春色キャンバス

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月23日〜04月26日

リプレイ公開日:2007年04月29日

●オープニング

 冒険者ギルドには様々な依頼人がやってきます。けれど、その日、冒険者ギルドを訪れたのは、依頼人というには幼すぎる少女でした。
「お嬢ちゃん、ここはね‥‥」
「冒険者さんに、イライをしにきました」
 5・6歳と思しき少女は緊張に強張った顔で、たしなめようとした受付嬢を遮ると、キツく握り締めてきた3枚のコインを差し出しながら、言いました。
「お父さんを、助けて下さい」

 桜ちゃんのお父さんは画家です。貧しいながら必死で頑張ってきた甲斐があって、最近貴族のパトロンもついて一安心、でした。
 ところが数日前、その貴族がお父さんを呼び出して言いました。
「この屋敷の玄関口に飾る、春らしい絵を描いて欲しい」
 と。
 桜ちゃんのお父さんは勿論、快諾しました。けれど、いざ描こう!、という段階になってハタと気づきました。春、春、春‥‥春らしい絵って、何を描こう?
 普通なら、春の野原や花々です。だけど、そんな普通で良いのだろうか?、満足してもらえるのだろうか?、かといって奇をてらうのはどうなのか?、もしお気に召さなかったら‥‥?
 色々考えてしまえばしまうほど、お父さんは絵が描けなくなってしまうのでした。
「そうだ! お前の故郷には、春といえば!、な花があるのだったな」
 そこでお父さんが目をつけたのは、桜ちゃんのお母さんです。実はお母さんは、ジャパンという天界から来た天界人なのでした。故郷の大好きな花の名前を娘につけたい、そう言っていたお母さんの言葉を、お父さんは覚えていました。
「でも、一度も見たことが無い桜が描けますの? かえってウソっぽくなってしまうのではないでしょうか?」
「それは‥‥ッお前は、少しは協力しようという気にならないのか?! またあの貧乏暮らしに戻りたいとでも言うのか‥‥!?」
「そうではなくて‥‥わたしは貴方らしい絵を描いて欲しいと‥‥」
 煮詰まり、らしくなく声を荒げるお父さんと、悲しそうな顔のお母さん。桜ちゃんもまた小さな胸を痛めていました。言い争いの中、何度も自分の名前が出てきます‥‥何だかまるで、自分がケンカの原因みたいな気がしたのです。
「絵の期限まで後五日‥‥お父さんはどんどん怖い顔になっていきます。お母さんはどんどん心配そうな顔になっていきます。桜はそれが悲しいです」
「‥‥」
 桜ちゃんの話を聞いて受付嬢は考えます。確かに桜ちゃんとお父さんは困っています。家に閉じこもって悶々と考え込んでいても、良い絵が描けるとも限りません。それに冒険者は色々な事を経験しています。接する事で、良い刺激を得られるかもしれません。
 報酬の方も‥‥もし良い絵が描ければ、桜ちゃんのお父さんの方からどうにかなるでしょう。
 だから、受付嬢は桜ちゃんに言いました。
「そうね。気分転換がてら、皆でピクニックに行く‥‥そんな感じはどうかしら? 冒険者の人達には、お父さんに色々アドバイスや、インスピレーションを与える手助けをしてもらうの」
「はい! あのっ、よろしくお願いします」
 桜ちゃんはパッと顔を輝かせると、ぴょこんと頭を下げたのでした。

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4135 タイラス・ビントゥ(19歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4460 篠崎 孝司(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8483 スキャッグス・ヴィーノ(24歳・♂・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec2078 メイベル・ロージィ(14歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

サイラス・ビントゥ(ea6044)/ ララーミー・ビントゥ(eb4510

●リプレイ本文

●桜色の願い
「今回は、ご両親思いのお嬢さんからの依頼か」
 スキャッグス・ヴィーノ(eb8483)は依頼人である少女・桜を見つめ思った。絵描きである父フランツへのアドバイスなんて正直、自信はない‥‥それでも。
 小さな胸を痛めている少女の力になってやりたい、と。
「そっか。お父さん困ってて、桜ちゃん悲しくなっちゃったんだね。桜ちゃんにこんな思いさせて、しょうがないお父さんだね!」
 そんな桜から改めて話を聞いた天野夏樹(eb4344)は、元気付けるように、その小さな肩に手を置くと、約束した。
「桜ちゃんが笑える様に、私も手伝うよっ」
「私も‥‥桜さんのご家族に春をプレゼントしますの♪」
 同じ気持ちで、メイベル・ロージィ(ec2078)も告げた。家族は仲良くするもの、そう思っているメイベルにとって、桜達は放っておけなくて。
「桜さんの大好きな優しいお父さんに戻ってもらいますの!」
 言葉にも拳にも、力が入ってしまうメイベル。
「治療院勤務の篠崎だ。参加させてもらう」
 嬉しそうに頷く桜に、頷きを返してやりながら言葉少なく挨拶したのは、篠崎孝司(eb4460)。夏樹と同じく天界人である。
「はいです、あのっよろしくお願いします」
 ぴょこんと頭を下げた桜は、だが、孝司の隣に立つタイラス・ビントゥ(eb4135)を認めると、ぽかんとした顔になった。
「僕はタイラスっていいます、よろしくです」
 見上げられたタイラスは、出来るだけ優しい声で告げた。ジャイアントを見るのは初めてなのかもしれない、自分よりずっとずっと低い位置にある幼い顔にタイラスが不安を覚えた時。
「桜です、よろしくです」
 その顔が不意に笑顔に変わった。富島香織(eb4410)はその様子に一つ微笑むと、言った。
「では、行きましょうか。桜さんのお父さんを救う為に」

「ピクニックなんて行ってる余裕はありませんよ」
 そんな一同を迎えたのは、ものすっごく機嫌悪いフランツだった。目の下のクマとコケた頬、悲壮感を漂わせている。
「そんな怖い顔しないで。桜ちゃん心配してましたよ?」
 夏樹に指摘され、フランツの表情が微かに動いた。期を逃さないと、手短に桜からの依頼を説明する夏樹。
「む‥‥だが‥‥」
「そういえば私、フランツさんの探している春の花がある場所を知っていますの」
 更にメイベルが意味ありげに誘うと、フランツの顔に逡巡が浮かんだ。やがてそれは、心配する妻と子の眼差しに出会い、メイベル達が望む方向へと傾き。
「外に出て実際の春を感じてみませんか? きっと良いアイデアが湧いてきますよ」
 ニコニコにっこり、止めの夏樹の笑顔攻撃に、フランツは渋々ながら白旗を上げたのだった。

「ピクニック行くなら‥‥お弁当作らないとね♪」
「はいですの。美味しいお弁当を作るですの」
 早速、お弁当作りに取り掛かったのは、夏樹とメイベル、そして、桜の母である吉乃だった。
「サンドイッチとサラダと飲み物‥‥簡単ですが、手早く作ってしまいましょう」
 夏樹とメイベルもそうだが、やはり吉乃の手際は良かった。何より、言葉と所作の端々に安堵と嬉しさがにじみ出ていた。
(「えへへ、桜さんのお母さんはお師匠様と同じであったかいんですの」)
 メイベルが思い出すのは、ただ一人の家族‥‥そう呼べる人だ。
「どうか、よろしくお願い致します」
 温かな手を、優しい眼差しを持つ人。だから、そう真摯に頼んできたその人の思いを、メイベルは確りと受け止め頷いたのだった。

●春の野原で
「目的地に到着ですの」
 メイベルが案内したのは、お気に入りの散歩場所。たくさんの花々と、心地よい風が迎えてくれた。
「‥‥桜は無い、ようだが?」
「近くに住む人に教えて貰いましたが、そのお花の木はお花を気に入った貴族の命令で引き抜かれて持っていかれてしまったのです‥‥。でも結局持っていかれた先ですぐに枯れてしまったそうですの」
 フランツの抗議に、メイベルは出来る限り殊勝な表情を作った。
 勿論、これは作り話だ。だが今、無理に春の絵を描こうとしているフランツの姿と重なっていると、感じてもらえればいいなという願いが込められている、優しい偽りだ。
「大きなお花は無くなりましたが、私は野原の小さなお花たちも春らしくて好きですの」
 優しく笑むメイベル。視線を追ったフランツはそれ以上、文句を口に上らせなかった。咲き競う色とりどりの花は美しかったし、頬を掠める風は清々しかったから‥‥何より。
「桜殿‥‥じゃなくて桜ちゃん、ほら、わんわんですよ」
「わぁ、カワイイ! これ、タイラスお兄ちゃんのわんこさん?」
「うん、けんけんっていうんです」
 タイラスの愛犬と戯れる我が子は、久しぶりに満面の笑顔を浮かべていたから。
「この花、僕は見たことないですけど、アトランティスの草でしょうか?」
「む‥‥う〜む」
「それはプリムラですね。アトランティス特有の花ではないと思いますが‥‥」
 けんけんの頭を撫でながらタイラスが指差した花、口ごもるフランツの代わりに答えたのは吉乃だった。
「この人、花の名前なんて知らないんですよ」
「名前など知らなくても絵は描ける」
 にこにこな妻に、むっつりとした表情を作るフランツ。気づかぬふりをしてやりながら、夏樹は足元を指差した。
「ん〜、こっちはスイセンよね。あっ、ヨモギもある」
「世界は変わっても、共通する‥‥同じものがあるというのは不思議ですよね」
「そうなんだぁ‥‥何かすごいです」
 顔を見合わせる夏樹と香織に、桜が無邪気を装い歓声を上げる。少しでも父親の気持ちを盛り上げたいのだろう、察した孝司は、
「まぁ、意外とそんなものかもしれないな。どんな世界だろうと、大切な事は不変だろうし」
 呟きながら、薄紫の花に手を伸ばした。
「あぁっ、摘んではダメですっ!」
 そこにタイラスの慌てた声が飛んだ。
「生きとし生けるもの、何かしらの修行でこの世に生をうけるのです。だから無闇にその命を奪うことをしてはいけないのです‥‥、全部父上の受け売りですけど」
 タイラスは、フランツや桜にじっと見られている事に気づき、照れたように付け足した。
「ほぅ‥‥では、タイラス君はモンスターの命も奪わないのか?」
 元より、花を手折るつもりのなかった孝司が、少しだけ意地悪っぽく聞くと、タイラスは途端に口ごもった。
「そ、それは、そのう‥‥僕にもよくわからないです‥‥。でも、その悩むことも修行だと思います、なんとなく」
 口ごもりながら、それでも続けたタイラスに、フランツはふっと口元を緩めた。
「‥‥そうか、悩む事も修行、か」
 小さな呟きはどこか、噛み締めるように。そして、フランツは幾分かさっぱりした顔で言った。
「タイラス殿のお言葉、胸に響きました。さすが、修行を積んだ方は違いますな」
「‥‥え」
 その、尊敬に満ちた眼差し。タイラスはフランツの『誤解』に気づいて肩を落とした。
「いや、あの、僕まだ11歳ですけど‥‥」
「‥‥は?」
 このガタイだ、仕方ないとはいえ、思わず涙目になってしまうのは仕方なかろう。
「いや、それは‥‥その、申し訳ない‥‥」
「桜は分かってたよ。だからタイラスお兄ちゃんなんだもの」
 けれど、桜が「お父さんダメだなぁ」って笑って、つられて皆も笑って‥‥フランツも笑ってくれたから。
(「‥‥まぁ、いいとしましょうか」)
 まだ肩は落としたまま、タイラスはそう思ったのだった。

「しかし、ピクニックなど何年ぶりだろう‥‥」
 メイベルと花畑で楽しそうな桜と吉乃、ちょっと早い昼寝としゃれ込む孝司、思い思いくつろぐ皆を嬉しそうに見ながら、スキャッグスは呟いた。
「私も‥‥そういえば、何年も来てなかったですよ」
 気持ちが落ち着いたのか、口調も穏やかなものになったフランツは、その呟きを拾ったらしい。
「認められる為、貧しい暮らしから抜け出す為、家族の為‥‥ここ何年も必死でしたから」
 その顔が不意に曇る。絵を描かねばならない‥‥それを思い出して。
「画家のように創作を主としている仕事の人は、身近な人物をモデルにするときがあると聞くし、桜嬢やマダム吉乃をモデルにするというのはどうだろう?」
 その迷い、悩みを晴らせないか‥‥思いスキャッグスは提案してみた。
「人物は苦手なのですが‥‥というか、その、自分の妻や子供の絵を、というのは恥ずかしくないですか?」
「う〜む、自然体のいい絵が描けそうだが‥‥」
 何気ない一言に、フランツが目を目開いた事、スキャッグスは気づかなかった。

●花開く
「そういえば、ジャパンの桜というのは、名前は聞いた事があるが、詳しくは分からないな‥‥どんな花なんだ?」
 スキャッグスが吉乃に問うたのは、皆でサンドイッチを頬張っている時だった。美味しいご飯は、心を嬉しくする‥‥だからこそ、スキャッグスはこの話題を持ち出したのだ。
「薄紅色‥‥淡いピンクの花びらをたくさんつける木なのですよ。一つ一つは小さな花びらがたくさんたくさん集まって、それはそれはキレイなんです」
 懐かしい瞳で応える吉乃。
「形はこう‥‥だけど、咲いてる期間はすごく短いの」
 夏樹は空中に五枚の花びらを描いて見せた。
「一斉に散るさまはもう、すごいよね‥‥幻想的で」
 そして、ふと思いついて歌を口ずさむ。桜にまつわる童謡やポップス、自分が知る桜の歌を。
「花は散るからこそ尊い。そう教えてくれる花です」
 歌い終えた夏樹はじっとフランツを見つめて、言った。
「私も故郷では桜を見たことがありますが‥‥もし、桜を描かれるのであれば、他人から聞いたものをそのまま描くのではなく、貴方の春のイメージにより昇華して、新たな春の花というものを作り上げるような意気込みで描かれてはいかがでしょうか?」
 今なら届くはず‥‥香織は静かに口を開いた。
「私の故郷でも、見たことがないものを描く方はおられましたが、自分の中のイメージをしっかり持たれた絵は、オリジナルと異なる部分があろうとも、立派に見えたものでした」
「だが、それはイメージをしっかり持つのはひどく難しい‥‥いくら口で説明しても実物を見ないことには理解できないぞ」
 孝司は、フランツの動揺を見て取った。
「目が見えない人が、大きな生き物を手で触った感触を基に説明したらどうなるとおもうかね?」
「ですが‥‥」
「一つ一つの事柄は恐らく正確だろうが、全体としては情報に纏まりが無くなって訳が解らなくなるぞ」
 諦めきれない。桜を描く事が出来れば、OKをもらえるのではないか‥‥その未練を、キッパリ断ち切る。おそらく、薄々本人も気づいているだろうと、察したが故に。
 証拠に、フランツは孝司の指摘に押し黙った。
「見知らぬ物を描こうとするよりも、自分が一番実感できる物を描いてはどうかな?」
 だから、孝司は告げた。慰めと、迷う心に新しい光を送り込むように。
「良い絵を描こうと頑張ってるのは分かるんだけど、考え過ぎは良くないんじゃないかな」
 微かに残る迷いを吹き飛ばすように、夏樹は言った。
「よく分からない物を描くより、フランツさんが一番好きな、一番描きたいと思った『春』を描くのが良いと思いますよ」
「そうですね。春にこだわるのであれば、ウィルの当たり前の春を描かれるのもよいのではないでしょうか?」
 香織は穏やかに微笑みながら、周囲を‥‥この花咲き乱れる野原を見回した。
「貴族の方というのは、派手な美しさに慣れておられる方が多く、当たり前な派手な美では、感銘を受けないことも多いかと思われるのです。ならば逆に、野に咲く花を自分の思う美とあわせて、地味なはずなのにこの絵から訴えられているものがあって、目を離せないといったものにするのも一つの手段ではないでしょうか?」
 派手な絵は確かに、その時は喜ばれる。だが、記憶には残りにくいものなのだ。
「地味でありながら力強く訴えかけるものがある絵こそ、貴族の方々に受けると思うのですよね。地味ながらもたくましいものこそが、その季節を象徴すると思うのです」
 と、ここで香織はふっと笑みを深めた。気づいたからだ。フランツの背後、忍び寄るメイベルと桜に。
「お父さん、桜とメイベルお姉ちゃんから、プレゼント!」
 フランツの頭上から降り注ぐ‥‥いや、その頭に乗せられたのは、二人が作った花冠だ。
 春を受け、フランツは目を瞬かせた。花冠を手に取り、マジマジと見つめる。それから、桜や吉乃、孝司やスキャッグス達の顔。
 そして、もう一度改めて‥‥この春の野原を。
 その瞳が細まる。眩しい光を見た時のように。
「お父さん‥‥?」
 やがて、その瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
「私は忘れていたようです‥‥ここにあるものを、あるがまま美しいと感じる心を。小さな花々が必死で生きる、その気高さを」
 夏樹やタイラスが見守る中、フランツは大きく息を吸い込んだ。春の風をいっぱい、受ける。
「もう、大丈夫ですね」
 香織の問い‥‥というより確認に、さっぱりした顔で頷くフランツ。メイベルと桜は手を取り合って喜び。
「はい。出来れば、絵が完成したら見ていただけますか?」
「楽しみにしている」
 代表しての孝司の言葉に、それぞれ頷く皆‥‥温かな春風が、その髪を優しく揺らした。


「その様子だと、大丈夫だったようだな」
 絵の期日。成否の報告を待っていたスキャッグスは、フランツの顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「良かったです、本当に」
「うんうんっ、桜ちゃんも良かったね」
「タイラスお兄ちゃんも夏樹お姉ちゃんも、色々とありがとう」
「良い絵でしたから‥‥私はきっと喜んでもらえると信じていましたわ」
 思い出し、顔をほころばせる香織。手前に、風に揺れる二輪の花。その奥に春の野原と、そこで戯れる人々を淡く描いたそれ。
 決して派手ではないし、ハッと目を惹かれる絵ではなかった。けれど、見ているうちに胸があったかくなるような、ふと微笑がもれるような、そんな絵だったから。
「はい。先方にも春らしい、見ていて微笑ましい絵だと。客人を迎えるに相応しい絵だと喜んでいただけて‥‥これも皆さんのおかげです」
 お世辞でなく本心から言うフランツに、桜と吉乃もそれはそれは嬉しそうで。
「桜さんたちの幸せそうな笑顔が何より嬉しいですの」
 そんな家族の姿に、メイベルは幸せそうに目を細めたのだった。