まさかの時の友〜ふしぎななぞなぞ
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月08日〜03月11日
リプレイ公開日:2006年03月14日
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●オープニング
ここは、とある貴族の館。
「注文の品を破損した、と言うのですね。ハーティス殿?」
「はい、申し訳ありません。お詫びのしようもありませんが、どうか‥‥」
貴婦人は頭を下げる商人を見つめ、ため息をつく。
「不慮の事故、とは聞いています。宝石そのものは無事だったということからしてもあまり事を荒立てたくはありませんが、楽しみにしておりましたのに‥‥」
「私どもにできることであれば、なんなりと全力で‥‥」
その言葉を聞いた彼女は、口元を隠した扇の下で小さく、悪戯っぽく微笑む。
そして‥‥言った。
「では、誠意を見せて頂けるかしら。壊れた首飾りの代りに『世界に二つとして同じ物が無く、私が今までこの目で見たことが無いもの』を見せなさい。それが私を満足させたのなら、謝罪を受け入れましょう」
「『この目で見たことの無い物?』でございますか?」
「そうです。『物』。天界人の持ち込んだ品々、を持って来ればよい、という簡単なものではありませんわよ。
私以外の人は見た事があってもかまいませんわ。私自身がこの目で見たことの無いものを見せて下さいな。
他者の手を借りたり、相談したりしても宜しいわ。もし、私をアッと言わせるものを持ってきてくださったら、ご褒美も差し上げましょう。正直、退屈しておりましたの。どのようなものを見せてくださるか。待っていますわ‥‥」
よろしいわね? 彼女はそう言って、応接間を後にした。楽しげな笑いに首を傾げる商人を残して‥‥。
「ねえ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。『世界に二つとして同じものは無く、この目で見たことが無い物』ってなんだと思う?」
少女ツキカはそんなことを口にした。冒険者に心を許し、時折遊びに来るようになったこの少女だが、今日は少し真剣な眼差しだ。
「この目で見たことが無い物? そりゃあ、人それぞれじゃないか? 天界人の世界なんか俺達には見たことは無いし、他所の国やその品物なんかは見た事が無いだろう? でも、この世に二つとして同じものが無いかどうかは‥‥難しいなあ」
う〜ん、と腕を組み悩む少女に係員は事情を聞き、暇な貴族の貴婦人の出した謎に、少女と共に首を捻った。
「おじさんはね。あの貴婦人様は悪戯好きだけど、無茶を言う人じゃない、って言ってた。だから、何かの謎かけじゃないかって」
「謎かけねえ? そもそも、その貴婦人が何を見た事が無いか、なんて誰に解るってんだ? 何を持って行っても『それは見たことあります』って言われたらそれまでだろう?」
「そうなんだよねえ。だから、なんだか解んなくなっちゃった‥‥」
買った福袋に入っていたという携帯電話をカチカチと弄びながらツキカはため息を付く。
「おじさん困ってるみたいだから、助けてあげたかったんだけど‥‥」
暗い表情の少女を見捨ててはおけず、係員は小さく笑って頭を撫でた。
「一応、依頼として出してやるよ。協力してもらえるかは別だけどな‥‥」
『世界に二つとして同じ者は無く、形はあるのに決して自分の目で見ることが出来ないものはなんだ?』
●リプレイ本文
●有閑貴婦人の宴
「ハーティス殿の紹介でいらしたというのは貴方達?」
応接室を訪れた貴婦人は、センスを口元に当てて来客達を見つめた。
目の前にいるのは九人と1匹。幼い少女から身の丈2mを超える大男まで。
一人一人ならともかく、一緒に現れることなどまず無い人物達に隠した口元を綻ばせているのが冒険者達にも解った。
いきなり大人数でやってきて気を悪くされたら、と心配だったが、どうやら迷惑がられてはいないようだ。
サリトリア・エリシオン(ea0479)はホッと胸を撫で下ろし、丁寧に礼をとった。
「貴婦人殿。お初にお目にかかる。この度、首飾りを守りきれなかったのは我々の不徳の致す所。どうかお許し願いたい」
「何故、貴方が謝る必要があるのです? ハーティス殿は自らの責任と申しておられましたのに」
「いえ、責任の一端は俺たちにもあ‥‥ります。雪崩で動けなくなったキャラバンの救出と荷物の回収を請け負ったのにそれを果たすことができなかったんですから。本当にごめんなさい!」
精一杯、言葉を選びながら音無響(eb4482)は貴婦人に向かって頭を下げる。
「此度我らは、ハーティス殿のお力になりたいと思って参った次第。首飾りを失った貴婦人様のお心を慰めるべく、どうか我らにお時間を頂けませんでしょうか?」
鎧騎士ラルフ・クルーガー(eb4363)の言葉に彼女は、あら、という表情を浮かべる。
「私がハーティス殿に出した問題がおわかり? それが解ったら、その物を持って来れたら謝罪を受け入れる、と申しましたわよ」
「謎解きは難しく‥‥今もって我々の答えが、正しい答えかどうかは解りません。ですが‥‥どうか」
頭を下げるイェーガー・ラタイン(ea6382)の横で
「ワン!」
励ますように犬が声を上げた。
「こら! 晴!」
主に注意され俯く愛犬の頭と首を、優しく撫でながら柾木崇(ea6145)は誠実な瞳で目の前の婦人をしっかりと見つめる。
「失礼しました。でも、こいつも我々と同じく、ハーティス殿と、貴婦人様、そして大切な友人の為に全力を尽くす所存ですので‥‥」
付け焼刃かもしれないが、ウィル流の礼儀作法で冒険者達は貴婦人に向けて言った。そして、彼らに守られるように座っていた少女も。
「ハーティス叔父さんの手助けを、したいんです。どうか、お願いします」
その眼差しと、思いに嘘は無い‥‥。
「よろしいでしょう。どちらにしても退屈していたところ。皆さんの答えとやらを見せていただきましょう」
「わあっ、ありがとうございます」
「いや、話の解るご婦人で助かったぜ。って言っても俺はまったく解んなかったから。でも、アッと言わせることには自信があるぜ!」
部屋の空気が瞬間、咲くように明るくなった。
それぞれに、考えてきたこと、準備してきたことがある。
さっそく、と動き始めようとした冒険者達。だがその前にぽぽん! と貴婦人の手が鳴った。
入ってくるのは召し使いたち。
「? うわっ、な、なんだい? 一体」
首を捻る神凪まぶい(eb4145)はいきなり手を掴まれて、引っ張られる。
「失礼を」
と、言われているが遠慮は無い。
「えっ? なんで??」
「その格好をどうにかしていただきましょう。男性方はまあ目を瞑るにしても、女性がちゃんとした格好をしないのは向き合う相手に対し失礼と言うものですわ」
「は、放せ〜〜」
「ちょっと待て、私もか?」
「あ? なんで俺も? 俺は!」
女性達+1が引き摺られていくのを、残された男達は唖然と、貴婦人はニッコリと微笑んで楽しそうに、見つめていた。
●一つずつの答え
絹摺れの音と床を打つ靴の音が冒険者達の為に貸し与えられ、設えられた広間に響いた。
「あ〜、あるきづれ〜〜っと!」
まぶいはイライラと口にしながら、服の裾を摘まんで歩く。
「確かに、動きづらい。このような靴や姿は戦闘向きではないな」
「でも、とってもキレイよ♪」
苦虫を噛み潰したようなサリトリアの横で、二人とは正反対に上機嫌の少女がドレスを翻す。
身支度を整えてきた辰木日向(eb4078)以外の女達は、召し使いたちの手によって正装に着替えさせられていた。
イブニングドレスにコルセット、ヘッドドレスにハイヒール。
ドレスをあれやこれやと着せられる様は
(「まるで、着せ替え人形のよう」)
と日向は思った。無論、口には出さなかったが。
「危なかった。俺まであんな格好させられるところだったのか〜」
「ご希望なら着ても宜しくてよ」
服を剥かれる寸前、男とバレて、もとい解ってもらえて着せ替え人形を免れた響はホッと息を付く。
もちろん、イェーガーと一緒に再入場してきた貴婦人のありがたい申し出には大きく首を横に振って。
「見違えましたよ。まぶいさん。サリトリアさん」
他意の無い無骨で、だが誠実な言葉でファング・ダイモス(ea7482)は褒める。
貴婦人に遊ばれていると解っているが、これ以上拗ねても仕方あるまい。
抵抗を諦め、まぶいは大きく息を吐き出して豪奢なドレスの手袋を外した。
待っているのは目の前の貴婦人。そして、仲間達。
「じゃあ、貴婦人様。始めさせてもらっていいかい? 残念ながら俺は謎かけの答えは解らなかった。だが、アンタみたいな人に喜んでもらいたいから、故郷の裏ワザをお見せするからさ」
鷹揚に頷く貴婦人にまぶいは用意してきたものを取り出した。卵と煤、そして木桶に入れられた水。
「ありふれたものなんだけどよ。こういうものでも不思議なことはできるんだぜ。そらよっ!」
一応借り物のドレスには付かないように気遣いながら卵に煤をなすりつけた後、まぶいはそっと、卵を水に浸した。
「ほう!」「へえっ」「わあっ!」
貴婦人のみならず仲間達からも感嘆の声が上がった。卵がまるで鏡の様な不思議な光を放っている。
「へへっ!」
言ってみればこれは水面の反射や屈折による特殊現象なのだがそれを今、説明する必要は余り無い。
目の前の現象が楽しいと思ってもらえれば、それだけで目的は達したのだから。
「なかなか面白い見ものでした。今後、何かの時に使えるかもしれませんわね」
お褒めの詞に光栄とまぶいは 自慢げに鼻を擦った。
指の煤が鼻について、慌ててハンカチで擦る羽目になるのだが。
「ですが、これは私が出した問題の答えではありません。答えを持っているのはどなたです?」
「あ、すみません。俺も答えじゃないかもしれません。でも友達の親友の、父上が困っていると聞いて俺も何か力になりたかったので」
「ともだち?」
自分を仰ぎ見る少女ツキカの頭を優しく撫でて、崇は前に進み出た。
「まぶいさんと同じように見世物に過ぎませんが、見て頂けますか?」
貴婦人は頷いて行動に許可を与える。
横には愛犬。大人しく指示を待つボーダーコリーがいた。
「晴! 伏せ! 待て!」
主の言葉を信じ、犬は床に伏すとじっと待っている。彫像のように動かない。
息を呑んで見守る観客の前で崇はゆっくりと距離を離した。数歩、数メートルも離れただろうか。
「よし、おいで!」
その命を待っていたように走り出す犬。犬の瞳を見つめ
「背中!」
指示と同時に崇はくるり背を向けた。犬の足は床を蹴り
ぺた!
上手に崇の背中に着地する。
「可愛い〜〜」
思わず日向が拍手した。丁度子供を背中におんぶする様な格好は微笑ましい。
「これが、僕の答えです」
友人の成史桐宮が言っていた。家族のような存在との絆。
(「二つとない、人の目では見えない、でも心の目には見えるもの」)
ぱちぱちぱち。
手が鳴った。貴婦人の手が。
「私の考えた正解ではありません。でも、一つの答えとして受け止めましょう」
その優しい眼差しに、崇と晴は丁寧に心からの感謝を込めてお辞儀をした。
●思い出の小箱
静かに、確かな手つきでサリトリアはお茶を入れる。
差し出したお茶請けは故郷の焼き菓子を、こちらの材料でできる限り再現したもの。日向やツキカ。野乃宮美凪の手も借り、慣れない調理場で作った割に菓子は綺麗に出来ていた。
イェーガーが出してくれた缶詰の中身と一緒に。
「なるほど、このようにして開けるのですが‥‥」
日向がナイフで応用する缶の開け方を教えてくれるまで解らなかった缶詰の中身はフルーツで、菓子に添えるには向いていた。甘い香りが鼻腔を擽る
「なかなか美しいですこと。ですが、これが答えですか?」
暗にこれは求めていたものではない、とその言葉は言っている。
間違っていたと解っていても、彼女は自分の気持ちを添えて菓子と茶を差し出す。
「私は答えが人の心である、と思いましたので、思いを形にする方法を考えたのです。下に敷いたクロスはそこの少女、ツキカが刺繍を致しました。誰かを思う気持ち。それが目では見えない、この世に二つと同じものがないものではないかと‥‥」
貴婦人は返事をせず、静かにカップに手を伸ばした。無言で茶を啜る。
コトン。
音がテーブルの上に鳴り、貴婦人はふと顔を上げた。
小さな蓋の開かれた箱が今、テーブルの上に置かれていた。
花のあしらわれた手作りの箱。だが冒険者達が作ったそれはお世辞にも見事な細工、とは言いがたい。
だから箱を見て貴婦人は厳しい目で問うた。
「これは、なんですの?」
「私達よりこの小箱を貴婦人様に。しかしこの小箱、実はまだ未完でして‥‥完成するまでの間一つ面白いお話をいたしましょう」
ラルフは貴婦人の前に膝をつき、冒険譚を語る。それはアトランティスの少女と、天界人の少女の友情物語。
「冒険者は、健気な少女の思いを何よりの報酬と思っていました。狼が襲い来る中でも、雪崩にあわや飲み込まれそうな時にも、いつも彼女の澄んだ心に励まされてきたのです。そして、人が人を思う心にも‥‥」
「ラルフさん‥‥」
ツキカが仰ぎ見るのは大きな背中。大きな手と背中は無言で彼女を抱きしめるようにさえ思えた。
「この小箱にあしらわれている花、スノードロップはその少女達の絆のだけではなく冒険者との絆をも作った良き縁を引き寄せてくれる花だと私は思っています」
立ち上がり、ラルフはツキカに笑いかける胸に手を当てて貴婦人を見た。そして、箱に目をやり大げさに笑う。
「いつの間にか完成していたようです。箱の中には自分の目で見ることが出来ない友情、絆や今回の楽しき一時など美しき物が詰まっております」
沈黙が場に広がった。彼女がどう答えるか。それが正解なのか。
‥‥長い、長い沈黙に場が凍り始める。その時
「俺の出す答え。それは俺自身です!」
響がきりりとした声で一歩、前へと進み出た。
「完全に初対面ですし、この世界に俺は俺一人だけ、世界がどんなに広くても、同じ絆、同じ出会いと人生を持っている人は二人といない、今ここに大切な友達のツキカちゃんやまぶいさんがいる、だから自信を持って言える‥‥こういう答えじゃ、駄目ですか?」
真っ直ぐな眼差し。陽の光のようなそれを受け止めて‥‥
「くすっ」
彼女は眩しそうに目を細めた。場を支配していた氷は笑顔一つで完全に砕かれる。
「あ、あの?」
冒険者達に貴婦人は手を軽く仰ぎ笑った。
「貴方たちの心根に免じてハーティス殿を困らせるのは止めに致します。首飾りは修復させますが賠償責任は問いません。それでよろしいわね?」
「いいんですか?」
響は目を瞬かせた。目の前には花の笑顔で笑う貴婦人がいる。
「そうですわね。まだ不安ならこの箱に、貴方方の冒険の話を詰めておいきなさい。私の退屈が少しでも紛れるように」
でないと、また無理難題を出してしまうかもしれませんわ。
と怖い事をあっさりと言う貴婦人に、では、とファングが故郷での話を始める。
いくつもの冒険をしてきた冒険者達には思い出は語りつくせぬほどある。冒険譚の無い天界人達にも彼女が知らぬ話は山ほどに。
夜まで、まだ間がある。
茶菓子とお茶の用意をしなおして彼らは暖かな一時を懐かしい思い出とそれを喜ぶ聞き手と共に過ごしたのだった。
●本当の正解
「ああ、やっぱ、俺にはああいうカッコは向いてないぜ」
まぶいは解放されたように腕を空に伸ばした。ドレスとコルセット、ハイヒールから解放されて身が軽い。
「しかし、あの貴婦人様も冗談が過ぎる。我らにまで‥‥」
あれを、言いかけてラルフの口元が緩んだ。思い出しただけで笑ってしまう。
『そのドレスは差し上げますわ。ああ、皆さんにも。普段着にして、必ず毎日着るように!』
彼女はまぶいやサリトリアだけでなく、全員にドレスを下賜しようとしたのだ。
そう、全員に。慌てて全員が統一見解で遠慮したがもし実現していたらどうなっていたのだろうか?
「ちょっと残念かも‥‥」
「母上にでも頼むと良い。いつか買って下さることもあるだろう」
サリトリアが唯一未練有りげなツキカを慰める。
(「お母さんと一緒か。いいなあ‥‥」)
言葉に出すのは無神経だと解っているから、言葉には出さない。ツキカの役に立てた事を嬉しく思いながらも日向は遠い、故郷に思いを馳せた。
笑顔の冒険者の中。一人離れ金の腕輪を弄ぶイェーガー。
『貴方が正解を出さなければ、許すつもりはありませんでしたわよ』
彼女はそう言って、帰り際、彼にこれを与えてくれたのだ。
(「答えは彼女のいや、人の顔ですか。自らがいつもどんな顔をしているか。人にどう思われ、見られているか、それを考えなさいという謎解きだったとは」)
もしエルリック・シャークマンの忠告が無かったら、ツキカに携帯電話の使い方を教わって写真を見せなかったらどうなっていたかと思うと背筋が冷える。
スノードロップの花を人に贈るには悪い意味があると聞いていたから、その代わりのつもりだったのだが‥‥。
「でも‥‥」
イェーガーは再会と依頼の成功を喜び合うツキカと仲間達を見ながら思った。貴婦人にも言った。
「俺にとってこの質問の正解は『縁』です。ツキカさんや貴婦人の方、そして仲間とのご縁が出来ました。大切にしたい、と思います」
「それも間違いではありませんわね」
彼女はそう言って笑ってくれたのだ。
人と人との出会い。そして縁。
この目で見ることのできず、世界に二つとして同じものが無いもの。
宝石よりも価値があり、何より大切にしたいと思うもの。
彼らはそれを気付かず、でも確かに手に入れていた。