、荷を積み込んでいた黄安成(ea2253)は手を休め、リールと共にその様を眺めた。
「これで良かったのじゃろうか‥‥」
「何が?」
事情を知らない山田凱(eb5264)が、幌から顔を出し、黄やリールの眺める方向を見、怪訝そうな顔をした。
そこには、幼くも悲しい一つの別離がある。
●う〜み〜!
目の前には光り輝く海が広がっていた。
海風が吹き抜ける。
だが、時雨蒼威(eb4097)の心は晴れぬ。
(「人を殺した‥‥が何も感じない俺‥‥くっ!」)
ふかすタバコにむせた。
手にもつ一本の羊皮紙を握り締める。それは、出立の際に見送りに来た黒妖より受け取ったもの。トミーへの手紙だ。
それを目にすると、見送る黒妖の眼差しが、感情の読めぬその気配が脳裏を過ぎる。スッと静かにそこにある一振りの黒い抜き身、それを思わせる。
(「黒妖は人を殺した事があるのだろうか? 忍びに愚問か‥‥だが‥‥」)
ふわり、ピンクの色彩が蒼威の視界を過ぎった。
「ププリン様?」
「何やってるの〜? もう、みんなボートに移っちゃったよ♪」
海風に逆らい、パタパタと羽ばたくププリン。風がびょうと吹けば、淡いピンク色のドレスが大きくふくらみ、ふわり吹き流される。
「きゃ〜♪」
「危ないっ!?」
くるるっと空中を転がり、ププリンの身体は真っ直ぐにバリスタの林立する矢じりの林へ。
サッと血の気が引き、蒼威は弾ける様に跳ねた。
ビリリとドレスが引き裂け、短い悲鳴。蒼威の手が空を薙ぐ。
「いや〜ん♪」
裂けたドレスで逆さにぶら下るププリンを、サッと両の掌で掬い取る蒼威は、唇を噛み、見開いた両の眼でその鋭い切っ先を睨んだ。無骨な兵器。僅かでも触れれば、さっくりと切れたであろう。が、そこは油脂で鈍い光を放ち、血脂一滴たりとも存在せぬ。ホッとするものの、そっと手の中で逆さのままなププリンに気付き、慌てず元の姿勢へと戻し一礼。
「ぷぅ〜★」
「これは失礼」
「あ〜あ‥‥」
ぽいっと破れたドレスを脱ぎ捨て、身軽な下着姿になったププリンは、一応目を瞑っている蒼威に、ポンポンと肩を叩き何度か頷いた。
「判る! 判るよ、蒼威君。ズバリ恋の悩みだね☆」
「違います」
「え〜っ!!?」
残念がるププリン。蒼威はクッと中指で眼鏡の位置を直し、咄嗟に胸元へねじ込んでいたスクロールのよじれを戻した。
波間にぷかぷかと揺れるボートの上。
既に上陸する予定の者は、その半数が既にシグの海岸へと向っている。黒いグリフォンはその上空を舞い、ユニコーンの白い姿も遠くボート上に伺えた。
最後に残るは蒼威を待つレッドスフィンクスのメンバー達。そしてその中にレオン・バーナード(ea8029)の姿もあった。
「遅いなぁ〜蒼威さん。おいら、戻ってちょっと見て来ようか?」
「愚問だな。ププリン様が蒼威を引きつれすぐにでも戻るだろうさ」
心配そうに見上げるレオンに、リディリア・ザハリアーシュ(eb4153)はクスリとクールな笑みを浮かべる。ちら見したレオンは、妙に居心地が悪くて頬が赤らんだ。
クスリ‥‥
クスクス‥‥
艶やかな笑みが、潮風に乗ってレオンの耳をくすぐるのだ。
「まぁ!? どうされたんですか、ププリン様!」
開口一番。それまで海の水を不思議そうに手でかき回していたディアドラ・シュウェリーン(eb3536)は、驚きに目を見張った。
さっきまで可憐なドレス姿だったププリンが、下着姿で舞い戻ったのだ。
ププリンはぺロッと赤い舌を出して荷物の中に飛び込み、何やらごそごそ始める。
「んっとね。蒼威に〜‥‥」
「ぬ、ぬわんだと〜!!?」
思いっきり立ち上がると、ボートはぐらっと揺れ、リディリアは慌てて縁にしがみついた。
「あははは、駄目だよ。船の上でいきなり動いちゃ危ないよ」
レオンはしっかりと船の両舷を握り、バランスをとる。
へっぴり腰のリディリアは、サッと頬を真紅に染めた。どうにも格好がつかない。
「蒼威! 蒼威ーっ!! 貴様、どういうつもりだ!!?」
「あははは、蒼威さん、とうとう手を出しちゃたのかな?」
吼えるリディリアは、何とか船の側舷に降ろされた、塩水に濡れた粗いネットに手を伸ばす。その様に、上着を被っていたメレディス・イスファハーン(eb4863)少年がチラッと覗き見、朗らかに笑った。
「そういえばこの所、何だか思い詰めた様子だったよね」
拳を握り締め、振り上げるリディリアは思いっきり手を伸ばし、ぶらぶらと揺れるネットをがっしり掴む。。
「ゆ、許せん!! 今、そこに行ってやる!! 待ってろ、蒼威ーっ!!」
「外道!! 外道ですわ!! ププリン様!! 大丈夫ですか!!? お気をしっかり!!」
涙ながらにメレディスも、髪を振り乱し何とか四つんばいでププリンの元へ。
「ん?」
縄梯子を降り掛けた蒼威は、賑やかな下の様子に眉間に皺を寄せた。吹き抜ける潮風が、細やかな言葉を運び去る。どうやらリディリアが呼んでいるらしい。
(「おかしなヤツだ‥‥おお!?」)
真っ青な空が水面に映り、その下に色鮮やかな海草や珊瑚の林。背の光る魚群が軽やかに踊り、蒼威の目を奪う。そこは生命に満ちたまた一つの世界。まじまじと眺め、フッと微笑を浮かべた。リディリアの拳が肉迫するまでの、ほんの数秒間。
ほわぁ〜‥‥凱の大あくび。
だっぱ〜ん!!
ぽかん。頭に軽いモノが当たった。
「何だこりゃ?」
指で摘み上げると、それは一本のスクロール。
ひょいと見やると、船体との間にぷはぁっと二人が顔を出す。湧き上がる泡で、まるで緑のクリームスープみたいな海面。ちょっと驚きながらも、カラカラと笑った。
「よおっ! 男爵さんも気がはぇぇなぁっ!」
サッと手を差し出し、ボートに引き上げる。
「がはっ! なっ‥‥い‥‥」
「はぁ〜、なんでぇ!?」
「そ‥‥そんな事じゃ無いと言っている!」
水を吐きながら、ハッとする蒼威。慌てて水浸しの自分の身体をまさぐるが、凱が『これかい?』とスクロールを差し出すと、ほっとしてそれを受け取った。
「よっ! あの黒ずくめのお嬢チャンからのラブレターかい? 憎いねぇ、男爵様!」
「そ、そんな類では無い!」
ザッと髪を後ろに搾り上げ、塩水をぼたぼたと滴らせながらも斜めになった眼鏡を直す。
その向こう、リディリアもようやくレオンとメレディスの二人から引き上げられていた。
「か、かほっ‥‥」
「やぁ〜、これはセクシーですね」
塩水を吐くリディリアをにこにこと見つめ、メレディスは背中に回ってその背をさすった。
「あ、そうそう。夏は水難事故が多いから、みんな気をつけてね。次回レースでメンバーが欠けてたら哀しいからね」
クスクス。
「も〜、あんた無茶するなぁ〜。凱さ〜ん、そっちは大丈夫〜?」
呆れた口調でまぁ問題無いだろうと、気楽に眺めるレオンはこっちに手を振る凱と男爵を眺め、それから荷物の中より、ぷはぁ〜と顔を出したププリンを眺めた。
水玉模様のピンクのビキニ水着がとってもキュート。
「まぁ、ププリン様!?」
ポンと手を打ち、ディアドラは思わず飛び上がった。
「ふぁ〜、あったあった☆ どうかな?」
「ププリン様ぁ〜、とってもお似合いですぅ〜☆」
両腕を思いっきり伸ばし、腰に手を置きあっけらかんとするププリンに、ほっと胸を撫で下ろすと同時、慌てて荷物からスクロールを取り出した。
「ププリン様。日焼けはお肌の大敵ですわ。白肌は乙女の命ですもの」
「あっ! じゃあ、このオイルも塗って塗って☆」
そう言って、ププリンが引っ張り出したのは丸い白磁のケース。それは『ラース城砦印のクリーム』。
「わぁ〜、ラベンダーの香り!」
パカリと蓋を開けると、純白のクリームからふんわりと芳醇な花の香りが周囲に漂った。
●ニケとの再会。そして‥‥
海戦騎士団の帆船、カトルフィッシュ号から上陸を果たした一行は、全身ずぶ濡れの蒼威を中心に、砂浜で出迎えた代官の女性、ニケとそれに随伴する村の主だった者達と対峙していた。
蒼威はニケが前回贈ったマントを羽織っている事に、口元をニヤリ。
「よぉ〜し‥‥」
畏まり片膝を着く領民達を前に、蒼威はトミーやその横に大人しく控えている黒いグリフォンを指差した。
「まぁ〜‥‥出迎えご苦労だ。報せておいたこの子がトミーだ。トミーは領主間の醜い争いの犠牲者。この‥‥黒いグリフォン、シルフィはそれを哀れに思った精霊の御使いだ。騒動の性で地元に居辛いので、ショアより預った。苦労をかけるがここに冷たい風は吹かぬと暖かく迎えて欲しい」
「はは‥‥村人一同、ご領主様の到着を心待ちにしておりました」
「みな、心得ております。どうぞ、ごゆるりと‥‥」
ニケの言葉に続き、村長らしき老人が代表して蒼威に挨拶。
その間も、ちらちらと目の前のシルフィやアリョーシカを見やる村人達。その表情には不安の影がさす。
すると、その中に年の頃は4、5歳程の娘が居る事に気付き、蒼威はニケに尋ねた。
「なぜ、ここにそんな小さな子が?」
「私の子で御座いますが、何か?」
ニケが手招きすると、その傍らに歩み寄った。
「そういえば、娘のご挨拶がまだでしたわ。前回、ご領主様がいらした時には、風邪で伏せておりましたので‥‥娘のサオリで御座います。さ、サオリ。ご領主さまの時雨蒼威男爵様ですよ。ご挨拶なさい」
きょとんとしたままに、じっと蒼威を見上げるサオリ。母親とは違った黒い髪に黒い瞳。父親の血が出たのだろう。少し不思議な雰囲気を醸し出す。
「やあ」
蒼威の言葉に、あどけない表情のままにぺこりとお辞儀した。
「お帰りなさいませ‥‥」
「おお、良く出来た良く出来た」
蒼威は思わず笑顔をほころばせ、その娘を抱き上げて肩に乗せた。ホッとした表情のニケ。
「出迎え、大儀。これは俺からのホンの気持ちだ。後で皆で飲んでくれ。それと、ニケよ」
「はい」
歩み寄り、ニケにサオリを帰すと、懐から小さな革の袋を取り出した。
「これで、このシグの地に船を一艘。余ったならば、家畜でも」
「お預かり致します」
誰が見てもずっしりと重い様子。それを女性の細腕に持たせ頷く蒼威。
「全部で金貨100枚。確かに渡した」
「皆の者! 男爵様より船代として金貨100枚を頂戴致しました!」
「そして祝い事のあった家には、金貨1枚を与えよう! 今でなくても良い名乗り出るが良い!」
「ははあっ!! ありがとうございます!!」
領民達は一斉に頭を下げた。
「それとで御座います‥‥」
ニケは何事か、蒼威に耳うちした。
●シグの海を満喫しよう!
「きゃはははは☆ 来た来た〜♪」
「こ、こりゃぁ〜‥‥」
思わず凱は手にした荷物を取り落とした。
「はみゃっ!? にゃんこが一杯♪ にゃんこ〜♪ にゃんこ〜♪ うちの子も一緒ににゃんこと遊ぶのにゃ〜♪」
ふらふらとした足取りの猫がそこかしこに寝そべり、チカも連れて来た猫と一緒に、その場に転がりこむ。持ち上げると随分とご機嫌だ。
が、チカの猫は何かに気付いた様子で、皆の進む先へと走りぬけた。
「はみゃ? ど〜したのかにゃ?」
皆はそのまま砂丘を抜け、代官屋敷に荷物を運ぶ。
生垣にはままたびの蔓が絡まり、元気に繁殖している模様。そこへ、チカの猫も甘ったるい鳴き声をしながら擦り寄って行く。そこには十数匹の野良猫が先客としているが、一緒になってごろごろとし始めた。
「うむ‥‥これは凄い効き目だ‥‥」
蒼威も一緒になってごろごろしたい誘惑に駆られるが、目の前のそれがそれを許さなかった。
その向こう、屋敷の横には防水シートがかけられたどうみてもフロートチャリオット。そしてその横には荷馬車の上に乗った大きな荷物。
ププリンはその荷の上にちょこんと飛び乗り、こちらに手を振って来た。
「ね〜、みんな〜! これを取って〜♪」
「どれワシが」
力には自信のある黄が進み出、それに手をかけ一気に。するとその下からは巨大な人型のものが。
「こ、これはっ!?」
「ね、後で誰か動かして見せてネ♪」
「うむ‥‥これは‥‥」
そこには、まるごとなにがしでは無い。本当の本物、バガンが横たわっていた。
「きゃははは☆ 特訓用に借りて来ちゃったよ」
そう言って、ププリンはくるりと空中で一回転、嬉しそうにバガンの制御胞の上に降り立った。
「‥‥え、特訓? なんですかそれ。食べられるモノですか?」
リディリアはそう言って、ばっと己の身に付けたモノへ手を掛けるとばばっと脱ぎ捨てた。そこには、ほっそりとした肢体が。ピンクの水玉模様のビキニ水着。何とププリン様とお揃いだ。
「見て見て〜ププリン様とおそろいなんだから♪」
「おお〜!」
「可憐じゃ‥‥ゴホン!」
男性陣の反応に、敏感なのはディアドラだ。
「あら。リディリアさん。とっても可愛いわね☆」
すらり。ゆっくりと上着を脱ぐ。その下から現れたのは、純白のビキニ水着。グラマラスな肢体を、余す事無く披露するハイレグなもの。
「見ちゃいけません!」
「え?」
リールは慌ててトミーの視界を塞いだ。
クスリ。
軽やかなモデル歩きで男性陣を挑発するかのディアドラは、キュートな笑みを浮かべつつも、一人一人に流し目を。
「さあ、夏よーっ! 海よーーっ!! 太陽よーーーっ!!! 行きましょう!」
「よっしゃあっ! いっちょ泳ぐとするか!」
パッと衣服を脱ぎ放つ凱。あっと言う間にすっぽんぽん。
「きゃははははっ!!」
「やだ! 水着は!?」
「ねぇよ!」
かんらかんらと笑う凱は、さっさと走り出す。
「凱さんは豪快ですね」
くすくすと笑いながら、メレディスは浮き輪を膨らます。
「あ〜あ、ちょっと。ご領主様、あれでいいの?」
「ん? 村人には水着なんて概念、元から無いぞ」
リディリアが呆れて振り向くと、そこには海パン姿の蒼威が。既に下に着こんでいたのだ。
「さあ、俺はこの近海での海産物の調査を兼ねて、岩場を探検だ。一時解散でいいかな?」
「うん! いいよ〜♪」
バガンの制御胞の上で、足をパタパタさせるププリンは、にこやかにこの解散に同意した。
むにゅっと踏むとにゅるんと足の指先から黒い棒状のモノが跳び出した。
「おお‥‥これは凄い‥‥」
ため息と共に、海中から拾い上げると、まっくろなナマコが。
岩場に出た蒼威はそれを一つ一つ吟味しながら袋の中に入れてゆく。
「地球のモノと違うのだろうか? ニケはこの辺では食べぬと言っていたが‥‥」
極彩色のウミウシがゆらゆらと蠢いている。トゲトゲのヒトデや、カシパンと言った地球の海でも比較的見られた生物が多く見られた。
「蒼威殿〜! 何かありましたか〜!?」
岩場の上からリールの声。見上げるとそこには更にニケとサオリにトミーやシルフィ、そしてサラ、黄らが見下ろしていた。その向こう、アリョーシカを連れたアレクセイも顔を出す。
「居るな! かなりだ! だが、地球のモノと全く同じでないだろうから、注意せねばな!」
そう言って、ナマコを掌一杯に掴んで見せた。
「凄いですねー!」
「ああ! 全くの手付かずだからな!」
領民達は、普通に貝や岩のり等は採っているらしい。
(「ワインビネガーで酢の物か‥‥それとも干して干しナマコ‥‥」)
蒼威の脳裏に、様々な光景がありありと浮かんでは消えた。
「男爵様となると大変じゃのう‥‥」
岩場を更に歩きながら、黄が呟く。
「何かお考えがおありの様ですわ」
サオリの手を引き、案内をするニケがその呟きに答えた。
「あ、いや‥‥」
黄は口ごもりながらもそっとトミーの様子を眺めると、リールがかいがいしくシルフィの背を布で撫でながら、何事かを話し掛けていた。
「トミー。トミーやシルフィを応援している人達は沢山いるんだぞ」
「うん‥‥」
俯きながら、シルフィに手を置き付いて来るトミーを見つめ、リールは励ましながらも、あまりプレッシャーにならない様にと心がけながら話し掛けていた。
「トミーには夢がある? 色々な体験は夢を叶える力になるよ。やりたい事を少しずつやってみたら?」
「夢?」
その言葉に考え込むトミー。
そんな様を、少し後ろから続くアレクセイも気に掛けていた。
「‥‥」
「何?」
何事か呟く様に、トミーの唇が小さく動いた。問い返すリールに、トミーは震える唇で、その想いの丈をこぼした。
「父ちゃん‥‥母ちゃん‥‥会いたい‥‥」
ハッと息を飲むリール。
俯くトミーの瞳からは、大粒の涙がぽとり、またぽとりと滴り落ちる。青っぱなもつーっと下がり、みるみる口元が醜く歪んだ。
夢。希望。望み。今、トミーにとって何か望むモノがあるかと問われれば、それはまだ8歳程の少年にとって受け入れ難い両親の死の否定そのもの。この数週間のめまぐるしい変化に、忘れかけていた痛みが、細波となり、それが次第に大きく、終いには津波の如きうねりとなって、少年の心に押し寄せていた。
「ごめん! ごめんな!」
リールは咄嗟に、今にも泣き崩れんばかりのトミーの身体を、その頭を掻き抱いた。
「自分、トミーの気持ち、気付いてやれずにごめん!」
震え、嗚咽する少年の小さな体が、今にもバラバラに砕け散ってしまうのではないかと、あまりのか細さに、リールは胸つぶれんばかりの気持ちで、抱きしめた。
その様を眺め、アレクセイもまた悲しみの刃を胸に受けた。
「黒妖‥‥どうします‥‥この子の心は、まだこんなに痛がっているんですよ‥‥」
ぎゅっと襟元を握り締めるアレクセイに、アリョーシカはその痛みを和らげるかの様に、その白い汚れなき角で、そっと頬に触れた。
「アリョーシカ‥‥私はどうすれば良い? 彼女の代わりに、何をあの子に伝えれば‥‥」
そこに居ない恋人の姿を想い、アレクセイもまた心の内で涙を流す。
サラはシルフィが暴れ出さない様、そっとその身体を撫でた。シルフィにもトミーの悲しみが伝わるのか、ふとこちらを悲しそうな目の色で見返した。
「こちらの方も、いきなりは絶対無理というものだな。黒妖‥‥」
そして、今頃はまだ王都に居るのだろうかと、はるか北西の空へ視線を移す。
(「じゃが、その痛み。癒すのは己自信。強くなれ、トミー。心折れるな。ワシらがついておるぞ」)
黄は口をへの字にし、両腕を組んでその様を見つめ続けた。
すると、ニケの手を離れ、サオリがトトトトと駆け寄った。
そして、じっと泣きじゃくるトミーを見つめた。
「大っきいのに泣いちゃうなんて、変なの。泣いちゃめっなの!」
「そ‥‥そう‥‥かな‥‥?」
小さな掌が、ペタペタと涙でべたべたのトミーの頬に触れる。
「わぁ〜、ばっちいの!」
そのべとべとになった掌をニケへ向けてかざし、無邪気に笑うサオリ。
トミーは頬を引きつらせながら、無理に笑顔を作ろうと努力した。
(「そうじゃ、笑うのじゃ! 男はいくら悲しくても、やせ我慢なのじゃ!」)
ぐっと握る拳も熱い。
トミーは、全身を震わせながらも、徐々に立ち直ろうとしていた。
細やかな網目が、ふわりと大気を覆う様に広がった。
パシャリ。水面を打ち、扇状の痕跡を描く。
「ひょえ〜! あんたのその網、魔法でもかかっとんのかね!?」
「いえいえ、そんな事ないよ‥‥」
苦笑しつつレオンはぐいぐいと網を手繰り寄せると、既に確かな手応え。
船と陸との間くらい。
地元の漁師さんに載せてもらい、宴の準備に食材をと網を打たせてもらうと、これが良い感じにかかるかかる。
「あんた何者かね? もしや、男爵様みてぇに天界人ってぇヤツか?」
「ま、まぁ。ホントのトコ、おいらは海の男見習いなんだけどなぁ‥‥」
「ひぇぇぇぇっ、船乗りの天界人なんてありなさるのかね!?」
困っちゃったなぁ〜と頬をぽりぽり掻きながら、足元に跳ねる大きな馬面ハギをポンと向こうに蹴りやるレオンだった。
「ああ、砂浜でお姉さん達と、遊んじゃうのも悪くなかったな〜」
陸を見やると、楽しそうにはしゃぐ様が見てとれる。
「いいなぁ〜、メレディスくん‥‥」
「が〜っはっはっは! あんた、正直者じゃねぇ!」
どっと船の上で大笑い。それから漁場を変えて、もう少しねばるレオン達であった。
「にゃんこ〜♪ にゃんこ〜♪ にゃんにゃんにゃんこ〜♪」
頭の上に一匹。左右の肩にもう一匹ずつ。そして両手で二匹を抱きかかえたチカは、ちょっと重いけど頑張ってくるくると踊って回った。
「旅行なんて久し振りなのにゃ♪ 海〜♪ 海〜♪ 海って入っても大丈夫なのかにゃ?」
サクサクと砂浜に出て、ざざ〜んと寄せては砕ける波の音に聞き入った。すると、両腕の中の猫達がフーっと言って暴れ出し、それまで頭や肩に乗っかっていた猫達も、だだだ〜っと飛び降り、今来た道を駆け戻る。
「あ‥‥待つにゃ〜♪」
砂浜では、今や巨大なポンデなライオンが完成しつつあった。
「わはぁ〜い☆ もうちょっとだよ♪ あとちょっと♪」
跳びはねて満面の笑顔のププリンに、よぉ〜しと頑張るメレディスとディアドラ、そしてリディリアの三人。
手で砂を掻いてはそれを盛り付けて行く。
「もうちょっとですね!」
「完成間近!」
「カミングス−ン!」
グッと親指を立てるリディリア。キャッキャと笑いながら積み上げていると、大きな波がざっぱ〜ん。
「ああっ!?」
「いやぁ〜ん!」
見る間に三分の一がどろどろっと崩れて流れ出す。
「ここは僕が!」
ダンと跳ねて、身を呈して波を止めるメレディス。ほぼ同時に、高速詠唱。
「アイスコフィン‥‥」
「ああっ! メレディス君!」
「あ〜ら、涼しくしちゃったかしら?」
そこには非常にシュールな構図が出来上がった。
誰それの携帯を借りて来て、記念撮影が行われたのは言うまでも無い。
●浜辺の宴
星空を見上げるポンデなライオン。
半分崩れかけながらも、その中央にはぽっこりと凱の顔。
「お〜い!」
海風がそれを掻き消してしまう。
遠くから楽しげな楽の音。
「お〜い、誰か居ないか〜! 俺も腹減ったよ〜っ!!」
「何か海にチームメンバーで行くって、合宿みたいだよね!」
焚き火の炎に赤く照り出されるメレディスは、ようやく人肌のぬくもりを取り戻していた。
二人の女性陣もにっこり。
「あれ〜? 何か忘れてる様な気がする〜?」
腕を組んで変な顔をするププリンに、パッとディアドラが破願する。
「忘れているのは、これですわ!」
取り出したのはワイン。
「駄目だ! ププリン様はお酒が入ると、すぐ寝ちゃうんだから!」
リディリアがこれに反対。メレディスはにこやかにくぴくぴと杯を空けていく。
その向こう、サラが早速しつけを開始。
レオンが採って来た大きな焼き魚を手に、アレクセイやアリョーシカと共にシルフィへ。
アレクセイがにゃんこを手に。
「いい、ここではこれは食べちゃ駄目。アリョーシカ、しっかり伝えてね」
(「はい、アレクセイ‥‥彼女もわかってくれています」)
「知らない人から餌をもらってはいけないと、理解出来たか確認してくれ」
「ええ‥‥アリョーシカ。判った? さっきのおさらいよ」
(「ええ‥‥少しお待ちを‥‥」)
その傍らではトミーがサオリとリールと村の子供達で、簡単な手遊びをせっせっせ〜のよいよいよい、とばかりに遊んでいる。
「あ〜、負けてしまったぁ〜! 強いなぁサオリ殿は」
「えへへ‥‥」
「僕、初めてだからかなぁ〜一回も勝てないや‥‥」
「トミー! おめぇホント、弱ぇ〜なぁ〜!」
やんややんやと盛り上がる子供達。ホッと一息ついて、リールは周囲を見渡した。
黄が浜辺で大の字に伸びている。きっと誰かに無理矢理勧められたのだろう。
レオンは漁師の中に混じって、結構楽しそうだ。
凱もきっとあの性格だろうから、どっかでうまく楽しんでいるんだ。
ニケさんの姿が見えないなぁ‥‥あれ? 蒼威もだ‥‥
「にょ? どうしたのかにゃ?」
お魚咥えたどら猫を抱え、チカが不思議そうに見上げていた。
「ん〜ん。何でもない。楽しい?」
「にゅ〜♪」
目を細めこっくりと頷くチカに、リールも満面の笑み。今はただただ楽しい時間が過ぎて行く。
その頃、館の一室ではニケと蒼威の密談が行われていた。
「親愛なるジーザム・トルク陛下‥‥」
蒼威は手紙の書き出しを口にすると、ニケがすらすらと羊皮紙に書き出して行く。
外国への備えの必要性と、ゴーレム工房からの情報漏洩を危惧する手紙。そして、海戦騎士団への人員の派遣による影響力の強化をうたう。
フッと笑む蒼威。
「正直トミーは領地の立地上や外界への視野と人脈を持つショアとコネクションが欲しかった」
「はい」
「苦労かけるな‥‥マジ御免」