爪先立ちの恋〜ラストダンス

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:01月14日〜01月17日

リプレイ公開日:2007年01月20日

●オープニング

「ねぇ、リデア様。レアン様とイレーヌ様の結婚披露パーティーが行われるのですって?」
 リデア・エヴァンス子爵令嬢が声を掛けられたのは、とあるパーティーの席だった。
「はい。新しい年を迎え、いい機会ですし‥‥本人達の希望で、身内だけのささやかな式になると思いますが」
 リデアの義父であるレアン・エヴァンス子爵と、イレーヌ嬢が結婚の運びとなったのは本当だし‥‥めでたい事だ。但し、イレーヌ嬢は未亡人であり五歳になる子供もいる‥‥その為、とりあえず式は挙げず、身内だけの披露宴形式を行おうという運びになったのだ。
「ですけど、わたくし達もぜひお祝いしたいですわ」
「そうですわね。お二人の門出‥‥引いてはエヴァンス子爵家の新しい門出ですもの」
「ぜひぜひっ、祝わせていただきたいわ」
 力を込める、自分より幾つか年上の貴族令嬢達。その様子にリデアは内心、不審を覚える。とはいえ、彼女達‥‥正確には、彼女達の家とは商売上の取引もあり、無下には断れないのもまた、事実。
「‥‥皆様のお気持ちは嬉しいですわ。でしたら是非、お越しくださいませ。義父も喜びますわ」
 だから、リデアは内心を隠した見事な笑顔でもって、そう応えたのだった。

「というわけで、結婚披露パーティーのお手伝いをお願いしたいのです」
 その後でリデアが向かったのは、冒険者ギルドだ。
「当日は、正装した新郎新婦が訪れた人達をもてなす、立食パーティー形式で行われます。料理や接待、音楽等、最低限はこちらで揃えますが、その力添えをお願いしたいのです」
 そして、もう一つ。リデアには懸念があった‥‥件の、ご令嬢達だ。
「正式にではありませんが、彼女達はお義父さまにアプローチをし‥‥まぁ平たく言えばフラれた方たちなのです」
 勿論、温室育ちの貴族令嬢が何か事を起こすとは思えない、というか思いたくない。純粋に祝福したいだけかも、しれない。
「ですが、何か‥‥些細な事でも、トラブルは起こって欲しくない‥‥お義父さまの新しい門出に、キズをつけたくないのです」
 だから、とリデアは依頼した。結婚披露パーティーを、成功させる為に。

「お願いしたものは、出来そう?」
 依頼を済ませたリデアは、その足で仕立て屋『ロゼカラー』を訪れた。
「はい。当日までには‥‥」
 請け負ったオルガが縫っているのは、一着のウェディングドレスだ。
「イレーヌ様は、二度目だから‥‥って言うけど、お義父さまにとっては初めてだし。参列する人達を納得させる為にも、着た方が良いです、よね‥‥?」
 と思ったリデアが秘密裏に用意しているものだ。当日、有無を言わさず着せてしまえば良いのだ。
「オルガもう一つ、頼みがあるのだけど‥‥」
 そして、リデアは持ってきた包みをほどき、一着のドレスを取り出した。淡いピンクのドレス。それは一年近く前リデアがお義父さまから貰ったドレスだ。
「むっ胸が全然成長してないのが情けないのだけど‥‥」
 成長期だしその内大きくなる、と願望も込めて思っていたのだが、現実はそう甘くはなかった、トホホ。
「でも、これが最後の機会だし‥‥これを着た姿、お義父さまに見て欲しいなぁ、って」
 義父への想いを断ち切る為にも‥‥言外の決意を感じ取ったオルガは快く了承し。
「パーティーが成功すると良いですね」
「‥‥ええ。というか、絶対に成功させてみせます」
 リデアは改めて決意したのだった。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6395 ゴードン・カノン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ディーネ・ノート(ea1542)/ アレクシアス・フェザント(ea1565)/ サーシャ・クライン(ea5021)/ ギリエル・クルーガー(ea6384

●リプレイ本文

●ウェディングドレス
「ご結婚おめでとうございます」
 アッシュ・クライン(ea3102)はレアン・エヴァンス子爵とイレーヌに挨拶と祝いの言葉を告げた。素っ気ないが、自分なりに祝福の気持ちを込めて。
「ご結婚披露という晴れがましい場へのお力添えが叶う事を光栄に思います」
 エリーシャ・メロウ(eb4333)もまた真摯に祝辞を述べると、手にしていた鉢植えを二人へと贈った。
「可愛い花ですね」
「はい‥‥福寿草です」
 花と、何よりエリーシャの心遣いが嬉しかったのだろう。二人‥‥イレーヌは特に、それはそれは嬉しそうに微笑み。
「ありがとうございます」
 そう、何度も繰り返した。
「エヴァンス子爵とイレーヌ殿、無事結婚の運びとなったか。いや実に目出度い」
 そんな二人に感慨ひとしお、といった風情だったのはゴードン・カノン(eb6395)だ。
「二人の門出が素晴らしいものとなる様に、私も手伝わせて頂こう」
 ゴードンは寄り添う夫妻に請け負った。
「結婚かあ‥‥結婚はいいものだよねえ‥‥ルーシェ綺麗だったなあ‥‥あべし!?」
 と、自分の結婚式‥‥愛妻の可憐な姿を思い出していたアシュレー・ウォルサム(ea0244)は後頭部に一撃を受けた。裏拳でもって容赦なく突っ込んだのは、クレア・クリストファ(ea0941)である。
「‥‥リデア」
 直後、何事もなかったようにクレアは不安そうな面持ちの少女の頭を優しく撫でてから、仲間達を振り返り。
「大丈夫よ〜‥‥ねぇ、皆?」
 それぞれ頷きを返してきた仲間達を確認してから、リデアに胸を張ってやった。任せておいてと、いつものように。
「エヴァンス子爵とイレーヌ殿、二人を取り巻く全ての方々にとっての晴れの日。是非良き思い出となるような楽しい日にしたいものだな」
 そして、リューズ・ザジ(eb4197)にもそう言われると、リデアの顔はようやく安堵に緩んだ。
「そうそう。女の子はやっぱ笑顔だよね」
 アシュレーは言ってから、今度こそ表情を引き締めて夫妻に祝福と挨拶を贈った。
「さて、とりあえず衣装替えね」
 そうして、クレアは用意されたウェディングドレスを取り出した。
「あの‥‥」
「あら、何度目であろうが、結婚は女の幸せの形の一つよ? 新郎も喜んでくれるでしょうし‥‥えぃっ、問答無用」
 渋っていたイレーヌも、
「貴女の娘が用意してくれたんだから」
 という一言に、それ以上の抵抗を諦め。
「このドレス、きっと奥方様に似合いますわ」
 エリーシャは手伝いながら、招待客について色々と質問していった。
「さて、リデアもお着替えしましょ」
「‥‥う、やっぱり胸が」
「そこはスルーで‥‥うん、レアン達の反応が楽しみね」
 クレアがウィンクするとリデアはぽっと顔を赤らめた。
「子爵も‥‥結婚式は女性が主役とはいえ、並んで見劣りしちゃダメだからね」
 残された新郎の相手をするのは、アシュレー。早速、理美容用品一式を取り出すと、自分や子爵の身支度を手早く整えていった。

●披露宴
「こういうパーティは初めてじゃないですが‥‥やはり少し落ち着かないものですね」
 人が集まってきたパーティー会場前で、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は傍らの少年‥‥セドリックに小さく問うた。身にまとったロマンスガードと施された化粧が艶やかなニルナと、やはりアシュレーに整えてもらったセドリックと。並んで立っているだけなら、随分と場に馴染んでいる。
「セドリック君はこういうパーティは何度も経験しているのですか?」
「僕の家は貴族といっても名ばかりでしたし‥‥正直、初めてです」
 だが、セドリックは首を振った。そう言えば、硬く握り締められた手が微かに震えている。
「‥‥大丈夫ですよ」
 だから、ニルナはそっと囁いた。周囲に気づかれぬよう、一度だけその震える小さな手を握る‥‥励ましを込めて。
「今日は出来る限りセドリック君をバックアップしますので、覚悟してくださいね」
 そうして、ニルナはこちらを見上げたセドリックに、微笑んでみせ。
「私の名前はニルナ・ヒュッケバインと言います‥‥今回は皆様に楽しく過ごして頂けるよう、精一杯努力させてもらいますね」
 共に一礼すると、パーティー会場への扉を開いたのだった。
「‥‥」
 賓客たちを出迎えたのは、キレイに飾り付けられた部屋から流れ出た音楽だった。本職であるケンイチ・ヤマモト(ea0760)と、嗜むというレベルを超えているアシュレーの二人が奏でるメロディ。リュートと竪琴の調べが華やかに、訪れた者達を誘う。
 広い部屋。中央はスペースを取り、その周囲を取り巻くように、料理やグラスの乗ったテーブル達が置かれ。
 その中央に立つ、男女。マーメイドラインのシックなウェディングドレスをまとったイレーヌは、清楚な中にほのかな色香を感じさせ、隣に立つ子爵もまたいつもより二割り増しくらい男ぶりが上がっている。新婦の傍らに控える、シルクのドレスをまとったエリーシャも太鼓判を押すくらいのできばえだった。
「ようこそ、おいでくださいました」
 そして、パーティーが始まった。

「どうぞ」
 人々の間を泳ぐように挨拶回りをしていく夫妻。その際、籠に入れたリボンを手渡しているのだが、これはリューズのアイデアだった。
「冬場は花が手に入りにくいしな。それに、『縁結び』という事で、祝ってくれた人達にも幸せが訪れるよう願いを込めているんだ」
 縁起の良い諺が記された色とりどりのリボンが、笑顔の新郎新婦から人々に手渡されていく。
「‥‥幸せが広がっていくようだな」
 接客をしながら、リューズはそんな風に頬を緩めた。
「卿のおられる所はそろそろ、雪に覆われる頃ですか?」
「おおっ、知っておられるのか」
「はい。訪れた事はありませんが、機会があれば‥‥と」
 新婦に付き従うエリーシャは、その進路やリボンの渡し忘れがないよう気を配りつつ、同時に客の様子にも注意していた。手持ち無沙汰の人あれば、さり気なく話題を振って盛り上げる‥‥少しでも楽しんでもらえるように。
 決して出すぎず控え目に、エリーシャは心地よい雰囲気を作り上げていく事に、心を砕いた。
「何時ぞやは失礼致しました」
 接待しつつ会場を見回っていたゴードンは、既知であるヘンウィ卿を見かけ話しかけた。甥である子爵の結婚は卿にとっても喜ばしいのだろう、気難しい顔も今日ばかりはほころんでいる。
「こちらこそ、色々と世話になる」
 軽く下げられた頭も、礼に則ったもの。
「これでようやく肩の荷が下りるというものだ」
「いや、まだ子爵には卿のお力が必要でしょう」
 世辞でなく告げたゴードンはふと、ヘンウィ卿の視線が一点で止まった事に気づいた。追うとそこには、セドリックの姿。ニルナが付いてくれているから踏みとどまっているものの、いかにも所在なげな‥‥居心地の悪そうな面持ちだ。
(「それも当然か」)
 とゴードンは思う。セドリックの立場は微妙だ。客の中にはあからさまに好奇の目を向ける者もいる‥‥聡い子だけに、余計居づらいのだろう。
「ヘンウィ卿は彼の事、どう思われます?」
「‥‥跡を継がせるわけにはいかないが、それ以外なら出来る限り希望を叶えてやりたい所だ‥‥個人的には、だがな」
「それで充分だと思いますよ‥‥少なくとも今は」
 言うと、ゴードンは軽く手を挙げ合図した。気づいたニルナがセドリックを伴い、こちらにやってくる。一言二言、言葉をかわす様子は和やかなもので。
「とりあえず、ヘンウィ卿が擁護してくれれば多少は周囲の雑音も静かになるか」
 呟きゴードンは歩を踏み出して、セドリックに‥‥緊張して青ざめている少年の肩を叩いてやった。
「君の新しい父を信じろ。誰が何と言おうと、彼の息子として堂々と胸を張っていれば良い」
「‥‥はい」
 驚いたように目を見開いた後、セドリックは小さく‥‥けれど、噛み締めるようにしっかり、頷いた。

「あ〜、あのお嬢さん達かなぁ」
 ケンイチと共に音楽で場を盛り上げながら会場をさり気なく注視していたアシュレーは、会場の一角でこそこそ話し込む若い女性三人組に気づいた。
「ん〜、騒ぎを起こすつもりは無いみたいだけど‥‥ま、一応知らせておくか」
 新郎新婦もじきにあの一角に向かうし‥‥アシュレーはケンイチに目で合図すると、そっと移動した。
「あぁ、こちらも気になっていたところだ」
 話を受けたアッシュも、首肯した。客達と歓談を交えながら会場を見回っていたアッシュである。令嬢達にも当然、注意を払っていた。今のところ、事を起こす素振りはなかったものの、このパーティーを楽しんでいないのは丸分かりだったから。
「随分と変わった形のドレスですわね」
「私たちにはとてもとても着られませんわ」
 果たして、新郎新婦からリボンを受け取り、令嬢達は仕掛けてきた。といっても、「貴女は年ですものね」と暗に嫌味を言うくらいだったが。
「そうですね。ですが、貴女方も多くの事を学んでいけば、いつかもっと素敵な淑女になれるでしょう」
 すかさず、エリーシャがすり替える。令嬢達の嫌味を謙遜に、そして、年長者の余裕をもって優しい励ましを贈る事で場を収める。
「シェンナ様はダンスが得意とか‥‥よろしければ見せて下さいね」
 赤い縁結びのリボンと完璧な笑顔を贈り、エリーシャは新婦を次の客の元へと誘って行った。
「気持ちは判るわ。でもそれに囚われては、ダメ。一度愛した人なら、その人の幸せを汚してはならない‥‥汚せば、貴女達まで汚れてしまうもの」
 目で追いつつクレアは客達と相対するイレーヌを、指し示した。
「あの笑顔‥‥綺麗でしょう?」
 令嬢達はグッと唇を噛み締めた。分かっている‥‥だけど、認められない認めたくない乙女心。
「世の中には理屈で分かっていても、心では認められないことも多くあります。しかし、そこをぐっと押さえ、堂々とするのも女性として必要なことだと私は思います」
 ニルナの言葉もまた、令嬢達に向けられたもの。傍らのセドリックを気遣いつつ、「大丈夫ですよ」と目で伝える。
「お婆ちゃんが言っていた‥‥自分を認めてもらえない時、それは必ず自分の中に原因がある。それを見つけられないなら、そこから前に進む事はできない、とな」
 更にアッシュが言葉を重ねると、令嬢たちの顔が歪んだ。泣き出す、一歩手前。とはいえ、ここで令嬢達が泣き出しては、折角のパーティーが台無しだ。ここは晴れの場、なのだ。
(「まぁ反省もしている様子だし、な」)
 だから、ゴードンは令嬢に手を差し出した。きょとん、とした拍子に、零れそうだった涙が止まる。
「折角です。私と踊っては頂けませんか?」
 タイミングを合わせたケンイチは奏でる旋律を変えた。客達をくつろがせていた控え目な曲調から、ダンスミュージックへと。華麗な、ワルツのテンポへと。
「そうだな。お得意のダンスを間近で見せていただこう」
 同じく、リューズが動く。男装のまま騎士の礼服で参加しているリューズに笑みを向けられ、エリーシャがダンスが上手なと称した令嬢が思わず頬を赤らめる。
 人数合わせ‥‥というべきか、残った一人もまたアッシュに誘われコクコクと反射的に頷いたりして。
「あの‥‥よろしくお願いします」
 縁結びのリボンをギュッと握って見上げてくる令嬢に、ちょっとマズいかなと思いつつ‥‥リューズはやっぱり笑顔で頷き、その手をとって中央へと進んだ。

●ワルツワルツ
「あ‥‥」
 リューズと令嬢が踊りだすと、それをきっかけにダンスに参加する客がちらほらと。その中、リデアは義父の背中を見つめたまま立ち竦んだ。決めてきた筈なのに、揺れる心。
「‥‥お婆ちゃんが言っていた」
 と、令嬢とフロアに出るべくすれ違い様、アッシュが見透かしたように言葉を掛けた。
「気持ちだけ先走っていても何も始まらない。事柄はどうあれ、立派になるためには精進あるのみだ、とな」
 よく似合っている‥‥そんなセリフは気恥ずかしいから。代わりに、一つ頷いてやる。道を開くように、令嬢をエスコートしながら。
「さぁリデア‥‥行きなさい」
 そして、背中を押すクレアの声。リデアの中、最後の躊躇いが消えた。
「お義父さま‥‥一曲踊って下さいますか?」
 軽く目を見張った後、新郎は顔をほころばせた。
「喜んで」
 恭しく差し出された義父の手に、リデアは自らの手をそっと乗せた。見て取ったケンイチはすかさず、曲調を緩める。気づかれぬよう、優しく緩やかに。ゴードンとリデアの練習に付き合った、それはケンイチなりの心配り。
 その優しい旋律に乗って、親子がステップを踏む。ゆっくりと、確かめるように‥‥この一時を楽しむように。
(「よし、いい出来だ」)
 令嬢の相手をしながら、ゴードンは内心でホッと胸を撫で下ろした。最近まで、社交界‥‥パーティーに出る機会の無かったリデアである。お世辞にもダンスは得意でなく。
『折角ドレスを着るのだ。子爵殿をお誘いしては如何かな?』
 だから、事前にゴードンがダンスの練習に誘ったのだ。その成果が今、眼前で展開している。
 リデアは奇跡的に子爵の足も踏まず、何とかテンポも外さず、頑張っている。
(「教師としても嬉しい限りだ‥‥何より」)
 その輝くような笑顔。ゴードンもまた満足そうな笑みを浮かべていた。
「イレーヌさん、レアンさん‥‥ここは親愛なる私の友人として言いましょう。おめでとうございます。そして、この幸せが終わらないワルツのように続くことを心から願っています」
 踊り終え、再び揃った新郎新婦を訪れたニルナは笑顔を向けた。改めて伝える、祝福の気持ち。
「おめでとう、母上‥‥母上をよろしくお願いします‥‥ち、父上」
 そして、背中をそっと押されたセドリックが、らしくなく‥‥真っ赤な、年相応の顔でそう告げた。
 途端、新郎新婦に満面の笑みがこぼれる。
「さて、身内のことについてはとりあえず乗り切ったけど、これからまだまだ問題は出そうだよね、この結婚」
 そんな様子を見やり、アシュレーはそっと呟いた。けれど、もれたのは溜め息ではなく、微笑み。
「‥‥まあ、あの四人が家族として力を合わせられるなら大丈夫だろうけどね」
「この幸福は、誰にも冒させはしない‥‥」
 やはり見守りながら、クレアは祈った。リデアの、そして、エヴァンス子爵家の幸福を。
 窓辺では、エリーシャが贈った鉢植えが、静かに人々を‥‥生まれたばかりの家族を見守っていた。
 エリーシャの願いを込めた福寿草。その花言葉は‥‥『永遠の幸福』。