ペット騒動始末記〜貧民街の怪しい影

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月23日

リプレイ公開日:2006年09月27日

●オープニング

「カイン総監、おっじゃましま〜す!」
 と、窓から入ってきたのは‥‥いや〜、とってもチャーミングな笑顔。空中でヒラヒラとダンスを踊るような仕草がまた愛らしくて。
 はい。シフールの女の子です。ちなみにジ・アースからやって来た天界人ではなくて、アトランティスの地元民です。
「よく来てくれましたね、リル」
「だって、カイン総監の頼みだも〜ん!」
 答えるリルの目をパチパチさせる仕草がまた可愛くて。
 で、シフールのリルがここにやって来たのは、カイン総監から自分の為に働いてくれないかと誘われて。つまりは連絡係とか、冒険者酒場での監督官とか‥‥まあ色々。
「でも連絡係はともかくとしてさ〜、酒場の監督官がわたしに勤まるかな〜?」
「大丈夫。酒場のなごやかな雰囲気をぶち壊さないためにも、リルくらいがちょうどいいのです」
「あ、それもそうか。ごっついジャイアントがラージクレイモアなんか担いで酒場の監督官やってたら、みんな引いちゃうもんね〜!」
「それでは早速ですが、酒場で情報を仕入れてきてくれますか? 近いうちに賢人会議で奏上された献策を実現するための依頼を色々と出す予定なので、冒険者達の都合を知りたいのです」
「ケンジンカイギでソージョーされたケンサク‥‥って、難しい言葉はよく分かんないけど、でもお仕事頑張ってきまーす!」
 リルは冒険者酒場に向かい、しばらくすると戻って来た。
「カイン総監〜っ! 聞いてきました〜っ! キュウゴイン担当の冒険者のお姉さま、22日まで都合がつかないそうでーす。あと、庶民の学校担当のお婆様、『0からじゃと非常にありがたいので』って言ってました」
「0からじゃと‥‥って、意味が分かりませんね。ちゃんと聞いてきたのですか?」
「ん〜、確かにそう言ってたと思うんだけど‥‥」
「まあ、良いでしょう。お二人の都合がはっきりするまで、そちらの依頼は先延ばしにします。先に片づけねばならない事もありますし。さて、一休みしたら近場で聞き込みをしてくれますか? ペット騒動で問題になった事柄のうち、まだ未解決の『怪しい影』と『消えた子ども達』について」
「うん! 任せといて!」
 羽根のあるシフールだけに行動範囲は広いもので、翌日にはもう情報がカンイの元に届けられた。
「怪しい影がよく現れるのは、王都の城壁の中にある貧民街の中の、今にも倒れそうな廃屋がいくつも並んでいる辺りね。‥‥あ、そういえばこんな話を聞いたわ。貧民街のある家で、みんなが寝静まってる真夜中、ガサゴソと妙な物音がするんで目を覚ますと、目の前に世にも恐ろしい怪物がいたんだって。家の人は慌てて逃げ出したけど、後で家に戻ってみると、食べ物やら食器や毛布やらお財布やら、そこら辺に置いてあったものがみんな無くなってたそうよ。これって、はぐれ魔獣かカオスの魔物の仕業かな?」
「しかし食べ物はともかく、食器や毛布や財布まで奪って行く魔獣や魔物とは、あまり聞いたことがありませんね」
「で、消えた子ども達だけど、王都の南にある船着き場の町ガンゾで、小さな男の子や女の子が何人も行方不明になってるの。これもやっぱり、はぐれ魔獣かカオスの魔物の仕業かな? それとも人さらい? まさか、大きくなりすぎて冒険者が捨てた野良ペットに食べられちゃったってことは‥‥ん〜、もしかしたらあるかもしれないけど‥‥」
「ともあれ先のペット騒動の折りに、守備隊長や街の住民達と交わした約束です。依頼を出して調査を行いましょう」

 早速に、カインは次の依頼を出した。

【1】貧民街に出没するという怪しい影や怪物の正体を突き止め、人々の不安を取り除く。
【2】王都の南にある船着き場の町ガンゾで、子ども達が行方不明になった原因を突き止め、人々の不安を取り除く。

 はてさて、これら2つの事件の背後にあるものは、はぐれ魔獣か、野良ペットか、カオスの魔物か、それとも‥‥!?

●今回の参加者

 ea0266 リューグ・ランサー(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea6202 武藤 蒼威(36歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 eb3771 孫 美星(24歳・♀・僧侶・シフール・華仙教大国)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb6302 アル・アジフ(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●いざ貧民街へ
 孫美星(eb3771)はやたら張り切っている。だって熱い正義のしふしふ団の一員だもの。右腕の腕章は勇気の証だし。
「魔法武器しか効かない敵にはバーニングソード、攻撃にライトニングサンダーボルト‥‥」
 ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)のバックパックに魔法のスクロールをしこたま詰め込み、最後にパラのマントを抱えた自分がその中に収まった。
「これで準備完了アルね」
「しかし前々から謎だが、何で冒険者が魔獣や野獣を捨てるのか?」
 と、時雨蒼威(eb4097)が独り言つ。
「だって野生化前なら売れるし。しかも大きくなる程に高値で買い取ってくれるみたいだし、冒険者同士の物々交換でも魔剣の一本は手に入ろうというもの。‥‥ん? あれか。依頼から帰ってこれなかった連中のが野生化したか? ‥‥まあどうでもいいが」
「どうでもよくなーい!」
 と、端で聞いていたシフールのリルからツッコミ。
「でも、サカイ商会に魔獣や野獣を持っていけば、高値で売れるって本当なの!? だったらあちこちの辺境で魔獣に野獣を捕まえて売り払えば大もうけ!」
 ツン、と時雨の指がリルの頭を小突いた。
「高値買い取りは、あくまでもペット限定だ」
「あっそ。でも、高値で買い取った魔獣や野獣、どこに持って行くんだろ?」
 世界の謎だ。
「しかし、魔獣使って窃盗やる割に貧民街とはしょぼ‥‥底が知れるなこの事件。まあ、冒険者街に近い下町で魔獣騒ぎ起こして、冒険者の評判落とすのが目的ならまた別だが」
「まぁ、調査をしてみないことには、本当に魔獣を使っての犯行かどうかもわからんからな」
 と、リューグ・ランサー(ea0266)が注意する。
「ただし、昨今のここら辺のペット事情に便乗した見事な戦法と‥‥とりあえず言っておいてやる。だが、やり方が気に入らんな? 物盗りぐらいなら別にどうのこうの言わんが、他人を脅して、それも動物を使ってと言うのがなんとも気に入らん」
 そんな話をしながら、冒険者達は貧民街に繰り出した。
 途中、武藤蒼威(ea6202)は時雨と共に護民官エデンの元を訪ねて街の情報を仕入れ、さらに2人で両替屋に立ち寄り、持ち金を銀貨や銅貨に両替した。金貨1枚につき銀貨10枚、銅貨なら100枚。金袋がずしりと重い。これは聞き込みに際して手渡す情報料だ。
「事件のことを教えてくれ。情報料は払うおう」
 道端で武藤が聞き込みを始めるや、話が広まって人々が集まり始めた。
 2匹のペット、猫の天凪と犬の雪鮫を連れてきた時雨は、もっぱら子供達の担当で。
「街で情報集めてきてくれたら、さらに銅貨と食料、色付けてもいい。有益なネタ見つけた奴には銀貨も。ついでに飯も奢るぞ。何なら家臣にでもなるか? 勤務先、かなり遠いがな」
 程なく、噂は貧民街中に広まった。
「トルクの男爵様に怪物の話を持っていけば、金になるぞ!」
 これだけ派手に動けば、噂にならない方がおかしい。

●怪しい空き家
「ギルド総監からの依頼で参りました」
「怪しい物音を聞いたり、影を見た者はいないか?」
 ゾーラクとリューグとで住民達に聞き込みをしていると、子ども達が恐る恐る近くの空き家を指さす。
「あそこで、ヘンな音がするよ」
 空き家に近づき、聞き耳を立てる。
 ぐぁぁぁ〜、ぐぉぉぉ〜。
 確かに音が聞こえた。まるで猛獣のうなり声のような。
「もしや‥‥!?」
「魔獣を隠すのに空き家ならもってこいですね」
 2人して空き家の窓の隙間から中を覗き込む。‥‥そして彼らは、その目に映ったものの姿に言葉を失った。
 空き家の中ではみすぼらしい恰好の宿無し男が大の字に寝っ転がり、大いびきをかいていたのだ。

●貧民街の肉屋
「安いよ! 安いよ! 上等の豚肉がこんなに安いよ!」
 貧民街の肉屋。威勢良く声を張り上げていた店の主人の目が、さっきから店先をうろついているジャイアントの男に止まる。
(「なんだよあの野郎、ずっと店先に陣取りやがって」)
 すると店の売り子が、びくつきながらひそひそ声で主人に耳打ち。それを聞いて肉屋の主人は顔色を変えた。
「冒険者が調べに来ただってぇ!? やべぇ、ずらかれ!」
 主人と売り子は脱兎のごとく逃げ出す。しかし、ずっと店の様子を探っていたジャイアント、リオリート・オルロフ(ea9517)がそれを見逃す訳はない。
(「魔獣を飼うには大量の肉が必要だと踏んでいたが、やはり!」)
 狭い路地を逃げて行く2人を全速力で追う。売り子が蹴躓いた隙を捉え、飛びかかってぶちのめし。さらに主人にもタックル喰らわせてぶちのめし。
「ひええ! お許しを!」
 詫びる2人を両腕に抱え、怒鳴りつけるリオリート。
「さあ! 犯した罪を白状しろ!」
「は、白状いたしやす! 豚の肉と偽って、野良犬の肉を売りさばいておりやしたです!」
「はぁ‥‥?」
 リオリート、思わず脱力。

●現場にて
「で、ここが3日前に被害に遭ったという家ですか」
 聞き込みの末にゾーラク達が辿り着いたのは、とあるあばら屋。
「真にむさ苦しい家ではございますが‥‥」
 家の者達は恐縮しつつ冒険者達を中に迎え入れたが、いやむさ苦しい。本当にむさ苦しい。
「食器や毛布などが盗られている時点で、犯人は動物よりも人間の可能性が高い気がしますね」
 そうディアッカ・ディアボロス(ea5597)は判断した。
 これまでの調査によれば、怪物が姿を現しながらも、怪物に襲われて怪我をした者はゼロ。ただし、逃げる途中で転んだり頭をぶつけたりして怪我した者は除く。
「怪物による直接の怪我人が出ていないなら、もしかすると、ことの是非はともかく、物騒な犯人ではない、可能性もないことはない、かもしれません」
「はぁ〜? 結局、どっちアルか?」
 あまりにも言葉遣いがややこしいもんだから、美星が訊ねた。
「ともあれ、パーストの魔法で確認します」
 念のために解説しよう。パーストの魔法は過去見の魔法で、魔法を使ったその場の過去を、まるでそこに居るかのように見ることができる。
 ディアッカも美星も共にシフールだから、あばら屋の狭苦しさもさほど気にならず。ぱたぱた飛び回って空中の適当な場所に身を置くと、いざパーストの魔法を発動!
「うわっ‥‥!?」
 見えた〜! 恐怖のあまり目を見開き、大口を開けた男の顔が、どアップの大迫力でディアッカの目の前に!
「何が見えたアルか!? 怪物アルか!?」
「違う、これは‥‥」
 なんだ。よくよく見れば怪物の出現に恐怖して逃げて行く、家の者の姿ではないか。
「すると、怪物がいるのはこの辺りか?」
 適当に目星をつけ、再び魔法を発動。今度は暗がりで動く得体の知れぬ物が見えた。が、光に乏しい夜中の家の中での出来事を過去見するのだから、なかなか正体を見極められない。
「思ったより使い勝手が悪いです」
 何回か魔法を繰り返すうちにその使用回数の限界に近づき、最後の1回はあばら屋の窓辺で発動させる。すると‥‥見えた!
「‥‥こんな魔獣、見たこともない!」
 窓辺より射し込む月精霊の光が、その不気味な姿を闇の中にくっきりと映し出していた。それは全身に無数の角を生やした、狼のような生き物。
「新種の魔獣アルか!? それとも魔法で作られた幻像アルか?」
「幻像が果たして、パーストの過去見で見えるのでしょうか?」
 美星が疑う可能性も、ディアッカには疑わしく思える。。
「では、私も」
 ゾーラクもパーストの魔法を発動させるが、未熟なせいで何度も失敗し、ようやく成功したのは1回きり。
「おや?」
 見えたのは、あばら屋に背中を向けて遠ざかって行く娘の姿だった。
「今のは‥‥誰でしょう?」
 確かめてみたが、娘は家の者の誰でもない。

●匂いの追跡
「役に立つかどうかは分からないけど‥‥」
 連れてきたペット、幼いハスキーのベルーカを使い、ゾーラクは魔獣の匂いの追跡を試みる。魔獣のいた辺りにベルーカを置いて、命じた。
「さあ、匂いを辿って」
「???」
 子犬はきょとんとした目でベルーカを見つめている。
「匂いを辿るのです」
 何度か言い聞かせると、子犬はようやく床の匂いをくんくん嗅ぎ始め、次いで元気良く外へ走って行き、飛び込んだ先は前に調べた空き家。今は誰もいない。寝っ転がっていた宿無し男も何処かへ行ってしまった。
「ここに手がかりがあるのか?」
「あ! またベルーカが!」
 子犬はまたも外に走り出す。次に飛び込んだのは貧民街の飲み屋。怪しげな食い物の匂いを漂わせた店は、また随分と賑わっていた。ベルーカは立ち食いしている少年の足下にじゃれついている。
「ん? おまえも食うか?」
 少年が投げて寄越した食べ残しの骨に、子犬はがじがじとかじりつき、ふとゾーラクを見上げる。
「食べ物の匂いにつられたのかしら?」
 店の中を見回し、ゾーラクは武藤と時雨の姿に気付いた。2人の周りには大人や子どもが群がり、目の前のテーブルにごてごてと並ぶ料理に盛んに手を伸ばしている。
「ずいぶん派手な事になってるわね?」
「あ〜。金をやる、飯をおごるといったら、この有様だ」
 うんざり顔で答える時雨。すると、子ども達の一団が店の中に駆け込み、時雨に告げる。
「だんしゃく殿! またまた怪物の噂だよ! 教えるからお金ちょーだい!」

●成果なし
「目撃されたのは真っ黒な大蛇、火を吐くトカゲ、頭3つの黒犬、大きな怪鳥‥‥って、いつから貧民街はこんな怪物の巣になったのだ?」
 怪物の目撃情報を読み上げたシュバルツ・バルト(eb4155)は呆れ、武藤に訊ねる。
「捜査方針、本当にアレでよかったのか?」
「う〜む、大部分は情報料目当てのガセ情報だとは思うが‥‥」
 話の全てが本当なら、貧民街はもっと大騒ぎになっているはずだ。情報が多く集まった分、武藤と時雨の金袋もすっからかん。
「流石は貧民街、あっという間にもっていかれたか」
 で、ディアッカは怪物の目撃場所を記した地図を見て、途方に暮れている。
「う〜、これでは‥‥」
 あまりにも目撃場所が多すぎて、これでは何が何だか。
 で、夕方より冒険者達は街でのパトロールを始めた。しかし怪物は一向に姿を現さず、そのまま朝を迎えた。
 で、次の日も夕方からパトロール。
「いや〜、冒険者様達がしっかり見回りしてくれるもんで、怪物も恐れをなして逃げちまったんでしょうかねぇ〜?」
 飲み屋にて皆で夕食を食べていると、店の主人にそんな事を言われた。冒険者達の聞き込みで店の売り上げも増え、主人はほくほく顔。
「今度怪物が出た時にも、またうちの店を使ってくださいよ」
 そんな主人の声に送られてパトロールを始めたが、その夜も怪物は現れなかった。

●怪物の最期!?
 依頼3日目の朝が来た。
「大変だ! 怪物が出たよ! 角だらけのでっかい狼だよ!」
 朝っぱらから子ども達が届けてきた知らせに、冒険者達は色めく。
「怪物はどこだ!?」
「川の方へふらふらと歩いていって、そのまま川に落っこちちゃった!」
「川に落ちた!?」
 急ぎ、冒険者達は川辺へ向かった。冒険者街の真横を流れるあの川だ。
「どこだ!? どこだ!?」
 川面に目をやるが、それらしき姿は見当たらない。
「もう流されちゃったかな? 見たのがかなり前だったから」
 と、子ども達は言う。
「すると、推定時刻は‥‥」
 時間の見当をつけ、ディアッカはパーストの魔法で過去見。しかし何度やっても怪物の姿は見えない。
「もしや‥‥?」
「あり得るな」
 ふと、とある可能性に思い当たった武藤と時雨は、子ども達に交渉を持ちかける。
「本当の事を話してくれたら、褒美に金貨をやるぞ」
「金貨!? 本当に金貨をくれるの!?」
 子ども達はときめいた。貧民街の住民にとって、金貨は滅多にお目にかかれない宝物。
「1人につき1枚な」
「うん、分かった。本当のこと話すよ。近所に住んでるベラ姉ちゃんに頼まれたんだ。怪物が川に落ちていなくなったって、冒険者達に話すようにさ」

●事件の真相
 その夜。貧民街の飲み屋の主人が怪しい物音に目を覚ますと──目の前にあの全身角だらけの狼がいた!
「ぐるるるるる!! がるるるる!!」
「ひえぇ!! た、助けてくれぇ〜!!」
 主人は大慌てで家を飛び出し、家の中ではがさごそという物音が続く。暫くして、家の中からあの怪物がのっそりと出てきた。
 と、怪物の歩みが止まる。目の前に馬に乗ったリューグが、ランスを構えて立ちはだかっていた。
 怪物がよろよろと向きを変える。しかし後ろは美星に押さえられていた。
「大人しく観念するアル! じゃないと、正義の鉄槌をおみまいするアルよ!」
 間髪を置かずに放たれたリューグがオーラショットが怪物に命中。
「うわあっ!」
 怪物は子どもみたいな悲鳴を上げ、そこへ武藤が横合いから斬り込み、怪物の胴を太刀で一刀両断。すると切り離された胴体が、別々の方向に逃げて行くではないか。
 しかし怪物の前半分はリオリートに押さえ込まれ、逃げて行く後半分の行く手をシュバルツが塞ぐ。
「この一撃に全てを賭ける! シュワルツハーケン!!」
 剣を振り上げて叫ぶや、
「うわあ! 殺さないでぇ!!」
 怪物の皮の中から少年が飛び出した。いつぞや飲み屋にいた少年。その姿にシュバルツも剣を収める。
「ふ‥‥やはりな」
 と、物陰から恐ろしいうなり声が轟く。
「ぐるるるるる!! がるるるる!!」
 その物音めがけて、美星スクロール魔法のライトニングサンダーボルトを放つ。
「うぎゃあああああーっ!!」
 稲妻に打たれて飛び出してきたのは、空き家にいた宿無しの男だった。
「さては、鳴き真似で脅していたアルね!」
 怪物の毛皮を被っていた少年2人と宿無し男が捕らえられると、時雨は男を殴り倒し、少年2人に平手打ち。そして家の陰に隠れ、様子を伺っていた娘にも声をかける。
「そこの君も観念しなさい」
 娘は逃げようとしたが動けない。ディアッカのシャドウバインディングの魔法で、月精霊の光が地面に浮かび上がらせたその影に、娘は捕らえられていた。
「君がベラだね? 子ども達から君の話を聞き、ずっと尾行していた。怪物が川に落ちた話は、俺達を去らせるための作り話だな? もう二度とこんな事をしてはいけない」
 優しく微笑みながら言い聞かせると、横合いから美星が訊ねる。
「どうして女には優しいアルか?」
「女性には愛だ」
 パシィ〜〜ン!
 いきなりベラは時雨に平手打ち。派手な音が闇夜に響いた。

 で、捕り物が一段落した頃。
「みんな、ここにいたか!」
 やって来たのはまだ初心者の冒険者、アル・アジフ。
「来るのが遅れてすまない! 怪物はどこだ!?」
 仲間の一人がぼそりと言う。
「一足、来るのが遅かったな」

 後の調べで、怪物の毛皮は近くの村で退治された狼の毛皮をくすね、それにゴミ捨て場でかき集めた動物のあばら骨をくっつけた紛い物だと判明。泥棒一味は全員が公開鞭打ち、次いで晒し者の刑に処せられた。