ゴーレムプロジェクト〜試運転

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜12月31日

リプレイ公開日:2007年01月07日

●オープニング

「フェール。俺のゴーレムは磨き終わったか?」
 そう尋ねるのはゴーレニストのエクセレール・クーガ。
 そして場所はショアのゴーレム工房。以前いたゴーレニストから引き継いで此処にいる。
「大丈夫です。水拭き10回はしましたから」
「調整も一通りすませたし、後は動作確認だな。どうするか」
「ゴーレムに乗って貰って動かせばいいだけじゃないですか?」
「それじゃあつまらないだろう?」
 エクセレールは笑ってそう答える。彼は少し、変わった部分があった。
 通常通りは好まない。ゴーレムだけをこよなく愛する。そんな男である。
 だからなのか、毎日ゴーレムの事ばかり考えているようだ。
「ショアのゴーレニストになったわけだからショアのゴーレムをすばらしいものにしたいのでなぁ」
「では、実戦テストなんてどうです? 普通の剣ではゴーレムに傷がつくかも知れませんので、予め破損しやすい個所を確認して置くためのものとして、木剣に厚い布を巻いて顔料を着けるんです。ゴーレムに向いた盾の形状等を試すのはどうでしょう?」
 盾は人間用の物を大きくしただけの物である。ひょっとしたらもっと有利な形状があるかも知れない。鎧と違って後から別に作ることもできる。
「ふむ。それはそれで面白そうだ。うん、いいね。通常ではやらないかも知れない」
 たかがそれだけが当てはまるというだけで彼はご機嫌である。
 助手はこれに付き合わされるから大変だ。
「一つ目のゴーレムはこれでいいとして、もう一つ目のゴーレムはどうするんですか?」
「当日までには用意しよう。問題は操縦者だ」
「冒険者にやらせてみるというのは? どうやら扱いが上手い人が沢山いるみたいですし、滅多に乗れないので腕が夜泣きしていると思いますよ」
 フェールがそういうと、エクセレールは面白そうだとうなずく。
 こうして急遽冒険者ギルドに募集が張り出されたのである。

●今回の参加者

 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4153 リディリア・ザハリアーシュ(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4263 ルヴィア・レヴィア(40歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4713 ソーク・ソーキングス(37歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●対戦順と盾の形状を申請しましょう
「やあ、よく来てくれたね」
 エクセレール・クーガは工房前まで出ていて、冒険者達をにこやかに迎えた。
 応接室へ連れていかれると助手のフェールがハーブティを用意して待っていた。寒い中を移動してきたせいで冷え切った体にはとても嬉しい。
 冒険者達が一息ついて頃、エクセレールが切り出した。
「さっそくだが、今日やってもらうことはすでにご承知と思うので、皆さんが使いたいと思う盾について意見を聞きたい」
 フェールの手には羊皮紙と羽ペンがすでに準備されている。
 冒険者達はチラリと目を交し合い、時雨蒼威(eb4097)が最初に口を開いた。
「将来的には、という考えだけど、射撃用ゴーレムのための地面に突き立てるタワーシールドを提案するよ。一部を欠けさせて、その間から弾を撃てるように。後は強度だけど、エレメンタルキャノンを弾くくらいは欲しいな」
「あぁ、俺もそういうの考えてた」
 鳳レオン(eb4286)が軽く手を挙げた。
「射撃というか投擲を得意とする乗り手のためにね。形は樽を縦に割ったような半筒状」
 ふむふむ、と目を輝かせながらエクセレールは頷き、フェールは忙しく羽ペンを動かす。
 次に発言したのはリディリア・ザハリアーシュ(eb4153)だった。
「私は円盾の左右の端が欠けている形状のものを申請するよ。材質を言っても?」
「どうぞ」
「あまり重くならないよう、薄く木版を数枚張り合わせてその上に皮を張り、さらにその上を布で覆う。裏の持ち手の部分は金属で補強するんだ」
「射撃者用の盾とは反対の形状ということだね」
 確認するエクセレールにリディリアは頷いた。
 彼女のように機動性を重視し軽いものを希望したのは、ソーク・ソーキングス(eb4713)、シュバルツ・バルト(eb4155)がいた。
 それに手を加えたものとしては、エルシード・カペアドール(eb4395)の細長い逆三角形の盾、リール・アルシャス(eb4402)の雫の形を逆さにした盾があり、またショルダータイプ系として、市川敬輔(eb4271)とルヴィア・レヴィア(eb4263)、ベアルファレス・ジスハート(eb4242)がそれぞれ詳細を話した。
 最後に、越野春陽(eb4578)がいろいろ考えた末に、足をカバーするように裾の広がった大型方形盾を希望した。
 フェールの羽ペンが出すカリカリという音がやんだ頃、いやに真面目な顔でリールがエクセレールに言った。
「ところで、これはとても大事なことだが、もう一体のゴーレムの名は?」
「彼女の名前はまだない。この模擬戦の結果で決めようと思う。よって募集中だ」
「‥‥とりあえず、彼女なんですね」
「そう、彼女だ」
 確か以前のゴーレムも『彼女』だったな、とリールは思い出した。
 ある意味異常な思い入れのある者同士の会話の横で、試乗する順番が決められていた。

●第一戦目
 最初の対戦はベアルファレス・ジスハートとシュバルツ・バルトとなった。
「少しは手加減してもらえると嬉しいものだがな‥‥」
 制御胞内で静かに一人ごちりながら、難なくバガンを起動させるベアルファレス・ジスハート。
 対峙するバガンに乗るのはシュバルツ・バルト。こちらも静かな様子ではあるが、その胸の内に密かに滾るものないか‥‥と問われれば返答は肯定だ。
「いよいよ、始まりますね」
 助手・フェールの言葉に、エクセレールが頷く。無言ではあるが、目は、興味と好奇心に満ち満ちている。
 二体のバガンが構え合い、僅かな沈黙の後‥‥先手を打ったのはシュバルツだった。大きく一歩出たシュバルツ機が間合いを詰める。
 動きに反応したべアルファレスは、その攻撃動作を確認するまでもなく盾を向ける――
――が、シュバルツはゴーレムの体を半身翻し、機体を相手の懐に潜り込ませた。その動きを見たベアルファレスは、己のこめかみに一滴流れるものを感じる。
 次の瞬間、ベアルファレスは衝撃に耐える。相手ゴーレムから繰り出された木剣がベルアルファレスの機体を揺らした。
 シュバルツは更なる一撃を加えるべく攻勢に出る。
 しかしここで、縦長の盾が追撃を阻んだ。この効果には、ベアルファレス本人が驚いていた。ラッキーが手伝った部分も大きいが、盾の形状の働きも重々にある。
 とはいえ、いかんともしがたい剣技の差によって、以降の終始シュバルツ優勢の運びとなった。

 模擬戦は一対一であるから、その間他の冒険者は暇なのかと言えばそうではない。
 前回、まさかの抜け道が工房内にあったため、今回も何があってはいけない、と彼らは自ら警備の協力を申し出ていた。
 工房側としても経験豊富な冒険者達の助力は頼もしいので、喜んで力を貸してもらうことになった。
 敬輔は他に隠し通路がないか隅々まで歩いて回り、リディリアは駿馬に乗って工房の敷地周辺に不審者の影がないか目を光らせた。
 その甲斐あってか、今回は予想外の抜け道も怪しい人物も見ることはなかった。

●第二戦目
 次はリディリア・ザハリアーシュ対ルヴィア・レヴィアの試合だ。
(「さーって、気楽に気楽にっ」)
操縦席の座り心地を確認しながら、ルヴィアはバガンを構えさせる。
(「あちらは既に、準備が出来ているようだな‥‥それでは!」)
 両機、同時のタイミングをもって地を蹴った。
(「おおっと!? これはつまり、盾の形を刺突に合わせているってわけだね?」)
 先に相手へ武器が届いたのはリディリア。彼女の盾は両端が欠けている物にデザインされている。これに速度と突進が組み合わされば、相手は盾から打突が飛んできた様な錯覚さえうけるだろう。
「そのまま、顔!」
 リディリア機の切っ先が相手に向け迫る。しかし、ルヴィア機もただ突っ立っているだけではない、構えている盾でそれを弾いた。
 それに残念がる事はとりあえず後回しにして、リディリアは盾を持つ腕を素早く上げた。彼女もまた、横から来た相手の木剣を受け止める。
両者、軽い木製の盾を使っているため、反応から対処までのタイムラグは、従来品のそれよりも無くてすむ。しかし、実戦に使える強度かと問われたら‥‥、また新たに考える点が出てくるだろう。
 拮抗した対戦ではあったが、ゴーレム本体への顔料がかかった量は、ルヴィアの方が僅かに多かった。リディリアの盾は、有効に働いたようである。
「今回はゴーレムの傷つけるといけないから付けていないけど、実戦ならこれに、廃材を利用したものにしてみたいとおもっているんだー」
「騎士ならば、盾に紋章なんかを付けるのがものだが‥‥それは通常ではやらないな」
まんざらでもないエクセレールの様子を確認すると、ルヴィアは続ける。
「完成形は鉄板やスパイクとかつけて、強度を上げたりタックルできるようにするの♪ 攻防一対だと、便利でしょ?」
 採用如何はわからないが、エクセレールは彼女の話を興味ありげに聞いていた。

 鉄壁の警備のおかげで不審者は入る隙間もない。
 さらにトドメとばかりに春陽のペットであるチーターが入り口でギラギラと目を光らせている。もちろん檻に入れられているが。
 そして模擬戦場では蒼威が観戦中のエクセレールに小声で進言していた。
「貴重な文書や資料は早急にまとめと、警戒、それから非常時の持ち出しについて検討することを勧めます。なるべく早めに‥‥フオロで何かあったようだから」
 最後の一言にエクセレールが怪訝な目を返した時、助手の一人がバタバタとやって来た。
 バーン、と扉をぶち開け大股にエクセレールの前まで近づくと、よれよれになった封筒をヌッと突き出す。
 差出人の名前を見たエクセレールの顔が「嫌なもの見ちゃったぁ」と言いたげに歪んだ。
「とっとと目を通してくださいね。それと! 少しは机の周りを片付けて下さいよ! だからこういう大事なものを‥‥」
「あー、はいはい」
 ちなみに今、エクセレールの机の周辺の腐りっぷりを見かねた春陽達が、言ってもやらない彼に代わり片付けを始めている。
 エクセレールはうるさい助手を追い払うと、蒼威に話の続きを促した。

●第三戦目
「普段はグライダー専門だが、人型にも馴れておかんとな。特性を知ってた方が、いざと言う時対処し易いだろうし」
 敬輔の呟きは尤もである。将来彼依頼で、彼も人型ゴーレムの力が必要になる事もあるかもしれない。
「盾より回避のほうが得意なんだが‥‥、ま、実戦じゃないし、大丈夫だろう」
 そう言いながら、レオンは、ゴーレムでサッカーを行った、ウィルカップを思い出した。あの試合もそう言えば、実戦さながらだった‥‥。
 市川敬輔対鳳レオン。お互い、適当に歩行してみたりして人型ゴーレムの感覚を確かめた後、試合開始となる。
 敬輔が一歩、一歩と距離を縮めると、それに合わせるかのようにレオンも後ろへ。間合いを、一定に保つ。
 盾を前に構えたまま、レオンは更に後退して距離をとっていく。
(「‥‥? 思った以上に、慎重なのか?」)
 盾に隠れるようにしているレオン機を見て、敬輔は胸の内で呟いた。
(「‥‥! 違う、来る!」)
 レオン機の持つ盾の裏から出てきたのは、短剣(勿論布巻きの木剣)。
 次の瞬間、相手の動作が守備のためのもの無い事に気付くと敬輔はバガンで駆け出した。
「どうせ俺は格闘に自信ないことだし‥‥やってみるか」
 投擲。レオンは下がりながら次の短剣を握る。彼の盾はその裏に、いくつもの短剣が仕込まれていたのだ。
 敬輔機の盾は肩に取り付けられた物。見た目、どちらかと言うと盾と言うよりは肩当てに見える。手に持つタイプでないそれはゴーレムの動きをあまり邪魔する事無く、そのおかげか敬輔は飛来する短剣の数々を何とか交わす。それでも避けきれないものもあるが、それはタックルの様な姿勢をとり、肩の盾で防ぐ。
 レオンは短剣を手にとっていたが、すでに敬輔に接近を許してしまっていたので、投擲から防御に移行する。天界の発想が組み込まれた大型盾は、敬輔機の一撃を止める。格闘にあまり心得の無いレオンだが、その形状の恩恵に助けられた。
 確かにその盾は攻撃を止めた。しかし‥‥
「これは‥‥短剣入れるにも、細工が必要か‥‥?」
 受け止めた衝撃によって、裏に仕込んであった残りの短剣が落ちる。布が巻かれた木の剣とはいえ、ゴーレムの一撃である。盾に何かを仕込む場合は、その衝撃に耐えうる仕様が求められるだろう。
 そのまま接近戦が続けば、やはり格闘の心得のある者が有利となり、敬輔の勝利となった。
 さて、ベアルファレスの鬼面の着用については特に問題はなかった。むしろ有事の際にはその鬼面で侵入者を追い払ってほしい、という陽気さだ。
 が、その彼は今、何故かエクセレールの机の整理をしている。
 工房内を巡回していて、ここに顔を出した時助手達に手伝ってくれと泣きつかれたのだ。
 そして片付けに付き合わされていると、あらたな犠牲者が舞い込んできた。
「あの、外は特に異常もなく‥‥え、あの、何をしているのです?」
「いいところに来たな、ソーク。一緒にこの腐敗した机の上を片付けよう」
 ソークが返事をする前に彼はベアルファレスと助手達にガッチリ捕まった。
 彼らは黙々と整理を続けながら次の獲物を待っている。

●第四戦目
 新たな生贄に選ばれたルヴィアは、まとめてもまとめてもなくならないエクセレールの机の上の書類にうんざりしながら、助手の愚痴に付き合っていた。
「小まめに片付ければこんなふうにはならないのに。さっきだって大切な書類が無残な姿で発掘されたんですよ‥‥うぅ、また出てきたらどうしよう。だいたいあの人、ゴーレム関連は凄腕でその関係のものはこっちが神経衰弱になりそうなくらい細かく管理するのに、事務関係になると放置主義になるんだから‥‥」
 彼の愚痴は止まらない。
 ルヴィアはこの助手に捕まった不運を呪った。

 それを後目に第4戦は鎧騎士リール・アルシャスと天界人越野春陽の対戦。
 ゴーレムそのものは同クラス、性能も互角。技能的にもほぼ同じくらい。違いがでるとすれば、ゴーレムを使った実戦経験ぐらいだろうか。ウィルカップで長時間のゴーレム機動を経験しているだけは春陽の方が有利。しかし、その春陽は大型方形盾で遮蔽を得つつ戦うのが効果的と考えているため、ゴーレムの機動力を著しく低下させることになる。
 これに対してリールは下部を尖らせた半分くらいの大きさの物を用意した。
 模擬戦が始まると盾の大きさで動きに差が出る。大型方形盾は相手の一方方向からの攻撃を受けるには適している。上段からも下段からもほぼ全域をカヴァーできている。しかし、これを振り回して動き回るには大きさも、重さも影響する。サッカーのような急機動を行えば、盾を持つ腕に異様な負担がかかる。
 最初こそ、大型方形盾の防御に阻まれていたリールも、機動性を生かして左右から回り込む攻撃に入ると、春陽のゴーレムの動きにバランスの乱れが見える。盾の突起を僅かに遅れて出来た大型方形盾とゴーレム本体との間に突き刺して、動きを止めさせる。春陽が大型方形盾を放り出して向き直る前に、盾を持っていた関節部分や指の部分を攻撃した。
「やっちまったよ」
 リールの攻撃で、他の部分なら壊れないものの、関節部分を攻撃したため関節の外側の装甲の薄い部分が変形して動かなくなっている。
 顔料を付けたという点ではリールの勝利だが、事前に制限した関節部分への攻撃を行ったことにより反則負けとされた。

●第五戦目
 第5戦はセレ家従騎士エルシード・カペアドールとゴーレムに乗ると性格が変わるソーク・ソーキングスとの対戦。ソークはいつものごとく、乗った後はそれまでと一変する。ウィルカップではそのキャラクター性でファンがいるとかいないとか。円形のライトシールドを装備し、乗った後はやる気満々。これに比べてエルシードは逆三角形のカイトシールド。下半身も防御できて極力重量も抑えるためには、逆三角形にすることにした。ただし、もともとカイトシールドは騎乗した時に上半身から下半身まで相手に向かい合った半身を守るための形状で、徒での戦いとなると必ずしも守りきれるものではない。エルシードも盾を持って防ぐよりも、機動性を生かして回避する方が好みだ。
 経験技量ともにエルシードが、ソークより上だ。しかし当初戦いはソーク優位で進んで。性格の差だろう。ゴーレムなどなかったら、ソークの性格では騎士は無理だっただろう。ソークはエルシードが守りにくい部分を狙って攻撃を仕掛けてくる。エルシードは下半身を狙って攻撃を繰り出すが手数では、勢いに乗るソークの方が多い。しかしエルシードが一旦距離をおいて持ち前の回避力を生かした攻撃に移るとソークはたじたじになる。最終的には、エルシードの技量勝ちとなった。
「どんな武器も使い方次第のようだな」
 模擬戦終わって下りて来るソークが、前の状態に戻るのを不思議そうに眺めていたリールが呟いた。

 深夜近くになって、リールは見回りを終えた。
 ランタンの火を消し、仲間達がいるだろうエクセレールの研究室へと向かう。
 ノックの後、扉を開けて彼女は目を丸くした。
 生まれ変わったように片付いてる!
 リールは心の中で仲間達と助手達の苦労を労った。

●蒼威の推理
 この依頼の最中、蒼威はショア伯に
『この時勢下、シムの海にも緊張が増すばかりでありますが
ショア伯ならば「ウィル」のために英明たる判断と活躍をされると信じております』
 という伝言を送った。しかし、送られたショア伯には、シムの海にも緊張が増すという事実さえ今のところ掴んでいない。
 なぜシムの海に面したショア伯に知らない緊張を、内陸部の首都ウィルから来た冒険者が知っているのか。ハンとの関係は、それほど緊張してはいない。難民流入の問題で北部国境線の警備を、トルク分国に命じたということは伝わっているが。難民がシムの海の沿岸沿いに船で南下してくるわけではない。
「冒険者が、また何かやったのだろうか?」
 あの時はグリフォンだったが、今度は海の魔獣だろうか? ふと、悪夢の再来を思わせた。
 蒼威は持ち前の怜悧な頭脳で、断片情報と噂と推理でカマを掛けた訳である。しかし、肝心のショア伯の耳には、事の詳しい顛末はおろか冒険者酒場で流れるような噂も届いていなかったのである。

「奴とレーガ卿の接点が無い。漏らしたのはルーケイ伯か?!」
 ショア伯からの書簡にエーロンは激怒。
「お待ち下さい。トルクの家臣ゆえ、そちらの方からかも知れません。それに彼は頭の切れる男と聞きます。急な父上の隔離に、違和感を覚えただけかも知れません」
 取りなすカーロン。
「‥‥まぁいい。伯から漏れたとしたら、俺達の人選のミスだ」
「幸い、トルクとの話は上々の首尾。伯に奉仕を求めずとも済みました。それに伯は今、領地をまとめるのに大変と聞きます。我らの都合で引っ張り回すのも気の毒というもの」
 やんわりと意見する弟の声に
「そうだ。それが道理だ。おまえの言う通り、今は国事を伯に頼るのを止めよう。いいか、あくまでも伯自身のためだ。フオロに忠誠を誓う誠実な味方を敵に回すのは愚か者のする事だからな」
 エーロンはひとまず激しい怒りを納める事にした。伯が機密を漏らしたという確かな証拠など無いのだから。