ベテル先生〜騎士道

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月03日〜09月06日

リプレイ公開日:2006年09月06日

●オープニング

 やあ諸君。私がベテルだ。なんでも考え、かんでも知って、なんでもかんでもやってみよう。それが学問の始まりだ。さて、今日の講義は‥‥‥。

  【 騎 士 道 】

 身近なものだけど、意外に良く知られていない。騎士として恥ずかしくなく振る舞うために、あるいは要らぬ悶着を起こさぬ為に。AはAである、BはBであるべきと言う原則を知らねばならない。通り一遍の解説に加え、諸君の質疑にも私は答える。
 良き質問を用意してくれ給え。諸君!

 では、諸君に会える日をお待ちする。

●今回の参加者

 eb4239 山田 リリア(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb6513 西野 杞紗(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 やあ諸君。私がベテルだ。なんでも考え、かんでも知って、なんでもかんでもやってみよう。それが学問の始まりだ。
 さて、今日のテーマは‥‥騎士道。それを紐解く前に、騎士道を成立させた背景を説明しよう。
 ベテルは壇に就き講義を始める。今回の聴講生は山田リリア(eb4239)・鳳レオン(eb4286)・アリア・アル・アールヴ(eb4304)・キース・ファラン(eb4324)・西野杞紗の5人。杞紗は質問もできないくらい夢中になって聞いている。

●アトランティスの法
 アトランティスには法で裁く側と法で裁かれる側が区分される。支配する側である領主(騎士階級)と支配される側である領民(平民)である。
しかも法はそれぞれの領地によって異なり、明文化されたものすらない。領主が検察官であり裁判官であり、さらに執行人でもある。そして平民には弁護人はいない。
 では騎士は何によって裁かれるか。その行動に規範はないのか。どのような行動も許されるのか。答えは否である。
 騎士階級にも上下関係がある。武器を持つ権利としての騎士身分を持っていても自分の領地を持たない、領主に経済的に従属した騎士もいれば、小さいながらも自分の領地を持つ騎士もいる。騎士の上下関係は封建契約によって生じている。
 配下の騎士が何らかの犯罪(便宜的に犯罪という名称を使う)を犯した場合に、上級領主領主はそれを裁く基準が必要である。身分としては同じ騎士身分。むやみやたらに裁くことは安定を欠くことになる。配下に入れている騎士達の反感を招くことになる。自らを律し、他者も同様に行動することによって安定させる役割を持つ必要が出てくる。その犯罪がどのようなことで騎士道に反した、そのためどのような処罰を行う。その基準が配下の騎士達の納得いくようなものでなければならない。
 その基準を騎士道に求める。もちろん、その国の最上級領主(国王)であっても、理論的には騎士道に反した場合には、下級領主たちから見放されることになる。そのような国王につく騎士もいるだろうが、彼らは騎士道に反した一党という扱いを受けることになるだろう。

●封建契約とは
 君臣関係を定める封建契約は、喩えるならば悪党共が親分子分の関係を築くのに似ている。封建社会とは、領主同士の同盟の延長上にあるのだ。
 主君は封土(あるいは相当する権利)を家臣に与え、その代償に家臣は主君に奉仕する。これが封建制度である。根本的には対等な立場での相互契約であり、主君が主君の務めを疎かにすれば、家臣は家臣の務めを 果たさなくとも良い。この点、両者の関係はシビアである。奉仕の実際は封建契約を結ぶときに定められ、双方の義務と権利が記される。
 封建契約は複数結ぶことが出来るが、既に結ばれた契約と抵触する物は無効とされる。このため、A・B・Cと3人の主君を持つ騎士が、AとBが闘うときAに味方し、AとCが闘う時は中立を護り、BとCが闘うときは攻め込まれた方に味方する。と言うように具体的な条件設定をして先の契約に抵触しないようにしている。
 実際には力関係があるのでそれほど簡単ではないが、主君が契約を破った場合家臣は奉仕の義務から解かれるものと法的には解釈される。同様に家臣が義務を怠った場合には封土を剥奪することも可能だ。与えた封土は家臣の物なので、主君と雖も内政干渉は憚られる。領地でどんな政治をしていようと、どんな規範を定めていようと、主君に忠誠で有る限り何も口出しは出来ない。

●納得が基本
 さて、騎士は個々に武装する者であるからして、それを律するものが無くては平和が保たれない。そこで、戦う者同士の規範として生まれてきた者が騎士道である。
 騎士同士の戦いでは、卑怯と相手と周囲が思える行動が制限される。落とし穴掘って待ち伏せて、穴に落ちて動けないところを大勢で寄って集って攻撃するのは当然と理解できる駄目じゃろう。

 規範の主な物を挙げると
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.互いに卑怯なことはしない。
2.約束を守る。
3.劣勢の敵への攻撃を控え、堂々の敵とのみ戦う。婦人・子供・非戦闘員を攻撃しない。
4.敗者は勝者に従い勝者は敗者を保護する。
5.地位や能力に応じた責任を果たす。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 国毎に差違はあるが、この部分は共通である。

 騎士が生まれた頃。戦いも小規模だった。一対一では武勇の優劣が勝負を決した。それゆえ敗者は納得して勝者の軍門に降り矛を収める。勝者も軍門に降った敗者を受け入れ、自己の保護下に置く。騎士道の太初(はじめ)はこうした武勇を競う敵対する武人同士の互いの尊敬から始まった。
 騎士道とはなんであろう? 突き詰めるところ、騎士が互いに納得するための手段である。時代が降り、一騎同士の闘いから複数の騎士があつまる戦いになると、個々人がどんなに武勇を誇っても、結束の悪いほうは不利になる。そこで騎士を纏める上位者の命に従うと言うルールが出来る。同時に、上位者は配下を保護し取りまとめるためのルールが出来る。これらは必要に迫られ騎士達全員の納得の上、自然発生したものとわしは考えている。
 仮令敵味方に分かれようと、騎士は同じルールを共有しているため、どちらかが全滅しなければ収まらないような不毛な戦いを避けることが出来るのだ。正騎士の一騎打ちも、発祥の理由を鑑みれば、戦いをより少ない犠牲で収めるための手段にしか過ぎない。

 今では国毎に異なる作法も生まれている騎士道ではあるが、騎士道に則った戦いという物は、煎じ詰めれば互いに納得して交わした約束を守り、相手がそれを履行することを信用して闘う事を言う。細かい作法や儀礼は、全てそこから派生する。
 騎士道とはすなわち、騎士が互いの納得を保つ道なのである。それゆえ「行動規範」すなわち騎士としての行動方針を規定し、一般的には抑止事項が提示されておる。

 具体例を挙げよう。騎士は弱者への攻撃を禁止されておるが、陣地粉砕や戦列の突き崩しを行うことは可能である。ゴーレムで歩兵陣地を破壊したり歩兵を追い散らすことは騎士道に背かない。なんとなれば挑んでくる者と闘うことは寧ろ彼らに対する礼儀でもあるからである。ただし、敗走する歩兵を惨殺したり、負傷して戦闘意欲を喪失した敵への攻撃は禁止されておる。
 正規の戦闘で有れば、相手が子供や庶民であっても、彼らが挑んでくる限り騎士に準じる者とみなして闘うのが礼儀である。勿論、うち負かした後の扱いも騎士に準じ無ければならない。
 相手が盗賊の類で有れば騎士道の儀礼を適用する必要はないが、陋規(ろうき/悪党なりの道徳規範)を守る者に対して騎士道を適用することは、人望を得る手段として有効である。その結果、盗賊を帰順させて部下としている者もおる。
 騎士道とは戦う者のルールであるからして、敵からの挑戦を受ける事や戦意ある者との戦いは基本的に無条件に許される。だか、戦意喪失した相手や基本的に戦わない階級の人々への攻撃は禁止されている。これは、騎士の戦いが外交の手段としての戦争を儀式化することで戦いの激化を抑止している為である。
 何故ならば戦争が、始まったら一番に死ぬのは、騎士であり。生まれたときから死と向き合う教育を幼少より行われているためである。故に騎士の戦いの根本原則は、戦う事で自己の意思を相手に認めさせる事となるのだ。
 騎士の作法や会戦での禁止事項は、これらの目的に合致するように作られており。代々の騎士たちが戦うことで伝統として練り上げられたものである。

●古典的な会戦作法
 さて、わしが諸君等の話と付け合わせて判明した、アトランティス独特の慣わしとして、騎士の戦いを決する正騎士の一騎打ちがあった。これはいろいろと誤解されているようなので特に詳しく解説する。

 実際にはそう無いが。先ず戦いの優劣が誰の目にも判るような場合をモデルとして説明しよう。この場合、正騎士による最終戦は降伏の儀式であると言える。
 戦いの帰趨が決まり不要な犠牲を出さない。と王あるいは軍の最高位者が決めた時に正騎士の代表者が正騎士旗を持ち代表騎士のサーコートを纏って使者として敵の指揮間に正騎士旗を渡すと戦いは、自動的に停止命令が出される。正騎士旗を渡すということは、政治的決定の受諾表
明なので。事実上の降伏である。正騎士旗を受け取った指揮官は、慣例として旗の奪還をかけての一騎打ちを提案し、正騎士による最終決戦となる。
 そもそも、戦の目的は政治要求の相手に対する強制であるからして、負けを認めると言うことは、自己の要求を取り下げると言うことである。このため、正騎士の一騎打ちは最終調整の意味を持つ。
 つまり、正騎士旗を渡した方の騎士が敗北した場合は、勝者の騎士を称える為に戦が終わった後、使者として勝者の城に赴き捕虜の身代金の引き渡しと降伏条件への調印を行い正騎士旗を返還して貰うこととなる。反対に正騎士旗を受け取った騎士が敗北した場合は、自動的に捕虜が無条件で返還され。両方の軍の死者を弔い。戦いが終わった後、正騎士旗を受け取った指揮官は返却の使者を敗北した指揮官の城に派遣して、旗の返還と条約の調印を行う。この場合の条約は、当初の要求より大幅に政治条件が緩和されることは言うまでもない。
 いずれの場合でも、正騎士による最終決戦の敗者の陣営から名誉有る撤退が行われる。この時に敗者は、勝者に騎士に対する礼を軍全体で表明するのが慣例である。それを受けて、勝者が敗者に健闘を称える礼を返すのは怨みを残さぬ為の慣例である。これらのしきたりは、いかに争いを少ない犠牲で収めるかについて、歴史的な積み重ねによる騎士達の納得の結果である。

 ただ、これは説明を簡略化するための極端な例である。実際にはこのような一方が他方を追い詰めるような戦いになる例はむしろ少ない。通常なら互いに相応の被害を受けて適度なところで引く場合の方が多いことだろう。
 アトランティスにおける国同士の戦いでは、騎士は封建契約によって1年間のうち軍事奉仕期間が限定されている。戦争の途中であっても奉仕期間が満了すれば撤退してよい。そのため国王としては短期間の戦闘で終わらせたい。相手が一人とは限らないのだ。また参加する騎士にとっても、戦場に長期滞在するのは費用がかかることである。食料の調達からしてすべて自分で用意しなければならない。短期間であれば所持してきた食料でどうにかなるが、長期となると戦場に出入りする商人から買わねばならない。その費用は決して安くはない。
 つまり戦いに参加する全ての人が、短期間での戦闘終了を望んでいるという背景も存在している。故に相手を追い詰めて籠城などの長期戦となりそうな場合には、文字通り正騎士の一騎打ちが勝敗を決するのである。

●山田リリアの質問
 質問は無いか? とのベテルの声に
「はい!」
 真っ先に手を挙げたのは山田リリアであった。
「騎士道の遵守は、アトランティス人の騎士にだけでなくアトランティス人の鎧騎士や天界人にも求められますか?」
「鎧騎士はもちろん、天界人も騎士身分相当のため騎士道遵守が期待される。天界人の中にはもとの世界では騎士以外の方もおったようだが、今では身分にともなう義務となる。まあ、天界人がこちらのしきたりを知らぬ故に犯した過ちは、最初の一回は厳重注意で済まされることが多い。知らぬものは仕方無いでな」
「では、正騎士ではない騎士が、戦場で1対1で決闘を行うことは認められますか?」
「相手と味方を含めた周囲にいるものたちが認めてくれればありえますな。誰しも手出ししない条件でないと意味は無い。戦場での混乱でそれを実現するのはかなり難しいじゃろうな。但し、戦争の勝敗を決する一騎討ちは正騎士の権利であり義務である。味方全員だけではなく、相手方全員が認めないと成立せんぞ」

「その戦いが可能な場合、決闘の間に横槍が入らないこととは別の効果はありますか?」
「敵味方の士気には影響するじゃろう。正騎士の一騎討ちはそれによって戦いの勝敗が決定する。負けた側もそれを受けいれ、天界人のいう『テロ』や『レジスタンス』と云う物が発生することは無い。領地割譲を受けた以上は、そこに住む民は自らの領民となるのでな」

「えーと。では、正騎士ではない騎士が、戦場ではない場所で1対1を決闘をすることは認められますか?」
「公式の決闘として正規の手続きを行えば可能じゃ。無論それなりの理由は必要である」

「正騎士ではない騎士同士が決闘を行う場合、代表的な決闘方法を教えてください」
「武器や場所は基本的に両者の合意による。時間は正午開始が基本である」

「具体的手順はどうなりますか? 1対1じゃなくて、多対1とか多対多とかの場合です」
「何を目的に行う決闘が不明であるが、基本的には1対1のみ。決闘は自分と相手のどちらに正義があるかを決める手段故。安易に行うものではない。実力が桁外れな者が、自らそれを許す場合を除き、大勢で一人にかかるのが正義とは申さぬであろう」

「えーと。話の趣旨からずれると思いますが、冒険者が以下の者に対し謝罪をする際に行わなければならないことと、行ってはならないことを教えてください。例えば、相手が上官、王族、貴族、騎士、平民の場合どうなりますか?」
「どんなことをやったかによって異なる。具体的な質問でないと回答できぬな。口答えをした場合とペットが相手の親族を食べて仕舞った場合とでは、当然対応も異なりますぞ。お気をつけなされ。王族では口答えだけで、謝罪を受け入れられずに絞首刑にされた記録もありますぞ。また合戦の最中の無闇な抗命は斬首に値する。逆に、下層民ならばペットが相手の親族を食い殺した場合でも、血の代価を金で済ますことも可能じゃ」

「騎士道に従う者同士が戦う場合、お互いの装備(ゴーレムを含む)や人数については、双方が納得すればどのような内容でも構わないのでしょうか?」
「『どのような』という表現には拡大解釈されそうであるが、基本的には双方が合意すれば良い。ただし詐術と思われるないことように注意が必要である」

「今の場合で双方が、あるいは片方が納得しない場合、戦いは延期されるのでしょうか? それとも双方が納得するまで交渉が行われるのでしょうか?」
「通常は相手は飲めないかけ離れた条件は、出さないので数回の交渉で合意する。無理な要求を行えば合意には達しない。片方の動員能力は20人なのに双方とも200人でという条件では。あまりに無道であるぞ。勿論20人の側がその人数条件でも納得すれば合意となる。但し、周囲の目というものがある。それも考慮にいれるべきじゃな」

「騎士道に従う者同士が戦う場合、明文化されていないものの求められることの多い戦力比の制限があれば教えてください。例えば、戦力評価の際に個々の騎士の戦闘能力は問題にされず数のみが問題になる等です」
「基本的には数である。今の時代ならゴーレムの有無や投入数なども勘案されるようになるであろう。故に、優秀な騎士を鍛え上げ、多く揃えることが重要になってくる」
「ありがとうございました」

●鳳レオンの質問
 次に名乗りを上げたのはレオンであった。
「海戦騎士などについてご存知なら、陸の騎士と作法の違いがあるのか教えてもらいたいな。俺が小説とかで知ってる話だと、海の男の世界は荒くれ者の集まりで、船長が絶対ってイメージがある。国王すら海の上では船長の指示に従わないといけないんだろうか?」
「船長は絶対である。冗談で済む範囲は個人差があるだろう。船や海の知識が豊富な船長なしでの無事な帰還は非常に難しいという理由で解るだろうか? 未だ実用になる海図は作成されていないし、その知識は経験による一部の者しか知らない。船長はその知識を有する者で統率力のある人物しかなれないのである。王も病に罹れば薬師の言葉に従う。それと同じである」
「確かに‥‥王とは言え素人にどうこう出来るものじゃない。ところで」
 レオンはリリアの質問を詳しく突き詰める。
「『決闘』と『一騎打ち』の違いについて説明して欲しい。俺達地球人にはどっちも縁の薄い話なんでな」
「決闘は戦場以外の場で、自分と相手のいずれかが正しいが戦いによって正義を決めるために行われるものであり、正騎士同士の一騎討ちは戦争の勝敗を決するために行うものである」
 ベテルの説明に頷きながら、レオンはぼそり。
「‥‥そういえば、『一騎打ち』もそうだが、『決闘』の作法も知らないな。海の上だと決闘も多そうだし‥‥」
「天界人殿は騎士身分である。ゆえに決闘の権利を持っているが、そうたびたび決闘されても困るぞ。双方合意の上で得物、場所、方法を決める。時間は正午が基本である」

「あと、決闘が許されない場合についても聞いておきたい。例えば目上の人間に対して決闘を申し込むような事はできるんだろうか?」
「決闘を申し込むだけの理由があるかどうかが問題である。軽々しいことで決闘を行う人物は相手にされない。歩き方が気に食わないとか、顔が気に食わないとかでは理由不十分だろう。
 相手の振る舞いに対する忍耐が求めらて当然のような相手、例えば自分よりも上の階級である場合には、その忍耐範囲内は決闘の理由には出来ない。戦の恩賞や狩り獲物の分配が自分だけ少なかったくらいで決闘を申し込むような輩は、周りの蔑みを受けるだろう。
 また、決闘が許される場合でも、挑んだ相手が何か重要な用件で動いている場合には、その用件が済むまで延期されるし、別の決闘があって順番待ちのような場合もある。場合によっては繰り上げてくれることもあるが、状況次第。
 当然ではあるが、軍中での味方同士の決闘は理由の如何を問わず利敵行為として硬く禁止されているぞ」

●アリア・アル・アールヴの質問
「例えば、優位な方が挑まれた戦力を好きに出来る場合は悩まないとして、不利な方に挑み戦力を合わせなければならぬ場合、何を基準に合わせることになりますか? 既存の武器は相性差があるだけの同じものとしてもグライダー・チャリオット・ゴーレムの数・材質・運用種類など、特に今までに無かったものが気になるのですが‥‥」
「それは戦場でと云うことじゃな? 事前交渉によって決定されるのが基本であるが。戦力は常駐しているわけではない。持っている戦力が多くともそのほとんどが自分の領地に居るため、動員にはそれなりに時間が掛かるものじゃ。
 まずは人数。武器は個人差があるため、たとえばセレ分国は弓隊の割合が多いであろうから、弓なしという条件では事前交渉では合意に至ることはない。合意に至らぬといっていきなり攻めかかれば周囲全てから反感を買うのは必定。内部でも従わない騎士も出る筈じゃ。騎士道に悖る戦いに出ないのは騎士の権利としては主張できるのである。
 グライダー・チャリオット・ゴーレムの数・材質・運用種類については、未だに実例が無い。逆にいえばこれまでのルールが適用されるじゃろうから、数を揃えることになろう。
 勿論、今後の戦いの結果によって、相手側から卑怯だと思われるようであれば新たなルールが作られることになるし、周りの目を思えば勝者が譲ることもあろう。卑怯な振る舞いによって負けたとなれば、仕返しに卑怯な手段を使って反撃して来るのは必定。それを封じるためには、自らの力が及ばなかったからと納得させるしかないのである」

「では、ゴーレムの戦力評価ですが、木=軍馬1頭分、石=軍馬2頭分、鉄=軍馬3頭分、こういった評価を換算して戦力を合わせるのだろうか?」
「逆に尋ねよう。種族的にジャイアントはパラの何人分と判断するのであるか? 同じ一人と数えられると思うが。もっとも、抜きんでて優れたゴーレムに乗る衆に優れた鎧騎士が、騎士の矜持から多対1の戦いを望むので有れば、敬意を表してこれに応じるのは卑怯ではない」
「なるほど。なんとなく解りました。では、ウッドは腕力防御は半減ながら達人の腕を披露できると伺いますが、この場合にストーンに限定的に勝るのは、ウッドを使いこなせる鎧騎士を用意した事を褒めるべきで、やはりウッドの方が戦力計算としては下なのか?」
「使う条件次第で戦力評価は変わって行くのものじゃ。湿地では馬上の騎士よりも徒立ちの騎士が有利であろう。ゴーレムが動きにくい状況で接近戦が発生しにくいならば、ノルンの弓射はグラシュテでも脅威である。キャペルスでもそれなりの被害を受けると覚悟すべき。自分がどのような戦力を持っていて、どのような戦場を選べるかが戦力の有効活用と言うもの。事前交渉で合意した以上は、格下のゴーレムに戦場の条件で破れても卑怯とは言えません。交渉した味方の無能さを罵ることはあるであろうがな」

「最後に情勢が進み、正騎士級の鎧騎士が世に出たとき、一騎打ちや順ずる、古式に則る決闘が行われる可能性は?」
「ふむ‥‥。ゴーレムによって戦争の勝敗を決する一騎打ちが行われるかという意味なら、戦場の双方全員はもちろん周囲の国々もそれを認めるならばあり得る。ゴーレムも、突き詰めるところ武具なのであるから。但し、フォロの赤備のモン伯爵ザモエやリグの『黒鉄の3連隊』のガラ・ティスホムは正騎士であった人物。他の国でも同様の人事が行われていると思う。鎧騎士でありながら正騎士という道は、現在の若い鎧騎士達が作り上げていくしかないであろうな」

●キース・ファランの質問
「騎士道に照らして、高潔な騎士とはどのような人を言うか教えて欲しい」
「キース殿はどのような行為を行う人を高潔な騎士と呼ぶだろうか?」
 ベテルは例示する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・常に正々堂々としていて、強者に媚びず、弱者に優しく。人徳、人望がある。
・戦いでも平時でも、卑怯な振る舞いはせず。
 戦いの最中であっても相手が不利な態勢になったら追い打ちはしない。
・戦いが終われば敗者を卑下せず、手を差し伸べる。
・領主として領民の安全を守り、領民の真摯な声に耳を傾ける。
・領主裁判権者として、公正な裁きを下す。
・領地管理者として領地の状態を把握し、無理な賦役は行わない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「高潔なというイメージで持っているものを考えれば良いと思えるが。そのような行為を積み重ねていけば、自然に高潔な騎士として認められていくであろう」
 ベテルは示唆する。

「では、騎士道を破ってしまった場合どうするべきでしょうか?」
「不可抗力によって結果として破ったと判断されるか、意図的に破ったか、によって異なる。破ってしまったの意味がいずれだろうか? 状況によっても異なる。その結果どのような被害が相手側に出たのか。前者の場合なら、そしる者もいれば、逆に理解する者もいるだろう。相手側の被害が話し合いによって片が着くならそれでいいだろう。話が着かなかった場合には、上級領主に裁定をゆだねることになる。
 一方、後者の場合は、悪名が広がることから始まる。上級領主により不名誉刑、騎士身分の剥奪や領地没収、追放、斬首刑、絞首刑まである。上級領主にとっては不名誉な騎士と契約を結んでいるという事実のみにおいても、自らの名誉を失う場合があるのだ。ただ、その人物が上級領主にとって、それら悪評に甘んじても必要な人物の場合はまた異なる。ただ、少なくとも表での栄達はさせぬであろう。世の中にはそう言う汚れ仕事で主君に奉仕している者も居るのでな」
「相手が騎士道を守らない場合に騎士道にのっとって行動することはどう評価されるか?」
「相手が守らぬ外道の場合、こちらも守る必要はない。されど騎士道に則ることは、良い評価がされるだろう。ただ、それで味方を敗北に導くようでは誉められはせぬが」
「多分に主観的だな。それでは騎士道が国や地方によってどのように異なるんだ?」
「明文化されたものでない以上は大同小異はある。その国の成り立ちや領主間の関係などによって異なる。ウィルはかなり厳格と言えよう。これはウィルの国情による王家の権限が小さいことに起因している。王の跡取りでも必ず王になれるわけではない。王が崩御した時に行われる各分国王によって構成される選王会議によって承認されなければ国王にはなれない。分国王のできれば全員、少なくとも過半数を味方にしなければならない。分国王達も自らが戴く次の国王が騎士道に悖る相手では困る。厳しい判断がなされるはずである。どの分国王にも次期国王の機会があるならば、騎士道を自らにも、自分と契約している配下の騎士たちにも守らせる。そのため、ウィルにおける騎士道は厳格である。配下に不名誉な騎士を抱えているという悪評が立てば次期国王はもちろんのこと、選王会議における発言権さえも低下する。ただ、分国王から転落するような事例は今までは無かった」

「‥‥なるほど。では各国の有力な騎士団の特色をお教え戴きたい」
「どこまでを言うのか? ウィル国内だけであるか? されどこの質問は騎士道の質問ではない。又の機会に致そう」
「おっと、話がずれました。では、相手に騎士道を破らせるような誘導は騎士道として問題ありませんか?」
「大いに問題ありじゃ。破った相手よりも悪いと認識されるであろう」

 さらに質問は進む。
「正騎士のなりかたや特権・義務はどのようなものか?」
「正騎士は戦いの全権を委任されて一騎討ちを行う存在である。敵味方ともに認られるだけの人物でなければならない。それは戦場における強さだけではない。正騎士でない者が、正騎士の代わりになると敵味方に認められることは、ほとんどない。特権は戦争における一騎討ちの権利と義務。その存在には国王とて敬意を払うことになる」
「捕虜はどのように扱うべきでしょうか?」
「戦場において捕虜となった者の身は、捕虜にした者が武装解除するから他者から守る義務がある。捕虜は身代金を支払うことになる。金額は相談によって決まるが、基本は年収である。あまり低くするのは相手を侮辱することになるし、高すぎれば支払いできなくなる。
 騎士は捕虜になる場合には意思表示を行わなければならない。自らの剣を捧げたり、右手のガントレットを相手に渡すというのが一般的だが、捕虜にした側がより高額な相手を捕虜にしようと保護を怠る場合もある。そのときには、別の保護者を探すことは騎士道に反した行動ではない。守る義務を怠った騎士の方が騎士道に反した行いをしたと見なされる。
「騎士の戦いの際に魔法を使うことは認められるのか?」
「事前取り決めにもよる。使わないと双方で決めない限りは、自分自身のオーラ魔法なら特に異議は出ないだろう。精霊魔法を使う天界人等は、事前に話を通して置いた方がよいであろう」

●また会う日まで
 終わりの時間が迫り、矢継ぎ早の質問と応答。
「騎士同士の戦いにおいて魔法アイテムの使用は可能か?」
「事前取り決めにもよるし、アイテムの種類にもよる。取り決めで使用可能となれば、問題ないだろう。できることなら、種類や効果なども事前に明らかにしておくべきだろう」

「騎士道を破った際にどのような罰を受けるか?」
「どのように破ったかによっても異なる。悪名が広がることから始まる。上級領主により不名誉刑、騎士身分の剥奪や領地没収、追放、斬首刑、絞首刑まである。斬首刑は騎士身分のまま死ぬことであるが、絞首刑は騎士身分ではなく平民として死ぬことである」
「騎士位の剥奪はどのような時に行われるか」
「上級領主の判断によって多少の差はあるが、上級領主の名誉を傷つけるほどの行為を行った場合は間違えなく。戦場で敵に通じたとか。暗殺を行ったなどだ。間違っても、食い逃げしたくらいでは剥奪されないから安心するように」
「航空騎士や鎧騎士の権威はいかほどのものか?」
「騎士身分として持っているものは他の騎士と同じ保証がされている。ただし相手の騎士によって捉えかたには違いがあると思われる。鎧騎士らはまだまだ浸透していない。正騎士を経験しているものを鎧騎士に据えることにより、鎧騎士そのものを権威を高める努力はしている」
「では最後に、ゴーレム一体は正騎士何人分と対等と見なすべきだろうか?」
「質問の意図が不明じゃだ。そもそも役割そのものが違う。正騎士には正騎士の役割があり、ゴーレムにはゴーレムの役割がある」
 ゴーン‥‥ゴーン‥‥
 と、ここで鐘の音が鳴り響く。
「おや、どうやら時間切れらしい」
 持参した道具を一まとめにすると、べテルは講義の終わりにこう締めくくった。
「疑問は学問の始まりである。なんでも考え、かんでも知って、なんでもかんでもやってみよう。では、またの機会を期待する。さようなら」