黎明ルーケイ〜歓楽地建設事始め

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:7人

冒険期間:11月04日〜11月07日

リプレイ公開日:2006年11月14日

●オープニング

●貴族の血を引く女
 大河は大いなる交通路。今日も数多の川船が行き来する。その中に、用事を得て西へと向かう貴族達の船があった。
 時は昼下がり。船の主たる貴族は、急に船足が鈍ったのを知り従者に問う。
「何事だ?」
「がめつい連中のお出ましです」
 川面を滑るように早々と近づく船がある。
「我等はルーケイ水上兵団! 我等が主、ルーケイ伯の正当なる権利の行使として、この船より通行料を徴収する!」
 相手方の船から呼ばわる声を聞き、船の護衛として乗り込んでいた傭兵が、見下したような物言いをする。
「ありゃ、河賊上がりの連中だな? かつての水蛇団も、ルーケイ伯に取り立てられた今では、ご大層にもルーケイ水上兵団を名乗るか。しかし、中味がそう簡単に変わるわけじゃなし。甘い汁吸わせてやることはねぇ」
 近づいてきた船に向かって、傭兵は怒鳴った。
「おい河賊上がりども! お館様はお急ぎだ! 通行料はツケに回しとけ!」
 居丈高に言い放たれたその言葉に返事が返ってきた。先ほどとは違い、うら若い女の声で。
「私と勝負しろ! おまえが勝ったら通行料は免除してやる!」
「ほほぉ」
 向こうの船に現れたその姿を見て、傭兵は笑いを浮かべる。声の主は歴戦の河賊よろしく右手に剣、左手に盾を備え、さらに革鎧と兜で身を固めている。そのしなやかな身体からは河賊女の荒々しい色香が漂うが、輝くような金髪に飾られたその顔には、どことなく貴族の姫君のような気品がある。その不釣り合いさが傭兵には可笑しく思えた。
「てめぇのような別嬪が河賊の汚れ仕事とは、いただけねぇな! てめぇはどこぞの人買いから売り飛ばされてきたか?」
 挑発的に言い放つと、傭兵は相手の船に飛び乗り、剣を振り上げて女を睨み付ける。
「力の差ってものを教えてやらぁ!」
 女の細腕、その剣など一撃でたたき落とせると踏んで、大きく踏み込み剣を振り下ろす。‥‥次の瞬間、傭兵は自分に何が起きたのか咄嗟に理解できなかった。振り下ろした剣の下には何もなく、逆に自分の喉元には女の剣が押し当てられていたのだ。
「その喉、このまま掻き切ってやろうか?」
 殺気を孕んだ女の声。
「うう‥‥」
 傭兵は身動きも出来ずに唸る。
「そこまでだ。良い勝負を見せてもらった」
 勝負を見届けた傭兵の主人、貴族の旦那から声がかかった。
「通行料は所望の額を払おう。その代わり、私の護衛にこれ以上手出しはするな」
「判った。約束しよう」
 河賊の女は引き下がり、傭兵は気落ちしながらも主人の元へ戻った。
「ところで、君の名は何と言うのだ? 私には君がただの河賊上がりには見えないのだが」
「私はルーケイ伯が現地家臣団の第5位、リリーン・ミスカ。河賊の頭目ムルーガ・ミスカに育てられし娘。私の母は春をひさぐ女。父の顔を私は知らない。でも、私のこの体に流れるのは貴族の血だ」
「成る程な。河賊に拾われた、どこぞの道楽貴族の落とし種というわけか」
 女の答に、貴族はしばし好奇の眼差しを目の前の女に向け続けた。
 通行料の受け渡しが済むと、貴族達の乗る船は次第に船足を早めていく。遠ざかるリリーンの姿を見やりつつ、貴族の旦那はふと、以前に聞いた話を思い出した。
「そういえば、亡くなって久しきかつてのルーケイ伯には娘がいたそうだな」
 それを聞いて、連れの貴族が言う。
「まさか、あの娘が‥‥」
「いや、ルーケイ伯の娘は自害したと聞いている。ルーケイの反乱が国王軍により鎮められた折りにな。しかし生きていれば、あのリリーンくらいの歳になっているはずだ」
「しかし、仮にあのリリーンがルーケイ家の生き残りだとしても、ああも歳を食ってはもはや行き遅れですな」
 連れの貴族がそんな言葉を吐いた時には、リリーンの姿は川船の遙か後方に遠ざかっていた。

●反逆者の眠る地にて
 東ルーケイはクローバー村の南方、大河の川岸に近い野原に47個の墓標が並ぶ。ここは先の会戦で戦死を遂げた、フオロ王家への反逆者達を埋葬した墓地。木で作られた質素な墓標の前に、野で摘んだ秋の花を捧げると、リリーンは胸の前で両手を組み合わせ、今は亡き彼等に対して黙祷する。
 沈黙の時間はどれだけ長く続いたことだろう。
「リリーン様、そろそろ参りましょう」
 腹心のベージー・ビコにそう言われるまで、リリーンは両手を組み合わせたまま、動かぬ木彫りの像の如く墓標の前に立ち続けていた。
「彼等は今、何処にいるのだろうな?」
 問いかけるようにリリーンは呟き、ベージーは答える。
「彼等の魂は死後、天なる精霊界に昇り、新たな転生の時が来るまで地上の我々を見守っているはず。私はそのように信じます」
「私も幼い頃、そのように聞かされた。それを信じるか?」
「他に何を信じろというのです。リリーン様」
 二人は歩きながら話を続け、やがて墓地からさほど遠くない船着き場にやって来た。
「この土地は、製鉄業の発起人達に貸し与えるはずの土地。しかし、あの2人の冒険者よりもいち早く、この地に眠る反逆者達がこの土地の主人になってしまったような気がする」
「リリーン様もそう思いで? 実は、私もそのように感じていました」
「さて、そろそろ製鉄の話を進めねばならないが」
 辺りを見回してリリーンは言うが、街道と大河とに挟まれたこの辺りには、広がる野原と簡素な船着き場、そして立ち並ぶ47個の墓標以外にめぼしい物は無い。
「あの発起人達にどこまでやれるかな?」
「さあ、それは私にも‥‥」
「とにかく、あの2人からは金は貰ったし約束もした。ベージー、近いうちに依頼を出すから、その準備にかかって欲しい」
「いよいよ製鉄のための人集めですな」
 ふと、リリーンはほくそ笑む。
「そうだ。だがそれだけではない。製鉄業の他にもう一つ、依頼を出す。それは紅花村で計画されている、歓楽地計画の為の人集めだ」
 紅花村とは、かつて生首村と呼ばれていた村。河賊・水蛇団の根拠地であったその村は、冒険者出身のルーケイ伯により改名を求められ、最終的にその名前を紅花村としたのはリリーンだった。
「有能な冒険者とのコネ作りは大事だからな。最初は顔合わせということで、大盤振る舞いの酒宴といこう。会場は宴会も立派に出来る豪勢な大型川船。飲み放題の食べ放題、傍らに女も侍らせて酌もさせよう。望みとあらば男も侍らす。歌うもよし、舞い踊るもよし、ペットに芸をさせるもよし。さらに、有益なる献策を為したる者には報奨金を与えようぞ」
「それはまた豪勢な! リリーン様が本気を出したら、あの発起人2人も喰われかねませんぜ!」
「ふふ、この程度のことで喰われてどうする? あの2人がどう出るか、楽しみだ」
 製鉄と歓楽地、この二つの試みが互いに競い合う関係になった形だ。
 さて、製鉄業の発起人達はどう出るだろうか? リリーンに習い、豪勢な酒宴で人を集めるか、あるいは地道に真面目にこつこつと人材を集めるか? 既にリリーンには大金を渡しているから、発起人が必要と認めた経費はリリーンの懐から補われる。預けた金が続く間は。
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 役に立つ人材求む!
 但し今回は酒宴につき、ぱ〜っと楽しく騒ぎたい者、
 リリーンにモーションかけたい者も大歓迎!
 なお、依頼人側で管理できない魔獣・猛獣ペットについては、
 持ち込み人の自己責任において管理することになるのでご注意あれ!
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●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea5013 ルリ・テランセラ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0420 キュイス・デズィール(54歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4245 アリル・カーチルト(39歳・♂・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4729 篠宮 沙華恵(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ユパウル・ランスロット(ea1389)/ ヴェガ・キュアノス(ea7463)/ アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)/ サクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)/ ゲイザー・ミクヴァ(eb4221)/ 結城 敏信(eb4287)/ 華岡 紅子(eb4412

●リプレイ本文

●ルーケイ伯と与力達
「‥‥何でこうなる?」
 自分で好きに使える冒険者を呼んだつもりが、自分の仕えるルーケイ伯アレクシアス・フェザント(ea1565)やその与力達までもがぞろぞろやって来て、依頼主のリリーンは困惑。しかし嫌と言うはずもなく、恭しく一行を出迎えた。
「歓楽地建設も動きだし、まずは目出度い。ついては俺からも要望がある」
 アレクシアスが話を始めるや、
「記録係!」
 と、リリーンは声を飛ばし、呼びつける。
「閣下および与力殿の言葉を一字一句、余すことなく書き留めよ!」
 続くアレクシアスの言葉が羊皮紙に速記されて行く。
「歓楽地においては従業員教育を徹底させよ。読み書き算術、礼儀作法等の基本から、料理・給仕・接客等を一から十まで学ばせ、ルーケイでの事業に相応しい人材を育てるのだ。水準の高い歓待があれば、貴族・商人の客の入りが増える。彼ら従業員を耳目として客人がもたらす様々な情報を入手しやすくなる」
 以下、王都での研修、熟練者による業務指導、酌婦等を除く職種ごとの制服の制定、麻薬及び不当なる人身売買等の禁止と、話は続く。
 続いては、与力の男爵ベアルファレス・ジスハート(eb4242)。
「気軽にベアルと呼んでもらっても構わん。よろしく」
 その挨拶に続き、彼の口から警備隊詰所の建設が提案された。
「これは歓楽地の暴力沙汰等を解決する為の、治安警備隊の勤務場所だ。簡単な医務室、及び暴力行為を行った者を収容する牢屋を設ける」
 さらに『拳闘』を呼び物とする闘技場の建設、貴族の客人向けに劇場の建設、宿泊施設の建設と提案は続き、最後に歓楽地建設に役立てばと50Gがリリーンに手渡された。
 さらに、与力の男爵・長渡泰斗(ea1984)からの申し入れ。
「歓楽地では『飲む、打つ、買う』が相場とは言え、な。締めるべき所は締めてもらわんと困るぞ? 特に、夜に関してはな。春をひさぐのも立派な生業故に、やるなとは言わん。しかしながら、色町はある程度管理の目を厳しくしてもらいたい」
 管理すべき一つ目は、
「第一に衛生管理、花柳病(性病)の蔓延は防いでもらいたい。ありゃ、下手すりゃ一個軍の動きが止まる事態になりかねん。‥‥美人があの病で死ぬのも、あまりな、気分の良いモノじゃない」
 二つ目は、
「あー、あとは女衒の類、な。多少キナ臭いのは致し方ないとしても、目に余る程悪質なのは取り締まってくれると助かる。だいたい人身売買の片棒を担ぐ事もあるまい。つか、そんな評判立てられても困る」
 三つ目は、
「夜鷹(私娼)みたいなヤミでやるのも御法度、にしておいた方が良いだろうね‥‥如何にもイタチごっこになりそうで何とも言えんが」
 四つ目は、
「賭博も同様にな? ヤミや『行過ぎな』『あからさまな』イカサマは‥‥まぁ飲む打つ買うの何れにしろ、胴元に筋を通さんような連中は言わんでも取締ると言うか落し前をつけに行くんだろうが‥‥」
 いつの間にか泰斗の語り口調に引き込まれているリリーン。
「随分と、こちらの世界に詳しいのだな」
「そりゃ、浪人とはいえ武士たる者、世間の事は広く知らねばならぬ故‥‥」
 泰斗の口元に苦笑が浮かぶ。
「ともあれ、過度の締付けはかえって窮屈さを感じさせてしまうかも知れんが、ある程度は必要な事でもある。何、実際に取締ったりするのはお前さん方なんだから、締付けの機微は任せるさ」
 すると、キュイス・デズィール(eb0420)がニヤリと笑い、横から口を出す。
「それと泰斗。管理すんなら幾らが妥当か、今晩身をもって体験しとくのはどうだ? 男の最大の弱点は──」
 ピィ──────────────────ッ!!
「‥‥何だ?」
 正にグッドタイミングでその場に迷い込んだシフールの芸人が、けたたましく笛を鳴らしながら飛び回る。
「今、取り込み中だ! 宴会が始まるまで余所で待ってろ!」
 芸人はリリーンに追い払われ、一同はキュイスと泰斗に目をやった。
「‥‥で、話がよく聞こえなかったが」
「いいや、聞こえんでいい」
 なぜか気まずい表情の泰斗。
 次なる与力の男爵バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)の提言は、水路都市計画、各種開発計画の効率的な実施、ルーケイ保安部の設立。
(「これは忙しくなるな」)
 と、リリーンは思う。記録はきちんと取っているし、そちら関係の依頼を出すことも早いとこ考えねば。

●瑠璃姫の提案
 ルーケイ伯と与力達の発言が終わると、瑠璃姫ことルリ・テランセラ(ea5013)が提案した。
「製鉄所で働く人たちと観光で遊びに来る一般の人達に、温泉提供してもいいかなぁって思ってます‥‥製鉄所で疲れる人とかいると思うし。あと、観光で癒し求められるように。温泉もいいような気がするから‥‥ジャパンみたいに提灯とか祭り町みたいに飾られてたらいいかも‥‥」
 天界の伯爵令嬢として隅には置かれないルリ。しかし、どことなく沈んだその様子がリリーンには気になった。
「残念ながら、当地に暖かいお湯の湧く温泉はありませぬ。しかし体に良いとされる泉はいくつか御座います。湯治場を作り、温めた泉の水を供するは十分に可能」
「あと、るり一人で源泉調査しようと思います‥‥ペットのケットシーはお留守番‥‥水の妖精つれてウォーターサーチつかって、源泉調査しようと思います‥‥」
「いえ、独りで向かうのはお止め下さい。安全の為、供の者をお付けしましょう。さて、もう暫くすれば楽しき宴が始まります。ここは姫にとり馴れぬ地故、御無聊のこととお察ししますが、もう暫くご辛抱下さいませ」
 ひとまずそのように言葉をかけ、リリーンは残る冒険者達の提言に耳を傾ける。

●提案〜テーマパーク
「そうですね。私としては腕のいい楽士とか歌姫とか踊り子を呼び、感じを出したりしたいところですね」
 と、さらっと提案するケンイチ・ヤマモト(ea0760)。それに続くは篠宮沙華恵(eb4729)。
「地球人の篠宮沙華恵です。経営面等でお役に立てればと思います。よろしくお願いします!」
 彼女の提案はケンイチのそれと似通ってはいるが、内容は実に振るっている。
「テーマパーク、いかがですか?」
「テーマパーク?」
「東京に限りなく近い浦安の某ランドとか、大阪にある『世界的な』スタジオとか。権利関係うるさすぎて実名出せないのがとっても残念ですけど‥‥」
 で、沙華恵は地球のテーマパークについて熱く語る。
「着ぐるみやドレスに身を包んだスタッフ、様々なアトラクション、この世のここにしかない物を総力をあげて表現するんです。名付けてルーケイパーク計画! パステル調のカラフルな建物、スタッフの対応はにこやかに、誰もが安心して過ごせる御伽の世界、思い悩む事が無いワンダーランド! そして、その目玉はヒーローショー! 色とりどりの衣装や武器防具に身を包んだ正義の戦士が悪を打ち破る豪華絢爛なショー! 観客が人質に取られたり声援を送ったりする参加型演劇! 冒険者が実際に魔法等使い演じる迫真勧善懲悪活劇名! 付けて冒険戦隊ルーケイレンジャーショー! ‥‥いかがですか?」
「面白い! 流石は天界人、考える事が大胆だ!」
 沙華恵の熱意に煽られたか、リリーンはすっかり乗り気。
「そなたには褒美を取らす!」
 と、約束した。

●提案〜エステ
 お騒がせなクレリック、キュイスが提案したのは地球で言うところのエステ。
「知り合いの紅子が言うには香油を使ったマッサージだの、温めた岩の上に寝転がって汗をかいて痩せるだのが、あっちの天界の流行りだとか。したら『天界で流行の』とかの謳い文句で店を出しゃ、庶民はもとより貴族にも受けんじゃねぇ? 更に『ルーケイ伯お墨付き』って並べりゃ、噂にもなり易いだろうし。岩を温めるのは製鉄のおこぼれ使うだとか」
「製鉄をやるのは大河の北岸だ。紅花村までは遠すぎる」
「そうか。勿論、『歓楽』も忘れてねぇよ。むしろ、俺はそっちに自信がある。そっちのマッサを希望するヤツは奥の個室で‥‥てな寸法よ。街を表・裏二分するんなら店を境目に建てて、そっち目当てのヤツも入り易いようにしとけばいい。個室自体は普段から貴族様が使うコトになるだろうしな」
「悪くはないな。表にせよ、裏にせよ‥‥」
 リリーンはキュイスの提案を聞き入れた。

●提案〜カードゲーム
 セオドラフ・ラングルス(eb4139)はアトランティスの鎧騎士ながら、その提案は地球人の大きな影響を受けていた。
「飲む・打つ・買うの中で、一番主催者が儲かる娯楽は、『打つ』即ち『賭博』でしょう。ですが、目の肥えた貴族や商人を満足させるのは容易ではありませぬ。既存の賽子やカードなど何処でもできますからな。ここは紅花村でしかできぬ、目玉企画が欲しいものです」
「では、何を?」
「地球人の結城殿から聞きましたが、天界に『TCG(トレーディングカードゲーム)』なる遊戯があるということです。実用にはまだ問題がありますが、貴族や大商人を夢中にさせて金を吐き出させるのに向いたゲームと思われます。目的は単純で手段は難解な、頭の使い応えのある遊戯で‥‥」
「チェスのような物か?」
「いや、チェスとは様々な点で異なり‥‥」
「もっと分かり易くはっきり説明できないか?」
 リリーンの求めに応えたのはアリル・カーチルト(eb4245)。
「俺、知ってるぜ。教えてやるから、紙の代わりになるものくれない?」
「羊皮紙でよければ」
 羊皮紙数枚を渡されると、アリルはそれを細かく切り分けてカードにする。高価な羊皮紙が細切れにされる有様を見て、記録係は何か言いたそう。しかしリリーンは手振りで彼を制して言う。
「大金になるというゲームだ。じっくりと拝見させて貰おう」
 アリルはカードの一つ一つに簡単な図案を描き込んで行く。戦士、ウィザード、レンジャーなどの人物像。グリフォンとドラゴンの絵。塔の絵。剣やハルバードなど武器の絵。そられの絵札に加え、幾つかの魔法の名称を描き込んだカードを作る。
 2セット分のカードが出来上がると、その1セットをリリーンに渡し、対戦のやり方を教え始めた。
「思いっきり簡略化したヤツだけど、遊び方はこんな感じだ。先ず、カードをよく切って並べる。こっちのキャラは4人でそっちは5人。で、こちら側には『魔法の塔』のカードがあるから、攻撃魔法をバシバシ使うことが出来るんだ。だけどそっち側には『ドラゴン』のカードがあるから、ドラゴンのブレスで一挙に大ダメージを与えることが出来るってわけ。んじゃ、サイコロ振ってみよーか」
 こんな感じでゲームを始めると‥‥リリーンはすっかりハマってしまった。
「これは‥‥面白い! 面白いぞ! チェスよりずっと面白い!」
 一回戦が終わるともう一回戦。それが終わるとさらにもう一回戦。
 このアリルの助けがあって、セオドラフは褒美を約束された。

●蒸留酒
 そして、アリル・カーチルト本人からの提案。
「この酒、飲んでみるかい?」
 見本として渡されたウォッカを試みに一口。口に含むやリリーンは何とも言えない表情に。
「これが、酒なのか!?」
 しかし吐き出さず、そのまま一気に飲み下して一言。
「まるで、火を呑み込んだようだ」
「これがウォッカさ。蒸留酒と呼ばれる酒の一つでね」
「ジョウリュウシュ?」
「詳しく教えるとだな。酒は二種類の成分から成っている。人を酔わす酒の成分と、酒の成分が溶け込んだ水の二つだな。酒の成分は水より軽くて蒸発しやすい。酒を熱して蒸気になった酒の成分だけを集めて液体に戻した、より濃い酒って感じかな? それが蒸留酒なのさ」
 蒸留には銅製の蒸留器を使うことや、同じく蒸留酒のジンや焼酎にも話は及ぶ。さらにアルコール度数の高い酒が消毒用に使えるということを皮切りに、医療関係の話をも聞かせてやることになる。伝染病の症状、媒介生物、いざという時の隔離や消毒の方法、水の濾過方法、下水処理法、等。
「下水処理については魔法を使ってでも特に重視すべきだな。ところで、救急隊とか救急輸送を優先する体制作りはどうなってんだ?」
「待ってくれ。そう一度に話されても‥‥」
 言って、リリーンは記録係に念を押す。
「全て書き留めたな?」
「‥‥はい」
 答える記録係は疲れ切ってふらふら。脱線気味の話だったが、リリーンは蒸留酒の話をしたアリルに褒美を約束。

《冒険者ギルド記録係より》
 さて、本来なれば続いて楽しき酒宴の有様を書かねばならぬところだが、記録係も予期せぬ事件の発生により、それは次の機会に譲らねばならぬ事を冒険者諸氏にお詫び申し上げる。以下、事件の有様を簡潔に記す。事件の後の話はまた後日にて。

●瑠璃姫の受難
 酒宴の席にてルリが披露した歌は、何故かとても物悲しげで。
「まるでこの世に別れを告げるような雰囲気でした」
 と、歌の伴奏に与ったケンイチは後に語る。
 歌い終えたルリは着替え所へ。付き添いのスレナスが後に続こうとしたが、
「ここから先、殿方は進んではなりませんわ」
 と、リリーンの使い女達に阻まれてしまう。
 ルリはこっそりと着替え所の裏口から外へ出て、酒宴の会場たる川船から岸辺に下りた。
「瑠璃姫様、どちらへ‥‥」
 声をかけた見張りは、いつの間にか全身氷り漬け。
「ごめんなさい」
 小声で謝るルリの手には、アイスコフィン魔法のスクロール。
 そのままルリは歩き続ける。遠くへ、さらに遠くへと。付き従う者といえば、ルリがプルートと名付けて付き従わせている水のエレメンタラーフェアリーのみ。
 気がつくと、目の前に濃い霧の立ちこめる沼地があった。
「るりはもぉ必要ない子だしいらない子だから‥‥」
 呟きつつ、その歩みは沼の水の中へ。水はとても冷たい。
 ‥‥何だろう? 水面で何かが動いている。
 馬の頭だ。悪意ある目がルリを睨んでいる。
「馬鹿な人間め」
「あっ‥‥!」
 水の精ケルピーだ。ルリの足に噛みつき、水の中に引きずり込む。
 息が出来ない。苦しい。
「だ〜め〜!!」
 何か小さなものがルリの手を引っ張って、叫んでいる。
 あれはプルート? でも、ケルピーの引っ張る力には叶わない。
「ケルピー! おやめなさい!」
 少女の声がケルピーに命じた‥‥ような気がした。そこから先は覚えていない。

 ルリが意識を取り戻した時、最初に聞こえたのは──。
「よくもルリ殿を!」
「ふん! こいつが勝手に死のうとしたのだ! あれでガイの最も強き戦士とは聞いてあきれるわ。『断ち切る者』よ聞かせて貰いたい者だな。伝承では虹の竜にも匹敵するはずの者が、なぜああ脆いのか?」
「陽の巫女は軍勢率いる者。『引き出す者』。目覚めても一人では最もか弱き者だ」
 夢現の中で、ルリはその声を聞いていた。
 次第に意識がはっきりして来ると、それはスレナスとケルピーが罵り合う声だった。

●褒賞金
 依頼の最終日。
「時に、製鉄業発起人達が冒険者に支払った報酬は如何ほどだ?」
「1人当たり10Gと聞いています」
「では、こちらも同額を報奨金として支払おう」
 リリーンとベージーの間でこんなやり取りがあった後、提案を高く評価された冒険者達は各自10Gの褒賞金を得る。
 但し、キュイスだけは、
「俺の案が通ったなら、金よりも実現に手を貸して欲しい」
 と、報奨金を辞退した。