呪われた屋敷の中の宝物
|
■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月27日〜09月01日
リプレイ公開日:2007年09月04日
|
●オープニング
トレジャーハンター。
それは各地に散らばる宝を収集する事を目的とする職業。
人によっては『夢を追いかけ過ぎて現実を忘れている者』と言われているが‥‥
そんな職業に命を賭ける者もいた。
「貴方がバラン様、かしら?」
酒場の一角。其処で黒いローブを纏った女が老人騎士、バラン・サーガに声をかける。 別に待ち合わせをしていたワケではない。だが、女は馴れ馴れしくも空いている席に座った。
「いかにも。はて、主は誰じゃったかな?」
「そんな事は今どうでもいいのよ。‥‥ね、一つ仕事を頼まれてくれないかしら?」
馴れ馴れしい態度でそう告げる女性にバランは少しムッとしていたが、流石に騎士である以上女性を手荒に扱う事は出来ない。仕方なく話を聞く事にしたのである。
「この町の外れ。其処に古い聖所があるのはご存知かしら? そこを利用して天界人達が教会にして布教してたんだけど」
「ジ・アースから来た者達が中心に切り盛りしておったらしいのぅ。最近は人も寄り付かぬとか‥‥」
「そうなのよ。あそこで一つの事件が起きてからというもの、魔物の巣窟となってしまったのよ。‥‥でもね、その教会の最奥に一つお宝があるのよ」
「宝、とな?」
女性の言葉にバランはピクリと反応する。
もし本当に宝が眠っているのだとすれば、どこぞの悪党が持ち出して悪用するか分からない。そうなる前に手を打たなくては‥‥。
「バラン様は騎士道に長けている人と聞くわ。私も困ってるの‥‥勿論、助けてくださるわよね?」
「悪党の手に渡らぬというのならのぅ」
「なら、成立ね」
そう言うと、女性は懐から一枚の紙を取り出し、テーブルに広げた。
それは教会の見取り図らしきものだった。
一階は広い玄関ホールと聖堂。その奥には食堂とキッチン。その隣には使われていない開かずの倉庫がある。
二階に登ると一番奥から懺悔室、客室、教会の人間達の部屋。そして古ぼけた倉庫。
庭は広いが、雑草等が生えていて視界が悪い。勿論、中も薄暗く視界は悪い。
「この教会の何処かにあるはずなのよ。本みたいなものだから探してくれると助かるわ」「本とな? どのような本じゃ?」
「聖書よ。ジ・アースの人間が提供してくれた資料みたいなもの、よ」
クスリと笑う女性。
バランは己の正義の為にこの仕事を引き受けたが、その女性がトレジャーハンターの一人だという事には最後まで気付いていないようだった‥‥。
数日後。付近の住人が冒険者ギルドに依頼を持ち込んだ。
「‥‥髭を蓄えたごつい騎士様が、あの呪われた聖所に入って行くと言います。わしらはお止めしたのですが、全然聞き入れてくれません」
「呪われた聖所って言うと、あの、ジ・アースから着たクレリック様が、聖所の奥の石像を壊して、それで祟られたと言う‥‥」
「へい。こんなグーゾウは迷信だ。と仰って‥‥」
それ以来。魔物の巣窟となっている。幸い、魔物は聖所の領域の外には出てこないから、ずっと立入禁止。魔物は普通の武器が利かないと言う。
「騎士様が変なことをしでかして、魔物が外に出て来る様な事にでもなったら‥‥。ああ! 考えるだけでも恐ろしい」
その勇ましい騎士の名を聞いて、ギルドの係員はため息を吐いた。
●リプレイ本文
●陣地設営
「これが例の教会だね」
ギルス・シャハウ(ea5876)は朝靄で少し輪郭の呆けた教会をよく見ようと、目を細め見つめる。
「村人の話しだとそうだね、戦いで大穴でも開いたら魔物が出るかもしれないって震えて帰って行ったよ」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)がギルスの隣で同じように教会を見つめながらそう言った。
「中に入って行ったバラン卿の心配はなしですか?」
それを聞いたエリーシャ・メロウ(eb4333)は不満気にため息をつくと、村人の去って行った方向を非難がましく見つめる。
「まぁまぁ、私もあなたも戦う術はありますが、村人にはほとんど無いのです。それゆえの言葉だったのでしょう」
「わかっていますが、やはりどうも‥‥ね?」
深螺藤咲(ea8218)の言葉にエリーシャはちょっと困ったような顔をしながら微笑み、頷いた。
「しかし、魔物がいると言うのは本当の事のようじゃな」
ヴェガ・キュアノス(ea7463)は自分の手の中で白く光るものを見つめながら、誰に話しかけると言う風なわけでもなく呟いた。
「ヴェガ殿、それは一体?」
アルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)は不思議そうにヴェガの手を覗きこむ。
彼女はゆっくりと手を開くと、持っていた生命の紋章を見せた。
「生命の紋章じゃ、これはカオスの魔物に反応すると白く輝くのぢゃ」
とたんに周りがざわめく。
「これは、陣営の設営場所を慎重に考えなくてはならないな」
物輪試(eb4163)の言葉に回りも頷く。
色々話し会った結果、探索の利便さを考えて教会の玄関の方に陣営を築く事になった。
「まずは玄関とその周辺の征圧だな」
レオン・バーナード(ea8029)は武器を構えると入る準備を始めた。
「あの、もし良かったら私の持っている武器を使わないかしら?」
レオンの背後で加藤瑠璃(eb4288)が声をかけた。
「武器?」
「そうだな、自分達の武器で使わないものを貸し借りすれば生存率も効率も良い」
アルクトゥルスは自分の持っている武器を出すと回りに声をかけた。
「どうだ、今回限りの貸し借りをするというのは」
結局、瑠璃がアルクトゥルスからサンソードの名刀ムラクモを借り、レオンは瑠璃からロングソードを借りる。
試が名槍黒十字を必要なら貸すことを公言し、他の者も貸せる物、使って良い物は陣営に置いておく事となった。
教会の玄関周辺の征圧は、運良く魔物に会うこと無く終わり、陣営を築けるようになった。
「持ってやろうか?重たそうだな」
飛天龍(eb0010)がギルスが重そうに荷物を運んでいるのを見て、話しかける。
「あ、ありがとう。キミって力持ちなんだね」
「同じシフール同志、気にするなこれも鍛錬になるしな」
天龍はシフールには重たすぎる荷物の量を持って、ギルスが感心している間に運んでしまった。
他の人々も荷物を運び、テントを建てたりと朝靄が消える頃にはすっかり準備は整う事が出来た。
ギルスの提案により、グループをA・Bの二つにわける事となり班分けには全員が納得した。
「まずはA班が探索だね、全員時間を合わせて行動しよう。時間が来たら無理せず交代だよ」
アシュレーは自分の腕時計を見ながら、全員に聞こえるように言う。
「いくよ?10、9、8」
全員に緊張が走る。
「‥‥3、2、1、行動開始!」
●A班初日
先ずは、教会の周囲から固める。先発のA班の顔ぶれは、ヴェガにエリーシャ、藤咲に天龍、そして試。
「よいか? 掛けるぞ」
ヴェガの身体が白く光る。ディテクトアンデットの魔法だ。
「居る。近くはないが、寒気がする」
身軽な天龍が先行し、エリーシャが前を固める。ヴェガと試を中心に、藤咲がヴェガの左後方にあって殿を守る。ヴェガは高レベルのクレリックである。何があっても彼女さえ無事なら、全員の生命に危機はない。周辺を回り、亀裂などの有無を確認。幸い、日のある現在はなんの異常も見られない。長年の雨風に晒されて、少し痛んでいる場所もあったが、頑丈な作りであった。
「古ぼけた倉庫のようなものが二つ。そして聖堂のある岩屋。入口は教会内部からのようだな」
試は外部から見た概略図を描く。内部の構造を記して行くのは彼の役目。道を迷わぬ事もまた、全員の安全を確保する重要な役目。
一行はいよいよ奥へ入って行く。
「火をお借りします」
エリーシャは剣を右手に持ち、左手の松明に火を着ける。左肘を身体に付け、炎を右上方に固定。剣の邪魔に為らぬ工夫であった。
エリーシャは蜘蛛の巣を払いながら前に進む。研ぎ澄まされた感覚がひんやりとした部屋の空気に反応する。片手で扱うには重いが、支えるだけならば問題ない。いざというときは松明を落とし両手を使うことになろう。
「‥‥眼のある剣よ、頼りにしています」
彼女の優れたボルゾイ・エドが自分も忘れるなとばかりに吼えた。
「おや。そんなに吼えなくても頼みますよ。エドも周囲を警戒なさい」
ちょっと不満げな吼え方が、満足げに変わった。
天龍は指を立て、手回し発電ライトを構える。
「先ずは聖堂ですね‥‥」
藤咲は調査の手順を確認する。聖堂〜食堂〜キッチン〜開かずの倉庫〜2階懺悔室〜客室〜教会の人間達の部屋〜古ぼけた倉庫。特に支障がない限り、この順番だ。
エリーシャはゆっくりとドアを開いた。
「なにやら居るぞ。アンデットぢゃ」
ヴェガが皆に警告する。エドが警戒してうなり声を上げた。
身構えて進むと、うっすらと浮かぶ5つの影。皆、コイフを被っている。
「血迷うたか!」
ヴェガが一喝。ジ・アースから来た女性聖職者と覚えたからだ。幸い下は石畳。エリーシャは松明を落とし剣を構える。ゆっくりと迫る10の瞳。
「レイスじゃ」
ヴェガが注意を呼びかける。
「成仏して下さい」
藤咲が祈りの叫びを上げる。
「今、楽にしてやる」
エリーシャの剣が鋭い閃光を浴びせる。
何れも百戦錬磨の勇士達。魔法と、魔法の武器の助けもあり、現世に縛られた5人のレイス達を精霊の国へ送るのに小一時間の時を費やすだけで済んだ。
食堂、キッチンを調査し、何事も無し。
「少し早いが、戻ろう」
「しかし、バラン卿が‥‥」
バランを案ずるエリーシャ。しかし、殺しても死ぬような人物ではあるまい。
●B班初日
探索は神経を使う。それゆえ長時間の緊張は事故の元。戦闘があったため、予定を少し早めてA班が帰還した。
「合戦よりも緊張しますね」
陣営に戻って来て、エリーシャは大きく息を吐く。ヴェガは汗を拭い化粧を直す。試もメモの走り書きを忘れぬ内に判りやすい 字に直す。肩を回す藤咲も指を鳴らす天龍も、安全の確保されたこの場所で一息。神経を休めた。
こうして小一時間、A班リフレッシュ完了。陣営確保を任せられる程に回復した。
「後を頼みますよ」
アシュレーが腕時計で時間確認。選手交代しB班の出発だ。
「無理はせず。確実に教会を制圧だよ」
隈無く調べて魔物を一匹残らず駆逐する。次から次へと湧いてくるなら、その発生源を確認する。この方針を確認し前進した。
「OKだよ」
ギルスがディテクトアンデット。アシュレーもブレスセンサーを成就させる。これで大抵の物は関知できるはず。
「この中にいるのはバラン卿だけだな?」
レオンの確認に、
「魔物の巣と言うからには常人が無事で済むかしら?」
瑠璃が答える。
「なら簡単だ。襲ってくる奴は片っ端から切り倒す。噂に聞くバラン卿なら、間違って斬りつけても死にはしないだろ」
「その代わり、返り討ちだな。殺されるなよ」
アルクトゥルスが軽口を叩くレオンにぼそり。あのとてつもない体力は嫌なほど体験済みだ。
「ま、慎重が一番だよね」
弓矢を準備しながらアシュレーが促すと、皆一様に頷いた。
先鋒をレオンが努め、アルクトゥスと瑠璃が中央、と言うか次鋒。ギルスを後方二番手に、殿は弓使いのアシュレー。攻撃重視の構えだ。
食堂に来たときだった。
「ガイはいるのか?」
訊ねる声がある。
「なんだ! どういうことだ!」
レオンが呼ばわると、
「‥‥なら、大したことはない」
声はそれっきり。
「ガイがどうしたんだよ!」
呼ばわっても、それっきり声はなかった。
探索を始めて2時間。ドアの前に来たときだった。
「しっ。不規則でか細い呼吸が一つ」
アシュレーが皆に告げる。
「‥‥低い位置だ。‥‥なんだか死にそうだよ」
レオンが、蹴破るように中に乱入。
「おい! しっかりしろ!」
抱き起こす。
「他に誰も居ないようだな」
武器を構えてカバーに入るアルクトゥスが確認。
「他に誰かいるのか?」
居るなら助けねばならない。
「俺、‥‥だけ‥‥」
声に反応してようやくそれだけ口にする。若い男だ。
ギルスがリカバーを掛けるが、力及ばず。
「早く連れて帰りましょう。僕は‥‥なんとか死なせないのがやっとだよ」
一行は、若者を担いで急いで来た途を引き返した。
「どれ。まだ息はあるようじゃの」
ヴェガがリカバーを掛ける。白い光に包まれた若者の傷が、見る間に塞がり跡さえ消えて行く。身体の傷は忽ち癒された。
「まだ、ショックから立ち直れぬじゃろうな。ちぎれた指も治しておいたが、暫く訓練が必要じゃろうて。情報を聞き出すのは後にした方が良い」
疲れたふうも無く、さらりとヴェガは言った。
●再会バラン
B班は遂に開かずの倉庫の入口に到達。
ドアの鍵は壊れていた。が、
「アンデットだよ」
ギルスの声。
「荒く力強い呼吸音1つ」
言ってアシュレーが矢を番える。
「何か聞こえます」
瑠璃の耳は、大勢が戦っているような音をキャッチ。
「任せろ」
レオンの一撃でドアは破られた。
「‥‥バラン‥‥殿だよね」
中の有様を見て一同唖然。大きな犬のゾンビの大軍と、いましも戦っている最中であった。その後ろに、カオスの魔物のような影。上半身裸でパンツ一つのボディービルダーを思い浮かべるといい。そいつがポージングしながら陣取っている。バランの剣は腐肉にまみれ、自身も酷い有様だが、全く怪我をしている様子はない。
「面倒じゃ!」
ソードボンバーが犬のゾンビを粉砕し、辺りにすえた臭いをまき散らす。その様に、さしもの魔物もたじたじとなる。しかし、バランが名乗りを上げて挑むと、大黒柱程もある太い金属の棍棒を振り回し、バランに襲いかかった。
「うそ! ‥‥だろ‥‥」
明らかにバラン優勢。魔法の武器が効かぬ筈のカオスの魔物が、バランの胴締めを受けて悲鳴を上げた。そのまま壁に投げ飛ばし剣で殴りつけるバラン。すんでの所で敵はかわし、剣が壁に食い込んだ。そいつを引き抜くと、壁がボロボロ崩れてくる。倉庫内に嵐が召還されたように、バランの剣は、必死で逃げ回る魔物を外して柱を砕き、壁を穿つ。
「は! バランを止めろぉ!」
我に返ったアシュレーの叫びに、レオンとアルクトゥルスが飛び出す。事態を納めるためにギルスが救援を呼びに走る。放置すると壁が崩れる。つまり、魔物が外に出てくる可能性がある。
「開かずの倉庫でバラン殿が戦っている?!」
報を聞くや駆け出すエリーシャ。ヴェガもおっとり刀で後に続く。
「殿中で御座る」
と、言ったかどうか知らないが、瑠璃とレオンとアルクトゥルスが、必死で手足を押さえ、制止している場面に出くわした。
「離せアルクトゥルス。こいつは魔物じゃ。情け無用」
アシュレーは壁に身体を預けて鼻血を出して眠っている。
「お久しぶりじゃのう、バラン殿♪」
「お久し振りですバラン卿!」
「おお。おぬしらか」
ふりほどく手を止めて、ヴェガとエリーシャの方を見た。
「ご壮健なお姿を拝見出来た事を何より嬉しく思います。魔物退治だけならばお一人で充分でも、捜索のお役には立てましょう。卿の新たな勲に私達も加わらせて頂く御許しを頂けますか?」
恭しく礼を取るエリーシャに、漸くバランはおとなしくなった。
「逃がすか」
ネズミに変じて逃れようとした魔物を、目ざといレオンが足蹴にし、床に転がったところをアルクトゥルスの一撃がとどめを刺した。
「やれ。大した奴らだ。手柄を取られてしまったようだな」
バランは笑いながら力を抜く。
落ち着いたバランにヴェガが話をする。
「‥‥というわけで町の者達の為に魔物の発生の原因も排除せねばならぬのじゃ!」
「なんと、わしは危うく魔物の抜け道を作る所だったのか」
自得するバラン。改めて、バランの話を聞き、エリーシャは疑問をぶつけた。
「しかしそのご婦人は、その宝をどうするのでしょう‥‥?」
「うむ。だとすると考えねばならんな」
●制覇
バランを加えた一行は順調に教会内を掃除して行った。但し、そこいらの魔物やアンデットよりも、戦いに夢中になったバランを止める方が苦労した事を特記する。
「どうやら、土地の信仰を迷信と証明するために、精霊様の像を撤去する事にしたようですね」
記録を探っていた瑠璃は、進捗しない布教に業を煮やしたジ・アースのクレリックが、土地の信仰の対象である精霊の像を撤去することにした経緯を探り当てた。
「ここはジ・アースでは無い。土地の信仰にはそれなりの理由があった筈ぢゃ。撤去するにしてもよくよく調べた上でせぬと、大事に至るぞえ」
ヴェカはセーラ神に仕える者であるが、狂信者では無い。そして、アトランティスがジ・アースとは異なる理(ことわり)で成り立つ世界であると言うことも存じていた。
「ひょっとして、その石像を元に戻せば問題は解決するのかもね」
瑠璃は弓の手入れをしながら頷いた。
夕刻、来た試はメモを見ながら回想する。懺悔室に入った時などは、
「あ゛ぁぁぁぁ〜!」
いきなり女性の悲鳴。そして苦しげなうめき声。
ぱっとヴェガを中心に半円を描いて攻撃に備え、臨戦態勢で様子を伺って居たが、幸いそれ以外何事もなかった。アレはなんであったろうかと未だに思う。
その後もめぼしい場所を探しまくり、見つけたカオスの魔物を駆逐し、レオンも瑠璃もエリーシャも、もちろん天龍もアルクトゥルスも、吟遊詩人の題材になるような武勇を披露した。
そして、とうとう探索していない場所は一つとなった。
「鍵は掛かってませんが、これってなにかの封印見たいですね」
キルスは扉に貼られた薄い紙のような物を指す。上下二枚ある。
「誰か読めないか?」
天竜がライトを近づけ尋ねた。
「下の文字はウィルの文字ですね」
エリーシャが覗き込む。
「古めかしい言い回しです。かすれて読めませんが、『封ず』と言う単語が拾えます」
屈んだ試が何かを拾った。
「石?」
天竜のライトで照らすと、床に擦ったような跡がある。傷は比較的新しい。
「この中のようじゃな」
ヴェガが身構える。生命の紋章が光を帯び、いつのまにかヴェガの額にティアラが現れた。
「今までの奴は雑魚と言うことか‥‥」
緊張が走る。まよよと最後の探索に移る。
●魔物
位置からすると、古ぼけた倉庫。ここも外部から直接の出入り口はない。ドアに油を注し、ゆっくりと開ける。
「教会では食料庫として使っていたのでしょうか?」
藤咲の目の前に積まれた樽の山。半ば崩れ落ちた木箱などに隠れて、奥まったところに壇がある。その傍に引き倒された石像。
用心深く接近する藤咲とレオン。
「左の腕がもげている」
引き倒した時に破損したのだろう。辺りに割れて破片が散らばっている。壇には人が腰まで埋まる程の冥い穴が穿たれていた。
「これは何だ」
アルクトゥルスは染みのような人型が、壁に映っているのを発見した。
(「まるで写真のようだ」)
試は、ふっと嫌な歌を思い出す。中学時代に校内合唱コンクールで聞いた『消えた八月』と言う歌だ。
「わぁぁぁ!」
本能的に恐怖! 試はその場から外聞もなく飛び転げて離脱。煽りを食らってアルクトゥルスも転倒。と、次の瞬間。猛烈な閃光が放射され、試の居た辺りを通過。光を浴びた壁は熱を帯びて赤白く光を発している。
「流石、天界人だな」
壇の穴から巨大な手が覗く。掌には大きな一つ目。
「だが、いい所へ来た。よろこべ。おまえらは俺様の糧になるのだ」
肘の辺りまで出かかっているが、それ以上でれないようだ。
「カオスの魔物め! 正義の刃を受けよ!」
「バラン殿!」
真っ先に飛び出すバランを援護するようにエリーシャが出る。
幸い、例の光線は、いま直ぐには出せないらしい。しかし、びゅんと薙ぎ払う腕の強力なこと。一撃でバランが壁に叩きつけられる。それを見て、冒険者達は瞬時に悟った。
「みんなまともにぶつかるな!」
天龍が吼え、強力な、しかし大振りの強打を交わして飛び込み、ストライクEXの3連打。これには少しは堪えたようだが、次なる天龍の攻撃が全く効かない。
「くっ。こいつ、進化しやがる」
レオンが斬りつけるが、二の太刀以降にダメージを与えた手応えはない。
パンと掌で蠅を潰すように二人を押さえつける魔物。
『父よ! 邪なるものを降し給え!』
アルクトゥルスのブラックホーリー。痛みにもがく魔物にバランが体当たり。瑠璃のムラクモが小指を切り落とし、そしてその隙を突いて試と藤咲が二人を引きずり出した。傷ついた仲間の傍で、ギルスがホーリーフィールドの呪文を詠唱。だが、直ぐには成就しない。
魔物は掌を広げた。そこにある目の瞳が次第に小さくなって行く。
「させるかぁ!」
部屋に入らず初めからドアの影に潜み、待機していたアシュレーの矢が瞳に突き刺さった。次の瞬間、思わず握り込んだ指の先が、目から放たれた光線に消滅する。自らの武器でダメージを負った魔物が、物凄い悲鳴を上げてのたうち回る。辺りの物を跳ね飛ばし、頭を潰された毒蛇のように跳ね回る。
その時。ヴェガの生命の紋章が光り輝き。
(「今です!」)
頭に響く声は誰だろう? 若い男の声に聞こえる。ヴェガは声の命ずるままに、頭を真っ直ぐにカオスの魔物のほうに向け『貫け』念じた。
と、ティアラから光弾。魔物の身体に命中し、鋭い槍のようにその身を抉った。
(「今『破邪の光弾』で進化を封じました」)
「ふむ。なかなか役に立つ物じゃの」
(「皆さんにお知らせを」)
「今、進化を封じたのぢゃ!」
その声に、皆勇気百倍。元々手練の冒険者揃い。進化さえ封じられていれば時間の問題であった。見る間に膾にされて行く魔物こそ哀れ。勝ち鬨を上げるまで小一時も掛からなかった。
●徴
漸く魔物をどうにか出来たらしい冒険者達とバランが、ほっと一息つき、引き倒された石像を元の位置に鎮座した。
すると石像が瑠璃色に輝いて、幻影が現れた。
「ルル殿?」
ヴェガの目に映るその姿は、バルデェエ辺境伯の娘そっくりの人間であった。
アシュレーに向かって手を差し伸べる姿は、神々しいばかり。
誘われるままに手を伸ばしたアシュレーは光る何かを受け取った。
「時来るまで、あなたに預けます」
皆、その声を心で聴いた。
その後。さらに探索を続けた冒険者達は、瓦礫の中から豪華な聖書を発見した。どうもこの教会で布教しようとしていたクレリックの物らしい。特別魔法や呪いの形跡もなかったが、黄金色に光る挿し絵の見事さは、美術品としてかなりの価値が伺えた。
「これなら引き渡しても問題なさそうだね」
「偶然、外に出さぬ封印の役目をしていたようじゃが、その魔物も始末出来たようじゃしのぅ」
今となっては美術品としての価値しかない豪華な聖書は、バランの依頼人の手に渡しても大事なかろうと思われた。
約束の日。バランと依頼人のやり取りを影から見守る冒険者達。
「あら、無事とれたのね。何があったかは聞かないわ、興味ないもの。それより依頼の品、貰える?」
どうやら、彼女には金になるお宝と言う感じらしい。少なくとも表向きは。
受け取ってニコニコしながら彼女は。アシュレーの潜む茂みの前を通り過ぎるとき、ひとりごちった。
「あ、これ結構古いけど綺麗に読める部分があるわね‥‥専門のとこいけばいい値になりそうね」
微かな声だったので、はっきりとは聞き取れなかった。空耳かも知れない。