●リプレイ本文
●お弁当持って
「皆さん、目は醒めましたか? 私はばっちり醒めてます」
早朝。ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は、集まった者達を見回した。
「ニルナは沢山食べるから、沢山作らなきゃだねっ♪」
同じくテンションの高い夜黒妖(ea0351)。
「下ごしらえなど、お手伝いさせて頂きます」
「皆でワイワイしながら作ると楽しいよね」
エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は控え目に、リオン・ラーディナス(ea1458)は元気良く、手伝いを申し出た。
「スムーズにお弁当が作れる様、応援を担当するよ!」
料理は専門外だから、とカイル・クラフト(eb4374)。だけど、折角だし参加したい‥‥エールを送りたいと笑う。
「俺の名前はグラディ・アトール。グラディで構わないよ」
そっちは?、向けられた視線に気づきグラディ・アトール(ea0640)は答えた。言葉は素っ気ないものの、態度は落ち着いたもの。
「では、早速作るとしましょう」
ニルナは言って、腕まくりをした。
「ハンバーグにはソースとケチャップ、サラダには醤油かマヨネーズ、後はパンですね」
「パン‥‥苦菜の酢付けと解し魚を卵とお酢と油と塩のソースで味付けして、これって天界のサンドイッチですね?」
イシュカ・エアシールド(eb3839)が考えたのは、以前の依頼で見かけたもの。味の決め手は福袋アイテムの天界調味料。瞬く間に消費される小袋パック。
「あまり技能がない私でも、天界の家庭料理程度には出来ましたし」
はにかむイシュカに、ニルナと黒妖は微笑み頷いた。
「焼き鳥や鹿の炙り肉には、色合いに青菜を添えて‥‥」
「見た目や色合いも重要だからな」
手伝いながら、グラディはセンス良く盛り付けていく。
「本当に美味しそうですね」
「皆の頑張りの成果だもんな」
エデンとリオンは人数分のそれを詰めていく。手際よく出来上がっていくお弁当。その様を、カイルは楽しそうに眺めていた。
「天界では紅葉狩り、というそうですね。一緒に行きませんか?」
イシュカに誘われたソード・エアシールド(eb3838)は一足先に集合場所を訪れた。愛犬カルとイシュカの愛犬トリオも一緒だ。
「ようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは、妙齢の美女‥‥マダム・パピヨンだ。
「本日はお世話になります」
ごく自然に麗しき貴婦人への礼を取る、アレクシアス・フェザント(ea1565)。
「此方に来て早々貴方のような素敵な御婦人とご一緒出来るとは光栄だよ」
アルヴィス・スヴィバル(ea2804)もまた、丁重に挨拶する。
「つーか‥‥何が悲しくてお前と二人で参加しなきゃいけないんだっつーの」
そんなアルヴィスに、お弁当部隊と共に駆けつけたグラディはガックリと肩を落とす。
「やだなぁ、ぐらっちったら照れちゃって♪」
「二人、仲良いねぇ」
何気なく言ったカイルに、アルヴィスはサラリと一言。
「愛人関係だから」
「何でだ!」
勿論グラディは、即座に否定。
「あの甘い夜は嘘だったのかい?!」
だが、哀しげに呟くアルヴィスに、周囲からはそんな照れなくてもという生暖かい眼差しが向けられ。
「勝手に捏造すんなぁぁぁぁっ!」
ぐらっち‥‥もといグラディは全力で突っ込んだ。
「おっきい声、出さないで。あ〜頭ガンガンするぅ〜」
そこに掛かる控え目なお願い。痛む頭を押さえるミリランシェル・ガブリエル(ea1782)だ。昨夜は(昨夜も?)ちょっと飲みすぎちゃったかなテヘ、なミリランシェル。大きな声もアレだが、これから馬車に揺られるというのはうふふ何ともデンジャラス♪
ドキドキしたりわくわくしたりしながら、愛馬を連れてきた者以外は馬車へと乗り込む。
その中、愛馬ローゼに跨ったユパウル・ランスロット(ea1389)は、エデンに目を細めた。鎧騎士‥‥アトランティス人である彼の胸元で揺れる、十字架に。
(「エデン殿が選んだ一筋の道に、柔らかく、力強き光を」)
ユパウルはセーラへと祈らずにはいられなかった。
●秋空の下
「よく頑張ったな、イシュカ」
ソードはイシュカが無事にたどり着けた事を、喜び合う。
眼前に‥‥いや、頭上に広がるは赤や黄色、鮮やかに艶やかに色づいた木々の葉。風がその枝に軽く触れるだけで、葉はハラハラと舞い落ちる‥‥その、幻想に感嘆の吐息が漏れる。
「ここからは各自好きなように動いて、日が沈んできたらまた集まることにしましょう」
ニルナはニッコリと、皆に缶コーヒーと缶ジュースを配り。
「はい、コー」
最後に手渡した黒妖の耳元に、囁いた。
「久しぶりに2人きりになるチャンスですし‥‥行きましょう?」
耳に掛かる甘い吐息。皆の手前、黒妖はただ「うん」と小さく頷くだけに止めた。
「我々も少し遠出をしても良いだろうか?」
「ええ。危険は無い筈ですわ」
マダムに断り、アレクシアスとユパウルはそれぞれ愛馬で木々の間に消えて行き、イシュカとソードも愛犬と共に連れ立っていった。
「‥‥一番赤い紅葉を探してみない〜?」
残された面々と散策に出るリオンは、殊更明るく声を上げた‥‥え? 独り身が寂しいなんて事はないよ? 本当だよ?
「あら、楽しそうですわね」
それでも、マダムの微笑みは文句なしに麗しかったし、心が癒されたのは本当だ。
「自然がキレイというのは、こちらもイギリスも変わらないなぁ」
皆で歩きながら、アルヴィスはふっと頬を緩めた。
「紅葉狩りかぁ‥‥ジャパンを思い出すなぁ‥‥」
別の場所、同じく落ち葉を踏みしめていた黒妖はパッと顔を輝かせ。
「ニルナ、見て見て、綺麗な色の紅葉ー♪」
色づいた葉っぱを手に、嬉しそうに掛けてくる黒妖にニルナは自然と頬を緩めた。
「紅葉の葉っぱが真っ赤だな〜」
ミリランシェルは一人、散策中。折角だし迎え酒‥‥って、手にしてるのウォッカですが!?
「紅葉舞い散る中ってのも乙よね、うふふ〜」
チラと窺う背後、只今お目付け役付きなので当然の如く居るわけである人物。酒気を帯びた溜め息を一度だけ僅かに吐き出し。
ホロ酔い加減のミリランシェルは、気にした素振りも見せず、再び周囲の光景を愛でる事に専念した。
「この時期歩くと、やっぱり思い出しますよね。最初に旅立った頃の事」
懐かしく告げるイシュカに、ソードはクスリと笑う。
「最初はお前落ち葉で山道よく転んだよな。外歩いた事殆どないって言っても‥‥女のラナより良く転ぶからナイトに散々姫呼ばわりされて」
以前の仲間と四人揃ったのが丁度、この季節だった。自然、話はそちらへ流れる。
「考えてみれば、人生の半分以上一緒にいるんだよなぁ」
しみじみと思い出話を交わしながら、ソードは思う。随分遠い所まで来た気も、するが。
「ま、今日はゆっくりして。又明日から色々あるが、これからも宜しくな」
落ち葉の絨毯の上ではしゃぐ愛犬達。イシュカはその頭を撫でてやりながら、「こちらこそ」と微笑んだ。
●愛と恋と友情と
「重箱なんてちょっと場違いですけど‥‥お弁当箱には変わりありませんし」
散策を楽しんだ後、ニルナはレジャーシートを広げた。
「歩き回ってお腹すいてたから、おいしい♪」
皆で作ったお弁当、キレイな空気、そして、隣にはニルナ。サンドイッチを口にしつつ、幸せいっぱいの黒妖。ニルナはニコニコニコニコ、恥ずかしくなるくらいの笑顔を浮かべ。
「はい、コー‥‥あーん♪」
ハンバーグを、差し出した。咄嗟に周囲を見回してしまう黒妖。
「2人っきりですよ、誰も見てません」
「まぁ、人目がなければ少しぐらいは良いか‥‥な?」
黒妖の照れた呟きに、ニルナの目がキランと光る。
「私にもおすそ分けして下さいね」
「もう‥‥しょうがないなぁ」
グッと身を近づけるニルナに、黒妖は苦笑交じりに目を閉じた。
「ん‥‥ふふ、ごちそうさまです」
恥ずかしいし照れくさいし、多分自分の顔は今、拾った紅葉よりも真っ赤になっているんだろうなぁ、と黒妖は思う。それでも、構ってもらえるのは嬉しいし、こんな時間を過ごせるのは、何にも代え難い幸せだった。
「はい、あ〜〜ん」
同じような光景を繰り広げていたのは、アルヴィスとグラディ。但し、こちらは照れでなく怒りに拳を震わせているが。
「いいねいいね、恋の季節!」
カイルの冷やかしは微妙に自棄気味。
「いや! だから誤解だから!」
でも、既成事実は着々と作られていく‥‥かもしれない。
「多少なりと女の子の手で作られた物は良いよね、うんうん。コッチに来て缶コーヒーが味わえるのもまた素晴らしい♪ 出来れば女の子をメインディッシュに添えて‥‥」
お弁当に幸せ一杯になりつつ、カイルは周りを見回し溜め息一つ。女性、マダムしかいないし。
リオンはそんなマダムと、手にした真っ赤な葉っぱを見比べていた。と、頑張れ、とグラディに背中を叩かれ、意を決してそれを差し出す。
「最も美しい赤を用意したかったけど‥‥嗚呼、やっぱり貴女の胸のうちに燃え盛る愛の炎には勝てなそうだッ」
「まぁ、ありがとう」
笑むマダム、微かに触れた手とほのかに香る上品な香水の香りに、胸が高鳴る。
「リオンくんは勇敢で知恵があって気が利いて、子供や動物にも優しいし、お勧め物件だよ」
にっこりと邪気の無い笑顔を浮かべるアルヴィ。ただその瞳は、悪戯っぽく輝いている。
「あっそうだ! いい機会だし、マダムの恋愛や愛について話を聞きたいなぁ、と」
ごまかし気味だが、本音でもあった。実はリオンには現在、気になる女性がいたりする。だけど今、マダムを目の前にして、その美に対して純粋な‥‥敬意にも似た感動を抱く自分がいるから。
「恋は衝動、恋は情熱、恋はときめき、純粋な気持ち。愛は意思、深き信頼、満ち足りた気持ち」
マダムはリオンを優しく見つめ、歌うように言葉を紡いだ。
「でも、恋も愛も人を想う気持ちに、動かされる気持ちに、タブーなんてありませんわ」
「そう‥‥かな。じゃあ、もしこの気持ちが許容されるのだとしたら、心置きなくマダムの手を取れるわけだね!」
ギュッ、つい手を取ってしまったリオンに、マダムは艶やかに笑む‥‥楽しそうに。
「こみ上げてきた衝動に突き動かされるように、リオンはマダムを抱き寄せその唇へと‥‥あれ、違った?」
こちらも楽しそうに勝手なナレーションしていたカイルに、赤い顔をしたリオンはブンブンと首を横に振った。
「天界の人から聞いたですが、恋は下心、愛は真心、らしいです」
「‥‥下心って意味、分かってる?」
慌ててマダムの手を離したリオンに、バド少年は「‥‥いえ」と少しだけ悔しそうに首を振り。
「下心っていうのは‥‥」
「子供相手に何言う気だ!?」
アルヴィスに、グラディは脊髄反射的に突っ込んでいた。
「こぉら! 折角こんな景色の良い所に来て、何でそんなつまんなそうな顔してるかなぁ?」
と、丁度散策から戻ってきたミリランシェルがバド少年に後ろから抱きついた。むぎゅっと抱きつかれたバド少年の顔が途端、真っ赤になった。
エデンはそんな光景を、優しく目を細め見つめていた。赤や黄色、色とりどりの葉の下の、笑顔。そんな中、ふと想うのは大切な人達の事。エデンはシートに落ちた紅葉の葉を数枚、そっと拾い集めた。
●紅葉色の思い出
「どうぞ、アレク殿」
遠駆けしたユパウルとアレクシアスもまた、昼食を取っていた。クルミや木の実をハチミツと共に練りこんだパン、香草入りのパン、ベリー入りのヨーグルト‥‥全てユパウルお手製だ。
「美味いな。こちらも中々の味だぞ」
素直に舌鼓を打ちながら、取り出したワインを勧めるアレクシアス。
「美味い食事と美味いワインと、何より素晴らしい景色‥‥最高だな」
吸い込む空気は冷たいが故に澄んで。
「そうですね」
答えながら、ユパウルの胸にふと、郷愁が過ぎる。黄金色の木々。紅に染まった落葉。遠く、揺れる小麦の穂。それらは故郷を思い出させ。
「この季節、どう過ごしていたんだ?」
察したアレクシアスは尋ねた。こんな風にのんびりと、友と互いを‥‥互いの知らなかった頃を語り合うのも悪くない。
二人の間を風が吹き抜けていく。風が、赤や黄色の葉を撒き散らす。
「少し冷えてきたか」
アレクシアスはそして、マントをパサリとユパウルに掛けてやった。らしくなく驚いた顔が、少し可笑しい。
「この半年で実に様々な事が起き、変化した、が。これからもユパウルには変わらず傍に居て欲しいと思うのは、我儘だろうか」
だから。落ち葉を一つ手に取り、微笑んだ。他意はない‥‥彼が自分と同じ気持ちを抱いていない事を、ユパウルは知っている。それでも胸の奥‥‥決して見せまい気取られまいと誓う胸の奥底が熱を帯びる。
一年前は、見知らぬ同士だった。なのにいつの間にか、かけがえの無い存在になってしまった相手。
「それはこちらからお願いしたいくらいですよ」
ひとかけらの切なさは、共に居られる幸せをより感じさせるエッセンスのようなもの。ユパウルは隣に居られる今を、ただ嬉しいと微笑を刻んだ。
「帰りがけ、美しく色づいた葉や木の実を拾っていきましょうか。リースを作って届ければ姫も喜びましょう」
今は思うように外に出れぬ姫を思い描くユパウルに、アレクシアスも「名案だ」と顔をほころばせた。
「‥‥」
グラディはふと、足を止めた。それを待っていたかのように、頭上から舞い降りる一つの葉っぱ。キレイに鮮やかに色づいたそれは、ツと伸ばしたグラディの手に丁度、収まった。
「‥‥思い出は作れなかったけど、せめて、思いだけでも」
脳裏に浮かぶ彼女を想い、グラディはそっと紅葉に口付けた。この想いが届くよう、願いを込めて。
「いくらお腹が減っても、葉っぱ食べちゃダメだよ」
と、にやにや笑みつつのアルヴィスに、グラディは慌てて憮然とした表情を作った。
「誰が食べるか!」
想いを込めたプレゼントを、胸にそっと忍ばせて。
「ゴミはちゃんと持って帰りましょうね。来た時よりも美しく、でしたっけ? 別の方から伺った事がありますけど」
イシュカの提案で、一同はちゃんと後片付けをしてから帰途に着いた。少しの名残惜しさと、今日はありがとうの思いを込めて遠ざかる木々を振り返るイシュカとソードを、紅葉は静かに佇み見送っていた。
『お元気でしょうか。あまり会いに行けずすみません』
そうして、帰ってきたエデンはその日の内に、大切な人達に手紙をしたためた。婚約者の少女と、
『姫のご懐妊おめでとう御座います。陛下もお体をお大事に』
敬愛するエーガン陛下へと。少しでも秋を届けられたならば、そう祈りを込めて。