【陽霊祭 裏】闇よりも暗い瞳
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■ショートシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月14日〜03月17日
リプレイ公開日:2006年03月20日
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●オープニング
「そうですか。子供達、しっかりやっていますか」
「ええ、頑張っていますよ。ただ‥‥ね」
金の女騎士は僅かに下がった声のイントネーションを見逃しはしなかった。
「どうなさったのですか? 何か心配事でも?」
「‥‥実は‥‥」
店主は声を潜め、密やかな心配事を彼女に告げる‥‥。
開かれた扉、入ってきた人物。ギルドでは珍しくない光景だが
「おや、あんたは‥‥」
係員は少し、驚いた声を上げた。
「お久しぶりです。その節はお世話になりました」
王宮勤めの金の鎧騎士、カレン。
「さっき、あんたのいい人が依頼を出して行ったぜ、子供達と陽霊祭のパーティを開くとか行ったが、あんたは行かないのか?」
いい人、の表現に顔を赤らめることも無く、彼女は考え込むと決心したように告げる。
「そうですか‥‥。いえ、実はそれに関連するようなことなのですが‥‥子供達の護衛をお願いしたいのです」
「子供達の‥‥護衛? 護衛ってあの子達はスラムの孤児だろう? 一体‥‥」
誰が狙うって言うんだ。と続けられた言葉に、彼女は事情を説明する。
「最近、子供達の雇い主から気になる事を聞きました。真面目に働き始めた子供達をやっかむ青年や大人達がいる、と」
明確にまだ、何かしてくる訳ではない。
だが、働いている子供達に野次をかけてきたり、配達の邪魔をしたりすることがあるらしい。
『まじめぶってよ〜』『こんなことなら俺にもできるぜ。ガキの使いだよな』
それくらいならまだいいのだが、子供達の得た報酬を狙って手を出すこともあるようなのだ。
だから、報酬を品物で渡したりと雇い主達もいろいろ気を配っている。
「そこに陽霊祭のパーティです。子供達にしてみれば、久しぶりの気晴らし。憧れの冒険者を呼んで、と言うことなのでしょうがそれを目障りに思うものもいるらしく‥‥」
彼女は言葉を濁したが、先の依頼で冒険者に痛い目に合わされたゴロツキたちがリベンジを狙っているという噂もあった。
だが、冒険者とゴロツキの腕の違いは明らか。ならば冒険者をも呼ぶ子供達のパーティで彼らが狙うとしたら‥‥。
「まあ、私のカンに過ぎないのですが‥‥。パーティの方はジョーイに任せて私は子供達の護衛に入ろうと思っています。協力して頂けませんか?」
起きないかもしれない襲撃に向けた護衛。
勿論、何も起きないに越したことは無いが、おそらく確実におきるだろう。
それはこの街を警備の対象として持つ、城勤めの騎士の経験に裏づけされた「カン」なのだから。
報酬はカレンが出すというが、子供達との陽霊祭と違いこちらは完全に裏方となる。
華々しい光が当たることは無く、子供達から感謝されることもあるまい。
‥‥知らせることは彼らの笑顔を曇らせることになるのだから。
それでも、あえてこの道を選び、協力を求めてきた女騎士。
彼女の心栄えと同じように、その髪は輝いていた。
●リプレイ本文
●祭りの始まりの裏側で
陽霊祭はその名の示すとおり、陽の精霊を称える祭りである。長い冬の精霊達の時が終わり、待ち望んだ春がやってくる。人々は花々を飾り、貯めていた食料を使いご馳走を用意してパーティをする。だから、この時期、良く大きな荷物を抱えた人々とすれ違う。
「いよいよ今日だよね〜。冒険者のお兄ちゃんやお姉ちゃん来てくれるかなあ? ‥‥あっ!」
ドン!
ほぼ体当たりにも似た衝撃は小さな少女とその荷物を簡単に地面にばら撒いた。そして‥‥。
「おっと、悪いな。踏んづけちまった!」
ニタニタとした嫌な笑みを浮かべた男は落ちた袋の前に差し出された手を踏みつける。
「あ‥‥、あの‥‥」
泣き出しそうな少女の訴えは男の加虐性に火をつけるだけ。いつまでもどけられない足はもう一度力を入れられる。少女が顔を顰め目を閉じた瞬間。
「子供相手に何をなさっているのですか?」
「うわああっ!」
悲鳴と共に上を向いた。同時に男の背中は地面へと。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
若い騎士は少女に手を差し伸べ、立たせると落ちた荷物を袋へと戻した。はい、と差し出して微笑む。
「お気をつけて‥‥」
「ありがとうございます」
少女が逃げるように立ち去ったのとほぼ同時に男は顔を顰め立ち上がる。
「いてててっ! 何しやがるんだ!」
「子供を苛める大人はカッコ悪いですよ。なんならお相手しますが?」
「くそっ! 覚えてろ!」
ニコッと微笑む騎士に、舌打ちと捨て台詞を残して男は去っていく。騎士はその背中を見つめながら後ろを振り向いた。交差した青い瞳が頷き、動くのを確かめて、彼、クウェル・グッドウェザー(ea0447)は護衛を続ける。路地の向こうには仲間の姿が見える。
ショウゴ・クレナイ(ea8247)とファング・ダイモス(ea7482)。
「あ〜、怖かった。でも、カッコよかったなあ。あのお兄ちゃん。あの人も冒険者だったりして♪ あ、早く行かなくっちゃ!」
屈強の戦士達に守られているとは知らず、子供達は路地を歩く。期待に夢を膨らませて‥‥。
会場になるはずの広場にまだ子供達の姿は無い。だが声は聞こえてくる。
「‥‥と、言うわけです。私達は裏に徹します。だから‥‥」
「任せておけ。あいつのことを思い出せば、放ってもおけないしな」
「お願いします」
振り返り、軽く背中で微笑む友をイシュカ・エアシールド(eb3839)は愛犬と共に見送った。
初春、まだウィルの街に咲く花は少ない。
「あまり、沢山は咲いていませんわね。でも少しは‥‥あったかしら」
「俺の家の庭も見てきます‥‥。少しでも、楽しんで欲しいよね」
小走りに戻ってきた音無響(eb4482)の腕には小さな、でも優しい色合いの花々が抱きしめられている。
「はい! これは俺からね。子供達によろしく!」
差し出された花束を受取った青年はお嬢様‥‥。と響を見つめる。何かを託すような眼差し。
「‥‥解ってる。じゃあ、俺もあっちに行く。そっちは任せたからね!」
それをしっかりと受け止めて彼は走って行った。
「大丈夫、みんなの背中や、子供達の夢は俺達が絶対護るから!」
笑顔と誓いを花の香りのように微かに残して。
●思い達の裏側
「彼ら‥‥なのかな?」
「そのようだ。やれやれ‥‥」
声を潜め、気配を隠し高村綺羅(ea5694)とアリオス・エルスリード(ea0439)は『彼ら』を見つめた。
ここ数日綺羅は仲間達と酒場や、路地裏でいろいろ調べていた。調べるにつれ子供達のパーティを狙うゴロツキがいるのではないか。という依頼人の予感はどうやら正しいようだと解る。
鎧騎士のティラ・アスヴォルト(eb4561)バルザー・グレイなどが集めてくれた表の情報と裏の情報が同じ方向を指し示し始めた時
「酒場でさ、‥‥後ろ向き極まりない愚痴をたらしてる奴らがいたぜ」
と神凪まぶい(eb4145)が教えてくれたのだ。
そして、様子を見ていたら、アリオスとのはちあわせである。
「ああいう解りやすい連中が、相手なら問題はないのだがな」
今、彼らの視線の先にいるのは裏道に足を入れかけているものの、普通の青年達。仕事が無く、またやろうという気持も無い。そのくせ子供達が働いているが気に喰わない。パーティをするなんて生意気だ〜と公言して憚らずあげくの果てに衆人環視の目の有る酒場で声は潜めたとはいえ、悪事の相談だ。
「計画も穴だらけだし、コースも解っている。そう心配することはなさそうだな」
肩をすくめアリオスは笑う。人数は10人前後。そう多くは無いし腕も大したことは無い。
あの程度なら‥‥。
「‥‥だけど、どうもそれだけじゃなさそうだね」
「ん?」
瞬きするアリオスの目前に綺羅は指を指し示す。
「あいつらは‥‥」
子供達はあれ? と首を傾げて今、すれ違った人物を見た。
「この辺、いつもあんまり人いないのに、ここ数日良く人を見かけるよなあ〜」
「そんなこといいから早く準備しよう」
「そうだね。ほら、これ。そっち持って!」
子供達の会話を耳で確かめてまぶいは、微かに笑みを浮かべ、横を通り過ぎた。いよいよ子供達の準備が始まったのだ。
「会場そのものに何か仕掛けられている、とかは無いようですね」
ライラック・ラウドラークや屠遠と手分けしてここ数日会場の安全を調べた。危険なものが仕掛けられている様子は無さそうだ。クウェルはホッと安堵しながらも気持を引き締めるように背筋を伸ばす。
「ジーンさん、そちらはどうでしたか?」
「特に問題はなさそうだな。家のほうにも特に危ないものは無さそうだ」
ジーン・グレイ(ea4844)は腕組みしながら報告をする。それを聞きながらファングはほんの少し唇を噛んだ。
殆どの子供達の家は、家と呼べるものではなかったのだ。穴倉の中だったり、橋の下だったり、軒下だったり。仕事振りを認められて仕事先に住み込ませてもらっている子もいたが、そんなのは本当に幸運な子だけ。何も持たないが故に、荒らされる心配も、盗まれる心配も無い。
だがウィルの街の貧困と、子供達の苦労を実際に目の当たりにすると、少し胸が詰まった。
「長い暗闇の中ようやく光を浴びたのに、影を挿そうするなどとても見過せ無い。やっと手に入れた少しの幸運を理由に危害を加えるなど許せん!」
「そうだよ! 子供の夢を奪う罪は最も重いと昔々のヒーロー様も言っておられるし!」
「ヒーローって?」
首を傾げるまぶいに冗談だと手を振りながらも視線は真剣そのものだ。
「それで、やはり奴らは襲ってきそうなのかしら?」
「ああ、若い奴らがそんな話と準備をしているのを確認してきた。後は‥‥確証はまだ無いがな」
アリオスの言葉にそう、とカレンは俯く。外れて欲しいと思っていたが仕方ないのか‥‥。
「犯人達は押さえてもいいのか?」
「ええ、その点についてはお任せするわ。多少の騒ぎになっても私が責任を持ちますから」
捕らえるにしても倒すにしても、処理は彼女が受け持つとカレンは確約してくれたのだ。
「あ!」
楽しそうな笑い声と乾杯の声。そして歌声が聞こえてくる。
「パーティが始まったみたいだね。じゃあ、カレンさんは向こうに行って!」
「えっ?」
首を傾げるカレンに綺羅はニッコリと微笑む。
「貴方は吟遊詩人さんの守りについて。綺羅達は子供を守るので手一杯。彼を守るのは貴方しかしないから」
冒険者に依頼した以上、今回は彼らと共にサポートに徹するつもりだったのだが‥‥。見回すと、頷いてくれる顔、微笑んでくれる瞳。
「解ったわ。では、お願いします‥‥」
「任せときなって!」
親指を立てたまぶいはニカッと笑う。彼女は静かに、騎士の最敬礼を取って冒険者にお辞儀を返した。
●届かない思い、届く思い
「くそっ! どうしてこんな奴らがいるんだよ!」
毒づかれる言葉など意にも関せず、ジーンは足元の青年を見下げた。男達の襲撃があったのは、日の光が消えかけた紫の時。闇に紛れる気だったのだろうが、その手が握った剣を振るう暇は殆ど存在しなかった。
周囲の状況を理解し、把握しやってくるであろう敵を待ちうけていた冒険者達の前に、殆どの青年達が簡単に地面に膝を付くこととなる。
「おぅおぅ、たとえ陽霊とやらが許しても俺達冒険者は許しゃしねーんだぜぃ。これ以上痛い目に会いたくなきゃさっさと降参しやがれ、このスットコドッコイどもが!!!」
地面と苦渋を舐めさせられた男達は冒険者とはいえ女の言葉に悔しげに唇を噛む。
「どうして‥‥あいつらだけ助け手が現れるんだよ。俺達だって‥‥チャンスさえあれば‥‥」
「ばっかじゃない! 他人を羨むばっかりであんた達は一体何をしてるんだよ! 辛いのはお前達だけじゃないんだ‥‥俺なんて、俺なんて大学受験だったんだから!」
大学受験? 未知の言葉には首を捻るが、響の自分自身の不安や思いをぶちまけるその思いは、青年達を沈黙させる。
「世界は不公平と、理不尽と叫ぶのは勝手ですが、しかし、今の道を選んだのは誰で無く己自身。生きるために仕方ないと、時代が悪いのだと誰かのせいにして自分を正当化させて、それで何かが変わるのですか?」
ショウゴの言葉に静まり返った路地に‥‥笑い声が響いた。
「バ〜カ! 好き勝手して、やりたいことをやる。思いのままに面白いことができるんじゃねえかよ? 世の中不公平ならとことん不公平にしてやるだけさ!」
「しまった!」
一人、二人、三人。三人の男達が冒険者と青年達の横を走り抜けていく。
「彼らは!」
見覚えのある顔を見つけ、イシュカは舌を打った。カレンに恨みを持つゴロツキ。
このままでは‥‥路地の向こうの子供達のところへ! 止めないと!
「?」
全速力で走り出そうとしていた冒険者達は足を止めた。ぱさりという微かな音。そして‥‥
「なんだよ! これ」
「は、放しやがれ!」
もがくゴロツキたちの横に屋根からスタッと影が降りた。
「アリオスさん‥‥」
「こういう惨めな姿になりたいのか? お前達。まだやり直せるかもしれないんだぞ」
こういう、と後ろ手に指差して網の中のゴロツキを青年達に指し示す、
「あなたがしようとしたことはどのような理由をつけようともただの八つ当たりです。本来ならば護らねばならぬ小さな子供達を‥‥恥かしいことですよ」
ナイフで網を破ろうとしている。気付いたファングは慌てて駆け寄り、クウェルとジーンの魔法も紡がれる。
「この豪腕、とくと覚えろ!」
拳骨で頭を叩いた。クルルと目を回し気絶する男達。その横にも累々たる屍の如き物体があった。
「よいしょ」
声をあげアリオスが網の上、ひいては男達の上に腰を下ろす。バックパックから発泡酒を取り出し封を開ける。
「こうなりたくなければ、思うところがあるのなら、今日は陽霊祭だ。大目に見てやろう」
差し出された酒に青年達の手が伸びかけて、止まる。彼らが見ているのは、シッと口元に立てられた綺羅の指。
「静かに! 耳を済ませて!」
「えっ?」
言われるままに声を潜めて耳を済ませる。路地を渡る春風がその場の者達にあるものを伝えた。
「歌? 子供達の?」
優しい音色が紡がれている。リュートの音色に笛と、歌声。耳なじみの無いメロディ。だがどこか懐かしいような調べに冒険者達は目を閉じた。
「これは‥‥古謡だ。陽霊祭の、太陽の精霊を称える歌」
特別な歌ではない。ただ、きっとこれは子供達からの感謝の気持なのだ。そして、メッセージ。
ティラは思いながら青年達を見た。惑うような視線。だが瞳は最初の冬の氷のような全てを拒絶した目から変わっている。
「誰もが選択を誤る時がある。だが、それはやり直す事ができる。誤る事を恥じるより、そこから何かを学ぶ事を憶えてほしい」
ショウゴは知るまいがこの歌の意味はそうなのだ。
陽の光はいつも、どんな時にも側にある。この世に繰り返される営みはいつも我らを認め教えていると。だから、いつも空に顔を向けて。と。
子供達の幸せそうな笑顔は、綺羅のみならず冒険者の個々とも和ませる。いつしか驚くほど静かになった青年達。彼らを見ながら
(「この幸せが、彼らにも届くように‥‥」)
遠い神と故郷と精霊に祈りを捧げ、クウェルは静かに目を閉じた。
●花の香り、冒険者達
心から楽しそうな笑顔で、子供達は三々五々と広場を後にする。歌に音楽、大好きなお菓子と、憧れの冒険者。初めてのお絵かきと、初めての乗馬。
始まりから終わりまで、一度たりとも彼らの笑顔が曇ることなく、笑い声が消えることも無かった。
「おっし、依頼終了。けっこー粋にできたんじゃねえのかな?」
伸びをしながらまぶいは嬉しそうに笑った。
「そうですね。子供達は、きっと気付かなかったでしょう。無事に終って良かった。ですが、彼らにとって本当の試練はここから。今日という日が辛い時の心の支えになってくれるといいのですがね」
「ああ ん?」
「あ、お帰り〜!」
「ただいま。子供達は本当に喜んでいました」
深々と下げられた頭に綺羅は慌てて手を振った。
「いいのに〜。私もあの子達の笑顔を見たら、頑張ろうって気になれたしね」
そうそうと頷く冒険者達にカレンは手に提げていた籠を差し出した。
中には報酬と、発泡酒。
「これは、祭りの振舞い酒。良かったら持っていって」
せっかくだからと固持せずに冒険者達はそれを素直に受取った。
「うん、花が無駄にならなくて良かった。後で、話を聞かせてもらおう〜っと」
楽しげに、やり遂げた者の満足の笑顔で冒険者達は帰っていく。
その背中を見送りながらカレンは思った。
(「彼らはまるで、花の香りのようね‥‥。見えないけれども確かにあって、人々の心を幸せにしてくれる」)
子供達の分も、心からの感謝を送りながら。
ふわり。
花の香りが今も、鼻腔を擽った気がすると冒険者は思ったと云う。
彼らの頭上を春を告げる風が静かに流れ、消えて行った。