騎士の卵達〜訓練という名の地獄
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:12人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月30日〜12月04日
リプレイ公開日:2006年12月09日
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●オープニング
「リュート殿、此処におられましたか!」
「おや、ジンバさん。どうかなさったんですか?」
アゼリュード・ナイトにジンバ・アゼッペが一枚の手紙を手に声をかけてきた。
ジンバは格闘術に長けており、この学院では『鬼教官』と呼ばれる程の人物だ。
双方代わりばんこに殴りつけ、先にダウンした方が負けなんて決闘もやらかしている。
「聞いたか、リュート殿! バラン殿がまた功績をあげたそうだ!」
「バランって‥‥あのバラン・サーガですか?」
「そうだ。あの御人が今度は巨大なオーガを二匹、投げたらしいのだ!」
なんてバカな話なんだろう。誰もがそう思う事だろうがこれは事実。
先の戦闘でバラン・サーガはオーガをぶん投げている。
更にバランはこのアトランティスでは有名な為、その話の広まりも早い。
「で、彼がどうかしたのですか?」
「うむ。そこで相談なのだが‥‥バラン・サーガをこの学院に一日教師としてお招きすることになった!」
‥‥あまりにも唐突なことだった為か。
カランッ
という音が廊下に響いた。リュートが思わず持っていた道具を落としたのだ。
「本気ですか?」
「本気と書いてマジと読むのだそうだ。私とバラン殿で特訓をする!」
「‥‥‥‥生徒には連絡したんですか?」
「うむ、それをリュート殿に頼みたい」
リュートの顔色も段々と悪くなっていく。
バランは鬼の特訓で有名。ジンバは鬼教官として有名。
この二人が手を組めば、地獄なんて生ぬるいだろう‥‥。
「わ、分かりました‥‥連絡はしておきますが‥‥」
「うむ! 後は頼んだぞ!」
はっはっは! と大声をあげながら去っていくジンバの後姿を、リュートは目頭を抑えながら見つめていた。
それは、生徒達への哀愁の気持ちなのだろうか‥‥。
「皆さん、集まりましたね? 今日はお知らせがあります。とても大事な」
「お知らせ?」
生徒の一人、ジークフリード・アギドがそう聞き返す。
「そうです。明日、特別授業があります。特別講師をお招きする予定です」
「特別授業!? 面白そうじゃん!」
レザード・グリースが元気いっぱいに言う。
それを哀れむかのような目でリュートは見つめている。
「でも、特別講師って誰?」
「バラン・サーガさんです。皆さんも知っている通り、騎士としては有名なお方です」
「バラン・サーガ?! あのオーガを一人でやっつけるっていう人!?」
「やったぜ! これはいい機会だぜ!」
「‥‥でも、先生? 特別講師ということはもう一人講師がお付に?」
「勿論です」
「‥‥まさか?」
察する能力が早いジークフリードは冷や汗を少し流す。
それに気づいたクロード・ナッハも嫌な予感がする、ということで座りなおす。
「どうせリュート先生なんじゃないの?」
「ジンバさんが担当することになりました」
‥‥‥‥。
『えぇぇぇぇぇぇっ!?』
暫しの沈黙の後、生徒全員がそう声をあげる。
ジンバの名を聞いただけでも逃げ出す生徒がこの学院には多いのである。
「ちゃんと逃げないように受けてくださいね? でないと私が大変な目に会うんですから‥‥」
「で、でもそれはちょっと‥‥」
「ボロボロになるし‥‥」
「死にたくない‥‥」
生徒達は口々にそう言うと、エスケープしようと相談しだす生徒まで現れた。
このままではリュートが大変な目に合ってしまう。
そう判断したジークは解散後、リュートの隣へと駆け寄る。
「エスケープしようとしている奴がいるみたいだぞ」
「そうですか‥‥困りましたね。私もその時は授業ですし‥‥」
「冒険者に頼んでみたらいいんじゃないか? そうすれば逃げる奴もいないだろ?」
「‥‥ジーク、君は受けるつもりなんですか?」
「リュートが大変な目に合うのは、困る‥‥」
小声で呟かれた言葉。その言葉を聞いて、リュートは優しくジークを抱きしめる。
が、すぐにでこピンをするのである。
「学校内では先生をつけなさい、ジーク君?」
こうして、『エスケープ捕縛隊』の依頼がギルドへと成されたのである。
●リプレイ本文
●敵を探って突破しろ
綺麗に澄んだ空を見上げ、レザードとクロードはそろって肩を落とした。
集まった逃走訓練生達を見渡し、レザードが告げる。
「俺達の邪魔をするため冒険者が雇われたらしい。奴らの中にはここの卒業生もいるって話だ。だが案ずる事はない! 何たって俺達がここの現役だ、ここについては誰より詳しい! 絶対出し抜くぞ! 横暴な大人達を許すな!」
おぉーっ! と盛り上がる訓練生達。
その後彼らは、どこから入手したのか冒険者達の情報を交換しあい、逃走経路の検討に入った。
最後にクロードが問う。
「ジークは?」
「あいつは敵だ」
レザードがすっぱりと言った。
コソコソと壁伝いに動く黒い塊がひとつ。逃走訓練生グループAである。
木の陰に隠れるように腰をかがめて出口を目指す。ちょうど人ひとり這って出られるくらいの穴があいた壁があるのだ。
周囲を警戒しつつ訓練生達は目的地へ進むが、どういうわけか気がつけば濃い霧に囲まれていた。
驚いた訓練生達は思わず顔を上げてしまった。
すると、目の前に金髪の華奢な女性が困ったような微笑を浮かべて立っていた。
「こんなところでどうしたのですか? もうすぐ特別授業が始まりますよ」
イリア・アドミナル(ea2564)は訓練生達を刺激しないように穏やかな口調で言った。
訓練生達はフードの下で目を交し合う。
彼らは小さく頷くと、一塊になってイリアに突進した。
相手は一人と踏んで強行突破を図ったのだ。
しかし、そこはイリアも予測済みだったのか、彼女の口からは躊躇うことなく魔法の詠唱が紡がれた。
先頭を走っていた訓練生の一人がアイスコフィンでカチンコチンにされ、続く者達の足が慌てて止まる。
誰かが呟いた。
「金の悪魔だ‥‥」
恐怖の呟きはたちまち伝播し、慄きに染まる。
パニックになって収拾がつかなくなってしまうかと思われた時、のんびりした声が頭上から降って来た。
「この霧はイリアだったんだね」
青年の声は力強い羽音にかき消されそうだった。
何の羽音かと顔を上げた訓練生達の顔色からいっせいに血の気が引く。
「何でグリフォンがいるの!?」
しかしグリフォンにまたがるアシュレー・ウォルサム(ea0244)は、爽やかに微笑んでいる。
「ちゃんと許可はもらっているよ。ところであんた達、まさか騎士学院の生徒が敵前逃亡なんて真似はしないよね。騎士を目指すんだから、そんなことしたら失格だよね。そうは思わないかい?」
とても、とてもやさしげな笑顔なのに、背筋がゾクリとするのは何故?
金の悪魔にグリフォンを操る笑顔の魔王‥‥勝てない。
死期が迫ったような彼らの顔色にさすがに気の毒に思ったイリアは、メロディーのスクロールを広げて歌った。
♪今こそ視よ、そこにいる英雄を、民の嘆きを聞きつけて、嘆きを払う猛き剣、我らの希望と憧れに、続く意思こそ勇気なり、今こそ我らも立ち上がり、その勇気に続かんと、思いを振るい、その姿に学ばん♪
訓練生達はイリアとアシュレーに連れられて校庭へ向かった。
グループA、一丁上がり。
同じ頃、逃走訓練生グループBは、一人の大男に追いかけられていた。本当に大きい。何故なら彼はジャイアントだから。
「地獄の訓練も皆で受ければ怖くないって!」
背後から迫り来るヘクトル・フィルス(eb2259)の呼びかけに、必死に逃げる訓練生の一人が叫び返す。
「何人で受けようと、怖いと思うのは個人の気持ちですっ」
「それもそうだが、このまま追いかけっこを続けるつもりか? 俺はかまわんけど特別授業とどっちがキツイかなぁ!」
「だったらアンタ、諦めてくださいよォ!」
「それはできんな! 仕事だから!」
あっさり断られた訓練生の目から涙が散った。
一見呑気な鬼ごっこのようだが、実はヘクトルが誘導していることに訓練生達は気付いていない。哀れな子羊達は確実に追い詰められている。あの人のところへ‥‥。
発展途上な青少年達の体力はいよいよ限界に近づいていた。
そしてこの鬼ごっこも終局を迎えようとしていた。
もはや何のために走っているのかもわからなくなってきている訓練生達は、地の利のないヘクトルをどうやって撒くかを考えることもできず、目に入った裏門を目指した。
あそこを抜けたら天国だ!
希望が見えた瞬間、ナイスバディな女性が立ちふさがった。
長い金髪をポニーテイルに結ったシュバルツ・バルト(eb4155)は、青い瞳に物騒な光を煌めかせ、訓練生達に拳を突き出す。
そこには恐ろしげなナックルが!
「私に殴られ、連れ戻されるのと自分の足で戻る‥‥どっちか選べ!」
寿命が縮まりそうな視線に震え上がった訓練生達はいっせいに後ろを振り向くが、そこには黒髪をなびかせた褐色の肌の大男が腕組みしてニヤリとしていた。
「ナイスバディの鬼女に撲殺されるか、後ろの黒い死神に塵にされるか‥‥」
無礼千万な表現だが、訓練生の気持ちを見事に表した言葉だった。
シュバルツはやれやれとため息をつく。
「授業を受ければいいだけだろう? まったく、最近の学生は‥‥」
グループBは逃走を諦めた。
「あれは何をやっているんだ?」
ヘクトルに追いかけられている訓練生の一団を目にしたジンバは、不審げに首を傾げた。校庭の整備中のことである。
それを手伝っていたリューズ・ザジ(eb4197)が、しれっと言う。
「準備運動ですよ。実は特別授業の一環として鬼ごっこ‥‥つまり、追う側と追われる側にわかれて模擬戦がしたい、と学生達から提案がありましてね」
嘘もここまで出れば立派な真実である。
リューズが真っ直ぐな目で言うものだから、ジンバは微塵も疑わない。その傍らでバランも感動している。
「許可も得ずに始めてしまったようで、申し訳ありません」
「いやいや謝る必要はない。熱心で嬉しい限りだ。それだけやる気に満ちているなら特訓メニューに少し追加をしようか」
ジンバの呟きが聞こえたわけではないだろうが、逃げ去っていく訓練生の悲鳴が長く尾を引いた。
そして逃走訓練生グループC。彼らが一番ゴールに近づいていた。
このグループの中に狡賢いのがいた。グループAとBが冒険者達と接触している間に外へ出ればいいじゃないか、と。
彼らは躊躇しなかった。
今まで寝食を共にした友人達を生贄に、グループCは団結して高い壁を乗り越えた! これで自由だ! と、諸手を上げた時、一人の貴婦人に声をかけられた。
訓練生達はサッと警戒するが、目の前の貴婦人は何やら困っている様子。
逃走したとはいえ騎士学院の教育を受ける者達、困る貴婦人は見捨てておけない。
どうしました、と尋ねれば貴婦人はホッとしたように微笑んで言った。
「私、バラン様に会いに来ましたの。今日はこちらにいらっしゃると聞いて‥‥」
その名前にピクリと体を振るわせる訓練生達。
貴婦人はどこかうっとりとした表情で話し出した。
「バラン様はとても強い騎士でございますね。それだけでなく、ウィルの未来を憂える高潔な人物‥‥。噂では少しばかり人外のように言われておりますが、実際は素晴らしい人格者ですのよ」
始めは明後日の方を向いて語っていた貴婦人だったが、最後のほうは訓練生達にキラキラとした目で話していた。
「あのお方の授業を受けられるあなた達は、本当に幸運ですわ」
彼女の言葉を聞いているうちに、不思議と特別授業への恐怖心が薄らいでいった。それどころか、言われたように大損をしている気がしてくる。
「あの、よかったら中へ入りますか? 案内しますよ」
とうとう一人が貴婦人へ申し出た。
彼女はにっこりと上品に笑む。
「ありがとうございます。申し送れましたが、私はクリオ・スパリュダースと申します。お見知りおきを」
クリオ・スパリュダース(ea5678)と聞いた瞬間、訓練生達の笑顔が固まった。その名は逃走計画の時に聞いた冒険者の一人の名前!
やられた! と気付いた時にはもう遅く、いつの間に現れたのか満面の笑顔のリューズが迎えにきていた。
「我らがいて良かったな。こうして特別授業が受けられるのだから」
グループCは狡猾で無邪気な策士達にハメられた。
●明日の生に燃える卵騎士達
グループA、B、Cが全滅したという知らせは、報告を待っていた残る逃走訓練生達を慄かせた。レザードがイライラと指先で机を弾く。
「仕方ない、あの通路を使うぞ。どうせジークがちくって待ち伏せされてるだろうけど、これを使って‥‥」
レザードが差し出したいくつもの小袋にクロード達は真剣な顔で頷き、それぞれ手に取った。
ファイヤーバードとフレイムエリベイションを駆使し、上空から見張りをしていた深螺藤咲(ea8218)は、敷地を何周かした後に最後の一団と思われる訓練生の塊を見つけた。
建物の陰に身を潜めつつ移動する彼らの行く先を、着かず離れず追っていたが、ふと振り返って顔を上げたクロードと目が合ってしまった。
とたんに二手に分かれて駆け出す訓練生達。
藤咲は内心舌打ちしながら一方を追った。
「いったん学舎に戻るぞ!」
レザードの声に続き、全力で駆け出す訓練生達。レザードは上空の藤咲が自分達を追ってきたのを確認してから、こう叫んだのだ。その間にクロード達が逃げられるように。
藤咲に捕まるまいと必死に走る訓練生達は学舎しか目に入っていなかった。
そのため、先頭が突然何かに足を取られて転倒すると、続く者達も次々と転び団子のようになったのだった。
「誰だ!?」
訓練生の鋭い誰何に、昇降口脇の茂みから現れたのは神堂麗奈(eb7012)だった。真昼間だというのに彼女の手には火のついた松明が握られている。
麗奈は冷ややかな目で訓練生達を見下ろすと、松明を持っていないほうの手を見せた。そこにはロープの端が。
「授業に出ないなら死が待ってるぞ。このロープには油を仕込んである。授業に行かないと火をつけるぞ」
彼女の目は本気だった。
訓練生達は慌てて立ち上がろうとするが、全員が動こうとしたためかえって足を引っ張り合い、どうしたものかロープが絡まってきてしまった。
「お前は放火魔かよっ」
レザードは懐の小袋を麗奈に投げつけた。彼女の手前で落下した小袋から音を立てて煙が吐き出される。
「一人ずつ落ち着いて抜け出すんだ!」
辺り一面の煙が薄くなった頃には、レザード達の姿は麗奈の前から掻き消えていた。
一方クロード達は案の定待ち伏せに合っていた。
かわいい顔で精一杯怖い顔を作ったフルーレ・フルフラット(eb1182)は、ジークフリードに教えられた古ぼけた木箱の前で仁王立ちしている。
この木箱をずらせば地下を抜けて外へ出る通路があるのだ。
フルーレが眉を吊り上げて説教をしようとしたとたん、クロードの「今だっ」という声と共にいくつもの小袋が宙を舞った。
もともと緩んでいた小袋の口が開き、ぶちまけられたものがフルーレの上から雨のように降り注ぐ。
ボトボトという奇妙な感覚にフルーレが足元に目を落とすと、そこには足の沢山ある虫が!
目を見開いたまま硬直したフルーレを脇にどかし、訓練生達は素早く小箱をずらしていく。
もう邪魔する者はいないと確信した瞬間、小箱に手をかけていた訓練生の頬をひんやりとしたものがかすめた。それは諸刃の剣だった。
「あらあら、ちょっとギリギリでしたね。でも、これもあなた方のためです‥‥」
クスクス笑いながら剣を引いたのはセシリア・カータ(ea1643)だった。綺麗な銀髪が煌めいている。
セシリアの登場で硬直の解けたフルーレがとたんに大声を張り上げた。
「困難から目を背け逃げ出すのは騎士として恥ずべき行為っスよ! もし心細いと言うのならば、自分もその地獄、共に付き合いましょう!」
その言葉に訓練生達の視線が集まる。
わかってくれたか、と頬が緩みかけたフルーレの体が突然宙に浮いた。
彼女は訓練生達に担ぎ上げられ、校庭へと運ばれていく。
訓練生達はヤケクソ気味に叫んでいた。
「生贄を手に入れたぞー!」
うまくそれらをかわしたセシリアは、平和そうに手を振って見送った。
クロード組、銀の狂剣士に脅され、生贄を捕えて泣く泣く戻る。
一度は冒険者をかわし、学舎内へ避難したレザード達だったが、その後とても恥ずかしいところでアゼリュードに捕まった。
そもそも、その場所を示したのはリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)だった。
その場所‥‥女子トイレ。
もっともリュドミラが言ったのは女子更衣室だったが、そこにはいなかったので同行していたジークフリードが「女子トイレかも」と言ったために、そこを探した結果、一階の隅にあるトイレで発見したのだ。
アゼリュードはガックリ項垂れて訓練生達の最後を歩いている。先頭ではレザードとジークフリードが言い争っていた。
「一生の恥だな」
「黙れ裏切り者。いい子チャンめ」
「何だよ、そっちが悪いんだろ」
「ツーン」
「ムカツク」
ようやく外に出てきたレザードの肩をポンと叩き、リュドミラが笑顔で励ましの言葉を贈った。
「レザードさん、レッツ南無阿弥陀仏♪」
意味はわからなかったが、何故か不吉な予感がぬぐえなかった。
最後のグループ、レザード組、悪夢の火の鳥に追われ、放火魔をかわしたものの不吉を囁く魔性に恥ずかしく連行。
●鬼と羅刹の宴
その後、特別授業がどうなったかと言うと、まず最初の10分間に黄安成(ea2253)が韋駄天の草履で大活躍をした。
訓練中の逃亡が後を絶たなかったためだ。
見かねた安成はジンバとバランに「あまり厳しすぎるのも逆効果と思うがのぅ」とアメとムチのやり方を進言してみたが、二人の辞書にアメはなかった。あるとすれば涙のアメか。
殺されるっ、と叫ぶ訓練生を引き戻すのは少々良心がうずかないことはなかったが、安成はそんな生徒の背をやさしく叩いて励ました。彼がアメとなっていた。陰で心のオアシスと囁かれていたとか。
ほどよく訓練生達がくたばると、今度は希望する冒険者達が手ほどきを受けることになった。
安成はバランに巨大オーガを投げたという技の極意を教わり、さらにジンバに格闘術の訓練も受けた。
藤咲、フルーレ、リューズ、リュドミラも同じく参加した。
見学のつもりでいたクリオと、手伝いのつもりでいたアシュレーはいつの間にか特訓に巻き込まれていた。
さて、最後まで無傷だったのは誰でしょう?
夕方になるまで特訓は続けられたが、バランとジンバはまるで疲れ知らずで元気だった。
体力には自信があるはずの冒険者はというと‥‥虫の息だったとか。
「は! ‥‥ここはどこっスか?」
フルーレは、気が付くと教会のベッドに横たわっている自分に唖然とした。
「最凶の組み合わせとは言え、ずいぶんと身体がなまってましたね」
懐かしがるようにリュドミラがぼやいた。
「いたたたた‥‥。これなら、旧来の騎士修行のほうが楽でしょうね」
二人と違い怪我こそ無かったものの筋肉痛の藤咲が見舞いに来ていた。いや、あの組み合わせが特別なだけであって、一般には騎士学校の方が容易い。隣のベットには疲労困憊のアシュレーが爆睡中。顔があまりにも優男であるため実力に比して色々と侮られる事も多いが、彼ほど騎士もウィルには少ないと言うのにあの二人に掛かったらこのざまである。心配そうにルーシェが不安げなまなざしで彼を見つめていた。
バランとジンバの組み合わせは、歴戦の強者さえぼろぼろにする厄災であった。蛇足だが、治療費は騎士学校の払いであり、冒険者達の懐は痛まなかったそうだ。