そこに11人居た!
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月06日〜08月09日
リプレイ公開日:2006年08月13日
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●オープニング
●そこに11人居た!
ウィルの貴族街、ベルゲリオン子爵の住まう館から四軒先の四辻にある四件の館が固まった一画。今は立ち入り禁止とし、各家が持ち回りで見張り等を立て、誰も近付かない様にしている。
ご近所へ呼びかけ、各国大使も含めて集まったのは、マーカスランドのサロンにある一室。
下の階からは天界の楽器、ピアノが奏でる天界の響。
表では侍女達が子供の相手をして遊んでいる。
競技場の入場口の天井には、第4回GCRで最後の一台となったフロートチャリオットが、逆さになって吊るされ、記念に飾られている。右側舷には真っ青なドラゴン、チーム【ブルーゲイル】、そして左側舷には白山羊と黒山羊【ゴートメンバーズ】のエンブレム。第3回の優勝チームと結果として第4回の優勝チームが合わさった正に記念碑。側壁には模擬弾を受けた盾が寄贈され、記念に飾られており、ここに人の途絶える事は無いかに思えた。
それに付着したインクの染み、傷の一つまでもが競技の盛り上がりを見る者に彷彿とさせる。
今、そこにはハトゥーム家やケン家の子供達を始め、二十人以上の子供達が目を輝かせて見上げ、この日の案内お兄さんのごっついダミ声に、レースの一部始終をその脳裏に想像しては思い思いの言葉を口にしていた。
花々を散りばめた絵柄がとてもゴージャス。金の縁取りに優美なラインを描くラン製のティーカップからは、薫り高い湯気が緩やかに立ち昇っていた。
社交辞令が一段落したのを見計らい、銀色の瞳をしたエルフが静かに語り出した。
「あの建物らはフォロ家の所有だそうです」
子爵は一度言葉を区切り、静かに一同を見渡した。
「そうなると、子供達はフォロ家の領土へ無断侵入を繰り返し、そこにある物を欲しいがままにしていた。そういう事になってしまいます」
「子供のしていた事とは言え、あまり響きの宜しくないお話になってしまいますわね?」
テーブルの斜向かい、そこに座す黒衣の人間、レイ男爵は口元をそっと押え、子爵へ問い、これにゆっくりと頷き返す。
「誰とは申しませんが、先日亡くなられた方の様に王宮では些細な事で、色々な事を言って来る輩も御座います」
「おお、結婚されたばかりで‥‥」
「噂では、死体は未だに見つからないそうです‥‥」
「金に汚い男であった‥‥」
一同ひそひそ声。
「皆様、亡くなられた方をどうこう言うのは‥‥どういう方か詳しく存じ上げませんが、可哀想なのは、ご結婚されてから一月もしない内に未亡人となられたという奥方様ですわ」
レイは自分の身上に重ねるのだろう。その灰色の瞳を僅かに潤ませ、皆の表情を見てとり項垂れて膝の上に握り締めた両の手を見つめた。
「話を戻しましょう」
老エルフのアレックス男爵は、手を挙げ注目を集めた。
「あの建物群がエーガン陛下の所有物ならば、陛下にお頼みして何とかして戴く他はあるまい」
「問題は誰が代表してと言う事では無いか?」
ふふふと含み笑いを浮かべ、ボルゲル男爵は口元へとティーカップを運び、先ずはその香りを楽しんだ。
「おお、何と芳しい」
「ここは良い茶器と良い葉を使っておりますね。これならば、何事かにつけて利用しても安心というもの」
ランのアストリア駐在大使が満足気に頷く。
「がっはっは、このプティングもなかなかの美味で御座いますぞ!」
一際目立つ巨漢の男、ボボガ男爵が嬉しそうに、胸からぶら下げた大きな銀のスプーンで、目の前にあるバケツをひっくり返した様な、超特大虹色プティングに舌鼓。その髭に隠れ気味の栗色の瞳で、パチリとウィンク。
「取り合えずあのまま放置しておくのは大変危険、という事ですな?」
「妙な輩が入り込む様では、治安上宜しくありません」
楽しそうな口調でアクツーク男爵もこれに言葉を続けた。
「となると、どれだけ危険かどうか、調査をせねばなりませんな? 近所に住まう者として」
「私としては役人任せにするのはどうかと‥‥ここは冒険者を雇うのが賢明です。例の地下の件を考えると‥‥」
子爵は唸り、少し考え込んだ。
「例の骸骨兵士の事ですね?」
レイの問いに厳しい表情で頷く。
「もしこの件が、フォロ家にとって触れてはならぬ禁忌であったなら、あの建物群が長期に渡り放置されていた事も頷けます。ただ忘れ去られているだけならば、問題はそれ程ない筈。前者の場合、関わるだけで危険やも知れません。しかし、その場合ならばこちらからの調査は拒否される筈。そうなれば、我等は周囲の壁を修繕してもらい、誰も入り込めない様に、そして中から何も出て来れぬ様、して戴けば良い」
ほうとひと息、子爵はカップを口元へと運んだ。
「臭い物には蓋ですね」
にこやかなアクツーク男爵。
「つまりは後者の場合、許可は下りる。冒険者を雇い、その地下室とやらを調査する。その化け物を退治して貰うなり、出現の原因を突き止めるなりした後は、老朽化して危険という理由で、更地にして貰う、と言った所ですか?」
「は〜っはっはっは! それが良い! それが面白い!」
ボボガ男爵は割れ鐘の様な声で腹を抱えて大笑い。
「何があるかは判らぬが、その様に面白そうなモノを献上するのはチト惜しいではないか!?」
「おお、いいですねぇ〜その意見☆」
調子よく、アクツーク男爵が合いの手を入れる。
そこへ、そっと手を挙げるレイ男爵。
「何かね?」
「あの‥‥皆様、私に一つ提案があります」
子爵が促すと、レイはぎゅっと胸の前に両手を組み、そして意を決した様に話を始めた。
「もし、あの地に問題が無き時は、あそこを更地にした上で競技訓練用の施設にして戴く様、お願いしては如何でしょう? これからは、フロートチャリオットを各チームで管理しなければなりません。これまでの様に、マーカス商会に任せっきりという訳にはいかないでしょう。ですが、その保守点検に個々でゴーレムニストの方々に来て戴くとなると大変でしょう?」
「確かに‥‥チャリオットを購入するという事は、皆様のお国も本腰を入れられるという事。その扱いも慎重にならざるを得ません。王の許可無くウィルの街中を走らせる事も出来ませぬ故、その様な地を用意して戴く事は、必要な事と存じます」
ハンのモート駐在大使が恭しく言葉を添えた。
「そうなりますと、この件はレースに関係される方に代表を務めて戴くという事で」
そう言って、ラオのクルムトセイザール駐在大使は、眉を上げ子爵を見据えた。
「元よりそのつもりでおりました」
その言葉に、チのルルエ駐在大使やエのシュゼン駐在大使も快くこの件に同意した。
●地下マップ
【地下一階】
□□□入口□□□
□□■■■■□□
□□□■■□↓□
□□□■■□■□
□■■■■■■□
□■□■■□□□
□↓□■■□□□
□□□■■□□□
□□■■■■□□
□□□□□□□□
↓下の階への階段
【地下二階】
□□□□□□□□
□□□??□↑□
□□□■■□■□
□□□■■■■□
□□□■■□□□
□□□?■?□□
□□□■■□□□
□■■■■□□□
□■□■■□□□
□↑□??□□□
□□□□□□□□
?水場
?子供達が隠れていた部屋
?未調査
↑上の階への階段
●リプレイ本文
●当日
早朝。まだ朝靄も晴れぬ廃墟を、幾つもの人影が歩む。
そこへ老け顔の騎士グレナム・ファルゲン(eb4322)が小走りで駆け寄り、自分より拳一つ分程度小柄などうみても傍目では自分より少なくとも10歳は若く見える壮年の男に、恭しく頭を垂れた。
「おはよう御座います、ボルゲル男爵様。レースの優勝おめでとうございます」
「おお、おはよう。何の何の。その言葉は汝等の為にあるのだ。心血を注ぎ、過酷な競技に打ち勝ったのだ。他に誰を褒め称えよう」
はっはっはと笑いながら、ぽんとグレナムの肩を叩くボルゲル男爵。
「はは! 我等はついにやりました。今後も更なる努力で優勝を目指します」
ぐっと拳を握り誓うグレナム。その横でいえいえとアクツーク男爵。
「この次はそうは参りませぬぞ」
「その通りですわ。うちのチームが完走したら、それはもう皆ビックリ☆」
羽根付きの扇を一振り。メーアメーア男爵の言葉に、のっそり後ろを続くボボガ男爵が大笑い。
「あ〜っはっはっは! それはビックリだな!」
「あら、今回は出走する為に随分な出費です事。ほほほほほ!」
いきなり妙な所で火花を散らす。それはもう挨拶みたいなもの。
そんな微笑ましい光景を、ボルゲル男爵と共にグレナムは目を細めて眺めた。
●品の良い木の館
「行ってらっしゃいませ」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
ベルゲリオン子爵の館前。ずらっと並ぶ12人のエルフの子供達が、パリっとした品の良い身だしなみ、執事や侍女のメロディ達と共に玄関先でお見送り。
一斉に声を出す子供達に、ベルゲリオン子爵はにこやかに手を振った。
「では行って来る」
「子爵様‥‥」
そっと来客を告げる執事は、柔らかな物腰で引き下がる。
馬上の人であったエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は下馬し、愛馬ティロータマの手綱を引いて歩み寄り、その後ろをのっしのっしとファング・ダイモス(ea7482)。
「おはようございます、ベルゲリオン子爵閣下。今朝は良い天気ですね」
「やあ、おはようエデン卿。これであのかび臭い所へ潜るとは実に勿体無い」
「おはようございます!」
「ファング卿も、今日は頼みます」
「ははっ!」
頃合の良い距離で一礼する三人。
「本日は、必ず期待に応えた働きをして見せましょう!」
グッと胸を張るファングは、子供達に朗らかに手を振った。
すると子供達はめいめいのサインを返してくる。小さな子は無邪気に手を振り、年長者は恭しく一礼する。
「はっはっは。これは裏切れません」
野太い声で子爵やエデンに笑いかけるファング。エデンもにこやか。それから子爵へと向き直った。
「今朝こちらにお伺いしましたのは、閣下のご子息達に一つお聞きしたい事が御座います。宜しいでしょうか?」
「ふむ。前の件ですか? 構いませんが‥‥」
子爵は少し考えた様子で、それから振り向くと子供達を招き寄せた。
パタパタと駆け寄る子供達。子爵と良く似た面差しがずらっと仰ぎ見る。
「こちらの方が、お前達に聞きたい事があるそうです」
子爵に紹介され、エデンは視線を合わせるべくしゃがみ込み、邪気の無いその眼差しに微笑みかけた。
「わたくしはエデン・アフナ・ワルヤと申します。ハトゥーム家の皆様に、お聞きしたい事は一つだけです。宜しいですか?」
すると、子供達の中でも年長らしき、と言っても人間の子供だと10歳に満たない背格好なのだが、毅然とした面差しで答えた。
「わたくしは長男のアルター・ハトゥームと申します。エデン卿、お訊ねになりたい事とは如何なる仕儀についてで御座いましょう?」
子爵と同じ金の髪に銀の瞳。エデンはちょっとした感動を覚えつつも、言葉丁寧に訊ねた。
「では、お訊ねします。あの廃墟のお屋敷で、あの日、皆様が出会ったお友達はいますか?」
すると皆首を横に振った。
(「わたくしの考え過ぎなのでしょうか‥‥?」)
「アンデッドとは、生無き者。死体や骨が悪魔の力により動き出し、生ある者を襲う。即ち、偽りの生を与えられし者を総じて言うのじゃ」
エデンの脳裏に、一昨日のヴェガの言葉が甦る。
「神の定めし理を、捻じ曲げ、憎み、あざ笑わんが為だけの悪魔の生み出した存在よの」
ヴェガの知識では初歩的な事しか判らなかったが‥‥
「そうそう、依頼が終わったら我が家に寄るが良いぞ。ミミルも喜ぶであろ」
(「ミミル‥‥」)
その笑顔がだぶって見えた。
ハッと我に返るエデン。
不思議そうな24の瞳に見つめられている自分に気付き、今更ながらちょっと苦笑する。
その頬をティロータマの湿った鼻先がふんふんとくすぐり、見やると普段の姿に戻っていた。
「そうですか。心配させてしまったみたいですね。わたくしは大丈夫ですよ」
つやつやと濡れそぼる青い馬体は、後ろ半分がイルカのそれ。前足は水掻きの様に蹄が変わっていた。ワッと声をあげる子供達に、びくりと震わせ、エデンの後ろに身を隠す。
子爵は静かに問い掛けた。
「エデン卿。これは何という生き物です?」
セレの民にとり、海の生き物に触れる機会は少ない。目の前での変貌は正に劇的。
「ヒポカンポスのティロータマです。大人しいんですよ。タマって呼んであげて下さい」
恐る恐る差し伸べられる子供達の小さな手に、エデンは目を細めた。
●閉ざされた闇を切り裂き
古びた地下への扉が、今開かれる。
キィィィ‥‥
乾いた音が、闇に反響し、過日の残滓が石床に。それは骨の白い粉塵。一歩踏み入れると、小さくパキリと足の裏で爆ぜた。
松明やカンテラの灯りが、薄埃の舞う無明の世界をゆらゆらと照らし出す。
入り口からワイン樽の貯蔵庫までの緩やかなスロープ。途中、幾つもの小部屋には異常も無く、慎重な足取りで進んだ。
「まさか、再び件の屋敷に踏み込む事になるとはな」
そっと扉を閉め、ランディ・マクファーレン(ea1702)は暗闇を見据えた。
「ここだけの話だが、この館の主はアグ・リッパーと言うウィザードで錬金術師だったらしい。が、極端な言動でエーガン王に睨まれ縛り首だ。子供は無い」
アレス・メルリード(ea0454)は、最前列を歩くファングや風烈(ea1587)の背に話しながら、ちらと傍らの褐色の肌の女性、サティー・タンヴィール(eb2503)の異国めいた風貌を眺めた。
長く白い髪に、きめの細かい褐色の肌。緑の瞳も、たいまつの灯りを映し出し実に神秘的だ。
「どうしました?」
サティーがその視線に気付き、自然な微笑を浮かべる。
「あ、いや‥‥綺麗だなって‥‥」
ぼふんとアレスの頭に血が昇る。
「あ、ありがとう‥‥でも、少し恥ずかしいですね‥‥」
ポッと頬が熱くなるサティー。
全員の五感が研ぎ澄まされた地下世界。ちょっとしたやり取りが、自然と耳に滑り込む。
「サティーさんも一緒に居てくれることだし、俺いつも以上に気合入れないとな」
「私も‥‥アレスさんの背中だけは何があろうとお守りしますから。頑張りましょう」
ぐっと拳を握るアレスに、にっこりと微笑むサティー。
にこにこと見詰め合う二人。
その幸せの波動に背を向けながら、虚空を掻き毟るかに身悶えるシュバルツ・バルト(eb4155)。
(「く〜、子供の恋愛じゃないんだから〜」)
そんなシュバルツにニヤリ。クナード・ヴィバーチェ(eb4056)は小さく首を左右に振る。
「何よ」
「さてと‥‥」
「何さ」
無言。クナードはヘッドランプで暗闇を照らし出す。
「しかし、なぜ魔物が屋敷の地下に居たのだろうか? 地下の一部が老朽化して、カオスに繋がってしまったとか‥‥」
「アンデッドは如何なる事情で、地下を徘徊するのであろうな?」
くぐもった声が、少し離れて立つアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)の口よりこぼれ出た。
「ばっかじゃないの? それを調べに行くんだから、論より証拠よ♪ 論より証拠〜♪」
口では軽口を叩くシュバルツだが、その手の中ではフレイルとリュートベイルがいつでもOKとばかり。
床が平たくなると突き当りまで古いワイン樽がずらっと並ぶ。
エデンは子爵より渡された、書きかけの地図を手に、道行の指示を出す。
「A班の皆様はここからこちらのルートで、B班の皆様はこちらのルートで下の階層へ抜けましょう。宜しいですね」
足元で、愛犬のダッケル、メガロがくるくると尻尾を振ってその身を摺り寄せていた。
●B班
湧き出る様に、骸骨兵士達が襲い来る。
「何だこいつは!?」
砕けて四散する白骨に紛れ、小柄な影が異臭と共に鮮血をも撒き散らす。
舌打し数歩飛び退くランディ。その腕はぽたぽたと赤い線を床に描く。
「シュバルツ!」
アルフォンスの声に、サッと差し出すフレイル。そのぶらぶらと揺れる数本の棒に、腕をかざしたアルフォンスの全身が淡くピンクに輝く。
「サンキュー!」
「後ろ!」
シュバルツが振り向くより早く、軽やかに空を舞う黒い影を、グレナムのハンマーが横合いから思いっきり打ち据えた。が、影はくるるっと廊下の暗がりへ消えた。
「な、何だこの手応えは!?」
グレナムは、異様な感触に戦慄する。
「下がってくださいグレナム様! アンデッドには、通常の武器が効かないものも居るそうです!」
「であるかっ!?」
張り詰めたエデンの声に、老け顔の皺を更に深め、グレナムはライトシールドを構え再度迫り来る骸骨兵士の動きに備えた。
エデンの持つランタンの灯りが、全員の影にゆらゆらと妖しいダンスを躍らせる。
吼えるメガロ。
揺れる切っ先を、グレナムの盾をも飛び越え、その黒い影が一気に襲い掛かった。
剥き出しの牙がぞろりと迫る。
「ぬおっ!?」
受けるハンマー。飛び散る腐液。ガジガジとそれを握る腕ごとかじらん勢い。
シュバルツは大胆にも大きなステップ。見下ろす様に、その怪物をねめつけた。
「あ〜ら、いけない子‥‥ネッ!!」
スカ〜ンといい音、壁に叩き付けられる化け物。グレナムは全身に腐った体液を浴び、しかめっ面。
「むう‥‥酷い匂いである‥‥」
「やっぱり、躾は叩かないといけないかしら?」
ヒュンと空を切りフレイルの腐液を落とすシュバルツ。うふふと笑みを漏らし、数歩前に出る。
「ぬう‥‥これはどこの国の?」
骸骨兵士と切り結ぶアルフォンス。武装はまちまちだが、見覚えのあるこしらえ。
「まさかジ・アースから来たのであろうか?」
転がり再び闇に逃れようとする化け物は、半分潰れ跳び出した眼球で、目の前に立った男を見、奇声を挙げて踊りかかった。
「これで最後だ、化け物‥‥」
アルフォンスが最後の骸骨兵士を打ち砕くとほぼ同時、ランディの突き出したショートソード。するりその胴体を貫いたかの瞬間、一気に横へ掻っ捌いた。
●A班
回廊は突き当たりで左右に別れた。
右は幾つもの小部屋のある突き当たり。
次に左へ。すると下へ続く螺旋階段があった。
「さてどうするか‥‥」
他に隠し扉や仕掛けが無いか、念入りに調べるクナード。今の所は無い。
「あっちは少し騒がしいな‥‥」
烈は無極式の姿勢。無にして形無く、無心にて自然。陰気に満ちた地下。それは僅かの大気の動き。
「一度戻って合流した方が良いでしょう」
「何があるか判りませんもの」
アレスの言葉に、サティーも頷く。
「むむむ‥‥どうやらここからの様ですね。向こうも何か発見しているかも知れません」
階段の床を何やらじっくりと覗き込んでいたファングも短く唸って立ち上がり、一行は一度水場へと引き返した。
●地下3階へ
A班が暫く待つと、B班の五人が一戦闘終えた様子のままに戻って来た。
「大丈夫ですか?」
サティーに、ランディは既に回復した左の腕を振って苦笑い。
「大した事は無い」
「妙なのが一匹いたが後は雑魚だ。が、これを見ろ」
墨染めの衣よりアルフォンスが取り出して見せたのは、幾本もの錆びた古い剣。そのこしらえはフランクやノルマン等で普通に使われる握りや柄だ。
「どうやら、ここに出ているアンデッドはジ・アースから来ているのではなかろうか?」
「我等の様にか?」
「確かにここは月道のある地‥‥」
そんな話を尻目に、グレナムは水場でバシャバシャ顔を洗う。
地下3階、そこには天井の高い円柱型の空間が広がり、灯りが何も無い虚空から差し込み、真昼の様に周囲を照らしていた。壁際には棚や妖しげな器具がずらり並べてあり、不気味な光がそこかしこに明滅していた。そして、部屋の中央には、瓦礫と土の山が。
「何だここは‥‥」
クナードは唸る様に息を漏らし、サンソードを抜いて数歩前に、皆これに倣う。
「やはり‥‥」
アルフォンスはガラクタを手に唸る。
土の上には人では無い者の多数の足跡。が、不思議と気配は無い。
「ふむ‥‥これは一体‥‥」
ファングは足跡を追いその小山の頂きに目を凝らした。そこに、何かを認め、大股で歩み寄った。
「危ないのでは!?」
アレスの問いを手で制し、ファングはガラクタの山の中から引っ張り出すと、それはまるでたった今、生まれたかに真新しい一振りの剣。
「おおっ!?」
誰もが息を呑む。金色に光り輝く刀身は、神々しいまでに美しかった。
「まるで太陽だ!」
「危ない!」
ファングと烈はほぼ同時。烈は奇声と共に駆け上った。土の中より化け物の腕が一斉に飛び出し、ファングの足を掴むや、ぐいっと引きずり込む。
「な、何だぁ〜っ!?」
烈の蹴りが打ち払うや、ファングの巨体はあちこち引っかかれながらもごろごろ転がり落ちた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!?」
ガチン
大地にファングが叩き付けられたと同時、まばゆい閃光が、地響きが、粉塵が。ガラガラと崩れ落ちる天井。光り輝く陽光は消え暗転、皆手探りで上へ。足元が崩れ落ちて行くのが判った。
転がる様に館の外へ飛び出した一行の眼前、館はぐずぐずと、まるで溶けるかの如く大地に飲み込まれて行く。
ハッと気付くと、たった今までファングがその手にしていた剣が無い。
「うっ!?」
鋭い痛み。見ると、引っかき傷だらけの右腕に、文字の様なアザが浮かび出ていた。そこが痛むのだ。
「あれは?」
そっと隠すファング。だが、傍で目にしたアルフォンスも、それをどこかで見た様な気がしてならなかった。そう。かつてアルミランテ街道で見たモノに酷似している。
●メーアメーアの館
帰宅の際、エデンは裏庭のプールで水遊びするタマと子供達に再会した。