●リプレイ本文
●久しく見たその顔は
「フォルセもやっとふっこうしてきたの。でもみんながたのしくくらせるために、これからもいろいろがんばるの♪」
フォルセの女領主であるプリンセス、レン・ウィンドフェザー(ea4509)がフォルセの町並みを見て元気いっぱいにそう告げる。
今回の主軸でもあるといえるギルス・シャハウ(ea5876)もやる気は十分のようだ。
「お、いたいた。プリンセス、こっちだ」
「るーちゃんなのー! お迎え、ありがとうなのー」
「いや、領主の出迎えは当然の仕事なんで‥‥っと!?」
ウインターフォルセの軍師であるルキナスが手をひらひらさせながら現れるとその婚約者である麻津名ゆかり(eb3770)が挨拶するよりも先に彼に飛びついたのである。
一瞬ふらつくもルキナスは体勢を整え、ゆかりの頭を軽く撫でてやった。
「おいおい、いきなり抱きつくなよ。いや、積極的で俺は嬉しいんだけど‥‥」
「とてもお会いしたかったです、ルキナスさん‥‥」
「ん、俺も会いたかったんで問題なし」
にっこり笑うルキナスを見て、レンはうんうんと頷きながらまた町並みを見渡す。
そこには幾度なる戦の傷が癒えたフォルセの町並みがあった。
人が行き交い、賑やかな町並み。そして、子供達のはしゃぐ声。
「ここで戦争が起きたなんて信じられませんよねー」
「本当なの。でも、本当の戦いはこれから始まるなの。このフォルセをよりよい町にするのー」
「では、まずは教会から始めましょうか。人々が安らぎを感じて頂けるような場所にしたいですし」
「そうなの! 頑張るなの!」
ギルスとレンは笑みを浮かべ合いながら、イチャパラしている二人を放置するのであった。
●聖書を作ろう
こういう事をする時、ギルスは一つやらなくてはいけない報告をする事を思いついた。 それは、王都の教会本部に話を通すというものであった。
ギルスは一度フォルセを離れ、王都へと飛んだ。勿論、その間の作業の指示は出してある。
中心となるのはケミカ・アクティオ(eb3653)に委託されていた。
「さぁ! きりきり作っていきましょう!」
「絵を描けばいいのー?」
「そうよ。ギルスは知らない人でも楽しめる絵本のようなものを作りたいって言っていたし」
「なるほどねぇ‥‥そんじゃま、俺も手伝いますかね。プリンセスがセトタ語に書き直したこの文字を清書すりゃいいんだろ?」
ルキナスが訪ねると、ケミカがそれに同意するかのように頷く。
「出来れば絵とかを載せれる部分とか作ってみてくれるかしら?」
「あぁ、それは努力してみるぜ。文字を分割すればいいだろうしな」
ルキナスが作業に加われたのは、レンが施しておいたセトタ語への翻訳だった。
もしこれが行われなかった場合、幾ら彼でも作業には加われなかった事だろう。
「そういえば、画材は他に何か必要ですか?」
作業を開始しようとするケミカとレンに信者福袋(eb4064)が声をかける。
画材は特に高い。入手困難といってもいい程。だから調達してこようと言うのだが‥‥。
「そうね、ペンと筆とインク数個と‥‥」
「あー‥‥その調達、ちょっち待った」
言われたものをメモしている信者の肩に手を置いてルキナスが声をかけて中断させる。「筆なら何本かは俺の執務室にあるぜ? 後、インクも数個はある。足りない分だけ買い出しって形にするといい。俺の名前出せば売ってもくれるだろ」
「ルキナスさん、どうしてそういうもの持ってるの?」
「あ。るーちゃんはそういえば地図専門でも絵師だったなの。失念してたのー」
「そーいう事。ま、そんなにたいした物もないし使い古しだけどな。使ってくれ」
ルキナスの言葉にケミカは喜んで頷いた。
これで結構な経費削減になったからである。
そして、その頃王都ではギルスが教会本部に足を踏み入れていた。
「今回はどのようなご用ですか?」
「ウィンターフォルセに教会が。軍師であるルキナスさんの好意によるものです」
「それは素晴らしい事です‥‥それだけの報告ではないようですが‥‥?」
ギルスが話しているのは笑顔がとても優しい教会の人間。上位者でもあるのだというのでギルスは彼に話をする事に決めたのである。
「此方の人でも手軽に読める絵本形式の聖書翻訳を開始する事を報告しに参りました。勿論、新領主様も同意しておられます」
「それはそれは‥‥とても心強い事ですね。それでは、貴方に僕からもお願い致しましょう。是非フォルセにてそのお力、ふるって頂きたいのです」
上位者の彼がそういうと、ギルスは嬉しそうに笑うのだった。
が、勿論翻訳の高度に宗教的な箇所の解釈と表現方法については指示とアドバイスを受けるという事が前提となるのだった。
●荷物の運び込みと人物捜査
「参ったぜ‥‥向こうとは世界が違い過ぎる‥‥」
そう絶句しているのは一始(eb8673)である。
彼はまだこの世界に来て日も浅い天界人である。
その為なのか、こういった町の地理に詳しくはない。
「大丈夫ですよ、始さん。私、お手伝いしますから」
笑ってそう言ってくれるゆかりが今は心強い。
足りない画材を買い出しに行っていた信者も戻ってきた。
これで荷物の運び込みは順調に進むだろう。
「まずはこれか。何だ? 像?」
「あ、それは女神様の像ですねー。出来れば真ん中の祭壇の所に運んでくださいー」
教会関連の指示は全てギルスに委ねられている為、ギルスがそう指示する。
それに応じて始と信者が運んでいくのである。
「こ、これも本類でしょうか。お、重いですね‥‥」
「おいおい、そりゃ無理ってもんだ。俺に貸せよ」
ゆかりが書類の荷物で奮闘していると、始が横からその荷物を持ち去る。
「女性は捜査の方に行っていいぜ? こういう事は男の仕事だ」
なんだか頼もしく見える始を、子供男爵であるユアンはあこがれの目で見るのだった。
「ウィザードギルドか‥‥」
スキャッグス・ヴィーノ(eb8483)はゆかりの問いに解説する。
「ウィザードの育成を一手に扱う所です。精霊魔術兵団はここの出身者で構成されているため、大きな政治的な影響力と国に公認された魔法兵力を合わせ持った存在だ。その特異性と強力な軍事力に裏付けされた権力は、ひょっとすると一分国にも相当するかも知れないなぁ。少なくとも大規模な騎士団にひけを取らない物だ。
ここの出身者は国王対する忠誠よりも、ウィザードギルドに対する忠誠を優先する。ギルドの統制は厳格で、ウィザード排斥につながる様な暴走は当然禁止されている」
そこでスキャッグスは声を潜めて
「こんな事を言うと御領主様‥‥『魔の破壊神レン・ウィンドフェザー』様には耳の痛いことでしょうが‥‥」
「例の事件だったら?」
「もしアトランティスのウィザードなら除名処分に魔術の永久封印とか、されていたところだろう。だが、あくまでもそれはウィルのギルドで学んだ者に関する話。御領主様以外でも天界人の場合、ギルドを迫害したり戦いを挑まぬ限りあちらから嘴を容れてくる事は無いだろう。何せ、異世界からお出まし戴いた救世主たる天界人様だ。いや、御領主様を批判などしていないぞ。とにかく、こういう論理で融通の利かない一枚岩のガチガチの厳格さを保っているからこそ、一般人の理解を築いてこれたのがウィルにおけるウィザードの実体だ。他にウィザードギルドの仕事としてはマジックアイテムの調査保管作製などの行っている。詳しいことは僕にも判らないがな」
スキャッグスはまだ掛けだしのウィザードである。それ以上詳しい情報は知らなかった。
「では、私と静さんは調査の方に入りましょう」
{そうですね。男性の方の調査もした方がいいと思うのですが‥‥」
殺陣静(eb4434)がそう言うと、ユアンは苦笑を浮かべた。
「本来ならそっちもお願いしたいのですが、流石にこの女性だらけの街に男性が来る事は少ないんですよ。はばかられるみたいですけど」
「なるほど。確かにこの街の男性は働きに出ていますからね」
「ですから来るのは大半ご婦人です」
ユアンがそういうと、静も納得したのかゆかりと二人でその女性達の元へと向かった。 前もってレンとルキナス、双方に方法を打診したのであるが幾つか制約がついてしまった。
一つは魔法を使いすぎない事。出来る事なら話術の中で見極めてほしいという事。
この街の人間は未だに魔法に完全にうち解けているわけではない。
容認はしているものの、影で怖がっている者もいるだろうという判断だ。
しかし、これが敵であった場合は捕縛という形をとっているのだ。
信者から住民登録実施の案もあった為、ユアンは其方の準備に取りかかっている。
それまでの間、自分達の目で怪しいかどうか判断する必要性がある。
‥‥そもそも彼女等の近辺捜査はそんな真面目な話の為ではないのだが‥‥。
「えっと、あの女性達かな? 作業を手伝ってくれるというお話でしたし」
「そうみたいですね。警戒は怠らないようにしておきますね」
静がそういうと、ゆかりは小さく頷いた。
質問するのは静が適任という事で静が担当する事になった。
「あら? 新しい住人でしょうか?」
「はい、そうです。よろしくお願いします」
「此方こそ。そういえば、どうしてフォルセを選んだんです?」
静が訪ねると、女性達は顔を見合わせて小さく笑った。
「だって、この街の主導権は女性にあるんでしょ?」
「私達、仕事もしないで威張ってる男達が主導権を握る街から逃げ出してきたんです」
「ここなら女性ばかりだし、安心出来ると思ったの。それに何より若くて格好いい軍師がいるって聞いて‥‥」
女性の一人の言葉にゆかりはちょっと頬を赤らめる。自分の事を言われているのではないのにゆかりが照れているのだ。
「さっき教会で見たわよ? すっごく格好良かったわー‥‥」
「ホント!? やっぱりこの街選んで正解よね♪」
「でも、彼はナイス害なんですが‥‥子供から老婆まで口説くという‥‥」
「あら、それは博愛主義だからではなくて?」
貴婦人が一言そう言えば、他の女性も納得したかのように頷く。
どうやらこの街の広報は知らぬ間にルキナス自身がなっていたようである。
ゆかりにとっては嬉しいやら悲しいやらであるが‥‥。
「そういえば、もう一人可愛い男の子がいたじゃない?」
「あぁ、さっき大きな書類を持って来た子?」
「そうそう。あの子、住民登録をしてくれって言ってたけど‥‥あの子も政治に関係してるのかしら?」
女性達の質問に静とゆかりは顔を見合わして彼女等に真実を伝えた。
彼はフォルセ名物の子供男爵であるという事を。
すると彼女等は大はしゃぎして見せるのである。どうやら、ただの追っかけミーハー娘達だったらしい‥‥。
「この事、報告するんですか‥‥?」
「するしかない、でしょうね」
二人はただ溜息をつくしか出来なかった。
●フォルセの今後
「ある程度復興してきたとは言え、今後世情がどう動くか予断を許さない状況である事には変わりない‥‥か」
聖書作りも第一段階を終えた。その為、レンとルキナスはそれぞれ職務に戻った。
まず第一の職務は子供男爵であるユアンともう一人の男爵であるルーシェ。
そしてレンとルキナスの会議だった。
「ユアンくん、さっき信者さん達が持ってきてくれた案はどうなったなの?」
「とりあえずルーシェさんと僕とで実施はしています。民のみんなも協力してくれているみたいです」
「大半はユアン様の為だと申しておりましたけれど、どうしてそのような人気が?」
「隠れファンが多いとか?」
ルキナスがからかい気味に言うもユアンは首をかしげる。
「それと、今後のフォルセの方針はみんなからの提案を募りたいと思ってるのー。勿論、街のみんなからも募るの」
「俺はそういう方向で問題ねぇと思うぜ?」
「私も異論はありませんわ」
ルキナスとルーシェがそう言う中、ユアンは少し首を傾げながら天井を見上げた。
「平等な意見は確かに必要だと思います。でも、冒険者と住人は力が違うと思うのです。提案を通したいからと言って魔法使用とかは禁止していただきたいです」
「それは勿論レンがなんとかするなの。そんな卑怯な事はダメなの」
「なら安心出来ます。僕はプリンセスに従います」
ユアンの言葉で、今後のフォルセが進む方向が定まったのである。
しかし、影で動いている者もいた。
「ラシェルちゃん、これーなの!」
「これって‥‥最近来た女の人達の資料?」
「調べて先にこっちに報告して貰ったなの。るーちゃんが捕まらない時はこの人達の所にいると思うのー」
「プリンセス、貴方‥‥やるわね」
資料を受け取りながら不気味に笑うラシェル。
その笑顔の意味を察してか、自然と不気味な笑顔になるレン。
何よりもの鉄槌。
それはラシェルのハイキックであるだろうと察して‥‥。
しかし、この程度で懲りればナイス害になっていないのであった‥‥。