突撃オカルト探偵団〜幽霊屋敷にGO!?

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月19日〜03月22日

リプレイ公開日:2007年03月25日

●オープニング

「フィー‥‥パム‥‥ブラン‥‥」
 ウィルの夜、随分と寂れた小さな屋敷の荒れ果てた庭に、似つかわしくないか細い声が落ちたいた。見る者がいたならば、それは幼い少女のモノだと知れただろう‥‥もっとも、見るものは星々と月のみ、だったが。
 少女は荒れた手に、パンの欠片を持ち、何かを探している。寒さ避けなのか、その身を隠そうとしているのか、白いシーツを頭から被り、キョロキョロと辺りを見回している。
「にゃ」「にゃ〜」「にゃお〜ん」
「良かった、そこにいたのね‥‥きゃっ!?」
 と、少女がようやく目当てのモノを発見し、ホッと息をついた時、だった。
 不意に強い風が吹き抜けた。それは少女のシーツを奪い取り、高く枯れ木の枝へと持ち去った。風の悪戯‥‥だが、風がしでかしたのはそれだけではなかった。
 シーツを奪われた少女はその反動でよろめき。そして、フラついた足が近くにあった枯れ井戸のふちにぶつかり‥‥その小さな身体はアッという間に、枯れ井戸へと飲み込まれて行ったのだ。
 それは誰も見る者のいない、ある夜の出来事。見ていたのは星々と月と、小さな命達だけ、だった。

「これはミステリーよ!」
 瞳をキラッキラ輝かせるアネットに、フィリップ‥‥フィルは内心で溜め息をついた。
「そう‥‥で、今度は何だい?」
 またか、と思いつつ律儀に問い返すフィル。
「聞かせて欲しい? ねぇ、聞かせて欲しい?」
 ここで「ううん」と言ったら幼馴染の少女は烈火の如く怒るんだろうな、と経験上知っているフィルはやっぱり今回も「うん」と素直に頷いた。
「幽霊屋敷よ幽霊屋敷! このウィルにも、幽霊屋敷があるのよ!」
 アネットはそんなフィルに満足したように頷くと、興奮した口調でそう、まくし立てた。

 あのね、昨日、ウチのメイド達が噂話してたの。そう、幽霊屋敷についてよ。何? よくある誰も住まなくなって荒れて朽ちた屋敷の事だろう、ですって? まぁ、それはそうなんだけど、そこはちょっとそんじょそこらのボロ屋敷じゃないのよ。
 夜中に、白い影みたいなのがふわふわ浮いてたり、赤ん坊の泣き声が聞こえたり、すすり泣く女の声が聞こえたり、そうそう、その屋敷は迷い込んだ子供を食べちゃう、なんて噂もあるみたいなのよ!

「‥‥えぇと、それって単なる噂だよね?」
「そうよ。だから、調べに行くんじゃないの」
 話を聞き終え、とりあえず確認するフィルに、アネットは力説した。
「うん、アネットはそういうと思ったけど、それって不法侵入って言うんじゃ‥‥」
「‥‥そうね、確かにフィルの言う通りよ」
 いつものように止めようと試みるフィルに、アネットは珍しく頷き。だが、真剣な面持ちで「でもね」と続けた。
「近所の子供達や女性達は、たかが噂とはいえ怯えているらしいの。私たちが調べて、何もいませんでした安全ですって確認してあげたら、安心するんじゃないかしら」
「‥‥」
 アネットらしくない真面目で真摯な意見だった。棒読みでさえなかったら、フィルも思わずOKを出してしまいそうだ。
「それに、もしかして悪の秘密結社か何かのアジトになってる、なんて可能性もあるわよ?」
「‥‥いや、そんなんだと余計、僕達の手には余るから」
 アネットはやっぱりアネットで‥‥瞳をキラッキラさせている幼馴染を止める事は、やっぱり今回も出来なかった。
「ええ、だから、冒険者の人達の力を借りましょう? 一緒に幽霊屋敷を探検して下さい、って」
 フィルが観念したのを見計らったように、アネットが満面の笑顔でそう、言った。

●今回の参加者

 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●見回りですよ?
「‥‥幽霊屋敷、ねぇ? 故郷じゃそんな話大概眉唾モンだが‥‥この世界だとあながち冗談と言い切れないからな。ま、念の為調べてみるか」
「幽霊、ですか。怪我のないように探索できるよう頑張ります」
「うんっ、よろしくね」「よろしくお願いします」
 塀越しにそこそこ広い‥‥しかし、荒れた屋敷を見上げた市川敬輔(eb4271)と、愛犬ベルーカを連れたゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)に、依頼人の少女アネットは元気いっぱい、フィルは礼儀正しく挨拶した。
「元気で勇敢な女の子と、健気で献身的な男の子が居れば、その国の未来は明るいってものよね! うんうん! いい感じよ、二人とも」
 そんな二人にニコニコするのは、エリザ・ブランケンハイム(eb4428)。
「久しぶり〜っ♪ また不思議な事を解明しに行くんだよねっ」
 ぴょん、一際元気が良いのは、天野夏樹(eb4344)。
「一緒に頑張って事件を解決しようねっ!」
「ええ! 世の為人の為、頑張りましょお」
 エイエイオー!、やる気満々楽しげな夏樹とエリザとアネット、対照的にフィルは探索前から疲れた様子で溜め息をついていたりして。
「二人の関係は相変わらずのようだが‥‥何か転機が訪れない限りは、そう簡単に変わらないか?」
 そんな二人を見やり、キース・ファラン(eb4324)は苦笑と共に呟いた。

「あっ、ここからなら入れそう」
 大分傷んでいる塀を調べていた夏樹は、その一部が動く事に気づいた。
「誰かが出入りしていた跡があるわね」
「誰か、ですか」
 よいしょ、と丁度フタのようになっていたそこを押し、地面を調べた夏樹はゾーラクに頷く。
「まっ、それは入ってみれば分かるでしょ」
 レッツGOGOGO!、早速進入を試みるエリザの後に「賛成!」とアネットが続く。
「あの‥‥これって不法侵入、ですよね?」
「え? 不法侵入? 何言ってるの!?」
 と、恐る恐る口にするフィルに、だが、エリザは目を丸くした。
「騎士であるこの私が、ご近所の安寧秩序の為、か細い身体を張って危険極まるデンジャラスゾーンを見回りをしてあげるのよ!? 涙流して感謝される事はあっても、訴えられる訳ないじゃない!」
 本気だ、口実でも建前でもなく、限りなく本気の目だった。
「嗚呼、なんていう自己犠牲の精神。私、もっと我侭になっても良いくらいよね〜?」
「うんうん、私もそう思うわ。これってご近所の皆さんの為、だものね」
「当たり前じゃない」
 更に言い募るエリザを勿論アネットも全面的に支持するわけで。フィルはやっぱりこっそり溜め息をついた。
「だが、この様子だと子供が迷い込んでいてもおかしくはないな」
「あ〜、子供はこういうの大好きだしね。秘密基地気分?」
 そんなエリザ達と対照的に、キースと敬輔は表情を引き締めた。
「行方不明の女の子、か。一昨日ならまだ間に合うか‥‥まぁ何事も起きてなければ、だが」
 噂の信憑性がどれくらいあるか‥‥敬輔達は予め情報収集をしてきていた。
「だが、何にしろ急いだ方がいいだろうな」
 キースは言って、傍らの愛犬グリューの頭を撫でた。

●幽霊の正体
「誰か居ませんか〜?」
 侵入‥‥もとい、進入した荒れた庭を見回し、夏樹は恐々といった様子で声を掛けた。が、とりあえず返って来る返事は無い。
「幽霊って返事するの?」
「ん〜、どうかなぁ? でも、幽霊じゃなくて、入り込んでいる誰かがいるって可能性もあるし」
 その方が私にとっては有り難いんだけど、といった本音は心の中だけに止めておく。
「‥‥こう言う場所は苦手か?」
 子供達に見っともない姿は見せない!、精一杯虚勢を張る夏樹。気づいた導蛍石(eb9949)はこっそり囁いた。こちらは華仙教大国より来る僧兵だ、元より幽霊に気後れする事はない。
「いや、生身のモンスターとかはもう慣れたんだけど、こう言うのはまた別だしっ」
 天界と呼ばれる、別の‥‥ちょっと耳にしただけでも平和なのだろう世界から来た夏樹の言葉に蛍石は淡く微笑み、
「まぁ、無理はしない事だ。先陣は私が務めよう」
 先に立って、足元の草を払い始めた。
「足元に気をつけるのだぞ」
 夏樹との会話に気づいた風もない子供たち。蛍石は告げながら、油断無く周囲に警戒の視線を向ける。
「こういう荒れた庭では、枯れ草や雑草に紛れて何が転がっているか分からないからな‥‥大きな穴がないとも限らん」
「私も‥‥私は大丈夫だよ。私は頼れるお姉さんだもの」
 と、夏樹もまた手にした剣で邪魔な草や木を刈り取り始めた。背中に護るべき子供達がいるから‥‥頑張る、と。蛍石はただ小さく頷くと、警告を発した。
「そこ、大きな石があるぞ、気をつけろ」
「はぁ〜い。でも本当に何が出てもおかしくないわね‥‥ひゃっ」
 ひょいと石を避けながら、アネットは小さく悲鳴を上げた。
 ヒョオぉぉぉぉぉぉぉっ。
 枯れた枝を通り過ぎた風が、何やら不気味な唸り声に聞こえたらしい。
「もうっ、紛らわしいわね。幽霊なんて‥‥まさか本当にはいない、わよね?」
 少々不安そうになったアネットに、ルクス・ウィンディード(ea0393)は緩く首を振り。
「いや、幽霊はいるけどさ‥‥かと言って下手につつけば痛い目見る‥‥って聞けよ」
 夏樹の背中を追い遠ざかる背に、思わず突っ込む。
「えっとあの、いるんですか‥‥幽霊」
 代わりに反応したのは、フィルだった。気づけば、顔色がちょっと悪く足取りも重い。
「怖いなら今からでも帰るか?」
「‥‥いえ、アネットを残していくわけには」
 それでも、しっかり応える少年に、ルクスは少し微笑み。
「安心しな、幽霊だっていきなり脅かしたりはしねぇから」
 改めて、思う。もし何か起こったとしても、この子達は必ず護ろう、と。
「せっかくだし、楽しんでいこうぜ!」

「夜中に白い影みたいなのがふわふわ浮いてた‥‥どうやら定番のアレみたいですね〜」
 やがて、アネットの頭上をふわふわ浮いていたギルス・シャハウ(ea5876)が、ふと苦笑をもらしたのは、頭上のソレに気づいたから。
 角度によっては見えないが、前方の木に引っかかってパタパタはためいているソレは、白いシーツ。
「白い‥‥つまりまだ新しい、という事ですね」
「ビンゴ‥‥かな?」
 ギルスに頷き、敬輔は取り出した子供の服を、愛犬ティンダロスの鼻先に寄せた。
「近所の子のものだ‥‥一昨日から行方不明だそうだ」
 同じく、キースとゾーラクも連れ添う愛犬達に、匂いを覚えさせ。ついでに小首を傾げているアネットに説明した。
「もしその子がここにいれば、匂いをたどってくれるでしょう」
 言って、ゾーラクはベルーカにGOサインを出した。
「おっと、二人は俺と一緒だ‥‥とりあえず、何があるか分からないしな」
 咄嗟に犬達を追おうとしたアネットを、ルクスは止めた。殺気は感じない、風も異変を伝えてはこない。だがそれでも、何かがある‥‥そんな予感がした。
「「わうっわうっわうっ!」」
 待ったのは、ホンの僅か。犬達が吠えたのは、屋敷とほど近い場所だった。だが、聞こえてきたのは、犬達の声だけではなかった。
「にゃ」「にゃ〜」「にゃお〜ん」
「あっ、ネコ〜カワイイ!」
 怯えた様子で、だがそれでもそこから立ち去ろうとしない子猫達。注意深く近づいたアネットや夏樹が笑顔になる中、
「赤ん坊の泣き声‥‥猫は春先によくそんな声を出しますね」
 ギルスがポツリ呟いた。
「ベルーカ、もういいですよ」
 と、ゾーラクは愛犬の頭をそっと撫でると、意識を集中した。唱えられしバーストの呪文、そしてゾーラクは視た。
 小さな少女がバランスを崩し、その姿が地面に呑み込まれるのを!
「消えるはずはありません、とすると‥‥」
 注意深く地面を探るゾーラクに従い、夏樹やルクスも周囲を探り‥‥そうして。
「ありました、ここですッ!」
 草に隠れた枯れ井戸を認め、ゾーラクは皆を振り仰いだ。
「この位の深さなら、これを使った方が楽かもしれないわ」
 エリザの縄ばしごを使い、ゾーラクと夏樹が、敬輔はロープでもって井戸の底を目指した。その仲間達を、ホーリーライトを灯したギルスが導く。
「上を見たら、蹴るわよ」
「見ないって‥‥それより、幽霊の正体見たり何とやらって奴だな」
 果たして、底には一人の少女が倒れていた。怪我をしている為か空腹の為なのか‥‥軽口を叩いていた敬輔はふと、目を瞬かせた。
 枯れ井戸の底、行方不明の少女に寄り添う‥‥というより半ば重なった形でもう一人、女の子がいたからだ。その少女は、ギルスの灯す光から逃れようとしているようで‥‥。
「あ〜‥‥ウソから出たまことってやつかね」
 とりあえず、敬輔は小さく溜め息をついた。

●帰るべき場所
「そうか‥‥キミは寂しかったんだね」
 小さな羽を羽ばたかせて井戸の底に下りたギルスは、聖なる光を消した。
「寂しくて、誰かに気づいて欲しかったんだね」
 じっと佇む幽霊少女と、その透けた足元に転がる小さな骨とを認め、切なく微笑み。
「行こう、一緒に‥‥ここは寂しいものね」
 少女を抱き上げたゾーラクと夏樹の横、敬輔は小さく頷くと、引き上げてくれるよう仲間達に合図を送った。

「下に草が生えてたのと、軽かったのが幸いしたようですね‥‥軽い打ち身はありますが、命に別状はないようです」
 冷え切った身体を温める為、直ぐに毛布で包んだゾーラクは手早く診断し、ホッと胸を撫で下ろした。
「‥‥リカバー」
 負った怪我も、蛍石の癒しの魔法で事なきを得。
「‥‥ぁ、うっ」
「良かった、気がついたのね!」
 やがて、薄く目を開いた少女の手を、夏樹は同じく安堵の面持ちでしっかりと握り締めた。大丈夫だと、もう大丈夫なのだと、伝えるように。
「とりあえず、これを飲んで‥‥そう、落ち着いてゆっくりとね」
 ゾーラクはそして、その身体を抱きかかえつつ、用意してきた飲み物を手渡した。お湯に蜂蜜を溶かした、甘く温かな飲み物‥‥手を添えつつ、少女に。
「あ‥‥あたし、あたし‥‥」
「ええ、いいの。今は何も考えないで‥‥さ、お上がりなさい」
 これは医者の命令ですよ、ゾーラクは優しく言い含めながら、口元へと運ぶのだった。安堵からだろう、ポロポロと涙を零しながらも、少女のノドがコクンと動く。
「間に合って本当に本当に良かった‥‥噂話も、結構重要な情報なんですね」
 その様子にゾーラクは嬉しそうに目を細めてから、碧の瞳をエリザ達の方に移した‥‥少しだけ、切なげに。
「ホントにいるとはねぇ」
「分かってると思うけど、いきなりバッサリってのはナシだぜ?」
 自慢の黄金の剣を手にし呆れるエリザに、ルクスは一応確認した。殺気感知をかけたから‥‥いや、かけなくても感じるから。それは、多分エリザも同じ。
「まぁ、ギルスに任せるわ。その方が力尽くで解決するよりずっと良いでしょ?」
 悪戯っぽく笑んだエリザに、アネットも大きく頷いた。何時に無く、緊張した面持ちで。
「アネット‥‥」
「うん、大丈夫」
「数年前にも一度、子供がいなくなったという話を聞いた‥‥君がそう、なのか?」
 敬輔が運んでくれた小さな骨。緩やかな風の中に立つ、小さな幽霊は、キースにこっくり頷いた。
「そうか。ずっと、あそこにいたんだな」
 思わず目を伏せる。おそらく自分が死んだ事が信じられなくて、暗い井戸の底で一人逝くのが寂しくて、往くべき所に行けなかった、哀れな命。
「もう、大丈夫だよ」
 一つ頷いた後、ギルスは優しく告げると、その身体に淡い光をまとった。
 白い光をまとう小さな手がゆっくり伸ばされ、少女に触れる。やがてそれは優しく少女を包みこみ、その身体がゆっくりと透けていく。今までよりもっと、薄く。
「‥‥お休みなさい」
 優しく告げたギルス。少女は嬉しそうな微笑みを浮かべ‥‥風にとけた。
「こちらは然るべき場所に還してやろう」
 残された、小さな骨。少女の生きた証。蛍石は静かに手を合わせると、それをそっと懐に収めた。

「‥‥ま、今回は結果的に人助けになったから良かったものの、俺の世界じゃ『好奇心は猫を殺す』って諺がある」
 空に消えていく少女を見上げていた敬輔は、ふとその視線をアネットに移した。
「面白そうだって何にでも首突っ込んでると、その内とんでもないしっぺ返しに逢うかもしれんから、程々にしておくんだな」
「‥‥うん」
 しゅん、とらしくなく俯いたアネット。
「冒険心ってのはさ、成長するために必要なもんだと俺は思うけど?」
 ルクスはその頭を軽くポンと叩いた。敬輔の懸念も分かる。思いつきと勢いで無茶しかねないアネットに釘を刺しておこうという、親心的なものだ。
 けれど、ルクスはそれでも、そういう気持ち‥‥冒険心を大切にしたいと思うから。
「でも、アネットちゃんが言い出したから、動いたから助かった子がいたのも事実だよ」
「そうね。あの子も‥‥それから、もう一人も」
 それは夏樹もエリザも同じ。
「大切なのは、自分に出来る事出来ない事を把握する事‥‥子供の時ってさ、望んで無くても不思議なことっておこるしね」
「首を突っ込むリスクと、責任‥‥ま、程ほどにな」
 アネットはルクスと敬輔に、珍しく殊勝な表情で首肯した。
「っと、そういえばあの猫達、どうする?」
 と、夏樹が指し示したのは、三匹の子猫。
「多分、野良ネコなんだと思うけど‥‥」
 夏樹の視線を受け、ゾーラクの腕の中で少女が俯き加減に頷いた。
「‥‥あたしが面倒みるわ」
「アネットちゃんが?」
「うん。あなたも好きな時に顔、見に来ていいし‥‥その、ご近所の平和の為にも、ね」
 アネットは少しだけ恥ずかしそうに‥‥誇らしそうに、笑った。
「あなたも男ならば、言うべき事はバシっと言ってあげた方がいいですよ」
 一方。幽霊の少女を完全に見届けたギルスは、元気を取り戻したらしいアネットに安堵の溜め息をついたフィルに気づき、耳元に囁いた。
「‥‥でも」
「一時は嫌われるかも知れませんが、誠実に接していればきっと心は伝わります。‥‥一歩間違えば、アネットがゴーストになってしまうんですよ」
「それは‥‥はい、もしアネットが無茶しそうになったら‥‥ががが頑張ってみます」
 励まされフィルはぐっと拳を握り締めた。イマイチ、頼りないが。
「頑張ってくださいね」
 ギルスはただ穏やかに微笑んだ。
 そんな彼らの横を、暖かな風が「ありがとう」と囁くように、優しく通り過ぎて行った。
 幽霊屋敷にもう、幽霊はいない。