総監の教室2〜ハンの国と対ウィル包囲網
|
■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月23日〜05月26日
リプレイ公開日:2007年06月06日
|
●オープニング
●授業の始めに
「さて、久々の授業ですね」
ここは冒険者ギルドの建物内に設けられた講義室。思えば、カイン総監が行った前回の授業からかなり時が経ち、その間にウィルも大きく変わりつつある。
「ふぅ‥‥」
準備を手伝う地球人の知多真人は目下、各種資料や報告書の山と格闘中。
「情報が多すぎて大変です」
彼はカインから依頼されて連絡係、つまりは冒険者のサポートをする役目に就いたばかり。
おや? 誰かがやって来た。
「ロッド卿!」
新トルク国王ジーザムの左腕とも言うべき腹心、ロッド・グロウリングが部屋の出入り口に立っていた。
「冒険者向けの授業をやるそうだな? 折角だ、俺も授業に参加して冒険者からの質問に答えてやる。但し、あまりにも馬鹿げた質問をするヤツは剣で叩っ斬る」
「え!?」
「冗談だ。せいぜい部屋から放り出すくらいに留めておこう」
今回の授業内容は『ウィルとハンを取り巻く国際情勢』についてである。
●セトタ大陸の歴史
伝説によると、精霊暦550年頃、セトタの大陸には、後に六建国王と呼ばれる6人の勇者がいたとされる。この勇者達はそれぞれの民を率いて国を興したが、この六国が後のセトタ六国『ウィル』『ハン』『リグ』『ラオ』『エ』『チ』の原形となる国家だ。セトタの六国は、互いに小競合いを繰り返しながら発展し、900年ごろに、現在の国の形に定まった。
かつて六国は大陸の覇権を争って戦争を繰り返したが、この数年間は大きな戦争も無く、現在は小康状態を保っている。しかし、その分国内ではさまざまな問題が起こっている。
●アトランティス西方の概略図
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┏━━━┳
〜〜〜〜〜〜┏━━━┓〜〜〜〜〜┃☆☆☆┃
〜〜〜┏━━┫☆☆☆┃〜〜〜〜┏┛☆☆☆┃
〜〜┏┛☆☆┃☆?☆┃〜〜〜〜┃☆?☆☆┃
〜┏┛☆☆☆┃☆☆┏┻┓〜〜〜┃☆☆☆☆┣
〜┃☆?☆┏┻━┳┛☆┃〜〜〜┃☆☆☆┏┛
〜┃☆☆☆┃?※┃?☆┃〜〜〜┗┓☆☆┃〜
〜┣┓☆☆┃※※┃☆┏┫〜〜〜〜┃☆☆┃〜
〜┃┗┳━┫※※┃┏┛┃〜〜〜〜┗━━┛〜
〜┗┓┃▲┣━━┻┛※┃〜アプトの大陸↑〜
〜〜┃┗━┫※※※※※┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜┗┓−┗┓※?※┏┛〜〜シムの海〜〜〜
〜〜〜┗┓?┗┓※※┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜┗┓−┃※※┃←セトタの大陸〜〜〜
〜〜〜〜〜┗┓┗┓┏┛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜┗━┫┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜┗┛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
▲:聖山シーハリオン ━:国境線 〜:海
※:ウィル=リグ同盟 ☆:対ウィル包囲網
−:中立国
【ウィル=リグ枢軸】
?ウィルの国 ?リグの国
【対ウィル包囲網】
?エの国 ?ラオの国 ?ランの国 ?ハンの国
【中立国】
?チの国
●ウィルの国〜歴史・概説
ウィルの国は、勃興を繰り返すセトタ6国の中では、比較的新興の国である。建国は精霊暦920年ごろ。滅んだ王朝の上に新たな国が立つという、典型的な継承国家であった。
ウィルは、4つの月道を持つ貿易国である。800年代後半から月道貿易が行われており、戦後は肥沃な平野の開墾と貿易によって、辺境から大国へと発展していった。
ウィルは、6つの分国に分かれている。国王は分国王達による選王会議により選ばれ、それによってしばしば内乱が起こる事もある。
ウィルの国は、ゴーレム兵器を最初に産じた国である。ゴーレムに限らず、ウィルは技術でも思想でも、現在のアトランティスの最先端を行く国であるが、その多くはレズナー・フオロ王のもたらしたものである。彼の統治していた1020年代は充実した時代だったが、1032年崩御。そして次王にはレズナーの息子エーガンが即位するが、この王はまれに見る悪政を敷き、政治は乱れ王国は疲弊した。
1039年末、エーガンは伝染病への感染を理由に王位から退かされ、1040年には選王会議によりトルク分国王ジーザム・トルクがウィル国王に即位。王国の建て直しに着手した。各騎士団の編成が進み、トルク分国で発明された『ゴーレム兵器』も量産体制が整い、ウィルはセトタ大陸の覇権国としての道を歩みつつも、周辺諸国からの警戒を引き起こしている。
周辺諸国の警戒の理由の一つに、ウィルとリグとの友好関係の深まりがある。セトタ中央部の内陸国リグは、セトタ北部のエとラオに侵攻した過去を持つ国。そしてウィルは歴史的にリグとの関係が深く、両国間には相互不可侵条約が結ばれている。それ故、エとラオの2国においてはウィルとリグに対する警戒心が根強い。
ハンとランは歴史的にエとラオとの関係が強いが、先王エーガンの時代には国王の貿易振興策によりハン及びランとの関係が好転した。しかしリグとの関係が深いトルク家のジーザムが新国王に即位した事により、ハン及びランとの関係が冷却化する懸念が各界から表明されている。消息筋によれば軍事力において突出したウィルを、エ、ラオ、ラン、ハンの4ヶ国で封じ込めることを目的とした、対ウィル包囲網が徐々に形成されつつあるという。
●ウィルの国〜軍事
対外戦争において動員可能な兵士の数は約1500と、セトタでは最大。さらにゴーレム兵器保有数や質も、先駆だけあって他の国を大きく引き離している。騎士養成学校から輩出された騎士達の練度は高く、軍の士気も高い。
◇白銀騎士団:ウィル騎士団の精鋭部隊。
◇紺碧騎士団:鎧騎士で構成されたゴーレム騎士団。シルバーゴーレム『キャペス』、アイアンゴーレム『グラシュテ』、ストーンゴーレム『バガン』などによって、総勢80体以上のゴーレムが兵団を構成している。
◇陸戦騎士団:騎兵と歩兵からなる兵団。騎兵、戦車などが主力だが、30台ほどのフロートチャリオットが配備されている。
◇海戦騎士団:ウィルの海を守る騎士団で、総勢80隻ほどの艦隊で構成されている。
◇空戦騎士団:フロートシップで構成された『空飛ぶ艦隊』。ゴーレム運用には欠かせぬ兵団であり、ゴーレムの輸送の他に攻城戦における兵士の輸送など、その役割は大きい。また鎧騎士の駆るゴーレムグライダーは、戦場に空という新概念をもたらしている。
◇水上騎士団:内陸部の河川や湖水を守備範囲とする騎士団。冒険者の提案により発足。
◇精霊魔術兵団:精霊魔術を会得したウィザードで構成される兵団。
◇傭兵団:各地の傭兵によって構成される。待遇がいいので反旗を翻したり逃亡するものは少ない。
●ウィルの国〜ゴーレム技術
ウィルの国はゴーレムの売却、ゴーレムニストの派遣等を通じてゴーレム技術を世界各国に輸出してはいるが、技術自体は公開していない。但しメイの国ではウィルから購入したゴーレムをベースに、独自のゴーレム開発が行われている。
ウィルの周辺国においても、ランの国、エの国、チの国といった魔法先進国では独自のゴーレム開発が行われ始めているという情報が、各国の政治動向を探る密偵によりもたらされている。
目下、ウィルが最も力を入れているのは竜の力を付与したゴーレム、ドラグーンの開発である。これまでは王国の最高機密とされていたドラグーンだが、先の選王会議ではそのデモンストレーション飛行が行われるなど、その秘密のベールは徐々にではあるが取り払われつつある。
●リプレイ本文
●メイの国レポート
カイン総監の授業に出席しようと冒険者ギルドに出向いたベアルファレス・ジスハート(eb4242)は、知人の冒険者とばったり出会った。
「ロッド卿との手合わせ、どうだった?」
「ヤツは手強いぜ」
かの冒険者だが、その強さはベアルファレスも理解している。その彼がそのように言うのだから、ロッド卿の強さは並々ならぬものなのだろう。
そうしてやって来た講義室だが、冒険者全員が揃ったのを確認すると、カインは最初に物輪試(eb4163)を発言者に指名。
「この前の定例会に引き続き、彼にメイの国の報告を行って貰いましょう」
そこで、試は仲間の冒険者達から伝えられた話を元に、メイの国の現状を報告した。
まず、対バ国と対カオスニアン関係。
「これについては、一進一退の厳しい状況にある。対バ国については何かまずい事が起きたと云う話だが、詳しい事は不明だ」
次に、技術関係。
「メイに送られた新型フロートチャリオットは、メイにおいてはそのままでは使用出来ず、メイの実情にあった改造、改良が加えられている。これはウィルのように車体、砲身の生産体制が確立されておらず、かつ人員の大量確保が為されていないのに加え、戦術的に求められているものに違いにあるからだと思われるんだ」
「そうですか‥‥いつも貴重なメイの情報をありがとう」
と、カイン。
「ところで対ウィル包囲網の話を耳にしたんだが、これについて質問があるんだ」
試はカインに質問を求め、質疑応答が始まった。
●質疑応答〜対ウィル包囲網
──どの国が対ウィル包囲網に加わりそうか?
「対ウィル包囲網の鍵を握るのは、ウィルの友好国であるリグです。かつてリグはその領土をエとラオにまで押し広げようと、両国に侵攻した歴史があります。それ故にエとラオのリグに対する警戒は根強く、その警戒はリグの友好国であるウィルにも向けられています。対ウィル包囲網において最も強行なのは恐らくこの2国でしょう」
「ハンとランについては、先王の統治下ではウィルとの関係が良好でした。しかしハンの現国王のお妃はラオの国出身であり、ハンとラオとの結びつきは深いものがあります。またハンとエは月道で結ばれており、ハンにとってはエも重要な交易相手です。また、ラオの国はその初代の王がランの貴族であったことから、歴史的にランとの友好関係を維持してきました。従って今後、対ウィル包囲網形成の動きが強まれば、自然の流れとしてハンとラオは反ウィルに傾いて行くでしょう」
「ハンの国もまた、リグと同じく対ウィル包囲網の鍵を握る国です。先日、ウィル国王ジーザム陛下はハンの国王陛下に対し、王弟殿下ルーベン・セクテ公とハン王女ミレム・ヘイット姫殿下の結婚を申し込みました。この結婚にハンの国王陛下が同意すれば、ウィルとハンの両国は婚姻関係で結ばれ、ハンは対ウィル包囲網に打ち込まれたくさびの役割を果たすことになります。逆に結婚が拒まれれば、ウィルとハンとの戦争も有り得ます。ただでさえハン南部の戦乱がウィルに悪影響を及ぼしているのですから」
──ウィルにとって近隣の友好国はリグだけみたいだが、結び付きはどうか?
「最新鋭ゴーレムのドラグーンがリグに寄贈されたことにも象徴されるように、ウィルとリグとの関係はかつてない程に深まっています。正式な条約締結はまだですが、ウィルとリグは実質的な同盟関係にあると諸国は見ています」
──味方の戦力的には問題はないか?
「ウィルはこのアトランティス世界において最大のゴーレム保有国ですが、セトタ諸国は未だ本格的なゴーレム戦を経験していません。果たして実戦に投入されたゴーレムがどれだけの戦果を上げるかは、まだ未知数なのです」
──ルーケイなど、ウィルの内憂についての状況は?
「ウィルにおいてもっとも脆弱なのが、先王エーガン陛下のお膝元たるフオロ分国です。先王の失政によりフオロ分国は政治的にも経済的にもガタガタになりました。ルーケイもそうですが、他にも建て直しを必要としている領地は数多くあります。とはいえ、それ以外の分国の状況は良好で、新国王ジーザム陛下を中心とした各分国の結束には堅いものがあります。フオロ分国が足を引っ張っているとはいえ、ウィルには本国防衛のための対外戦争を行う能力が十分にあります」
──対外戦争になった場合の国内と、メイとの関係など国際関係への影響は?
「これは対外戦争がどれだけ長引き、どれほどの被害が出るかにもよります。対外戦争が短期間で終わり、ウィルの被害が少なければ、国際関係への影響は小さいものに留まります。逆に戦争が長引き、ウィルに多大の被害が出るならば‥‥結果は自ずと分かるでしょう。私はそうならない事を望んでいますが」
●ウィルのあるべき姿
続いてオラース・カノーヴァ(ea3486)が発言。
「俺が各国について知る事は限られていますが、ランはショアのディアーナ嬢が留学した大海の向こうの国ですね? ハンについては依頼を通じて結構、様々な情報が入っています。そこで質問ですが、ラン及びハンとの関係冷却化によるウィルへの影響は? 軍事面では、対ウィル包囲網の強化が早まることが推測されますが。俺は交易により庶民の受ける影響を知りたいです」
これにカインが答えた。
「ラン及びハンとの交易品は、庶民の生活必需品よりもむしろ貴族の贅沢品が大部分を占めているので、たとえ関係が悪化したとしても庶民の実生活に大きな影響は出ないはずです。但し、ウィルのごく一部を除いて」
「ウィルのごく一部?」
すると、同席するロッド卿がカインに代わって答える。
「フオロ分国の王領代官には、自領の小麦をハンに横流しして、私服を肥やす者がいる。そういった輩はハンとの関係が悪化すれば、困ったことになろうな」
オラースは続ける。
「現在、各国との関係改善のために他の依頼で冒険者が動いています。この機会に俺は、ウィルのために何ができるかを知り、それを多くの冒険者に知らせたい。そこで総監に質問ですが、総監はウィルがどのような国になれば良いとお考えですか? どうすればそのようになるとお考えですか?」
「‥‥‥‥」
カインは黙り込む。
「総監?」
「難しい質問です。でも、こういう事は言えます。一国を動かすほどの運命の力に対し、人間一人の力はあまりにも小さい。しかしその一人一人の人間には使命があり、小さな力でもそれを積み重ねて行けば一国の運命でさえ変えることが出来ると。ウィルについては、私はこの国が勇敢で礼儀正しい騎士のような国になればいいと考えています。困難に喘ぐ弱き国々には救い手を差し伸べ、自らの私利私欲のために力で他国を押さえつけてようとする国には剣の力に頼ってでもこれを正す。そしてこの世界を脅かすカオス勢力に対しては勇敢に立ち向かう。それが、私の理想とするウィルです。ウィルに住む大勢の者がそのような理想を抱くなら、やがてはウィルもそのような国に変わっていくことでしょう。しかしウィルにはむしろそうでない者の方が大勢です。力ばかりに頼って騎士としてあるべき礼節を見失いがちなもの、いやそれどころか騎士道など一切顧みず、私利私欲ばかりを追い求める者。そういった者達については、騎士道を歩む自覚のある者達が、少しずつその行いを改めさせ、良き方向に導いて行かねばなりません」
●戦争のタイミング
続いてベアルファレス・ジスハート(eb4242)が質問。
「対ウィル包囲網4国のそれぞれの関係については先にご説明頂いたが、ではその4ヶ国のうちどの国が対ウィル包囲を主導しているのだ?
分からぬなら推測でも良い、聞かせてほしい」
「現在ではまだ推測でしかありませんが‥‥」
と、カインは答える。
「これら4ヶ国のうち最も国力があり、国際政治で大きな発言力があるのがランの国です。これに比べたら現在のエの国など分国の寄せ集めで、これがかつての専制国家とは思えない有り様です」
唐突にロッド卿が発言した。
「逆に言えばエの国の一分国が、ランという大国の後ろ盾を得て危険な行動に出る危険がある。エの国の国王はお飾りにすぎないが、俺はエの国のシュレン分国の動きを警戒している」
「時に、ロッド卿」
と、ベアルファレスがロッドに質問を向ける。
「新国王陛下の就任式典の一環として、新兵器ドラグーンのデモンストレーションが行われると聞いたが。そのように力を見せびらかしては、他国の警戒心を強める結果となるのではないではないのか? 対ウィル包囲網の形成の可能性を考えれば、いささか強気な行動の様にも見えるが。ジーザム陛下の左腕とも称される貴公はどうお考えか?」
「ウィルには空の守りが必要だ。諸外国は表向きは公にしていないが、裏ではウィルの後を追う形でゴーレムの開発に血道を上げている。中には既にフロートシップの自力生産にまでこぎ着けた国もある。即ち、フロートシップに大勢の兵士を乗せ、遠距離を飛来してウィルを攻撃する能力を手に入れたというわけだ。だが、あのドラグーンなら容易くフロートシップを撃墜する能力がある。ウィルの王都上空を飛ぶあの姿を見れば、邪な意図を抱く国もウィルへの侵攻を思い止まることだろう」
そして最後に、ロッドは呟くように言った。
「所詮、国際政治とはそんな物だ。綺麗事だけではやっていけるものではない」
続いてキース・ファラン(eb4324)の質問。
「基礎的な質問になるが、そもそも各国の実状はどういったものなんだ? 主要都市や大貴族・世情・特筆すべき人物に関して知りたいし、また表面的な数だけではなく、民衆の疲弊度合いや内乱の種、そして実際に起きている内乱がどんなものかも知りたいんだ。その上で相手の軍事力や継戦能力、得意とする技術・戦法を掴めば、それによってウィルが採るべき策も変わってくると思うんだ。経済力的に無理して軍事力につぎ込んでいる相手には、ウィルからの物流を停止して長期戦に追い込めば勝手に自滅の道を歩み始めてくれるだろうし、逆に経済的余裕があるのであれば、その国が軍事力を拡充する前に短期決戦でけりをつける必要があるだろう」
カインは答える。
「それについては時間の関係上、別の機会に。近いうちにハンとの関係が大きく変化するはずなので、たとえそれが友好に傾くにせよ、戦争に傾くにせよ、必要な情報はその時に出される依頼書に纏めておきましょう」
「俺からも言わせろ」
と、話はロッド卿に引き継がれた。
「ハン南部の内戦については、ウィルから横流しされる小麦の物流を停止して自滅させる手が使える。しかし、これにはタイミングを選ばねばならない。横流しの大元である『横領代官』を討伐すれば確かに小麦の横流しは止まるが、横領代官の領地はウィルの王都にとっても小麦の一大供給地だ。下手な討伐戦を行って、ウィルに送られる小麦が焼けてしまっては、王都の住民が餓えてしまう」
「またハン以外の国については、貿易への依存度が低いから、経済面から追い込む作戦は取れない。従ってこれらの国々がウィルの敵となるならば、敵国が軍事力を拡充する前に短期決戦で徹底的に叩かねばならない。それをやるとしたら、ウィルがゴーレム保有数で他国と大きな差をつけている今が好機だ」
その言葉が終わった後、暫くの間沈黙が流れた。
●諸外国についての質問
暫く間を置き、信者福袋(eb4064)が質問。
《質問1》
「他国の戦力を聞く質問と重なるでしょうが、これまでにウィルから他国に輸出したゴーレム、ゴーレム機器の内訳について。ハン・エ・リグ・チについては依頼書に数字が書いてありましたが、ラオの国はどうでしょう? 納入されたものの種別と数によって、最低限これくらいの戦力は保有している、という目安はつきますし、発注する機器の種別によって相手の戦略を推測することも出来ますね。また、発注する品目の推移によって、相手国の技術力の上昇も推理できそうです。自国で賄えるものは賄うでしょうし」
《カインの答》
「現在掴んでいる限りの情報ですが、ラオの国のゴーレム保有数については、ざっとこんな感じになります」
と、カインは用意した黒板に数字を書き出した。
――――――――――――――――――――――――――――
ラオの国の軍事
対外戦争に動員可能な兵数 約1000
ウィルと並んで知られる精鋭揃い
ゴーレム保有数
ストーンゴーレム『バガン』30体余り
フロートチャリオット 15台前後
ゴーレムシップ 5隻
――――――――――――――――――――――――――――
「‥‥と、これらのゴーレムはウィルから購入したものですが、ゴーレムの自国生産に向けた動きもあるとのことです」
《質問2》
「包囲網、枢軸を含めた5国の政治形態は全て封建社会でしょうか? かつてのエは国王専制だったようですが、例えば逆に徹底した合議制の国などはあるでしょうか?」
《カインの答》
「エの国はかつては専制君主制国家ですが、今では実質的に封建君主制国家です。他の国々も全て封建国家です。徹底した合議制の国としては‥‥正確には人間の言うところの国とは異なりますが、シーハリオンの周辺を居住地とするナーガ族の国がそうです。彼らは長老同士の徹底した話し合いにより、政治を行うのです」
《質問3》
「リグが過去行った侵略には、何か説得力のある大義名分などありましたか? そして、リグは今でもまだ進出の意思を持っているとか?」
《カインの答》
「自国に住む者達に対してならともかく、リグには他国の有力者を説得できるだけの大義名分がありませんでした。だからリグは他国の協力を得られず、あの戦争に負けたと言えます。戦死した前国王の後を継いだ現国王は、あからさまな領土拡張の意志は示していません。今のところ、ウィルとの関係強化に腐心しています。もっともその心中までは分かりませんが」
《質問4》
「6国内でウィルとの通商を重視しているのはハン、ラオ、そしてリグでしょうか? ハンやラオに対し、通商による利益を元にしてウィル側に近づけ、包囲網を崩すという戦略は可能でしょうかね?」
《カインの答》
「国力が比較的小さく、かつ交易に頼る比重が大きなハンについては、それも可能かもしれません。リグは国力が大きく、ウィルよりも寧ろランとの関係が深いので、難しいでしょう」
●ウィル国内関連の質問
最後の質問は越野春陽(eb4578)から
《質問1》
「ウィル騎士団については、以下のような認識で正しいでしょうか?」
・騎士団は常備ではなく、必要に応じて招集される。
・騎士団に属している騎士は、騎士団専属ではなく通常は何処かに仕えている騎士である。
・平時は司令部のみが存在する。
・定期的に招集して訓練等を実施しているのか。
《カインの答》
「その認識で概ね正しいです。有り体に言えば封建国家の軍は所領地の軍隊の寄せ集めなので、平時の訓練は領地ごとで行われるため、錬度も領地によってまちまちです。平時には司令部が存在というか‥‥対外戦争など大軍を動かす必要が生じた場合、国王陛下からの命令があって初めて、王国全体の騎士団として編成されるのです」
《質問2》
「兵種別に騎士団がつくられているようですが、実際の運用の際には、各騎士団から必要な人員を選抜して軍団を形成しているとの認識で正しいのですか?」
《カインの答》
「ええと‥‥各騎士団の混成による軍団も、過去に無いとは言えません。但し、実際の運用では各騎士団を一つの大きな単位として、戦いが行われるのが普通です。過去の会戦の多くは、騎士団と騎士団のぶつかり合いでした」
《質問3》
「他国で常設軍を編成している国はあるのですか?」
《カインの答》
「海を隔てたヒスタ大陸に存在し、カオス戦争の元凶として悪名高いバの国がそうであり、またバの脅威にさらされる隣国ジェトの国もそうです。両国とも伝統ある軍事国家です」
《質問4》
「海戦騎士団は、沿岸領主の連合であることから、その船舶は平時は貿易に利用されていると認識しています。ショアで着手されていた船舶のゴーレム化も随分進んだと考えられますが、それによって貿易に何らかの影響が出ましたか? 他国との関係に変化は見られたのでしょうか?」
《カインの答》
「貿易や他国との関係への影響は、現在進行中で変化している模様です。それについてはショア伯からの依頼が出された折りにでも確かめてみるのが良いかと。そろそろショア伯も動き出したようですし」
《質問5》
「水上騎士団が設立されたとのことですが、これは海戦騎士団のような領主連合との解釈で正しいでしょうか?」
《カインの答》
「水上騎士団については大河を挟んで向かい合うワンド領とセクテ領との間で設立計画が進められており、騎士団長にはセクテ公と関係深いトルクの騎士シャーゼン・エルツ殿が就任されたと聞いています。やがてはルーケイなど、大河流域に領地を持つ領主も正式に加盟させる方針だとのことです」
《質問6》
「ゴーレムニスト育成計画で冒険者から希望者を募り、増員を図るとのことであったが、その計画は一体どうなっているのですか?」
《カインの答》
「残念ながら‥‥ウィルにおいては諸事情により、当初の計画が頓挫した模様です。メイから戻った技師の報告を受け、難色を示す上申があったそうです。また何か新たな動きがあれば、お伝えします」
●最後に
こうして授業は終わった。残された時間を利用して、重要人物との面会に出向く冒険者達もいる。ベアルファレスはエの国のショーン王子に、キースはリグの国の鎧騎士モニカ=クレーシェルに、そして信者福袋は経済活動に関心のありそうなウィルの王族に、それぞれ会いに行く。
その結果については、またの報告書で触れることになろう。