●リプレイ本文
●第1回マーカスランド大食い選手権大会!
「さぁっ!! 鉄の胃袋の持ち主共の入場だぁ〜っ!!」
チップス男爵の絶叫が、満員御礼のマーカスランドに木霊する。
うおおおっ!!
大観衆の熱狂が、街の城壁すらも揺さぶった。
「「「にゅうじょ〜だぁ〜っ!」」」
ネヴァーランドの子供達も、牛乳のカップを振り上げて、一緒になって飛び跳ねる。
「一人目はこいつだぁ〜っ!! 喰うや喰わずで51年間!! 石をも喰らう赤貧の胃袋!! スラム街を代表しての最高齢参加者!! 石喰いのジャット・リー!!」
ワ〜ッと大歓声が上がる中、よぼよぼと一人の老人が会場に歩み出る。
そして、手に持っていた握りこぶし程の石を、ぽ〜んと空に放ると、空中でがぶり、ガキゴキと噛み砕いて見せた。その動き、老人のものとはとても思えない!
「続いてガンガン行くぞ〜っ!! 天界よりこのアトランティスに降臨して早半年!! 世界にあまねくカツドン教の教えを説いて歩く、正に伝道の巨人!! カツドンカツドンはお経です!! 黒派カツドン教の祭司、サ〜イラス・ビントゥ〜ッ!!」
ズシンズシンと地響き鳴らし、つるっぱげの巨漢、サイラス・ビントゥ(ea6044)がお経を唱えながら現れた。
「カツドンカツドン‥‥人生、これ修行なり!! 私はインドゥーラの僧侶、サイラスと申す!」
クワッと見開く目力に、一瞬、観客は沈黙する。
すると全身これ真っ青な吟遊詩人の歌声が朗々と響き渡った。
♪さあ、勇者たちよ
海の水を飲み干せ
肉の山を乗り越え
全て喰らい尽くせ
今こそその力を見せるときだ〜!! ♪
「さぁ〜って!! 続いてどんどん入場だ!! 商業地区で地道な商売をやってます!! 貴方と私のアルゴス商会の勇士! 店の金庫番がこんな事してていいのか!!? 番頭のシールド・タイヨーだ〜っ!!」
手にした円形の盆をぴゅーんと大空に飛ばすと、それは弧を描いて手元に戻って来る。
それをパッシと受け取って高々と掲げて見せるシールド。
割れんばかりの大歓声に応え、今度は水平に投げると、逆回転がかかり再び手元へ転がり戻る。はっきり言って大食いに関係無いが、それでも観客は大喜びだ。
「融資話は是非、アルゴス商会へ!! いつもニコニコ現金払い!!」
影でマーカス会長が、指で咽元をかっきる仕草をして見せたのは言うまでもない。
「ふぅん‥‥」
サレナ・ヒュッケバイン(ea8357)は自分のチャイナドレスを指で摘んだ。
「パフォーマンスは何も考えていなかったわ‥‥これは手強い‥‥」
「でも‥‥」
そう呟いて踏み出すサレナ。同時に男爵による選手紹介が始まる。
「私は自分を信じて食べ続け、身体は無限大の可能性を秘めている事を証明して見せます!! そう言って可憐なるチャイナドレスの冒険者は、このコロシアムへと足を踏み入れました!! 自称腹ペコ騎士!! 子供達の為にも頑張ります!! 無限の胃袋!! サレ〜ナ・ヒュッケバイ〜ンッ!!」
「うっしゃぁ〜っ!!」
高らかに腕を掲げ、まるで四角いリングに飛び込むが如くセレナは、スリットから弾む様な生足を披露し、華麗に駆け出した。
「私は認めよう!! 自分が腹ペコ騎士であると!! そして目の前の敵を討〜つ!!」
そう高らかに宣言。ビシッとお盆に積まれたマーカスバーガーの小山を指差した。
可憐な美少女の登場に、会場は割れんばかりの大歓声。
そこへ、男爵の重々しいセリフが流れ出す。
「私は常に日陰に身を置いて来ました!! そう語る男は何故に日の当たる場所へ出ようと言うのか!!? 自称、闇のプロデューサー!! GCRは私の手を離れ天空へ羽ばたいた!! もはや何も語る事はありません!! ギリのねじ込みは得意です!! 収めてみましょう、マーカスバーガー!! 担当泣かせの闇からの使者、マスター・オータムぅ〜!!」
すると、真っ黒な覆面をした怪人物が、ゆっくりとした歩調で進み出た。
それは口元だけを開け、大きな一つ目を描いたぎょっとするデザインのそれ。
中肉中背の中年太り。ぷっくり出た下腹はご愛嬌。
特に何をするでもなく、不気味な男は立ち位置へと着く。
し〜んと静まり返った会場。
だが、男爵の紹介は止まらない。
「天界のインドゥーラより参りました!! 前に進めばいい事あるさ!! そう希望を胸に頑張ります!! あたいのたべっぷりが、どこまで通じるか楽しみだよと豪語しております!! インドゥーラの神秘!! ウシャス・クベーラ(eb0927)〜っ!!」
レースをたなびかせ、颯爽と現れる2mの女巨人。
周囲の期待を他所に、何をするでもなく、謎の怪人物の横へと立ち、そしてにっこり。
「リバウンドは恐くない!! 一ヶ月もあれば百キロは落として見せますと、正に歩くワイン樽!! 夢は捨てた!! 愛も要らぬ!! 歩むは大食いの覇道!! 我が生涯に一遍の悔い無し!! あるのは喰いのみ!! 大食いに覇王は二人も要らぬ!! 全国一千万のシングルマザーを代表して参戦です!! ラーオ・ポラリスゥ〜!!」
ズシン! ズシン!
その地響きはどの巨人のそれと比べても大きかった。
身体を左右に大きく揺さぶって歩く、スペシャルボディ☆
ギョロリと睨む双眸は、正に覇王のそれ!
だが、ウシャスはそれを受け止め、にっこりと微笑み返した。
「強い!! これは強い!! やはり生物として巨人族に人族は勝てないのか!!? ラーオ選手は人間としては巨大だが、果たして格上の相手とどこまで戦えるのか楽しみな一戦だ〜っ!!」
「「母ちゃ〜んっ!! 頑張れぇ〜っ!!」」
「おおっと、子供達の声援だ!!」
数名の小さな子供達が、マーカスバーガーとカップを、その手が真っ白になるまで握り締め、丸い身体を振り絞って声を上げる。正にこの母にしてこの子らあり!
「さあっ!! 選手紹介は残すところあと3名!! 地球からやって来た!! 陸上自衛隊では708師団に所属!! 目的の為には手段は選ばない!! テロリストに挑む者!! もう離さない!! だから、そばに居て欲しい!! 俺は愛の戦士だ!! 愛は不滅!! 愛は滅びぬ!! 愛ゆえに戦う漢!! 吾妻虎徹(eb4086)ぅ〜っ!!」
「虎徹ぅ〜っ!!」
人垣から桜桃真治(eb4072)が、歩み出した虎徹に熱烈な声援。
虎徹は熱い視線を投げかける。
(「がんばってくるよ、俺達の子供の為にもな」)
(「虎徹、どうしても無理なら無理はするなよ? 身体第一だからな? 無理じゃなければ赤ちゃんのためにも頑張ってくれ♪」)
少しふらつく足取りの虎徹。
心配そうな真治。
そして数秒間、そこで見詰め合う二人。
「こらぁ〜っ!! そこの新婚夫婦!! のろけはお家に帰ってからだぜぃっ!!」
どっと笑いが沸き起こる会場。
苦笑いの虎徹は、サッと真治に近付くと、頬にチュ☆ 真治もチュ☆
「行ってらっしゃ〜い☆」
「ああ、頑張るぞ!」
敬礼すると足早にマーカスバーガーの前に。
「このフレーズ、覚えておいででしょう!! カツドンカツドンはお経です!! 父達と共にやって来ましたアトランティス!! 最初に行ったのがショア城での冒険でした!! 今度は父上と一緒に大食い大会に参加です!! ようし、がんばるのです!! みてて下さい姉上!! 最年少10歳の参加です!! しかし身体は人のそれを遥かに凌駕する、最強の10歳!! 黒派カツドン教のタ〜イラス・ビントゥ〜っ!!」
とたとたと進み出、ペコリとお辞儀するタイラス・ビントゥ(eb4135)。円らな瞳を大きく見開き、目の前の大観衆を見渡した。
「カツドンカツドン‥‥カツドン菩薩様、タイラスをお見守り下さいです」
手を合わせるタイラス。そして定位置へと着いた。
「いよいよ最後です!! 特別枠でのご招待!! おらの育てた牛はおらが食うだ!! そう言って、隣のべネック村からやって参りました!! 牛を育てりゃウィル一!! ならば喰ってもウィル一に違いねぇ!! 自慢の咽さ、聴かせるだ!! 毎日のヨーグルトが健康の秘訣だと、今朝もしっかり喰って来ました!! 牛育ての名人!! 一ヶ月遅れで、未だ50歳!! べネック村のジャコップ爺〜っ!!」
すると、どこからともなく、澄んだ歌声が響き出す。
それは高原を吹く風の如きヨーデル。毎日、牛に聞かせていると自慢の咽を披露するジャコップ爺さん。独特の歩き方でゆっくりの入場だ!! 応援団の老人倶楽部が一緒に咽を聞かせている。
すると、そこに若い歌声が混じる。
「いつでも食べたい あなたに美味しい マーカスバーガー♪
パンはふわっときつね色 中はジュワっとジューシーハンバーグ♪
さくさくシャキっとベジタブル♪
美味いぞ デリシャス マーカスバーガー♪
いけいけどんどん もっと食べてね♪」
吊られて食べ始める人々。選手達の我慢も限界だ!
「では、スタート!!」
チップス男爵の掛け声に、競技スタート!
一斉にマーカスバーガーにかぶりつく10名!
途端に響き渡るエリザの声が、ルネの歌にカブった。
「食えーっ! 食えーっ! バァーガー! 食えっ! 食えっ! バーガー!」
ドンドンドドン!
「さあ! 凄いスピードです!! 声援も響き渡るこの会場に、それでも響く咀嚼音!! 中でもサレナ選手! ウシャス選手! 凄まじい速度です!!」
「これはぁっ!?」
ここで台から転げ落ちたチップス男爵が泡を吹いて倒れた。
「ううう‥‥おぢさんはね‥‥おぢさんはね‥‥」
何やらトラウマスイッチが入ってしまった様子。
早速運ばれて行く男爵。
代わりに元気の良い、女の子の声が会場に響き渡り、野郎共がこぞって歓声をあげる。
一皿目!
そこには暖かなマーカスバーガーが10個盛られている!
サイラス、タイラス父子! ウシャスに虎徹、サレナは一口目をがぶり!
美味い!
美味すぎる!
こんなに美味くていいのか!?
市場に出回る牛肉は、豚や鶏と違い病気で死んだ奴や、老衰のもの。基本的には貴族でもなければ貴重な労働力である牛を捌いて食べるという慣習はあまり無い。
が、この肉は違う!
ウィル一と評判の高いジャコップ爺が育てた肉付きの良い牛を、この大会の為に捌いて、数日間地下室で熟成させた肉なのだ!
言わば肉の極上品!
だが、そのジャコップ爺さんが3個目でリタイア。
「ぐぐぐ‥‥こんなに美味いとは‥‥不覚じゃ‥‥」
続いてジャット爺さんも4個で涙のダウン。
「こんな‥‥こんな美味いもんがこの世にあったなんて‥‥もう死んでもエエ‥‥」
震える枯れ木の様な腕が、パタリと落ちた。
立て続けの高齢者のダウンに、緊張が走る会場。
が、セレナは後押しされる様な不思議な感覚で、立て続けに10個を完食! 続いてウシャスもペロリ☆
「ダントツです!! 今、サレナ選手! 一皿目をクリアーっ!! 何というスピードでしょう!! ああっと!!? 続いてウシャス選手が一皿目をクリアーっ!! 吸い込まれて行く様です!!」
それに追いすがる様に、虎徹が、サイラスが続く!
「虎徹ーっ、まだまだイケるぞ、がんばれーっ♪」
それにサッと腕を挙げて応える虎徹。
その目の前に、ドンと追加の一皿が!
「ひ、引かぬ!」
「「母ちゃ〜ん!」」
「媚びぬ!」
「「母ちゃ〜ん!」」
「省みぬ!」
「「母ちゃ〜ん!?」」
ぶはぁっ!と噴いて倒れるラーオ。7個完食!
急激なダイエットで胃が小さくなっていた所に、急激に押し込めた結果だ!
そこでサイラスは、息子のタイラスの様子がおかしい事に気付いた。
(「何!?」)
タイラスは脂汗をだらだらたらしながら、8個目を手に止まっている。
日々の粗食が、我が子の胃を並のものとしていたのか!?
(「偉大なるカツドン菩薩よ!」)
(「うう、げふっ、カツドン菩薩様、これも僕の試練なのですね!」)
(「先に行く、父を許せ!」)
(「さ、さすが父上です‥‥」)
にっこり微笑み、がっくりと倒れ伏すタイラス。
が、父のサイラスは駆け寄る事もせずに、ただひたすらに食す! 頬を伝うのは汗か涙か‥‥
「お〜っと!! 二皿目を突破出来たのは、サレナ、ウシャス、虎鉄、サイラス、オータムの僅か5名だ〜っ!! しかもセレナ、ウシャスは既に三皿目だ〜っ!!」
実況の夏樹はノリノリに頭をシェイク!
バンカラの応援団が声を振り上げる!
「食えーっ! 食えーっ! バーガー! 食えっ! 食えっ! バァーガー!」
皐月鈴華(eb5898)は震える手で友達の手をぎゅっと握り締めた。
「何て‥‥何て熱い戦いなの‥‥ただ食べるだけなのに、こんなに熱いなんて‥‥」
「鈴華様。これがアトランティスの人々なんです」
にっこりと満面の笑み。
鈴華は何度も頷いて、鬼神の如きたべっぷりの5人のデッドヒートを見やった。
26個めにてマスター・オータムが撃沈!
「ば、バカな‥‥ぶひゅっ!?」
鼻から噴き出し、まるで火山の噴火の様に倒れる。
この段階で、サレナとウシャスは互いを意識しながら食をコントロールして行く。
(「おそらく‥‥」)
(「彼女が最強の敵!!」)
確信に似た閃きが互いの脳裏を過ぎる。
その時、セレナは自分の目を疑った。ウシャスは両の手を使い、華麗に己の口へと運んで行く! まるでカーリーの様、その手が幾重にもタブって見えたのだ。
(「ば、バカな!?」)
「ぐ‥‥ぐぐ‥‥」
29個目を手にサイラスの動きがピタリと止まる。
最早、押し込められないギリギリの所まで来てしまっている。
(「カ、カツドン菩薩様‥‥我に力を‥‥」)
そこでぐるり、白目を剥くサイラス。だだ〜んと倒れた。
「!?」
虎徹をじっと見つめる真治は、思わず息を呑む。心臓が早鐘の様に鳴っている。
そっとお腹を押えた。
「む、無念だ‥‥」
40個で、虎徹が倒れリタイア。
「虎徹! 虎徹!」
真治は足早に裏手へ走った。
セレスは56個で沈む。
そしてそれからも食べ続けたウシャスは、にっこりと76個目を口に運び終了。
「あら?」
がっくり肩を落とすセレス。
「また次に参加します‥‥今回はお腹の調子が悪かっただけですからね」
「いいぜ。またがあればな」
微笑みながらも両雄が握手。
「優勝はウシャス選手で〜っす!! 記録は何と76個!!」
歓声の中、二人は表彰へ。そしてパレードへと引き出されて行った。