スィーツ・iランドinウィル店開店準備中

■ショートシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月15日〜05月22日

リプレイ公開日:2006年05月22日

●オープニング

「うんうん、いい雰囲気のお店になってきたわね。これも冒険者達のお陰ね」
 冒険者街の一角に立つ女性は、目の前の棲家を見て満足げに頷いた。
 その女性は一目で天界人と分かる出で立ちをしていた。海を思わせるマリンブルーのノースリーブのワンピースを纏い、そのスカートはミニ、そして腕にはパフスリーブを、首にはリボンタイを付けている。
 棲家は冒険者が借りられる普通のものだが、日当たりのよい南側にはオープンテラスが備え付けられ、数組のテーブルとイスが置かれていた。内装はアンティーク調の落ち着いた雰囲気だ。
「店長、風や埃避けの植木を植えたり、庭に菜園を造るのであれば、野良ウサギ対策に柵は必須です」
 マリンブルーの服を着た女性の傍らへ、ブラウスにベスト、ネクタイというきっちりした服装をした女性が歩み寄った。
 どちらもアトランティスにもジ・アースにもない服飾だ。
 マリンブルーの服を着た女性は九条玖留美、きっちりした服装の女性は神林千尋。2人は天界の日本という国の、東京という都市の、秋葉原という街にあるファミリーレストラン『スィーツ・iランド』の店長とマネージャーだった。
 2人の前の改造された棲家は、ウィル初になるであろう、ファミリーレストラン『スィーツ・iランドinウィル店』の店舗だった。
 先日、ウィルにファミリーレストランを造るべく冒険者を募り、忌憚のない意見を聞き、棲家を店舗へと改造したのだ。
「野良‥‥ウサギ!?」
 千尋の言葉に玖留美は目を丸くした。無理もない、天界ではウサギはペットとして飼われている事が多く、野生のウサギを見るには都市部からある程度離れなければならない。
 ちなみに玖留美は24歳、千尋は23歳で、大学という天界の魔法学園の先輩と後輩の間柄だ。千尋は玖留美の事を仕事の時は「店長」と、プライベートの時は「先輩」と呼び、公私混同しないよう区切りをつけていた。
「冒険者街は、野良ウサギが空いている棲家に生える草を食べて蔓延り、それを食料とするペットが野良化するという食物連鎖が出来つつあるそうです」
「それでこの間、冒険者街の大掃除をしていたのね」
 玖留美は店舗の改造の事で手一杯で、そちらまで気が回らなかったようだ。
「ただ、ウサギの肉は近場でも狩る事が可能ですし、比較的安価で手に入れる事が出来ます」
「ウサギ肉のメニューか‥‥考えておかないとね」
 玖留美の性格から、ウサギを食べる事に抵抗があると思っていた千尋だったが、意外な応えが返ってきた。
 マネージメントに関しては玖留美は千尋の足元にも及ばない。しかし、千尋に無いものを玖留美は持っている。それは人を惹き付け、和ませる『屈託のない笑顔』だ。千尋もまた、玖留美の笑顔に惹かれた1人だった。だからこそ、玖留美が店長となり、千尋はマネージメントで彼女を支えようと思ったのだ。
「メニューの話が出ましたので、アトランティスの食料事情について説明します」
 メニューと制服を作るに当たり、千尋が市場で調べてきた事を話した。
 調味料に関しては、塩とワインビネガー(酢)、水飴とジャムは簡単に手に入る。蜂蜜はやや高価で、胡椒と砂糖に至っては同等の重さの砂金との交換になる。
 庶民の飲み物はハーブティーとワイン、エールで、お茶は月道輸入になるので嗜好品だった。
 米も同じく月道輸入の高級食材で、主食はパンだ。だが、パンも小麦粉が売っているだけなので、自分達で焼くしかない。
 スィーツ・iランドの売りでもあるスィーツ――デザート――だが、市場に並ぶのは季節のフルーツだけだ。今の時期はベリー系だが、ドライフルーツであればリンゴといった季節外れのものもある。
 肉類は、先程出たウサギ肉の他に、豚肉と鳥肉が比較的安価で手に入れられやすく、牛肉はそもそも食用牛がいない為、肉自体美味しくないし、しかも高い。魚はウィルが内陸という事もあり川魚が中心で、海の魚は塩漬けか干物しかない。例外は鮫で、鮫は獲ってから1週間くらいは生でも日持ちする事から、生で手に入れる事も可能だ。
「ヨーロッパにある野菜やハーブは問題ないようだけど、じゃがいもにトマト、トウモロコシにカボチャ、スイカにメロン、カカオはないのね」
「はい、ジ・アースの方に聞いたところ、まだ新大陸‥‥南北アメリカが発見されていないそうですので、当然、アメリカを原産とする食べ物はありません」
「当分は毎日、朝市で仕入れる事になるけど、特定の露天商で仕入れる事で、契約って程じゃないけど占有的に回してもらえるようになるかな?」
「顔馴染みの店を作っておいた方がいいのは確かでしょう。後は交渉次第ですが、ただ‥‥」
「ただ?」
「じゃがいもに関しては、天界人が召喚された際、持っていた可能性があります」
「スーパーとかでお買い物をしていて、その時、召喚されてしまったとか?」
「そういうケースですね。じゃがいもでしたら家庭でも栽培は可能ですから、天界人が持っていて、それを譲ってもらえれば、今後、メニューに加える事は可能です」
 買い物途中や買い物帰りに召喚されてしまった天界人もいない訳ではない。そういった天界人は天界の野菜を持っている可能性が高く、特にじゃがいもは手軽に栽培が可能なので、1つでも譲ってもらえれば、菜園で増やしていき、メニューに加えられるだろう。
「後、店舗の追加設備として、自家製のパンを焼く竃をキッチンに造らないとね。食器は木の皿やスプーンを揃えるとして、ナイフやフォーク、箸はないのね」
「ウィルでは基本的に手掴みがテーブルマナーです。第一、箸は私達は幼少の頃より教えられ、使い慣れていますが、いきなり使うのは無理です」
「それもそうね。それと料理人の他に、クーリングやアイスコフィンを使えるウィザードを雇いたいわ」
「クーリングとアイスコフィン‥‥スィーツのアイスと食料の保存の為ですか?」
「流石はちーちゃん、その通りよ」
 必要な追加設備と食器、テーブルマナーについて確認する玖留美と千尋。
「後、今回は一緒に、スィーツ・iランドinウィル店の制服のデザインも募集するわ。私が着ている制服でもいいけど、ウィルに合った制服もあった方がいいと思うの」
「秋葉原店でも3種類の制服を月替わりで着ていましたしね。ウィルの雰囲気に合ったデザインの制服だと、『萌え』も理解しやすいかも知れません」
「大抵の顔料はあるみたいだから、天界のシースルーの生地やエナメルといった化学繊維の生地をデザインに取り入れなければ、大抵のデザインの制服はアトランティスにある生地で作れるわよ」
「そういえば先輩は、コスプレイヤーでしたね‥‥」
 玖留美はコスプレを趣味としており、かなりの仕立ての腕前を持っていた。玖留美の趣味がこんな形で役立つとは思ってもいなかった千尋は微苦笑した。

 アトランティス初のファミレス、スィーツ・iランドinウィル店は次第に形になろうとしていた。

●今回の参加者

 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4039 リーザ・ブランディス(38歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4133 新條 真琴(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4289 クーリエラン・ウィステア(22歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4603 紅 雪香(36歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4726 セーラ・ティアンズ(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

アッシュ・クライン(ea3102

●リプレイ本文

●メニュー作り
 スィーツ・iランドinウィル店は冒険者街の中でも市民街に近い場所に建っている。
 店長の九条久留美に案内されて店内へ入り、四人掛けのテーブルを二つ付けて並べ、思い思いの席に着くと、玖留美がハーブティを淹れて持ってきた。音無響(eb4482)が微笑みながら立ち上がってトレーを受け取り、全員へ配る。
「裏方は‥‥その‥‥衣装、着なくてもいいですよね? その、あまり人に見られるような事は苦手でして」
 ウィザードのローブに付いたフードに顔を隠して玖留美に聞くエルマ・リジア(ea9311)。ハーフエルフの彼女は人に見られる事に慣れていない。「可愛いのにもったいないわよ」と天界人の玖留美はそういった事に頓着しないが、無理強いはしなかった。また、アトランティスにはハーフエルフは元々おらず、差別はないようだ。
 一通り自己紹介を終え、メニューの話へ移った。
「ナイフはあるといえばあるけど‥‥よね。ファミレスだけ特別な食べ方をしなくてはならない、というのも変かもしれないわ」
「ナイフやフォークを使わないウィルの風俗にも対応出来るよう、クレープ皮を使った料理はどうかな? ほら、騎士の誉れにはデザート置いてないし」
 『ナイフ=武器』というアトランティスの構図を苦笑混じりに話す紅雪香(eb4603)。ウィルの風俗にメニューを合わせるという意見は天野夏樹(eb4344)も賛成で、デザート系を充実させたいと提案した。
「天界にもクレープはあるんですね。クレープで食べる物を包めば、食器の手間を減らせますし」
「クリームに季節のフルーツをクレープ皮で包んで蜂蜜で甘く味付ければクレープに。肉と野菜を煮て、それにチーズを加えて包めばブリトーになるから、一石三鳥♪」
 クレープを使った料理はエルマも考えていた。
「デザートならシュークリームって食べ物はどうかしら? 砂糖は高いそうだから水飴をベースに、ソースには季節のジャムを使用するの」
「お砂糖を使わなくても、甘くて美味しそうなシュークリームになりそうだね。私はシンプルなバニラアイスからパフェを充実させたいなぁ」
 セーラ・ティアンズ(eb4726)が趣味で蒐集している天界の書物に記されていたシュークリームなるものを挙げると、クーリエラン・ウィステア(eb4289)が真っ先に賛同した。しかし、バニラビーンズがアトランティスにないので、アイスは見送られてしまう。
「アイスコフィンは保存はともかく、お料理には向いていないと思います‥‥クーリングで飲み物を凍らせて、ソルベにするのはどうでしょう? ものによりますけど、果汁とか変わったところではワインなんてのもできそうです」
「ソルベ‥‥シャーベットですね。リジアさんの協力があれば、メニューに加えられます」
 マネージャーの神林千尋が言うように、コールド系のデザートは水のウィザードであるエルマの協力は必須といえよう。
「無難なところは鶏肉のハーブ焼きでしょうね。スパゲッティも取り入れたいです。ただ、騎士の誉れと同じでは駄目ですから、作るとしたらホワイトソースのスパゲッティでしょうか」
 新條真琴(eb4133)が主食のメニュー提を切り出した。
「具材は野ウサギのお肉を使ってみて、彩りとしてパセリとか振りたいですけど‥‥ありましたっけ?」
 真琴が訊ねると、熱心にメモを取っているリーザ・ブランディス(eb4039)が「ある」と答えた。
「後はオムレツですね。工夫を加えるとすればソースです。スパゲッティに使うホワイトソースをこちらにも流用するくらいでしょうか。温かいジャムを掛けて、デザート風に食べるのもありじゃないかと思います」
 先を続ける真琴。ソースはトマトといった天界ではスタンダードなものがアトランティスにはないので、彼女達からすると作り難い。
 その他、クーリエランがデザートを充実させるのであれば酒類よりお茶やジュース系、ミルク系の飲み物を豊富にし、サンドイッチ、ホットドッグ、パンの代わりにナンといった軽食類から、真琴も挙げたオムレツの他、ステーキ、肉と野菜のワイン煮込みといった主食料理まで幅広く取り揃えるよう提案すると、ほぼメニューの原型は決まった。
 羊皮紙から顔を上げたリーザが挙手した。
「運用資金の問題もあるが、安価で料理を提供するなら砂糖と香辛料は購入候補から外すよ。蜂蜜は買うけど高めだから、甘味料は水飴を第一に、保存性に劣るジャムはソースやトッピングに使うといいだろう。同様に、保存の利く塩は一括で大量購入して単価を安くして、味付けはビネガーとハーブで補う形がいいかねぇ」
 メモには提案されたメニューに関し、アトランティスで手に入れられるかどうか、どの程度の価格で手に入れられるか、彼女の意見が書き込まれていた。
「蜂蜜に関しては特別メニューなんかに使って、普段は使わないようにすべきだよ。店の営業が軌道に乗ってから大量に購入して、単価を安くするのが無難だね。調味料は一つの店で一括で購入できるところもあるから、大量に購入してその意思を見せておけば、後々の購入の時に色々役立ってくれるだろ」
 余談とはいえリーザの意見は実に理に適っており、誰もが頷いた。
「じゃあ、天界の食材探しは俺にやらせて下さい。ジャガイモの料理大好きだし、こっちでは珍しい物ならきっとお客さんにも喜んでもらえるって思うんです」
 残念ながら雪香や真琴、クーリエランに夏樹、珍品を蒐集しているリーザも天界の食材は持っておらず、響がジャガイモ探しに名乗りを上げた。

●制服のデザイン
 続いて、スィーツ・iランドinウィル店の制服のデザインへ話題は移った。
「ん〜‥‥やっぱり、ア○ナミラ○ズの制服が一番映えるわ。知っている限り、人気も一番高いもの。色は、季節的にこれから暑くなる事を考えると、清涼感のある青系が良いと思うわ」
「私はブロ○ズパロ○ト風の制服がいいな♪」
 雪香と夏樹が天界にある制服で有名なファミレスの名前を挙げると、分からないリーザ達の為に玖留美がそれぞれの制服のデザインを羊皮紙に書き起こした。
「私としてはアンティーク風の店内に合わせた、シックな雰囲気の制服がいいと思うわ」
 セーラが提案したのは、ジ・アースで給仕が着るような、地味で作業しやすく、且つ彼女なりに理解した天界の制服のような華やかさと可愛さ、そして“萌え”を合わせ持った『シンプル且つ可愛らしい』ものだった。
「あ、これってメイド服だね。私のデザインした制服にちょっと似てるかな。これなんだけど、どーかな?」
 セーラがデザインしたのは、茶または紺を基本色に、僅かなフリルと首元の黒や赤、白のリボンタイがアクセントの、天界でいうメイド服だった。
 クーリエランが取り出したのは、黒と白を基調としたシックで落ち着いたデザインにしつつ、天界人向けにフリルを多めに、スカート若干短めにした、全体的に可愛い感じの制服だった。
「私のような年齢の娘だけじゃなくて、大人な人が着ても似合うと思うんだ。ミニスカートってなさそうだけど、冒険者の人達はそうでもない人もいるし」
「私もセーラさんと同じくクラシカルなデザインがいいと思いまして、イメージ的にはアンティークドールのドレス風です。ただ、モチーフ通りにデザインすると動きにくくて装飾も華美過ぎてしまうでしょうから、その辺りは動きやすいようにし、装飾も邪魔にならない程度に抑えました」
 真琴はフリルが少なめで、頭飾りもリボン程度に留めたクラシカルなドレスだった。『色気よりも可愛さ追求し、尚且つ仕事をするのに邪魔にならない!』がコンセプトだ。

 制服は玖留美の着ているマーメイドタイプの他、ア○ナミラ○ズ風、ブ○ンズパ○ット風、天界風メイド服、クーリエラン風、アンティークドレス風の五つが試作品として作られる事になった。
 雪香が着物や巫女装束を始めとする民族衣裳やバニーガールを希望したが、民族衣裳は数が多いのでファミレスが軌道に乗ってからという事で保留となり、バニーな衣装は「普通に食事を採るには刺激が強すぎる」と千尋によって却下されてしまった。

●交渉
 翌日の早朝、リーザを先頭に夏樹と千尋は朝市へ繰り出した。
 夏樹と千尋は露天商を回って牛乳、小麦粉、卵、蜂蜜を中心に価格を調べてゆく。同時に日持ちする小麦、卵、蜂蜜は、まとまった量を買える店を、牛乳は新鮮な物が望ましいので、各露天商のサイクルを確かめる。
「品は悪くありませんし、鮮度かいいのが気に入りました。確たる信頼はこれから築いてゆけばいいでしょう」
 夏樹とリーザが目星をつけ、財布の紐を握る千尋に相談すると、彼女は二人の意見に同意した。
 早速交渉に入る。リーザは、この店でしか買うつもりはない事をはっきりさせ、保存の利くものは大量に、そうでないものは出来るだけ多めに必要量を購入するから、一つ当たりの単価は出来るだけ安くして欲しい事を伝えた。
「今度、冒険者街に新しい店をオープンさせるんですよー。これ、そこの接客用の服なんです」
 玖留美から借りたマーメイドタイプの制服を着ている夏樹がくるんと回ってみせる。ファミレスのメニューに食材仕入先の店の名前を必ず書いて客に分かるようにすると、リーザが付け加えた。
「美味い料理は美味い食材あってこそだよ。購入した店が分かれば、うちに来た客はそっちに自然と流れていくだろ。お互い持ちつ持たれつ、いい信頼関係を築いていきたいもんだ」
「で、仕入れについては全てあなたのお店にお任せしたいんですけど‥‥お願い出来ませんか?」
 リーザの熱心な説得力のある物言いと、夏樹の上目遣いが相乗効果を引き出し、露天商は二つ返事でOKした。
 更に露天商は知り合いの肉屋を紹介し、その日の狩の具合で値段が変わりやすい肉類も、それ程値段の変動なく購入できるようになった。

●意外な関係
 ジャガイモ探しを引き受けた響は、店の周りから天界人が住んでいる棲家を、洗濯物等で目星を付けて地道に聞き込んでいった。
 また、ウィル近辺へ来た天界人は、現状を把握する為に冒険者ギルドを訪れると考え、ギルドの受付の人にメニューの試作品を差し入れとして持っていき、ジャガイモの形やスーパーの袋を説明して持ってる人がいなかったか聞いた。店の宣伝にもなるので一石二鳥だ。
 すると、アロゥ通り9番の棲家に、それらしい袋を持った天界人を見掛けたという情報が手に入った。

「あの娘もそろそろ目覚めるはずです。本人も言ってましたし、年齢的にも接客は無理でしょうから、裏方へお願いします」
 その頃、エルマは「せいふくをデザインするなら会わせたい娘がいます」と玖留美を自分の棲家へ案内していた。
 本当はお店に連れてきたかったのだが、エルマの棲家の近くの男性の服を脱がせようとする事がたびたびあり、アイスコフィンで文字通り身体を張って止めたのだ。
「玖留美さん!? エルマさん!?」
「音無くん!?」
 ジャガイモを探していた響とばったり会う玖留美とエルマ。アロゥ通り9番の棲家はエルマの棲家だった。
 棲家の中にはアイスコフィンから解放された褐色の肌の少女が居た。
「紹介します、藤野睦月‥‥」
「カオスにゃん!?」
「みるく先生!?」
「「え゛!?」」
 エルマが紹介する途中で、玖留美と少女がお互いを指差し、エルマと響は同時に声を上げた。
 “カオスにゃん”こと藤野睦月は、玖留美のコスプレの弟子だった。玖留美は天界の日本で夏と冬に開かれる同人の祭典で、コスプレイヤーとコスチューム作りとしてその手の筋ではかなり有名らしい事が分かってしまった。
「あの小屋で不思議な衣装を縫い上げられた彼女なら、どんなデザイン画からでも服の型を起こして縫製できるんじゃないかと思うんです。それにお菓子作りもできるそうですし‥‥でもお化粧は、なちゅらるめいくをお願いします」
 保護者として『カオスにゃん、ウィルに現る!』だけは避けたいエルマの切実な思いを慮って、玖留美は睦月を引き取った。師弟関係だけあって、エルマも驚く程、超わがままな睦月が玖留美には素直に従った。
 また、ジャガイモは睦月が持っていた。スーパーへ買い物に行った帰りに召喚されたようだ。キャベツやレタス、ニンジンやトマトといった加工しなくて食べられる物からあの小屋で非常食として食べてしまい、残っているのは食べるのは危険な芽が出たジャガイモだけだった。

●これから
 真琴と雪香が中心になり、睦月も加わって制服の試作が急ピッチで進められた。
 エルマが夏向きのインテリアに、花束にアイスコフィンを掛けたものを提案した。
 クーリエランは家事の腕を買われてメニューの試作品を作っていた。夏樹もそれをお手伝い。
 リーザはあの後も露天商へ通って信頼関係を深めている。
「店長、それにみんなも小学校で植えなかった? ジャガイモとかインゲンとか」
 残念ながら響の棲家で育てる程の数はなく、ジャガイモは店舗の裏手に造った菜園へ全て植え、毎日マメに通って水やりをしながら玖留美と色々な話をした。
 趣味は裁縫(実はコスプレ)とか、千尋は大学時代の後輩だとか‥‥恋人についても聞きたかったが、結局切り出せなかった。

「小さくても良いから、金属や木材等を扱う工房を作りたいの。理由はたくさんあるけど、取り敢えずは食器類かな? 職人さんは、職を追われた人を何人か知ってるから揃えられるわ」
 セーラは千尋に工房を設立したいと切り出し、具体的な資金額を訊ねた。
「‥‥先ず、職人一人当たりの日当を10Cとして、一ヶ月3Gの給料を払わなければなりません」
 セーラからもらったソーラー電卓を叩く千尋。これは生業の収入で分かるだろう。
「次に工房ですが、金属を扱うのであれば釜の購入等に最低100G単位でお金が掛かります。そして最も重要なのは、工房を開くのに必要な『親方証』を、商工ギルドに1000G単位で発行してもらわなければなりません」
 ちなみにスィーツ・iランドinウィル店も飲食店として届け出をしてある。
「それだけのお金は現在のところありません。皿は木製のものを使用しますし、スプーンを仕入れる際、ナイフやフォークのデザイン画を渡して注文すれば、工房を造るよりずっと安価で作ってくれるでしょう」
「‥‥分かったわ。でも、この事はみんなには、玖留美さんにも知らせないでくれないかしら?」
 ソーラー電卓に表示された途方もない金額に、セーラはそれだけを千尋へ告げた。
「それは構いませんが‥‥何故工房を造ろうと思ったのか、本当の理由と目的が分からなければ私も協力できません。私と店長の夢を叶える協力をして戴いている以上、私もティアンズさんのお手伝いとしたいと思っています。それだけは覚えておいて下さい」