テロリストの黒き旗〜処刑場襲撃
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2007年01月12日
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●オープニング
●叛乱の顛末
精霊歴1039年9月、ウィンターフォルセ事変勃発。これは吟遊詩人クレアなる人物に唆された元フオロの騎士達が、『悪王エーガンを倒し、トルク分国王ジーザム陛下をウィルの王座に』との言葉を旗印に掲げ、王都の門たるウィンターフォルセを灰燼に帰さんとした叛乱である。
ウィンターフォルセは陥落寸前まで追いつめられたが、間一髪で王都からの援軍が駆けつけ、また隣領ルーケイからもルーケイ軍が到来。その圧倒的な兵力の前に叛乱軍は敗北に追い込まれ、ここに叛乱は平定されたのであった。
この叛乱は隣領ルーケイにも飛び火し、ルーケイ伯率いる冒険者達はアーシェン・ローク率いる叛乱軍と剣を交え、これをうち破った。
その後の叛徒達の運命は大きく分かれる事になる。叛乱平定で中核的な役割を担ったのはトルク軍、ルーケイ軍、フオロ軍の三者だが、トルク軍に投降した者達は寛大な処置を受け、裁きのためトルク本国へと移送された。またルーケイ軍も正々堂々と戦った叛徒達に敬意を表し、生き残った者達には捕虜としての手厚い保護を与えた。
対して、フオロ軍に捕らえられた者達の運命は悲惨を極めた。もともとフオロ軍は叛徒に情けなど一切かけず、戦場においては降伏してきた者達も情け容赦なく斬り殺した。捕虜として捕らえられた者は僅かに7名。彼らには苛酷な拷問が連日の如くに加えられ、うち4名の者が拷問により落命した。
やがてエーガン・フオロ王の名により、捕らえられし叛徒達に絞首刑の裁きが下る。処刑を待たずして死んだ4名に対しても、死後に絞首刑の裁きが下され、その死体は絞首台にぶら下げられた。ウィル国王エーガン・フオロに反逆した大罪人故に、その亡骸は埋葬を許されず今も絞首台にある。
生き残った3名にも処刑の日は迫り、残された日々は僅か。
そんな折り、ルーケイ伯が家臣の一人ガーオンに重大な情報がもたらされた。国王エーガンに抗い、処刑の阻止を企てる者達がいるというのだ。
●処刑阻止計画に立ち向かえ
「これを見てくれ」
訊ねた先の冒険者ギルド。総監カイン・グレイスと対面したガーオンは、携えてきた黒い旗を広げて見せた。その旗にカインは見覚えがある。
「テロリストの旗ですね? その旗なら私も知っています。テロリストなる悪しき天界人の旗印です」
旗の黒地にくっきり描かれたのは、交差する赤い2本の剣と、その上に輝く白い星。
「この旗を持っていたのは、ルーケイ伯により一時帰郷を許された若い捕虜だ。話を聞くにそのテロリストとやらに唆され、処刑阻止のはかりごとに引き込まれたらしい。事が決行される前に捕らえられ、俺達の所に担ぎ込まれて来たから良かったものの‥‥」
この若い捕虜と同じく、他にも一時帰郷を許された捕虜が数名、テロリストに唆されて処刑阻止に加わろうとしている。彼らの行動を未然に防ぐ為の依頼は、既にガーオンを依頼主として出されている。
「捕虜の若造から聞いた話だと、処刑阻止を企てる首謀者はシャミラとか言う天界人の女らしい。用心深いヤツらしく、若造がいくら頼んでもシャミラは処刑阻止計画の詳しい話を聞かせなかったそうだ。ただ、魔法を使える天界人が何人か、処刑阻止に加わるという」
その言葉を聞いてカインは思い当たった。ガーオンの言うのは、アトランティスに転移した後にシャミラに拾われ、その勢力に組み込まれた地球人達だ。
「天界人以外にも、シャミラの下で動く手勢は何人かいる。主として国王に不満を持つ連中が取り込まれているようだな」
「では、処刑阻止がどういう形で行われるか、予想してみましょう」
カインは処刑場周辺の地図を描いてみせた。
−王城内−
川========◇ 城門 ◇======== 城壁
川__________┃┃_____−王城外−
川_森_□絞首台___┃┃__________
川森森________┃┃街_______森森
川__________┃┃道_________
川森_________┃┃__________
川森森________┃┃_______森森森
川森森森_______┃┃________森森
川森森________┃┃_________森
「ざっと、こんな感じになりますね」
絞首台は王都の城門のすぐ側にある。絞首台には既に叛徒の亡骸が4体、ぶら下がっている。
生き残りの叛徒3名は処刑の日まで王都城壁内にある牢に閉じこめられ、処刑当日に絞首台まで引っ立てられ、首吊り縄に吊されて命を奪われる。
処刑にはフオロの騎士数名が立ち会うが、その騎士達を束ねるのはギーデン・グレムなる人物。ウィンターフォルセ事変での情け容赦ない戦いで、悪名を馳せた男だ。
処刑当日には、絞首台周辺は群衆でごった返すことになる。その群衆の中に、処刑阻止を企む手勢が紛れ込むであろう事は、想像に難くない。
また王都はもとより、遠方から馬車を仕立てて見物に来る貴族達もいる。貴族の誰かが人質に取られ、その馬車が逃走に使われる危険もあるだろう。
付近には森が広がり、ここは恰好の隠れ場所となる。上手くやれば馬車を隠すことも出来よう。事前に警備兵が足を踏み込み、森の中に不審人物が潜んでいないか調べる事になってはいるが、見落としは付き物と考えた方がいい。
言うまでもなく、絞首台周辺は警備兵によって守り固められる。しかし魔法を使う敵が相手であれば、守りを突破される危険は高まろう。
「気になるのは立会人たるフオロの騎士達です。悪名高きフオロの騎士ともなれば、テロリストにとっては恰好の標的となるでしょう。人を浚うよりも人を殺す方が遙かに容易いもの。処刑を阻止すると見せかけて、真の目的は騎士の殺害である事も有り得ます。しかし彼らの目的がどちらにあるにせよ、大勢の民衆の目前で処刑が阻止されたり騎士が殺害されたりすれば、フオロ王家の威信は大きく揺らぐことになるでしょう。テロリストの目的はそれです」
そこまで言って、カインは沈黙する。
彼は死の宣告を下された3人の捕虜に思いを馳せていた。王家に反逆したとはいえ、彼らは王国を憂いて立ち上がった志ある者達。トルクの、あるいはルーケイの捕虜であったなら、かくも無惨な運命に飲み込まれることもなかっただろうに。
本音を言えば‥‥カインは3人の命を助けたかった。しかしギルド総監という立場上、自分からそれを言い出す事は出来ない。封建国家ウィルにおいては、全ての領主は自らの所領における裁判権を有する。外部の者にはそれに干渉する権利は無い。ウィルにおいて最大の領主とも言えるフオロの王にしても同じ事だ。トルクやルーケイにおいて虜囚達に如何なる処断が下されようと、フオロの王は口出しをしない。逆に、トルクやルーケイの者達も、フオロ側に捕らえられた虜囚の裁きに対して口を挟む事は出来ないのだ。
そして万が一、処刑されるべき捕虜達がテロリストの手に渡ったら? 彼らは捕虜達を自らの陰謀の道具として利用する事は明らかだ。その結果、さらなる混乱がウィルにもたらされ、大勢の命が危険にさらされることになる。
だから、カインに選択の余地は無い。
程なく、カインを依頼人とした依頼が出された。冒険者に与えられた使命はテロリスト達の処刑阻止計画を食い止め、立会人たるフオロの騎士達を守ることだ。
●リプレイ本文
●テロリストの標的
処刑を取り仕切る騎士ギーデン・グレムは憤懣を募らせていた。こんな時にカーロン王子から余計な口出しが入ったのだから。王子の言葉によれば、テロリストなる叛徒どもが処刑阻止を企てているという。その企てを封じる為に、テロリストのやり口に詳しい冒険者達の言葉に従うよう、カーロンはギーデンに求めたのだ。
「エーガン陛下がご健在でいらしたなら‥‥」
余計な口出しなど一切させなかっただろう。何しろギーデンはエーガンが目をかけているフオロの騎士だ。しかしエーガンが王宮を去りし今は、王子の言葉に従うしかない。
それでも、死刑囚の恩赦もしくは処刑の延期を求めるオルステッド・ブライオン(ea2449)に対しては、ギーデンは激しい口調で拒否を示した。
「既に処刑の王命はエーガン陛下より下された! 後は遅延なき処刑の実施あるのみ!」
ベアルファレス・ジスハート(eb4242)からは、彼の考案した処刑具ギロチンの使用を求められる。既に現物は完成し、動物を使った実験も上手く行っていたのだが、ギーデンはこれも拒否。ギロチンでの斬首刑が、伝統的に騎士身分に対して行われて来た斬首刑を連想させ、名誉ある処刑の彩りを与えかねないからだ。謀反人はあくまでも縛り首にして晒さねばならない。
しかし処刑後の遺体については、ルーケイ伯与力男爵ベアルファレスへの引き渡しに同意した。男爵が引き取りの対価として王家に支払った100Gが物を言ったのだ。
テロリストの企みについては華岡紅子(eb4412)から説明された。彼らが狙うのは騎士殺害や死刑囚奪回という実体的な成果よりも寧ろ、『成否に関わらず実行した事による風聞の流布』であると。
「だから、テロリストの行いが正しいと見物人に思わせないような、振る舞いをして頂けるかしら?」
鎧騎士キース・ファラン(eb4324)からも念押しされる。
「俺の見たところ、奴らの狙いはフオロ王家の面目を潰すことだ。くれぐれも下手な挑発に乗らないで頂きたい。俺みたいなパラでも我慢してしっかり役目を果たすつもりなんだから、そんなに大きい身体で出来ないわけ無いよな?」
「ふん! 分かり切ったことだ!」
正直言って、ギーデンは彼ら冒険者達のずけずけした物言いが気に入らない。
「貴様らが恐れるテロリストとやらも、たかが謀反人。にわか仕込みの魔法で何ができるか! カーロン殿下のお言葉がある故、貴様らにも処刑場の警備に加わらせてやる。我々の邪魔にならぬよう気をつけるがいい!」
ギーデンはテロリストを甘く見過ぎていた。それが後々の惨事に繋がるのである。
●面会
トルク家の男爵たる時雨蒼威(eb4097)が、調査を理由に死刑囚達への面会を求めたのも、ギーデンは気に入らない。しかしカーロン王子と冒険者ギルド総監からの強い求めで、認めざるを得なかった。
蒼威が自腹を切って、死刑囚達に最後の食事を提供した事もギーデンを苛立たせた。
「こんな豪勢な食事を、死んだも同然の奴らに与えるのか!?」
「丸腰の人間がまともな食事をする事に、貴方は何を恐れるのだ?」
ギーデンを押し切る形で、蒼威は死刑囚達を会食の場に招く。周囲はギーデンの部下達が固め、交わされる会話に聞き耳を立てている。
蒼威は敬意をもって死刑囚達と接した。彼らが叛乱に加わった経緯を確認すると、蒼威は伝える。
「テロリストなる者達をご存じですか? 麻薬を蔓延らせ、民を扇動して内乱を引き起こそうと企む悪しき一派です。しかも正義の仮面を被って邪悪な本性を隠すから始末が悪い。彼らも今回の処刑に注目しており、何らかの行動を起こすはずです」
監視人が咳払いして睨み付けが、蒼威は怯まず。
「あなた方1人につき50Gの支度金を用意しました。故郷への送金や手紙などを望むなら、これをその為に使います」
さらに、小声で付け加える。
「どこまで可能かは判りませんが、ご家族が心配な方は我が領地へ受け入れましょう。機会があるなら、貴方達のような国を想う人を我が領地へ迎えたいものです」
「面会は終わりだ!」
監視人が乱暴に告げ、食事の半ばで死刑囚達を引っ立てて行く。一人、部屋に残された蒼威は思いを巡らせる。
(「さあ、置ける布石は置いた。万が一、死刑囚達が逃亡してもテロリストにすぐには協力はするまいが。どう状況が動くかは彼等次第か」)
●別れ
依頼の最中、ベアルファレスに引退を告げに来た冒険者がいた。
「ゲイザー殿か」
彼とは見知った仲だ。
「俺も、もう歳だ。ここらが潮時だろうな」
「そうか。いつかまた会おう」
●警戒
王城の上からは処刑場とその周辺が一望に見渡せた。
「まあ、この間やられた時の借りは返せるかな」
ぞくっとするような笑顔を見せてアシュレー・ウォルサム(ea0244)弓を引き絞り、地上の的目がけて矢を放つ。矢は見事に命中。
「やるじゃねぇか」
隣ではギーデンに雇われた傭兵が感服している。
「でも、相手はナーガをもたぶらかすテロリストだからね」
過去のテロリストとの戦いについてもギーデンには伝えておいたが、冒険者達の言葉が軽んじられている節がある。しかし襲撃に備え、処刑場周辺を柵で取り囲む事に対しては、嫌味は言ったが拒否はしなかった。
処刑前日の夕方までには、全ての準備が整った。絞首台と街道周辺には二重の柵が設けられ、絞首台には街道側に設けられた柵の扉を通ってしか近づけない。この正規ルート以外の絞首台付近には落とし穴を設け、穴の中には尖った杭を植えた。
《処刑場略図》
=====◇城門◇===城壁
┌────┐┃┃││−−
│┌──┐│┃┃││見−
││□−\\┃┃││物−
│└──┘│┃┃││場−
└───┐│┃┃││所−
見物場所││┃┃││−−
−−−−柵柵街道柵柵−−
□:絞首台 \:柵の扉
ギーデン配下の騎士と傭兵は総勢30名余り。彼らは柵の内側で絞首台と街道を守る。絞首台を見下ろす城壁にも弓兵が配置される。冒険者達は絞首台周辺、街道、城壁、見物場所に分散して警戒に当たる。
テロリストの放火に備え、絞首台の近くには水を張った樽を多数用意。さらに、処刑場付近の森にテロリストが潜伏することも想定し、森には消火用水桶、鳴子、ブービートラップを仕掛けておいた。
内側の柵は絞首台と街道から3m離れた場所に設け、外側の柵は15m離れた場所に設けた。これは冒険者達に招かれた対テロ作戦のリーダー、ゲリー・ブラウンのアドバイスによる。
「これだけ距離を置けば、大方の魔法は防げるはずだ」
さらに6台の携帯型風信機を要所要所に配置する。完璧に近い防御態勢とも見えたが、ゲリーは懸念する。
「テロリストが何らかの対抗手段を取る可能性はゼロではない」
街道は人通りが多い。テロリストの手先が通行人の中に紛れて、処刑場を偵察しているかもしれない。
●処刑迫る
処刑の日。処刑場は大勢の見物人で埋まった。
時雨蒼威は街道を馬に乗って巡回し、見物人に警告。
「柵を二つ越えた者は造反者として捕らえる。柵を一つ越え、内に戻る意思を見せない者や何度も越える者も同じだ」
これならうっかり越えてしまった者を逐一疑わなくて済む。柵自体は急ごしらえの簡素なものだから、容易によじ登ったり隙間から出入り出来てしまうのだ。
処刑見物にやって来た貴族も多い。冥王オリエ(eb4085)はそんな貴族の一人として行動していた。
「これはあくまで噂だけど‥‥。今回の処刑は、ウィルを狙う敵を討つ為の策である可能性があるの」
これは万が一、テロリストの企みが成功した時に、フオロの威信を揺るがせぬ為の保険。あえてそうさせたのだと思わせるのだ。
「流石、事情通でいらっしゃいますな」
「とにかく人質にされたり馬車を盗まれたりしないよう、十分に警戒を」
何しろトルク領男爵待遇で、W杯の連覇経験もあるオリエの言葉だ。興味本位な貴族達の間に話はどんどん広まって行く。
シュバルツ・バルト(eb4155)は不審な馬車がないか見て回る。現場には馬車が多い。貴族の馬車に庶民の馬車。薪や藁(わら)束を積んだ馬車。馬車の周辺に武装した人間を見かけると、どうしてもそちらに目が行く。
「失礼。その武装は?」
「俺は貴族の護衛だ。馬車を守っている」
話しながら身元を確かめていると、見物人達が沸き立つ。死刑囚が引っ立てられてきたのだ。
「この謀反人め!」
「ざまあみやがれ!」
飛び交う怒声、投げつけられる石。これは人々にとっての見世物だ。その最中、見物人達は異変に気付いた。
「あれは何だ!?」
絞首台に隣り合う森の上空に大きな霧の球が浮かんでいる。冒険者達も色めき立った。
「ミストフィールドの魔法か? しかし、何であんな空中に?」
「森を調べようか?」
「いや、あれは目くらましかもしれない」
しかし、彼らは気付かなかった。人々の注意が霧の球に向いたその隙に、馬丁に変装したゴロツキどもが見物場所近くに留め置かれた馬に細工を始めた事に。彼らはテロリストに金で雇われし者達。霧の球の出現は行動開始の合図でもあったのだ。馬のたてがみや尾が油に浸され、隠し持っていたランタンで火が放たれる。さらに可燃物を積んだ馬車にも火が放たれた。
●大混乱
ぞっとするような馬達の悲鳴が轟く。振り返った見物人の顔は恐怖で強張った。暴れ馬の群れだ。体に火を放たれ、繋がれた燃える馬車の炎に怯えて暴走し、所構わず人々を薙ぎ倒し蹄で踏みつける。
「柵の中に逃げ込め!」
何者かが叫ぶ。パニックに駆られた人々は次々と柵を越え、騎士と冒険者に救いを求めて絞首台へと走る。
「助けてくれぇ!」
だが、そこには罠が。
「うあああああっ!」
落とし穴は次々と破られて行く。恐怖で右往左往する人々によって。
「大変だ!」
城壁の上のアシュレーはプットアウトのスクロール魔法を行使。射程の長い魔法だけに、炎の多くが一瞬にして消える。だが、傷つき怯えた馬の暴走と、人々のパニックは収まらない。既に柵の内側は人だらけ。その中に、手斧を振りかざして絞首台に走る者がいる。敵だ!
咄嗟にアシュレーは矢を放ち、2人の敵を倒す。すると突然、アシュレーの視界が真っ白に。霧の球が一つまた一つと現れ、城壁の天辺を包み込んでゆく。
冥王オリエは人々のパニックを鎮めるのに必死だった。メロディーの魔法を使い、人々の恐怖を歌声で和らげる。その効果が出始めたと思いきや、
「‥‥あっ!」
オリエは竜巻に巻き上げられ、落下した。鎮まりかけていた人々はまたもパニックに。
傷の痛みを堪えて立ち上がったオリエの目に、黒い旗をなびかせて街道を疾走して来る馬車が見えた。
「‥‥来たわ!」
「総員で迎え討て!」
ギーデンの号令一下、槍を構え弓矢を手にした騎士と傭兵が動き出す。ところが、彼らの先頭の数名がいきなり空に舞い上がり、後続の者達の上に落下。続いてまたも兵士達が空に舞い上がり、味方の上に落下する。防御陣は大乱れだ。
「これは何事だ!? ‥‥うわあっ!」
ついにギーデンまでもが、周囲の部下もろとも空に舞い上がる。敵はギーデンを狙い撃ち。続けざまに2度も3度も舞い上がる指揮官の姿に、味方は我を失い右往左往。そこへ軍馬に牽かれた馬車が突入した。
「危ない!」
轍の下敷きになりかけたギーデンの体を、間一髪でキースが引っ張る。
「ぎゃあああ!」
大絶叫。馬車はギーデンの胴体ではなく脚の上を通過し、さらに大勢の兵士を轍の下敷きにした。
●死刑囚奪回
絞首台の上で警戒中の冒険者達が守りを固める。
(「落ち着いて! ここにいれば大丈夫!」)
加藤瑠璃(eb4288)は自分に言い聞かせる。死刑囚の近くなら敵も魔法は使えないはず。
何者かが絞首台に駆け上がる。振り向いた瑠璃の目に、拳を振り上げた敵兵の姿が映った。
「どけぇ!」
ぼがぁ! 敵兵が瑠璃を殴り飛ばす。近くにいた華岡紅子も殴り飛ばされ、2人は絞首台から転げ落ちた。
「おのれ!」
ベアルファレスがスタンガンで応戦。しかし格闘戦の技量は敵兵が遙かに上。強烈な蹴りを食らい、ベアルファレスも絞首台から転げ落ちる。
敵兵は素早く、死刑囚3人の縛めをナイフで断つ。敵の馬車からも敵兵が2人、下りて来た。
「させるか!」
死刑囚奪回を阻まんとシュバルツが突撃。だが、敵の放った魔法の竜巻で宙に飛ばされた。落下してしたたかに体を打つも、起きあがる。しかし今度は、飛来した氷の円盤がその肩を切り裂く。馬車の御者台には覆面で素顔を隠した軍服姿の女が立っていた。テロリストの首魁、シャミラだ。シャミラはアイスチャクラの魔法を操っている。
敵兵達が死刑囚を担いで馬車に向かう。阻もうとした傭兵が、またしても竜巻で宙に舞う。
「敵のウィザードはどこだ!?」
その姿を求め、キースが戦闘馬で駆け回る。
「あそこにウィザードがいるぞ!」
何者かが指さして叫ぶのを聞いた。その方を見れば、ローブ姿の男がふらふらと歩いている。そちらに馬を向けようとした途端、エリーシャ・メロウ(eb4333)の叫びを聞いた。
「そいつは囮です! 本物はあそこに!」
振り向くや、キースは見た。魔法の呪文を唱える貧しい身なりの男の姿を。しかし呪文が成就する前に、時雨蒼威の放った矢が男の体に刺さる。男はよろめき呪文は中断。その機を逃さず、エリーシャが男に組み付いて取り押さえた。群衆の中に混じり、丹念に周囲を観察していたエリーシャのお手柄だ。
●追跡
死刑囚を乗せて馬車が逃げる。逃走の途上、2人の者が馬車に駆け寄った。一人は娘、もう一人は男。魔法の使い手たる敵側の地球人だ。敵兵が手を差し伸べ、馬車の上に引っ張り上げる。
戦闘馬で後を追い始めたキースに華岡紅子が叫ぶ。
「私も乗せて! 役に立つわ!」
「しっかり掴まれ!」
キースは紅子を引っ張り上げて馬に乗せ、馬車を追って街道を走る。
次第に狭まる両者の間隔。するとキースの周囲が霧に包まれた。敵の魔法だ。
「突破する!」
そのまま馬で突っ走る。だが霧を抜けた途端、前方に石の壁が!
回避叶わず。軍馬が石の壁に脚を取られて転倒し、キースと紅子は投げ出された。馬車は近くの森の中へ消えようとしている。
「‥‥しくじった」
「いいえ、まだまだよ!」
紅子がファイヤーボムを放つ。火球は馬車を直撃。乗っていた敵の一人が放り出された。タイミングよく、フライングブルームで空から追跡して来たアシュレーが舞い降り、矢の狙いを馬車から落ちた敵に定める。
「動くな!」
馬車は止まることなく森に消え、やがて森の入口が霧で閉ざされる。
霧が晴れ、森の中に踏み込んだ冒険者達が見つけた物は、放置された馬車のみだった。
●結末
結果的にはギーデンの大失点。死刑囚は奪われたが、敵の数名を取り押さえた事で冒険者達は何とか面目を保った。挽回のチャンスはまだある。