民の幸せ〜庶民の学校_準備編

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月24日〜09月27日

リプレイ公開日:2006年10月02日

●オープニング

●庶民の学校
「私は王都にて、読み書きのできる者達をもっと増やしたく思う。しかし民の働く邪魔をしたくないし、徴収した税は別の事に使って欲しいので、従来の学校とは別の方法での学校運営を奏上致す」
 賢人会議にて、エルフの老女は王の御前で斯くの如く奏上を為す。
「庶民のための学校か? 詳しく聞かせよ」
「目標は、年齢問わずやる気のある者が、基礎学問を習得できるようにすることじゃ。文字を読み書き出来る者が増えれば、文字による確実な伝達により、流言蜚語による騒動を防ぐこともできよう。騒動の時など、対処法を伝達することで冷静に行動できるようにもなろう。
 方法としては、学習希望者を募り、学習用具を貸し出して自宅で自習をしてもらうことを考えておる。また、商家の休日および農閑期に『教室』を開き、集中講義をすることもな。支出を減らす為、学習所は既存の建物や教会を利用したり、一時借用したりするのが良かろう。教会はこのような利用法もありますよ、ということの周知も兼ねてな。習得しやすいよう、仕事の一部に組み入れるのも手じゃ。
 学習用具など、詳しいことはこの書類に纏めてあるのじゃ」
 渡された書類に王は目を通して問う。
「果たしてその方が申すように、うまくいく見込みはあるのか?」
「一番大きな問題点は学ぶ者の、学ぶ意欲が続くかどうかじゃ。自腹の資金100Gでおさめられたら良いのじゃが‥‥」
「なれば、その方の手近より始めよ。その方には、その方の提案する庶民の学校を主催する権限を授ける」
 ここに、王の認可は下りた。

●最初の一歩
「民のために諮ることが民を苦しめる結果になったとしたら、それは勝手気ままな贅沢のために民を虐げるのと結局は同じです。ともあれ、陛下の前で斯くの如く奏上を為した以上は、最後まで責任を持ってやり遂げてもらいましょう。たとえその結果がどうであれ」
 賢人会議の後、数々の建白を為した冒険者達に、そのように苦言を呈したカイン・グレイスではある。しかし、カインは彼らの献策を実現すべく王と確約書を交わし、今は冒険者ギルド総監に就任した身。庶民の学校についても責任を持って取り組まねばならなかった。
「しかし、大変なのはこれからですね」
 カインの手元には、提案者から王に渡された書類の写しがある。そこにはこの庶民の学校における学習法が、次のように纏められていた。

【1】学習希望者を募り、学習用具と「羊皮紙に書いた課題」を貸し出して自宅で自習をしてもらう。申しこみ時に使い方をレクチャー。なお、自習とはいえいつでも質問は受けつけられるようにする。一定期間の自習を終えたら結果を披露。合格したら次の課題へ進む。
【2】商家の休日および農閑期に『教室』を開いて集中講義。
【3】支出を減らす為、学習所は既存の建物や教会を利用・及び一時借用。教会はこのような利用法もありますよ、ということの周知を兼ねて。
【4】習得しやすいよう、仕事の一部に組み入れるのも手。
【追記】学習用具としては理想としては黒板と白墨。無理なら砂を薄く張った浅い木箱。綴り方は繰り返し学習法が良いので、消しては書けるものとして。

 ちなみに黒板は騎士学院で使われている。見かけは地球に存在する黒板に似ているが、その製作は熟練した職人に任せねばならず、それだけに値段も張る。むしろ庶民の間では、文字の綴り方を練習するのに石盤がよく用いられる。しかし砂箱を使えば、より安上がりな学習用具が出来上がるだろう。
 とはいえ、問題は羊皮紙だ。冒険者ギルドの記録には羊皮紙が使われているとはいっても、それは資金力豊かなトルク王の支援があるからこそ。まあ、冒険者ギルドへの羊皮紙供給専用に羊牧場の1つや2つ、トルク王家で所有していてもおかしくはない。おまけに冒険者ギルドと雖も、依頼書は削って再利用するのが当たり前。当の記録も再生羊皮紙が使われることが多い。しかも、裏表に細かい文字をびっしりと綴っているのが当たり前だ。
 だいたい庶民にとって、1枚の羊皮紙の値段は庶民の1日の稼ぎの数倍にも相当する。教材としては高価すぎるのだ。学習用に与えた羊皮紙が、勝手に売り飛ばされる恐れもある。
 問題といえばもう一つ。
「仕事優先故、質問が来る時間も夜になるじゃろうから、先生は夜対応が基本になるかも」
 と、提案者は言うが、比較的に治安の良い王都内でも夜の出歩きは危険だ。子どもならなおさらである。
「学校の場所についてはどうします?」
 カインに問われて、提案者であるエルフの老女は答える。
「既に、向学心のある人々がいる場所の目星をつけてあるのじゃ。学校はその近くにと考えておる。それから一つ頼みがあるのじゃ。この依頼では学校の運営に専念するため、他の依頼の内容は極力、持ち込まんで欲しいのじゃ」
「分かりました。そのように計らいましょう」
 カインは提案者の希望に沿う形で依頼を出すことにした。

●今回の参加者

 ea0268 メティオ・スター(41歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4072 桜桃 真治(40歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4712 マサトシウス・タルテキオス(52歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4715 小津野 真帆(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

エルマ・リジア(ea9311

●リプレイ本文

●計画の追加・変更
 学校の設立を進めるに当たり、当初の計画に次の追加と変更を加えることになった。

・最初のうちは試用期間ということで、学費は無料。
・将来的には収益の見込める内容を組み入れ、採算が取れるようにする。
・開校時間帯は、防犯上の理由で夜明けから暗くなるまでとする。
・学習時間は奉公の合間など、各々の生徒にとって都合のいい空き時間を使わせる。
・生徒名簿を作成する。
・今後も末永く責任をもって仕事をしてくれる、良心的な先生候補を探す。
・教材は羊皮紙の代わりに木の板を使用。
・セトタ語のアルファベットを習わせ、生徒の名前をきちんと書けるようにすることを、第一の課題とする。

●教材の試作品
「つーわけで、みっともないが出来上がったぜ」
 と、メティオ・スター(ea0268)が皆に見せるそれは、作ったばかりの教材試作品。
「おお、見事じゃ」
 手に取ってじっくりと検分するマルト・ミシェ(ea7511)だが、いやどうしてどうして。急ごしらえだが、色々と工夫が凝らされていて感心する。
 教材は形態し易い大きさの蓋付き木箱。丁度、弁当箱くらいの大きさだ。材料には家具屋から取り寄せた目の細かい木を使い、ざっと磨きをかけて角を取ってある。箱は2重底で、上の底の部分にはセトタ語のアルファベットと数字を描いた木札のセットが収まる。木札の文字の部分は浅く削った上から墨で着色が為され、さらに上の底を取り去ると、文字の練習用にサラサラした砂を敷き詰めた下の底が現れる。
「俺はセトタ語初級だが、はっきりいって当初必要なのはそのレベルだと思うんだわ。アルファベットと数字だけでも覚えてりゃ、物の名称を覚えたり、単純計算もできるしな。それ以上の専門知識や複雑な計算なんざ庶民には必要ねえしな」
「いや、有り難い。感謝致すぞ」
「あ、感謝? 必要ねえなあ。俺は偽善ぶるのが好きなだけだぜ」
 口ではそういうメティオだが、偽善ぶるのも結構人の役に立つものだ。
「こいつがあれば、こんな感じで学習しますという説明もしやすいだろう? あとアルファベットと数字はABCD、EFGDって感じで、ある程度の単位で分割して一部を覚えるさせるのがいいな。教材の数が揃わない時でも、木札セットの一部を先渡しして覚えさせられるし、それに転売しようにも全セットが揃っていないと高く売れねぇから、転売の防止にもなるしな」
「では早速に教材の数を揃え、生徒を集めねば」
「オイオイ。まずは既存の権益を阻害しないよう、方々に相談するとかが先じゃね? でもま、教材をもっと綺麗な仕上げれば高く売れるだろうし、今後はそういう資金稼ぎ用を造ってもいいかもな」
 早速、マルトは試作品を携えて、大工の所へ商談に行った。
「こういうのを安く作れんかのう?」
 ついでに学校のことも説明するが、金にならぬことに大工は興味なさそう。
「読み書き計算? んなもんが出来なくたって、働いて食っていく分には困らねぇと思うが。まあ、このガキのおもちゃみてぇなもんについては、引き受けましょ。見習い大工の小遣い稼ぎにはなるだろうしね。だけど、安く作ればそれだけ仕上がりも雑になりますからね」
 と、念を押す大工であった。

●フルーレの訴え
 学校の設立場所として、マルトが目星をつけたのは平民街。これまでの依頼でマルトが関わってきた虹夢園も平民街に所在し、彼女の見たところ向学心のある子どもも平民街には少なくなさそうだ。
 新しく建物を造るのには予算が心許ないので、家を借りるか空き地を利用することになる。ざっと調べたところ、平民街には使えそうな物件は色々ある。上は大商人が新たな家主を求め、売りに出している邸宅から、下は今にも倒れそうな廃屋まで。また、建っていた家が取り壊され、更地になっている場所もある。
 手始めに、フルーレ・フルフラット(eb1182)は住民への呼びかけを行うことにした。場所は日頃より人の集まる平民街の広場。マサトシウス・タルテキオス(eb4712)も協力してくれるというので、同行してもらう。
「おや、あそこに騎士様が」
「冒険者様みてえだべ」
 正装したフルーレとマサトシウスが広場に現れ、説明会の準備を始めるや、物見高い街人達が一人二人と周りに集まってきた。そしてフルーレは人々に訴える。
「精霊の働きにより、天界人の自分でもこうして皆様と話が通じる‥‥。それはとても素晴らしい事であります。しかし声という物は、心の内に留めてもやがて忘れてしまったり、正しく思い出せなくなってしまう物です。
 文字が無くても生活は出来るのは確かながら、しかし文字を学ぶ事で可能になる事は様々です。
 例えば、注文を文字として形に残す事で間違いを防ぐために。
 例えば、書を読み、先人の残した知識を得るために。
 例えば、恋人へ愛の言葉を手紙に乗せて届けるために。
 そう、様々であり、文字を学ぶ事でまた違った物が見えてくる事もあるでしょう。
 自分達は、『学びたい』という意欲のある方を募集しております。老若男女貧富に関係なく、学びたいという思いは皆平等であり、誰であろうと拒む事はありません。
 学校が開かれるのはまだ少し先になるでしょうけれど、皆様の学びたいという思いには答えたく思います」
 続いてマサトシウスが説明する。
「読み書き計算を覚えることが今すぐには役に立たずとも、将来的にはより大きな利益が得られるでありましょう。例えば、計算が出来るようになれば、家計の収支としてどれだけの金を得たらどのように使って良いか、計画が立てられるようになります。また、しなくていい借金をしなくても済むよう、算段を立てることもできるようになります。
 さらに、文字が読めるようになれば新たな情報を得やすくなり、仕事をするのに有利な方法を知ることも出来るようになります。
 いま少し我慢して子供を教育すれば、やがては家族全員が幸せになります。そのことを理解して頂きたく思います」
 呼びかけが終わると、一人の男が質問する。
「その学校とやらで読み書き計算を覚えたり、子どもを学校に入れることが、新しく課される賦役になりますのかのぉ?」
「いいえ。学校は決して強制ではありません」
 しかし聴衆たる街人達の反応はさっぱり。
「そりゃ、文字が読めれば便利かもしれねぇけどな」
「文字が読めなくても働いて食うには困らねぇし」
「いちいち文字を覚えるのも面倒くせぇし」
「子ども達にはもって働いてお金を稼いで欲しいわ」
「難しい事を考えるのは騎士様達にお任せしますだ」
 庶民の考えは、概してこういうものだ。
 それでもフルーレは訊ねてみた。
「この中で、文字を読めるようになりたい人は?」
 大勢集まった中で、手を挙げたのはたったの6名。いずれも商家に奉公を始めたばかりの子ども達で、商家の旦那のお役に立ちたいから、文字を習いたいとのことだった。

●貴族からの意見
 翌日も街人への呼びかけは続いた。
「庶民の学校については、賢人会議にてエーガン陛下が設立を許可しています。また、学校が出来ても民の仕事の邪魔はしません。生徒はやる気のある者を対象としますが、年齢は不問です。基本的には学習用具と課題を貸し出し、自宅で自習するという形を取ります。初めは一部の地域で行い、徐々に活動範囲を広げていく予定です」
 以上、要点を掻い摘んで説明した後、エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は街人達の反応を見る。やはり先日と同様、熱心に聞き入る者は少ない。
「何を言われても決して怒らないので、率直な意見をお伺いしたいです」
 エデンに促され、何人かが恐る恐る口を開く。
「学校よりも、仕事が欲しいですよ」
「難しい事を覚えるのは、あっしらには関係ないっす」
 相変わらず、答も先日と似たり寄ったり。
 ふとエデンは、物珍しげな視線に気付く。さっきからエデンを見つめているのは礼服姿の男。声をかけて訊ねると、男はたまたま平民街を通りかかった貴族だという。
 折角なので、エデンはその貴族にも学校の話をして、反応を見る。
「成る程。初歩的な読み書き計算を教える学校ですか。しかし押さえるべき点を間違えてはいませんか? 確かに庶民にとっての読み書き計算の必要性も認めますが、そういった事は商売でそれを必要とする者達に任せるべきこと。ならば必要なのは学校よりもむしろ、商人達の後ろ盾となって商業を振興し、商人達がより多くの徒弟を雇い入れ、読み書き計算をきっちり教え込めるよう手助けする事ではありませんか?」
 と、貴族の男は言う。但し、これはあくまでも一つの意見に過ぎない。

●王都の教会にて
 クレリックのイシュカ・エアシールド(eb3839)が話を持ち込んだ先は王都の教会。教会専属のクレリックは同業者を快く迎え入れる。
「話だけでもお伺いしましょう。しかし、あなたはなぜ庶民の学校の手伝いを?」
「神官としては、人を助けるのは当然の事ですから。何かに書いた注文品を間違えたり、文字が読めなくて契約書の内容を知らずに騙されたり‥‥そんな事を防ぐ為にも、庶民の識字率の向上は必要だと思いますので。
 もしも教会にもご協力頂けるのなら、教会の建物を教室として使わせて頂き、また先生の待機所として、教会の片隅を使わせて頂きたいのですが」
「そういった件に関しては、私の一存では決めかねますので、教会の首脳部にお伺いを立ててみましょう」
「それからこの教会の他にも、礼拝所などはありますでしょうか? もしあるようでしたら、そちらの方も使わせて頂きたいのですが」
「貴族によってはその住まいの近くに、自分専用の礼拝所を設けていらっしゃる方もあるようです。その使用に関しては、その所有者である貴族の方にお尋ね下さい」

●王都の市場にて
「学校に縁がなかったぶん、学校作りはついはりきっちゃうな。でもくれぐれも焦らないようにしないと」
 と、張り切る桜桃真治(eb4072)は妊娠7ヶ月。王都の広場で人々に、特に子ども達に
学校のことを呼びかけようと思い立つ。
「何かの役に立つかもしれないし、お菓子も作ってこう♪」
 と、有り合わせの材料を使って、市場で皆に配るお弁当とデザートのお菓子を用意。‥‥でも、妊娠中の体には結構しんどい。砂糖や蜂蜜などの甘味料は高価で手に入りにくいので、味付けはもっぱら塩味で。
「あ、それともう一つ」
 手近にあった板を削って持っていく。
 市場に行くと、いたいた。子ども達がいた。大人達の間に入り交じり、色々なお手伝いをしている。
「お〜い、そこのみんな!」
 真治は呼びかけた。
「字が読めたり書けたりすれば、詐欺にもあいにくくなるぞ。それに市場に品物出す時とかにもただの値札じゃなくて、うたい文句があれば売れ行きもアップするってワケだ♪」
 子ども達の次に、大人達にもアピール。
「子供達にも字を教えておけば、奉公先での時間のロスもなくなるし、買い物に行って貰う時でもメモ渡して書いておけるし迷子にならないように札も作れるし。いいことばかりだろ?」
 そして、お絵かき歌を歌いながら、持ってきた板に墨で絵を描く。地球で言うところの『へのへのもへじ』。
 子ども達が面白がって真似をし出す。あちこちの地面に『へのへのもへじ』。
「へのへのもへじ! へのへのもへじ!」
 子ども達は新しい遊びを覚えてはしゃぎ回り、大人達も注目。
「へえ、こりゃ面白い」
「判ったかな? これが‥‥」
「これが、『へのへのもへじ』だな?」
「‥‥あれ?」
 字を教えるんじゃなかったのか? 学校のことよりも『へのへのもへじ』の方が、よっぽど知れ渡ってしまったようだが。
「字っていうものは、こうやって書くんだね?」
 と、覚えたての『へのへのもへじ』を書いてみせる子ども達の姿に、戸惑ってしまう真治。
「う〜ん、訴えるべき内容とズレてしまったような‥‥」
 そこへ、興味を引かれたらしい商人達がやって来て言う。
「お話は伺いましたよ。天界人のご婦人よ。子ども達に字を教える学校を開くわけですね。宜しければ、私どももお手伝いして差し上げましょう」
 商人達は、ルルン商会の者だと名乗った。真治が初めて耳にする商会の名だ。商人達の話すところによれば、もっぱら王都とその近隣で商いを営んでいるという。
「子ども達の中から賢い者を見いだし、読み書き計算を覚えさせる仕事には馴れております」
 と、その商人達は言うが、人々の為にというよりも、自分達の利益を考えての申し出のようだ。

●不遇の元騎士
「う〜ん‥‥そうだ! GCR練習場にいけば、各チームのスポンサーさんがいっぱい居るよね」
 思い立った小津野真帆(eb4715)は、GCR練習場にやって来た。
「こんにちはー☆ 今日は御願いがあって来ちゃった♪とってもワクワクする話しだよ。聞いて、聞いて♪」
 と、話を切り出したが。
「は? 学校?」
 生憎と、スポンサーの貴族達はいつも練習場にいるとは限らない。皆、なんだかんだで忙しいのだ。
「お嬢さん。そういう話は事前にきちんと連絡を入れてから持ってきてね」
 その場にいた関係者に言われ、すごすごと練習場を後にする真帆。しかし、気を取り直してカイン総監の所へ行く。
「ねぇねぇ、総監♪ いまは引退してるけど、まだまだ勉強教えるの大好き♪ ‥‥って人知らないかなぁ? 今度作る庶民の学校の先生になって欲しいんだぁ」
「心当たりが無いでもありません」
 カイン総監に教えてもらい、出向いた先は船着き場の町ガンゾ。カイン総監が薦めたのは、この町の外れに住む元騎士だった。
「アージェン・ラークさんですね? 学校の先生になって欲しいんですけど」
 家の戸口で事情を説明すると、相手は露骨に嫌な顔をして断った。
「エーガンが認めた学校のための仕事だと!? お断りだ!」
 アージェン・ラークは決して筋を曲げぬ性格故に国王エーガンの不興を買い、その親ともども身分と領地を剥奪された騎士だったのだ。今は平民として暮らす彼の後では、その妻と子ども達が不安そうな眼差しを向けている。
 すると、家の奥から一人の老人がよろよろした足取りで現れた。アージェンの父、ラーシェン・ラークだった。
「話は聞いたぞ。わしでよければ子ども達を教えてやろう」
「父上! あの悪王エーガンの為に働くというのですか!? しかもそのお体で!」
 老人はきっぱりと言った。
「わしが働くのは世の為人の為、そして何よりも子ども達の為だ。このよぼよぼの体でも、まだまだ教えてやる事は出来る」

●学校の資金
 学校の資金として、マルトは手持ちの金630Gを冒険者ギルドに預けた。また今回の依頼の報酬として、依頼に参加した冒険者達に50Cの謝礼を贈った。
 マサトシウスもまた、マルトのそれに比べたらささやかな額ではあったが、前回のGCR優勝の報奨として得た金を資金として提供した。