マーカスランド〜大食い大会に燃えろ!

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:15人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月16日〜08月19日

リプレイ公開日:2006年08月23日

●オープニング

●マーカス会長は二度死ぬ?
「おう! おめぇら!」
 ひょいと顔を出したマーカス・テクシのぷっくり顔。
「きゃ〜っ! 痴漢っ!!」
 マシンガンの如く飛ぶワインのビンやら何やら。激しく叩き付けられ砕け散る。
 ごろり転がるマーカス会長。無惨な姿を衆々に晒した。
「か、会長‥‥」
 ピクリともしないマーカスに、我に返った劇団員が前を隠しながらそっと近付く。
「マーカスさん‥‥こんな簡単に‥‥」
 そんな言葉を漏らし、誰かが涙ぐんだ時。
「あ〜、よく死んだ」
 パッチリ目を開け、むっくり起き上がるマーカス会長は、一皮むけてケロッとした顔。
「か、会長‥‥それは?」
「ああ、試しに作らせた、まるごとまーかすだ! か〜っかっかっか!!」
「そりゃないよ、ご隠居〜‥‥」
「誰が隠居だ! おれぁまだ現役だ!!」
 なんじゃこりゃな話に、唖然とする一同、慌てて物陰に隠れて着替えを済ませた。
 そこはマーカスランド内にある秘密の花園、もとい王立華劇団専用女子更衣室。正に過激だ。

 その日の練習も終り、こざっぱりしたメンバーがマーカスランドのサロンに集まった。
 マーカスを中心に、パラのチップス男爵や黒子姿の沙羅影、更に全員が集まり、良く冷えたエールが皆の前に運ばれて来た所で、マーカス会長が立ち上がった。
 にやにやと一同を見渡し、カップを片手にマーカスはコホンと咳払い。
「大体必要なキャストは決まったみたいだな。脚本の作成の方も進んでるみたいだ。それの完成次第で役を本決めして通し稽古に移るが、その前に一仕事手伝って貰おう」
「えええ〜っ!!」
「この間ので良いじゃないですか〜!?」
「ハッハッハ〜、会長〜何か企んでるネ〜♪」
 歯茎剥き出しに、ドレッドヘアーの大男、ボビーが笑う。
「あったりめぇよぉ〜! ていうか、イレギュラーでな、どうもフオロ家にめでてぇ事があったみてぇだ。まだあんまりはっきりたぁ〜言えねぇが、そこで、ちょいとそれを祝してこのマーカスランドで、お祭騒ぎをぶちあげようってぇ〜腹だ。協力してくれると嬉しいんだがなぁ〜‥‥」
 急に猫撫で声になるマーカス。これはあからさまに妖しい、はっきり言ってキモイ☆
「どうせ来月にならにゃ、チャリオットが間に合わねぇらしいからな。噂じゃただでさえ手が足りねぇゴーレム工房から、何人も人員を割かにゃならねぇってんで、予約注文こなすのにかな〜りヤバイ状況らしいぜ。いやぁ〜こりゃぁどこも誤算だが、劇団としちゃあここでぽぽぽぽ〜んと存在感をアピ〜ルするチャンスってなもんだ」
 モノは言いようである。商人なんだから芸人以上に口が達者ってぇ訳だ。
「で、一体何をするんですか?」
「おうよ! ここは一つ、優勝賞金10G! 副賞は小麦一年分! 更に乳の出る牝牛を一頭プレゼントだ! 尤も、副賞は優勝者の名前でネヴァーランドに寄付だ」
「そ、それはどういう‥‥?」
 マーカスらしからぬ大盤振る舞いに、開いた口があんぐりだ。
「なぁ〜に、乳が一杯出て、ってぇ〜願掛けもあるって事だが、フオロ家の豊穣を祈っての儀式みてぇ〜なもんだ。まぁ、金を出してるのはぶっちゃけ俺じゃねぇが、その辺は秘密よぉ〜。優勝したら街中を練り歩くぜ。エーガン王陛下万歳って叫んでな。ついでにマリーネ様万歳ってはやしたててくれや」
 何となく成る程と納得。どうやら、どこかの貴族が目一杯ごますりをしたいらしい。

「で、一体何をするんですか?」
 まったく同じ質問を、同じ少年がにっこりと訊ねた。
「ふふふ〜ん」
 ニヤリと笑むマーカス。
 たっぷりもったいつけてから、指を一本ピンと立てた。
「ずばり! 第1回マーカスランド大食い選手権大会だ〜っ!! それっ、王立華劇団にかんぱ〜いっ!!」
「わっ!? ちょっと!」
「か、かんぱ〜い!!」
「はっはっはっは!!」

 ちょっぴりエールがぬるめだったのは、言うまでもない。
「会長、話が長いよ! まったくも〜!」

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3625 利賀桐 真琴(30歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb0751 ルシール・ハーキンス(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2002 山吹 葵(48歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3653 ケミカ・アクティオ(35歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb4016 真音 樹希(19歳・♂・僧侶・シフール・華仙教大国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4798 桜桃 真希(30歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4806 ルネ・ヴィレムセン(21歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

夜 黒妖(ea0351)/ リュウガ・ダグラス(ea2578

●リプレイ本文

●パレードの衣裳
 競技場の一画。話し込む二つの影。
「パレード用の衣裳を作るから、自分の店の宣伝も手を貸して欲しい〜?」
 マーカスはうろんな目付きで利賀桐真琴(ea3625)を見据えた。
「別に新しい衣裳なんか頼んじゃいねぇが、おめぇ、そんなに凄ぇのを作れるってぇ自信あんのか?」
「あたいをみくびんじゃねーぜ。伊達に仕立て屋『めいど・IN・真琴☆』の看板背負ってんじゃねーっつうの」
 瞬間、火花を散らす両者。
「こんな短ぇ時間で作れる訳ねぇだろ。一着作んのに何日かかると思ってやがる? いいかげんなもんに金は出せねぇぞ。それに、うちの劇団にゃ正式な団員の役者は一人もいねぇんだ。力入れて売り出してぇって専属の役者がいねえのに、衣裳に金かけるバカはねぇわな。パレードはうちにある衣裳か、各自が用意した物を使うぜ」
「ぐっ‥‥」
 何しろ本番前日だ。
「まぁ、個々にあたんな。もしかしたら、今度の興行で誰かにパトロンが付くかも知れねぇだろ? そん時ゃ、うまく取り入って精々高価な衣裳を注文して貰うんだな」
 そう言って立ち去るマーカスに、ぽんと肩を叩かれがっくりする真琴。
「良い衣裳を作るのが、良い宣伝になるってもんだぜ。先ずは腕見せろや。それで納得させろ」
「そりゃそうだけどさぁ〜‥‥」

 興行を打つのに専属の役者がいないというのとはまた別の問題で、衣裳とは演者が舞台で自分をアピールする為の道具であり、金が無い者は仕方ないとして通常自前である。

●配役発表
 そんなこんなで、大食い大会の前日に配役の発表だ!
 緊張した面持ちでマーカスランドのサロンに集うメンバー。
 そこでチップス男爵がコホンと咳払い。手にしたスクロールを白銀麗(ea8147)に手渡した。
「白さんのまとめてくれたメンバー表でOKだ。一先ずこれで行こう」
「本当ですか!? これで一安心ですね!」
 ワッと白の元に集まり、歓声を挙げる。
「まぁ、これで良いんじゃないかな? このイベントが終わったら、通し稽古でセリフを覚えて行こう」
「拙者も当日は黒子でお手伝いするで御座るよ」
 両腕を組んで頷く沙羅影は、相変わらずの黒ずくめ。
「ハ〜ッハッハッハッハ! 大道具はミーと」
 ボビーが手を差し伸べると、鮮やかな碧色のシフールがひょいと現れてペコリ。
「ども! アトランティス出版のシンブンキシャよ! ケミカ・アクティオ(eb3653)! 好きに呼んでね! 私は美術の専門家だから、裏方として色々作るのをやれたらって思うわ!」
「ハ〜ッハッハッハッハ! グレイトな相棒がやって来たゼい、イェ〜イ!!」
 ケミカは真面目な顔で、ボビーのペンキだらけの人差し指とグッと握手。

「でも、みんなで決めた事だから、今更発表も無いですよね」
「わーっ! 言ってはならん事を!」
 朗らかに笑うルネ・ヴィレムセン(eb4806)の口をチップス男爵が後ろから塞ぎにかかる。

「や〜れやれ。地方じゃ重税で苦しんでいる人も多いって聞くのに‥‥」
「それは上に立つ者が責務を果たして無いだけで御座ろう、夏樹殿」
「うわっ!?」
 いきなり背後を取られ、天野夏樹(eb4344)は飛び跳ねた。
「民豊かなれば国は富み、民貧しくて国滅ぶ。かくの如き祭は、国富ます為の布石で御座ろう。衣貧しくとも心豊かなれば、明日への希望涌くというもの」
「希望‥‥希望か!」
 沙羅影の言葉を噛み締めながら、夏樹は音頭を取った。
「よ〜っし! GCRじゃ無いけどお祭りだっ♪ 華劇団にも号令が掛かったし、気合入れて盛り上げてくぞっ!」
「「「お〜っ!!」」」

●準備♪
 プシューっとスプレー缶から極彩色の塗料が吹き出るのを見、ケミカは大きな声を上げた。
「ど、ど、どうして〜っ!?」
「ハ〜ッハッハッハ! これ地球のアイテムね!」
「凄い‥‥何この表面に書かれた文字!?」 
「ハ〜ッハッハッハ! それは印刷ネ! プリント! CG! アトランティスには無いネ!」
 ボビーと一緒に看板を作りながら、ケミカは悲鳴を上げた。
「印刷‥‥こんな金属の缶に印刷‥‥」
「ケミカちゃ〜ン。地球は魔法無いネ。代わりにこんな技術が発達したヨ。でもね、それ支えてるノ一人一人の職人技ネ。それが何百年かけてゆっくり進歩シタよ。新聞、頑張るネ。最初はガリ版、版木、凸版印刷、一つ一つの技、磨いて次のステップに進むヨ。焦っちゃダメダメね〜♪」
 そう言いながら、ボビーは文字の形に繰り抜いた薄い板を当て、カシャカシャプシューっと看板用の板に文字や記号を魔法の様に生み出して行った。
「むぅ〜、負けていられないわ! とっか〜ん!!」
 そう叫ぶと、ケミカはまるでポールアームを持つかの様に、絵筆を高々と掲げ、大きく羽ばたいた。

●準備♪ 準備♪
「牛乳は朝の採れたてを、アガタ村とべネック村から運び込む手筈が出来ている。この近隣じゃあそこが一番味が濃いからな」
 ひひひと薄笑いを浮かべるマーカス会長が調理担当の真琴とルシール・ハーキンス(eb0751)、一歩後ろを熊耳ジャイアントなアイリス・ビントゥ(ea7378)が無言で付いて来る。徐々に背丈が大きくなっていくという寸法だ。
「まぁ〜た強引に、安く叩いてるんじゃないの?」
 真琴はマーカスのぶよぶよなわき腹を肘で突きながら囁くと、相変わらずの大笑いが返って来る。
「か〜っかっかっか。俺は正当な価格でちゃ〜んと取引してるぜ。ちゃ〜んとした品にゃ、ちゃ〜んとした値を付けてやんねぇとな。次が続かねぇのさ。ルーケイ方面の街道沿いなんざ、酷ぇもんだぜ。ストレスが牛や山羊の乳にまで出ちまって酷ぇ〜味だ。世情の変化ってのはな、見えねぇ所でちゃ〜んと繋がってるのさ」
 ニヤリと笑うマーカス。ちゃ〜んと利益はキープしているのだろう。
 牛や山羊の乳は、子供の為に血液から作り出されるモノ。そしてストレスは牛や山羊の血液に現れ、その乳の味になる。度重なる行軍、上空を行き交う巨大なフロートシップの影、人心の乱れ。それらは如実に、臆病な草食動物の精神をさいなみ、食欲を失わしめ、王都より西側の家畜の出来に現れていた。
 手広く商売をやっているマーカスならではの見解だ。

 薄暗い地下の肉の熟成室には、天井から皮を剥かれ内臓を抜かれた牛が一頭まるまるぶらさがっていた。
 それをマーカスが押すと、吊り下げているキャッシャとチェーンがキイと鳴いた。
「アイリス。こいつをおめぇの怪力で、ばっさり捌いてハンバーガーのパテ用のひき肉を作ってくれや。真琴、ルシール、パテはお前ぇ達が握ってやってくれ。サイズが人間サイズだからな」
「は、はい! あ、あの‥‥真琴さん、ルシールさん、宜しくお願いします!」
「ま、またヨロシク☆だな」
「ひき肉造りも手伝うよ! 神の名の下に、撲殺しちゃうぞ☆ ってね♪」
 ペロリと舌を出してウィンク。
 気恥ずかしそうなアイリス。
 そして微笑む真琴。
 しっかり握手する当日のパン係とパテ係達。
「そうさな。千とは言わん。が、少なくともその半分は頼むぜ。後で何人か手伝いを寄越すからな。足りなかったら、奥の半身を引っ張って使いな」
 フンと鼻を鳴らし、マーカスはこの血脂臭い部屋を後にした。

 それから、この界隈一番の乳牛の様子を見に行くマーカス。
 すると、競技場の一画に繋がれた立派なメス牛の前に、ドロシー・ミルトン(eb4310)とルネの小柄なシルエットがちょこんと立ち、その背中をさすったりしていた。
「よぉ〜。世話してくれてるのかい?」
「あ、マーカスさん!」
 ドロシーがパッと振り向くと、牛はもぉ〜っと嘶き、数歩後ずさった。
「おいおい。あんまり大きな声を出すと、牛が興奮するぜ」
 皮肉めいた笑みを浮かべ、後ろ手に歩み寄るマーカスに、ドロシーはペコリと頭を下げた。
「あの、その‥‥マーカスのおじさま、小麦もケチらないで立派なのを用意してね」
「おいおい。いきなりそれかよ。しっかりしてるぜ」
「あ、ごめんさない‥‥」
 ポッと耳まで真っ赤になるドロシー。
「あははは、すごく立派な牛ですね」
 ルネもぽんぽんと牛の身体を撫でさすった。
「そりゃそうだ。この夏の牛の品評会において一等の栄誉に輝いたべネック村はジャコップ爺のメス牛だぜ。そこらの痩せ牛と一緒にされちゃ困るってぇ〜もんさ。何しろ、そこの爺さんが毎朝歌を歌って聞かせてるってぇ〜話さ。こいつは中でも数段、乳の味が違うんだぜ」
「それは凄いや☆ じゃあ、僕が作った歌を聞かせてあげよう♪」
 ルネはにっこりと微笑み、その咽を震わせた。

『いつでも食べたい あなたに美味しい マーカスバーガー♪
パンはふわっときつね色 中はジュワっとジューシーハンバーグ♪
さくさくシャキっとベジタブル♪
美味いぞ デリシャス マーカスバーガー♪
いけいけどんどん もっと食べてね♪』

 その楽しげな歌を聴きながらも、ドロシーとマーカスは苦笑い。
「かぁ〜‥‥」
「牛さんに聴かせるのはどうかしら‥‥一応、牛さんが食べられちゃう訳だし‥‥」
「あっ‥‥」
 目を大きく見開くルネ。
 牛は和やかな表情で、何も判らぬ様子で飼葉桶に首を突っ込み、もぐもぐと反芻している。
(「ピアノ‥‥聞かせてあげようかな‥‥♪」)
「あはははは‥‥そうだ。そのまま、ネヴァーランドに副賞を寄付しに行くのはどうかな? カーニバルみたいで楽しいと思うし、子供達も喜ぶんじゃないかな?」
 思い付きを口にするルネに、マーカスはやれやれと首を左右に振って見せた。
「何の為に、大会の観戦者にもマーカスバーガーと牛の乳を配ると思ってるんだぁ〜?」
「え?」
「マーカスのおじさま、それはどういう‥‥?」
 マーカスはやれやれと言った風情で肩をすくめた。
「ネヴァーランドのガキどもは全員招待に決まってんだろうが〜。俺が言わなくても、おめぇらの方で絶対来てね、ぐらい話しに行ってくれってこった」
「あ‥‥」
「あははは‥‥」
「はぁ〜‥‥おめぇ〜ら、まだまだ人が良いなぁ‥‥」
 あんぐりと口を開ける二人に、マーカスはため息一つ。遠い目をして空を見上げた。

●出陣だぁ!
「は〜い! これに着替えて下さ〜い!」
 倉城響(ea1466)が差し出すのは、地球で言う所のバンカラ学生服。
 そして高下駄。純白のサラシ。そしてハチマキ。
 それらを前に、一種異様な空気が。
 しかし、それらを吹き飛ばす様に、清純な微笑を絶やさぬ、お嬢様然とした桜桃真希(eb4798)の微笑。
「何かの‥‥誰かの応援って‥‥案外楽しいよね‥‥ハイ‥‥これは樹希さんの分‥‥」
「おっ!? サンキュー☆」
 青い羽をはためかせ、それを受け取った真音樹希(eb4016)は、自分の身体に当ててみる。
「おおー、イ〜感じ!」
「うわぁ〜、可愛い〜☆」
「まぁ‥‥お似合い‥‥」
 ぽけぽけ浪人と真希の二人に褒められ、ちょっと頬が赤くなり、緩みがちな樹希。
「よしっ! 早速着替えて来るよ!」
「行ってらっしゃ〜い!」
「良かった‥‥気に入って貰えたみたいで‥‥」
 きゅっと胸の前で手を組む黒髪の美少女。

 それらの微笑ましい光景を眩しげに見る一人の少女の時代を通り過ぎてしまった女性が居た。
「眩しいわ! くっ、これが若さか‥‥輝く青春の1ページ! 何て事!」
 するとすかさずハチマキを手に、キュキュキュっとオデコを磨き上げるガクラン姿のエリザ・ブランケンハイム(eb4428)。
「負けてられないわ! 気合よ! 気合! 気合! 気合!」
 ぴか〜ん☆
「おっとさすがはデコーノお嬢様でヤンス」
「気合充分でガンスね」
 すかさず、モヤッシー役の真琴とノーキン役のイコン・シュターライゼン(ea7891)が合いの手を入れる。
 パッとその輝きをハチマキの下にしまいこむエリザ。ぶわっと上着をマントの様にはためかせた。
「お前達! 選手達に気合を入れに行くわよ!」
「「あらほらさっさ〜!」」
 そう言ってから、三人はプ〜っと吹いた。
「な、なによ! わ、笑うなんて失礼だわ! ち、ちょっと! な、な、なんか文句あるってワケ? 」
「あははは! だって、だって‥‥ほんとにこんなセリフ、言うのかよ」
 ケラケラ笑う真琴に、エリザが真っ赤になって吼えた。
「し、仕方ないじゃない! そうブランケンハイムの伝承に残ってるんだから!」
「な、何だか、こう‥‥あ、悪役っぽくないですか、このセリフ回し?」
 ひいひいと、イコンも口元の緩みをこらえながら涙目で笑う。
「あ、貴方達が‥‥ア、アドリブで変えて行けばいいじゃないの!」
 真っ赤な頬っぺたを更にトマトの様に赤くし、エリザは足早に飛び出して行く。
「「あらほらさっさ〜!」」
 慌ててエリザを追う二人であった。

 そんな楽しげな雰囲気から離れ、違和感バリバリの男が一人。
「ふ‥‥ここには、俺の筋肉を満足させるだけの漢は居ないか‥‥」
 そう呟きながら、山吹葵(eb2002)は豊かな胸筋をぴくんぴくん震わせながらポージング。
「マーカスバーガー。腹いっぱい食べたかったでござるなぁ‥‥」
 さらしとねじり褌の上からガクランをぶばっと羽織り遠い目。
「あら? まかないで私達にも出るみたよ」
 凄まじい形相で、その声の主をねめつける葵。
「何よ‥‥」
 そこにはバニーガール姿の加藤瑠璃(eb4288)が、変なモノを見る目で見返していた。
 が、そんな事が気になる葵では無い。
「ん何っ!? それは誠でござるかっ!?」
「唾! もう‥‥観客に配る分もいっぱい焼くらしいから」
「ふむ‥‥ならば、観客をこの筋肉で眠らせれば‥‥腹いっぱいに‥‥」
「こらこら」
「冗談‥‥冗談‥‥」
 ぐっと各部の筋肉を盛り上がらせる葵に、瑠璃はそそくさと離れていった。
 それと入れ違いに白がつかつかと歩み寄る。
「あらあら。もう髪が‥‥葵さん、こちらにいらして」
「むう。白殿」
「そこにお座りになさい。そんな髪型で、あなたみっともないですよ」
「そうで御座るか?」
 言われるがままに、ちょこんと座り込む葵に、白は目を細めた。
「あらあら。葵さんは生真面目なのね」
「良く言われるでござる」
 うんうんと頷く葵。その頭を白のか細い手がピタリと止める。
「さあ、じっとしててね‥‥」
 そう言って櫛を手に葵の頭を梳く白。
 葵は、その軽やかな手並みの心地良さに、しばし時を忘れるのであった。

●第1回マーカスランド大食い選手権大会!
 雪崩れ込む様に、観客が集まるマーカスランドのダミーバガン前広場。
「さあ、いよいよ数十分で競技が開催されるマーカスランド! 各選手の様子を覗いてみましょうか!」
 夏樹はガクランをなびかせ、器用に人ごみの中をすり抜けて行く。
「おおっと! ビントゥ親子の巨漢があそこに! その向こうにはウシャス・クーベラ選手です! 今大会の目玉はこの巨人のお三方でしょう!」
 紹介する声が響く中、パンを焼いていたアイリスは、はたとその手を止め、十名の選手達が待機している辺りを見やった。
「兄さん、タイラスも‥‥」
(「二人とも頑張って‥‥」)

「はぁ〜い、まだまだ足りないわ〜♪」
 軽やかに、お盆を手にセーラー服姿の響がすり足で滑り込んでくる。
「ルシール!!」
「真琴ちゃん!!」
「「はあああああっ!!」」

 ダブルベイクーッ!!

 ガカッ!!

 交錯するセーラー服の二人!
 ひらめくスカート!
 何やら技が炸裂し、次々と程よく焼けたパテの山が量産されて行く!
 そしてそれをアイリスの巨大な手が風の様にかっさらう!

「後はあたしが!! おっ料理〜、ふっふふ〜んふん♪」

 ジャイアンツトーテム!!

 ズババババン!!

 まるで魔法の様、こんがり焼けたバンズがずらり並び、パテ、レタス、ピクルス、ソースが舞いスタタタと完成してゆくマーカスバーガー群。
「ふぅ〜‥‥あ、あの、出来ました‥‥」
「ま〜かせて!!」
「こっちにも10個下さい!!」
 それらが次々と運び出されて行く。

「何だか凄いわ〜‥‥」
 それを窓の向こうに遠く眺め、白がサロンの冷凍庫から、白い固形物の小さなブロックを次々とカップに入れ、そこへ真希が朝届いたばかりの牛乳を注ぎ込む。
 それこそ、前日から凍らせておいた牛乳。その上に、搾りたてのミルクを注ぎ込み、それが配られる間に充分に溶け、冷たいミルクの出来上がりだ。
「行って来ます!」
 お盆にゆっくりとカップを載せて歩き出す真希。入れ替わりにイコンが飛び込み、あっと言う間にとって返す。片方のお盆にマーカスバーガー、片方のお盆にミルクのカップ。
「まだ受け取ってない方はいらっしゃいますか〜!?」
 サッと手が上がると足早に近付いた。
 ミルクを飲んだ者の口の周りには、白い輪が出来ている。嘘か真か一目瞭然だ。
「あの‥‥とっても美味しい、冷えた牛乳はいかがですか‥‥?」
 真希も小さな声で配って回る。そして、ネヴァーランドの子供達にも。
「ありがとう☆」
「冷た〜い♪」
「い〜におい!」
「おいらにも!」
「僕が先だい!」
「はい、仲良くしましょうね‥‥急いで食べちゃ駄目よ‥‥良く噛んでね‥‥」
「「「うん!」」」
 そこへイコンが戻って来る。
「はい! まだ貰ってない子はいますか〜!?」
 きょろきょろとお互いを見合う子供達。そして、元気に答えた。
「「「いませ〜ん!」」」
「さあ、みんな〜! お姉さんやお兄さんの言う事は判ったかな〜!?」
 引率の方もにこやかに、子供達全員に行き渡ったのを確認して頷いた。
「さあ、お姉さん達にお礼を言おうね〜! 何と言えばいいか判るよね〜!?」
「「「はい!」」」
 そして一斉にぺこりと頭を下げた。
「「「ありがとうございます!」」」
 待ちきれない子が、パッと口に含んだが止め立てする者は居なかった。
「「「いただきます!!」」」

 真っ赤なバニーガール姿の瑠璃、セーラー服姿のドロシーと慌しく交錯する。
「やっほ〜♪」
「もう、何度目!?」
「五度目〜!」
「スゴ‥‥あ、眩しい!?」
 くらくらっと立ち眩むドロシー。その先には‥‥
「大食いは己との戦い! 要は気合の問題よ! 気合! 気合! 気合! 今日は貴方達の根性みせてもらうわよ!」
 選手の控えでは、エリザが相変わらずの名調子。ビシッと指差して、誰にも有無を言わせない。その様は正に光り輝く女王様!
「流石だわ‥‥炎天下の下、輝いている‥‥輝いているわ、エリザ☆」
「大丈夫?」
 何という威力! 我に返ると、ドロシーは瑠璃に支えられていた。
「私、もう駄目みたい‥‥後の事はお願い‥‥」
「しっかり!」
 瑠璃に振り起こされ、ドロシーは危なげな足取りで『天界人マイケルの迷子小屋』に。そこは、ドロシーが準備した救急室になっていた。そして、そこの利用者第1号が自分となった。

「私共が心を込めて調理しました♪ マーカスバーガーをよろしくお願いします♪」
 ルシールが一生懸命に観客達に声をかけながら、皆で競技用のマーカスバーガーを用意する。それはあっというまに100を越えた。

 そしてルネの歌声が朗々と流れた。
「では、スタート!!」
 チップス男爵の掛け声に、競技スタート!
 一斉にマーカスバーガーにかぶりつく10名!
 途端に響き渡るエリザの声が、ルネの歌にカブった。
「食えーっ! 食えーっ! バァーガー! 食えっ! 食えっ! バーガー!」
 ドンドンドドン!
 大音声のエールとはこの事か!?
 身体を海老の様に反らし、エリザは高々と声を張り上げ、腕を振るった。
「食えーっ! 食えーっ! バーガー! 食えっ! 食えっ! バァーガー!」
 ドンドンドドン!
「さあ! 凄いスピードです!! 声援も響き渡るこの会場に、それでも響く咀嚼音!! 中でもサレナ選手! ウシャス選手! 凄まじい速度です!!」
「これはぁっ!?」
 夏樹の熱がこもった解説。そのヒップに押され、チップス男爵がコロコロと転がった。
「ダントツです!! 今、セレナ選手! 一皿目をクリアーっ!! 何というスピードでしょう!! ああっと!!? 続いてウシャス選手が一皿目をクリアーっ!! 吸い込まれて行く様です!!」
 スケッチするケミカ。樹希がばっちりカウントする。
「頑張って下さいね」
「く、喰うで御座る‥‥(じゅるる‥‥)」
 響が、葵がサッと新しいお盆を、二人の前に重ねて置いた。
「さあさあ! トップが二皿目に突入だ! 香ばしい香りだ! おおっと、ここでリタイアする選手が! たったの三つ! たったの三つでリタイアだ! 食事をしに来たのか!? ここでリタイアが、あああっと!?」
 無情にも一皿目で散って行く人達。その中には巨人のタイラスの姿も。

「おっ、真治の旦那さん頑張ってんじゃん! 頑張れよ!」
 ふよふよとガクラン姿の樹希。
 そして二皿、三皿と皿を重ねて行く内に、終に五皿目にてサレナとウシャスの一騎打ちに持ち込まれた。
「ああっと! 健闘していたコテツ選手! 手が止まった! 手が止まった! 新しく運ばれた皿に手が伸びない!!」
「あんた、良くやったよ‥‥」
「む、無念だ‥‥」
 がっくりと40個で力尽きる虎徹。夏樹の実況も最高潮!
「人間は巨人族には勝てないのか!? 人間は巨人族には勝てないのか!? 証明してくれ! どうしたサレナ選手!? どうした!? ウシャス選手が余裕でクリアーッ!! ウシャス選手が余裕でクリアーッ!! あああっと!! サレナ選手、それ以上食べられない!! 止まった!! 止まった!! セレナ選手の食が止まってしまったぁ〜っ!!! 優勝はウシャス選手!!! 第1回マーカスランド大食い選手権大会の優勝者は巨人族のウシャス選手と決まりました!!! だが、まだ食べているぞ!!! まだ食べているぞ!!!! ウシャス選手、悠然とマーカスバーガーを食べていく!!! ここからは自分との戦いだ〜っ!!!」
 絶叫する夏樹。
 イコンが持ってきた七皿目もペロリと平らげ、二位のサレナと20個の大差を付け76個でフィニッシュ!

「栄えある大食い大会優勝者、ウィルの鉄の胃袋は‥‥ウシャスさんですっ! おめでとうございますっ!」
 優勝賞金の10Gがマーカス会長から手渡され、会場は熱気の坩堝!
 そして、牛の手綱がウシャス選手へ。そして、満面の笑顔のウシャス選手の手から子供達へと引き渡された。続き小麦の目録も。
 続いてサレナ選手に準優勝の賞金1Gが手渡され、かくして大食い大会は熱狂の内に幕を閉じた。

●パレードだ!!!
「そ〜れっ、出発だぁ〜っ!!」
 フロートチャリオットにウシャス選手とサレナ選手、そしてネヴァーランドの子供達を乗せウィル市街へ突入するパレードの列。前と後ろを挟み込む様に、更に熱狂した観客達もそのままについてくる。
 エリザが悪の女幹部然とした伝統の衣裳。Dの文字が燦然と輝く。
「会長‥‥太っ腹なのは伊達じゃなかったのね」
 つんつんとマーカス会長のお腹をつっつくエリザ。
「か〜っかっかっか!! 全部は俺の狙い通りだぜ!! いくぞ!!」
「「「おう!! 優勝おめでとー♪ エーガン陛下ばんざーい!! マリーネ様ばんざーい!!」」」
 ワッと盛り上がり絶叫する人々。
 ルネは天界の少年役そのままの格好。肩を組むエリザに、その左右を固めるモヤッシーとノーキン。
「我らが『おデコ』姫様の栄誉の為、ドラゴストーン求めて西東、さぁ、矢でも剣でも持ってきやがれでやんす!」
 ぴか〜ん☆
「さぁ〜、お前達! やぁ〜っておしまい!!」
「「あらほらさっさ〜!!」」
「あぁ、麗しのおデコ様、その名もデコデコデコー、デコーノ姫様〜!」
 小躍りして付いて行く二人。
「「「ウィルの鉄の胃袋、ウシャス万歳〜っ!!!」」」
 熊耳巨人メイド戦士も、兄のサイラスや甥のタイラスと肩を組み、のっしのっしと露払い。

 チャリオットの後ろには、ヤルタ家役の三人が、色鮮やかな布をかぶせた鎧を身に、手を振って歩いた。
「前の方はにぎやかねぇ〜」
 ミミクリーで華麗に変身した白は、クスクスと笑いドロシーに微笑みかける。
「魔法って凄いですね。白さん魔法少女みたい」
「魔法少女は良かったですね、白さん?」
 香ばしい香りを漂わせ、ルシールが唐突に叫び出す。
「打倒デコ魔人!!」
「さあ! 打倒デコ魔人に旅立つヤルタ家の三騎士! そして天界より舞い降りた可憐な美少女! 果たして彼等の運命や如何に!?」
 するとケミカがふわ〜っとやって来た。
「はぁ〜い、アトランティス出版の取材で〜っす! 恐縮です! そのデコ魔人について教えて下さい! 皆さんとどういった関係かしら!?」
 ぷはっと噴出す夏樹。腹をかかえて大笑い。
「きゃはははははっ!! 恐縮ですってあんた! あ〜っはっはっは!!」
 ケミカは一瞬、きょとんとした。

 メイド姿の真希と樹希。
 樹希をちょこんと頭の上に乗せ、真希は左右に手を振りながら、小さな声で何度も何度も呼びかける。
「華劇団を‥‥よろしくお願いします‥‥ね」
「あー、ねーちゃんしっかりしろよっ! そんな小さな声じゃ、聞こえないって!」
「そ、そう‥‥?」
 すっと息を吸って、真希は思いっきり声を出してみた。
「華劇団をよろしくお願いしま〜す‥‥けほっ! こほっ!」
「だ、駄目だこりゃ」
「そんな事言わないで‥‥」
 ケラケラ笑って、頭の上で足をパタパタさせる樹希に、真希はちょっと唇を尖らせて抗議。
「まー、ねーちゃんらしいかな」
「もう‥‥酷いわ‥‥」
 それでも二人から笑顔が消える事は無い。

 そのすぐ後ろを、ずんずんと葵が続く。
 その腕にはいっぱいのマーカスバーガー。それをぱくつきながら、感涙にくれた。
(「我が人生に一遍の悔い無しっ!!」)
 右腕を高らかに突き上げ、口はもぐもぐと動いている。

「「「優勝おめでとー♪ エーガン陛下ばんざーい!! マリーネ様ばんざーい!!」」」
 パレードの列は、延々とお城まで伸びて行った。
 この様を、お城のバルコニーから、エーガン王とマリーネ妃が微笑みながら眺めていたかは定かでは無い。