ルーケイ城の謎〜岩島の螺旋回廊
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月10日〜01月13日
リプレイ公開日:2007年01月20日
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●オープニング
新年がやって来た。さようなら精霊歴1039年、今日は精霊歴1040年。
「さて、そろそろ帰るか」
所は冒険者酒場。夜遅くまで仲間達と語り明かしていた冒険者達も、いい加減に眠気を催してきた。そろそろ冒険者街の住処に帰る頃合い。1人、また1人とテーブルを離れて行く。
「俺もそろそろ眠くなってきたので‥‥」
テーブルに残っていた眼帯の騎士も、仲間達に別れを告げて酒場の扉へと向かう。
「あ、俺もそろそろ失礼するな」
同じテーブルに居たルーケイ伯も、カップに残るハーブティーを一気に煽ると、眼帯の騎士の後を追いかけるように酒場から出て行った。2人とも住処が近いから帰り道は一緒だ。
ところが冒険者街の入口に来るなり、2人の足取りがはたと止まった。
「どうやら待ち伏せされていたらしい」
「やれやれ、よりにもよってこんな所で」
2人の前に立っていたのは、自称・騎士学院教官のジェームス・ウォルフ。冒険者酒場の常連で、つい先日も会ったばかり。
「用事があるなら明日にしてくれないか?」
ルーケイ伯は求めたが、ジェームスはやんわりと拒んだ。
「いえいえ、今すぐにでもお伝えせねばならぬ大事な話があります故に。ルーケイ城の秘密に関わる話でございます」
「ルーケイ城の秘密!?」
その言葉を聞くや、眠気はあっという間に飛び去った。
「ここで立ち話も何です。ささ、こちらへどうぞ」
冒険者街に立ち並ぶ空き家の一つに、ジェームスは二人を導く。そして教官の長話が始まった。
翌朝。
「‥‥しかし、あの話は本当だと思うか?」
「何せ、あのウソツキ教官の言うことだからな」
「それでも、この地図だけは役に立ちそうだ」
住処のテーブルの上には4枚の地図が広がる。ルーケイ伯と眼帯の騎士は、その1枚1枚に改めて目を通して行く。
《第1の地図〜竜の関門全図》
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃−↑西
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┏━━┓〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃フ
−┃〜┏┓〜┏┓〜┏┓〜┃−−┃〜┏┓〜┏┓〜┏┓〜┃オ
−┣=┫┣=┫┣=┫┣=┫虹島┣=┫┣=┫┣=┫┣=┫ロ
−┃〜┗┛〜┗┛〜┗┛〜┃−−┃〜┗┛〜┗┛〜┗┛〜┃領
−┃〜陽島〜風島〜地島〜┗━━┛〜水島〜火島〜月島〜┃−
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃−↓東
←トルク領
〜:水面 =:つり橋 −:地面
これは竜の関門の全景図。騎士学院の書庫に眠っていた古文書を元に、ジェームスが新たに作り直したものだ。
竜の関門とは、ルーケイの地を流れる大河の流れのただ中にある要害の地。西方より来たりし大河の流れがルーケイ領内に流れ込んですぐの場所にあり、川の関所として利用されている。
古文書の記録によれば、この竜の関門が造られたのは今より遙か6千年もの昔、伝説の英雄ロード・ガイの時代にまで遡るという。猛り狂うカオス勢力によりアトランティスの全てが呑み込まれようとしていたあの伝説の時代にあって、この竜の関門はカオス勢力に立ち向かう為の巨大な城壁として建造されたのだと古文書は告げる。
「その古文書の出所も怪しいものだが」
「しかし、地図自体は正確なようだ」
伝説の時代に建造された城壁は、聖山シーハリオンに住まう7匹の聖竜を象ったものだったとか。中央には7匹の聖竜の中で最も偉大なドラゴンオブレインボーを象った大砦が築かれ、ここが城壁の要となった。その左右には地、水、火、風、陽、月の聖竜を象った砦が築かれ、それぞれの砦は竜の翼に似せた橋で繋がれていたらしい。その遺跡も幾千年もの歳月を経るうちに崩壊が進んで本来の形は失われ、今では7つの岩島として残るのみだ。
ちなみに古地図にある所の虹島は、現在ではこうなっている。
《第2の地図〜虹島全図》
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜↑
〜〜〜┏━━━━━━━┓〜〜〜西
〜〜〜┃−−−◇−−−┃〜〜〜〜
〜〜〜┃┏━━━━━┓┃〜〜〜〜
〜〜〜┃┃−岩山−−┃┃〜〜〜〜
====┫−−−−−┣=====
〜〜〜┃┃□−−−−┃┃〜〜〜〜
〜〜〜┃┗━━━━━┛┃〜〜〜〜
〜〜〜┃−−−◆−−−┃〜〜〜〜
〜〜〜┗━━━━━━━┛〜〜〜↓
〜〜〜〜〜テーブル岩〜〜〜〜〜東
□:ルーケイ城
◇:水没通路の出入り口
◆:埋没通路の出入り口
この地図は去年の12月、この岩島の探索が行われた直後、探索に携わった冒険者達の報告を元に作らせたものだ。岩島は2つの部分から為っている。即ちそびえ立つ岩山と、岩山の周りをぐるりと囲むテーブル状に張り出した岩の部分だ。
「で、岩山の内側はこうなっている訳だな?」
《第3の地図〜岩山内部》
┏━○━━○━━○━━○━━○━━○━┓上
┃−△−−−−−−▽−−−△−−▽△−┃↑
○−┏━━×━━━━×━━━━×━┓−○
┃▽┃■■■■■■■■■■■■■■┃△┃○
┃△┃■■■■■■■■■■■■■■┃▽┃
○−┃■■?■■?■■?■■?■■┃−○
┃−┃■■■■■■■■■■■■■■┃−┃
┃−┃■■■■■■■■■■■■■■┃−┃
○△┃■■?■■?■■?■■?■■┃▽○
┃−×■■■■■■■■■■■■■■┃−┃
┃▽┃■■■■■■■■■■■■■■×−┃
○−┃■■?■■?■■?■■?■■┃△○
┃−┃■■■■■■■■■■■■■■┃−┃
┃−┃■■■■■■■■■■■■■■┃△┃
○−┗━━×━━━━━━━━×━━┛△○
┃▽△−−−−△−−▽−−△−−△▽−┃↓
┗━○━━○━━○━━○━━○━━○━┛下
○:窓 △:上り階段 ▽:下り階段
×:通行不能の出入り口 ■:探索不能の区域
これが岩山の断面図。ジェームスから渡された古地図の写しだ。但し、断面図に描かれているのはあくまでも岩山の遺跡の1層のみ。実際にはこの断面図が幾重にも重なり、巨大な遺跡を造っていると理解すればよい。
ジェームスの話によれば、岩山の周囲に設けられた通路は螺旋状で、幾重にも岩山の内側を取り巻いて上に伸びている。さらに、上と下に向かう階段が各所に設けられ、一段上と一段下の通路への近道となっている。
「12月の調査では次の事が判った。先ず、岩山の断崖絶壁の部分には無数の小穴が穿たれている。さながら城壁に設けられた、矢を射る為の窓のように。試みに窓の一つをくぐり抜けて内側に入ってみると、中にはストーンゴーレムさえも楽々と通れる程の広い通路になっていた。但し通路の崩壊が激しく、危険なのですぐに引き返した。通路はコウモリの糞だらけ。加えてべたべたした糸のような物が付着し、動物の骨と思われる物も散らばっていた。何かモンスターが住んでいるのかもしれない。そして岩山の内部がこの地図の通りだとすると、この螺旋状の通路のどこかに岩山の奥へ通じる出入口があるはずだ」
ルーケイ伯の言葉に相づちを打ちながら、眼帯の騎士は呆れたように言う。
「しかしあのウソツキ教官殿も、とんだ使命を押しつけてくれたものだ」
ジェームスは2人に言った。噂によればこの岩島の何処かに、ルーケイ家に代々伝わる指輪が隠されていると。その指輪は正統なるルーケイの統治者たることを証し立てるもの。また、ルーケイ家が密かに貯えし財宝も、やはりこの岩島の何処かに隠されているという。
「どこまで本当かは分からんが‥‥」
「確かめるしかあるまい?」
新年早々、岩山の探索はこんな感じで始まった。
●リプレイ本文
●竜の関門へ
冒険者ギルドの総監室で時雨蒼威(eb4097)とエリーシャ・メロウ(eb4333)は誓う。
「騎士位とトルク男爵の名誉にかけ、ルーケイ城の機密保持を誓う」
「トルクの騎士の誇りにかけて、この依頼で知り得た如何なる情報も伯爵閣下の許可無く口外せぬと誓います」
彼ら2人、共にトルクの王に忠誠を誓う者なればこそ、フオロの地における依頼においても誠を尽くす。臣下たる者の振る舞いにより、主たるトルクの王もその人物を量られることを、2人は十分に弁えていた。
残りの冒険者達も秘密保持を誓う。これはルーケイ伯アレクシアス・フェザント(ea1565)の求めによる。探索に関する情報は他言無用、噂が広まれば侵入を試みる輩が出現しかねない。
「誓約は確かに聞き届けました。竜と精霊のご加護を」
ギルド総監カインは冒険者達を送り出した。朝方にフロートシップで王都を発ち、昼には早くも竜の関門の虹島に到着。
「伝説の時代にこの関門が如何なる辛苦の元に築かれ、長い歴史の中でどれ程の勲を立てたか。想像するだけで胸躍ります。その遺跡を探索するとなれば、まるで吟遊詩人の詩のようではありませんか」
7つの岩島が並ぶ絶景を前にして感慨にひたるエリーシャ。
「で、これらの岩島は元々、竜の形をしていたんだって?」
蒼威の見立てたところ、確かに翼や首の名残と思わしき出っ張りが存在する。しかし原型がかなり失われており、一目見ただけで竜を連想するのは無理だ。
虹島の中心、螺旋階段の中央に当たる部分に何かあるかと思って調べてみたが、特に変わった物も無し。
船から物資を降ろしてテントを張ると、冒険者達は2班に分かれ、それぞれ岩山の上と下から調査を開始した。全員プロの冒険者だけあって、保存食や防寒服を忘れた者はいない。
●回廊
平地の上を飛ぶのと違い、垂直に近い岩山の崖沿いに『空飛ぶ絨毯』や『フライングブルーム』を飛ばすのには苦労する。ともあれ、上から調査を始めた冒険者達は、岩山の上方にある穴から内側に入り込むのに成功した。
「うーん、わくわくするね、荒れた古城探索というのは。何かお宝とか眠ってそうでロマンを感じるよ」
のほほんとお気楽そうに言いながら、アシュレー・ウォルサム(ea0244)は手回し発電ライトで辺りを照らす。
「うわ‥‥広い」
天井が高く広々とした通路、それが延々と伸びている。その頂上に王都がすっぽり入る程に大きな岩島だけに、岩島をぐるりと取り巻く通路の長さは相当なもののはず。
「ここが螺旋回廊の最上階というわけか。では、行くぞ」
真っ先に通路の先へと歩み出すシン・ウィンドフェザー(ea1819)。しかし、ものの数歩も歩かぬうちに‥‥。
ガラガラガラ! 崩れる足下。
「うわっ!」
咄嗟に体をひねり、横倒しになって転落より逃れる。さっきまで立っていた場所には大穴がぽっかり。
「いけね‥‥。お宝求めて遺跡を探索、なんて結構長い間やってなかったからな。感が鈍ったか」
足下の床を良く見れば、あちこちに亀裂が走ってひどく危うげだ。
「徒歩はやめて、飛行アイテムを使って進もう」
それでも長さ180cmの『空飛ぶ絨毯』にアシュレーと蒼威が2人乗りするのはいいとして、フライングブルームは長さ120cm。これにアレクシアスとユパウル・ランスロット(ea1389)が2人で乗ると、体が『とっても密着』することになる。
「この体勢ではきつくないか?」
「致し方あるまい。安全の為だ」
薄暗い通路をゆっくり進みながら、端々に目をやる。床には瓦礫が散らばり、コウモリの糞がやたら目立つ。天井を見ればあちこちにコウモリがぶら下がり、さらに蜘蛛の巣までもがベタベタ張り付いている。
アシュレーは先導役。目の前に垂れ下がる蜘蛛の巣を払おうと、空飛ぶ絨毯の上で木の棒を振り回していたが、
「なんて粘つく蜘蛛の巣なんだ」
普通の蜘蛛の巣とは粘りが違う。
ドサッ! 何かが天井から絨毯の上に落ちて来た。
「‥‥うわっ!」
それは人間の頭ほどもある大蜘蛛。
「寄るな、あっち行け! シッ! シッ!」
木の棒を振り回すと、もともと臆病な性質だったのだろう。蜘蛛は絨毯の上から逃げ出し、通路の暗がりへと姿を消した。
「‥‥ふぅ、逃げたか」
嫌味な落下物に注意しつつ、蒼威は通路の観察を続ける。
「しかし、随分と飾り気の無い通路だな」
床にも壁にも天井にも装飾は何一つなされず、のっぺりした岩のまま。実用本位な造りである。それにしてもこの最上階は崩落が激しい。通路の半ばが瓦礫で埋まっている場所がいくつもある。いくつか階段を見つけたが、どれも崩れている。
「見て、あそこに扉が」
アシュレーが真っ先にその扉を見つけた。扉は進行方向に向かって右側、岩島の内側に面した壁にある。
「こういう扉には罠がしかけてあったりして」
慎重に扉を調べるアシュレー。しかし罠どころか、扉そのものが何かおかしい。仲間から借りたエックスレイビジョンのスクロールを使って扉の内側を透視。そしてアシュレーは落胆のため息を漏らす。
「‥‥騙された」
それは扉では無かった。扉の形に壁を彫り込んだだけの偽物だったのだ。
「嫌な遺跡だなぁ」
さらに通路を進み、冒険者達はそれ以上先に進めない場所まで来た。通路は瓦礫で完全に埋まっている。近くには崩れた階段があった。
「次は下を調べるか」
飛行アイテムがあるから、崩れた階段でも上下移動に支障は無い。
●遺物
さて、下からの調査を始めた冒険者達だが。
「随分と大きな水溜まりですな」
手頃な窓から螺旋回廊の内側に入り、下っていくと通路の先は水没していた。ウェットスーツを着込んだセオドラフ・ラングルス(eb4139)が水没した先に進んでみたが、水面が胸の高さに達した所で引き返した。泳げないのにこれ以上進んでは危険だ。
「この先は諦めて、上に進みましょう」
螺旋回廊を上に向かって慎重に進む。上班の冒険者達とも携帯型風信機で連絡を取りながら。
「何じゃのぅ。是が風信器かぁ、この重さはなんじゃろうなぁ?」
背負った風信器の重さに閉口していたヘクトル・フィルス(eb2259)だったが、ふと足下の床の割れ目に目が行く。何かありそうだ。
「ダッケルくん、頼むぞ」
連れて来たペットのダッケル犬を割れ目の中に放つ。やがて、割れ目の中で騒々しい物音がしたかと思うと、ダッケルの後半身が現れた。何かを引きずり出そうとしている。
「うおおりゃあああ!!」
加勢とばかり、ヘクトルは割れ目に向かって大斧「恐獣殺し」を振り下ろした。割れ目周辺の床石が木っ端微塵。だがそれだけに留まらず、さらにみしみしと四方八方に亀裂が走り、床全体が崩落。
ガラガラガラガラ!
「うわあああーっ!!」
もうもうたる埃が立ちこめる。気がつけば冒険者達は、さっきまで床だった瓦礫の上を這い蹲っていた。ダッケルは瓦礫の上にちょこんと座り、その口がくわえた物は足の沢山生えた大きな虫。
「‥‥何て脆い遺跡だ」
「いくら何でもやりすぎだ!」
早々に文句をつけたシュバルツ・バルト(eb4155)の目が、瓦礫の隙間から覗いている剣の柄を捉える。
「こんな所に剣が?」
瓦礫の中から引っ張り出すと、それは長さ1mくらいの両刃の直刀。なにやら曰くありそうな古びた剣だ。手に取ってみると、あつらえたように馴染む。
「ここにもこんな物が」
エリーシャも古びたダガーを発見していた。それらは恐らく床の割れ目に中に落ち、遺跡荒しの盗賊にも奪われることなく残されていたもの。床が崩れなければ見付かることもなかっただろう。怪我の功名であった。
●指輪
上班は螺旋回廊を延々と進むこと数キロ。通路の中は薄暗くて足下も危険だから、手回し発電ライトやランタンの灯りには大いに助けられる。
「しかし、この崩落の酷さは‥‥。自然に風化しただけとは思えない」
1階ごとに丁寧にマッピングされたユパウルの地図を見ると、崩落の有り様がよく分かる。まるで外から強い衝撃を与えられたり、内側で大爆発が起きたりしたような場所がいくつもあるのだ。
「遙か昔、ここでとてつもない戦いが起きていたのではないかな?」
床をよく見れば、瓦礫の合間に粉々になった赤や白の欠片が散らばっていたりする。
「赤い欠片は金属製の武器のなれの果てか? 白い欠片は何かの灰だろうか?」
「灰ならアッシュワードで会話が出来る」
連れて来たエレメンタラーフェアリーのルスに、アレクシアスはアッシュワードの呪文で調べるよう頼む。フェアリーが呪文を唱えると、白い欠片から答が返ってきた。
「大昔の大爆発で作られ、元々は人間の骨でした」
「やはり‥‥」
さらに一行は通路を進む。
ウウウウウ。蒼威のペットのハスキー犬が警戒の唸り声を発した。
「気をつけて! 何かいる!」
先頭のアシュレーが叫び、咄嗟にユパウルがホーリーフィールドの呪文を唱える。通路はこれまでになく蜘蛛の巣に覆われ、前方に大きな黒い塊。そいつは長い足を不気味に動かしながら近づいてきた。人間サイズの大蜘蛛だ。
巨体に似つかわぬ素早さで大蜘蛛が飛びかかって来た。が、ホーリーフィールドに阻まれ、冒険者達に近づけずじたばた動いている。
後退したアシュレーが立て続けに矢を放つ。矢を胴に受け、大蜘蛛の動きが鈍る。
シンが前進。大蜘蛛の頭めがけ、サンジャイアントソード「鬼殺し」を振り下ろす。蜘蛛の頭は一刀のもとに胴より切り落とされ、地面に転がった。
「お見事!」
仲間から感嘆の声が上がる。蜘蛛の胴体はしばらく動いていたが、やがてその動きも止まった。
「うわっ! これを見て!」
蜘蛛の巣に引っかかった人骨をアシュレーが見つけた。
「そんなに古い骨じゃない。まだ新しいよ」
死後数年といったところだろう。
「遺跡に忍び込んだ盗賊のなれの果てかな?」
骸骨がまだ生きていた時に身につけていた服は、未だに原型を保っている。そのポケットをシンがまさぐると、指輪が見付かった。
「この指輪、もしや探していた指輪じゃないか? これをルーケイ城から盗み出した盗賊は、ここで大蜘蛛の餌食になったというわけか」
アレクシアスはシンから指輪を受け取り、試しに指にはめてみた。何故か、全身に力がみなぎる感覚を得た。
●怨霊
上班がさらに通路を進むと、前方に奇妙な物が見えた。
「あれは何だ?」
通路の真ん中で青白い炎が幾つも燃えている。
「あそこで何が燃えているんだ?」
近づくと、耳障りな物音が聞こえてきた。
ウアアアア‥‥。ウアアアア‥‥。
人のうめき声。と、炎の中に人間の顔が浮かび上がる。怨恨に歪んだ人間の顔が。
「気をつけろ! あれはレイスだ!」
レイス、それは成仏できずに凶暴化した幽霊。
「ウアアアアア!」
ぞっとする叫びを上げ、怨霊の群れがこちらに向かって来る。
「出番だな」
立て続けに矢が放たれた。アシュレーと蒼威の弓は、共に魔法の効果を矢に与える。特に蒼威のソウルクラッシュボウは、アンデッドのダメージを増大させるスレイヤー効果を持つ。
「うわははははははははは! 死ねぇ!」
「ギャアアアアア!」
レイス達の怨念の叫びは苦痛の叫びに変わる。矢でズタズタになったレイス達に、魔力を帯びたサンソード「ムラクモ」で止めを刺して回るのはアレクシアスとユパウル。レイス達が消滅した後も、薄暗い通路には猛り狂った高笑いが響いていた。
「うわははははははははは! 死ねぇ、死ねぇ、皆殺しだぁ!」
「おい、しっかりしろ」
シンが蒼威の肩を叩く。振り向いた蒼威の顔は、レイスの怨念が乗り移ったかのように猛々しく。
「蒼威、戦いは終わったんだ」
蒼威の手から黒い弓がぽとりと落ちる。
「‥‥ああ、終わったな」
蒼威の顔から狂気の色は消え失せていた。
ソウルクラッシュボウには使用者の心をかき乱す作用がある。それが欠点であった。
「黒薙、どこだ?」
ペットの猫を探し求めると、蒼威の豹変に恐れをなして絨毯の下に隠れていた。
「よしよし、もう心配いらないぞ」
黒薙を抱いてなでなでしてやるうちに、狂気の記憶も薄らいで行く。
●遭遇
焚き火にあたり、魔法瓶に入れたハーブティーで体を温める。休息してリフレッシュすると、再び調査続行。エリーシャは抱いていたボルゾイ犬のエドを放す。
下班の先頭に立つのは探索に長けたシルバー・ストーム(ea3651)。エリーシャはその後に続き、崩れそうな場所を見つけるとライトニングスピアの柄で離れた場所からつつき、安全を確かめる。殿を守るのは一番体の大きなヘクトル。
「しかし、この通路は錆だらけだな」
至る所に赤錆の山が積もっている。
「こんな所に穴が」
風が吹き上げてくる穴がある。小さくて人は入れない。
「ここは俺が調べるか」
ヘクトルはミミクリーの魔法を唱え、体を変形させて大ムカデに変身。
「うう!」
気色悪そうに身をすくめるシュバルツ。大ムカデが半身をもたげ、踊るようにくねっくねっと曲がる。ガッツポーズのつもりか?
「いいから早く行って来い!」
大ムカデが穴に潜り込む。穴の中では青白い炎が燃えていた。──穴はレイスの巣だったのだ。
大ムカデは皆の所へ逆戻り。穴の中でレイスに攻撃されてボロボロだ。続いて穴の中からレイスが出現。
「ほう、化けて出ましたか。さて‥‥、話の通じる相手ですかな?」
そんな事を言いながら、バックパックからシルバーナイフを取り出すセオドラフ。勿論、話の通じる相手ではないし、悠長に構えるべき相手でもない。セオドラフがナイフを構えた時には既に、シルバーの放った矢がレイスを射抜いていた。
●虹色の光
携帯型風信機を通じて、下班と上班はお互いの状況を連絡し合う。
「そうか、レイスは撃退したか。無事でなにより」
下班のシルバーからの報告だと、魔力を帯びた場所も隠し通路も見付からない。精霊碑文の類も何一つ残されていない。それは上班も同様だった。見付かったのは通路のあちこちに彫られた偽の扉ばかり。
「こうなったら、壁に穴を開けてみるしかないかな?」
物は試し。シルバーから借りたウォールホールのスクロールをアシュレーは広げ、念じた。
「あれ?」
おかしい。壁に穴は開かず、代わりにズズズズという奇妙な震動が伝わって来るではないか。
「何だろう?」
リヴィールマジックのスクロールを広げて念じ、壁を見る。
「!?」
壁は一面、魔法の輝きを帯びていた。さっき調べた時には何ともなかったのに。
一瞬、壁が虹色に輝く。アシュレーの体全体が虹色の光に呑み込まれる。
「アシュレー!」
次の瞬間、アシュレーは仲間達の目の前で消滅した。
‥‥気が付いた時。アシュレーは虹島の天辺に立っていた。
何が起きたのか分からない。ただ、自分が虹色の光に包まれた時、過去のおびただしい記憶が走馬燈のように次々と、脳裏に浮かんでは消えていったことだけを覚えていた。