スィーツ・iランドinウィル店開始!?

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月19日〜04月26日

リプレイ公開日:2006年04月27日

●オープニング

 ウィルの冒険者の酒場<騎士の誉れ>の一角。
 杯を酌み交わして歓談したり、食事を採る冒険者達に混じって、向かい合って座る2人の天界人の女性の姿があった。何故、天界人と分かったかというと、ひとえにその服装にある。
 1人は海を思わせるマリンブルーのノースリーブのワンピースを纏い、そのスカートはミニといってもいいくらい短く、パフスリーブとリボンタイを付けていた。
 もう1人はブラウスにベスト、ネクタイというきっちりした服装だ。
 どちらもアトランティスにもジ・アースにもない服飾であり、彼女達が召喚された天界人である事を示していた。
 或いは天界人の中でも、日本という国の東京という都市の秋葉原という街に行った事のある者なら、彼女達の出で立ちを知っているかもしれない。
「あの娘、可愛いし、接客もいいから、教育すればすぐうちのお店のフロアに立てるのになぁ。うん、うちのお店に足りないのは可愛い娘系の萌えね」
「先輩、その台詞は何度も聞きました」
「ちーちゃんはお店が心配じゃないの?」
「心配ではないといえば嘘になりますが、召喚されてしまった以上、今現在の私達に帰る術はありません」
「う‥‥そうだけど、ちーちゃんのイジワル」
 山鳥のシチューをスプーンで掬っていたマリンブルーの服を着た女性が、ちょこちょこ忙しく動き回る給仕の女の子の姿を目で追っていると、ワインを傾けていたきっちりした服装の女性が言い放った。
 マリンブルーの服を着た女性は九条玖留美、きっちりした服装の女性は神林千尋といい、2人は秋葉原にあるファミリーレストラン『スィーツ・iランド』の店長とマネージャーだった。
 玖留美が着ている服はスィーツ・iランドの制服だ。2人は勤務中にこのアトランティスへ召喚されてしまったのだ。
「そのお店なんだけど、酒場で燻っててもしょうがないでしょ? だからこのウィルでも始めようと思うの」
「ファミレスをですか? メニュー面に関しては食料の流通を確保しなければなりませんし、第一、天界人以外の人にファミレスの事を理解してもらえるかどうかも‥‥」
「そんなのはやってみなくちゃ分からないじゃない。1に良いサービス、2に良い接客、3に良い店舗は、万国共通だと思うの‥‥まぁ、萌えをいきなり理解してもらうのは難しいかも知れないけどね」
 玖留美の思い掛けない提案に、マネージメントを本職とする千尋は難色を示した。
 スィーツ・iランドは「i(あい)してく?」をキャッチフレーズに、デザートメニューを充実させた女性客重視のファミレスだ。制服も女性が着たくなるような可愛くもちょっと艶やかなデザインを採用しており、アルバイトの募集を掛けると倍率10倍という事はざらである。もちろん、制服萌えにはたまらない逸品だ。
 そのスィーツ・iランドが秋葉原へ進出したのは、新店舗の店長を任された玖留美の意向で、秋葉原を訪れる一般女性をメインターゲットにしつつ、制服萌えの需要を満たす意図があり、それはほぼ成功していた。
 ならば、ウィルでもファミレスは流行る、否、流行らせる――それが玖留美の考えだった。
「こんな事もあろうかと、既に冒険者街に店舗用の棲家は確保してあります。資金繰りといったマネージメントは私に任せて、先輩は店舗の方をお願いします」
「流石ちーちゃん、あたしの一歩も二歩も先を行ってるわ」
「‥‥何年、先輩と付き合っていると思っているんですか?」
「うー、ちーちゃんのイジワル」
 テーブルやイス、調理器具といった必要最低限の物は揃っているが、どのような店舗の雰囲気にするかが課題だろう。
 スィーツ・iランドの店舗は女性向けにパステル調にしていたが、アトランティス人やジ・アース人をターゲットにするならば、アンティーク調もいいかも知れない。
 今回は店舗のみだが、玖留美は次の制服のデザインも視野に入れて、アトランティス人やジ・アース人にも分かりやすい萌えを目指している。

 そんなやり取りの末、アトランティス初のファミレス、スィーツ・iランドinウィル店が始まろうとしていた。

●今回の参加者

 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb2744 ロイシャ・ヘムリアル(23歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb4039 リーザ・ブランディス(38歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4289 クーリエラン・ウィステア(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4496 白澤 雪花(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4726 セーラ・ティアンズ(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

プリム・リアーナ(ea8202

●リプレイ本文


●ファミレスを知ろう
 九条玖留美と神林千尋の依頼を受けた者達は、冒険者ギルドの中にある個室に集まった。
「あーっ、本物のiランドの制服だー! 前に見掛けた時気になっていたけど、何だか懐かしい〜」
「これ、マーメイドタイプだよね?」
「ええ、そうよ。皆さん、今回はスィーツ・iランドinウィル店の立ち上げにご協力下さり、ありがとうございます。私が店長の九条玖留美です」
「マネージャーの神林千尋です。アトランティス初のファミレスですので、アトランティスやジ・アースの方の忌憚のない意見もお聞かせ下さい」
 玖留美の着ている『マーメイドタイプ』と呼ばれるスィーツ・iランドの制服を間近で見た天野夏樹(eb4344)とクーリエラン・ウィステア(eb4289)は話が弾む。ファミレスの立ち上げの依頼書を見て天界を懐かしく感じて参加したのだから無理からぬ事だろう。
 玖留美と千尋は、二人に応えてから自己紹介を切り出した。
「今回お世話になる、ロイシャ・ヘムリアルです。よろしくお願いしまっすね」
「僕らとは別の“天界”の事に興味があるので、お手伝いがてらに色々と学ばせて戴きますね」
 ロイシャ・ヘムリアル(eb2744)とショウゴ・クレナイ(ea8247)が挨拶を返す。
「‥‥どうやら、主に力仕事を任されそうですね。いえ、逆にこれといって良い案がある訳で無いので、お役に立てるポイントがあるというのは嬉しい事ですけどね」
 集まった冒険者達を見回して、自らの二の腕を叩くショウゴ。男性は他にロイシャと音無響(eb4482)がいるが、その身体付きを見れば自分より体力はないと思われた。
「こっちに来てからまだ2ヶ月だけど、ファミレスって聞いただけで懐かしくなるよね」
「ファミレスはあたし達にはお馴染みの場所だから、あれば気兼ねなくくつろげるよね」
 響が屈託のない笑顔で、白澤雪花(eb4496)へ話し掛ける。
「初めまして、俺、音無響って言います。お二人は全然知らないかもしれませんが、学校の女の子達に引っ張ってかれて、お店に何回か行ったんですよ」
「私も秋葉原店は何度も行ってるんだよ」
 スィーツ・iランドはウエイトレスや制服も売りの一つだが、基本は味とサービスであり、女性向けのファミレスにも関わらず響のように男性客も少なくない。クーリエランは年齢的に天界でアルバイトをする事は出来ないが、制服に惹かれて通っていたようだ。
「統一された制服でお客さんをお出迎えする店って、この世界じゃあ珍しいと思うので、その統一感のかっこよさでもきっと人を引けますよね」
「アトランティスでファミレスって、面白くて良いと思います。私もお手伝いしますっ! 一応、余所のお店ですけど、ファミレスでバイトした事はありますし」
「経験者がいてくれると心強いわ」
「私もiランドの制服着てみたいし♪」
 響と夏樹が賛同すると、クーリエランと雪花も頷く。特に夏樹というファミレスのウエイトレス経験者がいる事が、玖留美にとっては心強かった。
「制服といえば、お願いが‥‥」
 はにかみつつ響が玖留美へ差し出したのは、女性制服をアレンジした男性制服のイラストだった。
「店長が着ているのはウエイトレスの制服ですが、ウエイターの制服もありますよ」
「へぇ、制服って、玖留美さんが着ている他にもあるのね」
 スィーツ・iランドに何回か行った割にウエイターを見ていない響は、悲しい男の性だろうか。
 千尋の返答に、セーラ・ティアンズ(eb4726)が興味津々といった感じで、玖留美と男性制服のイラストを見比べた。
「この制服は海の妖精をイメージしたデザインなの。秋葉原店ではこの他にも二種類の制服があって、月替わりで変えているのよ」
「他の制服の色は?」
「エメラルドグリーンやアメジストだけど」
「それなら私は玖留美さんの着ている制服がいいわね」
 セーラは玖留美の着ているマリンブルーの制服が気に入ったようだ。
「‥‥むぅ。ファミレスとか制服とか言われても、イマイチピンと来ないんだよねぇ‥‥先ず、その辺りを色々教えてもらえないかな‥‥?」
「ファミレス、というか、玖留美さんのお店の外観や中の様子はこんな感じだよ」
 成り行きを見守っていたリーザ・ブランディス(eb4039)が唸ると、響が携帯電話を渡した。画面には彼が携帯電話で写した秋葉原店の外観や中の様子、ウエイトレス達が映し出されていた。
「音無くん、店内は撮影禁止なんだけど」
「まぁまぁ、実際の様子を見てもらった方が説明しやすいよ」
「‥‥店舗は明るい雰囲気だし、窓には透明なガラスを使っているのかな? これが制服か‥‥清潔感があって、且つ可愛い衣装‥‥みたいな認識でいいのかな? ‥‥まぁ、エプロンドレスもそれだけで結構可愛いもんだけど‥‥」
 苦笑する玖留美を宥めるクーリエラン。リーザを始め、セーラ達はファミレスがどういうものか、朧気ながら分かってきたようだ。
「あたし達の世界では、ファミレスのお客さんの中には料理そのものよりも、スイーツやコーヒーやお茶を求めてやってくるお客さんも多いんだよ☆ 2〜4人ぐらいでおしゃべりしながら食べたり飲んだりするの。だから家族や十代向けに明るい雰囲気になっているよね☆」
「エールハウスみたいなものかな?」
 雪花の説明をロイシャがエールハウスに揄えると、セーラとショウゴは納得した。
 ジ・アースにおけるエールハウスは、天界のイギリスにあるパブの前身で、エールの他にちょっとした飲み物もあり、食事も採れるので、酒場というよりファミレスに近い。
「アトランティスの酒場が落ち着いた大人の社交場なら、ファミレスは老若男女が気軽に食事を、と差別化してみたいところですけど如何でしょうか?」
「‥‥悪くないと思うよ。ただ、アトランティスでは外食をするのは冒険者で、庶民はあまりしないから、庶民への宣伝と触れやすいようになるべく価格は安くした方がいいだろうねぇ‥‥」
 雪花の提案に、アトランティスの事情を付け加えるリーザ。
 取り敢えず、ショウゴやロイシャ達のファミレスへの理解が出来たところで、玖留美は締め括るのだった。

●アトランティスのファミレスらしさを出すには?
 千尋に案内されてやってきたのは、冒険者街でも市民街に近い場所に建つ普通の広さの棲家だった。
「おしゃべりや食事を売りにするなら、椅子やテーブルの配置は二人席や四人席を設けて向かい合うような形がいいと思うんだけど」
「‥‥しかし、このスペースでは二人席を作ると、四人席はそうは作れないねぇ‥‥多少狭くてもなんとかなるオープンテラスを造るのはどうかな?」
 雪花がスタンダードなファミレスの配置を告げると、棲家の限られたスペースを有効活用する為、リーザが庭にオープンテラスを造る提案をする。
「俺は外で食べれたり、中で食べれたりするのは良いと思うっすね。外で食べるご飯は美味しいって言うし‥‥意外性もあるかも。それに、酒場は広いけど人がいっぱいで窮屈なイメージと、子供は入れない閉鎖的なイメージがありますから、オープンテラスが目に見えれば、酒場との差別化も分かりやすいと思うっす」
「忙しい時には外で軽く、中ではゆっくりと食事‥‥というのもいいですね。でしたら、店舗の中は落ち着いたイメージに、外は開放感のある明るいイメージ、でしょうか?」
 オープンテラスを造る案は、ロイシャもショウゴも賛同した。
「落ち着いた雰囲気というと、やっぱりアンティーク調かな? 店は最初の出だしなんだし、最初からこっちの世界から見てあまりに奇抜なのにするとお客さん来てくれないかもしれないし。受け入れやすいものから始めて、段階を踏んでおいおいパワーアップしていくって感じ‥‥かな」
「オープンテラスは白を基調とした南向きで、テーブル一つに椅子二つで仲のいい方々向けにするとか‥‥」
「アンティーク調にオープンテラスですね、分かりました」
 内装とオープンテラスについてクーリエランと雪花が意見を述べると、内装についてはセーラも同意した事から、千尋は羊皮紙にメモしてゆく。
「後、レジカウンターはどうするのかな?」
「最近は注文も端末の打ち込みが主流だったから、その辺りもどうするか考えないと‥‥スピーディに注文を受ける為にも、テーブルにはやっぱり呼び鈴かな。テーブルごとに音色を変えられるといいんだけど」
「会計はブランディスさんやヘムリアルさんの話から、先払いとした方がいいでしょう。注文は羊皮紙を伝票サイズにカットし、取る事になります。テーブルごとに音色の違う鈴は面白いアイディアですね」
 雪花と響がファミレスの問題点を挙げると、千尋はアトランティスの流儀に変える方向にした。

「一通り決まったところで、先ずは中の掃除だよ。掃除と挨拶が一番の基本。どこでも一緒だよね」
 夏樹が先頭となり、女性陣は床を掃き、壁や柱を磨いてゆく。
 それが終わると、千尋が用意した必要最低限の椅子やテーブル、台所用品を、ショウゴが中心となって男性陣が運び入れ、セーラ達は形になるよう配置してゆく。
「じゃ〜ん、ファミレスと聞いて用意したんだよ」
 並べられたテーブル机の上へ、夏樹がテーブル用の小綺麗なクロスを飾っていく。
「テーブルの上にセンスの良い花瓶とか置きたいよね」
「後でお店の雰囲気に合った花瓶を、露天商で見繕ってみるわね」
 名品を集めているセーラが、夏樹の呟きに応えた。
 続けてオープンテラスの下準備に取り掛かる。しばらく人の手の入っていない庭の伸び放題の草をむしり、綺麗にしてスペースを確保する。
 その後、実際にテーブルや椅子を置いて外観をチェックし、リーザや響達に座ってもらい、陽射しの強さや風で埃やゴミが舞い込んだりしないかを確認する。
「風の入ってくる方向には、鉢植えを置いたり、ガーデニングを充実させて、風除けにするといいかも知れないね」
 空いたスペースや実際にオープンテラスをした時の悪い点をまとめ、夏樹は千尋へ提出した。
「後は‥‥お店だから看板が必要だよね。先ずセトタ語だよね。天界人向けには英語とカタカナ‥‥ジ・アースの人達向けには、天界人と一緒でいいのかな? 言葉じゃなくて、何か飲食店をイメージした絵を描くのが良いかも」
「‥‥どこか口を利いて看板を立ててもらうのはありかねぇ‥‥大きめの看板に、どーんと書けば注目度も高いだろうし‥‥まっ、これは一通りの準備が終わってからか‥‥」
 看板については、リーザの言うようにまだ先でも構わないだろう。

 変哲もない棲家は、ファミレスらしい外観と内装へ生まれ変わったのだった。

●“萌え”とは?
 オープンテラスや看板の作成、メニューの考案といった大掛かりな事は後回しとなり、スィーツ・iランドinウィル店の制服のデザインを話し合う事になった。
「‥‥玖留美の着ていた衣装なら、アトランティスにある仕立屋でも作れるねぇ‥‥」
 マーメイドタイプの制服の素材や色を確かめるリーザ。制服は今、セーラが着ており、響が制服を仕立てる腕のいい仕立屋さんを探す為に、携帯電話のカメラで彼女を撮影していた。
 天界産の合成生地を使用しているが、制服のデザイン自体は普通の生地でも再現は可能だし、蒼の顔料は比較的安いのだ。
「衣装はお店の人と一目で分かるよう統一感をメインにして、着る人の年齢や特徴に合わせてちょっとしたアクセントをつければ良いと思うっす」
「確か、玖留美さんのお店では、月替わりで衣装を替えていたそうですよね。女性に好まれる衣装‥‥といえばやはり、ドレスでしょうか? 他にもサカイ商会に行けば色々と参考になるかもしれませんね」
 制服の説明を聞いたロイシャが意見を出し、ショウゴが参考になればと、バタフライドレスとチャイナドレスを提示した。
「そういったドレスとファミレスの制服は、“萌え”が違うんだよ。萌えは‥‥向こうじゃ雑誌とかで色々載ってたんだけどこっちじゃね。簡単に言うと、その人の感情を揺さぶる嗜好対象かな? 個人で反応する対象が違うから一概にこれとはいえないんだけど」
「ん〜‥‥頭を撫でると、目を細めて嬉しそうにしている姿に、無性に可愛らしさを覚えたりしますね」
「‥‥可愛いとか綺麗以上の感情?」
「例えば白雪みたいなタイプの子を好きなら眼鏡っ子萌えーとか、ロリっ子萌えーとか」
「眼鏡っ子萌えはあたしなんだ。じゃぁ、ツインテール萌えはセーラさんの担当だね。お兄ちゃん、お姉ちゃん達が可愛らしい女の子の行為や仕草等に対する、『して貰うと可愛らしくて嬉しくなる感情』、特に眼鏡や制服、メイド服といった特定の特徴や性格を持った人に対して強い愛着を抱く事です☆」
 クーリエランの萌えの説明を聞いて、自分達なりに理解しようとするショウゴとロイシャ。クーリエランと雪花が具体例を挙げ、雪花は更に萌えに付いて具体的な感情を挙げる。
「玖留美さんも千尋さんも美人ですから、本当なら綺麗っていうべきっすよね。でも、制服を着た玖留美さんを可愛く思う感情が、萌えって事っすね!」
 するとロイシャが萌えらしい感情を掴んだようだ。

「実際問題として、ファミレスの実現性と、これからお店としてやっていけると思っているの?」
「お金は私や店長が持っていた天界の物を売却する事で、当面の工面は付きます。店長の夢を実現させるのが、マネージメントを担当する私の仕事ですし」
 撮影が終わった後、余程気に入ったのか、制服を着たまま、棲家の賃貸代は元より、内装の工事費に設備費、材料費に人件費といったお金の事を千尋に訊ねるセーラ。
「ファミレスはどちらかというと『庶民の為のお店』らしいけど、アトランティスもジ・アースと変わらず貴族主体の現状だけど、誰をターゲットにするの?」
「当面は天界人がターゲットになるでしょう。天界人が集まれば、その噂は口コミで広がるでしょうし、その後、アトランティスやジ・アースの人を客層に取り込んでいく事になるでしょう」
「となると、メニューは天界人好みの方がいい訳ね」
 このクールビューティーなマネージャーは、少なくとも現実をしっかり見据えており、ファミレスを机上の空論で終わらせるつもりはないようだ。
 一通り話したセーラは、このマネージャーなら、ファミレスを実現させてしまうかも知れないと確信めいたものを抱き始めていた。
「キミ達だったら使い方知ってるんじゃない? 私じゃ使えないし」
 作業が終わって解散する際、セーラは選別にソーラー電卓を置いて去っていった。