突撃オカルト探偵団

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月22日〜01月25日

リプレイ公開日:2007年01月28日

●オープニング

「これはミステリーよ!」
 瞳をキラッキラ輝かせるアネットに、フィリップ‥‥フィルは内心で溜め息をついた。
「そう‥‥で、何があったんだい?」
 またか、と思いつつ律儀に問い返すフィル。
「聞かせて欲しい? ねぇ、聞かせて欲しい?」
 ここで「いや、いい」と言ったら幼馴染の少女は烈火の如く怒るんだろうな、と経験上知っているフィルは「うん」と素直に頷いた。
「じゃあ聞かせてあげる。あのね、それは一昨日の朝の事‥‥」
 アネットはそんなフィルに満足そうに頷くと、自分が遭遇した『不思議』について説明し始めた。

 それは一昨日の朝の事‥‥お父様と馬車で屋敷に帰る途中の事だったわ。とある通りを通りがかった時、あたし見ちゃったのよ。道を歩いていたお婆さんが、すってんころりん見事に転ぶところ! 幸い、親切な男の人が直ぐに助け起こしてたけどね。「まぁまぁありがとうございます」「いえいえ当然の事ですから」そんな会話が聞こえてきそうだったわね。‥‥え?、それのどこが不思議かですって? 全くフィルったらせっかちさんなんだから。
 えぇと、そうね。確かにそれだけだったら別に、不思議でも何でもないわね。でもね、あたし見ちゃったの! そこから先、その道を通っている人達が次々と転んでいく‥‥そんな衝撃的な光景を! ね、コレってすっごいミステリーじゃない?!

「朝早くに、道で人が転んでいたんだね? うん、そこは建物の影になって昼間でも薄暗い通りだよね。‥‥あぁ確かその前夜は少しパラついたっけ‥‥で、翌朝は寒かった、と」
 放し終えたアネットに確認する、フィル。成る程とアネットを見ると、そこにあったのは、
「ねぇねぇフィル、これって不思議現象よね!」
 ガッツリ意気込んでいる幼馴染の顔。
「‥‥」
 フィルは考える。例えばここで「多分それは‥‥」と説明したってアネットは納得なんてしないだろうし、そうすれば結局どうなるか‥‥フィルはこの後の展開を容易に推測できてしまって。
「そうだね‥‥それじゃあ明日の早朝、確かめに行こうか」
 だから、フィルは内心の溜め息を飲み込み、告げた。窓の外、今にも泣き出しそうな空を見ながら。
「うん! じゃあ約束」
 アネットは果たして、満面の笑顔でもって言った。だが、続けられた言葉はフィルの予想を超えていた。
「でもこの事件、あたし達だけじゃ危険かもしれないわ‥‥冒険者を雇いましょ」
「‥‥は?」
 突然の宣言にフィルは口をぽかんと開けたまま固まった。
「‥‥あのさ、アネット。多分‥‥ていうかほぼ、危険な事なんて無いと‥‥」
「あら分からないじゃないの。だってだって不思議現象なのよ?‥‥それに、冒険者なんて不思議な人達、一度見てみたかったし」
 ボソリと小さく付け足されたそれが本音だと察したフィルは、それ以上の抗弁を諦めると、依頼を受けてくれる冒険者達に、やっぱり心の中でもって謝ったのだった。


「‥‥成る程、冬の朝のミステリーを一緒に検証して欲しい、ですか」
 冒険者ギルドの受付嬢は、アネットの依頼を聞いて曖昧に微笑んだ。そんな受付嬢に、「ごめんなさい」な眼差しを必死で送るフィル。
「そうですね。明日の朝はまた被害者が‥‥ケガをする人が出るかもしれませんし。その人達に警告するだけでも、人助けになると思いますよ」
 フィルの内心を察したのか、受付嬢は慰めるように言い。ふと、「そういえば‥‥」と小首を傾げた。
「転んだ人の中で、おサイフを失くした人が何人かいるらしいんです‥‥皆、お年寄りらしいのですが。ですから、お年寄りには特に気をつけてあげて下さいね」
「はぁ、分かりました」
「安心して! この事件、あたし達が解決してみせるわ!」
 元気いっぱい気合充分で答えるアネットに、フィルはやっぱりガックリと肩を落としたのだった。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4854 セナ・ヒューマッハ(46歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb5328 レミィ・ハーグ(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ディアッカ・ディアボロス(ea5597)/ カルナ・バレル(ea8675

●リプレイ本文

●作戦前夜
「よほー♪ 私、ディーネっていうの。よろしくおねがいするわね」
「あたしはアネット、よろしくね!」
「この度はあの、ありがとうございます」
 元気良く挨拶するディーネ・ノート(ea1542)に返ってきたのは、同じくらい元気な声と、おずおず申し訳なさそうな声。前者がアネットであり、後者がフィルだ。
「初めまして。私はレミィ・ハーグと申します。どうぞよろしくお願いしますわ」
 愛犬と共にやってきたレミィ・ハーグ(eb5328)は、そんな子供達の様子にふっと頬を緩め。
「街に潜む謎に挑む。面白そうだねっ」
 天野夏樹(eb4344)もまた小さな依頼人達に挨拶してから、話を確認してみた。
「早朝の道で人が転ぶ謎を解明すれば良いんだよね。分かっている事を上げてみると‥‥」

・現場は昼でも薄暗い通りだった。

・当日の朝は凄く冷え込んでいた。

・前夜には少し雨が降っていた。

「‥‥え?」
 天界人である夏樹の頭にはピカンと閃くものがあった。
「ああ。多分、路面が凍ってころんだんだろうな」
 同じく気づいたキース・ファラン(eb4324)が、アネットに気づかれぬようそっと囁いた。
「だが、不思議なことは俺も興味があるし、子供達がどうやって不思議と思ったことを解決していくかと言うことにも興味あるから、手伝ってあげたいと思うぜ」
 ディーネやレミィ‥‥冒険者達を見るのも初めてなのだろう、それはそれは嬉しそうなアネット。見つめるキースに、夏樹も「うん!」と大きく頷いた。

「ぉぉ〜、“不思議現象ぉ〜”」
 事件現場に目を輝かせたのは、シフールのファム・イーリー(ea5684)だった。興奮したように、クルクル空中を踊る小さな身体。
「朝早くの現象ということは、夜中の内に何かが!?」
「何かが?!」
「‥‥うん、確かにそうなんだけどね」
 その小さな手を取るアネットにフィルは呟くが、聞こえていまい。
「よっし! じゃぁ、あたしは、夜中から“張り込み”するねぇ〜☆」
「ええっ‥‥寒くなってきましたし風邪、引いちゃいますよ」
「大丈夫だよっ! テントに寝袋、準備はバッチリだもん☆」
「そういう問題ではなくて‥‥」
 可愛らしく胸を張るファムに、うろたえるフィル。
「じゃああたしも‥‥」
「風邪を引いたら大変よね。良かったら私のマント使って?」
 意気込むアネットにディーネがマントを差し出した所でフィルが慌てて割って入った。
「ダメだよアネット! 外泊なんてしたらアネットのご両親だって心配するだろ!」
「え〜?」
「そうしたらそれこそ外出禁止だよ!」
 アネットは非常に不満そうだったが、フィルもこの点は譲らなかった。
「そうですね。今日は一先ず解散して、明日の朝に備えましょう」
 はらはらと少し落ちてきた雫を確認しレミィが言うと、アネットもそれ以上の駄々はこねなかった。
「明日は早いですから、今日はゆっくり休んで下さいね」
 レミィに二人は素直に頷き。見送ってから、レミィとユラヴィカ・クドゥス(ea1704)は視線を交わしあった。
「この状況では、嬢ちゃんの依頼は道路の凍結だとして、気になるのは‥‥」
「財布の消失‥‥私は盗難だと推測しますが」
「同感じゃ。事態をややこしくせぬ為にも、少し調べる必要があるのう」
 二人は頷き合うとそれぞれ、聞き込み調査に入った。
「やはり、盗難事件のようですね」
「財布が周囲から一つも発見されていないからのぅ」
 そして、レミィとユラヴィカがそう確信したのは、そろそろ辺りが暗くなってからだった。
「それにしても、お年寄りだけを狙っているのが卑劣です」
「しかも早朝、親切なフリをしてじゃからの」
「何とか捕まえたいですね‥‥アネットさんの夢を壊す事無く」
 レミィに、ユラヴィカは大きく頷いた。

 その夜。
「お化けかな? 精霊さんかな? 不思議の謎をファムちゃんが見つけるよぉ〜!!」
「しかし、何も無ければ‥‥不審なのは俺達だがな」
 ぼそりとキースが呟いた通り。
 ウィルの道路の端で。テントを張り双眼鏡を抱えたシフールの姿と、物陰に潜むパラの姿が目撃された‥‥それこそ、不思議な光景として。

●検証してみよう
「不思議現象? 何だか凄く興味あるわ! 早速調査開始よ!」
 次の朝早く。合流したアネットとフィルを前に気合を入れたのは、エリザ・ブランケンハイム(eb4428)だ。
「雨に日陰に早朝と‥‥どうやら路面凍結ってところね」
「お化けも精霊さんも出なかったよぉ〜」
 と残念そうなファムの報告もあり、小さく呟くエリザ。実際、目にした道路は何かもう、見た瞬間にヤバそうだし。
「とはいえ、この道‥‥平坦に見えて意外と斜面になってるかも?、だし、検証してみないとね」
「フィル君アネットちゃん、一緒に事件を解決しようねっ!」
 夏樹は言って、注意深く道を渡ると、サッカーボールを置いた。ボールはゆらゆらと揺れていたが、ふと吹いた風に煽られると夏樹の手元からエリザ達の方へとゆっくり‥‥やがてスピードに乗り少しスピードを増して転がっていった。
「ん〜、傾斜は少しはあるのかな?」
「ですが、人を転倒させるほどではありませんね」
 戻ってきた夏樹と結果を論じるレミィに、アネットも分からないながら真剣な面持ちで聞き入り。
「『不思議現象』‥‥ふっ、しかし拙者の『最速』には及ぶまい」
 と、挑むように言い切った者がいた。セナ・ヒューマッハ(eb4854)である。
「拙者のエラシコで不思議が起こる前に最速で駆け抜ければ‥‥」
 セナはサッカーボールをふっ、と軽く放るとキックオフ。
「最速で事件解決でござる!」
 言いながら、挑む。眼前の不思議に‥‥つまり、つるっつるっに凍結した道にドリブルしながら向かったのである!
 嗚呼ッ、何て勇気、何て挑戦スピリッツなのか! 何故なら彼は彼こそは最速の男! 最速という遥か高みを目指す夢追い人なのだから!
 そう、セナは『最速』の男。この時もセナは最速だった。
「のあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ‥‥ぐぎゃっ!?」
「‥‥あの、大丈夫でしょうか?」
 盛大にコケてそのまま壁に激突したセナをフィルは恐る恐る指差し。
「うん、セナくん強いから」
「ケガしているなら手当てしますから」
 ファムに軽くレミィに穏やかに言われ、押し黙った。
「それより、フィル君」
 そんなフィルに合図を送ったのは、夏樹。フィルは暫し沈黙し、今にもセナの真似して突撃しそうなアネットを見てから、意を決して口を開いた。
「そうか、分かったぞ!」
(「タメダメ、もっと自然にっ」)
 棒読みなフィルにこっそりダメ出ししてから、夏樹は驚いたように目を見張ってみせた。
「どう言う事、フィル君!?」
「うん。えと、昨日の夜は小雨が降ってたんだよ。それが今朝の寒さで凍り‥‥滑りやすくなってたんだ」
「そ、そうだったのね!」
 すかさず合いの手を入れる夏樹。
「え〜、何それ」
「なら、正しいかどうか実験してみればいいじゃないか?」
 アネットが納得しない事、予想していたキースは指し示した。
「実際、歩いてみようじゃないか‥‥ちなみにドリブルは禁止だぞ」
 という事で皆で歩いてみた。やはり凍りついた路面は酷く歩きにくく、滑った。
 途中、転びかけたアネットを助けようとフィルが路面に顔を打ち付けたり、滑りかけたアネットを庇ってフィルが下敷きになったりしたが、まぁ大きなケガにはならずに凍結した道を歩き終え。
「言った通りだろ?」
 レミィの手当てを受けながら懸命に諭すフィル。
「確かに滑るけど。‥‥大体、何で寒くなると凍るわけ?」
 だがここでアネットは根本的な疑問をぶつけてきた。
「‥‥何でって、自然現象?」
「水は温度が低くなると氷になるのよね」
「何で?」
 不思議そうに問われ、フィルも夏樹も思わず黙る。だってそういう性質だし。
「それに、キースさん達は滑らなかったし」
「そうね‥‥確かに転んでも不思議じゃない状況よね。だけど、この私の眼は誤魔化されないわよ!」
 と、同意するように、エリザがぐっと拳を握り固めた。アネットの顔がぱっと輝き、反対にフィルの顔が絶望に歪む。
「大体、滑りそうって判る状況なら、注意して転ばないよう行動するはずよ!」
 気づかず、自論を展開するエリザ。
「しかも、この道を早朝に歩いてるって事は近所の人って可能性も高い! つまり、歩きなれた道って事よね。どこが日陰で滑りやすくなるかも知ってるはず。それなのにコロコロコロコロ転倒続出!」
 そして、エリザの瞳がキラーンと光る。。
「やはり何かあるわ! あってしかるべし! 誰もが当たり前と思う状況の中にこそ不思議現象は隠れているのよ!」
「やっぱりそうでなくちゃよね!」
 アネットと頷き合い、エリザはハッと閃いちゃった。
「分った! 犯人は透明になる魔法が使える奴よ! そいつが透明になって皆を転ばせてるに違いないわ!」
 皆の視線が一点に‥‥そう、突っ伏したままのセナに向けられる。
「コホン。まぁあれは不幸な事故だとして‥‥犯人はとっても狡賢い奴よ。滑って当たり前のこの状況を最大限に利用して、自分の存在を徹底的に隠し犯行を繰り返してるのよ!」
「何てひどい!」
「その通りよ! 謎が解けてしまえば後は張り込みよ! 現場を押さえてぶん投げて締め上げてとっ捕まえるのみよ!」
 エイエイオー、と盛り上がるアネット&エリザ。
「‥‥フィル君」
 そんな光景を見やり、ディーネはフィルを慰めるように告げた。
「アネットさんの好奇心に水を差すのは無粋ってもんでしょう? アネットさんが納得するまで、トコトンまで付き合おうじゃないの」
 時間が経って凍結が融ければ二人も納得するだろうし‥‥楽しげな口調のディーネに、フィルはやっぱり諦めたように「‥‥はい」と小さく答えた。

●親切な‥‥怪しい人
「ここは滑るの。気を付けてね」
 入り口でディーネは道行く人に警告していた。とはいうものの、途中のわき道などもあり全部に警告するのは無理であり。直ぐ先を歩いていた老婦人が、小さな悲鳴と共に転倒すると、ディーネは直ぐに駆け寄り、応急処置を施した。
「ほい、処置終わり♪ 私のは応急だからスグに教会行ってね?」
「ありがとうありがとう」
 老婦人に何度も頭を下げられ、ディーネの頬が照れたように染まる。
「私は当たり前の事をしただけ、だよ」
「かすり傷ですが、痛むようでしたら言って下さいね」
 同じく、転倒したお爺さんを看たレミィは、
「そういえば、懐のものは大丈夫ですか? 転んだ時、落としたりしていませんか?」
「親切な別嬪さん、ありがとよ。大丈夫じゃ」
「それは良かったです。どうか、お気を付けて」
 辺りを警戒するレミィは心の底から安堵し、笑んだ。被害にあったお年寄り達は皆、しょぼんと気落ちしていた‥‥これ以上の被害は防ぎたかった。
「むぅ‥‥しかし、怪しい奴現れないわね。捜査の手が伸びたのを知って既に遁走したのかしら?」
「何てずるがしこいヤツなのっ」
 一方。そろそろ気づいて欲しいなぁというフィルの願いとは裏腹に、一向に現れない犯人に憤るエリザとアネット。
「人って分かってても転ぶものなのねぇ」
 怪しい奴なんていない。現にエリザの目の前でも、脇道から出てきて転んだお爺さんに、後ろから出てきた男の人が手を差し伸べるという、真に平和で心温まる光景が展開されていたりして。
「む‥‥そやつじゃ!」
 と、突然ユラヴィカが鋭く声を上げた。その人差し指を一点‥‥お爺さんを助け起こした男に向け。
 昨日、ユラヴィカはディアッカ・ディアボロスから情報を得ていた。魔法で得た、スリの人相・風体について。
 だから、分かった。親切な通行人を装ったその男が、老人達を悲しませた盗っ人だと。
 ユラヴィカの警告。咄嗟にキースや夏樹は子供達を庇い身構え。
「行きなさいっ!」
 レミィは愛犬を差し向けた。驚いた男は踵を返し、脇道に逃れようとし。
「逃がさないもん!」
 すかさずシャドゥバインディングの呪文を唱えたのは、ファム。薄暗い道路は影に事欠かない。
「うわぁっ!?」
 建物の影が盗っ人の足を縫い止める。そして、動く‥‥あのっ、最速の男がッ!
「さぁ、最速で捕まえるので‥‥」
 セナはスライディングの要領で凍結した道路を滑りながら突っ込み。
「とっとと現行犯するでござる!」
 その黄金の右足は、狙い違わず盗っ人の縫い止められた足に突き刺さったのだった。

●事件解決
「こいつは官憲に突き出し、財布を持ち主に返還させよう」
 セナにドツかれ犬にかまれ。かなり悲惨な有様で取り押さえられた盗っ人を見下ろし、キースが冷静に提案した。勿論、レミィ達に異議のあるはずもなく。
「え? え? その人がこの事件の犯人‥‥なの?」
 状況がつかめていないアネットは、突然起こった捕り物に目をぽちくり。
「あのね、アネットちゃん。このミステリーの犯人はやっぱりフィル君の言った通り、自然現象だと思うの」
「うむ。そしてこやつは、その路面凍結にかこつけて、人々を苦しめていた悪人というわけじゃな」
 夏樹とユラヴィカは言い含めるように説明する。
「なんだ‥‥そっか」
 だが、ようやく理解できたアネットは、大きく溜め息をついた。
「でもね。アネットちゃんが、その疑問を解明しようとしたお陰で、スリを捕まえる事が出来たんだよね。お手柄お手柄♪」
 夏樹の言葉をフィルは止めようとしたが‥‥遅かった。
「‥‥え? そう、そうよね!」
 途端、アネットは俄然元気を取り戻したのだから。
「不思議も事件も、まるっと解明しないとね!」
「うんうん♪ 不思議も確かめてみないとだしね♪」
「困っていた人達も助けられたしね♪」
 ディーネもファムも、楽しそうにその場をくるくるしている。
「なぁお前さん、アネットに対してもっと強く出た方が良いんじゃないか?」
 そんな中、一人ガックリと肩を落とすフィルにキースは言葉を掛けた。傍で見ていて思ったのだ。暴走しがちなアネットをフィルがしっかり抑えれば、二人は良いパートナーになれるのでは、と。
「‥‥無理です。僕にアネットは止められません」
 けれど、フィルはキースに弱々しく首を振った。元気一杯跳ね回るアネットを、疲れた様子で眺めながら。
「まぁ今直ぐに、とはいかないだろうが‥‥頑張れ」
 それでも、いやだからこそ、キースはその落ちまくっている肩を強く叩いてやった。励ましと勇気付けを込めて。
 足元で、凍っていた道路が融け出していた。