按察官公募す!
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月02日〜09月07日
リプレイ公開日:2006年09月04日
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●オープニング
●按察官を決めよう
じめっとしたかび臭い一室。闇の中からマスター・オータムが囁く。
「もっとだ‥‥もっとだ‥‥もっとウィルを楽しい世界にするのだ‥‥く〜っくっくっくっく‥‥」
すると赤い光が明滅し、謎の渋い声が響き出した。
「マスター・オータムよご苦労だ。だが、次の按察官を決めなければならない。前任者は、後任の者を決める事無く、より民の為にと護民官へ身を投じてしまった。残念な事だが、彼は純粋過ぎたのだ」
するとマスター・オータムは芝居がかった身振りで、その赤い明滅に対して跪いた。
「はは‥‥よい若者でしたが、娯楽へ対する情熱という意味では、生真面目過ぎたのが災いしたのでしょう。ですが、ご心配無く。次なる者の選任に、着手致します」
「うむ。マスター・オータムよ。期待しておるぞ」
「総ては偉大なるウィルの大王の為に‥‥」
そして灯りの消えた闇の中、マスター・オータムは薄ら笑いを浮かべたままに立ち上がる。
「さて、何も決まらないならば、こちらが決めねばなるまい‥‥」
●マーカスランド秘密隠し部屋その11
ガラスの天窓から陽光が差し込み、あの脂ぎった中年男をテカテカと照らし出していた。
「マーカス会長‥‥」
そっと巨躯の若頭から差し出された書簡を一瞥し、マーカス・テクシはそれまで手にしていた羊皮紙を、執務机の上に山と積まれた書類の上に投げ出した。
「誰からだ?」
「例の男です‥‥」
それだけでマーカスは嫌な顔をする。
「また難癖付けて来やがったか?」
「そろそろレースの時期ですから」
「違うな‥‥」
呆れた口調で、マーカスは一瞥した羊皮紙を若頭に見せた。
「按察官を選抜せよ? 何だこりゃ?」
「俺の名前で募集をかけろという事だ。この都周辺で行われる祭事を担当する役人を決める。民からの意見を吸い上げ、様々な祭事に生かす者だ‥‥全く、船頭が多い船だぜ」
そう言って呆れた表情をしてみせるマーカス。
ぎょろりと目を剥き、口をへの字に曲げて見せる。
「だが、考えても見ろ。選抜を俺に任せるって事は、俺の息がかかった奴を役人に仕立てて、好き勝手やっても良いって事だぞ」
ニヤリと笑うマーカス。
「成る程‥‥で?」
野太い腕を組む若頭が訊ねると、つまらなそうな顔をしてマーカスはぽいとその手紙を机に放った。
「まぁ、及第点の奴を立てる事も出来るだろうよ。俺の言う事を良く聞いて、色々有利に動いてくれる‥‥だがそれじゃつまらねぇ。そうだろ?」
「そりゃそうで。役人らしい役人じゃ、それ以上の事は望めませんな」
「けっ! あの野郎、食えネェぜ」
「多分、向こうもそう想ってますぜ、旦那」
苦虫を噛み潰した様に顔をしかめるマーカス。
「まあ、俺達をびっくりさせる様な奴じゃなきゃ、仕事にのめりこみ過ぎて自滅したり、ギリギリでビックリする様なネタは仕込めねぇ。まだまだ俺の知らねぇ才能がどこかに埋もれているかも知れねぇな‥‥雛鳥かと思ったら竜のでした、みてぇなな?」
くっくっくと気を取り直してほくそえむマーカスは、早速一枚の羊皮紙に、羽ペンを走らせた。
「こいつを、代筆屋に清書させな。冒険者ギルドにも出すぜ」
「公募ですかい? 集まりますかね? 会長、悪いイメージがデカ過ぎますからね〜。大体、平民の旦那が下っ端とは言え貴族の役職を選抜するなんて聞いた事がありませんぜ」
「そりゃ、しゃぁ〜ねぇ〜な。そんな事で、ひっこんでる奴に用は無ぇよ。色んな奴の話を聞き、精査し、これはって意見を、泥の中から宝石の原石を引き抜く様に俺達に提示する、こちとらそんな化け物を望んでるんだぜ。なにくそ! これくれぇ屁でもねぇぜ! そうやってこっちを引っ掻き回した挙句に、とんでもねぇ仕事をする。そんな面白ぇ奴じゃなきゃ、この都も死ぬぜ」
要は,最初から何でも上手く出来る奴は居ない。あちこちぶつかりあって経験を積み、一つ一つの仕事を覚えていく、それぐらいのガッツが無いと、この都の祭事を取りまとめるなんて事は出来ずに、ただ平民の言うがままに振り回されるだけの単なる道化となるか、何一つ民草の事を考えずにただただ右から左へと処理していくだけの普通の役人となるだろう。場合によっては賄賂の額で祭事を左右する、前任者以前と大して変わらない小役人が。
「まぁその原因の一翼を、会長の強欲が担うんでしょうが」
くっくっくっく‥‥含み笑いするマーカスは、椅子から立ち上がった。
「俺はそこまでデカイ人間じゃねぇよ。ただ言える事は、この国は変わるぜ。ガラっとな。天界人の話を聞きゃ、俺の始めた事なんか小せぇ小せぇ。今までの考えが通用しねぇ事も出て来るだろうさ。そん時になって、よぼよぼ寝たきりの俺が何やろうってんだ。それともとっくに墓ん中か? そん時ゃ、この国を背負って立つ新しいクソ野郎どもが、ごめんなすってと縦横無尽に駆けずり回ってらぁ」
じろりと若頭を見やるマーカス。
「部屋換えるぜ」
「へい! マーカス会長!」
●按察官公募ス!
どんな裏事情があろうとも、按察官公募は行われた。
公募内容と言うのは‥‥
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告
按察官欠員の為に諸々の祭事に
滞りが出ている。そこで、王都の祭事を取り仕切る
按察官を公募する事となった。
後日、マーカスランド内の特設ステージにて、
応募者全員によるスピーチを行い、
集った聴衆の中から、最も多くの拍手を得た者が推挙される。
官位官職無く、尚且つ王都の祭事に対し情熱ある者よ、
集え! マーカスランドに!
尚、スピーチの内容は、王都の祭事についてであれば、
何でも構わない。
語れ! その情熱を!
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●リプレイ本文
●按察官公募ス!
「あ‥‥」
大勢の聴衆を前に、朝倉葉(eb6488)はすっかり舞い上がっていた。頭に入れておいた話すべき事柄が、どこに消えたのか。心臓がばくばくと早打ちし、くらくらと目が回った。
「あ‥‥」
お〜い、どうした〜!!?
可哀想よ!
聴衆は口々に好き勝手な野次を飛ばした。
その独特の眼差しで、並居る聴衆を見渡した。それから思い出した様に、このイベントの司会進行役のお兄さんの方を見た。
「あ、あの‥‥下がっていいかな?」
するとブーイングで掻き消される葉の声に、司会のお兄さんはにっこりと頷き、手招きしてくれる。こうして、手荒な洗礼を受けた葉は、演台から転がる様に駆け下りた。
マーカスランド内に設けられた特設ステージ。競技場の第1と第2カーブの観客席の真ん中辺、コースの縁に演台が設けられ、そこから観客席に向けて、街の祭りへの想いの丈を演説するのだ。
「う〜ん、こりゃ参ったなぁ‥‥」
ぽりぽりと頬を掻き苦笑する葉に、次の応募者が微笑みながら歩み寄った。
「そこ、立ってられると、私が演台に立てないんだけどな」
「うわわわっ!?」
そう言って、葉の目の前に立ったのは、16歳の葉にとって拳一つ分背が低いのだが、色気むんむんの美人でグラマラスなお姉さんだ。一目で同じ地球からの天界人だと判った。
「うふふふ‥‥私、井上一美(eb6425)よ。よろしく、ボ・ウ・ヤ‥‥」
「はぁ、どうも‥‥」
その迫力ボディにしどろもどろの葉。一美がとんとオデコを押すと、くたりと腰が砕けてその場にへたり込んでしまった。
「じゃっあねぇ〜♪」
軽やかに演台のステップを駆け登ろうとした一美は。つるん! ドテン!
「いったぁ〜い‥‥」
どっと会場に笑いの渦が沸き起こった。
『さあ、次なる応募者は、またも地球からの天界人! 井上一美嬢だ! 静粛に願いま〜す!』
司会進行の逞しいお兄さんは、朗らかな笑顔。さっと駆け寄って、一美を立たせてくれた。
「あ、ありあとうございます‥‥」
かくして入れ替わり、ひょこひょこと演台に立った一美は、両手をサッと挙げて皆に呼びかけた。
「みなさぁ〜ん、私の話を聞いて下さぁ〜い!」
聞いてるぞ〜ねぇちゃ〜ん!
ころんで大丈夫か〜!
次々と野次が飛ぶのにも、何やら声援に聞こえてくる一美は、にこにこしながらこれに手を振り返した。
「皆さん、ありがとう御座います! 一美、感激です! 私、お祭とか好きだから、そういうの考えてみたいと思いま〜す!」
一瞬、会場の男達のボルテージは数段跳ね上がった。無駄な期待に。
そしてそれ以外は、少し眉をひそめた。
一美はにこやかに会場を見渡し、一拍置いてから話を再開した。
「なんだか、ペットが色々と問題みたいなので、みんなにペットを知ってもらえるような、触れ合い会みたいなのとか、説明会みたいなのをやったらいいなと思います!」
どよどよっと会場がどよめいた。
そのペットと触れ合うってのはどんなペットだ〜!!? 俺はロック鳥となんかごめんだぜ!!
まだ喰われたくね〜からなぁっ!!
魔獣を市街に持ち込むなぁ〜っ!!
ドッと受ける質問に、賛同の声も沸き起こる。
みんな、安心して暮らしたいだけなのだ。野放図にペットを扱う一部の冒険者達が、街の人々の心象をはなはだ悪くしてしまっていた。
「私は思うんです! 難しい事は判らないけど‥‥ペットと飼い主には、強いつながりがあるのだと! それをみんなに判って欲しいんです!」
ここで引き下がると、後が無い。
「ロック鳥とお話ししましょう何て事は言いません! いえ、言えません! もっと身近な、犬や猫と言った、そんな生き物との触れ合いから、みんなが楽しめる様に、頑張りたいです!」
先ずは身近な所から。そんな考えに、聴衆はホッと胸を撫で下ろす様に、まばらな拍手を贈るのであった。
『さあさあ、残るはあと二人! 今度はジ・アースからの天界人! 13歳の少年です!』
後ろ手に三つ編みにした金髪が、ぴょ〜んと跳ねるのを器用に首に巻きつけ、少年は吼えた。
「オッス! オイラはラスター・トゥーゲント(ea1115)ってんだ! よろしくな!」
ぽーんと演台に飛び出たラスターは、ぴっと手を挙げ、元気一杯だ。
「オイラ、13歳だから若い力で新風を巻き起こしてやるぜ!って事で申し込んで見たんだ!」
何だか妙に元気なこぞうが出て来たぞ、とわいのわいのと盛り上がる会場。
「みんなが楽しめて、みんなが嬉しくなれる‥‥そういった感じをやりたいな!」
そう言い切るラスターは、肌で聴衆達の次第に注目してくる気配をひしひしと感じていた。
(「へへへ、そう来なくっちゃな!」)
じゃあ、どうすんだ〜!?
そんな声援に待ってましたとばかりにラスターは、その口火を切った。
「もっと! も〜っと! みんなが仲良く出来る様に『合コン』をやるのが良いと思うな! 『合コン』ってのは、みんなで仲良くお食事会やお茶会なんかやる事なんだよ! そうやって仲良くなって『ラブラブ』 になったりすると、楽しいんじゃないかな〜!?」
おお〜っと若い平民層の聴衆からどよめきが。そして年寄りからはブーイングが。
ラブラブ‥‥
お茶会‥‥
GOUKON?
お茶会とは貴族の風習である為、この都の平民にとっては縁の無い話である。
ましてや『合コン』とは地球の日本からの俗語。アトランティスには無い言葉。その言葉の意味は理解されず、放った音だけが伝わった。
なんだそりゃ〜!?
さっぱり判らないぞ〜!!
「『合コン』って、男と女のグループが食事やお酒をとりながら、色々話して仲良くなる地球の風習なんだってさ! やっぱりみんな仲良くした方が良いに決まってるからね!」
悪びれる事なく、そう言って説明するラスターに、一斉に激しいブーイングが浴びせられた。
それは保守的なアトランティスの人々にとって、かなり俗悪で危険なモノ。
アトランティスにおける男女感は、家と家同士の契約という意味合いが強い。それは貴族階級のみならず、平民の商家や普通の家庭においてもである。男女間で無作為に出会いを求めるというものは、感覚的に売春宿の類と同等に列せられてしまう。
余りの反応の悪さに戸惑うラスター。
「あ、あ〜、後は『市民』の人も気軽に参加出来る内容のお祭もやりたいな!」
思わず噛みそうになりながらも、またも難しい言葉を使った。ジ・アースのローマやアテナイ等の都市国家における共和制下の市民権を持った存在、それはこのアトランティスにはまだ発生していない。地球からの天界人にはすんなり受け入れられるイメージが、概念を持たぬアトランティス人には伝わらない。
「むしろ『市民』の人が主役のお祭とか面白いと思うよ! 例えば‥‥『市民』『マラソン』とか‥‥冒険者は警備とかすればいいんじゃないかな!?」
マラソンとは、これもまたアトランティスには存在しない言葉だ。
何を言ってるか判らないぞ〜っ!!
SHIMIN!?
MARASON!?
どういう意味か教えろ〜っ!!
「『市民』とはこちらの世界で言うところの街の人の事だよ! 『マラソン』は長距離を走って、走行時間を競う競技だ! 昔、戦争で伝令が走った事から生まれた天界の競技なんだ!」
ふぅ〜ん‥‥そんな感心する声が、ところどころからもれ聞こえる。だが、スポーツをする暇など、ウィルの平民にはない。走ってそれがどうなんだと言う声が大きい。
「『市民』に優しい冒険者を目指すのがいいと思うからね! オイラ、まだまだ分からない事も知らない事もいっぱいあるけどさ、みんなの為に全力で頑張るから宜しくお願いします!」
ペコリと頭を下げ、頭を抱えながら転がる様に演台を駆け下ったラスター。
「あちゃ〜! もうぐずぐずだよ、おいら!」
演台の下の柱に頭をごつんごつんと何度もぶつけた。
「こらこら、男の子。みっともないぞ☆」
「へ?」
振り向くと、真っ赤になったおでこを指先でツンと突っつかれた。
「あ痛っ!?」
眼鏡をかけた黒髪の女性は、にこやかに手を振り演台へのステップを昇る。
何だかそれを見ていてデジャブーを覚える司会進行役のお兄さん。ハッと我に返って最後の紹介を行った。
『え〜! 皆様! ご静粛に! 彼女が最後の公募者です! 地球からの天界人! 篠宮沙華恵(eb4729)嬢〜!』
何も話しをしていない内から、ドッと沸き起こる拍手と声援。
これが最後なのだろうと安堵する者。
地球からの来訪者の不思議な出で立ちに、これまでに無いモノを感じ取る者。
様々な色合いの反応を、にこやかに伊達眼鏡の奥から眺めつつ、間合いを見計らい、ゆっくりと語りだした。
「みなさん、こんにちは。天界人の、しのみや さかえ です」
するとしーんとする聴衆達。これまでとはえらく違った物腰の柔らかさ。それが豹変する。
「皆さん! アトランティスには萌えが不足しています!」
はぁ!?
MOE?
「萌え、それは『美しい』と『可愛い』の狭間! 『愛している』と『愛おしい』の中間にして、そのどれをも越えるパワーを発揮する事もある感情です! 騎士が姫君に捧げる純愛も、ある意味、萌えの一種と言って良いでしょう!」
しかし、これでは‥‥萌えと言う感情を、多分誤解しているだろう。一言、萌えと言っても、そのバリエーションたるや長い時間を掛けないと理解して貰えそうにない複雑な概念を含んでいるのだ。萌えを判らそうだなんて思ったら、萌えを知る天界人と三日三晩は語り明かす必要がある。
案の定、
MOE?
なんだそれ?
騎士と姫ってそういう関係だったか?
理解出来ない。
このような反応が大半を占める。
「私があんさつ官になりましたら、既存のGCRなどの大型イベントと平行して、萌えを重視した小型イベントを積極的に実施していきます! 具体的には、幼いペットコンテスト、天界ファッションショーなどを腹案としております! 私の名前は天界の言葉で『繁栄』の意味です! 楽しいイベントを実施して、ウィルが繁栄するお手伝いをしていきたいと思っています! しのみや! さかえ! しのみやさかえに清き一票をよろしくお願いいたします!」
一部の隙も与えずに、簡潔に、それでいてしっかりと己の主張を織り込んだ沙華恵のスピーチ。ただ、問題は服の素材。身体にぴったりフィットするようなのはラバーが無くては不可能だし、透ける素材は絹しかない。化学繊維の無いアトランティスでは実現不可能な物もあるだろう。
深々とおじぎする沙華恵が、ゆっくりと表を上げると、その面差しに笑顔を満たすが如く、人々から盛大な拍手が注がれた。
●結果発表を終え‥‥
「皆さん。按察官は、王都で行われるお祭りを管理指導する役職です。近隣の村々のお祭りや、Wカップ等はその範疇の外で、その地の代官や領主、専門の運営委員会が担当される事。皆さんには、暫くの間、見習期間をおいてこの王都でのイベントに注力して戴きます」
にこやかな口調で、そのマスター・オータムと名乗った中年男はせわしなく指を組みながら、話を進めていた。
「無論、各地のイベントを参考にするのは素晴らしい事です。無理をしないでも宜しいのですが、出来れば、どんどん参加して見聞を広めて下さい」
そこで、トップで表彰された沙華恵が、そっと手を挙げた。
「あの、オータムさん? で宜しいかしら?」
「ええ、構いませんよ。さかえ嬢」
「ありがとう、ございます。では早速、オータムさん。これはどういう事なのでしょう?」
競技場横の貴族向けの待合室で、静かに席を囲む司会のお兄さんと、オータム氏、そして沙華恵とラスター、一美に草。そして新たに二人の騎士がこの席に加わった。
「王都の警備任務に就いております、ラック・アンダーと申します」
金の巻き毛がくるくるっとした、物腰の柔らかな青年騎士が微笑んだ。
「同じく、ウォール・ハングです。実は私も新任です。お手柔らかに願います」
そして栗色のストレートヘアーが、サラサラな青年騎士がおじぎする。
まるでベルバラから飛び出して来た様な二人の美丈夫。二人とも少し離れた地にある地方領主の子息である。
警備に関する打ち合わせは、彼らとする事になりそうだ。
そして今日の司会役をした、がっしりとした感じのお兄さんもにこやかに一礼。
「マーカス商会で若頭をやらせて戴いております、アインと申します。以後、このイベント場の窓口を担当させて戴きます。どうぞ皆様、お見知り置き願います」
どうみても腕っ節が立ちそうな巨躯の青年は、リベットをした黒革のグローブをしていた。素手で人を殴り殺せそうな‥‥
「最も拍手を集めた沙華恵さんを、按察官への推挙をするのはやぶさかではありません。が、以前は一人に総てを預けた為に、その方の都合が悪くなるや、後を託す者の無いままに空座になってしまった。これを避ける為にも、また一人に負担をかけるのでは無く、何人かで事に当たるべく、チーム制をとろうと考えました」
そう言ってオータムは4人の顔を見渡した。
「酷いブーイングを浴びた方」
ラスターは思わず飲みかけのジュースを噴きそうになる。
「うまく話せなかった方」
葉はこくりこくりと頷いた。
「皆さん、若く経験に乏しいだけだと思うのです。だから、こちらの世界では受け入れ難い話もしてしまった。だが、あの場へ出て来たという熱意は買いたいのです。そこで見習い期間を置き、何回か小さなイベントを開き、按察官の実際を経験した上で陛下に推挙させて戴く、という形が良いのではと内々の声もあって‥‥如何ですかな?」
「え? お、おいら、話も出来なかったけど‥‥いいのかな?」
口ごもる葉。それを突き飛ばす様に、満面の笑みで一美が立ち上がった。
「やります! やらせて下さい!」
「あいたたた‥‥」
「おいおい、しっかりしろよ! 相棒!」
ポンと尻餅を着いた葉の肩を叩き、引き起こすラスター。へへへと鼻の下をこすり、照れくさそうに握った右手を上下に振った。
「ラスター、ラスター・トゥーゲントだ。よろしく!」
「ありがとう。おいら、朝倉葉だ」
がっしりと握手を交わす二人。そんな二人を横目に、沙華恵はにっこり。
「あ〜らら。深め合うのは男の子同士の友情だけなの?」
ふふんと鼻を鳴らし、うろんな目付きをして見せる沙華恵。次にはスッと手を差し伸べて、握手する二人の掌に重ねた。
「あっ!? ずるい! 私も〜☆」
一美も無邪気な笑み。両の掌を、飛びつく様に重ねた。
そして四人は、互いの顔を照れくさそうに見つめ、それから満面の笑みで微笑みかけた。
その傍らでオータムは何度も頷いた。
「この者達を、宜しく御頼みして宜しいですかな?」
二人の市街警備の担当者は静かに頷き、ラック卿が4人に話し掛けた。
「現状、市街でのペット騒動は様子を見ねばなりません。陛下のお心をこれ以上、煩わせる訳にはいかないのです。ですが、小さな祭りから様々な輪を広げ、人々に喜びを振り撒く事は、偉大なる陛下のお心に沿う事。共に街に住まう者達の平安の為に、力を合わせましょうぞ」
「「「「はい!」」」」
輝くばかりの瞳で、返答する4人。
「恐れながら」
アインも言葉を繋げた。
「街の者の事、根回しの方、微力ながらお力添えも出来ましょう。また、会場の方も当方に人が集まる様にして戴ければ、何かと相乗効果が期待出来ます。また、区画も壁ですっきりとしておりますので、警備の方もしやすいかと存じます」
「「「「宜しくお願いします!」」」」
ペコリと一斉にお辞儀する4人。
希望に満ち、期待に胸膨らませる4人は、王都での祭事に対しめくるめく煌きを感じずにはいられなかった。
元気に弾む声。マスター・オータムは目じりに涙を浮かべずには居られず、そっとハンカチで拭う。
ここに『按察官見習チーム』発足ス!