暗雲ルーケイ〜謀反人の末路
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月30日〜01月02日
リプレイ公開日:2007年01月08日
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●オープニング
●叛乱の顛末
精霊歴1039年9月に勃発したウィンターフォルセ事変はまだ記憶に新しいが、これは吟遊詩人クレアなる人物に唆された元フオロの騎士達が、『悪王エーガンを倒し、トルク分国王ジーザム陛下をウィルの王座に』との言葉を旗印に掲げ、王都の門たるウィンターフォルセを灰燼に帰さんとした叛乱である。
一度、ウィンターフォルセから戦いの火の手が上がれば、それは王国再生の戦いの始まりを告げる狼煙となる。人徳高きトルクの王は悪王エーガンを打倒すべく兵を挙げ、エーガンの悪政下で疲弊した王国は再生へと向かう。叛徒達は誰もがそのように信じていた。
しかし現実は違った。叛乱勃発の報せを受けるや、冒険者ギルド総監カイン・グレイスは王都に滞在していたトルクの騎士達を呼び集め、叛乱を平定すべくフオロの騎士達と轡を並べてウィンターフォルセに進軍したのである。
まさか、自分達の擁するトルク王家の紋章旗を掲げた軍勢が、憎むべきフオロの騎士達と共に自分達に向かって来るとは。この想定外の事態を前にして叛乱の大義名分は失われ、戦意を喪失した叛徒達は次々と剣を捨て、自らトルクの軍門に下ったのである。
その態度にカインも感じ入り、降伏した叛徒達を捕虜として受け入れた。彼らは騎士道に則った処遇を受け、徒に虐待されることもその生命を脅かされることもなくトルクの保護下に置かれた。その数37名。彼ら捕虜達は現在、トルク分国に移送されて裁きの時を待っている。
しかしトルクの騎士達の寛大な処置に比べ、フオロ側の騎士達のやり方はあまりにも苛酷だった。
正確を期して言うならば、フオロ側の騎士でまともな騎士は10名にも満たない。フオロの軍勢のうち約半数は、エーガン王によって名ばかりの騎士の位を与えられたゴロツキ共であり、残る半分は金で雇われた傭兵である。
戦いが終わった時、フオロ側に捕らえられた捕虜の数は僅かに7名。しかし彼らは戦場で殺されていた方が遙かにマシだったかもしれない。何故なら彼ら7名に対しては、叛乱の首謀者クレアの正体を吐かせるべく、毎日の如く手酷い拷問が加えられたからである。結果、4名の者が拷問の途中で命を落とした。
●アーシェン・ロークの戦い
ウィンターフォルセ事変の余波は隣領ルーケイにも及んだ。叛乱平定のために出陣したルーケイ水上兵団は、ウィンターフォルセに上陸せんとした敵船をルーケイ領内の浅瀬に追い込んで座礁せしめ、船を糧食ごと焼き払った。叛徒達は中州に逃げ先を求めたが、そのまま水上兵団の軍船に包囲され、食料を断たれて飢餓状態に追い込まれた。
しかし、死ぬ前に最後の一戦を望んだ叛徒達に対し、寛大にもルーケイ伯は彼らに騎士としての戦いを挑むことを決断。叛徒達は十分な食料と休息とを与えられ、これ以上の戦いを望まぬ者には捕虜としての保護が与えられた。
ルーケイを舞台にしての最後の一戦は、ルーケイ側の勝利に終わった。この戦いでは敵指揮官アーシェン・ロークを始め43名が戦死。彼らの亡骸はルーケイの地に葬られた。既に中州で死亡していた4名もこの地に埋葬され、叛徒の墓地には47個の墓標が立ち並ぶこととなった。
●元叛徒達の一時帰郷
アーシェン・ロークに率いられた叛徒のうち、生きてルーケイ伯の捕虜となった者は65名。ルーケイ伯の寛容さを世に示す為の処置として、彼らには一時帰郷が許された。新年には必ず戻る事を約束し、捕虜のうち39名の者が身元証明の木札を携えて、それぞれの故郷に帰った。残る26名の者達は帰るべき故郷を持たぬ者達で、引き続きルーケイに留まった。
●暗転
──そして、時は今。
王都ウィルの城壁の外。設けられた絞首台に、拷問の傷跡も生々しい4つの死体がぶら下がる。それは処刑の日を待たずして、苛酷な拷問により命を落としたフオロ側の捕虜達。彼らは死した後に絞首刑の宣告を受け、その執行を受けた。そして未だここに在る。王に反逆した咎により、その亡骸は朽ち果てるまで放置されるのだ。
死してもなお安息を許されることなし。その肩にカラスが2羽、3羽と止まり、くちばしで髪を引っ張り肉をついばむ。
生き残った捕虜は3名。その彼らにも絞首刑の宣告は下された。
もうじき、彼らの体も絞首台にぶら下がるだろう。それを阻む者が誰一人として居なければ。
●リリーンの怒り
ここは南ルーケイの紅花村。ルーケイ伯が現地家臣団の第5位、女丈夫リリーン・ミスカの元を15人の男達が訪ねて来た。彼らは一時帰郷したはずの捕虜達。しかも大きな袋を一つ携えている。
「随分と早いお帰りだな?」
「急ぎ、伯に伝えねばならぬ事が。寛大にも一時帰郷を許されながら、国王の命による叛徒の処刑を潰しにかかろうと企む輩どもがおります。これは紛れもなく、フオロ王家に対する再度の反逆」
「何!?」
リリーンの顔色が変わる。男達の一人がナイフで袋を切り裂くと、手足を縛られ猿ぐつわを噛まされた少年が現れた。その首にかかるはルーケイ伯の紋章が印された身元証明の木札。彼は若年ながらもアーシェンと共に戦い、ルーケイ伯の捕虜となった元騎士の子弟だった。
「こいつもその一人です。実は、処刑の日が迫ったフオロ側の捕虜の中に、こいつの兄がいました。話を嗅ぎつけた我々は、苦労の末にこいつを取り押さえたのです」
15人の男達はアーシェンの下で戦い、捕虜となった元傭兵達だった。大義の為に殉じるよりも、自分達がのしあがる好機と見て叛乱に加わった連中。今、彼らは再度のチャンスを求めてルーケイ伯の側についた。
彼らが言うには、他にも処刑の阻止や亡骸の奪還を企てる者達がいるという。皆、フオロ側の捕虜の中に親族を持つ者達ばかり。
「こいつに喋らせろ」
リリーンは少年の猿ぐつわを解かせる。少年の口から迸ったのは、男達への怒りの言葉。
「卑怯な傭兵どもめ! よくも僕を騙したな! 所詮、お前らは騎士とは違うんだ!」
リリーンが厳しい表情で少年を問い詰める。
「話は本当か?」
少年が頷くや、リリーンの拳が少年を殴り飛ばした。少年は倒れ、切れた唇から派手に血が噴き出す。
「よくも! 伯の顔に泥を塗ったな!」
怒りの形相も露わに言い捨てるリリーン。傭兵の男は静かに続けた。
「連中は王都の南、船着き場の町ガンゾにある隠れ家に潜んでいます。その数は5人。それと厄介なことに魔法を使えるジプシーが娘が1人、味方についています。娘は連中の話に同情して仲間になったんです」
●ガーオン動く
早急に対策は講じられた。敵は元騎士5人にジプシー1人。早急に彼らの身柄を取り押さえねばならない。さもなくば、一時帰郷を認めた虜囚による処刑妨害により、ルーケイ伯の信用は大きな痛手を被りかねない。
先ず、話を通しておくべきはガンゾの町の領主。交渉には現地家臣団の第4位、ガーオンが赴いた。彼はガンゾの町に詳く、町の領主ともコネがある。
ガーオンは余計な事は何も喋らず、ただ反逆を企む者どもがこの町に潜むと告げ、その捕縛を自分と冒険者達に任せるよう求める。事が露見すれば町の領主もその責を問われると、やんわりと脅す事も忘れずに。そして袖の下を領主に手渡した。
大金の効果は抜群で、この件に関しては一切の手出し口出しをしないと領主は約束。
次いでガンゾは冒険者ギルドに赴き、事の次第はルーケイ伯にも伝わった。
●リプレイ本文
●王宮にて
「エーロン殿下もカーロン殿下も、閣下にはお会いになりません」
訪ねた先の王宮で、侍従長からそう告げられてしまった。国王隔離の折りにはその報をいち早く告げ知らされる程に、アレクシアス・フェザント(ea1565)は両王子と通じていたというのに。
「ではお伝え下さい。この度の処刑、謀反人の亡骸については晒さずに埋葬を。可能であれば縁者のいるルーケイでの埋葬を希望します」
続いて、同行するゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)も言い添えた。
「処刑後の遺体は速やかに埋葬させたほうが、伝染病を防ぐ上でも適した処置と思えます。治療院の院長でも在らせられるエーロン殿下なら、その事を誰よりもご存じのことかと」
「少々お待ちを」
侍従長は奥に下がり、暫くして戻って来た。
「エーロン殿下よりお言葉を拝受致しました。謀反人の遺体についてはゾーラク殿に一切の処置を任すと」
アレクシアスではなくゾーラクに、である。侍従長はアレクシアスにも告げる。
「両殿下が閣下を遠ざけになるのも、閣下のお立場を案じてのこと。そして、閣下が誰から見ても疑いのない清廉の士であらせられる事こそが、フオロの太き縁(よすが)となりましょう。そのためにも閣下は今暫くの間、自らのご領地の事のみに専念したが宜しいかと」
そして、侍従長は耳打ちした。
「フオロの絶大なる信頼の証が、来る選王会議の後に目に見える形となるでしょう。代価無しに‥‥」
二人が王宮を去るのと入れ違いに登城して来たのは、カーロン党員のルエラ・ファールヴァルト(eb4199)。
「急ぎ、殿下にお伝えしたい事が」
用向きを告げると、あっさりとカーロン王子の前に通された。
「処刑場でテロリストが阻止計画を立てているので、実際にテロリストが突入した際の混乱防止の為の指示を、出して頂けないでしょうか。対策については、依頼を受けた冒険者達が考えているはずです」
「分かった。必ず」
王子の返事は短かったが、このルエラの行動で状況は大きく動くことになる。
●隠れ家
王都を発った冒険者達の馬車がガンゾの町に達する頃。馬車の窓から外を見れば、崩れかけた廃屋の立ち並ぶごみごみした光景が目に映る。
「謀反人どもの隠れ家はあの辺りだ」
同乗するガーオンが指さし、皆に簡単な地図を示す。
「現場は家が建て込んでいて見通しが悪い。逃げられると後が厄介だ」
「ルーケイ伯は可能なら騎士達の捕縛をお望みです。とはいえ、逃がすくらいなら命を奪うこともやむなし、との事。冒険者の包囲を突破した者に、下手な手加減は無用でしょう」
とのセオドラフの言葉に対し、
「元から俺もそのつもりだ」
ガーオンは無造作に答える。
「で、そいつも持って行くのか?」
セオドラフの足下に置かれている携帯型風信機に、ガーオンは怪訝そうな視線を向ける。
「連絡用です。現場では馬に乗せ、毛布を被せて運ぼうかと‥‥」
「やめておけ。あの場所で馬は目立つし場所を取りすぎる」
「虜囚の奪回を目論むからには、一味も馬を用意しているのでは?」
「恐らくな」
「ならば一味は、なるべく馬にたどり着きやすいルートで逃げようとするかと」
「馬が常に一カ所に留まり続けるとは限らねぇぜ、旦那。それに馬で逃げるよりも、人混みに紛れて追っ手の目をくらます方が、ずっと上手く行く場所もあらぁな。あのガンゾの町がそうだ。いや、しかし‥‥」
ガーオンはオラース・カノーヴァ(ea3486)に目を向けた。
「その恰好、随分と様になってるな」
「伊達に長いこと冒険者はやっていねぇぜ」
答えるオーラスの恰好、ぱっと見には剣呑なヤクザ者。なにせ現場周辺は浮浪者や裏稼業の人間達が隠れ住む場所。その辺りをうろついても怪しまれぬよう、あえてこの姿に身をやつしたのだ。
馬車がガンゾの町に着くと、オラースとファング・ダイモス(ea7482)は他の仲間よりも一足先に現場へ向かい、隠れ家の近くに住んでいる浮浪者をつかまえては、小金を握らせて訊ねた。
「この辺りに新入りがやって来たろう?」
「ああ、ジプシーの娘っ子だろ? ワケアリな商売に手ぇ出してる口みてぇだよ」
「いつ会える?」
「朝と夕方の二回、町へ出かけるけどな。それ以外の時間なら大抵は家の中にいるよ」
「教えてくれて有り難うよ」
「悪いが、ちょっと来てもらおうか」
オラースとファングは浮浪者の腕を掴み、無理矢理に引っ張って行く。
「あ! 何するだぁ、旦那!?」
「これからこの辺りは戦場になる。お前の身の安全のため、避難してもらおう」
そんな調子で浮浪者やゴロツキ達を一人一人、隠れ家の周囲から追っ払って行く。この連中が謀反人の一味と内通している可能性だってあるのだ。ここは用心するに限る。しかし、もっとマシな方法は無かったのかと自問するオラースであった。
●偵察
忍び足で隠れ家に近づき、敗れた壁の隙間から中を覗く。ジプシー娘の姿がちらりと見えた。物陰に身を潜めて時を待つ。夕方になると、娘は手に篭をぶら下げて隠れ家を出て町へ向かう。
再び隠れ家に近づき、中を覗くとそこには浮浪者が一人。眠りこけているように見える。
「いけそうね」
ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は魔法の呪文を詠唱した。パーストの魔法でその場の過去を見るために。
突然、浮浪者が勢いよく動いた。眠りこけてなどいなかったのだ。
「そこにいるのは誰だ!?」
咄嗟に逃げたが浮浪者は追って来る。その手がゾーラクの肩に伸び、危うく掴まれそうになった。が、立ち並ぶ廃屋の陰から飛び出した音羽朧(ea5858)が、浮浪者の前に立ちはだかった。
「俺の女に手を出すな」
浮浪者は朧を睨み、次いでゾーラクを睨み付けると吐き捨てるように言う。
「ゴロツキ共が。俺の昼寝の邪魔をしやがって」
浮浪者の姿が消えると、朧はゾーラクの耳に囁く。
「何か見えたか?」
「ええ」
一瞬だけだが、ゾーラクの目は過去の一場面を捉えていた。ジプシーの娘が床下の倉庫へと通じる隠し扉を開け、中に向かって何事かを話している有り様をしっかりと。
その日の夜。仲間達と落ち合って報告を入れると、ガーオンが言う。
「その浮浪者だが、恐らくは浮浪者のふりをした謀反人の見張りだな。しかし危ないところだったぜ」
朧もゾーラクもガーオンの勧めでゴロツキ風の恰好をしていたから、事なきを得たわけだが。あの後もゾーラクは何度かパーストを使い、隠れ家を出た後のジプシー娘の足取りを追った。事前にオラースからの情報を得ていたお陰で、娘が外を出歩く時間の見当は付けやすかった。その結果、娘はガンゾの下町にある酒場に出入りしている事が判明。
「しかし、アトランティスにも風信器とか魔法のテレパシーとか、遠距離へ通信を送る手段があるから、ジプシーの娘を泳がせる意味はないかもしれないぞ」
黒畑緑郎(eb4291)はそんな心配をしたが、ガーオンの見方は違った。
「そういう特別な手段は、四六時中好きなだけ使えるって訳でもあるまい? とにかく敵の情報は多く集めるに越したことはねぇさ」
●突入
その日の夜のうちに全ての段取りは整えられた。オーラスが余計な連中を追い払い、がら空きになった隠れ家周辺の廃屋に、元騎士達の捕縛に携わる冒険者達は集合。ルエラの所有する風信器も1台がここに運び込まれた。
待つうちに朝が来る。ジプシーを追跡する別働隊から風信器に連絡が入った。
『町の酒場近くでジプシー娘の姿を確認しました』
「了解」
通信を受けた緑郎が、仲間達にゴーサインを送る。連絡役であるジプシーの娘と、残りのメンバーが別行動をとったときに捕縛すると、冒険者達は決めていた。
「相手が男衆なら肋骨2、3本程度へし折るくらいなら『説得』の範囲内だ。女性の取り扱いには気をつけること。では誠意を持って『説得』に当たろうか」
グラン・バク(ea5229)のその言葉で冒険者達は動き出す。突入前、グランはオーラエリベイションを目一杯に発動して士気を高め、さらに隠身の勾玉で気配を消す。そして表口から、隠れ家たる廃屋の中に飛び込んだ。
バキィ! 入口の床に穴が開き、グランの足を呑み込む。罠が仕掛けられていた。
バキィ! またも派手な物音。裏口から忍び込もうとしたシン・ウィンドフェザー(ea1819)の足も、床に開いた穴に吸い込まれていた。屋内には張り巡らされた紐。よろめいた拍子に2人の体が引っかかり、鳴子がジャラジャラとけたたましい音を立てる。
「敵襲だ!」
浮浪者に身をやつした見張りの叫び。床の隠し扉が勢いよく開き、隠れていた謀反人達が次々と飛び出して来た。
「エーガンの犬か!」
「ここは俺に任せて、お前達は逃げろ!」
5人の敵のうち2人がグランとシンに打ちかかる。襲い来る敵の刃はグランの右手の龍叱爪にあっさり弾かれ、次の瞬間にはグランの掌底が敵の顎へ。
「ぐわぁ!」
敵はのけぞりぶっ倒れる。
シンもワンハンドハルバードで敵をぼこりまくり。敵の振り回す長剣と違い、狭い室内で振り回すのに勝手がいい。
「うぐっ! うがぁ!」
一方的にぶちのめされてぶっ倒れ、敵はもはや戦闘不能。
その間にも残る3人の敵は逃走を図る。向かった先は表口でも裏口でもなく、隠れ家の窓。
「逃すか!」
逃走を阻まんと窓口を固めるルエラ。ライダーズソードを抜いて身構えた矢先、隠れ家の天井からぶら下がった紐に目がいく。
「あれは‥‥」
謀反人の手が伸び、紐を引くのが見えた。
「危ない! 罠だ!」
ルエラが叫ぶ。窓口を固めていた仲間達が一斉に飛びすさる。間一髪、屋根の上から石が転がり落ちてきた。それも、人の頭ほどもある石が幾つも幾つも。頭に当たっていたら痛いどころの騒ぎではない。
続いて窓口の壁が蹴破られ、大穴が開く。
「あんな所に脱出の仕掛けか!」
言うなり、オーラスは横合いから鞭を叩きつけ、壁の穴から飛び出した謀反人の顔面をぶちのめし。反対側から仕掛けたルエラも、ライダーズソードを叩きつけて謀反人の剣をへし折った。しかし謀反人の1人だけは攻撃を振り切り、脱兎の如くに逃げて行く。その目前には逃走を阻まんとする人影が出現。黒畑緑郎だ。
「くらえ!」
謀反人、緑郎の見かけの姿を見くびり、体当たりをかまそうと猛然とダッシュ。だが、同時に緑郎は高速詠唱でアイスブリザードを放つ。極寒の暴風は謀反人の視界を塞ぎ、その足を止めた。
「なんの、これしき!」
意外な緑郎の実力に、とまどいながらも再び動き出した謀反人だが、既に冒険者達が周りを囲んでいた。振り返れば地面に伸びた仲間の姿。
「大勢で寄ってたかってとは卑怯だぞ! 正々堂々と一対一の勝負をしろ!」
ヤケになって怒鳴ったその後ろからセオドラフが迫り、謀反人の脇腹めがけてサンソードの強烈な峰打ち。
「うっ‥‥!」
呻いてぶざまに転がった謀反人の頭上から、セオドラフは冷ややかに言葉を浴びせた。
「‥‥自らの誓いを破った者に、そのような名誉は不要でしょう。恥を知りなさい」
やがてグランとシンが隠れ家から現れ、ひきずって来た謀反人の体を地面に投げ出した。
「誤解するな。我々の目的はあくまでも『説得』だ。異議を申し立てたい者はいるか?」
謀反人達からの返事は無い。当たり前だ。全員、ぶちのめされてぶっ倒れて口もきけない。
「そうか判ってくれたか」
沈黙は『説得』への肯定。そういう事にしておく。後は伯の寛大な処置に期待しよう。
「終わりましたか?」
後方で待機していた医者のゾーラクが姿を現す。
「ああ、『説得』は成功した」
「‥‥これが説得?」
地面に転がる謀反人達の有り様にゾーラクは一瞬言葉を失い、ややあって呆れたように言葉を吐き出した。
「死人が出なかっただけ、よしとしましょう」
●ジプシー娘
町へ出かけていたジプシー娘が帰って来た。手にぶら下げた篭の中味はその日の食事。その足取りが隠れ家の手前で止まる。目の前に図体のでかいジャイアントが立っていた。音羽朧である。
「何か?」
「一緒に来てもらおう」
朧のその言葉を聞くなり、娘はさっと身を翻して朧から離れる。しかし反対側にも男が。ファング・ダイモス(ea7482)によって逃げ道は塞がれていた。
さらに、オラースとルエラも狩猟犬のセッターをけしかける。
「行け! ペンドラゴン!」
「行け! イースクラ!」
咄嗟に娘は透明化の呪文を唱えた。
「陽精霊よ! 我が身を隠し給え! インビジブル!」
魔法光を発してその姿がかき消えて、ばたばたという足音だけが遠ざかる。しかし人の目はごまかせても、狩猟犬の嗅覚はごまかせない。オラースのペンドラゴンにルエラのイースクラ、透明化したジプシー娘をしつこく追い続け、追いすがると飛び付くわ、噛みつくわ。
「しつこい犬ね!」
ついに路上で取っ組み合いが始まった。なにせ相手が透明化しているから、2匹の犬が激しくはね回っているとしか見えない。しかし、暫くするとようやくジプシー娘の魔法が解け、その姿が現れる。全身、砂と泥だらけ。着ていたドレスは犬の爪と牙に引き裂かれてボロボロ。
背後から忍び寄った朧が、娘に飛び付いて地面に押さえ込む。
「観念いたせ」
もう逃げられない。
●移送
「この様な非道を通さない為に、ルーケイ伯やギルド総監様達を始め多くの方々が頑張ったというのに。頼られず軽挙に走られた事が無念です」
「まぁ、助けたい気持ちも分からんではないが‥‥目先の事のみに気を取られて、軽挙妄動しかできないんなら、騎士なんて金輪際辞めちまえっての」
ルーケイの地に連行される道中、捕らえられた元騎士達はファングとシンの二人にこってり油を絞られた。
「怪我をした人は、敵味方問わず医者の治療を受ける権利があります」
と、怪我の手当てを施そうとしたゾーラクに、元騎士から返って来たのは憎まれ口。
「怪我させておいて、恩を着せるつもりか?」
「不満なら伯の恩義を裏切りもう一度同じことをすればいい。今度は皆殺しで終わりだ」
グランの言葉に騎士達は黙り込む。グランはさらに畳みかけた。
「お前達は一敗地にまみれたはずだ。その立場を解さず短絡な行動に走った。助けたければ別の手段もあった筈。自らの不覚悟を恥じよ」
捕らえられたジプシー娘も、元騎士達と一緒にルーケイの地へ移送される。当然、ガンゾの町の領主から身柄引き渡しの承諾は取り付けてある。
娘に対してゾーラクは尋問を試みたが、娘は何一つ喋らない。しかし娘が眠っている間、密かにリシーブメモリーの魔法で調べたところ、こんな記憶が得られた。
『私はシャミラと会った』
『シャミラは正義の人』
『黒い旗はシャミラの印』
『私はシャミラを助ける』
やはり、裏で糸を引いていたのはテロリストのシャミラ。その危険性にまだ娘は感づいていない。
「‥‥おっと、忘れちゃいけねぇ」
ガーオンの手からオラースとファングに金袋が渡された。
「情報料は経費として立て替えておく。手間取らせたな」
捕縛された5人の元騎士達と対面したルーケイ伯アレクシアスは、彼らの一人一人に行動の真意を問う。
「諸君らは利用されていたのに気付かなかったか? ウィルに混乱を来たらせんとする『真の敵』に」
「自分は、騎士の信念に基づいて行動したまでであります!」
早速にそんな答が。彼らが真実に気付くのはいつの日か。