シグの冬〜雪合戦

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月03日

リプレイ公開日:2007年01月07日

●オープニング

「そういえば、もう冬なんだね〜」
 トルク領地シグにて。
 シフールの女性、ププリンが降り積もる雪を見て大きな溜息をつく。
「こー寒いと猫達も動かなくなっちゃうよね〜」
 ちらりと後ろを見ると、其処には暖かいと各自が感じる場所で猫が大量に丸まっている。
「このままじゃあ身体もなまっちゃうよー!」
 元気なププリンは空をふわふわと舞いながらじたばたと暴れる。
 そしてそのまま腕組みをして、うーんと考え込んで数分後。パチンと指を鳴らすのだった。
「いーこと考えちゃった☆」

「雪遊び、ですか?」
 ギルドに届いた一通の依頼状。其処にはシグの猫達と雪合戦をして欲しいと書かれていた。
 ケットシーはやることがあるので出られないという。
「たまにはいいかも知れませんね、折角の雪ですし遊ばないと損ですよ」
 ギルド員は光景を想像しながらも微笑ましくそう告げる。
「行って来てはどうです? 猫達と遊ぶのも息抜きになるかも知れませんよ?」

 当然、寒がりの猫達の事である。
 嫌がって逃げるに違いないのだった。ププリンあんたって人は‥‥。

●今回の参加者

 ea0163 夜光蝶 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2504 サラ・ミスト(31歳・♀・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4135 タイラス・ビントゥ(19歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ec0071 木村 メイ(26歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●そこにルールはいらない
 まるで地蔵のように動こうとしない猫達を仲間達に任せ、夜光蝶黒妖(ea0163)は療養中のトミーの元を訪れた。
 黒妖の姿を見るなりトミーはパッと顔を輝かせ、読んでいた本を閉じる。
「トミー‥‥久しぶり、元気だった‥‥? これから‥‥雪合戦するけど‥‥トミーも参加してみない?」
「いいの? うわぁ、嬉しい! 今日はとっても調子が良いんだ」
「暖かい格好で行こうね‥‥」
 トミーは出かける旨を今の保護者や主治医に伝えると、黒妖の手を引っ張って「早く連れてって」と催促したのだった。

 二人が雪合戦の場に着くと、冒険者達はあちこちに引っかき傷を作りながら迎えてくれた。もちろん真新しい傷は無理矢理雪降る外へ放り出した猫につけられたものだ。
 猫溺愛家のディーネ・ノート(ea1542)は茶トラの猫を抱きしめ、感涙している。猫は思い切り嫌がり、四肢を突っ張らせている。
「‥‥あぁっ、こんなに沢山の猫さんと過ごせるとは思いも寄らなかったわ! くぅう、私の幸せ者!」
 と、左拳をぎゅむぅ、と握り込む。
 それからここに来た目的を思い出し、依頼を受けた時から心に決めていた標的に向けて、輝くような笑顔で言った。
「ルールは決めずってことらしいんで、おとなしくやられてね」
 え、と顔を上げたのはルクス・ウィンディード(ea0393)。彼はさっそく雪玉を作っていた。
 その様子を見てクスクス笑う倉城響(ea1466)。
「ウィンで遊ぶのはほどほどにお願いしますね♪」
「奴の宿命だ。逃れられんよ」
 サラ・ミスト(ea2504)が響の肩を叩き、哀れみの目をルクスに向けて言った。
 ペットのトカゲは檻に入れ、ププリンに預けてきたため何も心配事はないイリア・アドミナル(ea2564)が雪合戦開始のように冒険者達に声をかけた。
「さあ、今日は思いっきり遊びましょう!」
 トミーは黒妖に手を引かれ、レオン・バーナード(ea8029)が作った雪壁の向こうに隠れた。
「よぅ、トミー。ほら、投げて投げて。そうだな、彼のように投げるといい」
 雪玉をトミーに渡したレオンが手本として示したのは、タイラス・ビントゥ(eb4135)。
 タイラスは「カツドンカツドン」と黒派仏教カツドン宗のお経を唱えながらミミクリーで腕を伸ばし、相手の意表をつくような位置から雪玉を投げていた。
「無理です」
 トミーは見るなり即答した。
 タイラスはレオンが誘って連れてきた地元の子供達に集中攻撃を受けている。自在に伸びる腕からの攻撃に、子供達がおもしろがっているのだ。
「それじぁ普通に投げて‥‥あれを狙おう‥‥こうやるんだよ‥‥」
 黒妖は豹変したように瞳を物騒に光らせると、ルクスに向けて弾丸のような雪玉を投げつけた。
 いつの間にか猫を抱いてぬくぬくしていたルクスの後頭部に、鮮やかにヒットした。
 ギロンチョと振り返るルクスの顔面に、今度はディーネからの雪玉が命中。
「ごめんなさい。猫さんや他の人には当てたくないの‥‥ほら、私って友人思いだし、人見知り激しいし‥‥」
「それはつまりアレか? 俺は友人でもないし人見知りの対象でもないと‥‥どんな位置だァァ!」
「きゃー、ルクスさんがキレたわ!」
 か弱い振りをしながらディーネの豪腕は容赦ない。
 猫を頭に乗せて突進してくるルクスに、またしても別方向から飛んでくる雪玉。
「油断大敵!」
 とても威厳たっぷり言い放ったサラだが、抱えている牛模様の猫が厳格さをぶち壊していた。
「はっはっは‥‥捕まえて‥‥ごらんなさーい‥‥」
 小馬鹿にするように黒猫の片手で手招きし、挑発する黒妖。
「クックック‥‥後悔するなよ? 今日の俺の守護神お猫様に楯突いたことが何を意味するか、たっぷり思い知らせてやるぜ!」
 ルクスの脳内で何かの設定が出来上がったようだ。
 3対1の壮絶な雪合戦がトミーとレオンの前で繰り広げられた。猫はいい迷惑だ。
「わぁ、すごい戦い。殺気が満ち満ちてる」
 タイラスやイリア達とさんざん遊んできた木村メイ(ec0071)が感嘆の声を漏らしながらレオン達のところへやって来た。
 しかし、「あ」と思った時にははぐれた雪玉がメイの頬にめり込んでいた。
「メイさん‥‥?」
 倒れたメイに声をかけたレオンだったが、ガバッと起き上がった彼の表情に動きが止まった。
「あぁ、痛い‥‥っ。今の熱烈な一撃をくれたのは誰? 僕の心まで鷲掴みにするような‥‥」
 恍惚としているメイに絡まれる前に、とレオンとトミーはそっとその場を後にした。

●かまくらと雪兎と秘密の特訓
 縦横無尽に雪玉が飛び交う広場の隅で、響は『手のひらサイズの大きさの兎さん』を雪で作っていた。
 たまに雪合戦の様子を眺めながら作っていたにも関わらず、気がつけば十体近く出来ていた。大きさもそろっているそれらは、何となくおいしそうに見えなくもない。
 猫もそんなふうに感じたのだろうか。
 にゃ〜と鳴きながら雪兎に鼻を近づけていた。
 響はそれを見てやわらかく微笑む。
「あら。あなたも作ってみますか? 楽しいですよ♪」
「猫に言ったって通じるわけないじゃん。そもそもその肉球でどうやって作れと」
「おかえりなさい、ウィン。あのね、私の言葉、猫に通じると思いますよ。なにせアトランティスですから♪」
「何だそれ」
「ふふふ。それにしても、コテンパンにやられたようですね」
「ほっとけ」
 3対1だぞ、とブツブツ言うルクスに響の笑いはますます深くなった。

 その頃もう一方の隅では巨大なかまくらが作られようとしていた。
 中心になっているのはユラヴィカ・クドゥス(ea1704)とディアッカ・ディアボロス(ea5597)。
 二人ともスコップを持参し、ディアッカは連れてきた馬を使って大量の雪をかき集めていた。さらに雪集めにはサラの馬であるリンとライも協力している。
 できるだけ大きなかまくらを作りたかった。沢山の人で入って賑わいたかったから。
「しふ学校の生徒にも声をかけれたら良かったのぅ」
「今度はしふ学校で雪合戦とかまくら作りを楽しむのもいいですね」
「それは良いな‥‥あっ、こら、そんなところで!」
 ユラヴィカは雪にまみれて遊ぶしふ学校の生徒達を思い描いていたが、それは目の前で起こった現実にかき消された。
 せっかく作ったかまくらの土台で、猫が爪を研ぎだしたのだ。よほど良い爪研ぎ道具に見えたのだろうか。
 その側ではどさくさにまぎれて粗相をしそうな猫もいる。
「おぬしらー! 散れっ散れっ」
 スコップを振り回し、猫を追い払うユラヴィカ。
「ははは、苦労してるな」
「サラ‥‥しばらく猫は立ち入り禁止じゃ」
 雪合戦からかまくら作りに流れてきたサラの腕の中の猫を見て、渋い顔をするユラヴィカ。
 サラはひょいと肩をすくめて猫を放した。
「私も手伝おう。‥‥ほぅ、かなり大きいな」
 土台を見たサラは完成予想図を頭の中に描き、感心する。
「できるだけ皆で楽しみたいですからね」
 ディアッカの意見にはサラも賛成だった。

 レオンと避難したトミーは、時折猫と雪で遊んだ。冷たさを嫌って逃げる猫に軽く雪玉を投げるのだ。時々猫の反撃もくるからおもしろい。
 そんな遊びにも少し疲れた頃、レオンがふとトミーに聞いた。
「前に、剣を教えてもいいという話をしたのを覚えてる? もし、トミーにその気があるなら、おいらが手ほどきしてもいい」
「お願いします」
 トミーは真っ直ぐにレオンを見て言った。
 二人は雪玉が飛んでこない箇所を探した。
 木刀を取りに行くには距離があったので、拾った木の枝を代わりに使うことにした。
 剣の型を教える前にレオンは剣術を身につける上で重要なことを告げた。
「剣を使えば絶対に誰かが傷つく。相手かもしれないし自分かもしれない。だから大事な時にしか使っちゃいけない。シルフィを見てればわかるよな? すごい強いけど、だからって普段は力を使って威張り散らしたりしないだろ」
 無闇な示威行為は強さでも何でもない。
 トミーはレオンの言葉をしっかり胸に刻み込んだ。
 それからレオンはまず剣の持ち方から教えた。持ち方、構え方、振り上げから振り下ろし。初歩の初歩から丁寧に。

 子供達と存分に雪合戦を楽しんだイリアは、マタタビ栽培の様子を見るため、広場から離れていた。
 今は冬だから、寒々しく蔦が絡まっているだけだ。これが晩春から初夏の頃になると芽を出し、夏には物凄い勢いで生長していく。挿し木もその頃に行う。マタタビには雄株と雌株があるが、ここには二つそろっているのだろうか?
 イリアはそんなことを考えながら雪を被った蔦を眺めていた。
 ここに来る前に、自分が知るかぎりの栽培法を羊皮紙数枚にわたってまとめ、ププリンに渡してある。少しでも役に立ってくれればいい、とイリアは思った。
 梅のようなマタタビの花を思っている時、イリアは声をかけられた。
「響さん、ププリンさんも。どうしたんです、その大きな鍋」
 響が抱える大鍋はほこほこと湯気を立て、香ばしい匂いを振りまいていた。
「これはねぇ、海の幸スープだよー。かまくらの中で皆で食べようね〜」
 ご機嫌なププリンの背景に、花の幻を見たイリアだった。

 三人で広場へ戻るとかまくら作成にタイラスとディーネが加わっていた。
 それはほとんど仕上がっていて、今はディーネがクーリングで固めているところだった。
 始めは、自分にはやはり小さいかと少々残念に思っていたタイラスだったが、目の前のかまくらは充分な大きさがあるため、どうにか入れそうだ。かなり体を縮めることになりそうだが。元々、この場に集まった全員が入るのは無理なのだ。交代で楽しむしかないだろう。

●それは家族のようだった
 かまくらには、サラの提案で煙抜きの穴が開けられていて、下には毛布が敷かれていた。また、鍋一つ分の小さな竈もあった。
 響とププリンが鍋を持って入り、続いてサラはまず子供達から入れた。
「味は少し濃いめにしてあります」
「響んが作るものの味は私が保証するよ」
 円になって座る子供達に皿を配りながらディーネが言った。
 子供達の目は期待にふくらみ、キラキラと輝いていた。中にはお腹を鳴らす子や何度も唾を飲み込む子もいる。かまくらの中は食欲をそそる匂いでいっぱいだった。
 地元の子供達を案内したサラは、中ではしゃぐ声に目を細くした。
 満足した子供達が帰ってしまえば、次は冒険者達がゆっくりする番である。
 たっぷり遊んだ子供達のお腹もすっからかんに減っていたようで、スープは何杯もおかわりされた。
 たまにかまくらの中をのぞいてはその様子を見ていたイリアは、市場へ出向きシーフードの追加に行ってきていた。戻ってきて鍋の中を見た時は、買いに行って本当に良かったと思ったのだった。
 かまくらの中には、ある意味今日一番疲れたであろう猫達も招待されていた。
 イリアはその内の一匹を膝の上に乗せて、肉球16連打なるものを一人で楽しんでいる。
 たとえかまくらで温まろうとしても猫に休む間はないのだった。
 鼻の頭にシワを寄せ「ゥナ〜ン」と鳴いているイリアのおもちゃ‥‥いや、猫を複雑な表情でトミーが見つめていると、ルクスをからかい尽くした黒妖がふわりと隣に腰を下ろした。
「楽しかった‥‥?」
 問いかけに、トミーは振り向き満面の笑顔を見せる。
「とっても! それに、今も楽しいよ。こういうふうに、皆で囲んでする食事は楽しい」
「トミーが‥‥楽しかったなら‥‥俺は幸せだな」
 トミーは照れたようにヘヘッと笑う。
「レオンさんに剣術の基本を教わったよ」
 楽しそうに報告する少年を、黒妖はあたたかい眼差しで見ていた。
 と、そこに今日の師匠が乱入してきた。
「おいらが帰ってもさぼるなよー」
「毎日続けるよ! ‥‥あれ、レオンさん?」
「レオンさん、返してください‥‥あっ、飲みましたね!? あなた未成年でしたよね!?」
 慌てるディアッカの視線の先を追えば、レオンの手の中のウォッカの瓶。
 レオンは頬を上気させてケラケラ笑う。
「なめただけだよぅ」
「いいから、返しなさい」
 ディアッカはシフール特有の素早い動きでウォッカを取り戻した。
「ちょっと目を離した隙に‥‥」
 恐ろしいことにレオンは原液をなめたか飲んだかしたということだ。本気で酔っているのかはわからないが、ハイになっているのは確かだ。
 かまくらの中に人も猫も一緒になり、おいしい海の幸スープを頂く。
 忘れられない一日になりそうだった。