暗雲ルーケイ〜ルムスレポート

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月04日〜08月09日

リプレイ公開日:2006年08月12日

●オープニング

 王都の西、復興始まったばかりの東ルーケイ。その北部にルムスの村はある。
 そして、ここはルムスの村の領主館。とはいっても、立ち並ぶ農家よりも少しばかり大きいだけの家である。
「ルムス様、お帰りなさいまし」
 日暮れ時になり、くたくたになって執務室に入ってきた領主ルムスを、付き人の少年が出迎えた。執務室とは言っても、そこには粗末なテーブルと筆記用具、それに獣脂を燃やすランタンがぽつんと置かれているだけ。
「さて、俺は今夜中に報告書を書き上げなきゃならん。この一仕事が終わるまで、付き添えよ」
「はい、ルムス様」
 ルムスはテーブルに向かい、真っ新な羊皮紙を広げてにらめっこ。少年はルムスの傍らに控え、団扇をぱたぱた扇いで風を送る。しかしカラスの羽根ペンを握るルムスの手は一向に動こうとせず、やがてルムスはうつらうつらと船を漕ぎ始め‥‥。
「ルムス様?」
 少年の声に、ルムスははっと目覚めた。
「あ‥‥いかんな、俺としたことが」
「ルムス様はお疲れのようですね」
「まあ、あれだけ色々な事があれば、疲れもするわな」
 このところ、仕事が増えすぎて困っている。とりわけ、盗賊団『毒蜘蛛団』より救出し、村に受け入れた元虜囚達の面倒見は大変だった。新しい村での生活になじめず、喧嘩はするわ盗みは働くわ。挙げ句、村から勝手に逃げ出そうとするわ。さらに、毒蜘蛛団の壊滅で東ルーケイが平和になってからというもの、ルムスの村に流れてくる流れ者達は後を絶たない。
 今日も、勝手に村を飛び出した元虜囚の新入りを追いかけて連れ戻し、帰ってみると村に忍び込もうとした流れ者が見付かって大騒ぎ。もとより、村では小麦の刈り入れが始まって忙しい最中。こうも余計な仕事を増やされては体が持たない。
 今、手をつけ始めている報告書にしても、本当ならとっくの昔に仕上がっているはずのものだが、毎日がこんなせいでなかなか捗らないのだ。
「くそっ‥‥何から書いていいのか、さっぱり考えが湧きゃしない」
 真っ白な羊皮紙と向き合っただけで、まるで頭の中まで真っ白になってしまったかのようで。
「おい。そこの板切れ、持ってこい。それに炭もだ」
 少年に命じ、板と炭とを持ってこさせると、ルムスは炭を手に取って板に下書きを始めた。

【1】東ルーケイ
 ルムスの村は農地拡大予定。クローバー村は再建中。
【2】南ルーケイ
 現在、水蛇団の縄張り。
【3】中ルーケイ
 現在、旧ルーケイの遺臣の支配下。
【4】西ルーケイ
 現在、盗賊団『毒蛇団』の支配下。

「‥‥とまあ、報告書の要点はこんなもんだな。よしよし、頭がだいぶすっきりしてきたぞ。しかし、東ルーケイの近場はともかくとして、南ルーケイや中ルーケイや西ルーケイのこととなると‥‥」
 ところが、ここでルムスの思考は中断される。村人達が突然、ルムスに助けを求めて駆け込んできたのだ。
「ルムス様! 大変でございます! また新入り同士の喧嘩です!」
「まあったく! あいつら、日が暮れても喧嘩かよっ!?」
 ルムスは怒鳴り、部屋を飛び出した。
 喧嘩を諫め、騒ぎを引き起こした当事者達を牢小屋にぶち込み、領主館に戻ってみれば夜更けもいいところ。
「‥‥だめだ、こりゃ」
 ルムスはテーブルに突っ伏した。羊皮紙は真っ新なまま。
「こんなんじゃ、いつになっても報告書が仕上がらねぇ‥‥」
 しばらくそのままの姿勢で呆然としていると、名案がルムスの頭に閃く。
「‥‥そうだ! 冒険者に頼むか! なにせ、冒険者の手も借りたい程の忙しさだ。困った時には素直に冒険者に頼みゃいいってな! ‥‥しかし、問題は報酬だぜ」
 冒険者に支払う報酬は結構な金額である。だが、ルムスの村は復興途上で決して豊かなわけではない。先にルーケイ伯の与力とその仲間から、300ゴールドの支援金と大量の保存食を頂いたが、冒険者の報酬にジャブジャブと金をつぎ込む訳にもいかぬ。しかし、冒険者の報酬に対してもルムスは名答を得た。
「この村の北にある森には獣が沢山住んでいる。熊に鹿にイノシシ。冒険者の報酬にはお手頃じゃないか?」

 程なくして、ルムスを依頼人とする依頼が冒険者ギルドの掲示板に張り出された。
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我はルーケイ伯の家臣団筆頭にして、ルムスの村を治める領主なり。
多忙につき、我が日々の仕事の負担を軽減し、
報告書作成の補助に携わる手伝い人を求む。

手伝いの内容は以下の通り。
【1】王都とその近辺での聞き込み
 西ルーケイ、中ルーケイ、南ルーケイの現状について、
 関連するさまざまな依頼に参加した冒険者達から聞き込みを行う。
 聞き込みの場所は主として冒険者酒場と冒険者街。
【2】クローバー村の視察
 復旧が予定されているクローバー村と、その近隣の視察。
【3】ルムスの村での手伝い
 ルムスの村で領主の仕事を補助する。
【4】森での狩り
 当依頼の報酬として、依頼期間中にルムスの村の近辺の森で
 狩りを行う権利を認める。
 狩られた獲物の肉と毛皮は換金され、
 当依頼の報酬として冒険者に分配される。
────────────────────────────────────

 依頼期間は5日。王都からクローバー村までは馬で約1日、さらにクローバー村からルムスの村までは馬で約1日の距離がある。
 ただし、セブンリーグブーツなどの高速移動アイテムを用いるならば、移動時間は節約できるだろう。

●今回の参加者

 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565)/ レーヴェ・フェンサー(eb1265)/ 王 風門(eb5247

●リプレイ本文

●紳士協定
 ここは冒険者酒場。ルーケイ伯与力の男爵、バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)が酒を酌み交わす相手は、トルク派冒険者のキース・ファラン(eb4324)である。先に開かれたルーケイ復興会議で、キースは議事録作製の手伝いに携わってもいる。
 今は平和な関係が続いているものの、いざ戦争ともなれば、ルーケイの地はトルクとフオロの両軍勢がぶつかり合う戦場となる。即ちトルクはルーケイにとっての仮想敵。だからルーケイの為政に携わる冒険者達は、トルク王家の側に立つ冒険者との接触には慎重を期さねばならない。
 勿論、フオロとトルクの領分国は、歴史的に見れば互いに身構えた関係にありながらも、共にウィル王国の要でもある。闇雲な敵対は避けるべきだ。むしろ巧妙な政治手段で牽制をかけつつも、相互協力の関係を模索するのが良策といえる。
 だからルーケイ伯は、トルク側冒険者との間に紳士協定を結ぶことを考え、その意向に従ってバルバロッサは動いた。
「ルーケイの内情については、本来ならば軍事上の機密扱いにせねばならぬものもある。しかし実の所、トルクのロッド卿やセクテ候なら、流民や役人からの横流し情報で既に持ってる可能性が高い。なら一々詮議するより信用して友好の架け橋になってもらった方がいいさ」
 キースにとっても、バルバロッサによって示された提案に異存は無い。
「ルーケイ伯のお心遣いに感謝する。ルーケイ内で見聞きしたことについては、決してルーケイ伯の不利益にならぬような形で、伝えるべきものだけをトルクの側に伝えよう。ところで頼みがある。高速移動用のセブンリーグブーツ、貸して頂けまいか? 少しでも王都での調査期間を伸ばして、より実りのある報告を行いたい」
「いいだろう。持っていけ」
 バルバロッサは快く、求められたアイテムを貸し出した。

 広大な領地を持つ伯爵と言えば、ウィルの貴族街に立派なお屋敷を抱えているのが当然。しかし一介の冒険者から王領代官に抜擢され、伯爵待遇を受けるルーケイ伯には、まだまだ貴族街に屋敷を構える余裕は無い。
 だから、トルク派の冒険者である鎧騎士エリーシャ・メロウ(eb4333)が伯との会見を求めた時、彼女は冒険者街にあるルーケイ伯の住処に足を運ぶことになった。
「ご配慮に感謝致します。騎士の信義に懸け、ご期待に添うべく全力を尽す所存。ルーケイ情勢のトルクへの影響は大きいですが、その安寧とフオロとの友好こそ我が陛下の御望みと確信しております故」
 この感謝の言葉に対し、ルーケイ伯も礼をもって答えた。
「貴殿もキース殿も、我が真の騎士として信義を置き誼を結んだる仲。内情偵察の意図無しと国王陛下や姫殿下には報告し、ジーザム陛下にも礼状を送付しよう」
 エリーシャは重ねて礼を言い、言い添えた。
「盗賊討伐の一員として、個人的にもその後を気に掛けておりましたが‥‥次の難敵は人材不足とは。ご領地のご苦労お察しします」
 調査に先立っての挨拶を終えると、エリーシャはルーケイの地に向かう。

●ルムスの村で
 ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)にとっては、これが初めてのルーケイ入り。
「よろしくお願いしますよォー、依頼人殿ォ〜。何なら、こうるせえ連中は一人二人ブチ殺して静かにさせてやりまからねェ〜〜、ムケケケケ」
 初対面の挨拶からしてこれだ。ヴァラスに向けるルムスの視線も胡散臭げ。
「俺の領民だ。勝手に殺すな」
 しかしヴァラスと連れだってやって来たセオドラフ・ラングルス(eb4139)は、ヴァラスとは対照的に落ち着いた物腰の男。
「今回の依頼にはトルクの騎士も参加しています。ルーケイ伯とは直々に紳士協定を結び、決して不利益となる言動を行わぬ約束を交わしております。但し、最終的に判断するのは領主のルムス殿。対応はお任せします」
 慇懃な口調でそう伝えたが、それを聞くなりルムスは顔色を変えた。
「トルクの騎士が来るだとぉ!?」
 事と次第では敵にも成りかねぬ相手。だからこそ尚更に無礼を働くわけにはいかぬ。臣従を誓ったルーケイ伯自らが彼らのルーケイ入りを認めた以上、その体面を汚す真似ができようか。ルムスは微妙な立場に立たされたことを知った。
「承知した。決して非礼なきよう処遇致そう」
 真顔に戻って返事すると、ルムスは大急ぎで村の中を駆け回る。
「トルクの騎士殿がおいでになるぞ! どこを見られても恥ずかしくないよう身支度をきちんとしろ! 余計な物は片付けろ!」
 矢継ぎ早に村人へ命じながら、ふとルムスは気が付いた。余所者がやたらと村へ流れ込まぬよう、村の入口にずらりと並べておいた骸骨の案山子のことを。
「しまった! あんな代物を見られてはまずい! おい、ヴァラス!」
 呼びつけて命じる。
「早速だが仕事だ! 村の新入りどもを集めて、骸骨の案山子を一つ残らず取っ払え!」
「承知いたしやしたぜぇ〜」
 ヴァラスは張り切って仕事に取りかかる。
「てめえら、仕事に手を抜いたら半殺しにして牢にブチ込んでやるからなァ〜!」
 新入りどもをせっついて案山子の森にやって来たが、早くもこっそり逃げだそうとする奴がいた。有無を言わせず後ろから殴り倒し、羽交い締め。
「ひぇぇぇ〜、お許しくだせぇ!」
 鳴き声で哀願する声に、にや〜りと笑う。
「ちなみに俺は弱い者いじめが大好きでねェー、ムヒヒヒ」
 仕事を始めてしばらくして、離れた場所から様子を伺っている者達の姿に気付いた。何処からか流れてきた浮浪者だ。
「この村はもう満杯だぜ、マヌケ! 余所へ行け、余所へェー!」
 掴んで投げつけたのは、しゃれこうべ。
「ひぃ〜!」
 ころころと足下に転がったそれを見て、浮浪者は情けない叫びを上げて逃げ出した。

 新入り達が辛気くさい仕事にこき使われている間、村ではセオドラフが村人達の訴えを聞く。
「罪には問いません。現状の不満があれば話してください」
 促すと、村人達は口々に訴える。
「新入りの乱暴者どもを何とかしてくだせぇ!」
 という声が圧倒的多数。
「仕事は怠けるわ、喧嘩はするわ、人の持ち物を勝手に盗むわで、始末に負えませぬ!」
 不満の声が一通り出尽くすと、今度は次のように求める。
「村のことで何か改善に繋がりそうな提案はありませんか? 良い提案に対しては保存食の褒美を与えましょう」
 早速、意見が返ってきた。
「畑を耕す牛や馬を、もっと増やして欲しいですだ」
「村の鍛冶屋の人手が足りませぬ。見習いのなり手はおりませぬか?」
「出来の悪いろくでなしばかりではなく、手に職のある者を村に寄越してくだせい」
 村人達の訴えを聞き届けた後は、ルムスとの相談だ。
「いずれルムス殿はラーベ卿と対峙せねばならない訳ですが、その時は冷静に、対峙の際には冷静に、適度な皮肉を混ぜる程度が良いでしょう。観衆には逆上した側が小物に見えます故。騾馬泥棒の嫌疑については、一度公衆の面前で騾馬を返そうとし、騾馬自身がラーベを嫌がる姿を見せれば、疑いも晴れましょう。相手が挑発に乗らぬなら、次の機会を待つのも肝要です」
「助言には感謝する。騾馬の件については、是非とも試してみよう」
「さて、話は変わりますが。ルムス殿も家臣を持って当然の頃合いでしょう。多忙を解消するためにも、家臣を育て始めてはいかがですか?」
「家臣がいない訳ではない」
 と、返事があった。
「俺が村に流れ着いた時から世話になった村の古老に、俺の後から村に流れついた傭兵仲間、そして頼りになる村の若者達。皆、俺の家臣だ。勿論、読み書き計算の出来る者や、剣を扱える者はもっと必要だ。それには子どものうちからしっかり教え込まなきゃならん。しかし、今の俺にはどうしても時間が足りん」
「ならば、私がいる間だけでもお手伝いしましょう」
 そしてセオドラフは、ルムスから数人の少年を任せられた。いずれも齢10歳にも満たぬ者ばかり。しかしルムスが推薦するだけあって、やる気だけは満々だ。
 空き時間を使い、セオドラフは少年達に読み書きや政治を教える。但し、まだ教えられるのは初歩の初歩だけだ。

●クローバー村復興計画
 その翌日は、お歴々がルムスの村の視察にやって来る日。ルーケイ伯与力の男爵2人にトルクの騎士2人を迎えるとあって、ルムスもぴりぴり。
「ご一行様に失礼なきよう、血の気の多い新入り達はヴァラスに預けて、森の狩りへ行かせては?」
「それもそうだな」
 セオドラフの勧めにルムスは素直に応じたが、後で思えばこれは大間違いだった。
 ルムスと村人は大わらわで準備を整え、やって来た4人を総出でお出迎え。
 通された先はルムスの領主館。名ばかりだけど領主館。先に済ませておいたクローバー村の視察の結果を踏まえ、ルーケイ伯与力の男爵である長渡泰斗(ea1984)はルムスに尋ねた。
「周知のようにクローバー村は、開けた平地のただ中にある。西には森、北には丘陵地帯が広がるものの、それらを要害とするには村との間が開きすぎている。軍事的に見た場合、この立地の適性をルムス殿は如何に思われる?」
「軍事的な防衛拠点とするには適さない。あの村は寧ろ、放牧の拠点に向いている」
「仮にあの村を交通の拠点とするならば、より街道に近い場所に移した方が、利便は良くなりはしまいか?」
「いや、ルーケイでは陸の街道よりも、寧ろ大河の方が交通路として利用される。勿論、敵軍がルーケイに進軍する時には、船で大河を進み、船で敵兵を上陸させる手段も取り得る。だから大河と平行して走るあの街道には、大河を進行する敵軍の進撃を阻み、その銃陸を阻むため、陸上にある味方軍の速やかな移動を助け、布陣を容易ならしめる役割も担っている」
 傭兵としての経験を積んだルムスならではの、当を得た見立てであった。
「それからクローバー村の入口にある、要害の地たる丘に設けられていた砦だが。あの砦が廃棄された理由をご存じか?」
「俺も詳しい話は知らないが、廃棄を命じたのは殺害された先のルーケイ代官だろう? 恐らくは領民の謀叛を恐れたのではないのか? 謀反人どもがあの砦に立て籠もれば、王都への退路を断たれて、袋の鼠にされてしまう訳だからな」
「時に、クローバー村を再建するのにどれ位の手間と人手が必要となりそうか?」
「それか」
 ルムスは少しばかり苦い顔になる。
「聞くところによれば村の再建で話が盛り上がっているようだが、住む者がいなければどうしようもないぞ。元々あった村の規模からすれば、300人以上の村人を養える村だ。ただし、ろくでなしばかりを300人集めても村はやっていけん。必要なのは経験を積んだ者、手に職のある者、怠け癖や盗み癖のない勤勉な者だ。しかし現在、このルーケイに流れ込んで来る連中といったら、その反対の者ばかり。本当に必要とされる人材は、なかなか手に入るものでは無い‥‥」
 ここまで言ったルムスだったが、ふと何かに思い当たったという表情を見せた。
「しかし、打つ手が皆無という訳でもない。俺の聞いた話だと、過日のルーケイ反乱に際して、大勢の領民が難を逃れて南ルーケイに逃げ込んだという。国王の討伐軍はルーケイ全土を荒らし回ったが、南ルーケイはさほど大きな被害は被らなかった。その領民達は河賊『水蛇団』の保護下に入り、今も水蛇団の下で働いているはずだ。うまく彼らを連れ戻す事が出来れば、村の再建も叶うだろう」

●森の大惨事
「ムヒヒヒ、お金稼ぎ、楽ちィイイ〜〜〜〜ッ」
 獲らぬ毛皮の皮算用でニヤニヤ笑いながら、森の入口のやって来たヴァラス。連れてきた新入り村人に向き直って宣う。
「てめえら、暴れ足りんようだからよォー、この俺の狩りに付き合わせてやるぜ。嫌だっつったら殴る。ちなみに命の無事の保証はねえから臆病者はくるんじゃあねえぜ」
 その言葉に、新入り達は一斉に背を向けて逃げ出した。
「こらぁ、待てぇ! 全員で逃げるんじゃねぇ〜〜〜!」
 一人残らずとっ捕まえて、いざ森の中へ。
 しかし『生兵法は怪我の元下』という言葉は、狩りに対してもそっくり当てはまる。新入り達は狩りに関して、ずぶの素人ばかり。
「おっ! 鹿だ! 取り囲めぇ〜! もたもたするなぁ〜!」
 昼寝している鹿をおっかなびっくりで取り囲んだはいいが、新入りの一人がヘマをやらかした。
「うわっ! 蜂だぁ〜! 痛ぇ! 痛ぇ〜!」
 木の枝の蜂の巣に頭をひっかけ、刺されて大騒ぎ。その騒ぎに気付き、鹿が逃げ出す。
「逃がすなぁ! 逃がしたら半殺しだぁ!」
 その言葉に慌てて飛び出した新入り達は、一人、また一人と鹿に突き飛ばされ。
「うぎゃあ〜!」
「あがぁ〜!」
 叫んで倒れてのたうち回るばかり。最後に残った一人は森の奥へ逃げ出す始末。
「ええい! 役立たずがぁ!」
 ヴァラス1人で鹿を追いかけ、取っ組み合いの末に短刀で鹿の息の根を止めた」
「ケケケ、ちょろいもんだぜ」
 すると、森の中へ逃げて行った新入りが戻って来たではないか。
「た、助けてくれぇ〜!!」
 新入りの後から追いかけてくるのは、大きな熊であった。

「‥‥なんでこうなる?」
 熊と鹿を一人で仕留めたはいいが、連れて行った新入り全員を怪我人に変えて戻ってきたヴァラスにルムスは呆れ、しばし言葉も出ない。
 獲物と引き替えに冒険者へ渡されるべき報酬は、全てが怪我人の治療費と見舞金に消えてしまった。

●王領ルーケイに関する現状報告
《東ルーケイ》
・ルムスの村
 現在の人口 約250人。流民の流入により人口は増加中。早急に関所を設ける必要あり。かつては穀倉地帯だったが、村の周囲に数多くあった邑は国王の討伐軍の手で破壊された。
・クローバー村
 駐在する見張り以外に居住者なし。住居は全壊・半壊状態のままで放置状態。復旧には熟練した職人と、労働意欲のある働き手が必要となる。周囲には牧草となる草が生え、放牧に適している。
 村の入口の丘には砦の跡が存在。村、砦ともども復旧が検討されている。

《南ルーケイ》
 現在は河賊『水蛇団』の支配下にある。ルーケイ反乱の際、多数の領民が難を逃れて南ルーケイに入り、現在は水蛇団の下で働かされている模様。
 河を通る船の数は1日あたり10隻を下らない。船の種類は漁船、客船、材木の運搬船とさまざま。隣領のワンド子爵領はもとより、遠きセレ分国やウィエ分国からの船が通ることもある。

《中ルーケイ》
 現在は旧ルーケイ伯の遺臣達の支配下にある。

《西ルーケイ》
 現在は盗賊『毒蛇団』の支配下にある。

●仕事の終わりに
 諸事情により‥‥報告書は予定よりもかなり短いものになった。
「本当はもっと内容を盛り込みたかったのだが」
 報告書作成を手伝ったキースは物足りなさそう。しかしルムスは言う。
「まあ‥‥色々あったからな。今回はこれでよしとしよう」
 トルク側の冒険者キースに向けるその笑顔は、妙に引きつっていたような。