カオスキャプチャー〜人の肉は甘美なる餌

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月29日〜02月03日

リプレイ公開日:2007年02月05日

●オープニング

 冒険者ギルドに真剣な表情のサクラがいた。
 冒険者数名が呼び出され、彼女の前に座っていた。

「貴方達にこれからお話する事は他言無用でお願いします。私と一緒にイムン分国に向かってほしいんです。勿論、行きと帰りでフロートシップが出ます」
「イムン分国? 其処で何をするつもりなんだ?」
「イムン分国の開拓地に獣型のカオスが発見されたんです。それを討伐に行きたいのでご同行をお願いしたいんです」
「カオス‥‥? 一体どんな‥‥?」
「その獣型のカオスはメスをボスとして群れを作っているんです。その性格はとても凶暴で人を見ればすぐに餌だと判断して襲い、喰らいます。群れを成している分知能もそれなりにあるみたいです」
 サクラの言葉を聞けば普通の冒険者は恐れをなす。
 其れは、今彼女の目の前にいる冒険者達にも言えていた。
「彼等は肉食で特に人間の肉を好みます。このままだと開拓地の人達の命が危険です。それに今の時期はメスは卵を産み、暖めている為気が荒立っています」
「そ、それじゃあ近寄ればすぐ喰われるじゃねぇか!?」
「それでもやらなくちゃ‥‥卵が孵ればその魔物の子供達は近くの村や開拓地を襲い、人間を喰らいます。お願いします、どうか力を‥‥」
「俺はごめんだ!」
 一人の冒険者がそう言えば、自分も、俺もと他の冒険者達も怯えてギルドを去る。
 その後姿を見てサクラは小さく溜息をつく。

「サクラ、めげちゃダメだよ! 次来る人に期待しようっ!」
「ミラー‥‥うん、そうだよね。なんだったら私達だけでも行くしかないんだし‥‥」
 サクラの言葉に迷いはなかった。誰も来てくれなくても自分が行く。
 そうして封印していかないと、沢山の人が死ぬことになるから‥‥。
「大変みたいですね、サクラさん」
「あはは‥‥こんなの慣れっ子です。キャプチャーになってからこうやって断られ続けてますし‥‥」
「もうそろそろこの世界にも慣れた、といったところでしょうか?」
「そうかも知れないかな? ‥何だかんだ言って、戦ってるもんね」
 もう普通の女の子には戻れないかな。
 と、彼女は苦笑を浮かべる。
 そうしている間にも次の冒険者達がギルドへとやってくる。
 彼女は彼等にもこう説明する。

「これから私が話す事は他言無用でお願いします」

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4944 ラックス・キール(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9744 ローザ・ランティス(20歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

トシナミ・ヨル(eb6729

●リプレイ本文

●命の危険あれど
「サクラ、今回は今までで一番の戦いになると思います‥‥」
 サクラと合流し、フロートシップに乗り込もうとしながらもサクラに声をかけるニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
「すみません。私自身にもっと力があればよかったんですけど‥‥」
「気にすることはない。どんな冒険者だって一人でやっていける程強くは無いんだしな」 今まで幾度となくサクラと冒険をしてきたアッシュ・クライン(ea3102)がそうフォローを入れる。
「しかし、私はそれでも貴女を守る‥‥剣として盾として、そしてなにより義姉として」「ありがとう、ニルナさん! 私に出来ることがあればなんでも言って下さいね!」
「サクラの魔物は何が出来る?上手く使えれば戦力が増えて助かるんだが」
 しふしふ〜! と挨拶をしながら飛天龍(eb0010)がサクラに尋ねる。
 サクラは懐からカードを数枚取り出す。
「私が今回使えるのはマリオネット、リリス、フロストウルフですね‥‥」
「それじゃあサクラも戦力になるかも知れないな。フロストウルフで戦力を拡散したりとか‥‥」
「分かりました! それが私に出来ることならやりますっ!」
「でも、召還してる間捕縛とか出来るの?」
 久しぶりに会えたサクラに抱きつきながらディーネ・ノート(ea1542)が不思議そうな声を出す。
「えっと、精神力はいっぱいいっぱいですけど、集中できればなんとかなると思うの。でも、マリオネットを相手に憑依させたまま捕縛しちゃうとマリオネットが戻ってこれない可能性もあるの」
 試したことがないので何とも言えない、という。
 しかし、使い魔が戻ってこないという事態になってしまうと危険であるのは確かだ。
「とにかく、皆さんは目隠しをお願いします。これも条件の一つなので‥‥」
 頼んでいるのは自分なのに、ごめんなさい。 と、サクラは皆に頭を下げるのだった。

●獣を侮る事なかれ‥‥
「皆さん、着きました。フロートシップから今下ろしますので、降りたら目隠しをとってくださいね?」
 サクラの声が聞こえると、冒険者達は数人の人間によって手を引かれ、フロートシップから降ろされる。
 目隠しを外すと其処には大きな森が広がっているのだった。
「ここにカオスがいるのか‥‥」
「なんだか深そうな森ですね‥‥」
 ローザ・ランティス(eb9744)が少し不安そうにその言葉を口にする。
 サクラも実は少し不安だった為か苦笑を浮かべる。
「そうですね‥‥流石にこんなに大きな森を見たら、そう思うのは確かかも知れません。でも、やらなくちゃ。みんなの命がかかってるんだもん」
「ディーネから聞いた通り、強い子なのね」
「は、はわぁ!?」
 ルスト・リカルム(eb4750)がサクラの頭を撫でる。サクラが驚いた声を出すと思わずその手を引っ込めるのだった。
「‥‥っと、なにしてるんだ私は」
「そういえば、サマナーの方は順調なのか?」
 どうやら向こうも気になるのか、グレイ・ドレイク(eb0884)がサクラに尋ねると、サクラは小さく笑って頷いた。
「何でも、もうすぐ大きなお仕事があるってはりきってましたよ? そのうち皆さんの手元にも伝わるかも知れませんね」
「それじゃあそろそろ行きましょうか。森という事ですから夜になると大変です」
 ペットに道具を詰め込み、イコン・シュターライゼン(ea7891)がそう促す。
 冒険者達は気配を配りながら森の中に足を踏み入れる。本来ならここで囮と待機。班を分けるはずだった‥‥が‥‥。

「グル‥‥」
「あれ? 今、声が聞こえなかった?」
「どうしたんです、ディーネ? 私達には何も‥‥」
「グルル‥‥」
「‥‥まずい。どうやら俺達は既に囲まれているようだ」
 アッシュが剣を抜くと、ニルナも応じて剣を抜く。
 草むらから出てくる無数の魔物。緑の皮膚に覆われた獣のような姿。
「さ、最初っからピンチ‥‥ってやつ?」
「獣だと思って侮り過ぎた‥‥か」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)の呟きは最もだ。獣にはそれなりの知能がないと思っていた冒険者達であったが、獣は獣なりに知恵を蓄えている。
 仮にも群れをなしているのだから当然である。更に馬等の動物を数匹引き連れていれば臭いを敏感に感知する。それは獣故に。
 彼らが此処に足を踏み入れた時。既に彼等は狩りの体勢をとっていたのだった。
「どうする? これじゃ下手に動けないぜ?」
「下手に動けばサクラが危ない、か‥‥これはこれで‥‥」
「範囲魔法を使うヒマもないですね、これじゃあ‥‥。どうにかして体勢を整えないと‥‥!」
「闇の力を秘めし鍵よ‥‥真の姿を我の前に示せ! 契約の元‥‥サクラが命じる!レリーズ!」
 サクラの声が森に響く。一枚のカードが宙に浮き、其処から呼び出されたる魔物が咆哮をあげる。
「サクラ!」
「フロストウルフか! 丁度いい!」
 いい機会だとラックス・キール(ea4944)が武器を構える。フロストウルフが魔物の群れに飛び込み、隊列を乱していく。が、流石にフロストウルフだけではそう長くはもたないだろう。
 そう考えたラックスが一部の群れに突き進む。
「援護を頼む!」
「今なら範囲魔法がつかえるかも知れませんね!」
 イリア・アドミナル(ea2564)のウォーターボムが魔物の一部を襲う。これでラックスに対応出来る魔物の数が減るだろう。
「ニルー、いくわよ!」
「分かりました! いざ、参らん!」
 ニルナとアッシュも動揺に戦力分散させる為に別の群れへと突き進む。
 ディーネがそれをウォーターボムとアイスコフィンで援護している状態である。

「サクラ、このままメスのところまで突き進むが、異論は?」
「ありません。フロストウルフや皆さんに護られていますし‥‥何より急がないとですから!」
「‥‥いい返事だ。流石‥‥成長したものだ」
「オルステッドさん、私を子供扱いしてません?」
 少し不貞腐れるサクラを見て、オルステッドは参った、と笑ってみせる。
「怪我の治療はやれるところまでやってみます。医学の知識程度ですが‥‥」
「間に合うならやってくれ! 乱戦の中、出来ないならやらなくていいから!」
 ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)の声に、ルストがコアギュレイトを魔物に放ちながらそう返す。乱戦の中の場合、回復魔法の方が手軽に出来て便利なのは皆知っての事だ。
「おい、あれ! あの穴がそうじゃないか?」
 パタパタと飛びながら天龍が一つの大きな大樹に出来た穴を指差す。目指す地点は決まった。後はここをどうにかするだけだ。
「よし! ならここを突破するぞ! アッシュとニルナが通路をあけてくれ! 後ろから来る敵は俺と天龍で抑える!」
「分かりました! ディーネ達は援護をお願いします! ルストはサクラをお願いします!」
「任されたわ! サクラ、いけるわね?」
「はいっ! フロストウルフ、こっちに!」
 サクラが命じるとフロストウルフも大人しくサクラの隣へと駆けつける。
 サクラはフロストウルフの背に乗ると、冒険者達と駆け抜ける準備を整えるのである。

●突貫作戦
 走る冒険者達。後方からはオスの群れ。
 飛びついてくるオス達をアッシュとニルナが切り捨てながら走る。
 天龍が先行して様子を伺いながら道案内をする。大樹の中とはいえ、中は複雑な構造のようだ。
 そして辿り付いたその大広間に足を踏み入れた瞬間だった。大きな咆哮が木霊する。その声を聞くと何時の間にかオスの群れは姿を消していた。目の前にいる巨大な獣。
 どうやらこいつがメスのようだ。
「うっわー‥‥すげぇ声だな、こりゃあ‥‥」
「あれがメスみたいね。何だか凄く大きいわ‥‥」
「早めに終わらせましょう。卵の孵化も阻止しなくては‥‥!」
 ニルナが駆けると同時にアッシュがバックアップにつく。
 サクラのフロストウルフも錯乱要員として攻撃態勢を整える。
 勿論、前衛を援護しているのはディーネとルスト。
 後の前衛はサクラの護衛へと入る。何時後ろからオスが来るか分からないからである。
 メスの力は計り知れないものがあった。ニルナの一撃を受けながらも攻撃を繰り出す。 その攻撃は地面をも抉りとってしまうぐらいなのだ。
「ディーネ、実貰うわね!」
「おっけー! にしても、しぶといわね‥‥!」
「サクラ‥‥マリオネット‥‥やれる、か‥‥?」
 オルステッドの問いにサクラは「やってみます」とだけ答えフロストウルフをカードに戻す。そしてマリオネットを気付かれないように召還するのだった。
「一瞬の勝負なんですね‥‥」
 イリアも援護の為魔法の詠唱を始める。
「でも賭けるしかないな! やれるか!?」
「やってみるしかないですから! 皆さん、離れてください!」
 サクラの声を効いてアッシュとニルナがメスから距離をとる。
 サクラはステッキを握り締め、大きく深呼吸をしてからマリオネットを放つ。ここからはタイミングが勝負となる。勿論、メスも操られる事に抵抗する。その抵抗を何とか精神力で抑えようとするサクラ。メスの異変を感知してオスの群れがまたもや来る。冒険者達が其れを食い止めている。
「戻って、マリオネット!」
「アッシュ、切り込んでください! 持ち直させてはダメです!」
「分かった! サクラ、タイミングを逃がすな!」
 アッシュがメスへ一撃を叩き込む。よろめくメス。その瞬間、サクラは大声で唱える
「真理なす神の、行く行くを願いて! 我が掌中にその命委ねん!」
 こうして、最小限の被害だけで捕縛することができたのだった。

●後始末
「卵は‥‥始末するしか、ないな‥‥」
「そうですね。孵ってしまっては被害が出ますからね‥‥」
「可哀想だけど、仕方ないわね」
 オルステッドとニルナとディーネが卵を処分している中、ゾーラクがバーストを試そうとしているのをミラーが見つけて慌ててサクラと走り寄る。
「ゾ、ゾーラクさん! 待ってください、何をしようと‥‥!?」
「なぜそこに魔物が群れをなして現れたのかを知りたいので‥‥」
「ぜ、絶対ダメです!」
「依頼条件を言ってなかった僕らにも非があるんだけどね‥‥。此処で言っておくね。僕たちの依頼を受ける条件の一つとして『依頼の内容を深く詮索しない』っていうのがあるんだ。顔見知りの人がいるから、言ってくれてるものだと安堵はしてたんだけど‥‥」
 と、ミラーがつけたす。
「この依頼はイムン分国が私達を信頼して依頼してきてくれたんです。もし原因を知ったとすれば、何処からその情報が漏れるか分からないんです。信頼関係が崩れて捕縛の為の情報が貰えなくなってしまいます。更には情報が漏れてしまった場合、その国に降りかかる被害が大きいんです。‥‥ミハイルおじいちゃんと私が怒られちゃいます‥‥」
「教授より、イムン分国の偉い人の方が怖いしね‥‥」
 ミラーとサクラのこの説明により、ゾーラクはバーストでの原因究明を諦めたのである。

 帰りもまたフロートシップで送られる。勿論、目隠しをされたまま。
 そしてそこでサクラが思い出したかのように彼らに告げたのである。
「そう言えば、統夜さんとミハイルおじいちゃんが何か凄いものを見つけたって言ってたよ? 今度見に行ってみたらどうかな?」

 サクラは嬉しそうにそう言うのだった。