私を領地へ連れてって☆2 猫の軍団♪
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月11日〜09月18日
リプレイ公開日:2006年09月17日
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●オープニング
●猫の軍団♪ なにするものぞ
人間達が自分勝手な思い込みから派手な迫害活動を繰り広げている王都より遥か東南、トルク領内の沿岸部で猫の軍団がその活動を開始したのだ。ばば〜ん☆
ざっぱ〜ん☆
ざっぱ〜ん☆
目の前に広がる青い海。白い砂浜。日干しの魚が天日により熟成され、そしてそれにも増した芳しき香り。
斥候の古参の一匹、めろめろになりながらも帰還する。
「まさかお前に、新米が押えきれないとはな‥‥」
「も、申し訳ありません。思いの外、またたびの匂いがきつく‥‥」
足元のおぼつかない年配のどら猫を一瞥し、眉間に三日月傷のある大きな大きなぷっくりとした一見ぺルシアン風の猫は、すっくと後ろ足で立ち上がり、そのとび色の瞳を眼下の村へと向けた。
「次は私が出よう」
「ボ、ボス!」
にゃ〜にゃ〜と制止する手下の猫達。
「お前が見たという、黒い大きな羽の生き物というのも気になる。ここは私が出ねばなるまい」
「じ、自分も連れて行って下さい! ご案内致します!」
「汚名返上という訳か。いいだろう」
そう猫の言葉で告げると、大きな大きなぷっくりとした猫、猫妖精のケットシーは、マントをはためかせシグの漁村へと、陣を張った岩場から出撃するのだった。
●囚われのププリン
昼にもなると、朝の到来と共に漁に出ていた村人達が戻り、今や昼寝の時間である。
その安寧を引き裂く事件がおきる。
「きゃ〜!? 何々!?」
にゃんこの巨大な肉丘に捕らわれたピンクのシフール、ププリン・コーダ子爵は目をまんまるにして悲鳴を上げた。
ネコ「これはこれはお嬢さん。静かにして戴けませんか?」
するとププリンはすかさず猫の言葉で言い返す。
ネコ「いきなり捕まえておいて、静かにしろなんてどういう事よ〜!」
ネコ「ええい。静かにしろというのが判らんのか!?」
ジタバタするププリン子爵を一喝、その鋭い牙を見せて黙らせた。
「ププリン様!?」
悲鳴を聞き付け、その場に飛び込んで来たのは、ほっそりとした少年のトミー。
「い、一体何が‥‥プ、ププリン様を放せ!」
一拍、トミーは目の前にそびえ立つ、猫の巨漢に目を奪われた。
人間の子供の言葉など無視し、猫の妖精はその向こう防砂の為の生垣に広がるマタタビの群生を見やった。それは新米男爵が、この地をニャンコパラダイス☆にする為に植えたモノ。
ネコ「ここがそうか。見事なモノだな」
ネコ「ボス! あれです! あの人間の子供が連れている黒い奴です!」
猫の言葉で叫ぶ、ちょっとふらふらのどら猫。またたびの香りに既に酔っているのだ。
トミーの後ろからのっそりと姿を見せたのは、黒いグリフォンのシルフィ。その頭や身体の上には三毛猫やら黒猫やらがのんびり寝そべっている。
ネコ「これはごきげんよう。グリフォンか‥‥猫と仲良しなのか」
グリ「私はここではシルフィと呼ばれている。この子達は食べてはいけないと言われているので、別に仲が良いと言う訳では無いわ。それより、そのシフールを放しなさい」
静かに見返し、低い唸りと共に答えるシルフィ。嘴をカツカツと打ち鳴らし、慌てて体の上に居た猫達が悲鳴を上げて逃げ出した。
「大変だ!?」
トミーは咄嗟に、シルフィの真新しい小屋の横に。
防水シートを僅かに引き剥がし、その下にもぐりこむ。
ネコ「何だ?」
グリ「トミー!? いけない!」
シルフィも咄嗟に吼える。
ネコ「ほう‥‥」
猫の妖精は、感心した様に、目の前の光景を眺めた。
グリーンの防水シートを引き剥がし、その下から見る間に上体を起した。それはストーン・ゴーレム。この世界で最近開発された人型の兵器だ。
ププリン子爵がレースへ向けての特訓の為に持ち込んだ物。
石のボディに、金属の鎧を身に纏わせた巨人。
制御胞に初めて座ったトミーは、目の前に映し出される光景に、目を見開き、興奮と不安、様々な感情がないまぜになった状態で、必死に動かそうと、見よう見まねで制御球に手を置いた。
「武器は‥‥何か武器になる物はないのか!?」
必死に周囲を見渡し、傍らにあった古いオールを握らせ、ゆっくりと立ち上がらせる。
「くっ‥‥」
ネコ「ボ、ボス! 自分は! 自分はアレを見ていません!」
ネコ「ふむ。まだ上手く動けない様だな。お前はコレを持って後ろに下がれ!」
そう吼えて、大きな大きなぷっくりとした猫の妖精は、手下の猫達にププリン子爵の身柄を手渡した。
「きゃ〜!? 誰か〜っ!? ちょっと、あなた、放しなさいよ!」
ププリンは猫にやんわりと咥えられ、サッと後方へ連れ去られる。
シルフィは、おろおろと巨大な猫の妖精と、トミーの載った巨大な人型兵器が対峙するのを交互に見やった。猫を襲ってはいけないと言われている為に、手が出せないのだ。
●要求
サイズは、双方ほぼ同じ。
その巨体が風を唸らせ激突する。
振り下ろされたオールは、スカッと真っ二つ。
たたらを踏むバガンは、くるり回転するしなやかな猫の後ろ足蹴りに、砂浜へと放り出された。
ネコ「ここで、この群生地を荒らされる訳にはいかんからな」
ペロリ、前脚の毛づくろいをしながら、鋭く伸びた爪を引っ込める。そして悠然と、しなやかに砂浜へと歩み出るのだ。
村人達も代官のニケも、流石にこの騒ぎには驚くが、手が出せずに物陰から見守っている。
「く‥‥、プ、ププリン様を‥‥ププリン様を返せ〜っ!!」
恐怖に顔を引きつらせ、トミーは空っぽになった肺から息を吐こうと口を幾度もパクパクさせた。心臓の鼓動が、頭の中でガンガンに鳴り響いている。まるで全身から総てが、両の掌から吸い出される様に、自分が薄っぺらく引き伸ばされて行く感覚。
それでも、トミーはバガンを引き起こし、立たせた。
「ほう‥‥まだやる気か‥‥」
この時、初めてケットシーは人語を話した。
あからさまにスローモーなバガンの動作。
「にゃんぱらりん☆」
掴み掛かるバガンの腕を踏み台に、ぽ〜んと空中一回転。
スタンとバガンの両肩に降りた。それだけでバガンの膝はがくりと崩れ、擱座する。
そこへ嘶き、シルフィが飛び込んだ。
ネコ「よせ。これ以上するつもりは無い」
グリ「離れな! さもないと‥‥」
鋭い威嚇。爪で砂を掻くシルフィ。
ケットシーはさっくりと砂浜に降り立った。
ネコ「我々は安住の地を求め、彷徨う者。この地が気に入った。あのまたたびの群生が良い」
グリ「そうかい。だが、生憎だね。ここは人間共の土地さ。さっさとあのシフールを逃がして、立ち去りな。そうしないと、とんでもない事になるよ」
ネコ「ほう? あのシフールがそんなに重要かね?」
ケットシーは額の傷をそっと指先で掻き、それから人語で人々に語りかけた。
「私は百匹の同胞と共に、この地に住まう事とした! 人間達よ、さもなくば先ほどのププリンとか言うシフール、余程重要と見えるが、その命の保障はしない! 許すか! 許さぬか! 暫くの猶予をやろう!」
ふわりマントを翻し、岩場へと立ち去るケットシー。
人々はワッと叫びながら、擱座したバガンの制御胞を開き、中からトビー少年を助け出した。
●リプレイ本文
●シグに着き
眩しい程の晴れ晴れとした空。
沖に停泊したマカラム号から降ろされた2艘のボートに分乗した一行は、それぞれ10名の船乗り達にオールを漕がせ、シグの砂浜に乗り着けた。
「ププリンさまーっ!!!」
ザバザバと、ボートを押す船乗り達の間から、ほっそりとした影が一つ駆け出した。
「私のププリンさまー!!! どうかご無事でー!!!!!」
波に足を取られ派手に頭から突っ込み、リディリア・ザハリアーシュ(eb4153)は激しく咳き込んだ。鼻腔に潮水がしみて、涙がこぼれた。
ざぶざぶと駆け寄る水夫が腕を取る。
「ほれ、しっかりしな」
「は、放せ!」
たかが平民の男。その腕を振り払ったが、たちまち足がもつれ、もんどりうって水中へ没した。膝上ぐらいの深さでも、人間溺れるものだ。
水を吸った衣が重石となり、身体が己の思うがままにならぬ。
びょうびょうと湿った風が吹くシグの浜。
ボートが砂浜に押し上げられる頃には、ぐったりとなったリディリアも砂浜に寝転がされた。
「プ、ププリンさまぁ〜‥‥ごふっ‥‥」
「まったく、この姉ちゃん。たっぷり飲んじまいやがって‥‥無茶苦茶だぜ!‥‥おい、しっかりしろ!」
わらわらと村の女性達が駆け寄り、船乗りに代わって介抱する。
「ううう‥‥」
「あらあら」
「まぁまぁ」
「木陰へ運びましょ‥‥こんなに着込んじゃ、息が詰まるわねぇ〜」
漁師の女房達は、リディリアをどこかへ運んで行く。
そこには、既に村民の大多数が集っており、待ち構えていた。
「ニケか‥‥」
時雨蒼威(eb4097)は、出迎える村民の中に、代官のニケの漆黒の姿を認め、真っ直ぐ歩み寄った。沈痛そうな瞳で見返し、ニケは恭しくその場に跪くと、他の者もそれに倣う。
「蒼威様」
「領民の主だった者を集めてくれ。皆に伝えたい事がある」
「ほぼここに集まっております」
「そうか‥‥」
頷く蒼威は振り向き、同道してきた仲間達を見やった。
「トミーは?」
アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)に付き添われながらも、少年の姿を人の群に探す夜光蝶黒妖(ea0163)の問いに、蒼威も頷き、ニケへ問い質した。
「ああ、そうだったな。あの子はどうしている?」
「酷く疲れた様で、少し熱が続き、館の方で寝ております」
「うむ。だそうだ。行ってやれ」
「ありがとう‥‥アリル、診てやってくれないか‥‥」
「ああ、心得たぜ」
ポンと胸を叩くアリル・カーチルト(eb4245)。
「行こう、黒妖」
「うん‥‥」
「おっ、おい! 速い! 二人とも、足が速いってぇ〜の!」
風の如く軽やかに駆け出す黒妖とアレクセイに、砂に足を取られながらもアリルも慌ててもたもたと駆け出した。砂で走る事が思いの他ままならぬ。
「では、僕もトミー君のお見舞いに‥‥」
サッと手を挙げ、にこやかにトリア・サテッレウス(ea1716)も歩き出す。
「バッキー、おいで」
にゃぁ〜♪
その後ろを、優雅に尻尾を揺らしながら、一匹の猫が歩き出す。そんな様に頬を緩めてしまい、蒼威はハッと我に返る。ニケが心配そうに見上げている。他の領民達も不安げな目で。
「あの‥‥蒼威様?」
「コホン! では、申し渡そう! 俺はまず領民に損害が出ぬ条件を付け、猫達を受け入れようと想う!」
その宣言に、領民達は互いの顔を見合わせた。
「では、百匹は居るという猫を全部?」
ニケの問いに、蒼威は大きく頷き、両腕を大きく広げ、そこへ集まった者たち全員に言って聞かせた。
「以前、話した通り、猫はネズミを獲る。ネズミは作物や倉庫を荒らすだけで無く、伝染病等の恐ろしい病を持ち込む害獣なのだ。故にネズミを狩る猫を飼う事は、ネズミを減らし、皆の暮らしを護る事に繋がる。俺はその人語を操る巨大な猫と話をしたい」
するとその説明に、領民の中から代表らしき男が立ち上がった。
「天界人であるご領主様の言う事は、俺達にゃ難しく判らねぇ〜んですが、お手伝いができるんなら、どうぞお命じくだせぇ。みんなの暮らし向きが少しでも良くなるってぇなら、喜んでもう‥‥」
「そ〜こかしこにしょんべんして、くっせぇ〜けどな!」
ドッと笑う領民達。
もう既に、様々な問題が起きている様子が窺い知れた。
●再会
館の一室。
黒妖とアレクセイは、家人の案内で扉の前に立った。
その向こうにトミーが寝ている。
アレクセイは、顎で軽く黒妖を促し、黒妖はそっとその扉を押した。
音もなく、ゆっくりと開く扉。
そこは簡素な部屋だった。
振り向いた黒髪の少女、サオリがそっと指を1本、口元に立てた。面差しは母親にそっくりだ。
風が館全体を揺すっている。
木の寝台には、しばらくぶりに見る少年が、すやすやと寝息を発てていた。
微かに薬湯の香り。
少し頬が赤く、額に少し汗が浮いている。
サオリは心得た様子で、恭しく会釈し、空になった木のカップをお盆に載せて退室する。
「ごゆっくり」
「ありがとね」
アレクセイの言葉に、少女は少し恥ずかしそう。そっと出て行った。
「トミー‥‥」
歩み寄る黒妖とアレクセイは、そっと寝台の横で屈み込み、その寝息を耳に安堵した。
「良かった‥‥」
「良かったわね」
二人は小さく頷きながら、そっとトミーのくせのある前髪を撫でてやる。瞳と同じ栗色の髪だ。
「ん‥‥」
僅かに身じろぎするトミー。僅かに表情が曇った。
起きてしまうのか。起してしまったか。少し戸惑う。
「ひでぇ〜なぁ〜!! 二人して、さっさと先に行っちまうんだから!!」
バンと扉を開け、飛び込むアリル。
ハッと息を飲み、振り向く二人。自然、懐の得物へと手が。
そして、寝台からトミーが跳ね起きた。
「く、来る! ネコが!」
その視点は、はるかに高い一点を見据え、次にはくたりと寝台へ横になった。
「トミー!!?」
「あれ‥‥?」
見慣れぬ光景に、ぼ〜っとしてる様子。
「ん? どうした? よう〜元気にしてるか? はっは、まだひょろひょろじゃねーの。ちゃんとメシ食ってんか?」
アリルはずかずかと歩み寄り、半分寝ぼけたトミーの手を取り、脈を読み、おでこに手を当てた。
「ふ〜ん。ケットシーと対峙した時、恐かったろ? それでいい。それを忘れるな」
やはり微熱がある。そのままアリルはトミーの髪をぐしぐしと撫で回した。
「あ‥‥ああ‥‥」
「黒妖‥‥」
己がやりたかった事をやすやすとやってのけるアリルに、黒妖はがっくりと肩を落とす。
更にはトリアやサラ・ミスト(ea2504)、レイリー・ロンド(ea3982)、レオン・バーナード(ea8029)が戸口にたまり、意を決しぞろぞろと踏み込むと小さな部屋はあっという間に満員だ。
ぼろろ〜ん♪
「さて、お久し振りですトミー君。と言っても、僕の事は覚えてないかも知れませんね」
とにこやかにトリア。
「‥‥怪我は無い様だな。良かった」
入れ替わりにサラが、トミーの頭をぐりぐりと撫でた。
「トミーが訓練も受けずにバガンを動かしたって聞いてびっくりしたよ、もう大丈夫なのかアリル?」
「ああ。きっと疲れが出たんだろうさ。ちゃんと休めば大丈夫だろう」
レイリーに尋ねられ、軽く診察を終えたアリルは皆を安心させる様にと、無難な答えを返す。
「そうか。良かったなトミー。あと少しちゃんと休んで、しっかり直すんだぞ」
「うん」
この頃にはようやく事態が飲み込めた様子で、トミーは寝台の上で皆を見上げていた。
「家にもグリフォンがいてね。会ったらシルフィもきっと気に入ると思うよ」
「へぇ〜」
そんなレイリーと肩を組む様に、レオンもぐいっと拳を突き出し、トミーの頬をぐいっと小突く。
「聞いたぞー、ププリン様助けようとしてゴーレムで大立ち回りしたんだって? その歳でそこまでできるなんて大したもんだぜ。次はうまくいくように今度、剣教えてやるよ。ゴーレムのほうはさっぱりだけどな」
「本当!?」
「だったら、もうちょっと筋肉をつけねぇ〜とな☆」
カラカラ笑うアリルの言葉に、ドッと盛り上がる。
そんな最中、黒妖は荷物の中から取り出した物を胸に押し抱き、そっと入れ替わる様にトミーの傍らに腰を降ろした。流石に皆、少し遠慮した。
「トミー、久し振り‥‥元気にしてた?」
「あ‥‥黒妖さん‥‥」
ぽんとその頭に天界製の革のテンガロンハットを被せた。
「これ‥‥あげる‥‥日差し避けにも‥‥丁度良いし‥‥似合ってるよ」
今はちょっと大きいみたいだが、数年もすればしっくり来るだろう。
「おっ! 似合ってるなぁ〜!」
「良かったわね、トミー」
「あ、ありがとう‥‥」
照れくさいのか少し俯いてしまうトミーに、皆でわいのわいのと褒めそやす。
「やあ、イイモノを被ってますねえ♪ 僕とお揃いだ」
トリアはくいっと親指で唾を上げ、ひゅ〜ちちちと、某決めポーズを真似て見せた。
「そうだ、面白い話をしてあげましょう。先日、ショアでね‥‥」
かくして、何故か地球の某ヒーローを伝導するトリア。
「しかし、アトランティスじゃぁ〜2番目だ♪」
「え‥‥しかし、アトランティスじゃ2番目だ‥‥」
「まだまだ照れがありますねぇ〜、こうです!」
流石本職の吟遊詩人。そんなこんなで、その部屋は妙な話で盛り上がるのであった。
●猫の親分、ケットシー
その日の内に、蒼威を筆頭に、リューズ・ザジ(eb4197)ら冒険者が同行し、会談に臨む。
唯一、リディリアの姿がそこには無い。余りの取り乱し様に、どこかにしまわれているのだ。
猫の軍団が駐屯している、少し小高い岩場を目指した。
な〜
「あ、猫だ!」
な〜な〜
「あそこにも!」
木々や草むらの間のそこかしこに、猫の姿。そして、サッと身を翻して退散する。
「どうやら、かなり統率がとれているみたいね」
アレクセイは、ユニコーンのアリョーシカと思念で言葉を交わしながら、蒼威にそう告げた。
「ああ、だから俺はこうして話をしに来た」
にゃ〜
「猫か‥‥猫はいいな。うん」
もふもふとトリアの猫を抱きかかえながら、リューズはそんなやり取りを眺め、腕の中のドルバッキーの手足をくいくいと動かしては頬を寄せた。肉球がほわ〜んと柔らかいのである。
暫く進むと、シグの領地を見下ろせる岩場に多数の猫の群。その中からのそり、ブーツを履いた大きな猫が、マントをたなびかせ、しなやかに、岩の上に姿を現した。
「高い所から失礼。どうやら、貴方がこの地の、人族の代表の様ですね」
とび色の瞳が、静かに、だが油断無く蒼威を見つめている。
「ああ。ケットシーよ、お前の要求は、条件によっては飲んで構わないと想っている」
「その条件とは?」
「それを話し合う為にも、お前の捕らえているププリン様を返して貰いたい。その方は、我等にとり大切なお方であり、俺の上の立場の方でもある」
「いいだろう」
そう言ってケットシーが手を挙げると、ぽ〜んと一匹の猫に跨ってププリン子爵が飛び出して来た。
「宜しい☆ 時雨蒼威男爵、ご苦労〜♪」
「ご苦労じゃないです」
「ぶ〜、バガンを取りに来てたの!」
そんなやり取りを前に、前脚の毛づくろいをしながらケットシーは話を先に進める。
「で、そちらの条件とは?」
「俺は、ここで互いが友好を望む限り、共存の道を模索する事を宣誓する。当地は、今いる猫の倍までならば受け入れる。それ以上は無理だ。シグとシグに錨を降ろす船のネズミは、全てお前達の物だ」
「同感だ。我等もこの地に留まる限り、その誓いを護ろう」
すると、一斉に猫達が、な〜な〜と鳴きだした。
●猫洗い祭り
ケットシーはアッシュと名乗った。
早速、領民達総出で、受け入れの第1条件たる『猫洗い』祭りが実施されていた。
猫は元来、水を嫌がる。キラキラ輝く光等を嫌がるのだ。
そんな訳で、最初は不安げな鳴き声で一騒ぎだが、アッシュが傍らで何事かを話し掛けていると、眼を瞑り全身の毛を逆立てて我慢している。そんな様子が可愛らしく、村人達も頬を緩ませながら、一匹一匹丁寧に洗う。
「にゃんこ‥‥いっぱいだ‥‥」
黒妖は、村人達と一緒になって毛の中にもぐりこんでいる虫やらを洗い出す。そして、洗い終わった猫をひょいと放すと、とてとてと洗い終わった集団の中に加わり、自分でちゃ〜んと毛づくろいを始めるのだ。
「いやぁ〜、これは壮観ですね♪」
トリアも自分の猫を洗い終え、野良猫を洗う洗う。
「しかし‥‥猫の妖精が居ると、こうも違うものか‥‥よ〜し、次はお前だな」
リューズは少し呆れた口調で、猫の妙に統率の取れた行動を眺めた。エプロン姿で腕をまくり、な〜な〜と鳴いて近付く一匹に腕を伸ばし、その円らな瞳を覗き込む。そうすると、不思議と何を言っているのか判る様な気がした。
「よし。今、綺麗にしてやろう」
「うわぁ〜ん、ププリンさまぁ〜!!」
少し離れた場所では、リディリアが猫の背からププリンをひょいと持ち上げ、涙ながらに頬擦りした。
「も〜、痛い痛い〜大げさなんだよ、リディリアは〜」
「あははは、こいつは本当に心配してたんだぜ」
アリルは具合の悪いらしい猫を仰向けに寝転がらせながら、そんな二人に頬を緩めた。
「おいおい、そろそろププリン様を放してやってくれ。こっちも忙しいんだ」
「や〜!」
「や〜☆」
きゃははと笑う相変わらずのププリンと、まるで少女の様にいやいやをするリディリア。さしものアリルも苦笑いの度合いを深めた。そして、フェアリーのヴィヴィアンがにこやかにそれを眺めていた。
●猫と魚
獅子のマント留めと、サンジャイアントソードは、アッシュが身に付けていると、ちょっと小さく見えた。
「そうか普通、魚は食べないのか‥‥どうりで‥‥」
「そういう習慣は無いな。天界では普通なのか?」
アッシュと砂浜を並び歩く蒼威は、自分の飼い猫の天凪が、魚の切り身をあげても、そんなに喜んで食べていない様な気がしていた。
「喰えない事も無い。だが鼠を獲る訓練に真剣味を出す為にも、少し少なめで構わないと想う。年寄りや怪我でうまく狩れない者、病気の者以外は」
「うむ。そうだな」
「ハーブにも、苦手なものがある‥‥」
「そうなのか?」
「へっくしょん!!」
思わぬくしゃみ。サラは羊皮紙片手のレイリーに見られ、罰が悪そうに顔をしかめた。
「大丈夫か?」
「ええ」
「そうか。ハーブはこの辺りに植えてみては?」
「猫達に聞いてみるか」
「そうだな‥‥」
「そうか。捨てる魚は無いか」
小魚は塩漬けや、腐った物は肥料に利用している。以前、蒼威が教えた通りに。僅かながらもシグの物成りが良くなったのはそのお陰である。
レオンはため息をついた。ここでは、必要な分以外は獲っていない様であるし、無駄な物もないのである。