竜の力を継ぎし者〜アーメルのドラゴン
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月22日〜10月27日
リプレイ公開日:2006年10月28日
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●オープニング
王都ウィルの西北に位置し、その南を王領ルーケイと隣接する王領アーメルは、国王エーガンの統治が始まって以来、目まぐるしく統治者が交代した。
代々、この土地を治めていた本来の領主は、国王の不興を買ってその身分と領地を失った。代わって土地の代官に任ぜられたのはラーバス・ペレンという男だが、後にルーケイの反乱がアーメルの地にも飛び火するや、ラーバスは領地を放棄して敵前逃亡。この失策によりラーバスは王の怒りを買って代官の立場を失い、その後釜としてアーメルの代官に据えられたのが、アーメルでの反乱拡大阻止に功績のあった傭兵隊長ギーズ・ヴァムであった。
それでもアーメルに政情不安の種は尽きない。アーメルの西部では代官に対する反感が根強く、領地を接するルーケイには未だ、反乱の拡大を策謀したと目される旧ルーケイ伯の遺臣達が隠れ住む。またテロリストと呼ばれる悪しき天界人の一派も、アーメルの近辺で暗躍していると噂される。そして最近になりまた一つ、アーメルに新たなる災厄の種が撒かれた。
ここはアーメル東部の森。
「豚泥棒め。今度こそ捕まえて縛り首にしてやる」
ギーズ配下の兵士達が、森の中に大がかりな罠を仕掛けていた。ここ最近、この辺りを荒らし回る豚泥棒を捕らえるためである。
豚泥棒の手口は鮮やか。まるで空を飛んで現れ、空を飛んで逃げ去ったとしか思えない方法で、豚を浚って行く。それが人間の犯行ではなく、何らかのモンスターの仕業であるかもしれないと、兵士達は考えてもいた。実際、空を飛ぶ得体の知れない生き物の姿を目撃した者もいる。その証言によると、その影は翼を生やした蛇のようだったという。
罠を仕掛け終わると、丸々と太った1頭の豚がその場に連れて来られた。これで準備完了。後は豚泥棒の出現を待つのみ。兵士達は森の木の陰に隠れ、辛抱強く豚泥棒が現れるのを待った。
罠を仕掛けたのは朝方。昼の間は何事もなく過ぎ、そして夕闇の迫る頃合いになる。
突然、空から奇妙な生き物が舞い降りた。
「見ろ!」
「あれは‥‥!」
豚を狙って現れた生き物の姿に、兵士達の目は釘付けになる。その体の半分は女、しかし後の半分は蛇。生き物は人間の上半身に蛇の下半身を持っていたのだ。さらに、その背中には羽毛の無い翼を生やしている。
それはナーガの娘だった。しかし兵士達はそれまで、ナーガという種族を目にしたことは無い。
「くらえ、化け物め!」
仕掛けた罠が発動する。頭上から捕縛用の大網が被さりナーガの自由を奪う。間髪を置かず兵士達は矢を放つ。ナーガが身を捩り、突き刺さった矢の痛みに叫ぶ。次いで、その口から迸ったのは怒りの咆哮。
「おのれ! 人間め!」
さらに、ドラゴンの咆哮に似た響きを持つ人語ならざる呪文が放たれ、ナーガの体が大きく膨れ上がる。体を縛める大網は一瞬にして破られた。
「うわあっ!!」
兵士達は驚愕し、叫ぶ。目の前に出現したのは巨大なドラゴンだった。その前足が、その尾が、兵士を薙ぎ倒す。かっと開かれた大顎が兵士にかぶりつく。
「た、助けてくれぇー!!」
大顎に捕らえられた兵士が絶叫。その叫びが地面の高さから上へ上へと持ち上げられて行く。ドラゴンは首をもたげ、その大顎に捕らえられた哀れな兵士は、見上げる仲間の兵士達の頭上でじたばたしている。
ドラゴンが翼を広げ、後ろ足で力強くジャンプ。巨体が空へ舞い上がった。為す術もなく呆然と立ち尽くす兵士達を後目に、ドラゴンは兵士を口にくわえたまま空を飛んで、生い茂る森の木々の遙か向こうに姿を消した。
「俺の兵士がドラゴンに浚われただとぉ!?」
報告を受けた代官ギーズは、テーブルを叩き壊さんばかりにドンと拳を叩きつける。
「なぜ、よりにもよって俺の領地にドラゴンが現れる!? なぜ、ドラゴンは俺の兵士を浚いやがったんだ!?」
「わ‥‥判りません。ですが、我々はこの目で見たのです」
魔獣の類が出没する辺境ならいざ知らず。王都に近い自分の領地にドラゴンが現れるなど、にわかには信じがたい話だ。しかし、負傷して戻って来た兵士達が嘘をついているとも思えない。
「畜生! この事態は俺の手に余るぜ!」
暫し考えた末、ギーズは決意した。自分の手に負えない事件なら、その道に通じた者達に任せようと。
斯くして、冒険者ギルドよりギーズの依頼が出された。冒険者に託された任務は、ドラゴンに浚われたギーズの兵士を取り返すことだ。
●リプレイ本文
●代官ギーズ
王都ウィルより王領アーメルまでの移動は1日がかりだ。自前の馬を持つ冒険者は馬で、そうでない者は冒険者ギルドの用意した馬車に乗って、現地に向かう。
「くれぐれも無茶はしないでね」
と、馬車の中で地元民シフールのリルが言う。過去の依頼で色々あったお陰で、リルはギルド総監直々の命により、ミリランシェル・ガブリエル(ea1782)の付添人として同行中。
「分かってるわよぉ〜」
と、ミリランシェルの不機嫌な声が返ってきた。
一行がアーメルの入口にある関所に着いた頃には、とうに日が暮れていた。
「すげぇ、グリフォンだ!」
と、関所の番兵達が、コロス・ロフキシモ(ea9515)の随伴獣を見てどよめく。
「流石、ドラゴンを相手にしようって冒険者は、連れて来るペットも違うってもんだな」
しかし、続いて松明の灯りに浮かび上がった巨大な影を見て、番兵達は慌てた。
「うわあっ! 何だこの化け物は!?」
体長3.5mのイーグルドラゴンパピィ。フォーリィ・クライト(eb0754)のペットで、名前はロロ。
「十分に懐いてるから大丈夫よ。空からの偵察に使おうと思って」
と、フォーリィが言うその頭の上で、飼い主の倍以上も背丈のある鳥型ドラゴンの目がじっと番兵達を見据えている。びびって当たり前だ。
「こんなペットの持ち込みは前例が無いぞ」
対処に困り果てた番兵達から領主館に報告が行き、折り返し領主館から兵士の一団がぞろぞろと引き連れた代官ギーズがやって来た。
「流石は冒険者、やる事がひと味違うぜ」
と、ギーズは呆れつつも、処断を下す。
「ドラゴンに対抗するためには魔獣の持ち込みもやむを得ねぇ。但し、移動に際しては領民の居住地を避けろ。それから兵士の捜索には、俺の兵士も同行させる」
冒険者の中に鉄城の異名を取るルーケイ伯与力、バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)がいるのを知ると、ギーズは握手を求めて来た。
「鉄城男爵が自らお越しとは頼もしいぜ! 反逆者アーシェン相手の会戦でも派手に暴れたそうじゃねぇか!」
「おや。その話がもう伝わっていたとは」
差し出されたその手をバルバロッサは固く握り返す。
「しかし、ルーケイに厄介事の種は尽きねぇもんだな」
「その話は場所を改めていずれ。双方の友誼が保たれれば如何様にでも話はつきましょう」
次いで、ギーズはルエラ・ファールヴァルト(eb4199)の姿に気付く。
「お前は‥‥ルエラか!?」
彼女の名をギーズは覚えていた。
「はい。ルーケイ領での盗賊討伐や祝賀会ではお世話になりました」
慣習に従って挨拶を済ませると、ルエラは警告を発した。
「今回の一件は、竜の眷属たるナーガが絡んでいると思われます」
「ナーガだと!?」
ギーズにとっては初耳。そこで、より事情に明るい冒険者達が、現在進行中の『竜との和平』の事などを話して聞かせた。
「そうか。俺の兵士達が遭遇したあれが、噂に聞くナーガだったとはな」
と、ギーズは納得。そして言い足す。
「そしてナーガにも無法者はいるというわけだな?」
ルエラが求める。
「ドラゴンに変じるナーガが相手では、討伐隊を繰り出しても兵士の犠牲が増えるだけです。恐れ入りますが、私達の兵士救出活動が終了するまで、討伐隊の出撃は控えて頂けないでしょうか?」
「良かろう。だが兵士が殺されていた時には即座に討伐令を下し、あのナーガの皮を被った無法者を血祭りに上げてやる!」
そこへルメリア・アドミナル(ea8594)が口を挟んだ。
「お言葉ですが、この一件に関しては極力穏便な解決を願います。『竜との和平団』とナーガの長老との会見が、山の民の地にて執り行われているこの重要な時期に、この様な騒動は悪い影響をもたらしかねません」
途端、ギーズは不機嫌な顔になる。
「これが人間の無法者なら、即刻引っ捕らえて縛り首だ! 無法者でもナーガは特別扱いってわけか!?」
即座にルエラが取りなした。
「ギーズ様や兵士領民のお怒りはごもっともですが、ことがドラゴン相手です。今回の、家畜や兵士の件に関する処分は『王国とナーガの方々の預り』として頂けるよう、何卒よろしくお願いいたします」
と、現在行われているナーガ族との協議待ちにすることを求める。
バルバロッサも口添えする。
「勿論、我々が負担すべき物は負担しよう」
と、補償の用意がある事を言外に示す。
さらにコロスが言う。
「俺としても討伐令は暫し待って欲しい。だがもしもの時は、討伐隊を派遣するまでも無く、俺がこのドラゴンスレイヤー『アスカロン』でナーガを始末しよう」
アスカロンの柄を逆手に握って抜き放ち、誓う。
「成る程、やる時にはやるという訳だな?」
竜殺しと呼ばれる魔剣。竜を崇めるアトランティス人には禍々く響く言葉のはずだが、今のギーズはその禍々しき強さに魅入られたよう。
「ならば、全てを任せよう」
と、ギーズは同意した。
●ナーガ発見
「完全にこっちが悪いのです‥‥お互い合って話し合わないことには破滅の道がまっているのみです‥‥」
そんなニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)の呟きを、見届け人として同行するアーメルの兵士が聞き咎めた。
「あんたはどっちの味方なんだ!?」
冒険者達は今、兵士を拉致して消えたナーガを追い、森の中を歩んでいる。
「ドラゴンが飛び去ったのは、この方角のはずだが‥‥」
この辺りは人家に乏しく、目撃者もいない。空を飛ぶナーガ相手では、犬も臭いを追跡できない。森はあまりにも広すぎ、生い茂る木々に阻まれ見通しは悪く、どこをどう探せばいいのかも見当がつかない。
仕方なく、一旦森の外に出る。
「ロロは、何か見つけたかな?」
上空を見上げるフォーリィ。警戒のため空に放ったロロの姿が小さく見える。おや? ロロの近くを飛ぶもう一つの影がある。翼はあるが鳥ではなく、胴体は蛇のように長い。
「あ! あんな所に!」
空を指して叫んだフォーリィの声で、誰もがナーガの姿に気付いた。
●ナーガとの戦い
「ナーガめ、イーグルドラゴンに何をする気だ?」
様子見に、コロスはグリフォンに跨って空に飛び立つ。接近するグリフォンと、武装して騎乗するジャイアントの姿を認めるや、ナーガは急降下してグリフォンに急迫。
「貴様! ドラゴンの仔に刃を向けるか!」
怒りの叫びと共に尾の一撃が飛んできた。コロスはそれを頑強なプレートメイル「暗黒星」で受け止めるも、その衝撃は強烈。
「ムウゥゥ‥‥何という苛烈な攻撃か!」
グリフォンの背から弾き飛ばされ、空のこの高さから落下したら重傷は免れない。
「攻撃を受けた以上は!」
覚悟を決め、ドラゴンスレイヤー『アスカロン』を構える。ナーガが再び急迫。再び尾の一撃が放たれる。が、今度はコロスの身体ではなく、グリフォンの翼に!
「うぬっ!」
空中でよろめくグリフォン。翼に傷を受け、高度は見る見るうちに低下する。
今や低空飛行のグリフォンと、それを追うナーガに向かって、地上のルメリア・アドミナル(ea8594)が駆け出した。ナーガとの距離を図りつつ、サイレンスの魔法を高速詠唱で幾度も放つ。竜語魔法を封じ込める為のその試みは成功した。
「‥‥‥‥!!」
コロスに向かってナーガが何かを叫んだ‥‥はずだった。しかしサイレンスの魔法により、呪文詠唱はおろか言葉を何一つ発することも出来ない。ナーガは狼狽し、地上に目を向ける。そこにはイコン・シュターライゼン(ea7891)の姿。後方の仲間を守るべく、剣を持たぬ両手を大きく振って叫んでいる。
「戦いを止めてください!」
しかしその言葉も、サイレンスの影響下にあるナーガには届かず。ナーガは怒りに満ちた目をイコンに向け、空中からイコンに迫る。その口が開かれ、ほとばしり出たのは炎のブレス。
「うっ!」
片腕に現出させたオーラシールドで、イコンはブレスを受ける。ブレスの炎は勢いを削がれるも、やがてシールドの裏側に回り込み、一瞬だがイコンの体が炎に包まれる。
コロスを乗せたグリフォンがナーガの背後から迫る。
「覚悟っ!」
繰り出されるアスカロンの一撃。しかし空中での戦いはナーガに利あり。素早く回避され、剣の切っ先が鱗の皮膚を切り裂くも、手応えは致命傷からは程遠い。
「外したか!」
コロスはそう思った。だが数刻の後、ナーガの顔が恐怖に歪んだ。浅く切られたはずの傷は大きく広がり、夥しい血が流れる。これはドラゴンスレイヤーの魔力が為せる業。
勢い、ナーガはコロスに背中を見せて、森の中へ飛び込んだ。もはや戦意は残っていない。
ニルナはイコンに駆け寄り、リカバー魔法でブレスによる火傷の手当てを行った。
●交渉
空からロロの鳴く声がする。冒険者達は手分けして森の中を探している。
「あそこか」
木の陰に蹲るナーガを最初に見つけたのは加藤武政(ea0914)とミリランシェル。
「俺はここで待機だ」
と、コロスは離れた場所に留まる。武政は白旗を掲げて、ミリランシェルともどもナーガに歩み寄る。
「あ〜、こちら領主代理相当冒険者隊である〜」
「私を殺しに来たのか?」
警戒するナーガ。武政はナーガから十分に距離を置き、言葉を選びながらも高圧的な語調で言い放つ。
「そんなつもりはない。まあ、お互いの不理解故に、諍いがあったことをまずこちらからわびよう。で、こちらの要求はまあ、退去だ。ただし如何なる事情においても、兵士は帰してもらうぞ、死体で構わないけど‥‥」
「最後の一言は余計よ!」
慌ててミリランシェルが武政を黙らせ、対照的に柔らかい口調で告げた。
「アーメルの兵士達がいきなり捕縛行動や攻撃に出た事を、彼等に代わって謝罪します。彼等はこれまでナーガという存在を見た事が無かったのです。私達の目的は貴方と戦うことではなく、貴方が連れ去ったアーメルの兵士を返して頂くことなのです」
やがて、他の仲間達も集まって来た。空を飛んでいたロロも、飼い主であるフォーリィの元に舞い降りる。それを見て驚いたのはナーガ。
「おまえ、この人間の知り合いなのか?」
ロロの代わりにフォーリィが答える。
「ロロはあたしのペットだよ」
それを聞いてナーガは訳が分からなくなった。
「おまえを襲う人間から守ってやったつもりだったのに」
ローラン・グリム(ea0602)が武器を持たずにナーガへ歩み寄った。
「私は騎士ローラン。誇り高きナーガよ。もはや貴殿と争う意思のない事を騎士の名誉に賭け誓おう。暫し話をさせてもらいたい。その前に、この薬で傷を癒されるがよい」
リカバーポーションを手渡そうとするや、ナーガは激昂。
「そんな物が信用できるか!」
その手がポーションを弾き飛ばし、その弾みでローランの手は、ナーガの鋭い爪に手酷く切り裂かれた。
「毒ではない。その事を証明しよう」
ローランはポーションを拾い上げ、飲んで見せる。そして自分の手をナーガに示す。あっという間に塞がった傷を見て、ナーガは息を飲んだ。
もう1個のポーションを渡そうとして、ローランはナーガの傷が思ったより深い事に気付く。
「これが私のできる精一杯の誠意です‥‥やらせてください。未熟な腕での治療魔法ですが‥‥これで楽になればと‥‥思います」
と、リカバーの魔法でナーガの傷を嫌そうとしたニルナだったが、ナーガは拒絶する。
「私に近づくな!」
「簡単に許してもらおうとは思いません‥‥ですが、償いをさせてください‥‥。何を言われようと‥‥何をされようと‥‥人間と貴女達を破滅の道に向かわせるのだけは‥‥嫌なんです‥‥お願いします‥‥」
「人間など勝手に滅ぶがいい!」
ナーガの尾がニルナを打ち、よろめくニルナ。見かねてイコンがナーガの首筋に手刀を叩き込み、ナーガを昏倒させた。
「あ‥‥」
「心配はいりません。気絶させただけです。さあ、早く手当てを」
●兵士の解放
ナーガが昏倒から覚めると、体の傷は全て癒されていた。アーメルの兵士から受けた矢傷も、アスカロンに切り裂かれた傷も。
「お前達、私に何をした!?」
それでもつい興奮して叫ぶ。
「癒しの魔法を。改めて我等の非礼を謝罪します。この償いの印をお受け取り下さい」
ルメリアが恭しく差し出したのは塩の詰まった革袋。ナーガが中味を確かめると、清らかな塩がさらさらとこぼれ落ちる。
「お前は山の民か?」
ナーガが訊ねる。ナーガの住まう地の間近に住む山の民の間には、友好や謝意の印として塩を贈る風習があることに思い当たったのだ。
「いいえ。しかし山の民の習俗の事は存じております」
ルメリアは答え、さらにイコンが言う。
「何故、この土地の家畜を奪ったりしたのですか? 誇り高きナーガの方が人里付近で家畜泥棒をする話は、聞いた事がありませんので‥‥」
続いてルメリア。
「あなたがこの土地で捕らえた豚は、この土地の民が彼らの食事として、放し飼いで育てていた豚なのです」
そしてバルバロッサも。
「領地の財産をしらずとも、集落の共有物が重要なのは理解いただけよう? お互い落ち着けば納得できない事ばかりでもあるまい」
しかしナーガは言う。
「世界は変わりつつある。それも悪い方向に。シーハリオンの偉大なる竜が害されたというのに、その真相を知る我等が長老達は黙して何も語ろうとせず、おまけに人間どもの造った空飛ぶ船が、我等ナーガの領域を荒らす。ならば、私が人間の領域を荒らし、その家畜を奪ったとて何が悪い?」
「人がそのような者ばかりでない事を御理解頂きたい。貴殿らと誼を結ぼうと努めている者達もいるのです」
ローランのその言葉に続き、王国とナーガの長老との会合が行われる事をイコンも告げる。最後にバルバロッサが言った。
「ともあれ、そちらが兵士を解放してくれるなら、こちらも当面の食料を提供する用意がある」
「まずは貢ぎ物が先だ」
ナーガは居丈高に要求。
「いいだろう」
バルバロッサは拒みはしなかった。
●最終報告
ナーガに当面の食料を渡し、代わりに兵士を返してもらうと、冒険者達は代官ギーズに報告を入れる。
「え〜、ドラゴンはこちらの説得に応じて、無事退去したご様子‥‥」
「おい、待て待て」
と、勝手に報告する武政を押し止め、バルバロッサが正式に報告。
「ナーガには森の一画に住処を与え、勝手に領内をうろつかぬよう約束させた」
「結局、俺の領地に居着いた訳か」
報告を聞くギーズは不満顔だが、食料その他の対策費としてバルバロッサが渡した100Gが物を言い、それ以上の事は言わなかった。
立ち去り際、兵士の一人が武政を呼び止める。
「使った地図は返してもらうぞ」
こっそり持ち去ろうとするのを見逃す連中ではない。
王都に戻ると、シフールのリルはミリランシェルの行動についてカイン総監に報告する。
「今後は彼女を独りで行動させても大丈夫でしょう」
カインは結果に満足し、ミリランシェルへの処分を撤回した。