リトルレディ〜お勉強はもうイヤ
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 99 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月19日〜03月22日
リプレイ公開日:2007年03月24日
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●オープニング
ロッド家の娘としてふさわしいように。
両親は口うるさいわけではないが、放任というわけでもない。
大切な一人娘のために有能な侍女を付けて、教育を任せている。
他にも貴族の娘にふさわしい教養を身につけるべく、各種専門の教師も付けている。
今後、男子が生まれなければ彼女がロッド家を継ぐことになるし、そうならなくても良家との縁談が持ち上がった時に、愚かな娘よ、と嘲笑されないためにも幼い頃からの教育はとても大切だった。
しかし、それはオトナの視点。
「‥‥私、きっともう過労死するね」
書き取りの練習を放り出し、十歳頃と思われるロッド家の一人娘ハイネはテーブルに突っ伏した。投げ出した羽ペンからインクがこぼれて羊皮紙に丸い染みを作っているが、気にしない。
見張り、いや今は教師となっている侍女のシルヴィアは、また始まったかと内心ため息をついた。
近頃のハイネは何に対してもやる気がなく、すぐに飽きてしまうのだ。
「何をバカなことを。書き取り程度で死ぬようなひ弱な方ではないでしょう? 終わらないと、昼食は抜きになりますよ」
「鬼! 私の頭がからまった毛糸みたいになってぐちゃぐちゃになってもいいと言うの!?」
「お嬢様の頭の中はいつもぐちゃぐちゃじゃないですか。ほら、あと少しですよ」
「もうイヤなの! 書き取りも作法のお勉強も、他のお稽古事も、もう全部イヤなの!」
ついにハイネは爆発した。
こんなに苦痛なのに、どうしてシルヴィアはわかってくれないのかと苛立った。
シルヴィアもそんなハイネに困ってしまい、じっと少女を見つめる。
それを責められていると受け取ってしまったハイネは椅子を蹴立てて立ち上がると、
「クソババァ〜!」
と、貴族令嬢にあるまじき暴言を吐いて部屋から飛び出していってしまった。
このことをロッド夫人に相談したシルヴィアは、意気消沈したまま冒険者ギルドを訪れていた。そしてギルド受け付け係相手に相談とも愚痴ともいえる言葉をこぼす。
「‥‥お嬢様はきっとお疲れなのです。体を動かすのが好きな方ですから、何か晴れ晴れとするような時間を過ごせれば、きっと気持ちも安定すると思うのです」
「反抗期‥‥ですかねぇ」
「旦那様や奥様、私ではきっと反発するだけだと思うのです。仲の良い使用人の子も風邪で寝込んでいますし、お嬢様もそろそろ大人としての振る舞いを身につける年齢だからと、手習いの時間も増えて、その子ともあまり会うこともできなくなっていたのです」
「はぁ。反抗期かストレスか‥‥身分のある家の子というのも、大変なんですねぇ」
「ですから、そこから離れた世界の方達ならと思ったのです」
「なるほど」
「ですが、実は冒険者の方々に相談をするというのは私の独断なのです。奥様も気晴らしは必要かもしれないとはおっしゃっていましたが、きっと私と少し遠出する程度と思っていらっしゃるはずです。ですから、その‥‥あまりお礼のほうは用意できなくて‥‥」
「あぁ、まぁ、そこらへんは冒険者が決めることだから」
「それと、お嬢様は少々乱暴でわがままなところがあります。もしかしたら冒険者の方々に失礼な態度をとってしまうかもしれません‥‥」
「そのへんをどうするかも冒険者の判断任せですねぇ」
「そうですか‥‥では、よろしくお願いします」
シルヴィアは疲れた顔で一礼すると冒険者ギルドから出て行った。
●リプレイ本文
●今日は休日、ピクニックへ行こう
一日まるごとの『お休み』にロッド家の一人娘ハイネははしゃいでいた。
外はまだ少し肌寒いが天気も良いので、ロッド家の敷地内にある原っぱへピクニックに行くことになったのだ。敷地内と言っても、歩けば大人の足で一時間弱はかかるのだが。
冒険者達はちょうど昼食時にその原っぱへ着くような時間にロッド邸を訪れた。
門前にはすでにシルヴィアが待っていて、彼らを裏口へ案内した。
何故裏口なのか。
ハイネを外へ出すのにコソコソする必要はないのだが、ロッド夫妻には「今日一日お嬢様にはのんびりしてもらいましょう」とだけ言ってあるからだ。誰とのんびりするのかは言っていない。大切な一人娘だ。たとえ百戦錬磨の冒険者が付いていても不安に思うだろう。娘が外出するなら自分達も一緒に行く、と言い出すはずだ。そうなってはきっとハイネの気は休まらない、とシルヴィアは思っていた。だから、今日はシルヴィアも遠慮することにしていた。
「お嬢様のわがままに付き合っていただき、ありがとうございます。まだ準備が終わっていないので、もう少しお待ちください」
「まだ少し肌寒い。風邪を引いては大変じゃ。ところで昼食の準備もまだなら手伝うが?」
「あ、そちらもそろそろ‥‥」
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)にシルヴィアが答えている途中で裏口の扉が静かに開いた。
エプロンと三角巾姿と漂うパンの香りから、今さっきまで厨房にいたものと伺えた。
そばかすの目立つ三十前後と思える女は、シルヴィアを見て、冒険者達を見回すとクスッと笑った。
「お嬢様は今日はこんなに素敵な殿方達とご一緒なのですね。うらやましいですわ」
サンドイッチやその他の料理が詰まったバスケットをいくつも差し出しながら言う彼女の口調に嫌味はない。心底うらやましがっているようだ。
いくつものバスケットを冒険者達が受け取っていると、ずいぶん着込んだハイネが侍女に伴われてやって来た。
ハイネは冒険者達に嬉しそうに微笑みかけると、丁寧にお辞儀をした。
山下博士(eb4096)の、
「また会えたね」
の言葉にはすぐに子供の顔になって駆け寄っていった。
あっという間にメッキが剥がれたハイネに苦笑しつつ、シルヴィアは改めて冒険者達にハイネを頼んだ。
「心配しないで、任せてくれ」
安心させるような声音でオラース・カノーヴァ(ea3486)が言うと、ようやく肩の力を抜いたのだった。
原っぱへ行くまでの道中、何度となく走り出そうとするハイネを、ゴードン・カノン(eb6395)はやさしく止めた。
「敷地内とはいえ、まだ人目があります。もう少し、辛抱してください」
彼の口調も態度も堅苦しいことにハイネは顔をしかめたが、屋敷に近いうちは人目があるのは確かだ。下手に目だって連れ戻されてはたまらない。
頭では理解したが、顔には不満が出ているハイネの気をそらせようと、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)が『空飛ぶ絨毯』を出した。
「乗りますか?」
と、問われれば間髪入れず「乗る!」とディアッカに頷くハイネ。
飛び乗りたいのを我慢して、ハイネはゴードンの手を借りてゆっくりと宙に浮く絨毯に座った。
しばらくハイネはユラヴィカが話してくれたエジプトのお菓子に夢を馳せていた。エジプトはユラヴィカの故郷である。
それも一段落つくと、ふよふよと気持ち良い浮遊感とやわらかな天上からの光にハイネはだんだん眠くなってきていた。
ついに後ろに倒れそうになったところを、ユラヴィカとアッシュ・クライン(ea3102)が慌てて支える。寝転がるのはもう少し進んでからがいい。
「もう少しだよ」
呼びかけたアッシュの声にハイネは何とか目を開き、声の方を向いてみればアッシュの向こうのテンペスターという彼の馬と目が合った。
まだ乗馬の練習はしたことのないハイネだが、馬の目がやさしいのは知っている。
「名前、何ていうの?」
馬に話しかけるように言えば、
「テンペスターだよ」
と、アッシュから返事がきた。
「そろそろ人も見なくなったでござるな」
セイント・ジャンヌ(ec1834)が辺りを見渡しながら言った言葉に、ハイネはゴードンを振り返った。
眠気も吹っ飛び期待に満ちた視線にゴードンは微苦笑すると小さく頷いた。
「もう力を抜いてかまわないよ」
彼自身も砕けた態度になったことで、ハイネはようやく本格的に羽が伸ばせる、と喜んだ。
「ディアッカ、絨毯に乗せてくれてありがとう。また後で乗せてね!」
すっかり地を出したハイネは身軽に『空飛ぶ絨毯』から飛び降りると、博士に向かってタックルを仕掛けた。
潰されそうになりながらも踏ん張った博士は、もしかしたら「馬になれ」と言われるかもしれない、と覚悟をしたとか。
それからハイネは冒険者達が連れている馬やモアを興味深そうに眺めて回ると、最後にタイラス・ビントゥ(eb4135)のダッケルのけんけんの横に並んだ。
「ハイネ殿、僕も毎日修行です」
「私のは修行じゃなくてお勉強だよ」
「同じですよ。僕はいつか父上のような立派なカツドン宗僧侶となって、世界にカツドン宗を広めたいと思っています」
「目標があるんだ‥‥大人だなぁ」
真っ直ぐに見上げてくるハイネに、タイラスは目を丸くした。
「大人じゃないです。まだ十一歳ですから」
その言葉に今度はハイネが目を丸くする。
「私と一つ違い? そうだったの‥‥」
感心しきった眼差しは「やっぱり大人だ」と語っていた。
感心が終わるとハイネはけんけんへ視線を移し、軽く頭を撫でると元気良く呼びかけた。
「けんけん、競走しよう! 博士も行こう!」
勝手に決めて走り出すハイネ。
タイラスはけんけんにハイネを追うように指示し、博士も慌てて走り出したのだった。
●それは君のため
計画通り目的地の原っぱに着いたのはお昼時だった。
屋敷を出た時よりも幾分温かい。
博士やけんけんと一緒に走ったハイネの体もすっかり温まり、彼女は上着を一枚脱いだ。
冒険者達が昼食の用意を始めると、ハイネも手伝った。とはいえ、ほとんどすることもなく周りをウロチョロしていただけだが。
バスケットの中に沢山の布を詰めて安定させていたポットの中身は紅茶だった。きっとシルヴィアが奮発したのだろう。
シートの上からはみだしそうなほど並べられたサンドイッチや料理を囲み、一行は和やかに食事を始めた。
食事中はたいていの人が気分が良く、気持ちもおおらかになるという。
ディアッカはそこを狙ってサンドイッチに使われている野菜やハムがどのように作られているか、などを話してみた。当然、それだけでは説明的になってしまうので、そこはユラヴィカが加わり、しふ学校での楽しい調理実習などで他愛ない会話にしてみせたのだが。
厨房に入った経験のないハイネは、小麦粉がパンにもお菓子にもなると聞き、目を丸くした。
「土地の環境によっても育つものが違いますからね。世界にはお嬢様が味わったこともない食べ物が数え切れないほどありますよ」
「確かに、僕ももうずいぶんと故国の味を味わってませんね」
膝にけんけんを乗せたタイラスが懐かしむように目を細くした。齢十一でも、懐かしいものは懐かしい。そしてふと、父を思い出す。彼はもっと懐かしく思うはずだ。
「知らない味かぁ。私、食べ物は精霊が作っていると思っていたよ。だって、この世界を作っているものたちだし」
「確かにアトランティスを作ったのは竜と精霊といわれていますが、そこで生きるもの達はそれぞれで命を繋ぐのですよ」
ディアッカの説明に、そういえば先生がそんなことを言っていたかもしれない、とハイネはぼんやり思い出した。
「僕らの世界では、仏様と呼ばれる方が世界を作ったのですよ」
タイラスの言う『僕らの世界』は、彼の故郷インドゥーラのことである。
「僕の信じるカツドン宗の仏様は、幸運と強さの仏様『カツドン菩薩』様です。『カツドン菩薩様、僕らに魂の修行の試練をお与え下さい。そして試練を乗り越える運と強さを鍛えさせて下さい』と、祈るのです」
「それが、タイラスのお勉強?」
「そうです」
修行だの試練だの、何とも苦しくで地道な言葉である。
そんなハイネの心情を察したゴードンは、からになったハイネのカップに紅茶を注ぎながら言い足した。
「冒険者の仕事と言うのも、決して華やかなものばかりではない。地味で人目に付かない仕事の方が多いものだ。往々にして命の危険も伴うしな。そんな仕事をこなすためには、やはり常日頃からの鍛錬が重要になる。危急の際には、日々鍛錬してきたものこそが役に立つんだ」
ハイネが噂に聞く冒険者の活躍する話とはだいぶ違う。それに、パーティでゴードンから実際に聞いた話は、もう少し明るい内容だった。
その明るさの裏側に、厳しい積み重ねがあったのだろう。
「それは君にとっても同じだよ、ハイネ。君は周りが勉強を押し付けているように感じているんだろうけど、それは全て君がそれを必要とした時に、君が困らないようにと思いやってのことだから。それは誤解してはいけないよ」
「でもねゴードン、毎日毎日あれはダメこれはダメってそればっかりなのよ。そのうちまばたきの仕方まで口出しされそう。あんまりうるさいから、この前部屋に入ってすぐのとこに馬糞を置いてやったわ。見事に踏んづけてたっけ」
その様子を想像した冒険者達は被害者に同情したとか。しかしその作戦には重大な欠点がある。
「その時、部屋のにおいは凄かったんじゃろうのぅ‥‥」
「うん‥‥ざまぁ見ろと思ったけど、もうやらない‥‥」
ユラヴィカの指摘に当時のにおいを思い出し、遠い目になるハイネだった。
●疲れ果てて眠るまで
馬に乗ってみたい、とハイネが言い出したのでアッシュのテンペスターが呼ばれた。
いつもよりずっと高い視界にはしゃぐハイネが落ちないように気を付けながら、アッシュは手綱を取りゆっくりと歩く。
「私ね、別にお勉強が嫌いなわけじゃないのよ」
ポツリと落とされた言葉に、アッシュは顔を上げた。
「ただ、他にもやりたいことや知りたいことがあるの」
「例えば?」
「武術をやってみたいとか天界のことを知りたいとか言うと、必要ありませんとか言って、話を聞いてもくれないのよ。あのヒョロヒョロノッポ、ヅラだってことバラしてやろうか」
「そういう情報は切り札にとっとくんだな。‥‥でも、その気持ちは少しわかるよ。俺も幼い頃にはいろいろ言われて育ったからな」
「そうなの?」
「でも、それもこれも、今になって思えば全部俺のためだったってわけ。だからさ、ゴードンも言ってたけど、今は教えられるものをしっかり吸収しときな」
「そうそう。そんでキレそうになったら‥‥こういう遊びがある」
いつの間にいたのか、果物を持ったオラースがアッシュとは反対側に来ていた。
「皮の堅い果物なんかを力いっぱい地面にぶつけて、割れたものを食う」
突拍子もない提案にハイネはぽかんと口を開けた。
ほら、と果物を一つ手渡されたハイネだったが、それを地面に叩きつけることなど、とうていできそうになかった。
「む、無理! 無理です! 食べ物を地面にぶつけるなんて、そんなこと‥‥」
「そうか?」
オラースは不思議そうに首を傾げるが、その向こうではユラヴィカが「ほらやっぱり」という顔をしていた。
「んじゃ、普通の玉遊びでもやるか?」
丸めた布を動物の皮で覆ったボールを持ち出すと、今度はハイネも乗り気になった。
馬から飛び降りそうになったのを、アッシュが慌てて止めて下ろしてやる。
ペットも総出の、玉ぶつけ大会が始まった。ルールはない。ボールを持った者が狙った相手に思い切りぶつける、という単純な遊びだ。
さすがに冒険者達はどんなに興が乗ってきても手加減を忘れなかったが、ハイネとペットはそうはいかなかった。
もっとも、ペットに関しては飼い主がすぐ側についていたし、危険だと感じた時はディアッカが休憩がてらメロディーで気を鎮めたりしていた。
ペット達は健気なほど耐えた。ユラヴィカのキョウさんは長い首にボールをぶつけられても何事もなかったように頭を振り、タイラスのけんけんはボールの代わりに投げられても無事に着地して怒ることもせず、ゴードンの炎の狂詩曲は思い切り尻尾を引っ張られても知らん顔をしていた。
さらにヒトでも耐えた者がいた。
何度もボールの盾にされた博士である。
ペット達以上に満身創痍となり、モンスターにでも襲われたのかという有様になっている。
少々疲れてきたこともあり、ペットの身の安全のためにも休憩に入ることになった。
久々に思い切り体を動かしたハイネのテンションはすっかり上がっており、盾にしていた博士を引っ張って走り出した。
ようやくハイネの足が止まると、博士は原っぱの上にごろんと転がった。
「だらしないなぁ」
ハイネは呑気に笑うが、博士は息を整えるのに必死だ。
ようやく博士の呼吸が通常通りになった頃には、体のほてりも取れていた。
体を起こした博士はハイネに尋ねる。
「今日は楽しかったですか?」
「すっごく! 帰りたくないなー」
もらしたハイネの言葉に、博士は一呼吸分思案すると、こんな話を始めた。
「旅の船が美しい島に立ち寄りました。船長は明日朝出発すると言いました。第一の人々はずっと船で過ごしました。第二の人々は上陸して美しい花を摘み、おいしい果物を食べて夕方に帰ってきました。第三の人々は出航の準備の角笛の音を聞いて慌てて帰ってきました。このため途中で転んだり茨に服を引っかけたり散々な目に遭い、その上以前いた船の快適な場所も失ってしまいました。そして最後の人々は角笛も無視して遊びほうけ、乗り遅れ置き去りなりました。誰が一番賢いでしょう」
まさに今のハイネの状況そのものだった。
心を見透かされた気分になったハイネは照れたように笑うと、帰る決心をしたのだった。
暗くなる前に屋敷の裏口に付いた一行は、こちらも何事もなかったシルヴィアに迎えられた。彼女は今日一日、ハイネと外出ということになっていた。
シルヴィアが冒険者達に感謝を述べている時、アッシュはハイネの首に水晶のペンダントをかけた。
「一人前のレディになるため、がんばれるよな。これは、その約束だ。ハイネが立派なレディになった時にまた来るよ」
この日から、家庭教師達に対するハイネの悪戯がぐっと減ったとか。