招賢令〜冒険者ギルド総監
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月03日〜09月08日
リプレイ公開日:2006年09月10日
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●オープニング
●冒険者の掟
王都ウィルはペット騒動に揺れていた。
元はといえば時と場所と相手を弁えず、危険な魔獣・猛獣をペットとして随伴する一部冒険者が引き起こした騒動は、近隣の住民をも巻き込んでエスカレート。ついには危険なペットから街を守るため、守備隊の手で冒険者街が封鎖されるという事態にまで及んだ。
慌てたギルド職員達はその解決を図るべく冒険者へ依頼を出し、早くも冒険者による住民への説明会が行われたのは、つい先日のことである。
「まずは、我々の行動の一部に、皆様へ恐怖や不安を与えるものが有った事を深く陳謝致します。そして、このような機会を設けて頂いた事を皆様に感謝致します」
冒険者一同、不安におののく人々に頭を下げる。
「現在起こっている問題に関しては、今後は皆様が安心して暮らせる様に被害状況を調べ、これを解決する為に後日ギルドを通じて無償にて冒険者を派遣することを約束致します」
「今後も問題を起こさぬよう対策を取ることで、これ以前の冒険者の行動については深く謝罪すると共に、以降の冒険者の処罰に関しては第三者を立て、公正に検証した上で判決を下します」
「場を弁えない同伴をした冒険者に対する罰則の制定を施しました。但し、過去罪は此れでは裁けませんが」
「騎士の持つ剣が、人々を、皆さんを守る為にあるように。冒険者の持つ猛獣や魔獣もまた、その剣足り得る存在です。皆さんを守る為に振るわれる剣を、どうか恐れないで頂きたく思います。‥‥勿論、剣には鞘が必要です。それが今回の規範であり、自警団であります。冒険者ギルドは人々が安心して眠る事が出来る生活の為にある。その事を我々は心に刻み、皆さんと我々、双方の理解が深めて行く事ができたならと思う所存であります。冒険者として。騎士として」
冒険者達の言葉を聞き届けると、守備隊長は街の人達の方に向かい、声をあげた。
「聞いたか、皆の衆よ! 冒険者は貴殿等の声を聞き入れ、規約を作られた! 信用の第一歩として、互いを信じてみるという事をしてみては如何だろうか!」
「守備隊長殿‥‥!?」
「もし今後冒険者の中で規律を破る者がいた場合、冒険者は我々を信用してなどいない。そういう事にしようではないか」
正直言って不安は残るだろう。しかし守備隊長にそうまで言われれば、人々も嫌とは言えない。
「お約束を信じましょう」
人々は一人、また一人と同意した。そして守備隊長は冒険者の側に向き直る。
「貴殿等の動きが求められている。頑張りたまえ」
それまでの厳しい口調からうってかわって、その言葉は優しいものだった。
●招賢令
「‥‥なんと!」
王宮に届けられた書状は、ウィル国王エーガン・フオロを驚愕させた。
王自らが任じた護民官の手によるその書状は、この度の冒険者街における騒動ならびに王都の民の抱える問題に関して、建白を奏上する機会を王に求めていた。しかも1週間の内に。そして王を最も驚かせたのは、文面の最後に添えられた一言である。
『この願い聞き入れざる時には、護民官の職を辞すもやむなし』
「侍従長!」
怒気を孕んだ王の声が飛ぶ。呼ばれて現れた侍従長は、表情には出さなかったものの内心では戦々恐々。王がこんな声を出す時といったら、不興を買った家臣の処分を命じる時しかない。
「護民官の求めにより、招賢令を発布す。左様に計らえ」
その言葉を頂き、侍従長は王の前より引き下がる。王の言葉には、あたかも処刑命令の如き響き。
●トルク王の名代
招賢令が発布されるや、事態は人々の予想を超えた展開を見せる。騎士学院教官のカイン・グレイスが賢人会議への参加をフオロ王に求め、王がこれを認めたのだ。
賢人会議に先立ち、カインは冒険者ギルドのギルド長と面談した。
「この度の騒動、ギルド長の私としても遺憾であります」
遺憾の意を表明するギルド長だが、カインは柔らかな笑顔で応じる。
「貴方が詫びる必要はありませんよ。そもそもギルド長である貴方も、貴方の下で働くギルドの職員も、冒険者の行動に口を挟み、また処罰する権限をジーザム陛下より預かっていないのですから。貴方達はギルドの職員としていい仕事をしています。それで十分です。
しかし、ああいう騒動が起こった以上、これからも従来通りという訳にはいきません。冒険者達を監督し、指導する者が必要です。それは冒険者ギルドの創設者たるジーザム陛下のご意向でもあります。
私はこの度の賢人会議に、ジーザム陛下の名代として参加します。そして国王陛下にお伝えします。冒険者ギルド総監という新たなる管理職の創設を」
カインの腹案によれば、冒険者ギルド総監の役割は冒険者達を監督・指導し、行き過ぎた行いがあればそれを改めさせること。ただし総監の権限が及ぶのは、冒険者ギルドおよび冒険者街の内部に限られる。
「して、初代の総監は如何なる人物が就かれるのでしょう?」
「ジーザム陛下のご意向としては、このカイン・グレイスが総監に就くことをお望みであられます。しかし私としては、国王陛下のご意向を伺い、また冒険者達の意見を聞いてから、総監に就くかどうかを決めたいのです」
「騎士学院の方はどうなされるのです?」
「騎士学院ではこの8月に卒業式を迎え、それまで私が受け持っていた学生達も、多くが巣立っていきました。暫く騎士学院を離れて別の仕事を始めるにも、区切りのいい時期です。大丈夫、騎士学院には優秀な教官が沢山います。私一人が抜けても問題はありませんよ。‥‥それと、一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「賢人会議の前に、冒険者達からも意見を求めたいのです。有益な意見があれば採用し、本人が望むのであれば賢人会議にも出席して頂きます」
●策士動く
豪勢な馬車が冒険者ギルドの入口に止まり、中から仮面の男が降り立った。
「どなたで‥‥」
カウンターの所までやって来た男は、誰何するギルド職員の前で金色に輝く仮面を外す。しかし下から現れた顔も、その上半分を金色のマスクで覆われていた。
「我は天界人オーラム・バランティン。王領南クイースの代官、レーゾ・アドラ郷の食客である。この度発布されし招賢令に応じ、我も国王陛下への献策を為すものなり。即ち、我は『冒険者審問官制度』の設立を国王陛下に上奏す」
「‥‥は?」
今ひとつ話の飲み込めない職員に、仮面の顔がぐっと迫った。
「この度の随伴獣騒動に対しての冒険者諸氏の対応、真に天晴れ。『今後の冒険者の処罰に関しては第三者を立て、公正に検証した上で判決を下す』と、彼らは民衆の前で約束したのだ。なればこのオーラムが、冒険者の罪に対する公正なる裁きの執行者を制度として確立し、先ずは自らがその職務につきて範を示そうではないか。と、つまりはそういうことだ。我は天界にて審問官を務めたこともあり、故に審問官の職務には通じておる」
「‥‥さ、左様でございますか」
オーラムはにやりと笑った。
「さて、ここからが本題だ。この度の上奏においては、冒険者諸氏の意見も十分に斟酌したい。ついては冒険者ギルドの依頼という形で、この冒険者審問官制度に対して意見ある者を求める。お望みとあらば賢人会議にもご参加頂こう。なお、誰一人として我に意見する者なくば、我の意見がそのままの形で通ることにもなろう。冒険者諸氏においては、その事をお忘れなきよう」
●リプレイ本文
●冒険者からのクレーム
冒険者ギルド内のこじんまりした部屋に、5人の男女が集まっていた。
「それでは賢人会議に先立ち、ここにお集まり頂いた皆様のご意見を、お聞かせ頂きましょう」
冒険者ギルドに依頼を出し、この意見交換会を招集した騎士学院教官カイン・グレイスが切り出すと、ノックの音と共に部屋のドアが力強く開かれた。
「俺にも話しておきたい事がある」
入ってきたグラン・バク(ea5229)は、皆の座すテーブルに軽い足取りでつかつかと歩み寄ると、両手に抱えた羊皮紙の束をカインの目の前にどさりと置いた。
「これは?」
「これは処理未処理含めざっと調べた範囲での、報告書の誤字脱字や記載ミスへの抗議、依頼書での不足分指摘等等‥‥要はクレーム諸々だな」
そのあまりの多さにカインはあっけにとられ、羊皮紙の束を上から順に1枚ずつめくってその内容をあらためていたが、やがてため息をつくように言葉を吐き出す。
「これは多すぎますね」
「上手く処理されず放置されている部分が多々‥‥なのかな? 確かに、今回王都を騒がした騒動は冒険者側の手落ちだが、ギルドが組織として情報伝達等で不備があることを見落とすと、また片手落ちになる。
で、ここから先はギルドの話だが。このアトランティスのギルドが手本にしたというジ・アースの冒険者ギルドは、独自の情報網や調査能力、および各方面への交渉力があり、冒険者を強力にバックアップしていた。しかし此方にはそれがなく、ギルドが冒険者を扱いかねている。それと同様に冒険者がギルド体質の『差』に不信感を抱いている。これが実情だ。開設間もない故に仕方がない面もあるが‥‥」
しばし言葉を止め、カインの目を覗き込む。カインの表情は柔和だが、その目は何ら物怖じしていない。
「総監として冒険者達の監督指導に当たるのはいいことだ。ただ、ギルドへの不満と不信がある以上、同時にギルド内部への適切な査定を行い組織改善、非を認める姿勢を見せないと‥‥まあ爆発するな。
ともあれギルドあっての冒険者、我々は一蓮托生だ。これから宜しく頼む。冒険者ギルド総監殿。じゃあな」
言いたい事だけ言うと、グランはカインの肩を叩いてテーブルを離れ、部屋のドアに向かう。
しかしドアを開けて立ち止まり、振り返って言い足した。
「あと、必要な情報を酒場等で後出し補足することは、バックアップやフォローとは全然呼ばないので要注意だ」
「ああ、冒険者酒場に入り浸っている名物教官殿の事ですね? 私もまったく同感です」
カインのその言葉にグランはにやりと笑顔を見せると、今度こそドアの向こうに姿を消した。
●ペット騒動の背後には?
「グラン殿の貴重なご意見には感謝します。さて、クレームのことはさておき、皆のご意見を伺いましょう」
改めてカインは、目の前の冒険者達に促す。
「よろしいだろうか?」
と、黒畑緑郎(eb4291)が発言を求める。
「どうぞ」
「今回のペット騒動がいきなりこれほどの大問題になったのは、住民に噂を流して煽り立て、冒険者との関係を悪化させようとした存在がいたからのような気がする。とはいえ、現時点では証拠がないから、陰謀について直接陛下に上申はできない。ギルドに調査依頼を立てるのはどうだろう?」
「尤もです。早急に調査依頼を出すよう計らいましょう。とはいえ陰謀の疑いにばかり囚われ過ぎれば、歩むべき道を誤りかねません。その事は心して下さい」
●ペットに関して
続いてはルメリア・アドミナル(ea8594)。
「今回の騒動は、冒険者達がウィルの常識と天界の常識を混同した事が原因だと、わたくしは考えます。よって定期的に、冒険者ギルド総監様より冒険者に向けた依頼として、ウィルの常識について学ぶ場としての場を提供して下さることを提案します」
「待って下さい。私はまだ、冒険者ギルド総監に就任するとはっきり決めたわけではありません」
「カイン殿‥‥?」
「しかし、誰が総監に就任してもいいように、今からでもその準備だけは整えておきましょう」
「それでは、ペットに関して冒険者が守るべきルールも今のうちに」
「要点を纏めてくれますか?」
「はい」
ルメリアがペットに関するルールの要点を羊皮紙に纏めると、カインはそれを一読して評する。
「大筋においてはこれでよいでしょう。但し、一ヵ所だけ不適切な箇所があります」
カインが指摘したのは、冒険者の監視を自警団に願うという部分だった。
「自警団とは帯剣を許されない庶民が、棍棒など自営用に許された最低限の武装でもって、自らの居住地の自衛にあたるものです。
そして武装を赦された騎士は庶民の上に立ち、庶民を守るべき存在。その騎士身分たる冒険者が、庶民による自警団に自らを監視させるなど本末転倒ではありませんか?」
「分かりました。この部分は修正致しましょう」
こうしてルメリアの原案にカインによる加筆が行われ、ペットに関して冒険者が守るべきルールが次のように定められた。
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【ペット(随伴獣)に関して冒険者が守るべき規則】
◆基本原則
・ペットは剣と同様、冒険者に許された武装の一部と心得るべし。
・ペットが民衆に迷惑をかけず、また民衆の不安の種にならぬよう、
放し飼いをしない工夫をなし、その飼育に責任を持つべし。
◆依頼期間中のペットの管理
・猛獣、魔獣など危険度の高いペットは、ウィンターフォルセの預かり所か、
ペットの収容が可能な施設、又は冒険者街に待機させる。
・危険度が中間のペットとして、卵、正体不明のペット(幼態、光る球体)、
幼い爬虫類、鳥などは、携帯出来る檻に入れれる大きさの物のみ、携帯用の檻
で同伴可能。
・危険度が低いペット、犬、馬、猫は、同伴可能。
・依頼により特定のペットの同伴が示されている場合には、この限りに有らず。
◆規則違反に対する処罰
・ルール違反者に対しては警告並びに罰金の徴収を行う。
・度重なるルール違反に対しては、ペットの没収も有り得る。
◆冒険者の権限
・冒険者各自は、冒険者街の秩序と安寧を冒険者自らの手で維持すべく、冒険者街において不名誉なる行為を為す冒険者を取り締まる権限を有する。
・冒険者各自は、冒険者街において規則が遵守されているかどうかを判断するために、情報を集める権限を有する。
・冒険者各自は、冒険者街における規則違反の証拠を集める権限を有する。
・冒険者各自は、規則に違反した冒険者を捕縛する権限を有する。
◆付記
この規則は精霊歴1039年夏、王都ウィルにて発生したペット騒動を契機に
定められてものであり、必要に応じて規則の追加・改訂を行う。
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●総監の職務
「私は冒険者ギルド総監の職務について、明確な規定が為されることを願います」
と、セオドラフ・ラングルス(eb4139)はカインに求めた。
「冒険者酒場でも『ギルド総監とは何なのか』という質問が出たように、新たな上役の出現に不安を覚える者も居りましょう。そこで、ギルド総監の職務を明確にし、明示できる部分を公表してはいかがでしょうか? 周知させることで不確かな存在に対する不安や反発を抑え、もし問題点があっても改善案を募る事ができましょう。将来カイン卿から後任に引き継ぐ際の事を考えても、形式を定めるのは有効と存じます」
セオドラフの手ずから認(したた)めた試案がカインに手渡される。カインはその内容に目を通すと、色々と批評を加えた。
「冒険者の守るべき規則を制定する時には、冒険者代表と貴族代表と庶民代表が話し合い、その結果をギルド総監が取り纏めて国王陛下に奏上するのですか? 規則の一つ一つを決めるのに、いちいちそこまで手間はかけられませんよ」
「しかし、今回のような騒動が今後も持ち上がった場合、貴族や庶民の意見にも耳を鷹向けるべきではありませんか?」
「それは認めます。しかし、問題が起きるたびに会議を開いてばかりもいられません。たとえ王都で会議を開くとしても、貴族や庶民の中には馬で何日もかかる土地に住んでいる者も多いのです。寧ろ、常日頃から貴族や庶民の事情に通じ、問題が起きる前に自らの行いを律し、問題を未然に防ぐ姿勢が大切だと私は思います。
次に‥‥冒険者への指導や情報集めはいいとして、酒場までは手が回りそうにはありませんね。総監の仕事を無駄に増やすことはありません。酒場は監督官に全て任せましょう。
そして‥‥依頼の出発時と帰還時に総監や監督官、総監に委任されたギルド職員が面談する‥‥ですか? とてもではありませんが、全ての依頼で全ての冒険者に面談するのは不可能です」
「ですが‥‥」
「総監の身は一つだし、ギルドの職員にも数に限りがあるでしょう? 面談にばかりかまけていたら、他の仕事ができなくなります。
そもそも騎士身分を与えられたる者は、自らの判断で自らを律すべきものです。いつ剣を抜き、いつ剣を収めるか。いつ戦いを宣告し、いつ交渉と和解の手を差し伸べるか。いつ罪を犯す者を罰し、いつ罪ある者を赦すか。ありとあらゆる事を自らの誇りと責任において判断するのです。戦場の最前線に立った時、また民を襲わんとするモンスターの目の前に立った時、誰が自分を指導してくれますか?」
試案に一通り修正が施されると、山下博士(eb4096)が提案した。
「罰則については、いつでも悔い改めを受け入れることが出来る物にしないと、拙いと思います。失った名誉を挽回するチャンスが常に用意されていなければ、一度規範を犯した者は冒険者ギルドはおろか、この国の法さえをも蔑ろにすることになると思います」
「では、その事も盛り込みましょう」
その結果、冒険者ギルド総監の職務についての規定は次のような物になった。
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【冒険者ギルド総監の職務についての規定】
冒険者ギルド総監は、以下の如くに冒険者の規則を定め、冒険者に規則を
守らせる。
【1】冒険者の守るべき規則の制定
・冒険者の守るべき規則の制定にあたっては、冒険者、貴族、庶民、その他、
関係者それぞれの意見を出来る限りにおいて十分に反映させた上で、冒険者
ギルド総監が取りまとめる。
・重要な規則については、ウィル国王陛下並びに、冒険者ギルドの主宰者たる
トルク分国王陛下にご報告申し上げる。
【2】規則の公布
・規則の公布は冒険者ギルドにおける通知、立て札と触れ役、新聞への記載など
を通じて行う。
【3】冒険者の指導
・冒険者に対する指導は、冒険者ギルドの依頼等を通じて行う。
・総監の任ずる監督官が依頼を通じて、または冒険者酒場を使って、聞き込みや
指導を行う場合もある。
【4】冒険者の監督
・総監は依頼の報告書に出来うる限り目を通し、情報を集める。
・総監がその必要を認めれば、依頼の出発時と帰還時に総監や監督官、あるいは
総監に委任されたギルド職員が、冒険者に対する面談を行う。問題があれば
指導し、従わない場合には拘束や処罰もありうる。
・冒険者の規則違反についての情報を集めるために、冒険者ギルド内に告発所を
設ける。
【5】違反者への対処
・過失や重大さの度合いによって各所に通報し、対処を願う。
・過失や重大さの小さい順から大きい順に、通報先は次のようになる。
軽度:冒険者ギルドに報告
中度:王都守備隊、もしくは冒険者が関係した土地の領主に報告
重度:国王陛下、ならびに冒険者が関係した分国の分国王に報告
【6】罪の減免と名誉回復
・規則違反の罪を犯した冒険者のうち、その罪を悔い、態度を改めた者については、総監の名によりその罪を減免し名誉を回復する。
【7】付記
この規則は総監がその必要を認めた場合に、追加・改訂が行われる。
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●民の幸福
「カインさん、お訊きしてもいいですか?」
と、山下博士(eb4096)が問う。
「先の招賢令と違って、ジーザム陛下がわざわざあなた様を名代として参加させるのはなぜでしょう? ぼくが思うに、エーガン陛下が民のためを思っている事がご理解頂けたためではないでしょうか?
ジーザム陛下が民の幸福を願われていることは、ぼくのような子供ですら知っています。トルク分国の民を我が子とし、多くの諸侯に慕われる政治を行っていることも有名です。カインさん。あなたはただ冒険者に秩序を与えるためだけに来たのですか? あなたがジーザム陛下の名代である以上、ぼくには到底それだけとは思えません」
「私が何をするためにここに来たか‥‥それは、いずれ分かることです」
その言葉に博士はさっと跪き、カインを見上げるように言った。
「ぼくはフオロの臣としてお願いします。民の顔を見ようと、広く意見を求められるエーガン陛下をお助け下さい」
カインは博士に微笑み、答える。
「その答は、賢人会議の場で聞かせましょう」
●賢人会議
賢人会議の席上。冒険者達による民のための一連の奏上が終わると、黒畑緑郎が王に申し上げる。
「アトランティスを知らぬ天界人ゆえ、無礼がありましたらご容赦願います。私とて、生まれ育った天界での常識・法には従っておりました。この世界での常識・法にも理解でき次第、従っているつもりです。
私のような、天界人の冒険者の持つ知識等の力や従えている魔獣・猛獣は、一般住民にとっては、それこそゴーレムが向かってくるほどの脅威と感じられるのも致し方ありません。
鎧騎士が騎士道を守る故に一般住民に信頼されるのと同様に、冒険者も自らを 律すればよいので、我々を監督し、律し方を教える者としては、騎士学院教官は 適任であると存じます。
また、冒険者を外部から裁く審問官に対し、冒険者を弁護する役割『公正に検証』する為の役職が総監である、とすれば良いと存じます」
この言葉を受けてカインも明言する。
「私が申し上げるべき事は、全て彼が語ってくれました」
さらにカインは続けて言う。王がこのようにして民の為の奏上を聞き届ける機会を設け、少なからぬ冒険者達が真摯なる姿勢で数々の奏上を為したる事に、いたく心を打たれたと。
そしてカインは、トルク王の意を受けて冒険者ギルド総監の立場に就くことを。さらに、この賢人会議で奏上されたる数々の献策の実現に自分も協力することを、王の前で約束した。
その後で、山下博士は王に進言。
「どうか、陛下のご不興を買った者達の名誉回復を。追放や謹慎を命じられた者の内、陛下を恨ます仇を為さなかった者に対する赦しをお願申し上げます。挽回のチャンスを与えることは陛下の忠臣を作ることにつながるでしょう」
「‥‥考えておこう」
暫しの沈黙の後、王は短く答えた。