【遺跡探索記】コトコ姫と武者修行

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月23日〜07月28日

リプレイ公開日:2007年08月03日

●オープニング

 王都ウィルで大々的に、盛大に執り行われたウィルの国の新国王ジーザム・トルクの戴冠式も終わり、王都はようやくいつもの平穏を取り戻した。
 ウィルの国の新国王の誕生を祝福すべく訪れていた各国の貴賓も、月道の開放に合わせて帰国の途に付いた。
 そんな中、未だに帰国しない貴賓も何人かいる。
 その一人が、サンの国の王女コトコ・トウカだ。
 サンの国に聞き覚えのある者も多いだろう。ウィルより遠く離れたサント諸島からなる島国で、独特の反りと切れ味を持つ片刃の剣、サンソードを製造している国でもある。

「ふむ、あれがキャペルスか。デザイン的にもバガンより鮮麗されておるのぉ」
「恐れ入ります」
「竹鎧と青銅鎧ではちと心許なくての。我が国も貴国のキャペルスを参考に、新たなゴーレムを開発せねばな‥‥ジーザム殿が噂に聞くドラグーンを拝見させてくれれば、尚よいのじゃが」
「いえいえ、ドラグーンはまだロールアウトされたばかりですので、とてもお見せ出来る代物ではありませんよ」
「‥‥それは、“強すぎて脅威となり得るから”見せられない代物なのかの?」
 トルク城の敷地内に置かれたバガンやキャペルスを見て回る少女の姿があった。その傍らにはジーザム王その人の姿があり、少女にゴーレムのスペックを説明している。
 少女は黒い着物を纏い、その黒衣より濃く艶やかなみどりの黒髪をツインテールにしている。外見は少女の域を出ておらず、可愛いという言葉がぴったり当て嵌まる。
 ジーザムと並んで歩く姿は、父と娘といったところだ。
 しかし、少女は脇差しを帯び、背に槍を背負っていた。
 彼女こそサンの国のコトコ・トウカ姫であった。
「‥‥ん? ほぉ、あの女子、サンショートソードを使っておるのぉ。貴国に来て初めて見たのじゃ」
 コトコ姫はゴーレムの側で、鎧騎士達の訓練風景を見付けた。大半の鎧騎士がサンショートを使う中に、女性の鎧騎士がサンショートソードを使っている姿を見付け、珍しそうに見ている。
「あれは‥‥カティア・ラッセという、我が国に仕えるラッセ男爵家の息女です。以前より何度か天界人と修行に出ており、自分に合った武器を使うよう助言を受けたとか」
「うんうん、良い助言じゃ。最近の若い者は、とかく強い武器やら魔法の武器やらを求めるが、武器に使われておってあれはいかん。強さに近道などない。己の技量に合った武器を使い、日々の研鑽こそ大切なのじゃ」
 女鎧騎士カティア・ラッセ(ez1086)は、前国王エーガン・フオロの許可を得てウィル国内を回り、武者修行の旅を続けていた。
 カティアが武者修行の旅をしているのは、ラッセ男爵家の家督を継ぐ為だが、鎧騎士になる為に通った騎士学校の学費はフオロ家が負担しており、自分の名声を高める事で鎧騎士の地位向上に貢献し、主君から賜った恩を返している。
 変わった事をすれば主君の覚えも良く(良い意味でか、悪い意味でかは別として)、ジーザムもカティアの事を覚えていた。
 コトコ姫は感心した後、カティアの方へ歩いてゆく。
「済まぬが、ちと貸してもらえんか?」
「は、はい!? これはジーザム様」
「このお方はトウカ家がご息女コトコ姫だ」
「失礼しました! どうぞ」
「うむ、済まんの」
 突然話し掛けられ、カティアは素っ頓狂な返事をする。その後ろにジーザム王の姿を認めると慌てて鎧騎士の礼を取った。
 彼は片手を上げて応えると、コトコ姫を紹介した。コトコ姫にも鎧騎士の礼を取り、慌ててサンショートソードを両手で献上する。
 コトコ姫はウィル新刀の型をいくつかやって見せた後、カティアの訓練の様子を見ていて気付いた事を告げる。それはカティアも気になっていた点で、頻りに頷いていた。
「鎧騎士とはいえ、常にゴーレムに乗って戦える訳ではない」
 コトコ姫は背負っていた槍を構えると、キャペルスへ向かって一閃!
 キャペルスを一刀両断してしまう。
「それがあの曰く付きの、『闇薙』と並ぶトウカの家宝『諸星』ですか」
「ジーザム王、済まぬがこのキャペルスは我が国で買い付けるとしよう。じゃが、やはりドラグーンを見せてもらわん事には、な」
 コトコ姫の持つ諸星は、サントの伝説、八つの首を持つ大蛇ヤマタノオロチと互角に戦えると伝えられる魔槍だ。諸星自体強いが、それを自分の手足のように使いこなすコトコ姫の技量が合わさってこそ、キャペルスを真っ二つに出来る。
「コトコ様、無礼をお許し下さい。その上で私の遺跡探索にご同行願えないでしょうか?」
 カティアはこの後、冒険者を誘って、かつての砦跡へ探索に出掛ける予定だ。コトコ姫の技量を見て、武者修行に付き合ってもらい、稽古を付けて欲しいと思っていた。
「次の月道が開くまでまだ間があるし、儂は構わんが‥‥」
「‥‥では、コトコ姫が帰ってくる頃には、ドラグーンをお見せできる準備を整えておきましょう」
 コトコ姫は横目でジーザムを見遣る。キャペルスを生身の少女が一刀両断してしまったのだ。トウカ家がゴーレムを買い付けるのなら、キャペルス以上のものを見せるしかない。

 今回のカティアの武者修行には、コトコ姫が同行する事となった。だが、姫としてではなく同じ冒険者として扱って欲しいとの事だ。
 尚、カティアの装備は、サンショートソードとゴーレムライダー、魔法のライトシールドとなっている。ウィル新刀を修め、チャージングとフェイントを修得している。
 ただ、レンジャー系の技能は修得していないので、遺跡を探索するなら必要だろう。

 また、カティアが向かう砦跡は、数十年から百年近く前に破棄されたウィル国内の砦だ。宮廷図書館で兵法の書物を読んでいて偶然見付けたらしい。
 今では戦略的な価値はないが、グレイオーズやゼラチナスキューブといったスライム類の巣窟になっており、カティアはその掃討を行うつもりだ。
 破棄された砦なので、当時のアイテムは残っていないかも知れないが、報酬は基本的に見付かったアイテムの山分けだ。万一、魔法の武器が見付かった場合はカティアの分も含める事になる。

●今回の参加者

 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2504 サラ・ミスト(31歳・♀・鎧騎士・人間・イギリス王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5592 イフェリア・エルトランス(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec2078 メイベル・ロージィ(14歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文


●コトコ姫のお願い
「コトコ・トウカと申す、コトコと呼び捨てでよい。以後、よしなにの」
 鎧騎士カティア・ラッセ(ez1086)の武者修行に付き合うファイターのリオン・ラーディナス(ea1458)達は、ウィルの冒険者ギルドで待ち合わせていた。
 カティアは黒い着物を纏い、その黒衣より濃く艶やかなみどりの黒髪をツインテールにしている少女を同行させており、彼女はサンの国の王女コトコ・トウカと名乗った。
「んー、いいねぇ。カティアのようにお嬢様が鎧を着込んだ姿も凛々しくて素敵だけど、コトコのように着物姿というのも華やいで素敵だよ。んー、甲乙付けがたい!」
「いや、それぞれに魅力があるのだから、甲乙付ける必要はないとは思うが‥‥確かに、着物姿の美少女というのも乙なものだな。アトランティスで見られるとは思わなかった」
「だろだろ〜? 素敵なサプライズだよな〜」
 「同じ冒険者として接して欲しい」というコトコの要望通り、リオンは早くも呼び捨てで名前を呼んでいる。外見は15、6歳くらいだろうか。古めかしい口調と、少女の域を出ていない青い果実のような外見のミスマッチさが、リオンにとってはたまらない。
 浪人の長渡泰斗(ea1984)は、舞い上がるリオンに苦笑しながらも、故郷を思わせる懐かしいコトコ姫の出で立ちを、リオンと違って邪な考えは一切持たずに、懐かしそうに目を細めて見ている。
「サンの国は、どのような国なのじゃろうか。着物といい、サンソードの技術といい、ジャパンと似ているのじゃろうか、尋ねたき事が多く楽しみじゃな」
 志士の七刻双武(ea3866)も、泰斗と同様にコトコ姫の出で立ちに興味を覚えている。
「メイベルは、ウィルの国内から出た事がないのでそれよりもっともっと遠くの国に興味がありますの。でも、これから向かう砦跡の歴史的な価値にも興味がありますの♪」
「遺跡探索って、宝箱を開ける前のようにワクワクするわよね。中身はあるかも知れないし、無いかも知れない‥‥カティアさん会うのも久しぶり、元気そうでなによりだわ。遺跡発見の報がなくて、暇で寂しかったわ」
「ごめんなさい。ここのところ鎧騎士としての公務が忙しくて‥‥」
 エルフのウィザード、メイベル・ロージィ(ec2078)は、ウィルにとって遠い遠い外国に当たるサンの国に興味を覚えたが、これから行く砦跡にも興味を引かれている。知りたい事だらけでワクワクが止まらない。
 彼女と遺跡探索の魅力について語り合っていたレンジャーのイフェリア・エルトランス(ea5592)は、久しぶりの友人との再会を心から喜んだ。友人を待たせてしまって済まないと謝るカティアだが、お忍びでウィルを訪れたランの国の第一王女レベッカ・ダーナの護衛の任を受けてからというのも、その後も要人警護の任務ばかり回ってきており、カティア自身未盗掘の遺跡を探している余裕がなかったというのが本当のところだ。
「そのお召し物から、かなりの手練れとお見受けしますが」
「いや、儂もカティア同様まだまだ修行の身じゃ。それに藤咲も愛らしい着物を着ておるではないか」
「これは志士の証である陣羽織です」
(「キャペルスを試し斬りで真っ二つにできるのですから、着物での戦闘も難なくこなせるのでしょうね。もっとも、その金銭感覚の方が驚きですけどね」)
 遺跡に向かうのに、着物に襷掛けというコトコの姿に、志士の深螺藤咲(ea8218)は彼女の実力を推し量っていた。コトコも藤咲が纏っている桃色の志士の陣羽織が気に入ったようだ。
 鎧騎士のレイ・リアンドラ(eb4326)とサラ・ミスト(ea2504)は、コトコがトウカ家の家宝の槍『諸星』でキャペルスを真っ二つにしたところに居合わせていた。2人ともコトコの実力は分かっているつもりだ。
「私はつい先日鎧騎士になったばかりだからな。貴殿の方が先輩なのだ。よろしく頼む」
「一緒に頑張りましょう‥‥先輩なんて言われたの初めてですから、何かこそばゆいですね」
「ふふ、頼りにしているぞ、先輩」
 カティアが鎧騎士の叙勲を受けてから早くも1年が経とうとしていた。最近ではサラのように鎧騎士の叙勲を受ける者も少なくなく、「先輩」と呼ばれると呼ばれ慣れていないカティアは頬を赤らめて照れるが、自分がそれだけ成長した事を実感していた。
「遺跡まで、俺の駿馬に乗ってみない? だってホラ、この中で一番強いのコトコになりそうじゃん? 切り札の戦力は、万全の状態にしておくって考えはファイターとして至極当然!」
「いや、遠慮しておこう」
「何故に!? 決して、浮ついたアレな考えでは無いんだよ、決して!」
「いや、リオンがフラレーとか、愛の狩人とか、女子を食い物にしているとか、そういう噂を聞いたからではない。馬に乗っていれば修行にならんし、それに遺跡の中では諸星は使えまい。儂もカティアと同じく得物はサンショートソードになるの」
 集まった冒険者の中で一番の手練れであるリオンは、コトコを色んな意味でバッチリ鑑賞し、その体運びなどからかなりの手練れだと感じ取っていた。なので自分の愛馬を勧めたが、コトコはメイベル達と一緒に歩きたいようだ。
 とはいえ、リオンの名声は一部脚色も含めてコトコの耳にも入っているようだ。

●サンの国
 王都ウィルを発った双武達は、カティアの案内で北西へ歩いてゆく。やがて平原からなだらかな丘陵地帯へその景色を移してゆく。
「この辺り一帯も古戦場の跡だったんですの‥‥」
 カティアから話を聞き、メイベルは辺りを見回す。既に100年もの年月が流れており、かつての古戦場の名残はほとんど残っていないが、向かっている砦跡からこの丘陵地帯はカオスニアンとの戦いが幾度となく繰り広げられた場所らしい。
「その砦跡は差詰め最前線、と言ったところでしょうか」
「カオスニアンも無限ではありませんからね」
「なるほど、この辺りに生息していたカオスニアンの掃討が終わったから、その砦は破棄された、という事ですの」
 100年程前、この丘陵地帯はカオスニアンの支配下にあったという。レイの言うように、その砦はカオスニアンと人間達の戦いの最前線に建てられたものだ。しかし、カティアが指摘するように、カオスニアンもその数は無限ではない。長い年月を掛けて掃討され、カオスニアンがいなくなった砦は戦略的価値を失い破棄される結末を迎えた、とメイベルは察した。
「100年前というと精霊暦920年頃でしょうか‥‥丁度、ウィルが建国された辺りですね」
「戦略的な価値は失われても、ウィルの建国を見てきた砦でしたら、歴史的な価値は大きいんですの!」
 感慨深く目を細めるレイとは対称的に、メイベルは砦跡に歴史的な価値を見出し嬉しそうだ。

「サンの国の技術は、故郷のジャパンを思わせる技の為、見ていて懐かしいですわ。ましてやコトコの品は、見た事も無い程の業物で、見ていて惚れ惚れしますわね」
「確かに藤咲の持つ大脇差や、双武や泰斗の持つ太刀は、サンソードの技術と酷似しておるの」
「サントの伝説に登場する八俣遠呂智(やまたのおろち)は、ジャパンにも伝説が残っておる。天界とアトランティス、遠く離れた世界なのに似たような国があるというのも、不思議なものじゃのぉ」
 一方、藤咲や双武、泰斗はコトコ姫とサンの国について話していた。製鉄技術やサンソード製造技術を質問したり、天界のジャパンの様子や建築、刀剣技術などを話し合うに付け、サンの国とジャパンは非常に酷似している事が窺えた。
 サンの国は神が矛でかき回し、国を創ったと伝えられている。
 また、サンソードは、砂鉄をタタラという炉でぎりぎりの低い温度で精練した鉄で創る。今では鉱石から比較的大量の鉄を一度に作れるが、昔ながらの小規模の炉で、栗炭を使って砂鉄から作った鉄でないと良い物が出来ないそうだ。
 サンソードはおおざっぱに言えば、粘りのある柔らかい鋼の上に、脆いが硬い鋼を被せて創る。柔らかい鋼を15回は打ち延ばした物を三枚。元と先を互い違いに組み合わせて圧着。予め捻れを加えて芯金と為す。その上に硬い皮鋼を被せるのだが‥‥。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・作り鋼の中から材料を選別し、調えるのに1日
・フイゴを据え火床をぬり、火を起こすまでに1日
・卸作業に1日
・下ごしらえに1日
・皮鋼作りの1日
・芯金作りの1日
 折り返しの鍛錬は15を数える。
・四方詰め。すなわち二枚の皮鋼の間に刃金・芯金・棟金の三種の鋼を挟む。
 この組み合わせ作りに1日
・刃造りに1日
・荒磨ぎ1日
・焼き刃渡しと中磨ぎに1日
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、1本につき都合10日懸かるかのう。炭は松炭・栗炭合わせて大体20俵は使う。行程によって使う炭や切る大きさが違うのじゃ。焼き刃渡しには親指の先くらいかのう? 組み紐のような鋼を元のほうに螺旋に巻くのを見たことがあるがよくわからん‥‥。献上品の場合はさらに薄い化粧金を被せるが、これは栃木に二種類以上の鋼を組み合わせ、打ち延ばしたものじゃ。なんでも味噌を塗り三枚重ねで打ち延ばし、真ん中の物のみを使うと聞く‥‥」
 ざっと行程を語ったが、技術や割合は秘伝、秘中の秘故、彼女も詳しくは知らなかった。
「サンソードを見て、以前から気になっていたが‥‥ふむ。一つ、質問を。サン国において、広く飲まれる『茶』は緑茶なのかそれとも紅茶なのか」
「もちろん、緑茶じゃ。そうじゃの、次の昼食の時にでも茶を点てるとするか」
「野点をしてもらえるのか!?」
「愛飲しておる茶葉は持ち歩いておるのじゃ。抹茶だがの」
「いやいや、嬉しいよ。アトランティスに来て故郷の味が飲めるとはな。紅茶で茶を点てる訳にもいくまいて」
「確かに」
「一度試したが、紅茶は淹れるモノだと思い知らされたものだ‥‥ジェトの茶葉は、摘んだ先から紅茶になるとか以前に聞いたからサンでは如何なのかと思ってナ?」
「紅茶で茶を点てようと試したのか!? それは難儀じゃの」
 言ってみるものだ。コトコは愛飲しているサンの国で採れる最高級の緑茶の抹茶をウィルにも持ち込んでおり、泰斗達は藤咲が用意したお茶菓子と合わせて、コトコの野点で緑茶を味わった。
「苦い〜」
「この苦さが良いのだがな」
 飲み慣れていないリオンは、その苦さに思わず舌を出してしまう。双武達にとっては懐かしい故郷の味であった。

「手合わせよろしくお願いする」
 夜になり、テントを張ると、サラはローテーションを組んで見張りに立ち、その際、カティアの剣の修行に付き合った。
 手合わせをしてカティアがサンショートソードを使い続ける理由が分かった。カティアは元々は貴族令嬢で、お世辞にも体力があるとはいえない。ゴーレムライダーを纏い、ラウンドシールドを持つのであれば、自ずと武器は軽いものになる。そこで切れ味の良いサンショートソードを使い続けているのだ。自分の体力に見合った装備といえる。
 それにカティアは攻守共にバランスが取れている。ここ1年の遺跡探索で、カティアも一流の鎧騎士へ成長しつつあるのだ。
「武者修行は必要かも知れないな」
「カティアさんが強くなって私も嬉しいわ」
 カティアの成長を、自分の事のように喜ぶイフェリア。
「コトコも、着物以外も似合うわね」
「く‥‥イフェリアの服もカティアの服もサラの服も藤咲の服も、みんな胸が剰るではないか!」
「わ〜、メイベルの服はピッタリですの!」
「うう‥‥泣けてきた‥‥」
 男性陣の見張りの番になると、イフェリアは女性陣の服を取っ替え引っ替えコトコに着せる。着せ替え人形と化したコトコだったが、唯一サイズが合ったのはメイベルの服だ。着物を着ていると体型を隠すので分からないが、コトコはいわゆる幼児体型なのだ。意外な弱点(?)かもしれない。
(「これ程、エックスレイビジョンのスクロールが欲しいと思った事はないぜ!」)
 愛犬と見張り番をしながら、女性陣のテントから聞こえてくる嬌声に、リオンは妄想を膨らませつつ血涙を流したとか‥‥。

●対カオスニアン用の砦跡
 石造りの堅牢な砦が見えてくる。100年近く経ち苔生しても尚、朽ちる事無く、その姿を留めている。騎士達とカオスニアンとの戦いの痕も合わせて‥‥。
 遺跡探検の術に長けたイフェリアを先頭に、その左右を木板と高級羽根ペンを持ってマッピングするリオンと、ランタンを持つサラ、戦いの達人たる双武が前衛を固める。カティアとコトコは中衛に組み込まれ、たいまつを持つ泰斗と藤咲、レイ、筆記用具を構えて砦の歴史的な価値を書き留める気満々のメイベルが後列という隊列を組んだ。
 藤咲もマッピングを行うが、マッパーが2人いれば見落としが無くなり、より確実なマップが出来上がる。
 それにこれだけ光源があれば危険な場所や罠を発見しやすいし、ランタンの方が明るいが落とせば壊れてしまうので、落としても燃え続けるたいまつも合わせて使うのが遺跡探索のセオリーだ。加えてたいまつは、蜘蛛の巣や枯れ草を焼き払ったりできるので何かと重宝する。

 ラージハンマーやメタルクラブの類で粉砕しようとした痕のある、観音開きの木の扉を開けると、真っ直ぐな通路が続いている(「│」)。
「以前、別の依頼で崩落を経験しています。気を緩めると全滅の可能性もありますので、壁や床だけではなく天井も注意した方が良いですね」
「‥‥その通りよ。この通路の天井、今にも崩落しそうだわ」
「いきなりか!?」
「いえ、入ってすぐだからこそ、敵の出鼻を挫くのに丁度良いのでしょう」
 藤咲の言葉で、イフェリアは天井が崩落する罠を見付ける。最初から殺傷力のある罠の登場に泰斗は驚きを隠せない。だが、レイが指摘するように、この遺跡の目的を考えれば、納得がいく。頷いてメモを取るメイベル。
 この罠は特定の箇所を踏むと発動するので、イフェリアがそれを見付けて印を付け、やり過ごす。
 しばらく歩くとT字路に出た(「┤」)。
「ここの罠は床がわざと脆く作ってあり、踏み抜くと落とし穴になっていたようじゃな」
 双武が既に発動していた左側の通路の罠に向かって手を合わせる。メイベルが落とし穴を覗き込むと、そこには無数の槍が突き出しており、刺さった骨が風化せずに残っていた。大きさからカオスニアンのものだろう。アトランティス人のレイやメイベルはカオスニアンなので当然の報いだと思うが、天界から来た双武は敵であれ死者は弔うようだ。
 その先もしばらく一本道が続いている(「│」)。
「『石橋を叩いて渡る』くらい慎重でもよいと思うのだ。ん‥‥ここは音が今までより軽い!?」
「ちょっと待って‥‥古典的な落とし穴ね。道は中央か両壁際だけみたい」
 ランタンを片手にスピアで壁や床を突き、安全を確かめていたサラが音の異変に気付く。イフェリアが調べると、中央と壁際以外に数mの深さの落とし穴があった。
 リオン達はイフェリアの歩幅に合わせて中央の道を進んでいった。
 その先はいきなり十字路が広がった(「┼」)。
「前の通路、染みの濃さが違わないか?」
「右手の通路もそのようじゃのぉ。罠の発動頻度や侵入物によっても、埃や汚れ具合に差が出てくる可能性が有る」
 リオンはワイズマンナイフを、双武は太刀を構えた。案の定、水を撒いて濡らした岩の表面のように見えた染みは、黒灰色のゲル状の触手を藤咲へ伸ばしてくる。
「グレイオーズですの!」
 メイベルの識別が間に合い、間一髪、藤咲はグレイオーズの触手をライトシールドで防ぐと、手に持ったたいまつで炙る。グレイオーズは反射的に触手を縮こませる。
「間合いに気を付けて! 特にリオンさんの後ろは落とし穴よ」
 イフェリアが叫ぶ。だからこそ獲物の逃げ道が制限されるこの場でグレイオーズは待ち構えていたのかも知れない。
 だが、密着されなければレイ達に分がある。カティアとコトコがサンショートソードで躍り掛かり、サラがスピアで突き、レイが霊刀で斬り付け、泰斗が太刀を振るうとグレイオーズも四散した。
「泰斗、レイ、後で刀の手入れをしておいた方が良いぞ。こやつの身体は酸故、放っておけば刀身が錆びてくるはずじゃ」
「遺跡から出たら念入りに手入れをするさ」
「失念していました‥‥」
「そういう事もあるさ。俺がレイ殿の分もやるよ」
「ありがとうございます」
 コトコに言われ、武具の手入れセットを持ってきた良かったと内心ホッとする泰斗。レイは忘れてきたようだが、そこはパーティーを組んでいる者同士、泰斗がレイの分も手入れをすると告げる。
 正面と左の通路に落とし穴があるので、十字路を右折すると、真っ直ぐな通路の先に両開きの頑丈そうな扉があった。
「罠はないみたいね。鍵は掛かっているからここが最深部かも知れないけど‥‥開かない!?」
 天界でも今までのカティアの武者修行でも散々やってきたから、この手の鍵開けはお手の物。イフェリアは盗賊用道具一式を使って扉の鍵を開けるが、押そうが引こうがびくともしない。
 男性陣がやってみても同じだった。
「バーストアタックで壊してみるか」
「もしかしてこの扉‥‥横へスライドさせるのではないですの?」
 唯一、バーストアタックを修得しているリオンがワイズマンナイフを構えると、メイベルが扉を横へスライドさせた。
 ‥‥お約束である。
 そこはイフェリアの推測通り、砦の最深部だった。しかし、わずかな家具があるだけで蛻の殻だ。
「‥‥いや、いる!」
 サラが鋭い声と共にスピアにオーラパワーを纏わせる。蛻の殻だと思っていたのは、3m四方の立方体のスライム、ゼラチナスキューブが部屋を陣取っていたからだ。
「気を付けて下さいですの! ゼラチンキューブの攻撃を受けるだけで身体に張り付かれてしまいますの!」
「ふっふっふ、こんな事もあろうかと、毛布を用意してきたんだぜ!」
 ここでもメイベルのモンスター知識が活かされる。リオンは不敵な笑みを浮かべると、ゼラチンキューブに毛布を被せたではないか。
「毛布がゼラチンキューブに張り付いている間は、張り付かれる事はないはずだぜ!」
「全ての面を覆った訳ではないから、詰めは甘いが‥‥助かる!」
「カウンターは逆に危険じゃの」
 太刀の間合いを利用し、ゼラチンキューブを近付けないように振るう泰斗と双武。2人の動きに合わせて、攻撃の隙を補うようにスピアで突くサラ。
「ジェル系のモンスターと弓って相性が悪そうだけど、コアっぽいものは存在するのかしら?」
「コアはないですの」
「まぁ、このくらい大きければ外す方が難しいけど」
 イフェリアはオークボウに矢を番え、泰斗達を援護する。
「もう少し広ければトルネードで巻き上げられるのですが、ごめんなさいですの」
「いえ、女性を護る事は鎧騎士にとって名誉な事です。それにこういう不定形生物はあまり戦いたくない相手ですしね」
「それに、メイベルさんのモンスター知識のお陰で、骨を折らなくて済んでいます」
 レイはメイベルの護衛に回り、藤咲は先程と同じくたいまつでゼラチンキューブが近付かないよう牽制している。
 双武の刃が止めを刺し、ゼラチンキューブは四散した。

 この最深部は元々は武器庫だったようだが、ゼラチナスキューブの酸で大半の武器が腐食し、使い物にならなくなっていた。
「この遺跡は空振りでしたね‥‥すみません」
「こういう事もあるわよ。カティアさんの修行の糧になればいいと思うわ」
「元々、お宝を発見したら、オレの分け分はカティアに譲るつもりだったしね。そういう力は、鎧騎士として一生懸命修行しているキミがオレよりも相応しいかと」
「俺も如何にも洋剣は手に馴染まなくてね、俺にはコレ(刀)が一番向いているらしい」
 カティアが頭を下げると、イフェリアやリオン、泰斗が慰める。
「それにこの遺跡は空振りでは全然ないですの! 人間とカオスニアンとの戦いの歴史の跡がたっぷり詰まった希少な遺跡ですの!」
 メイベルが興奮冷めやらぬといった様にメモしていた羊皮紙を見せる。藤咲とリオンがマッピングしていた地図を合わせると、この罠を巡らせた砦はカオスニアンを故意に引き入れて掃討する作戦の為に作られたものではないかと、メイベルは推測していた。
 それが分かっただけでもメイベルにとっては嬉しい。
「儂も双武や藤咲、泰斗から、天界のジャパンという国について色々と聞けて楽しかったからの。儂から皆に贈り物をさせてはくれまいか?」
 遺跡から宝物は見付からなかったが、コトコよりサンショートソードが全員に贈られた。