民の幸せ〜救護院創始_準備編

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:11人

冒険期間:09月24日〜09月27日

リプレイ公開日:2006年10月02日

●オープニング

●建白〜救護院の創始
「国王陛下、奏上申し上げますわ」
 賢人会議の席上。凛と響いた神聖騎士の声が奏上を為す。王に訴えるその言葉は、さながら詩を吟ずるが如く。

 両親を亡くし、或いは捨てられた哀れな子供達。
 その多くの末路は、悪に穢されるか、骸を晒すのみ。
 そして、老いさらばえ身寄りも無き者達。
 その多くの末路は、独り哀しく朽ちて逝くのみ。

 子供は、後の時代を担う存在。
 老人は、先の時代を創った存在。

 子供達には可能性が、老人達には培われて来た経験・知識が在る。
 この両者を蔑ろにする事は、未来の希望を断つ事に他ならず。

 老人達は培われて来たものを後世に、子供達に伝えながら安らかな余生を過す。
 護られ得難きものを得た子供達は、国の発展と安寧を齎す人材の原石に育つ。

 人は永劫には生きられぬ者‥‥だからこそ、後世の希望を育てる事に意義がある。
 最初はどれだけ小さな施設でも良い。
 それで救える命が在る。
 小さい事の積み重ねが、山の如く聳える為の礎となる。
 事が成せば、国王陛下も賢王として更に名を馳せる‥‥。

「国王陛下。この100ゴールドを献上致します。国王陛下の御名を、永劫に残す為に‥‥彷徨いし子羊達に、救いの御手を」
「褒美は、何を望む?」
「富でも地位でも無く、護る為の力を。未来在る者達を、救い求める者達を‥‥地獄から救える力を。だだその力だけを望みます。それが‥‥私の生きる道で御座いますわ」
 王は神聖騎士を招き寄せ、その献上金を受け取った。
「この献上金は、全てその方に託そう」
 献上金は王の手から、そのまま神聖騎士に返される。
「その方にはこの王都にて、救護院を創始し子どもと老人を救済する権限を与えようぞ。まずはこれを元手とし、その方が為すべき事を為せ」

●最初の一歩
「民のために諮ることが民を苦しめる結果になったとしたら、それは勝手気ままな贅沢のために民を虐げるのと結局は同じです。ともあれ、陛下の前で斯くの如く奏上を為した以上は、最後まで責任を持ってやり遂げてもらいましょう。たとえその結果がどうであれ」
 賢人会議の後、数々の建白を為した冒険者達に、そのように苦言を呈したカイン・グレイスではある。しかし、彼らの献策を実現すべく王と確約書を交わし、冒険者ギルド総監に就任した今となっては、救護院の創始にも責任を持って取り組まねばならない。
「さて、最初に手をつけるべきは‥‥」
 さしあたって行うべき事を、カインは次の3つに絞り込んだ。

【1】王都とその近隣領における貧民の実態調査、特に子どもと老人を中心に。
【2】救護院を建設する候補地の選定。
【3】具体的な救済計画の立案。

 この建白に関係する冒険者達を呼び集めると、カインは奏上の中にある一節を口にする。

 老人達は培われて来たものを後世に、子供達に伝えながら安らかな余生を過す。
 護られ得難きものを得た子供達は、国の発展と安寧を齎す人材の原石に育つ。

 そして、冒険者達に告げた。
「諸君の使命は、この言葉を現実のものとすることです。それには5年先、10年先、さらには50年先、100年先を見越した上で、今後半年から1年の間にやるべき事をしっかり決めなければなりません。今回の依頼はその準備のためのものです。
 求められるのは、貧者にパンを投げ与えることではなく、貧困の中に埋もれた人材を掘り起こし、王国を支える臣民に育て上げることです。心して下さい」

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4086 吾妻 虎徹(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4710 クラリス・ロイス(60歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

チカ・ニシムラ(ea1128)/ 倉城 響(ea1466)/ ディーネ・ノート(ea1542)/ アレクシアス・フェザント(ea1565)/ 龍 麗蘭(ea4441)/ バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)/ ディアッカ・ディアボロス(ea5597)/ フォーレ・ネーヴ(eb2093)/ リーザ・ブランディス(eb4039)/ キース・ファラン(eb4324)/ メレディス・イスファハーン(eb4863

●リプレイ本文

●最初の一歩
「救護院、この後何があるか分かりませんが‥‥成功させるために、その道を作って行きたいです。私自身、救護院がこれからできるということに実感を持てませんが‥‥間違った道じゃないと思います。私はこれからも活動を手伝っていくつもりです‥‥クレア」
 ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)のその言葉に、王都救護院の提唱者クレア・クリストファ(ea0941)は感じ入った。
「ありがとう、ニルナ」
 さらに、クレアは集ってくれた仲間達にも頭を下げて礼を述べる。
「ありがとう、みんなも」
 頭を上げると、そこにヴェガ・キュアノス(ea7463)の笑顔があった。
「これが彼らの救いとなるならば、協力は惜しまぬ。まずは一歩目が大事じゃの」
「はい」
 支えてくれる仲間達、その存在がとても心強い。
「‥‥さぁ、始めましょうか」
「んじゃ、あたいは治安悪い所中心に調査に行くよ。帰ったらご褒美よろしくなー」
 早速にフィラ・ボロゴース(ea9535)は王都に近い、治安の悪さを誰もが噂する土地を目指す。
 王都とその近隣の調査に向かう仲間達を見送り、クレアはふと口ずさむ。
「全ては遥か未来の為に、弱き者達の為に‥‥最後までやり遂げてみせよう。それが私の生きる道、生きた証」
 そしてクレアはその騎乗する軍馬を貧民街に向かわせる。候補地は数あれど、まずは手近な所から下見を始めるのだ。

●王都の貧民街
 ここは王都の城壁内にある貧民街。目立たぬ私服姿でやって来たニルナは、馬から下りると道端で暇そうにしている者達に声をかけた。
「ちょっと時間頂けますか? 私の名前はニルナ・ヒュッケバインといいます。できればあなた方の年齢と今の暮らしを教えて欲しいのだけど‥‥いいでしょうか?」
「あん?」
 訊ねられた者達はニルナの顔をまじまじと見つめて、
「あんた、美人だな」
「この辺りじゃ見かけない顔だねぇ」
「どうして、あたし達の事を知りたがるのさ?」
 どう答えればいいのか一瞬戸惑ったが、ニルナはこう答えることにした。
「実は遠くから来たばかりで、暫くこの辺りに滞在しようと思うのですけれど‥‥」
 その答を聞き、貧民街の住民達は納得した様子を見せた。
「ああ、そうかい。で、あんた仕事にはありついているのかい?」
「ええ、一応」
「そりゃよかった。この辺りは不景気でねぇ。住んでるのは俺達みたいに貧しい奴らばっかりさ。それでも半年前と比べたら、生活も少しずつマシになっては来ているけどな。日雇いの仕事にありつけない時には、こうしてぶらぶら暇つぶししているしかねぇのさ」
「あなたのご家族は?」
「爺さんに女房にガキが4人。みんな働きに出てるよ。実は去年まではもう1人、5歳になる娘がいたんだが、去年の冬に風邪をこじらして死んじまってな」
 答える男の目に悲しげな色が浮かぶ。
「ありがとう」
 ニルナは男に礼を言うと、別の住民にも質問を話を向けていった。

●貧民街の子ども達
 同じく貧民街の調査に向かったフォーリィ・クライト(eb0754)だが、彼女は調査方法で悩んでいた。
(「だって、あたしがそこら辺の人にいきなりあれこれ聞いても、すんなり教えてくれるとも思えないし。妬んだり卑屈なってる人ばかりとは思わないけど、あたしはよそ者だしねぇ‥‥あたしも昔は同じようなもんだったが」)
 心中で呟きながら通りを歩いていると、道端で遊ぶ子ども達の姿が目に止まった。
「んー‥‥やっぱり物を聞くなら、ここに住んでる子ども達に訊いてみようか。素直そうだし」
 早速、子ども達に声をかける。
「ねぇ、君たち。タダじゃなくて報酬ちゃんと払うから、お仕事手伝ってくれないかな?」
「本当にお金くれるの? なら、手伝うよ」
 子ども達はすぐに求めに応じた。
「で、どんな仕事なのさ?」
「この辺りの事を調べて欲しいの。住んでる人の数とか、その人の年齢や種族とか、1日をどんな風に過ごしているかとか‥‥」
「どうしてそんな事、調べるんだよ?」
「それは‥‥仕事上教えられないけど‥‥」
 言葉を濁すフォーリィ。
「でも、悪い事に使うんじゃないから。お願い、この通り!」
「‥‥ま、いいか。お金貰えるんだし」
 渡した金は子ども全員の分をまとめて銀貨1枚分。早速、貧民街のあちこちを回り始めたその姿を見て、ふとフォーリィはかつての依頼で出合ったあの子の事を思い出す。
「そういやベアリーは元気にしてるかなぁ? ‥‥ま、お義姉さんと仲良くやってるよね、うん」

●森の中の貧民達
 王都の城壁外。王都に流れ込む川の畔にも、貧民達のたまり場は存在した。
 川に沿って馬を進めるヴェガの目に、森の木の陰に見え隠れするあばら屋の数々が目に止まる。それらのあばら屋は人目をはばかるよう、木々の生い茂る目立たぬ場所を選んで立てられていた。
「そこにいるのは誰だい?」
 あばら屋から呼び止める声。貧しそうな身なりを装い、冒険者である事を隠したヴェガは答える。
「私は薬草師でございます。薬草を探しながら旅を続けて参りました。連れを少し休ませたいのですが‥‥」
 ヴェガはクラリス・ロイス(eb4710)を連れていた。
「休みたきゃ勝手に休みな」
 ぞんざいな口調で、あばら屋の主は答えた。
「それでは、お邪魔致します」
 立ち並ぶあばら屋の近くにヴェガとロイスは腰を下ろす。さり気なく辺りを伺い、あばら屋や木々の影から自分達に向けられる視線に気付く。男に女に老人に子ども。遠目からでは判らなかったが、森の中には少なからぬ数の貧民が暮らしている。
「何をじろじろ見てやがる?」
 気がつけば陰険な顔をした男達が、2人を囲んでいる。
「所場代が入り用でしたらお払いします」
 男の一人一人に小銭を差し出すロイス。男達はひったくるように小銭を受け取ると、無言で立ち去った。
「宜しければ話でも致しませんか?」
 ロイスが声をかけても住人達はなかなか近づこうとせず、かなり時間が経ってから、やっと一人の女が近づいてきた。
「よくこんな所へ平気で来れるね」
「森での生活が長く、森には馴れています」
 と、ヴェガは誤魔化す。
「ここでは毎日、何をして暮らしています?」
「川で魚を捕ったり、王都で仕事を探したり‥‥」
 女が答えかけるや、あばら屋から怒鳴り声。
「余所者に余計なことをべらべら喋るんじゃねぇ!」
 女は怒鳴り返した。
「なにさ! あたしらだって、元はと言えば余所者じゃないか!」
 そして女は声をひそめ、話の続きをする。
「あの人も、すっかり性格が変わっちまった。お代官に年貢を搾り取られて、食うに食えなくなって一家で村を飛び出したのはいいけど、ずっとこんな生活だよ」
 近くを流れる川は王都に属する川だから、勝手に魚を獲ったことが判れば処罰される。王都の仕事にしても、おいそれとは口に出来ない汚れた仕事だ。それでも生きるためには仕方ないと、女は話す。
「さて、そろそろ行きましょうか」
 別れを告げ、ロイスは自分の座っていた場所に、こっそり1枚の金貨を残した。困った時にはこの金貨を役に立てるようにと。
「彼らも、大変なのじゃろうな‥‥。あんなことをせずとも良いようにしなければのぅ」
 そしてヴェガとロイスは貧民達の住処を後にしたが、何やら背後で騒ぐ声がしたので振り向くと、ロイスが置いていった金貨を貧民達が奪い合っている。ロイスは悲しげにため息をついた。

●貧民の村
 クレアは仲間達と候補地の下見を続けていた。王都の城壁内にある貧民街から始まり、城壁の外に広がる土地にも目を向け、さらには王都の近隣にある男爵領にも足を運ぶ。
「この国の状況か‥‥大きな戦争がないとはいっても貧富の格差が強い。‥‥こうしてみると今の日本とあまり変わらないかもしれないな」
 そんな言葉を口に上せつつ、吾妻虎徹(eb4086)は自分の故郷である日本に思いを馳せる。自分がこの世界に来てから日本はどうなっただろう? 不況は治まっただろうか? 近隣諸国で戦争は起きていないだろうか?
「そしてこの世界に目を向ければ、医者は少なくて、教会は高額。貧乏人にはつらい世界か」
 言って、この世界の民の事を思う。民の幸せを守るために──それは自衛隊の基本理念に等しいと虎徹は思う。ゆえに自衛官の虎徹は、この依頼への参加を決めのだ。
 一行は馬に乗って進み、王都ウィルの南にある男爵領に入った。そこはベージェル・ワザン男爵が統治する地。船着き場の町ガンゾもこの領内にある。
 ヴェガが仲間から仕入れた情報によれば、ワザン男爵領は最近、とみに流民の流入が増え、領内に増加する貧民に悩まされているという。
「止まれ。この領内に何用だ?」
 男爵領の入口で、関所を守る衛兵に誰何された。
「危険動物の見回りを‥‥」
 言いかけた虎徹をソード・エアシールド(eb3838)が制し、目的を告げた。
「ギルドの依頼で近隣の土地の調査をしている」
「よし、通れ」
 ギルドの証明書をソードが示すと、衛兵は一行を通した。ワザン男爵領の領主も冒険者ギルドに加盟しているので、冒険者が領内を通行することも保証されている。
「但し、ここから東にはあまり進むな。南に真っ直ぐ行けば、領主館のある村に出る」
 と、関所通過の際に衛兵より注意を受ける。
「でも、気になりますね。東に何があるのでしょう?」
「一応、確かめてみるか」
 ちょっと寄り道のつもりで、一行は東に進んだ。森道を抜けると開けた場所に出たが、そこに村がぽつんとあった。村の手前には番小屋があり、衛兵達が駐留している。
 虎徹は手持ちの双眼鏡を村に向け、そして言葉を失った。
「うっ‥‥! これは‥‥!」
 村には貧しい身なりの貧民達がひしめいていた。
 仲間達を代表して虎徹が番小屋へと向かい、衛兵に尋ねる。
「王都から来た冒険者ですが、ここは初めての土地なので判らないことだらけです。この村は如何なる村なのでしょうか?」
「おまえ、何も知らないのだな。この村は王都方面から流れてくる貧民どもを留めておくための村だ。かつては別の領地の村だったのだがな、その土地の代官があまりにも過酷に税を搾り取るもので村人が逃散し、最後には代官も領地経営に失敗して雲隠れしてしまった。そういう事情があって、無人になった村はワザン領に組み込まれたのだが、そこへ流れ込んできたのが貧民達だ。
 最初のうちは王都方面へ追い返していたのだが、追い返しても追い返しても戻って来る。仕方がないので今ではこの廃村に住まわせ、最低限の衣食住と仕事を保証しているという訳だ」
「彼らを調べさせて頂けますか? もしも怪我などしている者があれば、手当してやりたいのですが」
「そういう事は領主殿の許可を取ってから行え」
 虎徹は仲間達の所へ戻り、報告する。
「‥‥そうでしたか。そういう訳ありの土地だったのですね」
「流石に、ここを候補地には出来んな」
 もはや長居は無用とばかり、一行は来た道を引き返し始めた。

●ワザン男爵
 ワザン男爵領を南に進むにつれ、眺望のよい土地が続くようになる。
「この辺り、候補地に良さそうではありませんか?」
「そうだな。開放的で日当たりも風通しも申し分ない。土地に余裕があるから、将来の発展も見込める」
 などとクレアとソードとで話をしながら馬を進めて行くと、大きな館のある大きな村が見えた。ワザン男爵の領主館だ。
 ソードはふと笑いを漏らす。
「やはり、いい土地にはさっさと人が住んでしまうものなのだな」
「折角ここまで来たのだから、領主に計画の事を話してみない? もしかしたら手助けしてくれるかもしれないわ」
 早速、皆で領主館に向かい、救護院の計画を話して領主に協力を求めた。
 交渉を受け持ったのはアリア・アル・アールヴ(eb4304)。こういう時に備えて、訴えるべき要点はあらかじめ草稿に書き下ろした上で、頭に入れていた。
「貧しい者に無条件でパンを投げ与えるわけではありません。この救護院においては、老人は子等に経験を教授し、子等を村や町や国を支える人材へと育てていくのです。
 農村と違い、確固たる税収の源とはなり難いでしょうが、経営の出費についてはある程度までなら、集団生活での相互補助で抑えられるでしょう」
 領主はその話にじっと聞き入り、最後にこう評価した。
「君の話にはあちこちに論理の飛躍があり、解りづらい点も多いが‥‥君たちが計画している救護院の使命についてはおおよそ理解できた。君たちの計画に私は大いに関心をそそられた。その計画を支援するに、私は吝かではない」
 色好い返事が得られた、と思いきや。まだ続きがあった。

●掃き溜めの町
「クレアがやりたいと望むなら、それを手伝うのが従者の役目ってね」
 と自負するフィラだが、足を運んだその町は見るからに治安が悪そう。胡散臭い店が建ち並ぶ陰気な街角には、昼間から酔っ払いが座り込み、厚化粧の女達や怪しげな物売りがが客を引く。その客もみんな、一癖も二癖もありそうな奴らばかり。
 ここは大河の畔にあるベクトの町。ガンゾの隣町だが、町は別の領主に属している。
 しかしこんな町でも、お年寄りや子どもの姿はあるものだ。
「なぁ、あんた‥‥年幾つだい? パっと見、分からなくて気になったもんでさ。気に障ったらごめんな」
 通りかかった子どもに尋ねると、子どもは警戒の色を帯びた目でフィラを見つめ、にこりともせずに右手を差し出した。
「金くれたら教えてやらぁ」
 可愛くない。まるで可愛くない。
(「先が思いやられるなぁ‥‥」)
 思いながら財布を取り出すと、横から伸びた小さな手にさっと掠めとられた。
「あ! 泥棒、待て!」
 逃げる泥棒少年を追いかけつつ愚痴る。
「先が思いやられるなぁ‥‥」

●前途多難
 ワザン男爵領から戻ったクレア達を、富島香織(eb4410)が待っていた。
「手応えはどうでしたか?」
「支援の口約束は得られたけど、ご大層なひも付きで。ともあれ、場合によっては再度の交渉に赴くわ」
「私の方も調査結果がまとまりました」
 と、羊皮紙に纏めた内容を香織は示す。大勢の仲間達が手助けしてくれたので、短期間でも意外なほど多くの情報が集まった。
「あなたの従者の『鉄壁の女傑』さんも、ベクトの町で色々と役立つ情報を仕入れてきてくれて、とっても役立ちました。あと私の意見ですが、救護されねばならぬほどの生活を今まで送ってきた方は、心理的にだいぶ参ってしまっていると思うんですよね。なので、カウンセラーの私としましては、心理的なケアも行えるようにしたいと思っています。
 ところで今回の救護院は、仕事が出来ないほど幼い子どもや年とった老人を助けるとのことなので、住む場所提供に加え、将来的には外部に住む人たちへの炊きだしを行う感じでいかがでしょうか?」
「それについては‥‥もうしばらく考えさせて」
 と、クレアは答え、香織の前より立ち去った。
 ──前途は多難だ。