【陽霊祭 表】光の下の笑顔

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月13日〜03月16日

リプレイ公開日:2006年03月20日

●オープニング

「良く働くね。あんた達。今日は上がっていい。‥‥そして、これはご褒美だよ」
「うわ〜っ。こんなに沢山。おかしも? いいの?」
「もう直ぐ陽霊祭だからね。みんなでお食べ」
「うん、ありがとう!」

 広場で竪琴を弾く吟遊詩人が一人。
 それを見つけて、子供達が駆けて来た。
「ジョーーイ!」
「おや? みんな元気にしていたかい?」
 弦を爪弾くその指を止め、彼はニッコリと微笑んだ。
「うん! みんな、仕事頑張ってるよ。‥‥ねえ、今日はカレン様は?」
「後で来ると思うけど‥‥どうしたんだい?」
「あのね。あのね。これ、貰ったのよ」
 問いかけられた言葉に子供達は、手に提げた籠と、その中身を子供達は嬉しそうに見せる。
 中には小さな焼き菓子や、干し果物などが詰められていた。
「そうか、もう直ぐ陽霊祭だからか‥‥。君たちが仕事を頑張ったからだよ」
「だって、カレン様や冒険者の人たちと約束したんだもん。それで‥‥ね。ジョーイ。お願いがあるの」
「お願い? なんだい?」
 彼は優しい笑顔で子供達の話を聞き、笑顔で何度も頷いた。

「招待状? なんだい、これ?」
 冒険者ギルドには似合わぬ文字で書かれた『依頼書』に係員は首を捻る。
「街の子供達が、冒険者の皆さんを、パーティに招待したいのだそうです」
 その表情に、心底楽しそうに笑いながら、吟遊詩人ジョーイは理由を説明し始めた。
 もう直ぐ、アトランティスは「陽霊祭」という祭節に入る。
 陽精霊の恵みを喜ぶ春祭りで、あちらこちらで冬の苦労を労い、春からの未来に向かう為のパーティが開かれるのだ。
 だが、それはある程度恵まれた者達に与えられた福音。
 日々を暮らすのに精一杯な者たちにとってはただの遠い世界の話だった。
 この依頼を出した子供達にもそれは同じことだが、今年は少し様子が異なる。
 かっぱらいや、スリ、盗みなどを働いていた子供達の一部に冒険者達が仕事のチャンスを与えたのだ。
 そして、その初めての報酬を‥‥親の無い子達は感謝を込めて冒険者に還したいのだと言った。
「お礼を言いたいと言われて、断りきれなくて‥‥」
 無論『あの時』の冒険者が来てくれるとは限らない、とは言ってある。
 だが、冒険者という存在は一種の特権階級であり、子供達には憧れの存在。
「いろいろなお話を聞かせて欲しい。一緒に遊んで欲しいのだそうですよ。僕もパーティの手伝いをします。憧れの存在との一時は、きっとあの子達の心の光になるはずですから‥‥」
 お願いします。そう言って、ジョーイは静かに頭を下げた。

 腕組みしながら、係員は考える。
 場所は小さな広場。そこに仕事が終る夕方頃から机や空き箱を持ってきて場所を作り、買い物をし、お菓子を持ち寄ってパーティをするという。
 所詮、下町のしかも子供達のパーティだ。
 大した料理が出るわけでもなく、何か得することがあるわけでもない。
 まあ、唯一あるとすればあの吟遊詩人の歌が聞けることくらいだろうか?
「う〜ん。制限無し、動物も連れて来ていい。‥‥か。子供好き向きかな。さて、応じてくれる人はいるかねえ〜」

 闇に生きる子供達の多くは、まともな教育も与えられず、働く場も無い。
 食べるために悪事に手を染め、結果余計に蔑まれる。
 悪循環は誰かが食い止めるまで続く。

 やっと光の下に出てきた彼らの為に、ちょっと変わった依頼ではあるが、係員はそれを掲示板に貼り出した。

●今回の参加者

 ea2262 アイネイス・フルーレ(22歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9378 柳 麗娟(35歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb3442 ウルリカ・ルナルシフォル(20歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4278 黒峰 燐(30歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4312 シド・レイズ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)/ 天 紅狼(eb3417)/ イシュカ・エアシールド(eb3839)/ 音無 響(eb4482

●リプレイ本文

●春の訪れ
 陽霊祭はその名の示すとおり、陽の精霊を称える祭りである。長い冬の精霊達の時が終わり、待ち望んだ春がやってくる。人々は花々を飾り、貯めていた食料を使いご馳走を用意してパーティをするのだ。これからに期待と夢を持って。

 今年は寒さが長引いていた。それでも春は生まれる。小さな花束を手に考え込む声。
「あまり、沢山は咲いていませんわね。でも少しは‥‥あったかしら」
「アイネさん、俺の家の庭も見てきます‥‥あっ、エデンさんも参加されるんですね。じゃあ、庭のお花少し分けて下さい」
「咲いているのならどうぞ。すみません。わたくしはちょっと取り込んでいまして‥‥あつっ!」
 小さな悲鳴をあげエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)は人差し指を口元に運んだ。大丈夫ですか? と音無響が覗き込む。
「何を作っておいでですの?!」
 籠を手に提げてアイネイス・フルーレ(ea2262)もエデンの手元を覗き込んだ。数日前から何やらやっているようだが何をしているのか。
「ええ、まあ。安物以前の話ですがね、これでなんとか‥‥」
「用意はいいかの? そろそろ参ろうぞ」
 ひらりとウルリカ・ルナルシフォル(eb3442)の羽が優しい風を送る。
「あ、すみません。皆さん、もう行っているのでしょう。エデンさん、急ぎましょう。そして‥‥」
「‥‥解ってる。じゃあ、俺もあっちに行く。そっちは任せたからね!」
 手の中の花をアイネイスに押し付けて彼は走り去っていく。
「お嬢様も気をつけて! さて、任された以上は気をつけないといけませんね」
 アイネイスとは違う籠を手に提げてエデンはウインクする。白い布を入れた籠と花の籠。
 春の色を下げて彼らは歩き出した。

「今回はお招きありがとう。元気してた?」
 全開の笑顔で黒峰燐(eb4278)が笑いかけると、
「おねえちゃんだ♪ お兄ちゃんもいる! 来てくれたんだ〜」
「勿論。友達だもんね、ってうわっ♪ ‥‥うん、皆、元気そうで良かった良かった」
 燐の腰元に子供達が抱きついてくる。皆、笑顔だ。
「あのね、僕、ジョーイに教わってさ笛練習してるんだ。少し上手くなったよ。後で聞いて!」
「それは楽しみですね。後でぜひ。ああ、私の事はシドでいいですよ。君の名前は? ルイスですか? 良い名ですね」
 小さな荷物を抱えてシド・レイズ(eb4312)も笑みを向ける。
「時々ね、歌も歌ってるよ。覚えたの!」
「じゃあ、あとで一緒に歌おっか!」
「うん! お姉ちゃん、こっちこっち! 私の隣来て!」
 と頷いて手を奪うように引き合う子供達に冒険者達は素直に手を引かれていった。
「シドお兄ちゃんはこっちね」
「あ、僕の隣だってばあ〜」
 軽い諍い。
「おい、まだ準備できてないだ‥‥ろ‥‥!」
 それを諌めに来たはずの少年は、目の前に無言で現れた存在に思わず言葉を失っていた。
「うわあ、でっけえ〜」」
 間近で見るのは始めての子が多いだろう。鍛え上げられた馬達が、ふるん! と尻尾を振って並んでいる。
「こっちは俺の馬。名前はテンペスターって言うんだ。乗ってみたいか?」
 瞬きもせずに馬を見つめる少年の前に膝を折り、アッシュ・クライン(ea3102)は顔を覗き込んだ。
「乗っていいの? うん!」
「俺も!」「僕も!」
 勿論、上げられる手を指差し数えながらアッシュは笑いかけた。
「その前に、準備をしてしまおう。日が沈んでしまう。冒険者の皆さんはちゃんといてくれるから」
「ジョーイ!」
 少年達は振り返り、頷くがどこか、寂しげな目で冒険者達を仰ぎ見る。
「ホントに?」
「ああ。おっと、これは土産だ。こいつにいつまでも乗せとけないから飾ってくれないか?」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)も馬から花を降ろして差し出す。小さな手が受取って走っていく。
「今日はお招きありがとう。あとでアグロとも遊んでやって下さい」
「本日はお招き戴き感謝する」
 微笑みかけるイコン・シュターライゼン(ea7891)の後ろでソード・エアシールド(eb3838)は小さく目配せする。
「沙羅沙。あと少し、頼みまする。すまぬが‥‥この荷物を降ろし運ぶのを手伝ってはくれまいか?」
 柔らかい柳麗娟(ea9378)の笑みには〜い、と子供達の明るい返事が答える。
 固い感触にこれはなんだろうと首を捻りながら小さな手に抱きかかえるように荷物を運ぶ。
「こっちの用意はそろそろいいよ〜」
 手招きする少年の横で、若い吟遊詩人がニッコリと微笑む。
 オレンジ色に薄れ変わりかけた陽の光の中、ウィルの陽霊祭の中、もっとも小さなパーティが始まろうとしていた。

●小さな願い 
 テーブルの上には花が飾られ、いくつかの料理が並んでいた。
「私のね、勤めているお店の奥さんが作ってくれたの」
 少女は小さな焼き菓子を小さな手で差し出した。麗娟はそれを一つだけ受け取り、口に入れると後の皿は優しく押し返した。
「ありがとう、後は貴方達が召し上がりなさい。後は、働けぬ小さな子達に‥‥」
「でも‥‥」
 クルルと音が鳴る。音に顔を赤らめる少女の頭を優しく撫でて抱きしめた。別の方向では果汁のカップを片手に子供達が冒険者を取り囲んでいる。
 オラースのオーグラ退治の話が終って、今はイコンとアイネイスがほんの少し前に出会った依頼の話を聞かせていた。
「それは雪の降る季節、小さな村から頼まれた、不思議なフシギな調べ事‥‥」
 ドキドキの冒険劇とは違う、ひょっとしたら自分も出会えるかもしれない精霊の話に子供達の表情は真剣そのものだ。
 身動き一つさえしない。
「そうして、精霊であるノース君は友達に言ったそうです。もう、来ちゃいけない‥‥と。彼の周囲には信じられないほどのゴブリンがいて‥‥」
「それから?」
 話は進み、やがて子供達は啜り泣きを始めた。
 村を守って力を使い果たした不思議な精霊はその姿を消した。大好きな友達に別れを告げて‥‥。
「ノース君は死んじゃったの?」
 冒険者の膝で話を聞いていた少女は目元に水を一杯貯めている。それを白いハンカチで拭きながらエデンは首を横に振った。
「そんなことは、無いと思いますよ」
「ええ。彼は、きっと自分の世界に帰っただけ。またいつか出会うことが出来るでしょう。それは、ひょっとしたら‥‥」
 この街でかもしれない。子供達の期待を膨らませるようにイコンは物語を閉じるとアイネイスに目配せした。
 こくんと頷き、アイネイスはリュートを持ち上げる。
「さあ皆さん、精霊達が羨むぐらいに歌って踊って楽しみましょう!」
「じゃあさ、アイネイスさん。こんな歌弾けるかな?」
 以前、子供達に教えた歌を燐はハミングで口ずさんだ。
「あ、それ覚えてる。こういうの〜」
 笛を握り締めたルイスが音を合わせる。まだ拙いがはっきりとした音が伝わり、アイネイスは耳と頭で確認する。
「できると‥‥思いますわ。良ければジョーイさんもご一緒に」
「喜んで」
 子供達がぐるりと冒険者を取り囲んで輪になった。真ん中に立つのは燐とアイネイス。
 その傍らにジョーイと少年ルイスが座る。アイネイスの驢馬に腰をかけていたウルリカは、音合わせの音楽に合わせてもうリズムを取りながら飛んでいた。
(「なんだか、映画かなにかみたいだなあ」)
 燐は小さく微笑んだ。その映画では子供達に教師が歌を教えていたのだ。歌によって心閉ざしていた子供達が笑顔になる。そんな懐かしい風景が目の裏に浮かぶ。
「じゃあ、歌おう。1、2、3。はい!」
 指をタクトのようにして燐は声をかけた。子供達の澄んだ歌声が薄紫に染まりかけた空に響いていく。夢のような幸せの光景を、冒険者達は暫し安らかな気持ちで、見つめていた。

 陽精霊が月精霊と場を交換して暫し、まだ広場には子供達の笑顔と歓声が消えずに残っていた。冒険者達が貸し出してくれたカンテラの灯りが照らす。
「お兄ちゃん、こわ! こわいよ。馬のせがたかい〜」
「大丈夫、テンペスターは落としたりしない。ゆっくり、じっくり手綱を引くんだ」
 おっかなびっくりの少年はアッシュに付き添われながら馬にゆっくりと揺られている。最初は本当に恐れていた馬も、段々にそのぬくもりが伝わってきて大好きになる。その頃を見計らってアッシュは声をかけた。
「大きくなったら何になりたい?」
「鎧騎士!」
 子供らしい素直な返答にアッシュも笑顔で頷いた。だから
「‥‥どうせ、無理だろうけどさ」
 その直後堕ちるような暗い囁きにピタリと動きを止めて反応する。
「どうして、そんなことを?」
「だって、俺なんて親から捨てられたみなしごだし、貴族じゃないし、鎧騎士になるなんて絶対無理だから‥‥」
 ! ふと馬が止まった。どうしたんだろうと下を向く少年を、強い手と意思が馬から引き降ろす。
「そんなことを言うんじゃない!」
「えっ?」
「なんて、とかだから、なんて言葉で自分の未来を自分で限定するな。本気でやろうと思ってできないことなんか無いんだから」
 自分を真っ直ぐに見つめる青い瞳に少年は言葉を失っていた。
「自分が良い位置にいないと思うなら、そうなる者を、自分と同じような立場の者を少しでも減らしてやるように努力するんだ。お前達にはきっとそれができる!」
「‥‥僕にもできるのかな?」
「お前が望むなら、きっと」
 肩に触れた手は大きく、暖かく、少年は黙って頷いていた。

●夢の調べ
 麗娟が差し出したのは見たことも無い道具で、
「なんだろう?」
 と、子供達は最初首を捻っていた。それを見通すように麗娟は
「これは、こうして使うものなのじゃ。要は文字や絵を描く道具。ほれ、やってみるがよい」
 道具の取り合いけんかにならないように、順番に。諌め、見守りながら子供達に道具を手渡した。
 筆と墨と硯。墨を水で磨ると黒い墨汁になる。墨汁をたっぷり含んだ筆で、布や木の板になぐり描きだが子供達の絵が踊り出した。
「絵は楽しんで描くことが大事ゆえ、大好きなものを描くと良かろう。人の顔とかのお」
 ガレット・ヴィルルノワも用意を手伝ってくれた道具は子供達を、夢中にさせている。
 他にも、真剣に騎士に教えを請う者、踊りを一緒に踊る者、異国の音楽に胸を振るわせる者。
 幸せそうな笑顔がそこに広がっていた。
「あ、カレンさん、何時の間に戻ってきてたの?」
 一番最初にその視線に気付いた燐は慌てて立ち上がって駆け寄った。
「先ほど。‥‥向こうの冒険者達が促してくれたので。任せておけると思えたので‥‥ですが‥‥」
 ほんの少し、背けられた金の女騎士の顔に燐はあは、と笑って手を閃かせた。
 彼女が見ているのは自分の隣にいた吟遊詩人。
「心配しないで。僕はジョーイさんに故郷の話をして、歌を聞かせてただけ。それが、ジョーイさんのステップアップにならないかな? と思ってさ」
「えっ?」
 今のカレンは力強い女騎士ではなく、恋人を案じる一人の女性に見える。そして頷いたジョーイは細い腕の吟遊詩人でありながら、女性を守る騎士の強さを持って彼女を見つめていた。
 音楽で、地位を目指そうとは思わないと、語ったジョーイの言葉を燐は思い出して苦笑する。ただ、新しい知識、新しい歌、新しい音楽は学びたい。愛しい子供達と、愛する人の為に‥‥。
「おっと、お邪魔か?」
 見詰め合う二人からそっと燐は離れて空を仰いだ。
 愛する人ができたからこそ、今、良く解る思い。
「ごめんね‥‥。でも、今はこっちに来たかったんだ。あの子達の為にも、あの二人の為にも‥‥」
 心からの思いを空に向けて彼女は呟いた。
「二人で幸せになって欲しいもの‥‥」

 周囲を奔る黒い影。だが冒険者以外がそれに気付くことなくパーティは無事終了した。
「これ‥‥貰っていいの?」
 子供が息を呑んで手の中を見つめている。ほんのりといい香りがする白のハンカチーフ。その上に乗っている指輪。
 こんな綺麗なものは初めてだと、誰もが目を離せない。
「あまり上手ではありませんがね‥‥。貰って頂けますか?」
 エデンは言いながら頭を掻いた。子供達の名前を刺繍した布だが、それがどれほど嬉しいか子供達の顔が答えてくれた。
 それでお礼は十分。
 同じ思いを抱きシドも微笑んで告げる。
「貴方達に精霊のご加護がありますように。私とお揃いです。私から大切な友達への贈り物。何かあったら私を頼って下さい」
 指輪を握り締めて、ルイスは子供達は顔を上げた。
「ありがとう」  
 ♪〜♪〜〜♪〜。
 ふと、優しい音色が紡がれた。ジョーイのリュートの音色だ。
 耳なじみの無いメロディ。だがどこか懐かしいような調べに冒険者達は目を閉じた。
「これは‥‥古謡ですね。陽霊祭の、太陽の精霊を称える歌」
 シドの声とほぼ同時、ほんの数小節遅れてルイスの笛と、子供達の歌声が唱和する。
 これは子供達からの感謝の気持ち。だから冒険者達は‥‥表で子供達を見つめる者も、路地裏で見守る者もその音楽を、報酬をしっかりと心に刻み、受取っていた。

●おみやげ
「資金調達と‥‥一般人への配慮、公平性。それに権力者への根回し‥‥か。難しいのかのお〜」
 パーティの片づけを終え、子供達を送り、深夜の月精霊達と踊りながらウルリカは息を、ため息を、吐き出した。子供達の為に学校を、という冒険者達の提案にカレンは素直に首を縦には振ってはくれなかった。
「確かにな。ウィルの街に孤児はあの子達だけではない。あの子達だけなら棲家で教えるという手もあろうがそうすれば‥‥」
 イシュカ・エアシールドが受け知らせてくれた依頼のように、その不公平をやっかむものが必ず出てくるであろう。それは冒険者達にも予想はできた。
「諦めたくはないものじゃ。今後の課題かのお〜」
 手の中の焼き菓子を弄びながら麗娟は呟く。冒険者にせめてのお土産に、と子供達がくれたそれがお土産だった。
「ノワール、ペンドラゴン、ゼシュカ、リンブドルム‥‥さて、どうしたもんかな?」
 子供達が馬に考えてくれた名前を復唱しながらオラースは微笑む。この依頼で、冒険者達が手にした形あるものはこの菓子一つだけ。
 でも、それを不満に思う気持ちは冒険者達の、どこにも誰にも見つからない‥‥。

 パーティに贈った花の香りが今も、鼻腔を擽るような、そんな気がすると冒険者の誰かは思ったという。
 
 彼らの頭上を春風が静かに流れ、消えていった。