総監の教室1〜総監の職務&ペットの規則

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月18日〜09月21日

リプレイ公開日:2006年09月26日

●オープニング

●総監の職務
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【冒険者ギルド総監の職務についての規定】
 冒険者ギルド総監は、以下の如くに冒険者の規則を定め、冒険者に規則を
守らせる。

【1】冒険者の守るべき規則の制定
・冒険者の守るべき規則の制定にあたっては、冒険者、貴族、庶民、その他、
関係者それぞれの意見を出来る限りにおいて十分に反映させた上で、冒険者
ギルド総監が取りまとめる。
・重要な規則については、ウィル国王陛下並びに、冒険者ギルドの主宰者たる
トルク分国王陛下にご報告申し上げる。

【2】規則の公布
・規則の公布は冒険者ギルドにおける通知、立て札と触れ役、新聞への記載など
を通じて行う。

【3】冒険者の指導
・冒険者に対する指導は、冒険者ギルドの依頼等を通じて行う。
・総監の任ずる監督官が依頼を通じて、または冒険者酒場を使って、聞き込みや
指導を行う場合もある。

【4】冒険者の監督
・総監は依頼の報告書に出来うる限り目を通し、情報を集める。
・総監がその必要を認めれば、依頼の出発時と帰還時に総監や監督官、あるいは
総監に委任されたギルド職員が、冒険者に対する面談を行う。問題があれば
指導し、従わない場合には拘束や処罰もありうる。
・冒険者の規則違反についての情報を集めるために、冒険者ギルド内に告発所を
設ける。

【5】違反者への対処
・過失や重大さの度合いによって各所に通報し、対処を願う。
・過失や重大さの小さい順から大きい順に、通報先は次のようになる。
 軽度:冒険者ギルドに報告
 中度:王都守備隊、もしくは冒険者が関係した土地の領主に報告
 重度:国王陛下、ならびに冒険者が関係した分国の分国王に報告

【6】罪の減免と名誉回復
・規則違反の罪を犯した冒険者のうち、その罪を悔い、態度を改めた者について
は、総監の名によりその罪を減免し名誉を回復する。

【7】付記1
 この規則は総監がその必要を認めた場合に、追加・改訂が行われる。

【8】付記2
 この規則は精霊歴1039年9月5日、賢人会議の日に制定され、冒険者
ギルド総監の就任日である同年9月15日より発効する。
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●ペットの規則
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【ペット(随伴獣)に関して冒険者が守るべき規則】
◆基本原則
・ペットは剣と同様、冒険者に許された武装の一部と心得るべし。
・ペットが民衆に迷惑をかけず、また民衆の不安の種にならぬよう、
放し飼いをしない工夫をなし、その飼育に責任を持つべし。

◆依頼期間中のペットの管理
・猛獣、魔獣など危険度の高いペットは、ウィンターフォルセの預かり所か、
ペットの収容が可能な施設、又は冒険者街に待機させる。
・危険度が中間のペットとして、卵、正体不明のペット(幼態、光る球体)、
幼い爬虫類、鳥などは、携帯出来る檻に入れられる大きさの物のみ、携帯用の檻
で同伴可能。
・危険度が低いペット、犬、馬、猫は、同伴可能。
・依頼により特定のペットの同伴が示されている場合には、この限りに有らず。

◆規則違反に対する処罰
・ルール違反者に対しては警告並びに罰金の徴収を行う。
・度重なるルール違反に対しては、ペットの没収も有り得る。

◆冒険者の権限
・冒険者各自は、冒険者街の秩序と安寧を冒険者自らの手で維持すべく、冒険者
街において不名誉なる行為を為す冒険者を取り締まる権限を有する。
・冒険者各自は、冒険者街において規則が遵守されているかどうかを判断する為
に、情報を集める権限を有する。
・冒険者各自は、冒険者街における規則違反の証拠を集める権限を有する。
・冒険者各自は、規則に違反した冒険者を捕縛する権限を有する。

◆付記
 この規則は精霊歴1039年夏、王都ウィルにて発生したペット騒動を契機に
定められたものであり、必要に応じて規則の追加・改訂を行う。

【8】付記2
 この規則は精霊歴1039年9月5日、賢人会議の日に制定され、冒険者
ギルド総監の就任日である同年9月15日より発効する。
────────────────────────────────────

●時代の節目
 フォロ城、『獅子の間』。招賢令より暫しの日を置き、ウィル国王エーガン・フオロはトルク王の名代たる騎士学院教官カイン・グレイスと、この度の招賢令発布を王に求めた護民官の2人を、この小部屋に招いた。
 招賢令で奏上された数々の献策を実現するために、近日中に冒険者ギルド総監への就任が約束されているカインとの間に確約を結び、その協力を保証させるためだ。賢人会議を実現させた功労者とも言える護民官は、その立会人となる。
 王は確約書に自らの名を記し、次いでカインもその名を記す。これに護民官がサインを加え、ここに確約は為された。
「陛下、しばらく話をしませんか?」
「よかろう。余もその方と話がしたかった」
 王と護民官は2人で街を見下ろすバルコニーに出た。
 街を見下ろし、暫し会話する2人。護民官の目に映る王の横顔は、いつになく穏やか。しかし彼はその姿に悲しみの影を見た。
 会話を終えて王の前より退いた後、カインが護民官に訊ねる。
「新しい職務に専念するため、私はしばらく騎士学院を休職しますが、貴方はこれからどうなさるのですか?」
 護民官もまだ職務に復帰すると完全に決めたわけではない。だからこう答えた。
「実は‥‥先のことはあまり考えていません」
 その答にカインは微笑んだ。
「もしも気が向いたら、いつでも私を訪ねて来てください。それこそ、仕事は山のようにあるはずですから」

●準備完了
 ここは冒険者街にある空き家の一つ。賢人会議にて定められた2つの規則を書きだした2枚の羊皮紙を、カインは部屋の壁に貼りだした。
「これで準備完了ですね。では、ギルドから生徒募集の依頼を出しますか」
 この空き家を教室としての授業。総監自らが教鞭を取る。
 第1回の授業の課題は、この2つの規則についての自分の意見を述べ、分からない点を質問することだ。
「さて、どんな生徒が集まって来るのか。‥‥楽しみに待つとしましょう」

●冒険者ギルド総監カイン・グレイスより
「この度、冒険者諸氏への指導として、総監たる私自らが冒険者街に教室を借り、教鞭を取ることになりました。授業の内容を充実したものにするため、生徒は最大で6名の少人数制授業とします。今後の授業では、全ての冒険者にとって大切と思われる様々な内容を取り上げます。依頼の報告書として公開される授業内容には、全ての冒険者が目を通すことが可能となります。
 この依頼に参加される方々は、この授業に出られない全ての冒険者の代理人になったつもりで、真摯な態度で授業に臨んで下さい。私も授業においては真剣勝負で望みます。
 総監の職務で何かと忙しい身ですが、せめて月に1度はこのような授業の場を設けたく思います。
 また、授業の終わりに時間的な余裕があれば、課題に関係した以外の意見や質問も受け付けます。
 それでは、皆様の参加をお待ちしております」

●今回の参加者

 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb3490 サクラ・スノゥフラゥズ(19歳・♀・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4856 リィム・タイランツ(35歳・♀・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●サポート参加者

ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)/ イコン・シュターライゼン(ea7891)/ 物輪 試(eb4163)/ ゲイザー・ミクヴァ(eb4221)/ エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375

●リプレイ本文

●授業開始
 総監の授業の日。まだ夜も明けぬ朝早くから、授業への参加を申し込んだ冒険者達は叩き起こされた。
「緊急事態の発生につき、授業の時間を早めます」
 冒険者街の教室に集まった皆の前で説明するカインの横には、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)の姿。カインに続き彼も語る。
「朝早くから起こして済まんが、わしから総監殿に願ったのだ。ウィンターフォルセの緊急事態への対処をな」
 これは、サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)にとって意外な展開。護るにも攻めるにも非力な自分と感じるが故に、フォルセに向かった仲間の代理のつもりで、彼女は授業への参加を申し込んでいた。
「フォルセに向かわれるのですか?」
「はい。王都の騎士達にもお手伝い頂けるよう、ギルド長に連絡を頼みました。準備が出来次第い出発します。それまでに授業を終わらせましょう」
 軽めの朝食を慌ただしく済ませると、早速に授業が始まる。

●総監の職務
 授業は、冒険者ギルド総監の職務についての討議から始まった。最初の発言者、キース・ファラン(eb4324)が幾つかの質問を向け、カインがこれに答える。
「もしも総監が交代する事態が起きたら、どうすべきだとお考えだろうか?」
「将来的にはそのような事態も有り得るでしょう。その時に備え、今のうちから総監の役割や権限についての原則をしっかり定め、引き継ぎの際に後任が何をすべきか迷わないようにしておきましょう」
「総監の定めた規則に違反した者が出た場合、その者の調査は依頼を通じて行うことになるのか?」
「調査によらずとも、どのような違反を犯したかが明らかであれば、私が当事者を呼び出して処分を加えます。但し、冒険者の規則違反により、地方の領主や領民に被害が及んだ場合には、その調査のため依頼を出すこともあり得るでしょう」
「冒険者酒場の監督官の仕事の定義は?」
 これはカインに雇われたシフールのリルのこと。別件の依頼で色々とお仕事をしており、今はカインの傍らに控えている。
「個人的にはかわいらしくて実直そうだからいい人選だと思うけれど、トラブルが起きたときのために、一応」
「リルの仕事は冒険者酒場で冒険者の声を集め、冒険者の要望について総監に知らせる事です。また、暴言や誹謗中傷などの目に余る行為があれば、総監に通報します。彼女を初め、監督官にはその個々人の能力に応じた権限を与えていきます」
 続いてミリランシェル・ガブリエル(ea1782)が意見する。
「総監や監視官などの重要な職員は、経歴などをしっかりと調べた上でそれを公表する事にすれば信頼が生まれ、円滑な職務遂行が出来ると思われます。もしも天界人であれば、本人による進言以外にも、可能ならば徹底した調査をした上で採用すべきだと思います」
「尤もです。リルについては、彼女の口から経歴を説明させましょう」
 カインに促され、リルは話し始めた。
「う〜んとね。生まれて一番最初の記憶は、お花がいっぱい咲いている山の麓を気持ちよく飛んでいたことかな? その後でもの凄い風に吹き飛ばされて、それからはあっちこっちを飛び回って、気がついたらこのウィルの国にいたのよね」
 ちなみにアトランティスのシフールは、聖山シーハリオンの麓に咲くフェイの花から生まれると言われている。
「で、これまでは気が向いた時に伝令のお仕事とか、色々やってきたの。カインさんとも、もう20年来のおつき合いになるかな〜?」

●冒険者に対する裁判権
「今一度おさらいしておく意味で尋ねるが、総監と監督官の職務とは?」
 シュタールが尋ねる。続いてミリランシェルも。
「同じく総監の職務についてですが、冒険者がたびたび軽度の過失や違反を繰り返した場合、また中度のそれを繰り返した場合は、それを軽度・中度としてではなく中度・重度として扱う事などはあるのでしょうか? また、重度を繰り返した場合に冒険者資格剥奪や極刑、拘留刑などあるのか? それから誤報・誤認により冤罪が発生した場合はどのような処置が施されるのでしょうか?」
 対するカインの答は。
「冒険者の不品行や犯罪が問題になるのは、概ね依頼で派遣された土地においてであり、冒険者の罪を裁く権利はその土地の領主にあります。当然、同じ土地で軽度の罪を何度も繰り返して犯せば、土地の領主はそれを中度や重度の罪として扱うことも有り得ます」
 これを聞き、ベアルファレス・ジスハート(eb4242)が質問する。
「すると、冒険者ギルドや冒険者街で犯した違反については、冒険者ギルド総監が裁く。王都内での違反は、先の賢人会議で制度化された冒険者審問官が裁く。派遣された先の土地や分国で犯した違反については、その土地の領主や分国王に裁きが一任される。ということになるのか?」
「まず、冒険者ギルド総監が定めた規則への違反と、派遣先の土地や分国における触法行為を区別しましょう。たとえ派遣先で、総監の定めた規則への違反があったとしても、それが派遣先の領主や領民を害せず、またその土地の法に触れぬ限り、その土地では罪には問われません。しかし規則違反の結果、その土地の者を害したり、その土地の法を犯したりした場合には罪に問われます。王都についても同様で、いわば国王陛下は王都という領地を持つ、ウィル王国で最も豊かな領主ですから。
 そもそも冒険者が守るべき規則を総監たる私が定めるのは、冒険者が派遣されるその土地で、冒険者に罪を犯させないためです。
 こう考えれば分かりやすいでしょう。冒険者ギルド総監は、その定めた規則を冒険者に守らせ、規則に対する違反を裁く。分国王や領主、並びに王都内で冒険者を裁く権限を有する冒険者審問官は、冒険者がそれぞれの土地の法に対して犯した罪を裁くと」
{そうであれば同程度の犯罪行為でも、それに対する処罰の重さはその土地の領主等によって変わってくる、という事もありえるのか?」
「勿論です」
 頷くカイン。
「しかし、派遣された土地の有力者を卑劣なるやり方で殺害したり、敵国と内通し敵国を利した等の、極めて重大かつ不名誉なる罪に対しては、どこの土地でも斬首刑や絞首刑などの重罪が科されます。
 また、冒険者には騎士身分が保障されていますから、時には土地の領主から冒険者ギルド総監に、裁判権が預けられることもあるでしょう。丁度、騎士団に所属する騎士が罪を犯した場合、その騎士の属する騎士団の長に裁きが任されることもあるように。その場合には冒険者ギルド総監であるこの私が裁きを行い、場合によっては刑の執行もこの手で行います。
 そして重大な罪に対しては、総監の裁きにより冒険者の騎士身分を剥奪することも有り得ます。ただしその場合、冒険者の騎士身分の保証主であるジーザム・トルク分国王の承認を必要とし、さらに正当な裁判の手続きを経なければなりません。
 しかし、冒険者がその騎士身分を剥奪されるような重大な罪を犯した場合には、総監たるこの私もその監督責任を問われるでしょう
 冤罪が発生した場合には、下された裁きに意義を申し立て、再度の調査や裁判のやり直しを求める事が出来ます。それは、総監たる私が下す処分に対しても同様です。その異議申し立てが正当なものと認められれば、冤罪を晴らす機会が与えられるでしょう」
 ここでシュタールが再度、質問する。
「冒険者の規則の適用範囲はどこまでなのか? 国外での活動も含むのか?」
「冒険者の規則は、冒険者がその騎士身分に恥じぬよう、自らの意思において守るべきもの。凡そ騎士道を国の規範とする諸国において、騎士身分たる者はその本国のみならず他国でも騎士身分として遇されるのですから、他国においても規則を守るべきです。
 現在は随伴獣(ペット)についてのみ、詳細な規則が定められていますが、その他の守るべき規則は必要に応じて定めて行きます。
 勿論、冒険者の行動全てに規則を定める訳にはいきません。何を為すべきで何を為さざるべきかを判断するのは、結局は冒険者たる自分です。しかし、次の5ヶ条を冒険者の心構えとして示しておきましょう」
 そう言って、カインは持ち込んだ黒板にこう書き、声を出して読み上げた。

【冒険者の心構え】
 1:依頼人に敬意を払い、依頼人が自分に求めるものの何たるかをよく理解せよ。
 2:派遣された土地の領主を敬い、土地の民を気遣い、土地の法を守れ。
 3:初めて派遣される土地では心を引き締め、細心の注意をもって土地の実状を知れ。
 4:常に自己を良く鍛錬し、かつ勉学に励め。時に剣は知識に優り、時に知識は剣に優る。
 5:自らの失敗はその責任を他者に押しつけることなく、自らの手で償いを為せ。

 シュタールは続けて質問する。
「ところで、総監が処罰として罰金を徴収する場合──勿論、その罪状に応じてだが──具体的な金額を定めるのか? それとも財産に対する何割で徴収するのか? また、被害者への救済と加害者への処罰のどちらを主にするのか?」
「それは今後の状況を見て決めます。被害者への救済も加害者への処罰も等しく大切と考えるので、そのどちらかに偏らせる事はしないつもりです」
「また、将来的に冒険者が国外で活動する事も踏まえて、冒険者の規則やその身分の保証、並びに冒険者が有する権利と義務について、各国と条約を結ばないといけないと思うがいかがかのぅ‥‥?」
「条約を結ばずとも、ウィル王国の冒険者ギルドに所属する冒険者はウィル王国国王の権威により、外国でもウィル王国の騎士に準じた身分が保証されます。また冒険者ならずともウィル王国の民は、国外においてその当地の法を遵守すべきなのは当然です。これで十分ではありませんか?」
「して、規則の改定の手続きは、制定時と同様か?」
「はい。総監の名において改定を布告し、その実施日より発効します」
「改定に際して人々の──特に庶民の意見を反映させる場合だが、どの程度の地域から意見を集めるのだ? また意見を汲み取る対象の年齢や身分については?」
「庶民の声を聞く場合には、人と情報が集まりやすい王都とその近辺を中心に。王都より離れた地で問題が発生した場合には、その地に出向いて庶民の声を聞き、調査を行うことも有り得ます。対象となるのは、国王陛下や諸領主の定める法に服し、その保護下にある民。その中でも働ける年齢に達し、かつ実際に働いて家の家計を支える者達です」
「あの‥‥」
 恐る恐る訊ねたのはリィム・タイランツ(eb4856)。
「ぼ、ボクがGCRでやったゴーレムチャリオット大破とかは、どのくらいの過失になるでしょうか‥‥?」
 カインは微笑んで答えた。
「最初の失敗では名誉の負傷と見なされても、2度目からは笑い者。3度も続ければ、誰も貴方にチャリオットを操縦させなくなくなるでしょう。過失の報いとはそういうものです」

●ペットの規則
 続いての討議はペットの規則について。
 ミリランシェルから質問が出る。
「冒険者の目の届かぬ所でペットが人を傷つけたりした場合にも、冒険者の過失として処罰されるのですか?」
「そもそもペットを自分の目の届かぬ所へ行かせたこと自体が過失であり、管理不行き届きとして責任を問われます」
「過失を犯し、その罪を告白する前にペットを手放した場合には、どのような処置が取られるのでしょうか?」
「手放し方にもよります。ペットがこれ以上人に危害を加えないよう、然るべき管理者の元に預けたならば、その行いは罪の軽減にもつながるでしょう。逆にペット可愛さのあまりその処分を恐れて逃がした場合には、さらなる罪として加算されるでしょう」
「また現在、規則にその取り扱いが明記されておらず、なおかつ危険度の低いと思われる兎や狐など含めた上で、安全度について種族や成長度よって細かく分け、同伴の可否の目安とした方がいいと思います」
「そこまで規則を細かく定める必要があるでしょうか? そういった事は、ペットの事を一番良く知っているべき飼い主が判断すべきことでしょう?」
「しかし、人によって認識の違いがありますから。それらをはっきりさせる事により、判断ミスなど確実減らせると思います。特に初心者の冒険者に対しては」
 この意見にはベアルファレスやキースも賛意を示し、カインも考えを変えた。
「分かりました。では随時、規則に加えていきましょう」
 ベアルファレスはさらに意見する。
「ペットが原因で民に死者が出た場合、そのペットの処遇はどうするのか? 状況にもよるだろうが、私はそのペットを処分してしまう必要性があると考えている。罪に対しては明確なる罰を示さねばならんからな」
「人を殺した動物は見せしめのために八つ裂きにして、木に吊します」
 さらりと言ってのけた後で、カインは付け加える。
「これは、私の知っているとある領地の例ですが、ウィルの各地の領主は概ね、このような厳しい姿勢を取っています。領地によるこの処分に対しては、いかな冒険者ギルド総監たる私でも、口を挟むことは出来ません」
 なお、ペットを収容する携帯用の檻については、冒険者ギルドで用意して貸し出す予定だという。

●依頼について
「個人的な仕事を依頼として出す場合はどうすればいいのか?」
 と、キースが訊ねる。
「いろいろな事業を行っている人たちが、助っ人をほしがる場合もあるだろう? 少し報酬が安くなっても、場合によっては無料でもいいから、困っている庶民がギルドを利用してトラブル解決を頼むことをやりやすくして欲しいと思う。
 周りを見ている限り、社会を大きく変えるよりも細かいトラブルの解決を手助けしたい人が多そうだ。冒険者に対する庶民の信頼感を得るためにも必要だと思う」
「もしも私が責任を持って進めている、献策の実現依頼に沿う形にできるなら、私から依頼を出していきましょう」
 と、カインは答えた。
 サクラからは、ギルドの報告書に対する要望。
「報告書ごとに、報告内容で派生した事項などの添え書きを希望します。報告書の下のスペースで。内容としては当初の予定からの変更点、所持金の受け渡しの詳細、後の依頼に備えての簡単な連絡事項等です」
「それについてはギルド長に訊いてみましょう」
 早速にギルド長が呼ばれ、彼はこう答える。
「それが出来るかどうかは記録係の能力にもよるからなぁ。まあ、私の方から記録係に要望は伝えておこう」
 ここで一時休憩。皆はリィムの持ち寄ったハーブティーを飲みつつ、ペットのコカトリスを使ってちょっとした実験をやっていると、王宮からの使者がやって来た。
 出陣の時が来たのだ。
「もっと色々聞きたかったのに‥‥」
 残念がるリィムにカインは告げた。
「約束しましょう。今回、取り上げることの出来なかった質問については、次の授業に回します」